【閉ざされた道】≪月道探索≫ 開かれた道

■シリーズシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月14日〜03月19日

リプレイ公開日:2005年03月24日

●オープニング

 京都へ至る月道。失われたその道を探すべく、源徳家康は調査を開始していた。冒険者ギルドにも要請があり、幾つかの手がかりが持ち込まれてその調査に当たっている冒険者も多い。
 勿論、その全てが本物ではありえない。むしろ、その中にすら無い可能性も高かった。
 それでも、とりあえず幾許かの手がかりを得られた物もあり‥‥。

「という訳で、前回の続きに行くわよ!! 満月の夜と限定していた以上、何らかの変化はあるはずよ!」
 冒険者ギルドにて。冒険者を前に握りこぶしを作るのは、一人の少女。京都から来た陰陽師・小町である。
 彼女が見つけたという絵地図は、明らかに人工的に手が加えられた洞窟へと導いた。書かれていた謎文も読み解く事ができたのだが、奥までたどり着いた所で引き返す事を余儀なくされた。
 最奥へと至る道は閉じていたのだ。勿論、破壊して進む事も出来たかもしれない。が、どうやらその先に怪しい物があるらしく、ひとまず準備のやり直し、と判断した訳だ。
「よく見えなかったけど、埴輪とか埴輪とか埴輪とか。後、あれ狛犬だったんじゃないかな、とも思うんだけど‥‥」
 共に、日本でも見られるコンストラクトだ。主に、何かを護るために置かれているゴーレムである。
「どっちも、すんごい簡単に言えば岩の化け物よ。斬る突くよりも叩き壊さないとね。魔法も物によっては効果無かったりするから、気をつけてね。ま、数は多くなかったようだけど‥‥」
 言って口ごもる小町。見えた範囲で少ないだけで、案外他にもいるのかもしれない。
「ま、そんな訳で同行してくれる人募集中。あたしも戦闘支援ぐらいはしたいんだけど‥‥ちょっと今回に向きそうな魔法は覚えてないのよね〜。おまけに折角の満月だもの。月道があるなら試さなくちゃいけないし、それなら、貴重品運ばなきゃならないのよ。それに何かあったらそれこそ陰陽寮クビだわ。だから、迂闊に動けないの」
 貴重品。何かと思えば、ムーンロードの呪文が書かれたスクロールであった。
 冒険者らには全く持って価値の無いこの一品。だが、非常に希少な品である為、実際の価値は計り知れず。それ故、本当は陰陽寮から門外不出の品なのだが、今回は特別の特別に貸し出されていた。
 ‥‥貸し出された経緯には複雑な権力争いも混じっているらしいが、彼女、そこらはとんと頓着してない。
「まぁ、他にもスクロールは用意してあるし、自分の身ぐらいなら十分守れるわ。こっちは気にせずに、心置きなく戦ってちょうだい」
 言って、彼女はにこりと笑う。
「変な仕掛け満載の洞窟に、守護者付き。極め付け、奥に行く扉に書かれてた一文が『満月の夜に、扉は開く』よ。例え月道で無かったにしても、きっと何かあるに違いないわよね〜」
 その笑みは実に楽しげで。‥‥一応国事業の大仕事なのだが、何となくお遊び気分が混じっているのは彼女の性分だろうか。

●今回の参加者

 ea0235 周防 佐新(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8026 汀 瑠璃(43歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea8903 イワーノ・ホルメル(37歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0487 七枷 伏姫(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「埴輪に導かれて参上じゃ! ふむ、奥までの道筋は二度目の者らに任せるのじゃ。‥‥まぁ、あの位の謎など朝飯前じゃがな」
「言ってくれるじゃないか。まぁ、前はうっかり解釈から『背に向ける』を失念しちまったが、今回は抜かりない」
 揚々と告げる汀瑠璃(ea8026)に、周防佐新(ea0235)は苦笑しつつも頷く。
 陰陽師・小町が見つけた巻物。書かれた謎を解いて怪しい奥地までたどり着いたものの、諸事情で仕切り直しとなり、今回二度目の洞窟入りとなる。
 前回参加した者もいるが、今回改めての者もいる。瑠璃の他にはデュランダル・アウローラ(ea8820)がそうだった。
「しかし。ジャパニーズゴーレムとは何かと縁があるようだな」
 デュランダルの一言は呆れているような、喜んでいるような。表情も変えず、淡々とただ告げる。
「まぁ、何かを守るのに設置するには丁度いい物なのかもしれないしね」
 内面を読みづらいデュランダルに対して、小町が何とも複雑な表情で答える。
「今回は狛犬もおるべな。ええ徴じゃよ。別の依頼でもそいつが出た時にいいモノを見つけたべな。月道が無くても、何か大事な場所であるはずだべさ」
 満足そうに告げたイワーノ・ホルメル(ea8903)だが、次の拍子にはふとその顔を曇らせる。
「だども、問題は埴輪だべ。普通の埴輪でなく、自爆してくるかもしんね」
「げ、そんなのいるの?!」
 驚いた後に、小町は嫌そうに顔を顰める。その頭を佐新が軽く叩く。
「気にするな。確かめる策はちゃんと講じてある。私見だが、自爆型は希少な特殊品だろうしな。‥‥それに、女は愛嬌、男は度胸だ。いちいち思い詰めるより、笑い飛ばすぐらいの方が良い」
 言って笑うと、小町は軽く肩を竦めた後に大きく頷く。
「そうよね。まぁ、月道があればいいけど、なるようになれ、としか言い様は無いわね。‥‥あ、でも。埴輪退治は期待してるからよろしくね」
「勿論。確かにいつもと武器の勝手が違うでござるが、それで依頼を失敗するようなマネはしないでござるよ。安心なされよ」
 持って来た武器は初めて扱うだけあって、入念に素振りをしていた七枷伏姫(eb0487)。その手応えを確かめると、小町に頷く。
「それではそろそろ参るとするのじゃ。先頭はわらわが入らせてもらう。罠は前と変らぬじゃろうが、気をつけて付いてくるのじゃぞ」
 提灯に火を入れると、三月天音(ea2144)が先だって洞窟へと足を踏み入れた。

 すでに踏破した罠とあって、さほどの問題無く洞窟を進む冒険者たち。暗く陰気な闇の中を提灯の灯りで照らしながら、確実に前回と同じ道を進み行く。
 そして、前回最後の仕掛けとなった赤い石を動かそうとした時に、瑠璃が待ったをかけた。
「確か、扉に満月の夜に扉は開くと書かれておったのじゃろ? ならば、最奥の扉が既に開いておるかもしれん。警戒しておいた方が良いのじゃ」
「ふむ。それでは先んじてフレイムエリベイションをかけておくかの」
 洞窟内をぐるっと見回し、天音が詠唱する。
 果たして。石を動かし次へと続く扉を開けると、瑠璃の予想通り、前は閉じていたはずの扉が開け放たれている。閉ざされていた空間には、朧に浮かぶ影。よく見れば、四体の埴輪が剣を構えて立つ後方、二体の狛犬が鎮座していた。
「やっぱり。埴輪くんと狛犬ちゃんね。‥‥奥にも通路があるみたい」
 見たままを小町が告げる。
「行くにはあいつらをどうにかしなければならない訳か。いいのかなぁ、狛犬って神の使いだろう? そんなのを壊してバチでも当たらないか?」
 ちょんと鎮座している狛犬を目で差しながら、渋面を作る佐新。
「仕方ないわよ。ま、神の与えた試練とかでも、思ったらいいんじゃないの?」
 小町は軽く肩を竦めるだけ。悪びれた様子は欠片も無い。
「まぁ、いい。小町は後ろに下がっていてくれ」
「灯りも頼むでござる」
 佐新が告げると、一変、小町は緊張した面持ちで伏姫から提灯を受け取り、言いつけ通り後方へと下がる。
 逆に、冒険者たちはそれぞれに得物を手にして、その部屋へと進み入る。
 前回行き止まりだった部屋までは何無く進んだ。その間に伏姫が持っている提灯を壁に配置して、さらにその場を明るくする。
 埴輪も狛犬も、その間、置かれたままで動きを見せない。
 案外ただの置物なのかとも思いつつ、イワーノと瑠璃が示し合わせると、火の点いた松明を埴輪目掛けて放り投げた。放物線を描いて松明が奥の部屋に入った途端、埴輪たちが動いた。
 攻撃されたと受け取ったか、それとも他に理由があるか。狛犬たちも身を震わせるとのそりと動き出す。埴輪たちは手に手に剣――というか拳の延長というのか――を振りかざして襲い掛かってくる。
 と、松明の炎が動いた。明らかに不自然な動きを見せて、埴輪に襲い掛かる。佐新のファイヤーコントロールである。
 纏いつく炎を振り払いもせずに埴輪たちは突進して来た。無論、土の肌には焦げ目すらない。何の変化も無い。
「ふむ、とすると。自爆型ではない訳だべな」
 一つ頷くと、続けてイワーノは詠唱に入る。その身が茶系統の光に包まれると、触れた地面がぼこりと陥没する。
 ウォールホールだった。突然の段差に先頭切って迫っていた埴輪が慌てて急停止するも、他のに押されて一体がぼたりと落ちる。
 穴の深さは丁度埴輪の背丈と同じ。土の剣を振り上げるも、イワーノが穴から下がっては到底届かない。
 穴の中で動きを拘束されている内に一撃を、とイワーノは槌を構えたが、穴を迂回した他の埴輪が迫ってきている。詠唱する暇もなく、仕方なくそっちの埴輪たちにイワーノは槌を振るい、叩き割る。
「まずは埴輪からいくとするかのう」
 瑠璃もまた六尺棒を振るうと埴輪へと振り下ろす。武器の重量も込めての一撃は岩をも砕く。
 身体が欠け、ふらふらとしながらもまだまだ突進してくる埴輪。振りかざしている剣は以外に早く、デュランダルの身を捕えた。
 とはいえ、刃が無いので切れる事は無い。ついでに手盾に阻まれ、軽く衝撃を受けた程度。さらにデュランダルはその機を見計らい、野太刀を大きく振るった。
「喰らえ! ブラストセイバー・クロス!!」
 攻撃直後、間髪入れずに繰り出された重い重いその一撃! 岩をも破壊する力を秘めた野太刀を、埴輪は躱せず――そも躱そうとせず――木っ端に砕かれた。
 仲間が減った所で、埴輪は考えない、恐怖しない。撤退の素振りなど微塵も見せずに、猪突猛進にただただ各々の攻撃を繰り返してくるのみ。
 狛犬もそれは同じだった。咆哮こそ上げぬものの、牙を剥き爪を閃かせ冒険者らへと襲い掛かる。
 内一体。振るってきた爪を掻い潜り、天音が短刀・月露を繰り出す。が、刃は表面を滑りさほどの効果を与えられない。狛犬も気にする事無く、次の一手を繰り出してこようとしている。
「くっ」
 思い余って天音は狛犬を蹴り付けた。むしろ、その方が効果があった。傷こそそんなに入れる事は無かったが、狛犬は体勢をわずか崩す。
「今じゃ!」
「承知しているでござる!」
 言うが早いか、伏姫が槌を振るう。その一撃は確実に狛犬の身を削る。が、それだけで致命傷とまではいかない。痛みで顔を歪める事も無く、狛犬は虎視眈々と天音たちに狙いを定めている。
「‥‥限定された空間で尚且つ打撃が有効の敵。ほんに、範囲魔法と刀を駆使するわらわには相性が悪い戦いじゃ」 
 くつくつと笑いながら天音が狛犬に向かい構え、伏姫も次の一撃を入れる間を図る。
 残る狛犬も佐新が応じている。振るわれる槌は確実に相手の身をこそぎ落としていく。さほど素早い相手でもなく、フェイントを使う事無く普通に対処できていた。
 太い腕を振りかざし、狛犬が迫る。それを躱そうとした佐新だが、わずか脚が滑る。
「げ」
 原因は、さんざっぱら砕いた狛犬の欠片である。細かな破片がまるで大元を味方するように、佐新の足を掬った訳だ。すぐに体勢を立て直し、その一撃は躱したが次の一手に対応が遅れる。
 無用な怪我を負うかと顔を顰め、歯を食いしばる佐新。だが、その間にデュランダルが割って入ると、狛犬へとブラストセイバー・クロスを放つ。桁違いの威力に狛犬の身が派手に飛散した。
「大丈夫か?」
「ああ。埴輪は?」
「粗方片付いている。残るのはこいつらぐらいだな」
 苦笑する佐新に、デュランダルも軽く頷き、狛犬をさす。身体を大きく欠けさせながらも、どうやらまだ動けるらしく、ただただ冒険者らと対峙する。
 が、さほどの手間はもう無いだろう。肩の力を抜くと、佐新とデュランダルは狛犬に対峙した。

「ほれ。あんたが最後だべさ」
 穴をよじ登ってきた埴輪をイワーノは容赦なく叩く。
 すでに他の埴輪はただの土塊と化している。身動きが取れない相手に、槌を何度も振るとやがて埴輪はうごかなくなった。
 その頃には狛犬も破片と化し、ようやくその場は静かになった。
「お疲れさま。一杯いっとく?」
 危険が無い事を確かめ、小町が駆け寄ってくる。にっこりと笑いながら、薬を差し出してくる。
「さて、それじゃきりきり奥へと進みましょうか!」
 負った傷を癒した途端、喜び勇んで告げる小町に冒険者一同苦笑を隠せない。
「最奥にあるは月道か。しかし、仮にそうじゃとしても、使い勝手が悪そうじゃのう」
 埴輪たちが居た場所を通過しながら、期待はその先に進む。辺りを見渡した後に、瑠璃は軽く悩む。
「まぁね。でも、万一あったとしたら、横穴でも掘るんじゃないの? だって、使う度に匍匐前進する訳にはいかないでしょ」
 あっけらかんとそう告げる小町。彼女の仕事としては見つける所までなので、その先はもう気にしてもないようだ。
「それはそうでござろうが‥‥。こちら側の月道がこのような場所にあるとなると、京都側の月道も物凄い場所にある可能性もあると思うのでござるが、大丈夫でござろうか?」
 ふと疑問を思い立ち、伏姫が尋ねる。
「大丈夫‥‥と思う。ま、危険なようなら源徳さまが何となかなさるって」
 やや顔を引き攣らせながらも、小町はきっぱりと告げる。
「京都さも妖怪で困っとると聞くから、いつの間にかあっちさから妖怪が来っと困っぺな。月道の場所さ判っとったら、そこさ集中警備しとくと用は済むだろさ」
「そうよね〜。それに、こんだけ罠だらけなら鬼が攻めてきても防御できるし、案外便利かもしれないしね〜」
 イワーノの言葉に、小町も笑顔を見せる。
 と、先頭を歩いていた天音が立ち止まった。その理由はすぐに知れる。
 奥の部屋には扉が無く、覗き込めばすぐに中は知れた。小さな空間の中央には石の台――否、箱が置かれていた。やはり石で蓋がしてあるようだが、鍵の類は無く、押せば簡単に開くだろう。
「ここで終わりのようじゃの。取り立てて何も見つからん、普通の穴じゃ」
「えと、じゃあ。この棺みたいなのが?」
 小町が不安そうに指差す。その気持ちは良く分かった。
 不安はさらに的中した。蓋を開けてみると、中にはお宝が詰まっていた。腐った剣やらぼろぼろの鎧、錆びた銭などなど他多数。‥‥幾つかはまだ価値が見出せようが、大半がもうどうしようも無い屑。多分、百年ぐらい前ならば、目にも鮮やかな宝の山だったのかと思われる。
 落胆しつつも、本来の仕事を思い出したか、小町は巻物を取り出す。一つの巻物を使用した後に――どうやらリヴィールタイムが書かれているらしい――、ムーンロードの巻物を使用する。
 広げて念じる事わずか。だが、どこにも変化は起きない。
 色々場所を変えて試してみるも、やはり何の変化は無い。長い長い時間をかけた後に、小町は盛大なため息をついた。
「駄目ね。月道は無いみたい。扉が開くってアレだけの事だったのね」
 がっかりと肩を落とす小町を、冒険者は複雑な思いで見つめる。
「気にしない事でござる。幾らある程度の範囲は絞れているとはいえ、月道を探すのは大変な事でござるからな」
 残念そうにしつつも、どこか安心した様子で告げる伏姫。慰められて奮起一つ、晴れ晴れとした表情で小町は顔を上げた。
「ん、そうね。それに一応お宝発見だし。売れば多少の金にはなるでしょ。あ、勿論一緒に見つけたんだから皆にも払うわよ。依頼料とは別にね。‥‥何はともあれ、今回はお疲れ様です」
 まともな品をさっさとより分け懐に入れ、丁寧に小町が頭を下げる。と、その頭にぱらりと砂が降りかかった。
 何の気無しに、天音は天を見上げる。と、いつの間にやら、天井に大きな亀裂が入っている。見ている内にも砂は土砂となり、やがては大きな塊となり、さらには天井全体から降り注いでくる。
 この部屋が、いや、洞窟全体が崩れかけているのは明白だった。戦ったのが悪いのか、知らぬ内に罠が作動したのか、それとも他に原因があったのか。
 可能性は幾つか思いつくが、今はそれを吟味している場合でも無い。
「逃げるぞ!!」
 さすがのデュランダルも、顔色を変えてそう叫ぶ。
 今や、岩の塊が降って来る中を冒険者たちはひたすら外に向けて走り出したのだった。