【姫路 長壁姫探索】求める姿はどこにある

■シリーズシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 96 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月07日〜10月18日

リプレイ公開日:2005年10月18日

●オープニング

 播州姫路藩。先代藩主・池多輝豊の死後、現藩主・黒松鉄山に交代して以来、治世は悪化の一途を辿る。
陸には山賊、海には海賊。そして妖怪はそこらかしこに沸いて出る。
 無論、藩主もただ暢気に事態を見ている訳ではない。それらの脅威に対して出来うる限りの手を打っている。
 ――それが何の為なのかは、市井には知りようが無いが。

「海賊討伐って事なんだけど。実際が所、海賊討伐しているのは人だけじゃないんだってさー」
 困惑しきりに冒険者ギルドに顔を見せたのは、姫路に住む少年・小銀太。その表情をまじまじと見つめながらギルドの係員は首を傾げる。
「人じゃないって。じゃ、何が討伐してるんだ?」
「物の怪」
 あっさりと告げられ、係員は言葉に詰まる。何とも言いがたい顔の係員に小銀太もまた似たような表情を作った。
「んっとまぁ。海賊の拠点って海向こうの島じゃん。だから、殿様が討伐隊を出したって話は聞いても具体的にどうしてるのかって分かんなかったんだけど‥‥。
 藩士の人たち、島に妖怪を放って人を追い立ててるんだって」
 放たれた妖怪は鬼や化け物など低級な物がほとんど。逃亡を考えてか、飛行したり海を渡る程の物もない。放ったからといって、それらが藩士の言う事を聞いてる訳ではないが、粗暴な気性の者を選んでいるらしくその本能のままに人を襲い薙ぎ倒している。
 海賊の方も応戦しているが、戦力としては心許無い。加えて、藩士たち自身も連携した攻撃を仕掛けてくる。地の利を生かして、かろうじて防いでるという事らしい。
 海賊が拠点にしていたとはいえ、何の力も無い島民も生活している。が、その彼らも含め、藩士は根絶やしにせんとしていた。
「口封じって事なんだろうなー、って事らしいけど。今は防いでもこのままではその内やられるだろうし、無辜の民は巻き込みたくないんで何とかしたいんだって」
「何とかと言っても‥‥一応藩の方針である以上、藩に申し入れて説得する以外に手は無いだろうが。というより冒険者の仕事じゃないな」
 悩む係員に、小銀太はただただ首を傾げる。
「そういう難しい事は分かんないけど。藩士はさておいても、問題は妖怪の方らしいんだよね。だからまずはそっちを片付けたいみたい」
「妖怪ねー。秘密裏に討伐しろってのか?」
 だが、それを小銀太は首を横に振る。
「そうじゃなくて、長壁姫を探して欲しいんだって」
「長壁姫ぇ?」
 聞いたような名に、係員は記憶を掘り返しかろうじて思い出す。
 ずっと以前に、やはり姫路の報告書で見かけたのだ。
 姫路にある白鷺城の天守閣に住みつくがその正体は不明。そもそも藩主の前にしか姿を現さない謎の妖怪姫。悪政を民に強いる藩主を祟り殺すとされる。
「確か、あの辺りの妖怪を仕切っていたとか何とか?」
 何ともなしに呟くと小銀太が一つ頷く。
「らしいね。けど、今はいないんだって。ほら、姫路って妖怪狩りやってるじゃん。あの手勢が早々と長壁姫を封じてどこかに隠してるんだって。長壁姫がいなくなったから、姫路の妖怪たちの統制も崩れだして今みたいにあちこち出るようになったんだってさ。だから、姫さんを探し出して解放できたら、島で暴れてる奴含め姫路の妖怪を大人しくさせる事が出来るかもって事なんだよ」
 とっかえつっかえ告げる小銀太に、係員は深く頷いていたが。
「ほー。それでお前、それは誰に頼まれたんだ」
「え」
 じと目で指摘されて、小銀太は顔を引きつらせて一歩身を引く。
「どう考えてもお前の台詞じゃないだろ! さあ、白状しろ! 誰に頼まれた!!」
「えーん、それは内緒にするって約束したんだよー」
「だったら! んな胡散臭い依頼、受けとれん!!」
 鼻息荒くそっぽ向いた係員に、小銀太が慌ててすがりつく。
「でもさ、でもさ。長壁姫が妖怪仕切ってたというのは本当なんだろう? 」
「妖怪なのだろう? しかも正体不明!! 確かに姫路藩は胡散臭いが、万一悪害のある妖怪だったらどうする気だ!?」
「そりゃ、頼んだ人も単に妖怪を抑える為以外の考えは持ってたっぽいけど、でも悪い人じゃないし。
 だからさー、とりあえずは居場所だけ確かめて、本当に封印解くかどうかは後回しでもいいじゃん!! っていうか、おいらからもお願いだよぉ! 本当に妖怪が減るって話ならおいらたちは助かるってばさー」
 最後には泣き落とし。これには係員もほとほと参る。
「じゃあ、募集はしてやる。後は適当に話し合って決めろ。‥‥で、報酬はあるんだろ?」
「うん、頼まれた人に渡された。‥‥後、海の幸だったら出来うる限り用意しましょうって言われた」
「何だそれ?」
「さあ?」

●今回の参加者

 ea2495 丙 鞘継(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3741 レオーネ・アズリアエル(37歳・♀・侍・人間・エジプト)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「やっぱり、あなたでしたのね」
 播州姫路藩。小銀太に連れられ、たどり着いたのは人里からも離れた小さな小屋。海を臨めるその場所からは果ての島も目にする事が出来るが、さすがにそこで何が起こっているのかまでは判らない。
 出迎えたのは見知らぬ女性。花野と名乗る彼女に、一同は一瞬当てが外れたかと首を傾げた。が、こちらの身を明かし新顔にも口止めを約束させ、さらに小銀太に少々席を外すよう告げると、ようやく小屋の中から一人の女性が現れる。襤褸を着て百姓娘の姿をしながらも、どこか気品のある彼女に、藍月花(ea8904)は笑みを持って礼をする。
「申し訳ありません。このような大事、わたくし自らが赴きてお願いするのが筋でございましょうに」
「気にしないで。あ、これ京都のお菓子なの。口に合うかは判らないけど、よろしかったらどうぞ。‥‥嬉しいわ、こんな所で美人さんに二人も会えるなんて」
 丁重に頭を下げる彼女に、レオーネ・アズリアエル(ea3741)が満面の笑みを持って菓子折りを渡す。花野と彼女を眼中に治め、至福の笑みで口端を緩めている。
 そんな彼女の心中を知ってか知らずか、微笑み返しているその姫は池田白妙と云う。先代姫路藩主・池多輝豊の娘。世が世なら彼女は姫路の城の奥に住まい、このような場所で会おうはずも無い相手。いや、そうでなくてはおかしい相手だった。
「早速ですが、白妙様。ここに来た経緯とここに追いやった一団を教えて下さい。現藩主周辺あるいは現藩主かしら? 何やら武器を作ろうと暗躍している集団の話も耳にいたしましたが」
 月花が口早に尋ねる。
 京都で活動を確認されていた俗称・黒子党という輩がいる。主に妖怪を狩っていたが人も斬ったし盗みもした。ようは一風変わった盗賊と大差のない奴ら。
 他の冒険者たちが関わっており、結果、どうやら現姫路藩主・黒松鉄山と繋がりが分かっている。
「そっちに関わった冒険者や依頼人にも話を聞いたりはしているが‥‥、長壁姫についてもどうやらこっちが知る噂程度の話しかないようだな」
 頷き、丙鞘継(ea2495)も告げる。
「その黒装束の集団というのは存じております。ですが、あの島におりまするは藩士のみ、黒松腹心である小幡弾四郎を筆頭とする直属の兵が十数名。されど、伝えました通り、奴らが捕らえた妖怪を放つに至り‥‥。わたくしはこの花野と共に島から逃れえましたが‥‥今だあそこには‥‥。無関係な者までも」
「島の住人ごと白妙様達を葬ろうという訳ですか。穏やかでないですね」
 月花が苦々しく呟くと、白妙は硬い表情のまま顔を伏せる。
「ところで、私たちが探すって言う長壁姫はどんな美人さんなのかしら? 逢うのが楽しみよね♪」
 レオーネがさらに頬を緩ませて笑う。すごく楽しそうだ。
「姫と言っても、老女や座敷童と姿は様々あるようだが」
「武蔵‥‥以前狸と共に船を率いていたあの男ですが、‥‥あれが以前、ふとした事で天守閣へ登った折は巨大な鬼の姿で現れたと申しておりました」
「ええええ〜」
 あっさりと告げる鞘継に、白妙も微苦笑して告げる。告げられた側はと言えば、どこか涙目になって白妙を見つめている。
「それで、結局はどうなのだろう?」
 そんなレオーネに苦笑した後、気を引き締めて鞘継が問う。だが、申し訳なさそうに白妙は首を横に振った。
「実際の姿がいかような方なのか‥‥あいにく私は存じておりません。藩主たる父やその後を継ぐはずだった兄は面会を許されてはおりましたが‥‥」
 長壁姫に相見えられる人物は極めて限られていたし、話を聞くに姿も様々に変わる。故にその能力など詳細は不明のまま。ただ、好奇心などでこっそり拝見しようとした者もいない訳でなく、そういった者が痛い目に合わされた話を聞くに、実力だけは確かといえる。
「ですが、お話の分からぬ方では無いと思います。無論、我々とは違う道理に生きてはいるでしょうが、城にあった時もむやみに人を襲う真似はいたしておりません。手をとる事は可能と考えてます」
 迷うような表情を見せながらも、最後にはきっぱりと断言する白妙。鞘継も黙って頷きそれに答える。あるいは、それしかすがるものが無いのかもしれない。
「それと‥‥、二年前の藩主交代劇だけど。結局、裏では一体何があったのかしら? 長壁姫の封印もそれに絡むのよね?」
 さすがに言いにくそうにレオーネが言い淀みながらも尋ねる。実際、白妙は身を強張らせて表情を硬くし、花野も心配そうな目で姫を見つめる。
「確かに、お話せねばなりますまい‥‥」
 しばしの間をおいた後に、白妙は辛い面持ちで語りだす。
 二年前の惨劇を。

 先に出た黒子党は先代藩主とつるみ、妖怪を集めていた。その集めた妖怪を収容する拠点と云う場所が姫路藩の山にあった。
(「さてさて、物騒な事ですじゃよな」)
 木の陰に身を潜め、マリス・エストレリータ(ea7246)はそこらかしこで聞こえる喧騒に顔を顰めている。
 長壁姫捜索とは別に、黒子党に関わっている冒険者たちがその山を探りに来ていた。マリスはそのどさくさに紛れてこっそりと潜入したのである。
 辺りをざっと見回していると、どうやら別組冒険者の方が見つかったらしく、お山は一気に険悪な雰囲気になる。
 シフールで形が小さく目立たぬよう黒衣装を纏う。とはいえ、潜入者を血眼で捜している今、迂闊に動けば見つかりかねない。おまけに向こうも同じ黒衣装で目立たなくしている。目端が利くマリスではあるがそれでも油断はならない。
(「まぁ。ちょっと好都合ですかな?」)
 山の頂上、蔵のような場所がある。警備が厳重になってはいたが、逃げている冒険者らは山を下り逃げたという報が入っている。むざと逃げられて怒りで隙が出来ているし、賊はもう逃げたと気も緩んできている。
 警備らに見つからぬよう、ざっと見てまわったがその付近に中に入られそうな場所は無い。だが、妖怪がここに運ばれたのはマリスも見た。ならば捕まった妖怪などが答えてくれないかと、なるべく遠くまで届くよう射程を押さえずにテレパシーを使用してみる。
(「な――者――ぞ!!」)
「うきゃ!」
 飛び込んできた思念に思わず声を上げる。
 駄目元で使ったので、予期してなかった事もある。そして、思念と同時に飛び込んできた相手の感情は実に刺々しい物だったのだ。
「声がしたぞ! 誰かまだいるのか!!」
 その声で途端に警備の黒子が騒ぎ出し、マリスも慌ててその場から離れる。
(「こちらは正義の手先ですが、そちらは何者ですかな?」)
 退きながらも、相手に尋ねる。返事は奇妙に歪んで届いた。
(「わ―を――解――ほ―― !!! わ――名――おさか―――!!!」)
 テレパシーの範囲から出た為、すぐに会話は途切れた。届いた内容を吟味する間も無く、マリスはただただそこから逃げるのに必死だった。

「島に渡った折、その武蔵と云う方にもお会いした。まだ向こうは無事のようだ」
 長壁姫の宛を探り、黒畑緑太郎(eb1822)は渦中の島へと挑んだ。それを告げると、白妙は少しほっとしたように礼を述べる。
 島に渡った理由は、放たれた妖怪から姫についてを聞く事。だが、妖怪たちと交戦するに至り、応戦するも多勢に無勢。あわやの所を島民たちに助けられどうにか島も出る事が出来た。
「で、肝心の長壁姫の行方だが。妖怪たちは詳しくは無かったが‥‥どうやら黒子党の奴らに捕らえられていると考えていいだろう」
 それなりの知性があればテレパシーで会話も出来る。とはいえ、その知性すら無い者いるし、元々粗暴な輩を集めたらしく気が荒い。まともな会話はほとんど無かったし、同じ妖怪(?)にしても碌な話を持っていなかったが、それでもわずかな手がかりを繋げていくとそういう事らしい。
「やはりその黒子党とか云う奴らの拠点にあるらしいな。まぁ、島に行く前に頭たる紫暮とかいう老人の身辺も少し探ってみた」
「確か、他にも探っていたものがいたのでござるな?」
 阿阪慎之介(ea3318)が首を傾げて鞘継とレオーネを見ると、月花がそれに頷く。
「ついでに‥‥鍛冶師でいなくなった相手がいないかも探してみたけど。その二年前に城に呼ばれたって人はいたわね。その後の消息は掴めなかったのが残念だけど‥‥」
 月花が顔を曇らせる。構わず緑太郎が話を続ける。
「で、話を纏めて見れば、その二年前の時点でどうやらすでに手を組んでいたらしいし、奴らの目的からすればそこらに捨てる事も無いだろう。すでにこの世に無いならともかく、そっちに運ばれている可能性も高い。
 そこで聞いたという声――恐らくその妖怪姫ではないか?」
「どうかのぅ‥‥。何らかに封じられているからか、御立腹のあまりなのか、いたく思念も雑でしてのぉ。当たりの様な気もするが、はてさてですじゃ」
 常とは違う反応に、頭を押さえながらマリスが告げる。聞いた緑太郎が軽く笑う。
「それが本当に長壁姫だとしたら、解放した途端に現藩主を殺しそうだな。‥‥もっとも、それが狙いかな?」
 緑太郎が白妙を見る。他の者も見守る中で、白妙は静かに目を伏せた。
「‥‥お察しの通りでございまする。我らの目的は、逆臣・黒松鉄山とその一派の首を取る事」
 二年前の春。事故死と伝えられた池多輝豊の死こそが黒松鉄山による謀殺の結果だった。花見の宴として遠くへ誘い込み殺傷。真相を隠して賊の仕業と城に告げ、さらに外聞を重んじて事故として市井に発表した事が噂の始まり。
 そして、その罪が明らかになる前にその兵力を用いて速やかに池多の一族郎党を粛清するに至った。
「あの日の事は忘れられませぬ。城が血に沈み、兄も母も始め、親しき者全てが地に伏し‥‥。長壁姫の呪詛が城に響く中を、わたくしは残った僅かな忠臣に助けられ、ようやく城を出ました‥‥」
 不意を衝いた奇襲は素早く展開し、元より裏切り者も多かった。無論、その中には異を唱える者もいた。が、鉄山が父を諌めんとした息子・黒松小五郎をも殺害するに至り、実子を殺すなら他者などどれ程の者かと恐れ、口を告ぐんだ。
 大量の死は事故や病死で少しずつ公表され、やがては乱心した小五郎による主家惨殺という形で幕を降ろす。その後も、この事実を公表せんとした者、鉄山に邪魔になる者などがゆるりと姿を消して行き‥‥今の姫路に至る。
 一方逃げ延びた白妙たちは古き臣を頼ってかの島へと渡り、再起を計っていた。
「武器を揃え、兵を鍛え‥‥、されど絶対的な数が足りませぬ。さらに妖怪などは想定しておりませなんだ故‥‥恐らく持ち堪えるのが精一杯でしょう。縁故にも手が回っている恐れがある以上、かの方に御すがりするしかありますまい」
 言って、白妙は頭を下げる。
「私情と云うのは分かっております。ですが、なにとぞわたくしたちに手を貸して頂きたい」
「そんな‥‥お気持ちはよく分かるわ。どうか、頭を上げて頂戴」
 レオーネが素早く駆け寄る。白妙の手をぎゅっと握ると訴えるようにその目を覗き込む。――妙に熱が入っているのは、気のせいではあるまい。
「恐れ入ります。‥‥それと、繰り返すようですがこのお話及びわたくしの事は他言無用とお願いします。真相を知られたとあれば黒松たちがのような手段に出るか分からず‥‥。そして、わたくしはまだ捕まえる訳にも参りません」
「それは承知している。‥‥そういえば忘れる所だった。前に一緒だった化け狸たちだが、皆息災だ。元の仲間らと合わせて和尚と遊んでいる」
 思い出して、鞘継が告げる。白妙らに助けられ、化け狸たちも今は元気に仲間らと暮らしている。‥‥歪んだ元気で和尚が目を回しているが。
 その話で白妙がようやく笑う。笑うその顔もどこか憂えてはいたが。