【孤児院のアリア】第一話

■シリーズシナリオ


担当:勝元

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月27日〜09月01日

リプレイ公開日:2005年09月05日

●オープニング

 ドレスタットから南西に行くとミッデルビュルフと言う街がある。途中二つほどの島を経由し、小船を乗り継いで二日ほどの距離だ。北海に面した半島にあるそこは、小さく、取り立てて見るべきものの少ない、有り体に言えば片田舎といった場所だった。
 その街外れに、一軒の教会がある。いや、あった。過去形なのは既に教会として使われなくなって久しいからだ。この街の教会は中心部にこざっぱりとした聖なる母の社があり、住人はそこを利用している。様々な理由で場所を移り、その結果建物だけが余る形になったのだ。そして、その門を今、一人の少女が叩こうとしていた。
 肩まで届く赤毛に控えめな銀の髪飾り。有り触れた、だが上等な旅装束の胸元に銀の首飾りが揺れている。彼女はたった今、この場所に到着したばかりだった。


 決意を告げた少女に司祭が差し出したのは、金貨が50枚ほど入った皮袋と一枚の羊皮紙だった。金貨は少女の為に司祭が貯めていたものらしい。そして羊皮紙には、教会の位置を示す地図が書き込まれていた。
「ここに行きなさい。この場所は好きに使ってくれてかまいません。親切な友人が伝に掛け合ってくれましたのでね」
 言って、司祭は柔和な笑顔を浮かべた。『親切な友人』が誰かは教えてもらえなかったが、何とはなしに想像はついた。兄の形見を譲ってもらう時に交渉してきたのだろう、とも。
 旅立ちの日。
「辛くなったら何時でも戻っておいでなさい。あなたは私の娘なのですからね」
 司祭はそう言って送り出してくれた。
「‥‥ありがとう、お義父さま」
 万感の想いを込めて、少女は頭を下げ――そして少しだけ、泣いた。


 辿り着いた教会の周囲には何もなかった。確かに不便な立地は、少しだけドレスタットの黒の教会を思い起こさせる。今日からここで、少女は孤児院を開くのだ。
 ドレスタットに来て一番最初に聞いた話。それが、孤児院の話だった。世の中には泣いている子供達が大勢いる。こんな自分でも役に立てるかもしれない。小さな希望の芽は様々な体験を経て徐々に膨らみ、そしてここに結実した。とは言え、間取りすら判らない完全にゼロの状態だ。まずは準備から始めなければならないだろう。取り急ぎ冒険者ギルドに依頼も出しておいた。程なくして、冒険者達が手伝いに来てくれる筈だ‥‥集まれば、の話だが。
 教会の扉を開けようとする少女――アリア・バルナーヴの右手で、意匠を凝らした銀の腕輪が陽光を照り返している。
 軋んだ音と共に、扉がゆっくり開こうとしていた。その音は、新たな住人を歓迎する福音のような気がした。

●今回の参加者

 ea4090 レミナ・エスマール(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea6284 カノン・レイウイング(33歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea6832 ルナ・ローレライ(27歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7976 ピリル・メリクール(27歳・♀・バード・人間・フランク王国)
 ea8167 多嘉村 華宵(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1729 ブラン・アルドリアミ(25歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2419 カールス・フィッシャー(33歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●全ての、はじまり
 建物の窓という窓を開けられるだけ開け、空気が入れ替わるまでの間。
「この正面から入ると」
 正面扉の前、多嘉村華宵(ea8167)は地面に簡単な図面を描きながら、一同に間取りの説明をしていた。まずは全体像を把握しなければ始まらないと、ピリル・メリクール(ea7976)と二人、ざっと見てきたのである。
「まずは礼拝堂です。黒き父の像がありますね」
「思ったより状態はよかったですねっ」
 ピリルが簡単に説明を付け加えた。礼拝堂は争いの痕跡などがあり、少し前に誰かが出入りしていたであろう事を推測させた。その所為もあってか空気は悪くなく、比較的手のかからない状態だ。飽くまでも他に比べれば、だが。
「で、その脇から奥に入れば住居棟‥‥ご存知の通り、ここからが大変ですっ」
 華宵とピリルの二人だけが偵察をしたのには訳がある。単純な話、あまりの空気の悪さに他の誰もがしり込みしたのだ。
 黴と埃の入り混じった最悪の空気。足を一歩踏み入れれば、つもった埃が空気中に飛散して視界を奪う。空気すら通されていない密室の酷さたるや、想像を超えたものがあった。
「‥‥ごめん‥‥無理、しないでね」
 赤毛の少女、アリア・バルナーヴが申し訳なさそうな目で二人を見た。誰かが行かなければ始まらないとは言え、そんな場所にたった二人で突貫。斥候ついでとばかり、手当たり次第に廊下の窓を開け、空気を入れ替えてきたのだ。
「気にしない気にしない♪」
 にこりと笑んで、二人は先を続けた。
「住居棟は、ぱっと見、家具や日用品は手付かずのようでしたね」
「で、住居棟から中庭に出れるの。厨房の裏には井戸もありましたねっ」
 二人の説明と共に、地面に概略図が出来上がっていく。
「礼拝堂からは応接室らしき部屋への扉もあったけど‥‥まったくの手付かずで荒れ放題っ」
 一同の表情が曇る。これだけの規模、状況で、予定通りの行動が終えられるのだろうか。
 実の所、冒険者達も往復の時間を短縮しようと試みはしたのだ。だが全員分の馬はあっても、操る者の腕が足並み揃わなかった。相応の腕があってこそ、その能力は十全に発揮されるのである。ドレスタットからの高速馬車なら一日で着いたかもしれないが、料金が高いという大欠点がある。結局、一日でやれるだけの事をやるしかないというのが結論だった。

 ――礼拝堂。
(「完全どころか、望む形で在ろうとする事すら、私達にはとても難しいようですが‥‥」)
 ブラン・アルドリアミ(eb1729)は偶像の前に跪き瞑目、祈りを捧げていた。
(「‥‥それでも新しい道を踏み出そうとする友人に、どうかご加護がありますように」)
 薄汚れ、忘れさられた偶像に捧げる、小さな祈り。それは友人の為のみならず、自分の為でもあったのかもしれない。せめて、この小さな世界だけは、夢がみれる場所であるように。
「お掃除っお掃除っ♪ らったらったら〜♪」
 少し離れた所から聴こえる陽気な(そしてごく偶に調子外れの)歌声はピリルだろう。素敵に陽気、拭き掃除絶好調でご機嫌この上ない。
 と。
「ブランさん。そこ拭いておいて下さいね♪」
 ひょい、と偶像の陰から華宵が顔を出し、少女に頼んだ。
「あ、すみませ――」
 慌てて立ち上がり、作業を始めようとしたが。
 ――ふらっ。
 軽い眩暈に、少女はぺた、とその場にしりもちをついた。
「大丈夫です?」
「――あれっ? ええ、平気です」
 驚いたような視線で見つめる青年に、少女は首を捻りながら答え、作業を始めた。

 ――住居棟。
 神木秋緒(ea9150)は各部屋を回り、しなければいけない作業を脳裏で数え上げて小さく溜息を一つ。
 まずは放置されていた家具類を一旦外に運び出し(これだけで相当の手間だ!)、各部屋を掃除しなければならない。
 一通り綺麗にした後で、外に出した家具の選別。使える物とそうでない物を仕分け、駄目な物はばらして燃料に。同様に放置されていたシーツや毛布の類も選別しなければならなかったが、一見して虫にやられていると判ったのでこれは焼却処分だ。
 更に雨漏りや隙間風のチェックなどを行い、壁や天井に異常がないか確認。然る後に家具類を運び込み、設置、足りない備品のリストアップ‥‥考えただけでも膨大な作業量だ。
「‥‥正直、途方に暮れないでもないですね‥‥」
 館内を回り、家具や備品の仕分け作業を行っていたレミナ・エスマール(ea4090)も流石に遠い目で一言。
「そうね」
 少女の呟きに苦笑いを一つ、秋緒は答えた。
「‥‥でも、これはアリアが見つけた道だから」
 袖をまくり、襷をギュッとかける。夢を見つけて、その為に頑張るのはとても素敵なこと。例え、それが辛苦の待ち受ける茨の道でも‥‥。だからこそ、何か手伝いたいのだ。
「夢の為に頑張る、か‥‥」
「? どうかしました?」
「ううん、何でもない」
 怪訝な顔で尋ねる少女に曖昧な笑みで返し、秋緒は家具に手をかけた。暫く頑張れば、ブラン辺りが手伝いに来てくれる。それまでにある程度の目処を付けておかなければならないだろう。

 ――歌声が聴こえる。
『この先にある森に美味しい物がたくさんありますよ〜♪ 早く行かないと仲間に全部食べられてしまいますよ〜♪』
 朗々と、明るい歌声はカノン・レイウイング(ea6284)から。勿論、これは只の歌では無い。魔力の込められた、いわゆる呪歌である。館内に多数潜んでいるであろう、害虫や鼠などを追い出すのが目的なのだ。
(「世の中の恵まれない子供達の為に、孤児院を作るということはとても良いことですわ」)
 そう、不幸な境遇の子供は大勢いる。だがこの御時世、新しく孤児院を作ろう等と考える篤志家が早々いるわけでもなく‥‥自動的に、恵まれない子供は増える一方である。
『ここに住んで食べ物を探すより〜♪ そこの森の方が美味しい食べ物もいっぱい☆ 住み心地は最高です〜♪』
 呪歌の響く範囲はそう広くない。はっきりと聞き取れる距離でなければ、満足な効果は得られないだろう。なので彼女は、歌いながら館内を隈なく練り歩いている。決して空気のいい環境では無いのでかなり喉が痛むが、充分に清潔な環境の為には已む無しである。
『さあ、家族みんなでお引越しをしましょう☆ ここは恐ろしい化け物が住み始めます〜♪ 二度と戻ってきてはなりませんよ〜♪』
 物陰からは、ちょろちょろと逃げ出すような足音が聞こえてくる。この分なら、念入りに館内を周回すれば一掃出来そうだ。
「あぁ、困りました。引越しなければならないのに、仕事が‥‥」
 ‥‥大変です。備品チェック中のレミナさん(14歳女性 職業クレリック)がその気になってしまった模様。この歌、聴こえたら抵抗できない限り問答無用の全対象なので当然ではあるが。
「あ、あなたは引越さなくてもいいんですよ!」
 慌てて取り繕うも、呪文だけに受けた効果が切れるまでどうしようもない。暫くの間、残念だ残念だとブツブツやっているレミナだったとか。
 因みに、歌が理解できない害虫には効果がまるでなかったらしく、害虫退治は今後の課題として残されたようである。

●ミッデルビュルフ
 一方、カールス・フィッシャー(eb2419)は教会内の掃除には参加せず、周辺地域の調査に動いていた。
 万が一、教会の周辺に魔物の巣等があった場合。それは冒険者にとっては些細なレベルであっても、孤児院にとっては致命的な破滅をもたらす凶報になり得るだろう。それ以外にも、周辺の地形などを調べておく事は今後の運営に大いに関わる、重要な事であった。
 本当は近隣の村や街に立ち寄って情報を入手しておきたかったのだが、時間の都合上断念し、青年は教会周辺に絞って隈なく調査をしている。まぁ、噂程度なら教会付近の住民(決して多い訳ではないが)に聞いてみるのが手っ取りいと思えたし、事実その通りだった。
「そうねぇ‥‥ここ暫く、そんな物騒な話は耳にしないかな」
 小さな酒場の主人から聞いた話では、確かにあの教会は使われなくなって久しいが、それは不便な立地と管理者がいなくなった(老齢で引退したらしい)からであって、取り立てて物騒な理由があったりもしないようだ。それはそれで目出度い事だが、少々肩透かしの感も拭えないカールスである。
「まぁ、エライ昔あの辺の地下に何とかって言う魔方陣があったとか無かったとか言う噂もあるけど‥‥誰も本気にしてない与太話だしねぇ」
「そうですか‥‥ご協力感謝します」
 礼を述べ、青年は周辺の地形を確認すべく、歩みを進めた。先刻の男の話によれば、魚の獲れる小さな川なら無いでもないらしい。ただ、話に聞いただけでは今ひとつ場所が判らず、土地感に自信がある訳でもないので辿り着けるかどうかは微妙なところだ。
 教会のすぐ傍の森なら、相応の収穫は見込めそうではあるが‥‥それも入念に調べてみない事には判然としないだろう。尤も、単身で森に突入したら迷子になる事必至なので、多くは見込めそうに無いのが残念極まりなかった。

 一旦掃除を抜けたピリル達はアリアを伴い、孤児院開院の挨拶回りをすべく、買出しがてら街中まで繰り出していた。
「あら、傷がありますね‥‥この分、安くなりますよね?」
「かー、お嬢ちゃんには敵わねえなぁ」
 レミナが店主と交渉している。値切りは商売の基本とばかり、あれやこれやと荒を見つけては値切りまくるその姿は頼もしいばかり。店主も流石に舌を巻いているようだ。
「すみません、荷物をドンキーへ乗せていただけませんか?」
 商店の軒先、ルナ・ローレライ(ea6832)が店員に積み込みを頼むついで、噂話を収集していた。
「ええ、その元教会です‥‥あの辺りには何かあったりしますか? 例えば、幽霊がでるとか」
「いやぁ、聞かないね。なにせ、あの辺に立ち寄る奴は殆どいないし‥‥よっと」
 荷物を積み込みながら、店員は答えた。人がいなければ、比例して噂も減っていく。特に街中では白の教会の存在もあり、寂れた元教会には人々の関心は向かないのかもしれなかった。
「そう言えば、この街で一番偉い人はどなたですか?」
 便乗してレミナが質問する。
「うーん。色々いるけどさ、司祭様の意見は領主様も無視できねえのは確かだなぁ」
 司祭とは、街の中心にある教会の司祭だろう。
「そうそう、今度この近くで孤児院開くんですよ♪ 大変だと思いますけど子供達の笑顔が一番ですからっ」
「ほぅ、そいつは偉いねぇ‥‥ホラ、こいつはオマケだ、持ってきな!」
「開くのはこの、アリアちゃんなんですよ。自慢の友達です♪」
 ピリルの満面の笑みにつられたように、商店の主人は果物を幾つか余分に包もうとしたが‥‥。
「ハーフさんなのに立派だと思いませんか? 思いますよねっ」
「‥‥」
 少女の一言に主人はピタ、と動きを止め、おぞましい物でも見るようにピリルの傍ら、礼服に身を包み、精一杯の微笑を浮かべる少女をねめつけた。
「代金を置いたら出てって貰えるか?」
「誰かの為に何かしようとする時に種族なんて関係無しですっ」
「心掛けは立派かもな」
「だったらっ」
「ウチも商売だ、金さえ出せば必要な物は売ってやろう。だがな、そんなのにウロウロされると他の客が逃げるんだよ」
 一瞬の内に不穏な空気が辺りを支配する。尚もピリルは抗議しようとしたが‥‥。
「‥‥売ってくれて、ありがとうございました」
 小さく頭を下げ、アリアは帰りましょ? と冒険者達に淡く笑んでみせた。
 帰り道、少女の肩が小さく震えているのに気付いた者もいたが、あえて声はかけなかった。

「や、やっと見つけましたよ‥‥」
 友人から伝え聞く風貌と名前だけを頼りに、街中から人一人探し出すのがどれほどの苦労を伴うか。それは華宵の想像以上だった。正直、見つかったのは百回に一回の僥倖と言っていい。単なる偶然の賜物である。
「‥‥誰だ、お前は」
 故あって、とある鍛冶屋に居候しているという、その男――草壁豹馬は、ぐったりと喜ぶ青年を見て怪訝な表情で一言、尋ねた。
「話せば長いですが‥‥」
 自己紹介すると、丁寧に事情を話す華宵だ。
「‥‥突然尋ねてきた、妙に水臭い男の話を信じるほど焼きが回った心算は無いが」
「いやぁ。久々の井戸掃除をして、そのまま来たものでして‥‥水は命の源ですから♪」
 華宵は悪びれずに笑うが、流石に笑顔に生気が無い。さもありなん、大量の苔に覆われた井戸を丸々掃除してからきたのだ。地元の風習で慣れてはいても、重労働に変わりは無い。だが意表を突いた井戸掃除の告白に毒気を抜かれたらしく、青年は仕方ないなと苦笑いを一つ。
「まぁ、言いたい事は判ったが‥‥容易く信じるわけにもいかん。お前が忍者なら、特にな。今日は帰れ」
「‥‥残念です」
 華宵の些細な身のこなしから看破されたらしい。一見、茫洋としているが、明らかに警戒されている。とりあえずこの場は大人しく引き下がるしかない華宵であった。

●宵闇に
「‥‥これで最後ね」
 最後のテーブルを運び込むと、秋緒は一息ついた。
 ブランと分担したお陰で、外に運び出した家具の分類は二倍の速度で終わった。尤も、それでもギリギリで、陽は既に地平線の彼方に落ち、その残滓が僅かに雲を染めている。程なく、一日が終わる。
「出来れば、馬小屋があるかどうか確認したかったのですが‥‥」
 残念そうにブランが呟く。そこまでの時間は流石になかった。明日の朝出る事を考えると、次の機会を待つしかないだろう。

 厨房に歌声が響く。
『さぁ歌え 音に併せて 手をとって 人と具材で この輪唱――』
 歌声はルナのものだ。本人曰く、
「料理は歌で覚えておくと、調理順を間違えませんし、楽しんでできますよ」
 と言う事らしい。真偽の程はともあれ、確かに歌いながら皆で料理を行うのは楽しいものだ。
 因みに、実際に料理を行っているのはアリアとレミナである。別段料理が得意な訳では無いが、この二人が一番上手だったのだ。

 ややあって。
 食卓に温かな食事が並び、冒険者達は報告会がてらの打ち上げに卓を囲んだ。
「この孤児院とアリアちゃんのこれからに‥‥乾杯♪」
 ピリルの音頭で、それぞれが語りだす。
「作業が残ってしまったのが申し訳ないですが‥‥」
「‥‥ある程度は私一人でも出来るから」
 ブランの詫びに、少女は淡く笑んだ。
「私からの餞です。良かったら貰ってくれませんか?」
 カールスが物資と共に、首飾りを渡した。
「返品は不可です」
 華宵も物資を渡すと、得意の微笑で宣言した。
「自分の家整理したら要らないのが一杯出てきて困ってたの〜」
 ピリルに至ってはまるで棒読みだったり。
「‥‥みんな、ありがとう」
 少女は素直に受け取り、嬉しそうに微笑んだ。

 こうして、不完全ながらも最初の準備は終わった。次に待つものが何か‥‥それは、冒険者のみぞ知る。