【裏切り者に死の贖いを】完

■シリーズシナリオ


担当:勝元

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2005年08月23日

●オープニング

「――そうそう。アンタの言ってた片目で黒尽くめの男だけど」
「知ってるの!?」
「うん。南に二日くらい行った所にある小さな街の外れに、もう使われてない教会があるんだけどサ。そこに最近、怪しい男が居ついたって噂を、ちょっとネ」
「なんて街?」
「えっと‥‥ミッデルビュルフ、だったかな」


 冒険者ギルド。シフールの少女が一人、受付嬢を相手に熱弁を振るっている。
「――で、ボクすぐに飛んでったんだ、そのミッデなんとかに!」
「そう、それで?」
 興奮冷めやらぬ少女に微かな苦笑いを一つ、受付嬢が話を促す。
「大変だったよー、イロイロと! 盗賊にさらわれそうになったりオーガに食べられそうになったりそれからそれから‥‥」
「あらあら」
 それは大変だったのね、と応じる女に少女は一言。
「いやー、モテるオンナって辛いよね!」
 ‥‥普通そうは思わないだろうが、幸せな見解で何よりである。
「で、その彼は見つかったの?」
 と受付嬢は軌道修正を試みた。四方山話に付き合っていては日が暮れてしまう。
「いたいた、いたよ!」
 誘導に少女は目を輝かせると、矢継ぎばやに言葉を繰り出した。
「聞いたとおり、街外れの教会にひっそり寝泊りしてたんだ! 物陰からコッソリ見ただけだけど、間違いなくアレはヒョウマだよ!」
「あら、なんで物陰から?」
 どうせなら会ってくれば良かったのに。女の言葉に少女は様相を一転、うなだれて答えた。
「だってさ‥‥このまま会っても、また逃げられちゃうに決まってるよ‥‥」
 少女は俯いたまま、握り締めた羊皮紙を取り出すとカウンターに広げた。
「これ、ね‥‥ヒョウマの置き手紙」
 羊皮紙を手に取る受付嬢。少女は顔を上げず、小さく呟いた。
「ボク、どうしたらいいのかな‥‥」
「‥‥そうね」
 羊皮紙に目を通す。置き手紙の内容は短い別離の言葉。これまでの冒険者の尽力に対する感謝と、少女への詫び。
「お任せ☆」
 女は少女を励ますように言って、依頼書を手早くしたためた。


 ――ミッデルビュルフ、酒場の片隅。
 テーブルに差し向かい、目を合わせずに語るは黒尽くめの男女だ。
『間違いない、奴はこの街にいる。あのシフールがうろちょろしているのを見かけたからな』
『‥‥』
『今度こそは逃がさない。俺の手で八つ裂きにしてやる‥‥』
『‥‥』
 黒尽くめの男――少年然の風貌は、恐らくパラだろう――に、女は一言も返さない。ただ考え込むように、沈黙していた。
『‥‥どうした、不知火』
 女の態度に苛立ったのか、男の声に殺気が混じった。
『貴様、まだ奴の事を‥‥』
『アタシ達、その後どうするのかしら』
 質問には答えず、女は別の言葉で返した。
『無駄な事は考えるな』
 男は苛立ちを押さえ込むように、短く呟く。
『俺たちの人生はこれが全てだ‥‥』
 帰還の為の護符は渡されている。だが、今戻っても無能の烙印を押され処分されるだけだし、これ以上時間をかけては更なる追っ手が海を渡るに違いない。無論、標的を増やして。
『そう、全てなんだ』
 言い聞かせるように呟く。二人とも、鉛のような疲労を感じていた。

●今回の参加者

 ea7950 エリーヌ・フレイア(29歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ea8388 シアン・ブランシュ(26歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea8568 チェムザ・オルムガ(38歳・♂・ファイター・ジャイアント・モンゴル王国)
 ea9459 伊勢 八郎貞義(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1802 法条 靜志郎(31歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1878 ベルティアナ・シェフィールド(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

プリム・リアーナ(ea8202)/ エレ・ジー(eb0565

●リプレイ本文

●再会
 ミッデルビュルフの街外れ、森のすぐ手前にその教会はあった。
 遠巻きに建物を眺めながら、集うは八名の男女。依頼人であるシフールの少女と、七名の冒険者だ。
「あそこか」
 法条靜志郎(eb1802)は二つの碧眼を教会に向け、言った。
「とりあえず、あのバカヤロウと接触しようか‥‥言っときたい事が、結構ある」
「そうね。私も豹馬には言いたい事があるわ」
 その隣、魔弓片手に呟いたのはシアン・ブランシュ(ea8388)。絶対に逃がさないと意気込み、あまつさえ魔弓に矢をつがえる始末だ。
「決してこのままでは済まさないと考えてた所です」
 愛馬の上、スクロール片手のエリーヌ・フレイア(ea7950)も同様の意見。サンワードも使ってみたが、太陽は『遠い』と短く答えただけだった。暫くは大丈夫だろう。
「約束を破って下さった御礼は必ず致します‥‥戦乙女に誓って☆」
 ベルティアナ・シェフィールド(eb1878)が誓いも新たに一歩踏み出す。
 見れば、一人を除いて他の面々も同様の表情。共通するのは、小さな怒り。
「えーっとえとえと‥‥その、オンビンに、ね?」
 教会へ近付くにつれ妙な殺気すら漂わせる一同に、ファウは冷や汗を一つ。
「大丈夫大丈夫♪」
 あぁ、シアンの笑顔が妙に爽やかだ。
「薬ならありますしね☆」
 そういう問題じゃないと思うぞ、ベルティアナ。
「まあその‥‥こうなった原因は私にもあるからな。任せておけ、何とかする」
 珍しく苦笑いを一つ、カノン・リュフトヒェン(ea9689)がファウに答えた。

 礼拝堂。
『大いなる父、か‥‥』
 何をするでなく、草壁豹馬は佇んで偶像を眺めていた。思う所があったのか、異変に気付いた時は、既に手遅れ直前だった。
 ――囲まれた、か。
 外への退路は‥‥無い。男はゆっくりと腰の二刀を抜き、音を立てぬよう建物の内部へと後退を図った。別経路で脱出しなければ。もっとも、あの二人ならば表は手勢で固め、自分達は退路を切っているだろうが‥‥。
 と。
 青年が後退しきるより早く正面の扉が開き、現れた女が叫んだ。
「かくれんぼは終わりよ、豹馬!」
「‥‥シアン!」
 これは想定外だ。青年は頭を抱えた。となれば‥‥。
「ヒョウマァ!」
 次いで飛び込んでくる二つの影。叫んだ少女は予想通り、元パートナーだ。青年は瞬時に身を翻すと、建物の奥へと逃走を決め込んだ。この相手なら致命的な攻撃は無いと判断したのだろう。
「ストラ!」
 鋭い声でベルティアナが叫ぶと、豹馬の眼前を掠めるように鷹が通り過ぎた。反射的に体が硬直する。これが、致命的だった。
「必殺・シフールシュート!!」
 女はぐわし、とファウの襟首を掴むと、そのまま青年目掛けて投擲した。
「なにするんだよバカぁぁぁぁぁ‥‥」
 ――どかーん☆
「直撃!?」
 為す術も無く、ファウは青年の顔面へ吸い込まれるように命中した。

「うっ‥‥」
 気絶していたらしい。青年が目を覚ました時、既に周囲を取り囲まれた後だった。
「久方振りですな豹馬君、御互い壮健そうで何よりでありますぞ」
 しゃがみ込み、伊勢八郎貞義(ea9459)は微笑を一つ。
「‥‥ああ、まぁ、な」
 痛む額に手を当て、青年は観念したように返した。因みにファウは隣で目を回したままである。そりゃそうだ。
「お互い思う所はありましょうが‥‥足掻くと言うならその手助け、させては頂けませんかな」
「いや、しかし‥‥」
「損得ではなく気持ちの問題ですよ、君もそうだからこそこの地へ来たのではありませんでしたかな?」
「‥‥ま、色々あるんだろうさ。自分の過去とは決着を付けなきゃいけない‥‥多分そんなトコだろ?」
 次に口を開いたのは靜志郎だ。
「でも、『最期のその時まで足掻く』ってんならせめてその手伝いくらいさせてもらいたいもんだね。そういう事をしたがる物好きって、実は結構いるんだよ」
 そう。最低でも七人はいるのだ、その物好きが。
「逃げるばかりでは何も解決しません。彼らが良き仲間だったのなら貴方の心は彼らに必ず分かって貰える筈です」
 豹馬のすぐ傍に滞空し、エリーヌは告げた。
「‥‥貴方が逃げずきちんと説得すればね。私達も力を貸します」
「また逃げても、ファウさんは必ず貴方を探し出します。再び刺客が現れた時、貴方だけでなくファウさんを巻き込むでしょう‥‥これ以上同じ事を繰り返していたら、彼女まで命を落としかねません」
 ベルティアナも口を添える。既にいいのを一発入れてしまったので仕返しは諦めたようだ。
「‥‥確かにあれ以上投げられたら命を落としかねないな」
 冷や汗を一つ、別の意味で納得の豹馬である。
「今はもう死ぬ気はないのだろう? 足掻くなら‥‥今一度、私達の手を借りてみないか」
 少し気まずそうに、口を開くカノン。
「気にする事は無い。私達にしてみれば、ファウの為に其方の力を借りる、となるからな」
 その言葉に、豹馬はまじまじとカノンを見つめた。
「どうかしたか?」
「いや、お前に似た女を思い出しただけだ」
「‥‥え?」
「お前の言う事は妙に断り難いってことさ」
 忘れろ。そう言って豹馬は一瞬だけ苦く笑うと、改めて一同に向き直り、宜しく頼む、と告げた。

「さて‥‥どういう決着を望んでるんだい?」
 一息ついて、靜志郎が切り出した。殺るか殺られるか、という結末は誰も望んでいないのだ。
「‥‥」
 難しい顔で豹馬は黙り込んだ。それ以外を思いつかなかったからこそ、こうして逃げ回っていたのだから。
「あの二人にも何れ見つかる‥‥いえ、もう見つかってるかも。堂々巡りじゃ仕方ないし、このままじゃ二人も危ないって分かってるんでしょ」
 豹馬はシアンの言葉に頷いた。
「ああ。追忍は奴等だけじゃない」
「だったら、逃げる以外の方法を探しましょ。二人と向き合って。私達も手伝うから‥‥ね?」
「そうさ。落ちついてもう1回話してみたらどうだい、あの二人と」
 シアンと靜志郎の結論は同じ所に行き着いたようだ。
「彼等も思い悩んでたように見えたし、ね。話が出来る状況、俺達がなんとかして作ってみる。だから‥‥な?」
「しかし、話をした所で‥‥」
「なに、あの二人に任務達成を諦めて貰った上で任務の偽装を手伝って貰えば良いのです」
 簡単ではありませんがな、と言う貞義の提案に、青年は首を傾げた。
「‥‥偽装?」
「ヒョウマさんが死んだ事にしてしまえば、二度と刺客は現れないですよね?」
 ベルティアナは指を立て、今度こそ裏切りは許しませんよ? と小さく笑った。

●誘導
 シフールの少女を肩に乗せた大男と言う、奇妙なアベックが街中を歩いている。
「まったく、なんだってボクがこんな目に‥‥」
 ブツブツとやっているファウに、大男――チェムザ・オルムガ(ea8568)は大真面目に答えた。
「ファウ、飛び出す‥‥また、襲われる‥危険‥‥一緒、いる‥安全」
 途切れ途切れの言葉に仕方ないなぁと溜息を一つ、それでも少女は我慢ならぬという風に訴えた。
「‥‥てゆうか、なによこのヒモ!」
 そう、少女の足は紐で縛られ、その一端はチェムザが握っていたのだ。
 少女の抗議もどこ吹く風、男は満面の笑みである。
「コレ、色付き‥‥気に入った、か?」
「うわーいキレイ☆ って気に入るか、はなせバカー!」
 ぶーんと飛び出そうとするも、紐のせいでそれ以上飛べず、半ば暴れるペット状態のファウであった。

 ――街の片隅。
 通行人の耳目を集める二人に、物陰から一組の視線が注がれていた。
 見つけた。間違いなく、あれは豹馬に付き纏っていたシフールだ。見つめる女の目が、複雑な感情に彩られる。
 しかし。
 一緒にいる男‥‥あれは、山津波を相手取っていた男だ。即ち、冒険者が豹馬の傍にいる。それも、複数。
 女――追忍・不知火は決意を固めると、気取られぬように二人の後を追い始めた。

「どうだった?」
「オレ、気に入った‥‥また、やりたい」
 教会へ戻ってきた二人にカノンが声をかけると、チェムザは上機嫌で答えた。一方のファウはよほど気に入らなかったのか、豹馬の影まで飛んでいって膨れっ面である。
「ファウには気の毒だけど、いい案内板になったわよね」
 クス、とシアンが笑った、その時だ。
「確かに分かりやすかったわね」
 教会の入口に佇む、一人の女。誰一人声をかけられるまで気付かなかったあたり、隠密能力の高さを窺わせる。
『シラヌイ!』
 冒険者達の驚く声が唱和した。ここまで早く来るとは思わなかったのだ。
「‥‥で? 聞こうじゃない、アンタ達の用件をさ」
 不自然なほど明白な誘導に、別の意図を感じたようだ。半ばうがち過ぎだが、冒険者達にとっては好都合とも言えた。
「豹馬に手を出さないと誓えるなら、私達は貴女に会わせる用意があります」
 エリーヌは気を取り直して提案した。彼女は交渉の余地がありそうな相手だったし、逆に言えば彼女を説得できないようなら鎌鼬に取り付く島などある筈もないのだ。
「会わせてどうするのさ」
「ヒョウマ殿はもう目的を達した。そちらにその気があれば話をする気にもなろう」
 カノンの言葉に、女は小さく溜息を吐いた。
「‥‥アタシら、喧嘩してる訳じゃないんだけど」
 これは任務なのだ。掟破りの裏切り者に話し合いで解決する余地があると女には思えなかった。例え彼女の私情がどうあれ、だ。
 と。
「俺は‥‥これ以上、同胞を傷つけたくない」
 礼拝堂の奥、扉を開けて豹馬が現れた。
「お前達は、大事な仲間だ‥‥俺の中で、それは永久に変わらない」
 本当に済まない事をした。そう言って頭を下げる豹馬だ。
「そこで、提案‥‥討ち取った証拠に刀はダメ? これ以上ない証拠だと思うんだけど」
 確かに、標的の私物――特に刀は有力な証拠になる。忍者刀はそうそう入手できるものでもなく、シアンの提案は魅力的と言えた。
「アタシはいいわよ、惚れた弱みだしさ。だけど、鎌鼬はどうするの? アタシは口添えできないわよ」
「‥‥取り押さえる他ないですなぁ」
 暢気な口調で貞義が呟く。
「じゃあ、それとなく鎌鼬を――」
「――その必要は無い」
 言葉が聞こえるが速いか、女の身体から四箇所、血飛沫が上がった。

●襲撃
「俺が気付かないとでも思ったか、裏切り者め!」
 入口、小柄な影が倒れる女に近付き、踏み躙った。
『もう止せ、鎌鼬!』
 豹馬が叫んだ。
『黙れ! 貴様さえ死ねばそれで済むんだ!』
 問答無用で鉄片を構える。
「ヒョウマ殿、下がれ!」
 カノンの鋭い声に、青年は瞬時に反応、扉の奥に駆け出した。
『逃すか!』
「壁当て!? まさか!」
 放たれた黒い閃光が、間に立つカノンを避けるように壁に反射して青年の背中へ向かう!
 ――ギギィン!
 鋭い音を立て、鉄片が床に落ちる。
「乙女の柔肌に傷を付けてくださった御礼がまだでしたね?」
 左手、不可視の盾で鉄片を防いだベルティアナが不適に笑った。普段ならこうは行かないだろうが、壁当てで狙いが不正確になっていたのが功を奏した。
『ちぃっ!』
 舌打ちを一つ、鎌鼬は突進した。強引に突破を図ろうとしているのだ。
「させませんぞ!」
 進路を塞ぐように貞義が進み出た。戦闘能力こそ劣るが、少々の怪我ならオーラで癒せる。所謂、肉の壁だ。
「ぬん!」
 チェムザが肩に担いだ大剣を一閃、衝撃波が走る。大振りな攻撃は命中こそしなかったが、一瞬生まれた隙をシアンは見逃さず、死に体になった所に魔弓を撃ち込む。
 ――ギャン!
 エリーヌが刹那のうちに唱えた、力ある言葉が電光を生む。それは狙い過たず男の身体に突き刺さった。
『ぐぅっ!』
 矢傷から血が流れる。電撃に体の切れが鈍る。多勢に無勢、男の戦闘能力が徐々に減殺されていく。
 ――バサッ!
 男の身体を包み込むように網が投げかけられた。チェムザが魔力の網を放ったのだ。
『舐めるなぁ!』
 男は叫ぶと、鋭い鉄片で動きを阻む網を切り裂くが、
「――そこまでだ」
 無防備になった首筋にカノンの長剣がぴたりと突きつけられていた。
「ここで、終わるか‥‥続けるか? カマイタチ」
 チェムザが大剣を振り上げる。敗北を悟った男の両手から鉄片が滑り落ち、乾いた音を立てた。

「‥‥御免ね、何度も怪我をさせて‥‥でも私達も守らなきゃいけないの、あの二人を」
 シアンが鎌鼬にポーションを飲ませ、ハンカチで流れる血を拭った。鎌鼬は縛り上げられているが、これは流石に仕方ないだろう。
「‥‥斬れ」
「ま、それもいいでしょう」
 人形のように短く答える男に、貞義は近付くとナイフでロープを切る。
「‥‥どういう心算だ?」
 不可解な顔で尋ねる男に、貞義はナイフを放って寄越した。
「何、簡単な事です。その刃を胸に突き立てれば御終いですからな。ですが‥‥」
 一旦言葉を切り、告げる。
「それ程の覚悟があるならば、いっそ死んで生まれ変わったものとして新しい生き方を探してみては如何ですかな。自分と言う世界を変えるのは使命でもなんでも無く、自分でしかないのですし」
「ヒョウマ、狙う‥諦める、良い‥‥オマエ、他に、したい事‥あるか? あるなら‥死ぬより、生きる、選べ」
 無骨に告げる、チェムザ。
「貴方が必死なのは任務もだけど、彼女を守りたかったからでしょ?」
 シアンがちら、と倒れる不知火を見た。其方は豹馬が助け起こし、手持ちの薬を与えている。
「豹馬を討った証拠を偽装して不知火と二人国へ帰るか、新しい生を歩むか‥‥出来ないかしら?」
「このまま異国の地で果てるまで戦うより元仲間の幸せを祈って引き上げませんか?」
 墓を作って偽装工作に手を貸す用意もある、とエリーヌが言葉を合わせた。
「‥‥今の立場に固執しお互い不幸に散るよりは、お互いの気持ちに「けじめ」をつけてはどうだ? 友、だったのだろう?」
「過去を忘れろとか、水に流せなんて軽々しい事は言えない‥‥けど、乗り越えてみせろよ。死んだら悲しむ奴だっているんだ」
「旅に出る、良い‥シラヌイと、いっしょ‥どうだ?」
「いっその事、ヒョウマさん達と一緒に世界を旅するなんて如何ですか?」
 口々に寄せられる言葉に、
「‥‥刀を、寄越せ」
 観念したかのように男は呟き、豹馬の刀を受け取ると女と二人、姿を消した。
 その後、二人の姿を見た者は、いない。

●終幕
 頬を打つ鋭い音が響く。
「前回が最後の裏切りだもの、もう最後はないわよ?」
「了解だ」
 微笑むシアンに、豹馬は苦笑で返した。
「ファウさんお幸せに」
「人間万事塞翁が馬、でありますよ」
「了解だよ♪」
 エリーヌと貞義の言葉に、ファウが嬉しそうに敬礼する。
「ま‥‥生まれ変わるってのも、悪くないさ。多分、ね」
 二人の消えた方角を眺め、靜志郎は穏やかな顔で笑った。
「羨ましい事だな、あれだけ感情をぶつけられる相手がいるのは‥‥」
「お前もぶつければいい。俺達は暫くこの街にいる。何時でも尋ねて来い」
 遠い目で呟くカノンに、青年は小さく、笑った。