奪還行 〜捜索〜
|
■シリーズシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 40 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月20日〜10月01日
リプレイ公開日:2005年09月29日
|
●オープニング
「猫がさわられたの」
「さらわれたんだろ?」
「‥‥。たまにはふざけてないとやってらんないわよな状況なのよ」
出された茶を渋い顔してすするのは陰陽師の小町。あっさりと告げたギルドの係員に、憤りも露わに口を尖らせている。
夏ごろに接触した黒尽くめの組織(その後、黒子党と命名)。妖怪狩りを主目的としていたが、その実人も斬るし、盗みもする。そこらの悪党よりちょっと扱う範囲が広いだけのこの集団が、寺の和尚を人質として猫ことワーリンクスの青年を呼び出したのが先日。
無事に和尚を取り返せはしたが、代わりに猫が連れ去られてしまった。その後は黒子党も京での動きをぱったりと止めてしまっている。
「まぁねー。どうやら姫路の関わりらしいってのはよっく分かったけどね。‥‥何かマジで妙な所よね、ここ」
周りに散乱しているのは、依頼の報告書。播磨国にある姫路藩の依頼は以前からちょくちょくと頼まれており、それに目を通していたのだ。
通すんだったら、きちんと片付けて欲しいというのが係員の願いでもあったが。
「とにかく、姫路の関わりなのは間違いないだろうし。向こうを捜索する必要もあるわよね。ま、奴らの本拠地で藩ともつるんでるとなると迂闊にうろつけば闇に消されそうだけど」
「ってか、猫野郎だってもうすでに死んでるんじゃ‥‥‥っっぐぇ!!!」
ほろりと漏らした一言に、即座に茶を運んできたお盆で殴られる係員。しかも平打ちでなく、角打ちである。
「大丈夫よ。占いによればまだ生きてはいるみたいだから」
「所詮、占い‥‥いや、何も言わない。言わないから卓を投げようとするのは止めてくれ。それより‥‥」
無表情で卓を持ち上げる小町を制止、係員は言い淀む。
「分かってる。前に捕まえた黒子党の一人についてでしょ」
「どうしたんだ? 検非違使に届けたという話も聞かないが?」
「そりゃ、届けてないもの。氷漬けだと溶けたら困るから石にして漬物の重石にしてるわ。ちょっと重過ぎるのが難点ね」
尋ねる係員に、小町は即答。あまりの仕打ちに、係員が突っ伏す。
「そりゃあね。他にもたくさん前科があって検非違使の方でも捜索してるし、渡すのが義務ってもんだろうけど。そも、あっちは京都の治安を守ってるんだから、相手が京都から逃げたらどうしようもないし。
藩が関わっている以上、検非違使以上が動く可能性もあるけど。そしたら事件自体がそっちの預かりになるだけで、私たちが動くと却って邪魔になるだろうし、下手に権謀術数に巻き込まれるのも今以上にきついわよ」
小町が嘆息付く。
「それに。役所に届けた所で意味は無いのよ。猫は妖怪だもの。化け物一匹消えた所で喜ばれるだけだわ。
いずれは重石も渡して事情を話さなきゃいけないけど。そんな訳で猫を助けたいなら、今、蚊帳の外に置かれるのもちょっと困るのよ。まぁ、怪しげな組織みたいだし、そんな所に個人で手を出すのは危険だけどね。仕方ないわ」
ひょいと肩を竦めると、小町は依頼願いを係員に告げる。
「で? 依頼は猫野郎の救出、でいいのかい?」
「大筋はね。でも、まだ情報を集めるのが一番になるかしら? 結局の所、あいつがどこにいるのかすら、分かって無いんだもの」
似たような表情で係員は頷き、冒険者募集の貼り紙に取り掛かった。
●リプレイ本文
「構成人数は全員で十数名って所でしょうか。でも、鍛冶師のような非戦闘員もいますから、直接警戒すべきはあの黒子たちで、漬物石の彼を外して残り八名って所でしょうね」
「とはいえ、裏では姫路とつるんでる。もしかするとそっちから兵を連れて来て、最悪藩全部を相手にしなければならないって訳ね」
言葉尻を捕らえて続けた南雲紫(eb2483)に、須美幸穂(eb2041)は重々しく頷く。
「合言葉は特に無いようです。というか、仲間内で顔も知れてるので必要無いという事でしょう。拠点は郊外の山中にあるようですが」
リシーブメモリーで記憶を探った幸穂だが、さすがに万能とはいかない。拾える文字数には限りがあるし、抵抗されたら勿論、本人が印象に無いなら詳しくは分からない。漬物石はどうやら外部の活動が多いらしくて、内部の事はあまり手に入らなかった。
「彼らの目的は武器を作る事。何かを倒すとかそういう事ではなく、ただ強い武器を作ろうとしているだけみたいではあるようです。その研究と材料の一環として妖怪を集めてるそうですけど‥‥聞いてますか、二条院さま?」
「うに? 聞いてる、聞いてる」
若干不機嫌な声音で諭す幸穂に、二条院無路渦(ea6844)は慌てて飛び起きる‥‥が、眠そうに目を擦って欠伸している辺り、相変わらずである。
「今の所はこの程度ですね。魔法も尽きた事ですし‥‥それに」
幸穂が渋面を作る。
猫がさらわれると同時、向こうの手勢を一人確保。陰陽師の小町がストーンで監禁していたのを解き、紫がスタンアタックで気絶させて情報を探っていたのだが、途中気がついた彼が舌を噛んで自害を企てたのだ。
大事には至らなかったし、警戒してまた石に戻した訳だが。再度の情報を得るのは難しいかもしれない。
「当たり前といえば当たり前なんだけど、気絶させたら目が覚めるもんだしね」
「こっちの手口がばれた訳だし、次は同じ手だとそう簡単にはいかないかも」
太刀・三条宗近を振る紫に、傍で見ていた小町は困ったように告げた。
「今回はやりあうのは二の次。猫の居場所を探すのが先決だけど、まだちょっと情報は必要かな」
まだ眠そうに目を擦りながらも、無路渦が告げる。
「急いては事を仕損じると言いますし。落ち着いて行動しないと、ですね‥‥」
泣きそうな表情を堪えて、小都葵(ea7055)が告げる。
多分無事、とは小町の言だが。占いを信じるかどうかは偏に気の持ちようといえる。今どこでどうしているのか、それを知る術はまだ見えない。
姫路までの道のりを急ぎ足で移動する。韋駄天の草履や馬などを使い可能な限りで藩に入ると、各々が情報を求めて広く散った。
「すみません。私、姫路の噂を集めているのですけど、悪い噂や皆が避けるような場所とかありませんか?」
井戸端会議に花を咲かせていたおば様たちに、ティーレリア・ユビキダス(ea0213)は話かける。
「そんな場所はそこいらにあるねぇ。最近何かと物騒だから」
返って来た答えはあまり感じのいいモノではない。
姫路では藩主交代以来、治安が良くない。街道を歩けば山賊に出くわし、道を外れれば妖怪に襲われる。畢竟、人の出入りも制限されてくるし、無責任な噂は尾ひれもついていろいろと出回っていた。
パッドルワードで井戸に聞いても結果は芳しくなく。井戸水は地下水を汲み上げる水の流れがあり、この魔法の対象としては不十分。こぼれた水などから聞いても、数時間前ぐらいの情報がほとんどで、有力な話はさっぱりと無かった。
(「猫さん、ご無事なんでしょうか」)
怪我も心配だが、相手が生かしている必要もとりあえず無い。不安材料だけで好転する話もないのがさらに輪をかけていく。
線香の香りが鼻をくすぐり、葵はそっと手を合わせる。静かなお堂に読経が響き、それが終わるのを見計らってか、住職が顔を出した。
「若い衆にも尋ねましたが、該当する方はちょっと見てませんなぁ」
「そうですか‥‥」
猫の姿を見たものは無いか。寺を巡って尋ねていたが、申し訳ないと頭を下げられるばかり。
それでも幾許かの情報を仕入れると、次の寺社へと足を向けた。
「いらっしゃ〜い。姉ちゃんたちが冒険者?」
「はじめまして。うちの友達に面倒かけてるって聞いてるよ」
とある村を訪れた無路渦と紫は、そこで少年の出迎えにあった。姫路に住んでる少年で名は小銀太。直接の面識は無いものの、彼の方は以前からやはり姫路に絡んだ話をちょくちょく冒険者ギルドにも依頼しており、全く知らぬという訳でも無い。
無路渦が事前に出しておいたシフール便も受け取ったようで、興味津々とした視線を隠す事無く向けてくる。
「さっそくで悪いんだけど、書簡で伝えといた事、何か分からなかった?」
「うん。それがさあ、話聞いてみたけど知ってる人は無かったよ」
猫の事。黒子党の事。知らせておいたが、小銀太はしょんぼりと肩を落とす。
「姫路藩は今までも妖怪狩りを推奨して集めていたけど。その集めた妖怪はどこに捕らえているのかしら」
紫が問いかけるも、これにも首を傾げる。
「捕まえた妖怪はお役所が城下にあるんで、そこに連れてけば報奨をもらえるんだけど、その後どうかってのは知らない。話では説得してどこか人里離れた所で暮らしてるらしいけど、それを確認しようって奴もいないしさ」
市井にしてみれば、邪魔な妖怪のその後など気にするはずは無く。当然といえば当然である。
「手紙もらってからそれとなく気にしてたんだけどさー。何かでかい石みたいなのを運び出してる事はあっても、妖怪を運んでるのって見ないんだよなー。確かにどうしてんだろ?」
「そう」
首を傾げる小銀太に、落胆無く微笑を持って紫は短く告げる。
「あんまりお役に立てなくてごめん」
「うん、大丈夫。‥‥その調子で良い情報屋になってね」
項垂れる小銀太に、無路渦がのんびりと笑って諭す。気を取り直したのか、小銀太は顔を上げて笑って見せたが、
「ところでさあ」
「何?」
ふと何かに気付いたように無路渦を見つめる。
「最初の挨拶、姉ちゃんから何か失礼な事言われた気がするんだけど気のせいかな?」
素直に首を傾げている小銀太。いい情報屋を期待するにはちょっと鈍いかもしれない。
「例の山中と云うのはやはり物の怪が出るとかで立ち入り禁止ですね。とても危険だからと藩の人が数名警備までしてました」
それとなく確認してきた葵だが、目ざとく見つけられ、そう言って追い払われた。こちらを危惧しているというより明らかに邪魔者扱いされ、事態が悪くなる前に早々と退散した次第。
まぁ警備といっても山の入り口に二〜三名ほど詰めてるだけなので、脇から奥に向かう事は出来ようが。
「以前紛れ込んだ方が不明な声を聞いたとかそういう話もあったです。‥‥猫さんが捕まる前の話なのでどこまで関係するかは分かりませんけど」
聞いた噂を思い出しながらティーレリアもまた口を添える。
「でも、肝心の猫がどこにいるのかはちょっと良く分からないわね。多分、他の妖怪と一緒に居るとは思うんだけど‥‥」
「あの辺りをテレパシーで一通り回って呼びかけてみましたが、返事はありませんでした。多分、氷か石になっているのでしょうね」
紫の呟きに幸穂が告げる。もっとも射程内にいなかったり、そも対象者がもういない可能性もある。疑い出せば限が無い。
「小銀太が大きな石を運んでるのを見たとか言ってるし、その運んでった場所もそっち方面だからその可能性は高いよね。でも、もう少し調べる必要はあるかなー。どうだろ?」
無路渦が欠伸交じりで告げる。
確かに今回の情報では十分ともいえない。引き続いての調査は必要かもしれない。