【晴明失踪】 捜し物二つ

■シリーズシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月20日〜02月25日

リプレイ公開日:2006年03月01日

●オープニング

 日本の中心たる京都。
 南からの黄泉人が鎮静したのもつかの間。東で暴れていた九尾による狐一派の襲撃、富士での龍脈騒ぎと騒動には事欠かない。
 それらが落ち着いた今になっても、人斬りの横行は日夜激しく、雑多な妖怪も折に触れて暴れまわったりと安寧からは程遠い、けれどそれが当たり前な日常が続く。
 そんな中で、陰陽寮陰陽頭たる安倍晴明が忽然と姿を消した事は、小さいといえば小さい事件かもしれない。
 奥方に話を聞くと、ある日ふらりと出かけたきり、戻ってこなくなったと云う。
 何か大事件の先触れか。それとも単に旅行にでも行ったか。
 元々、何考えてるか今一つ捉えどころの無い御仁だっただけに憶測様々。一応心配はされながらも、まぁあの人だからと今は静観する構えになっている。

『実際の所、何がどうなってるのか記憶が曖昧と言うのが問題なのでしょうね』
 冒険者ギルドの奥にて。十分に人がいない事を確認した上で、その晴明本人がギルドの係員相手にのんびりした口調で話をしている。
「ご自身にふりかかったであろう大事に関わらず。いたく暢気ですな」
『いえいえ、驚いてますし、困ってますよ。環境の変化のせいか、術のほとんどが使えなくなりましたからね。不便な事極まりなく』
「環境ですかい‥‥」
 にこりと微笑む晴明に対し、ただひたすらに係員は頭を抱えている。
 逸れも当然といえよう。何せ現れたのが、普通で無い。いや、元々普通とはいえない御仁だったが、今回は明確に普通で無い。
 何せ、足が無い。
 体が透けている。
 物理法則無視して宙に浮かんじゃったりなんかして。
 ‥‥とどのつまりが幽霊である。
 幽霊となったからには普通は死んだという事である。
 聞けば、いきなり後ろから刺されたらしい。そして気がつけばそんな姿で京の都を漂っていたとか。
 一体、いつどこでどのように何故誰からそんな目に合わされたのか。そんな周辺の情報については欠如してしまっているのでそれ以上の詳しい話は分からない。
「ともあれ、死んだというならきっぱり成仏して下さい。‥‥あ、成仏できないからここにいらしたのですか? でしたら、お任せ下さい! 僧侶だろうが志士だろうが侍だろうがすっぱりきっぱりあの世に送って差し上げます!!」
『生憎ですが、まだまだ成仏する気はありません。が、依頼に来たのは確かです』
 力説する係員に、あっさりと晴明は首を横に振る。
『先の妖狐たちによる御所襲撃。続いて龍脈切断による地脈の暴走。相次ぐ変異から御所を守ろうと、密かに草薙の剣を用いての鬼門封じを行うよう私に神剣が託されました。その剣が見当たらないのです』
 晴明の屋敷は、そもが御所の鬼門を守るべくの方向に建てられている。神剣を用いる事でさらにその守りを厚くし、御所の守りを強めようとしたのだ。
 幽霊になって、まず気になったのが神剣の所在。なので屋敷に帰ってみれば、案の定というべきか、神剣は見当たらなかった。
 本来は神皇の手元にあるべき神剣を個人宅に託すなど、うるさ方の貴族が知れば一騒動起きかねない。なので、この話は極限られた者だけが知る。それを知るのは信の置ける有力貴族であるし、彼らがわざわざ秘密裏に神剣を取るはずは無い。
 とすればこの事態をどこかで知った胡乱な第三者の手に渡った可能性が高い。が、それは一体どこの誰か。
「‥‥それ、むちゃくちゃ大事件じゃないですか」
『ええ、そうです。大事件ですね。ですが、公にすると私に剣を託してくれた方々に迷惑がかかります。密かに動こうにも、この姿は結構不都合が多すぎるので、内々に冒険者たちの力をお借りしたくて来た訳です』
 故に、あくまで神剣探索は秘密裏に行って欲しいとの事。
「家に置いていたなら、奥様は何かご存じないのですか?」
 同居しているなら何か知ってる可能性は高い。しかし、晴明は笑みを消すと申し訳なさそうに首を横に振った。
『神剣については何も言ってません。一つ屋根の下、何か勘付いてる可能性はあるでしょうが、この姿になってから会ってもいません。妻は魔法や物の怪などが大嫌いですからね。また怒鳴られるのは嫌です』
 ‥‥それでよく結婚したなぁと不思議に思う。
『ともあれ、神剣の探索をお願いします。同時に私が死んだ原因を探し、死体を見つけて下さい。霊魂がこうやって無事なんですから、後は体さえ見つかればどうにでもなりますよ』
「って、もしかして生き返る気満々ですかいっ!?」
 思わず聞き返した係員に、晴明はからからと笑いたてる。
『そりゃ勿論。大丈夫、復活魔法を覚えてる方には心当たりありますので』
 ばっちりお布施は取られますけどね、と微笑む晴明に、もう係員は頭を抱えるしかなく。
「まぁ、死体が見つかれば犯人についてもそこから霊剣の手がかりが得られる可能性もありますから、いいでしょうが‥‥。焼かれてたりして損失してたらどうするんですか」
『そうですね。その時はきっぱり諦めて幽霊生活を楽しむべく、まずは名前間違えてくれた方の所へ御怨返しを行いましょうか』
「‥‥『怨』返しですかい」
 軽い調子は冗談のようではあるが。本当に冗談なのか分からないのは死んでからも同じ。
 神剣紛失も大事だが、この人をこのまま野放しにするのもやばいっ。
 背筋に寒いものを感じながら、係員は冒険者たちを呼び寄せた。

●今回の参加者

 ea4138 グリューネ・リーネスフィール(30歳・♀・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4870 時羅 亮(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6154 王 零幻(39歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゼルス・ウィンディ(ea1661)/ リュヴィア・グラナート(ea9960

●リプレイ本文

「とんでも無い事になっていますね。晴明様は刺されて大変ですし、神剣も無くなるし」
「晴明殿の遺体探しに神剣・草薙の捜索ですか‥‥。どちらもものすごい大事ですね。ですけどね‥‥」
 呟く山本佳澄(eb1528)にグリューネ・リーネスフィール(ea4138)も困惑顔でも頷き、空を見上げる。
「人が死ぬのって悲しいですよね、普通‥‥」
 似た表情で同じく見上げる藍月花(ea8904)。彼らの見つめる先には今日も凍える冬の空が‥‥ではなく、人の姿があった。最もその向こうが透けて見える辺り、普通の人ではない。
 陰陽頭・安倍晴明の幽霊である。幽霊である以上、死亡した事に変わり無いのだろうし、その上でこの世に留まるなど、並々ならぬ情念を感じられて当然。
 のはずなのだが。
「死んでも死に切れないって様子じゃなさそうだしね」
 両手を挙げて肩を竦めて、時羅亮(ea4870)は呆れ果てている。
 見るからに。幽霊本人が悲壮感も緊張感も欠片も持ち合わせていない。そんな幽霊を前にしても誰一人涙なんて出る訳が無い。むしろどっと疲れが増すばかり。
「生き返る当てもあるといいますからねぇ‥‥。実際、生き返ってもらう方がいいんでしょうから、昇天してもらうのは我慢いたします」
「常ならば死霊を滅するが我が務め。おぬしが怨返しを始めた時は喜んで六道へと返してしんぜよう。が、それまでは生者と変わらず接させてもらおう」
『ありがとうございます。そのような機会になりましたら、その時はこちらもご容赦無く抵抗させてもらいますね』
「何故、抵抗するかな?」
 グリューネと王零幻(ea6154)の言葉に、笑みすら見せて軽く告げる晴明。穏やかな会話に混じる物騒な言葉を、しっかり亮は聞き逃せずにいる。
「しかし、これは一体何者の仕業か。俺の知る奴らはわざわざ死体を隠したりはしなかった筈だし‥‥。別の人斬りの仕業か?」
 備前響耶(eb3824)は考え込むが、今の段階では如何とも言いがたい。
「この一件、何か裏で連動しているのかそうで無いかは、まだ分かりませんよ。ただ死体が無いというのは気になりますね。どこかに投げ捨てられたか、単に見つかりにくい場所にあるだけなのか。屋敷などに隠匿されてる可能性もありますね」
 佳澄が考えを述べるも、今はこれといって手がかりもなく。
「とにかく、今は死体を捜す事に専念しましょう。復活すれば晴明様の記憶も戻るでしょうし、そうすれば神剣の手がかりも得られるでしょうし。‥‥腐乱死体を見つけるのはぞっとしませんし」
 話を切り上げがてら、月花が顔をゆがめてぼそりと呟く。夏で無かったのがまだマシだろうが、春はすぐそこ。悠長にも構えてられない。
「ああ、そうだな。それで晴明殿は‥‥幽霊だから姿を消したり、憑依したりしてこちらについて来る事は可能でしょうか。憑依して乗っ取るのは無しで」
『その程度ならできますが。しかし、そうですか‥‥。やはり乗っ取りは駄目ですか』
 響耶の駄目押しの一言に、妙に残念がってる晴明。
 一体、何を考えていたのやら。兎角、気を抜かない方が良いかもしれないと、グリューネと零幻は目で話し合った。

 探すと簡単に言っても、現状どこをどう探せばだ。まずは情報を仕入れるのが大事だろうし、重要な何かを知っている人が傍にいる。
 安倍晴明その人である。
 記憶がぼけているのが難だが、それでも手がかりが得られる筈である。
「それではまず。神剣は屋敷のどこに祀ってたのでしょう?」
『私の部屋に祭壇を設けてました。条件もよかったですし、家の者にも入らぬよう言いつけてある場所ですからね』
 簡潔に返してくる晴明にグリューネは頷くと、続けて疑問を口にする。
「仮に神剣は盗まれたと考えますと、お屋敷に泥棒避けの結界を貼ってたりはしてなかったのですか?」
『完全に人の出入りを断つとまた弊害ありますし、そも面倒なんでやってませんよ。まぁ、部屋にはさすがに目くらましを仕掛けて置きましたけど』
「でも、それだけじゃ無用心じゃないですか?」
 小首を傾げる彼女に、困ったように晴明が笑みを浮かべる。
『私の噂を知るならば、無理に忍び込もうという無頼の輩なんていませんよ。呪いますから』
 あっさりと告げられた一言に、思わず顔を背ける冒険者幾名か。真偽は定かでないが、確かにこの人はやってもおかしくない。
 その話題から逃げるように、グリューネは次の質問に移る。
「殺された日って何してたんです?」
『普段の通り、陰陽寮で仕事して夕方ごろには帰宅した筈ですけど‥‥そこら辺から記憶が曖昧なのですよね』
「その日から変わった事はないのか?」
『ないですね。私が神剣を持ち込んだ以外は、万事同じですよ』
 零幻が詰め寄るも、返答ははなはだ良いものではない。
 それからいくつかの質問を重ねても、核心となる話は見つからず。ともあれ、次は奥方に話を聞きに行こうと相成った。

 晴明の屋敷は御所の北東に位置する。力ある陰陽師をそこに配置する事で、鬼門からの不吉を止めようという訳だ。
「しかし、人の気配が無いですね」
 月花が様子を伺いながら、率直に意見を口にする。
 立派な屋敷は静かなものだ。廃墟とまではいかないが、それに近い雰囲気がある。屋敷が大きいだけに不気味で仕方が無い。
『人の出入りが多いと面倒が多くなりますからね。これでも増えた方ですよ。前は、身の回りを式神にやらせていたのですけど、妻が嫌がるので人を使うようにしましたから』
「奥様も大変ですね」
 佳澄は心からの同情を送る。勿論相手は晴明の妻に、だ。
 ざっとご近所に聞き込んだだけでも、評判のお化け屋敷。戸が勝手に開け閉めされるとか、妙な物がうろつくとか、誰もいないはずなのに足音や声がするなどしょっちゅうあった。
 そんな所に来るとは、苦労は絶えなかっただろう。魔法嫌いというならなおさらだ。
「さて、長話もそれぐらいで、行くとしようか。安倍殿も控えていて下され」
 響耶の言葉が終わる間もなく、晴明の姿は消える。それを見た後で零幻が屋敷に向かって声をかける。
「御免下され」
「はい」
 表門で声を張り上げると、意外というべきかきちんと人の声がした。出てきたのは女性。先に聞いていた話からして、晴明の妻・梨花その人だと分かる。不意の来客を怪訝そうな目で見ている。
「突然失礼します。実は行方不明の晴明殿を探して欲しいという依頼があって、冒険者ギルドから参りました」
「ギルドから? 誰がそんな事を?」
 グリューネが礼儀正しく一礼すると、驚いた梨花が息を飲んだ。
「申し訳ありませんが、名を明かさぬよう頼まれましたので‥‥」
 月花が口添えると、梨花は不愉快そうに眉根を顰める。
 考える事しばし、
「いいわ。それで何でしょう?」
 門扉に立ったまま、話を促す梨花。愛想の無い対応に、冒険者達の方が戸惑う。
「あの。出来れば中に入れて欲しいのですが」
 困惑露わに月花が頼む。だが、それをきっぱりと梨花は断った。
「主人を訪ねてきたのなら、主人の生業もご存知のはず。貴重な品や危険な物まで、主人はお預かりしているのです。故に胡乱な方々を入れる訳には参りません。お話だけなら別にここでも構わないでしょう? 長くなるというなら、近所に行きつけの料亭がございますので、そちらでお話させていただきましょう」
 胡乱呼ばわりされて腹が立つ以前に、ただ戸惑うばかりである。屋敷にも入れてもらえないと、部屋を見せてもらうなど論外だろうし、となると中を探りようが無い。
 が、ここでごねると話すら無く門前払いされそうな雰囲気である。目線を交わして相談した結果、仕方が無いという眼差しを、一同、一斉に浮かべる。
「なるほど、確かにしっかりしていらっしゃるな。自分には勿体無いくらい出来た嫁だと、晴明殿が常々褒めていたのも頷ける」
「ありがとうございます。それでご用件は?」
 場を和ませようと零幻は梨花に話しかけるも、梨花はさした興味を示さず冷淡に先を促す。事前にしっかりしていると人となりは聞いていたが、予想以上の難物に戸惑いがさらに広がる。
「その、だな。安倍殿が行方不明になった日の事をお聞きしたい。出掛けたと聞いているが、何時頃出掛けられたのだろう」
 気まずい雰囲気ながらも、それを苦にするような表情は見せず、心落ち着かせると梨花と向き合う零幻。
「日も暮れた頃かしら。仕事から帰ってお部屋にいらしたと思ってたのですが、急にふらりと出て行ってそれっきり。よくある事ですけどね」
「その時、何か言ってなかったか? あるいは何か持っていったとか」
 勢い込んで食いつく響耶に、そうねぇと暢気な声をあげて考え込む梨花。
「別に何も言ってませんでしたわ。ただ、出掛ける、の一言。そうですね‥‥何か持っていたような気もしますけど、もう暗かったですし、よく覚えてませんわ」
 もういいだろうと言いたげな彼女。話を切り上げられる前に慌ててグリューネが口を挟む。
「いなくなった日の屋敷の様子はどうでした? それと、晴明殿の行方に心当たりは?!」
「別に、いつもと変わりは無いですわよ。行方については、どうせ仕事がらみでしょうから、寮の方にお尋ねになった方がよろしいのでは? あの人にはそれしかありませんから」
 梨花の口調は実にそっけない。
「当日ではなく、それ以前や以後で気になった事は? 場所も屋敷に限定して考えてくれなくていい」
「特に無かったと思いますけど」
 零幻に対する返答も語気が荒くなる。口にはしないが帰ってくれといいたいのは、誰もが分かる。
 これ以上は訊ねても無理だろうと、非礼を詫びて冒険者達は晴明宅を後にしようとした。
「ああ、そういえば。あの人がいなくなってから屋敷で変わった事が一つありました」
「それは?」
 はっとして足を止める。熱く見つめてくる冒険者達に、梨花はにっこりと満面の笑顔を向ける。
「屋敷が静かで過ごしやすくなりました」
 それは、彼らが訪れてから初めて見せる彼女の笑みだった。

 それからも、いろいろと情報を探りに京都中を東西奔走。その結果、まとまった意見は。
「さっぱり分からん」
 響耶が、参った、と天を仰ぐ。
 幾ら走り回ってみても、晴明の足取りはさっぱりと掴めないのだ。
「心当たりの場所は当たってみて、それこそ埋められたり沈められたりされて無いか、注意に注意を重ねて探してみたんだが‥‥。そもそも、どこに出掛けたか分からんというのが問題だな」
 ジト目で睨むと、悪びれもせずおどけたように晴明が肩を竦める。
『申し訳ないですね。まぁ、怨霊の封印巡りとか墓場巡りとか気脈巡りとか、いろいろと気の向いた時にやりますからね。場所は京都中に散らばってますけど、ムーンシャドウならそんなに手間もかけずに移動できますし。勿論、ただの散歩なら御近所で終わりですが』
「晴明殿が幽霊として目覚めた場所っていう一条戻り橋も見たけど、特に変わった事は無かったしね。‥‥でも、単なる散歩、は多分無いんじゃないかな?」
 ふっと亮が息を吐く。
「使用人やご近所からの目撃情報を聞いて回ったけど、出掛ける姿などを見た人は全く無し。もっとも、日暮れてからだと外を注意する人なんていないから、仕方ないかも。
 後、陰陽寮の方とかで探している人にも会ったけど、晴明殿の事だからと全く心配されてなかったし」
 故に、捜索も通り一遍で目ぼしい成果は無い。
「酒場で聞く話も、最近は新撰組やその他の組織などだな。妖怪たちは相変わらずだし、人斬りの数も増えてきて夜は物騒というから出歩く者も減っている。さて、これらに巻き込まれたのでなければいいが」
 心配そうに零幻が唸る。
 刺された以上、単なる事故ではないだろう。何らかの事件に巻き込まれたとしても、相手は安倍晴明。多少どころか大抵の事態は切り抜ける実力がある。
「結局入れなかったですし、屋敷周辺を中心に私も調べてみましたが、特に何も見付からずですわ。せっかく手伝ってもらったのに‥‥」
 月花も疲労の浮いた顔で座り込んでいる。魔法を使う知り合いにも協力してもらったが、対象が絞り込めず、散漫とした結果しか無かった。
「屋敷といえば‥‥。犬になって手がかりを探ってたんですけど、何か屋敷の方から微かですけど、血のような匂いがする気が‥‥。料理って事はないですよね?」
 困ったようにグリューネが思い口を開く。
「誰かが侵入した痕跡は見られなかったけど?」
 亮が首を傾げると、彼女はますます困惑を深める。
『まぁ、術の研究などでいろいろな物を使いますし。その匂いが残ってたとも考えられますね』
「‥‥どんな術を研究してたかは、聞かない方がいいんでしょうね」
 悟りきった表情で月花は告げる。

 あれやこれやと考えても意見はまとまらず。晴明の死体も神剣の行方も後日改めてとなった。
 ギルドの係員に事を報告し、とにかくもう少し何かが分かるまではこの件は内密にという事になった。
 散会し、それぞれのねぐらに戻る冒険者たち‥‥なのだが、その前に佳澄がもう一度皆を呼び集める。何故か、ギルドの係員までが一緒に。
「実はですね。もうずっと前の話という事なんですが‥‥」
 そして、晴明がいない事を確認すると、実に言いにくそうに佳澄が聞いた話を告げる。
 酒場で噂話を探っていると、梨花を洛外ので見たという相手に出会った。なんでも人には言えぬ事情を持った男女が密かに会うような茶屋町で、壮年の男とかなり親密そうに歩いていたそうだ。こういう場所は見ても秘して、すぐに忘れるようにするのが常だが、たまたま晴明の妻と知っていたから印象に残ったらしい。
 相手の男はさっぱり分からなかったが、多分陰陽師ではないかという話だった。
「これが今回に関係あるのかは分かりませんが‥‥言わない方がいいですよね?」
 恐る恐る訊ねる佳澄。皆の出した結論は言わずもがなだった。