奪還行 〜奪還なるか?〜

■シリーズシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 40 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月25日〜11月05日

リプレイ公開日:2005年11月04日

●オープニング

「つまりは、まぁ、生きてはいるって事よね」
 少しほっとした様子で、陰陽師の小町は告げた。ただし、諸手を挙げて喜ぶにはまだ早い。
 黒子党と(勝手に命名した)謎の黒尽くめ集団。京にて妖怪狩りを行っていたが、その際も人も斬れば金品も奪う、ようは単なる悪党である。
 そんな彼らに、ワーリンクスの青年こと通称・猫が連れ去られて二ヶ月になろうとしている。捜索の結果どうやら、奴らの拠点にているようだとは分かった。
 しかし、
「別の依頼で姫路の少年ってのが来てるんだがな。件の山は、性質の悪い物の怪が大量に湧いたって立ち入り禁止だ。藩士の奴らも駆けつけて警備が厳重になっている」
「性質の悪い物の怪、ねぇ。どんな物の怪が出たもんだか」
 苦笑する冒険者ギルドの係員に、小町も鼻で笑う。勿論、姫路の方に向かってだ。
 猫探索の為に冒険者たちが拠点の山に入ったのはつい先日。その際潜入が奴らにばれ、一騒動おきている。そのすぐ後の警備補強。何が起こったのか、丸分かりだ。
「で、どうするんだ」
「決まってるでしょう? 聞く事ある?」
 意地悪そうに笑う係員に、似たような表情で小町も返す。それで係員が納得したように頷くと、小町は満足したように返す。
「拠点はね。どうやら地上部分は単なる居住地ね。むしろ地下の方が重要みたい」
 小町が、手近にあった書き損じの張り紙を手元に寄せる。
「どうやら山の頂上にある蔵みたいな場所。あそこの真下が捕らえた妖怪たちの保管庫みたいね」
 中央に大きな丸を一つ描く。それを見ながら、係員は頷く。
 黒子党たちがその蔵から重い石像を運び入れていた事、猫を指定したムーンアローがそちらに伸びた辺りを見て、ほぼ間違いないと思われ。
「その周辺に関連施設。解体場とか鍛冶場とかその休憩場とか‥‥まぁいろいろ」
 続けて、大丸を囲むように小さな丸を幾つか描く。とはいえ、実際に部屋がどのくらいの数で、どの程度の広さかは分からないらしいが。
「で、それぞれの施設を廊下が繋いでいる、と。外部からの振動のみでの推測だから、具体的な事は分からないけど。まぁ、何も分からないより遥かに良好よね」
 大丸・小丸を太線で適当に繋げていく。出来の悪い落書きを見ながら小町は満足そうに頷くが、それも長く続かず気を引き締める。
「猫が地下にいると推測される以上、そこに踏み込まなきゃいけないけど。進入の手立てはあまり思いつかないわね‥‥」
 困ったように頭を掻き、大丸を指差す。
「まずは頂上にある蔵みたいな場所。ここが搬入口なら入って保管庫まで最短で行けると思うの。ただし、やたら頑丈に封鎖されてる上、中から開け閉めしてたって事だから、門番みたいなのが常駐している可能性もある‥‥かな?」
 ついで筆を取ると、大丸・小丸の外にさらに適当な線を描く。
「それ以外にも、目立たない所に外から入る入り口があるようね。まぁ頂上が表口ならこっちは勝手口かしら? 見つけた数は四箇所で山の各所に散ってる。探せばまだあるかも。
 麓からの距離はこっちのが近いだろうし、見た感じ扉もそれ程厳重では無かったから入ろうと思えばできるかも、と。ただし、通路部分でも重い扉を開閉する振動があったようね。何かからくりがある危険もあるわ。‥‥これはどこから入っても言える事だけど、保管庫まで距離がある分中での危険は大きいわね。誰かに見つかる確立も」
「どの道、警備が厳しくなった以上、頂上に登るまでに敵に見つかる危険もある訳だがな」
 係員が補足すると、小町が頷く。
「まぁ、どっちがいいかなんて分からないから、判断は任せるけど。‥‥問題はまだあるのよ」
「ほぅ?」
 息をつくと、係員が身を乗り出す。
「まず、猫はまだそこにいるか。あれから曲がりなりにも日は経っているもの。場所を移している可能性はあるわよね。‥‥それこそ、数日の内に処分されてる場合とかもね」
「姫路の坊やが言うにゃ、警備が増えた以外は目立つ動きは無かったそうだが」
 とはいえ、子供の目ぐらい出し抜く手は幾らでもある。可能性としては考えておいてもいいだろう。
「で、最大なのが見つけた後、猫をどうするかよ」
「連れ帰るんじゃないのか? そういう事だと思ってたぞ?」
 さすがに訳が分からない様子で係員が目を丸くする。その顔を見ながら、
「そうじゃなく。見つけても猫をどう連れ帰るか、よ。石像って言うから多分ストーンだけど、それ運ぶと普通に重いし手間だし、万一戦闘になれば邪魔よね」
「ストーンって確か坊主の魔法で解けたんじゃなかったかな? そっちの当ては無いのか?」
 記憶を探りながら係員が告げる。
「あるし、話せば同行してもらえるでしょうけど。冒険者でも無いずぶの素人よ。魔法もその解除ぐらいしか使えないし」
 下手をすると足手まといという訳だ。
「まぁ、同行はしてもらえるならいいんじゃないか? 後は現場の判断で」
「‥‥それもそうね」
 あっさりと小町は承諾する。

 かくて、猫奪還の冒険者の依頼が出される。 

●今回の参加者

 ea6844 二条院 無路渦(41歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7055 小都 葵(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2041 須美 幸穂(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「さて。おおよその様子は分かった事だし、今回で猫を助けて終わりにするとしますかね」
 南雲紫(eb2483)が霞刀を握り艶然と笑う。
 前回までの調査で大まかな事は分かっている。猫が生きているらしいとの話もほぼ確信が持てた。後はどうにか救出するのみ。
 ではあるが、あれからやはり事情も多少変わってきている。前に侵入したのがばれた為、おかげで警備の目は増えている。単純に猫が処分されている恐れもある。
「もし猫さまが亡くなられているようなら‥‥あの山一つ、燃やしましょうか」
 どうせ悪の総本山。景気良くていいかもしれない。
 とはいえ。
「あの‥‥山火事は近所の方が困るかと」
 呟いた須美幸穂(eb2041)に、小都葵(ea7055)が不安げに諭す。恐らくは冗談と推測できても、幸穂の表情ではどこまで本気なのやら。
「長壁姫探索の方と連絡取ったし。細かい事は顔を合わせてからにしても、敵さんは引き受けてもらえるようだからよかった、よかった」
 暢気な口調で二条院無路渦(ea6844)が告げる。と、遠い目を彼方に向けてしばし思案。
「いっそ、全部引き受けてくれてもいいんだけどな〜」
 何せそもそもの人数が少ない。向こうは警備を厳重にした以上、まともにぶつかれば厳しい物があった。
 だからという訳だけでもないが、別目的でやはり乗り込もうとしていた冒険者たちと話をつけ、合同で事に当たる事になっている。長壁姫探索にも手を貸さねばならないが、まぁ、それは仕方が無い。
 大人数での侵入はそれだけ見つけられやすくもなる。これが吉と出るか凶と出るかは行動してみなければ分からない。

 前回知られた事もあって顔を隠し、目立たなくする為に黒衣装に身を包んで冒険者達は何とか山へと侵入する。やはり警備は険しくなっており、夜も遅いというのに提灯片手に藩士と思しき侍がうろついている。
 ちなみに幸穂は韋駄天草履を履いているが、これは長距離を歩く時に効果を発する。忍び歩く時は別に邪魔にはならないが有利にもならない、ようはただの草履でしかない品なのでご注意を。
 何度かひやりとする場面に遭遇しながらも、中に入れるという入り口の傍に近寄る事は出来た。今回石化解除の為に付き合ってくれた小町の知り合いと云う僧侶も、どうにか遅れずに着いてきている。
 入り口にもやはり侍が待機していた。二人いたが、手持ち無沙汰で眠そうに気を緩めている。
 気付かれぬようそのまま身を潜める。と、唐突に山頂の方からけたたましい笛が鳴り響いた。
「何だ!?」
 はっとして表を上げる侍たち。
「行くよ」
 短く言い切ると、紫が侍たちへと迫る。
 不意を衝かれた一人が、長壁姫側の一人により倒される。もう一人は刀を抜くと紫と鍔を競り合ったが、
「あまり時間掛けたくないし」
 その脇から無路渦が鞭を振るい、侍の腕に絡める。腕をとられた侍が体勢を崩した隙に紫が鳩尾へと刀の背を叩き込んだ。
 見張り二人を叩きのめすと、入り口の扉を開ける。重厚な木の扉を力を込めて押し開くと、地下へと下る坂が現れた。
「狭いな」
 周囲を見渡し、端的に紫が告げる。
 木の梁で支えてはいるものの、ここら辺はまだ土がむき出しになっている。通路は狭いし、奥は暗い。暗いのは単に今の出入りが無いからとしても、狭いのはいささか厄介だった。刀を振り回す邪魔になる。あるいはそれが目的の作りか。
 そして、
「お前たちは中を固めろ。万一の事もあるしな」
 その奥から騒ぐ声と共に近付いてくる気配がした。踏み込もうとしたのを慌てて引き返し、倒した侍たち共々草むらに引き込んで身を隠す。
 その際、気絶させてた侍が気付いて騒ぎかけたが、その口に無路渦が問答無用で素早く鞭を突っ込んで黙らせ、紫が当て身で再び気絶させる。と、山の中から他の侍たちが飛び出してきた。
「急げ! むざと逃げられては我らの恥だ。何としても捕まえろ。生け捕りにして目的を吐かせるのがいいが、この際殺しても構わんとの事だ」
 数名の侍たちが松明片手に山へと散っていく。ふと目をむけると山のあちこちで火が踊っている。そのほとんどが頂上に向けて動いていた。どうやら向こうの陽動は上手く動いているようだ。
 が、見える火の数は多いという数でも無いが少なくも無い。いや、闇に隠れて動く相手も考慮にいれれば、結構な数の警備が導入されているようだ。
「向こうの方、大丈夫でしょうか」
「大丈夫‥‥と思う。まぁ、何とかするでしょ」
 揺れる炎と頂上を見遣る葵に、無路渦もさすがに言葉を言い淀む。にしても、あまり緊張感が無かったりもするが。
「けれど。あれで全部でなく中にもまだ残っているのですね。厄介な」
 幸穂が軽く舌打ちする。ムーンアローを飛ばせば、猫にせよ長壁姫にせよ、おおまかな所在は知れる。が、迂闊に飛ばせば警備に見つかる危険がある訳だ。猫へのテレパシーは全く返答が無い。それが一抹の不安ではあった。
 それを悟って深々と紫が息を吐く。
「大まかな場所は分かっているもの。行ける所までは行くしか無いわ。どの道、中にも警備が残っている以上、その内見つかるでしょうけどね」
 決意を込めて、一同、頷く。
「このような事にお付き合いしていただき申し訳ありません。お怪我が無いよう、私たちでお守りさせていただきますので、ご安心ください」
「いえいえ、危険は承知と聞いてますし。これも修行の一つと思えば」
 頭を下げて微笑すると、僧侶もまた笑って丁重に礼を述べる。
 その様に、一同、ほっとして肩の力を抜き、そして、
「では、猫さま救出に参りましょうか」
 幸穂の一言で、再度決意露わに地下へと駆け出して行った。

 山の内部はわりと整備されていた。長壁姫探索組の話では、そんなに歳月かけては無いだろうという話だったが、少なくとも突貫工事のやっつけ仕事で出来たような場所ではない。もっとも、外から類推された広さはほとんどが通路。山の内部各所に繋がる施設を、荒い網の目のような通路が繋げていた。
 その通路を冒険者達は進む。慎重を越しても接触は否めない。特に中枢に進む程、警備の目も増える。結局最終的には強引に突破し、駆け抜ける。
 重い鉄の扉を無路渦がディストロイで壊すと、中は期待した場所でなく解体された妖怪の骨やら皮やらが綺麗に整頓されている。
「ったく。ここでもない! 倉庫とやらにはどう行けばいい?!」
 軽く紫が舌打ちする。警備を撒いて走り回る内に方向が若干狂ってきている。地下ゆえに外の景色も無く、どこまでも続く似た風景は迷う事覿面でもあった。
「上の様子も芳しく無いようですし、少し急ぎませんと。‥‥もういいですよね」
 別班とはテレパシーで連絡を取り合っているが、向こうも苦戦しているらしい。幸穂が印を組むと、ムーンアローを飛ばす。一直線に飛ぶ矢は壁へと消える。猫を指定して跳ね返らなかった以上は、ここまで潜り込んだのは無駄では無かった訳だ。
「今、妙な光を見たぞ。あっちだ!」
 そして、即座に沸き起こる声。
「戦闘に手間取っている場合でもないのだがな。‥‥鬱陶しい!」
「本当、しつこいよね〜」
 吐き捨てるように告げた紫とは対照的に、うんざりとしながらもどこまでものんびりと無路渦は頷いていた。

 それからも光の矢の軌跡を度々確かめながら、中枢へと向かう。
 ようやく行き当たった、やたら厳重で重い扉をどうにか壊して動かすと、いきなり目の前に大きな空間が広がった。
 その空間に所狭しと石像が置かれている。緻密で精巧な細工はまるで今にも動き出しそうな程。‥‥実際、その全てが妖怪の像である辺り、動きだしても不思議はない。
「これは‥‥ずいぶんと集めたのですね」
 見渡しながら、葵が陰鬱に目を伏せる。
 入り口に置かれていた松明に火を入れ、中に踏み込む。炎に照らされた石像は闇に浮かんで苦悶や怒りの表情を露わにする。単なる彫像であったとしても、これだけの数に囲まれてそんな表情を向けられていては少々具合が悪くなりそうだ。
「とにかく、この中に猫さまがいらっしゃるはずなのですよね?」
 幸穂がテレパシーで呼びかけるが、ここまで来ても応答は無い。仕方なく、またムーンアローを放とうとするが、
「誰かいるね!」
 無路渦が突然声を上げる。振り向きざまに鞭を振るうと、鞭の先はそこにあった石像に阻まれる。
 しかし、その陰から人影が飛び出てきた。冒険者達と同じく黒装束を纏うも、向こうは殺気も露わにしている。当たり前だが味方のはずはなし。幸穂の案で見分けつくよう自分たちは赤い布を巻くようにしていたが、それも見えない。
「黒子たちか‥‥。邪魔だ!!」
 刀を振り上げてくる相手に、紫が吼える。
 と、
「まだいますか!!」
 幸穂がムーンアローを放つ。それは一直線に石像の裏手に潜んでいた別の黒子を撃つ。その攻撃に若干怯んだようではあったが、素早く印を組むと翳した手から炎を撒き散らした。
 巧みに石像を盾にし、遠距離から忍法を仕掛けてくる相手にいささか手を焼く。
「ここは引き受けるから、猫さまと姫さまを探して!」
 素早く紫が告げると、幸穂がムーンアローを放った。矢は黒子たちを大きくそれて彼方へと飛ぶ。数度の攻防の後、また撃たれた矢は先程とは違い、さらに下へと向かった。そもが黒子たちに向けて撃ったのではないのは、見ていて分かる。
「行きましょう。着いて来て下さい」
 頷くと葵が僧侶の手を引いて、長壁姫探索の冒険者と共に矢が消えた方へと駆け出す。
「逃がすか!!」
「邪魔はさせません!!」
 幸穂が経巻を広げる。葵たちを追いかけようとしていた黒子たちが作られた真空の空間に踏み込み、その身に傷を負った。
 一方で、葵は僧侶たちと矢の軌跡を追った。
 周りを見渡すと見慣れぬ妖怪の姿が多い。多分、希少で貴重な物はこの一角に纏めているのだろう。
「猫さん!」
 その中に探していた姿を見つけ、葵が声を上げる。獣人化しているが見間違えようも無く。
 急いで僧侶に石化を解除してもらう。戦闘で多少泡喰い多少もたついた僧侶だが、ニュートラルマジックを唱えた。
 ゆっくりと石の姿から色を持った姿へ。時間をかけて元に戻るとふらりと猫が倒れる。
「猫さん」
「あー、悪い。面倒かけたみたいだな」
 涙目でリカバーをかけようとした葵を押し止めると、猫は何かを振り払うように頭を振り、気合を入れて立ち上がる。別れた時は手酷い傷を受けていたが、どうやらそれは治っている。
 準備運動のように体を動かすと、鼻で笑って彼方を示す。
「で。あそこでやりあってんのって、あいつらか?」
「何と言いますか。もう、やる気満々なのですね」
 葵が涙を拭いて笑って見せると、猫はさも当然と言わんばかりに笑んで見せた。

 押し寄せる姫路勢。応戦するも、多勢に無勢。そんな中で復活した長壁姫は他にも呼応しそうな妖怪たちの石化を解き、見事に周囲を混乱に追い込んだ。
 暴れる妖怪と逃げ惑う侍たちと。そのドサクサに紛れて冒険者は山を抜け出す。――猫と一緒に。
 その後、長壁姫側がどのような行動を取ったかは知らない。いずれにせよ、こちらの目的は達成されたのだし、長壁姫の復活もなった以上は敢えて関わる必要も無い。
 そして、その目的の猫はといえば‥‥何となく死にかけていた。肉体的にではなく、精神的に。
「追っ手や待ち伏せもあるかも知れませんし。そうすれば僧侶さんにも迷惑かかるかもしれませんから、せめて藩を出るまでは我慢して下さい」
 冒険者たちの後ろを殺気にも似た不気味な雰囲気を漂わせながら歩く猫に、すまなそうにしながらもきっぱりと葵が言い含める。
「ああ、分かってる。分かっているが‥‥何で女物なんだ!?」
「平たく言うと女装ね」
「言わんでいいっ!!」
 馬上から端的に告げる紫に、猫が即座言い返す。女物の鬘被って着物を羽織り、市女傘を目深に――単に周囲の目が気になるからだろう――被っているだけなのだが。
「まぁ、ばれにくいと言う点では妥当ではないでしょうか」
「しかしなぁ」
 あっさりと幸穂に告げられるも、まだ不満そうに呟く。
「結構似合わないね」
「似合ってたまるか!!」
 そんな猫を上から下から眺めた後、無路渦は同じくあっさりと告げる。
「あ〜の〜。あまり騒ぐと目立つのでは‥‥」
「うるさい! お前の身の安全考えて割喰ってんだろ、俺はーっ!!」
「そういう事だけでもないですから、僧侶さんに乱暴するのはやめて下さい。助けていただいたんですし」
 ばたばたと僧侶に絡む猫を、慌てて葵が止める。 
 とりあえず。賑やかながら、猫回収。
「うん。遺品回収で経を上げるなんてまねじゃなくてよかったよかった」
 満足げに頷くと、無路渦はのほほんと欠伸をしていた。