【月夜に踊れ】≪月道探索≫ 宴の夜

■シリーズシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月14日〜03月19日

リプレイ公開日:2005年03月22日

●オープニング

 京都へ至る月道。失われたその道を探すべく、源徳家康は調査を開始していた。冒険者ギルドにも要請があり、幾つかの手がかりが持ち込まれてその調査に当たっている冒険者も多い。
 勿論、その全てが本物ではありえない。むしろ、その中にすら無い可能性も高い。
 それでも、幾許かの手がかりを得られた者もいて‥‥。

「ふん。やはり、ワシの考えは正しいな」
 傲慢たっぷりに自賛するのは陰陽師・蘆屋道満。
 彼が目をつけた地。月道そのものに関わる話は無かったが、疑わしい伝承は幾つか仕入れる事が出来た。勿論、疑わしいだけでそうであるかなど分からない。
 最終的な判定は、やはりその地にてムーンロードの呪文を唱える事だろう。月道があるならそれで開くし、無いなら当然変化は無い。
「とはいえ。一つ厄介が無い訳でもないがな」
 苛立たしそうに、顔を顰める道満。それが何か、事情を知る者ならば簡単に推測付く。
 道満が目を付けた地。そこには人家こそ周辺にある程度だが、代わりに兎が住んでいる。兎といっても、人に化けられる化け兎。そして、満月の日ともなれば仲間を呼んで月見の宴を開く。
 歌って踊って餅付いて。実に楽しそうだが、月道があると疑わしいのはその宴の予定地なのだ。
「化け物に囲まれておちおち詠唱などできるものか。何より、月道が開けば邪魔になるだけの存在。これを排除するだけの人員が欲しい」
 言われた冒険者ギルドの係員は、その場は恭しく頭を下げて承諾した。

「という訳で、月道探索の手伝いを頼みたい」
 冒険者に対して説明を入れる係員。一連の説明を告げた後で、ふと難しい顔をして付け加える。
「依頼主は、化け兎の排除を望んでいるが‥‥。月道が開けば、妖怪の類をその傍に置いておいたり、ましてや京に流れ出るような事態は防がねばならない。後の面倒を考えれば確かにそうするべきかもしれない。
 ‥‥ただそれは月道が開けば、だ。もし無かった場合、化け兎たちはただの死に損になる。妖怪とはいえ、凶悪に目立つ害を持っている訳ではない。周辺住民ともなじんでいる以上、住民たちがギルドへの不信感を持つ可能性がある」
 眉間にシワを寄せて、何やら考え込む係員。
「排除しろと言われた以上、そうするべきだろう。だが、その場合は化け兎に関わる周辺住民にも納得させる必要があるかもしれない。ギルドへの不信感をもたれるのはこっちとしても面倒だ。
 排除しない場合、それなりの理由が無ければ単なる契約違反だ。相応の対策と依頼主への言い訳が必要だろう」
 困惑気に係員は告げる。
「最低限は、奴が月道探索に必要な時間を確保できたら、それなりの言い訳もたつと思う。簡単に言えば、満月の真夜中、月が中天にある時にしかるべき場所で奴が呪文を唱えられ、その間に化け兎たちの邪魔が無い状態だ。月道が開いたなら、その開いてる間もだな」
 咳払い一つ。
「どうするのが一番いいかは、現場の判断‥‥冒険者たちに任せる。ただまぁ、ギルドの名を汚す事だけは無い様に」
 そう告げると、係員は深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 ea4870 時羅 亮(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6844 二条院 無路渦(41歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8861 リーファ・アリスン(27歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0573 アウレリア・リュジィス(18歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0958 アゴニー・ソレンス(32歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

 十五夜。真円の月はいつもよりことさら美しく、古来からこれを愛でる人も多い。
「月が降りてくるか、一体どういうことなんだろうね‥‥」
 徐々に暗くなり行く西の空を見つめながら、時羅亮(ea4870)がポツリと呟く。
「ムーンフィールドの強いのができるとか、遠くから見ると月が降りてきたように見えるとかですかね?」
 アウレリアから借りたまるごとネズミーを着込み、アゴニー・ソレンス(eb0958)が意見を告げ、何の気無しに歌を口ずさもうとした。
「ぉあたっっ!!」
「ひでぶっ!!! 何するんですかああ?!」
 いきなり奇声と共に子供が指で突いてくる。ただの子供ではない。化け兎が人化けした姿だ。今冒険者たちがいる小山に住んでおり、近所の老人方からはうさと呼ばれている。
 れっきとした妖怪だが、それ以外にこれといった能力は無い。勿論突かれた所で殺傷能力は無い。
 それでも痛いものは痛いので、アゴニーが怒るのも当然。だが、うさはただ小首を傾げるのみ。‥‥深く考えてはいけないようだ。
「化け兎のお友達さん、発見しましたよ。結構集まって来ますねぇ」
「うん。お友達、皆楽しみ♪」
 テレスコープで周囲を見回していたリーファ・アリスン(ea8861)の隣、うさが一人胸を張る。
 兎は月見て跳ねると言うが、その通り、化け兎たちも月見の宴の為に山に集まってくる。どこから来たのか、夕暮れの中、ひょこひょこと歩く兎が姿を現し始めていた。
 弾む足取りは非常に嬉しそうで、月見を楽しみしているのだと分かる。とはいえ、それをすんなり行わせられない事情が冒険者側にある。
 やってくる化け兎たちを、なるべく早くリーファは呼び集めていた。
 それというのも。
「花見の席を用意したから、今日のお月見はそっちでやってくれないかな?」
 並んだ化け兎たちを前に、亮が頼み込む。
 京都への月道探索。陰陽師・蘆屋道満が怪しいと踏んだ場所は丁度彼らの宴と場所も時間もどんぴしゃり。
 その他の事態も考慮し、道満は化け兎を排除しろとしていたが、冒険者たちはそれを良しとしていない。が、探索の必要はある為、化け兎たちには居て貰っても困るのだ。
 けれど、化け兎たちにしてみれば寝耳に水の話。どうしたものかと顔を見合わせる。
「満月は毎月あるけど、お花は今の季節しかないし。私たちも一緒にやるから絶対楽しいよ?」
 アウレリア・リュジィス(eb0573)が笑顔で告げるも、化け兎一同は考え込むばかり。ただ、かなり心が揺れているようだ。
 後一押し。そう感じて、リーファが口を開いたのだが‥‥。
「皆さんのお餅を雑煮にしようと思って、向こうでちゃんと準備してあるんですよ。勿論人参も用意‥‥って、きゃああああー!!!」
 人参、の一言に化け兎たち、リーファに殺到。のみならず、どこかに持ってるのかと体をまさぐりだす。
「ち、違います。用意してるのは向こうであって‥‥きゃはははははは」
 化け兎十匹ほど。揉みくちゃにリーファを探る様は、襲いかかってるのに等しく。無遠慮に探るものだからくすぐられて笑いが止まらない。その内、人参探すよりもリーファで遊ぶ方が楽しくなったのか、わざとくすぐってくる者も出る始末。
 化け兎たちが飽きて離れる頃には、リーファはぐったりと地面に伏せるのみだった。
 他にも人参を携帯している冒険者たちはいたが、何気ないフリして一歩下がる。バレたら次は我が身である。
「それでは、皆さんこちらです」
 アゴニーが先頭に立つ。前回、まるごとネズミーを着たアウレリアがうさにじゃれつかれた話は聞いている。集団で来られた恐怖(?)も目の当たりにして、内心はびくびくである。が、化け兎たちも興味深そうにアゴニーを見上げるだけで特に混乱も無く。
 荷物纏めて揚々と冒険者たちと場所移動する化け兎たち。だが、手を振って見送ろうとする緋神一閥(ea9850)に気付き、うさが小さく首を傾げる。
「赤いお婆は来ないのか?」
 悪びれなく告げたうさ。
「‥‥お婆じゃないし、お爺と呼ばれる歳でもないです。
 それはともかく、私はあの人の護衛として残りますよ。貴方がたにとって好ましくない方かもしれませんが、お一人にするのは寂しい事ですから」
 多少引き攣りながらも微笑を持って一閥は、さりげに離れて立っていた道満を示す。
 何とか説得も済み、道満は黙って冒険者たちを見ている。ただ不服なのを態度が告げているが。
「むぅ。うさたちのけ者にしてお月見する気なんだぁ〜」
「でも、向こうにいったら月見な上に花見でお得だよ。ほら!」
 ずるい〜、と騒ぎ出したうさに、アウレリアが慌ててファンタズムを詠唱する。何も無かった場所に梅の木が出現し、うさは目を丸くした。
 幻影の木は触れられないし、勿論、持ち運びも出来ないのだが、雰囲気は分かってもらえたようで。小さく頭を振って考え込んでから、うさは仲間と一緒に花見場所へと移動していく。
 太陽はすでに西の空に沈もうとし、東からまもなく月が昇るだろう。その月が中空に昇った時、月道があるならば呪文で開くはず。
(「とはいえ。月道が見つかるのは富籤に当たる位の確率と聞くよね。確実性の無い話だけで化け兎達を排除するのは如何なものだか」)
 そんな事を考えながら、二条院無路渦(ea6844)がため息つく。
「出来れば。ここでは見つかって欲しくないよね」
「ええ。道満さんには悪い話ではありますけど‥‥」 
 その気持ちを汲んだように、アウレリアが小声で告げると、リーファが道満を気にしつつ首を縦に振る。
 とにかく、化け兎たちが場所を変え始めた事に一安心。結果が出るのは後もう少しだけ時間がかかる。

 夜の闇を満月が輝き照らせば、化け兎たちは待ってましたとばかりに諸手を上げる。
「お月身でお花見で皆一緒〜。一杯騒いでお月様を呼ぼう〜」
 杵振り上げてうさが号令上げると、他の化け兎たちも声高らかに唱和する。喜び勇んで跳ね回り、いそいそと餅を作り出す。
 辺りは見事な梅が咲き誇り、華やか香気が漂う。その下、赤い大風呂敷が敷き詰められ、すでに雑煮の準備も整っており、聞き出した好物なども取り揃えている。化け兎はすっかり満足して、宴を繰り広げだしていた。
「はい、出来ました。いつもの人参もこうするとちょっと違う感じでしょう?」
 それでも、何匹かの化け兎は山の天辺が気になるようでそわそわしている。彼らが戻ると言い出さない内に、リーファは人参を使って気を惹き付ける。
 人参を使っての飾り細工。花や月や兎など、様々な形に切られる人参は、たまに失敗作も出来たものの、概ね化け兎たちに好評で喜ばれた。
 そうこうする内に、化け兎たちは歌って踊って餅をつき出す。アウレリアも伴奏つけたり、リーファが合いの手を入れたりして賑わう。出来たたばかりの餅はさっそく雑煮にして振舞われ、それは楽しい餅つきとなった。
「‥‥村人たち、来てくれなくて残念だね」
 出来たての雑煮は美味かったが、だからこそ、がっかりして無路渦は告げる。
 花見会場には、冒険者と化け兎たちしかいない。手分けして村人たちも誘ったのだが、様々な事情で遠慮されてしまった。代わりに必要な品や材料などは惜しみなく協力してくれ、なので予想以上に宴会は豪勢である。
「でも、仕方ないよね。私たちだけでも盛り上げなくっちゃ。‥‥はーい。注目、皆で遊戯しようか!」
 奮起すると、アウレリアが化け兎たちを呼び集める。
 化け兎の姿は老若男女問わずでも、頭の程はどうも似たり寄ったりらしい。子供向けの全員で遊べる遊戯を教えると、きゃあきゃあ言いながら走り回っていた。
 自由気ままに動き回る化け兎たちを、アウレリアは何とか纏めようとするが‥‥、
「元気、よねぇ‥‥」
 ちょろちょろと走り回る化け兎に、冒険者たちの息も上がってくる。村人達が参加しなかった訳が何となく分かった気がする。しかもこれが朝方まで続くのだ。
「耳が‥‥ほら、大きくなっちゃった」
 アゴニーもネズミーの耳を使って簡単な手品を見せると、化け兎はしっかり騙されて素直に驚いている。
 なかなか好評で満足していた矢先、アゴニーの後頭部に鞠がぶつかる。弾みで倒れた所に、さらに化け兎たち通過。
「うりゃあ!」
 掛け声と共に、化け兎が蹴り付けた鞠を別の化け兎がまた蹴り返す。蹴鞠のはずだが、もはや別の遊びである。
「だから。蹴鞠は思い切り蹴るものじゃないんだよ?」
 無路渦が注意するも、化け兎は首を傾げるだけ。蹴飛ばした鞠はあちこち行き交い、防水用に汲んでた水桶にぶち当たって、アゴニーに降りかかる。
「ふん、化け兎ごときが。やってくれるものですねぇ」
 全身に水を浴びて、アゴニー、いきなり狂化。髪を逆立て目の色を変えた姿に驚き、化け兎たちが悲鳴を上げて逃げ惑い、一部は杵持って交戦の姿勢まで見せる。
「落ち着いて。大丈夫だからね」
 間に入ると、アウレリアは化け兎たちを宥めすかす。アゴニーも静まると、間も無く場は落ち着く。
 一応、狂化の事情を話して謝るが、難しい事は理解できず。ただ水をかけると変わっちゃう人間なんだと納得した模様。
 妖怪にハーフエルフを忌避する概念など無く。狂化も態度が悪くなるぐらいで、危険とまでは思えない。‥‥なので。その後、臆する所かおもしろがって水をかけようとする化け兎から、必死で逃げ出すアゴニーが見られる。
「あら? うさの姿が無いようですが?」
 呆れながらも、追いかけっこを諌めていたリーファだが、ふと気付いて周囲を見渡す。
 化け兎たちは一斉に顔を見合わせ、やがて一点を示す。
 示されたその先、よく見ると地面に大穴が開いている。結構深くどこまでか続いているようで。
「はう。いつの間に掘ったの〜??」
 真新しい堀口に、アウレリア、ぐったりとがっかりを織り交ぜて肩を落とす。
 行先の目処は付いている。ならば、後はそちらに任せよう。
 とにかく、これ以上の逃亡者を出してはならない。そう思いながら、隣で穴掘りだした化け兎を無路渦はむんずと捕まえていた。

 月の光は明るく夜を照らし、遮蔽物の無い山頂ではさらにそれが顕著に分かる。特に灯りをつけずとも、普通に動く分には何の問題も無い。
 夜目に慣れて来るとさらに色々な物がはっきりと分かってくる。
 例えば苦りきった表情を見せる、道満の歪んだ顔までも。
「ええい。何故開かん! あるならば、ここに間違いないはず!!」
 満月が天高く昇り、道満はムーンロードを唱える。呪文が完成するのはわずか十を数える程度。銀の光にその身が包まれ、きちんと発動したようではあった。
 が、その場には何の変化も訪れなかった。
 月道があるならば、開くはずである。それが無いと言う事は‥‥つまりそう云う事なのだろう。
「ええい、くそ!!」
 苛立たしげに地面を蹴り付ける道満。それを呆れ半分に一閥と亮はやや離れた場所から見つめていた。
 月が傾くまでの間、場所を変えたりなどして道満は詠唱を続けるが、やはり何も起こらず。そうこうする内に、さすがの道満も事態を受け入れざるを得なくなる。
「何という事だ。これでは源徳に取り入る機会が台無しではないか! ‥‥いや、まだ他の場所で開いたとは限るまい。とすれば、急ぎ資料を改め直し正確な位置を割り出さねば。‥‥待てよ。仮に他の者が見つけても、この探索を推奨したのはワシだ。うむ、そこを重々に考慮してもらう必要はあるな」
 本人呟いているつもりだろうが、周囲が風の音ぐらいしか無い為に丸聞こえである。その間抜けっぷりがおかしくもあり、それに気付かぬ程動顛しているのかと思うと哀れにも思える。――二人ともそんな態度は微塵にも出さないが。
「何にせよ。月道が無いならこんな場所に用など無い! ワシは江戸に戻る! 後は好きにするがいい!!」
 吐き捨てるように告げるや、早々と道満は山を降りていく。
「と、言う事は。これにて依頼終了だね」
 去っていく道満を見送った後、亮はほっと胸を撫で下ろす。そして、ふと目を落とすとそこには兎が生えていた。否。穴から顔を出した兎が興味深そうに二人を見ていたのだ。
 二人が唖然としている間に、兎は穴から這い出てくる。
「うさ、ですか?」
 まるきり兎の姿だが、人並みに動いて歩いて化け兎なのだと知れる。そして、着ている着物には見覚えがあった。一閥が問うと、化け兎はこくこくと頷く。
 二人が見ている前で、もう一度うさは穴に顔を突っ込むと中から何かを取り出す。
 赤い大きな風呂敷。中には団子やら餅やら酒やらが包まれている。
「差し入れですか? ちゃんと三人分あるのですね」
 土を払って一閥が抱き上げると、嬉しそうに長い耳を上下させている。その際、袂に入れておいた人参に気付き、ちゃっかりもらわれてしまったのは、まぁ、いいだろう。
「来たのが今で良かったよ。もう少し早いと大変だったからね」
 苦笑する亮。ともあれ、そのややこしい御仁の姿は無く、月はただ静かにその場を照らすのみだった。

 化け兎たちの宴は花見のまま夜明けまで続いた。
 朝の日差しの中。ぐったりと疲れた冒険者たちに、化け兎たちは至極満足げな表情を見せ、どこかへと帰って行く。
 そして、冒険者たちもまた江戸へ。ただ、村人宅で仮眠は出来たが、すぐに疲れが抜ける訳でも無く。程度の差こそあれ、割と平気そうにしているのは徹夜に強い亮ぐらいで。
 うつらうつらと舟漕ぐ内に、無路渦などは道端で寝込んで、驢馬だけぽくぽく江戸へと向かったりして。
「子供って、本当元気よねぇ」
 アウレリアの呟きは、それでもどこか楽しそうだった。

●ピンナップ

アウレリア・リュジィス(eb0573


PCシングルピンナップ
Illusted by もえぎ夕歩