【解れ】大聖堂の真実
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■シリーズシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:8 G 68 C
参加人数:9人
サポート参加人数:5人
冒険期間:01月28日〜02月04日
リプレイ公開日:2009年02月20日
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●オープニング
――津島湊。
京都一円にある津島神社の総本社の津島天王社の門前町であり、木曽三川(きそさんせん=木曽川、揖斐川、長良川)の恵みを余す事なく利用し、水運貿易と漁業が盛んな尾張で最も栄えている河港町だ。
また、大坂の堺と独自の貿易路を結び、貿易が盛んな事もあって、ここ数年のうちに多くの異国人が移り住み、街並みは和洋折衷の様相を呈している。加えて、去年、那古野城下の街外れに尾張ジーザス会の大聖堂(=カテドラル)が建てられた事もあって、ジーザス教の信者も増えつつあった。
この津島湊に移り住んだ“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”の称号を持つジャイアントのファイター、“静かの”ミルコが偶然助けた一人の少女は、元藩主・平織虎長(ez0011)の妻・濃姫御用達の反物屋『彩音』への奉公を嫌がり、逃げてきたところだった。
同じく、津島湊へ移り住んだ外国人の騎士エレナ・タルウィスティグ(ez1067)と火のウィザードにして薬師(くすし)のフリーデ・ヴェスタ、そして冒険者達の協力で彩音の調査を進めるうちに、彩音へ奉公に行った少女達が誰一人帰ってきていないという事を突き止めた。
しかも、濃姫の縁で尾張ジーザス会へ反物を卸しており、女将も敬虔なジーザス教徒だという。
エレナ達は囮として奉公人の募集に応じて中から、フリーデとミルコ達は外で情報収集に当たり、帰ってこない奉公人の少女達に行方を探した。
その結果、先に奉公として入った少女の何人かは、蔵の中で魂を抜かれた瀕死の状態で見つかった。
そればかりか、冒険者の一人が女将へ聖水をぶちまけたところ、女将は夢魔(=サキュバス)というデビルに憑依されていた事が分かった。
『それ程度ではわたくしは倒せませんけど、悪い手ではありませんわね。ふふ、女将の身体は返して差し上げますわ』
「あなたは‥‥シュタリア!! 待ちなさい!!」
『ふふ、こんなところでまた会えるなんて、本当に縁がありますわね、わたくし達。あなたの大事な大事なお姉さんと共にお待ちしておりますわ‥‥わたくしを倒せたら、の話ですけど』
「く‥‥」
憑依を解かれ、女将の身体から姿を現した霧状の夢魔は、妙齢な女性の姿を取った。エレナは彼女に見覚えがあり、愛用の手斧を構えて吼えるが、シュタリアと呼ばれた夢魔はころころと嘲笑いながら霧散していった。
「‥‥知っているのか?」
「ええ。あいつはシュタリア、イギリスにいた時に再三戦ったサキュバスよ。あいつもジャパンに来てたんだ‥‥でも、どうやって‥‥あいつがカテドラルの関係者だとしたら、お姉ちゃんが危ないわ!!」
ミルコが聞くと、エレナはシュタリア達夢魔三姉妹との戦いを掻い摘んで話した。
長女シュタリア、次女スティア、三女ティリーナ、この夢魔の三姉妹は、強力なデビル魔法や月の精霊魔法を使う他、シュタリアはキスした相手を石化させるなど、多彩な特殊能力を有しており、下級デビルでありながら侮れない相手だ。
シュタリアは取り逃がしたものの、スティアとティリーナは封印に成功していた。しかし、その代償として、エレナは姉のイングリッド・タルウィスティグ(ez1068)をティリーナと一緒に封印せざるを得なかった。
尾張ジーザス会の大聖堂(=カテドラル)が、那古野城下の外れに完成した落成式の時、宣教師ソフィア・クライムがイングリッドと共に封印していたティリーナを倒し、姉を元に戻した。
――はずだった。
確かにイングリッドは生身に戻ったが、その後、宣教師としてエレナの元を離れて大聖堂へ勤めてしまった。
そして今回の事件が起こった。それだけではない。調べれば調べる程、尾張各地で少女達が何らかの形で行方不明になっている。
「‥‥サキュバスか‥‥女将が病で倒れた理由が、サキュバスに憑依されていたのとすれば、俺の薬で治る訳はないし、あのサキュバスと尾張ジーザス会が繋がっていれば、ジーザスの奇跡と称して治すのは簡単だ。彩音を根城に奉公人を募って魂を奪っていたと考えれば、辻褄が合うな」
フリーデが憎々しげに言う。彼女はコカトリスの瞳や各種毒消しといった秘薬をいくつも精製しており、自分の薬草の調合術に自信を持っている。治せない病や毒に対しては、自らを実験台にしてまで薬草の調合を行うが、自分が出汁にされたとあって、薬師として純粋に怒りを覚えていた。
「‥‥彩音から助け出した少女達も、サキュバスに魂を抜かれている限り、目覚める事はないし、下手をすればまた操られるだけだ。あの娘達を元に戻す為にも、サキュバスから魂を取り戻さないとな」
「‥‥やるのか?」
「ええ。あたしは別に敬虔なジーザス教徒じゃないし、お姉ちゃんを取り返さなきゃ」
「‥‥乗り掛かった船だ、俺も最後まで付き合うぜ」
「オレも‥‥と言いたいところだけど、生憎オレは攻撃魔法は得意ではないんでね。今度はオレが回復といったバックアップに回させてもらう」
フリーデの言葉に、ミルコがエレナに目配せすると、彼女は当然とばかりに頷いた。ミルコもフリーデも異論はなかったが、フリーデはデビルを相手には自分の魔法では心許ないと、自ら薬草や調合した薬による後方支援を買って出た。
彩音の一件は冒険者の一人の工作によって、津島湊の商工ギルドへ報告される事はなく、女将の体調不良で内々に処理された。実のところ、女将は夢魔に憑依されていた時の記憶はほぼ無かったし、女用心棒も夢魔に魅了されていたので、ある意味、この二人も被害者と言えるからだ。
濃姫は虎長と共に美濃藩の岐阜城へ居を移しており、尾張ジーザス会も代表が宣教師ソフィア・クライムから宣教師ルイス・フロイスへ代わり、宣教師ルイス・フロイスもまた岐阜城の城下町井之口へ移り住んでいる。
解体を免れた大聖堂であったが、尾張ジーザス会の機能そのものが岐阜へ移行した為、今、ここに住んでいるのは宣教師ソフィア・クライムと神聖騎士シュタリア・クリストファ、宣教師スティアと宣教師ティリーナ、そして宣教師イングリッドだけだ。
しかし、そのうち三人はデビルだとして、イングリッドの身体に憑依して待ち構えている可能性は高いだろう。少なくとも、生身の人間を傷付けずに、憑依しているデビルだけを攻撃できる手段は必要だ。
また、大聖堂は那古野城下の外れにあるとはいえ、昼間は礼拝に訪れる者も少なくない。夜はデビル達の領分だが、那古野城下の人々に迷惑を掛けずに大聖堂へ攻め入るには、夜しかない。
斯くして、大聖堂への襲撃は伏せられ、デビル退治と称した依頼が、京都の冒険者ギルドに張り出されたのだった。
●リプレイ本文
●全ての決着を付ける為に
「エレナに伝えてくれ、遂げろよ、と」
侍のアラン・ハリファックスは、かつてナイトのエレナ・タルウィスティグ(ez1067)と共に夢魔三姉妹と戦った。しかし、藤豊秀吉の家臣となった今、尾張藩に関連すると思しき施設へ夜襲を仕掛ける事は立場が許さない。彼は抜け忍の梅林寺愛(ea0927)へイシューリエルの槍と、以前見学に行った時の記憶を頼りに描いた大聖堂の見取図を渡し、エレナの成功を祈る事しかできなかった。
「ボクではソフィア・クライムさんを止められないと思います。お願いしますねー」
ハーフエルフのバード、カンタータ・ドレッドノートは、炎のウィザード、ミカエル・クライム(ea4675)へ反物屋『彩音』で起こった事の子細を告げ、宣教師ソフィア・クライムの事を彼女に任せた。
ミカエル達は京都の冒険者ギルドを立ち、エレナとジャイアントのファイター、“静かの”ミルコ、そしてエルフのウィザードにして薬師(くすし)のフリーデ・ヴェスタの待つ尾張藩は那古野城下へ向かった。
エレナ達は大聖堂(=カテドラル)に程近い大旅籠に宿を取っていた。
「大掛かりでそれで尚機能美と様式美を持つ建物って金持ちは好きなんよ。あそこまで大きくなくても造りたいってのはおるからね。せやから実物見るより、作り手から聞く方が役立つねん」
京都に店を構える万屋将門屋店主、将門雅(eb1645)は、那古野城下の商工ギルドを始め、建設に携わった職人や棟梁の元を回り、大聖堂の構造を聞いた。大聖堂は濃姫個人のポケットマネーで建てたものであり、職人も自分の技術はそれだけで一財産なので簡単に人に喋らない。
情報収集は困難を極めたが、そこは商人、卓越した話術やチップを弾み、何人かの職人から構造について聞き出す事が出来た。
「‥‥いくつか、意図が分からない場所があるようね」
不定期ながら礼拝に通っていたエレナの証言と、雅が仕入れてきた構造の情報が書き込まれた見取図を見ながら、ファイターのヘルヴォール・ルディア(ea0828)が言った。
大聖堂は那古野城より高いものの、その構造は塔に近く、内部の大半は吹き抜けだ。礼拝堂より上の階に部屋はなく、屋上まで吹き抜けで回廊で行く事が出来る。また、回廊の途中には空中の踊り場のような場所が何カ所かあるそうだ。
これは設計を担当した宣教師ソフィア・クライムの要望だという。
「宣教師自らが要望したくらいですから、何らかの儀式を行う場所、と考えた方がいいかもしれませんね」
ハーフエルフの神聖騎士マロース・フィリオネル(ec3138)が、この空中の踊り場を儀式を行う場所として捉えていた。
「以前から話題に上った大聖堂が悪魔の巣窟なんてね‥‥行方の知れない少女達はほんの一握り、なのかな? それとも全員、大聖堂に囚われているのかな?」
「彩音の場合ですと、蔵に囚われていましたからね。もし、大聖堂に囚われているとしたら、倉庫でしょうか?」
「雅が仕入れた情報と愛の観察から、その可能性は低いな。地下室を疑った方がいいが、外からは分からないからな」
忍者の草薙北斗(ea5414)の言葉に、浪人の槙原愛(ea6158)と風間悠姫(ea0437)が応える。梅林寺が遠目から大聖堂の様子を観察してきており、礼拝堂や宣教師の私室といった施設を除くと、倉庫になりうる空間はあまりなかった。
「デビルは魂を集めて戦争や混乱を煽る力に変えたり、更に魂を集める為の仕掛けでもしとるんかな?」
「下級のデビルは、集めた魂を中級や上級デビルへ、自分の成果として上納しているそうよ。ま、魂はデビルにとっての通貨や上納金みたいなものね」
ウィザードのシーン・オーサカ(ea3777)が疑問を漏らすと、デビルに詳しいミカエルが応えた。
「でも、デビルは大聖堂で一体何を? 尾張藩を利用してジャパンを戦の時代‥‥混沌の時代にしようとしたのか、虎長は実験で他の何かを復活させようと?」
「虎長の復活はその前段階で、大聖堂で少女達の魂を生贄に何かを生み出しているのでないかと思うのですよー」
「これだけ多くの娘達を攫ったり、魂を集めているんだ。地獄の魔王の復活や召喚の儀式の場として使われているのかも知れないな」
「濃姫様は愛故に虎長様を復活させた‥‥肉体と魂の一部を、上位デビルの依代? その未完分を少女らの魂で補完? 大聖堂や岐阜城に通じるものは‥‥黄泉と悪魔?」
(「ソフィア・クライムさん、どうして? デビルに従わざるを得ない状態なの? デビルは魂を奪って何をしようとしているの?更なる脅威の召喚? 自身達の強化? 世界の混沌?」)
槙原と梅林寺、悠姫と北斗の推測を聞くミカエルの胸中に、止めどなく疑問が溢れてくる。
「何れにせよ、親友として見逃す訳にはいかない。ケンブリッジの二の舞はもう嫌だもの」
「そうですね。彼女達の魂‥‥まだ間に合うのならば、真実と共に戴きましょう!」
ミカエルが顔を振って疑問を振り払うと、北斗が全員に発破を掛けた。
最後にシーンがバーニングマップの巻物を使って見取図から、エレナの姉イングリッド・タルウィスティグ(ez1068)の居場所を突き止めた。意外にも礼拝堂にいた。
「エレナはん、元気出してや! イングリッドはんは必ずウチらで助け出そうで!」
シーンがフォーノリッヂの巻物を使うと、そこには姉妹同士の対決が見えた。決して、このような未来にはさせてはいけない。彼女がそう決意すると、梅林寺も頷いた。
「‥‥それじゃ往こうか、これ以上悪魔の好き勝手にさせられないからね」
「それでは‥‥聖なる母の慈愛を讃えよ。主に仇なす悪し者から我を守り賜え」
ヘルヴォールが出発の音頭を採ると、マロースが一人一人にレジストデビルを付与してゆく。これからの戦いの切り札になる魔法だ。
●夢魔三姉妹
大聖堂の前まで来ると、ミカエルが自分とマロース、シーンと北斗へフレイムエリベイションを付与して回る。
「さぁて、神の家に殴り込みだ」
悠姫を始め、全員がエレナへ頷くと大聖堂の扉を開ける。大聖堂はジーザス教徒の宿泊施設も兼ねているので、基本的に解放されている。
丑三つ時という事もあり、中は静寂に包まれていた。
「‥‥デビルが4体います。それぞれ礼拝堂の方に‥‥あ! 今動き出しました」
「‥‥近いな‥‥!?」
マロースがデティクトアンデットでデビルの位置を探ると、悪魔達も動いた。ヘルヴォールが石の中の蝶で接近を確認すると同時に、影の中から青く長い髪のシュタリアが現れ、彼女の唇を奪っていた。ヘルヴォールはマグナソードを抜き放って振り払う。
「ふふ、キスは初めてかしら? ごちそうさま‥‥!?」
「おっと、石化キスは効きへんで? 昔のように簡単にはやられへん!」
ヘルヴォールは唇の感触を拭うように手で唇を擦る。その仕草にころころと笑うシュタリアだが、キスの効果が一向に現れず、表情を歪ませた。梅林寺が長弓「鳴弦の弓」の弦を奏で、シーンがウォーターボムを撃って返礼した。レジストデビルが効いている間は、シュタリアの十八番の石化キスも効かない。
「黄泉路への案内仕る‥‥さぁ、死合おうか‥‥」
「シュタリアお姉様!」
太刀「岩透」を構えた悠姫が一気に距離を詰める。そこへブラックフレイムが迸り、彼女を焼いた。
ローズピンクの縦ロールが特徴的なティリーナが、同じく影から現れていた。
「シュタリアさん、出てきましたね。あなたの相手は私達ですよ! 愛ちゃん達は先へ!」
ゴートソードを手にした槙原がシュタリアへ、ヘルヴォールがマグナソードでティリーナに斬り掛かって道を作ると、エレナと梅林寺、ミカエルとミルコは礼拝堂へ向かった。
マロースがニュートラルマジックでエボリューションを解除しようとするが、シュタリア達もレジストゴッドを付与しており、抵抗されてしまう。
悠姫達は回避に専念し、エボリューションの効果切れを狙うが、シュタリアはシャドゥボムを、ティリーナはブラックフレイムを使ってくる。ダメージの蓄積は馬鹿にならない。
悠姫はブラインドアタックとスマッシュEXで打って出るが、かすりもしない。槙原もブレイクアウトからスマッシュEXを繰り出すが、こちらも当たらない。
「二人とも大技はなしや! もっとコンパクトに当ててな! いくら痛くなくても邪魔は出来るで」
雅は疾走の術を使って鬱陶しいくらいに纏わり付き、飛び蹴りや鞘に入ったままの小柄を食らわせる。シュタリアの爪をかわすと、微塵隠れで背後へ回り、鞘から抜いて突き刺した。
「この一撃に全てを懸けます!」
「このわたくしが‥‥人間如きに敗れるとは‥‥スティア、ティリーナ、イングリッド‥‥不甲斐ない姉を許し‥‥て‥‥」
槙原と悠姫も今度は大技ではなく、コンパクトに斬りつけると、シュタリアは霧散していった。
「‥‥終わった‥‥か」
シーンがアイスミラーやムーンフィールドの巻物で魔法への備えを固め、ティリーナの矢面に立つと、北斗が大聖水で牽制し、マロースのホーリーの援護を受けながら、ヘルヴォールがマグナソードで斬りつけた。ティリーナがカオスフィールドを展開させると、シーンはウィンドスラッシュの巻物で、マロースはホーリーでそれを破壊し、間髪入れずヘルヴォールは小太刀「微塵」へ持ち替えて攻撃した。
「よくもシュタリアお姉様を!!」
そこで微塵を取り落としてしまう。その隙を逃さず、ティリーナが怒りに任せて爪で斬り掛かってくると、彼女は隠し持っていた鬼神ノ小柄を居合い抜き、斬り伏せた。
「‥‥これで終わりですね」
「‥‥うちもようやく借りが返せたで」
●宣教師ソフィア・クライム
礼拝堂の奥、聖域(=サンクチュアリ)にある祭壇の上に腰掛ける、イングリッドの姿があった。しかし、それは聖域を犯す行為である上、清楚な外見とは裏腹にその服装は露出が多く、瞳は爛々と妖しく紅く輝き、両手の爪が鋭く伸びている。
彼女の傍らには宣教師ソフィア・クライムの姿もあった。
「姉を助けたければ、私を倒しなさいな♪」
「お姉ちゃんを攻撃できる訳ないじゃない! 卑怯者!」
右手の爪を束ねて舐めながら妹を嘲笑うイングリッドは、スティアに憑依され、身体を乗っ取られていた。イシューリエルの槍を構えながら、エレナが涙目で悔しそうに吼える。
その時、疾走の術を使った北斗が、イングリッド目掛けて白の聖水を投げ付けた。
「グッド姉を‥‥返すのですよぉー!!」
一瞬の隙を逃さず、梅林寺は一気にイングリッドの懐へ飛び込むと、袖に仕込んだ大聖水をぶっ掛け、聖なる釘を祭壇に打ち付けた。
イングリッドが苦しみ出し、その身体から霧状の優雅にたゆたう金髪の女性が姿を現した。
「あたしのお姉ちゃんを返せー!!」
北斗と梅林寺が常に動き回りながら大聖水や白の聖水をスティアへ投擲し、エレナとミルコが斬りつけてゆく。
途中、何度かエレナが攻撃を受けるが、そのたびに梅林寺や北斗が微塵隠れを使って割って入った。
「醜い散り様こそお似合いなのですよー」
「(聞きたい事、言いたい事は沢山あるけれど)ソフィア・クライムさん‥‥いえ、ル・フェイさん‥‥一緒に来て。あたしは、誰も見捨てないし何も犠牲にしない、全てを投げ打たない覚悟を誓ったわ。どれだけ茨の道だろうと決して諦めない」
「ははは! ミカエル、そろそろ“親友ごっこ”は終わりにしようぞ。儂の野望は既に成就しておる。お前のお陰でな」
「!? どういう、事‥‥」
唇を噛み締めたミカエルは、真剣な表情で宣教師ソフィア・クライムと向かい合う。しかし、彼女はそんなミカエルを高らかに笑い飛ばした。
「このカテドラルは、魔王復活の為の魂の増幅場所(=エンハンサー)じゃ。お前が儂に協力してくれたからこそ、第六天魔王は復活した、礼を言おう」
悠姫やシーン、北斗達の予想はあながち間違いではなかった。
「ル・フェイさんと‥‥一緒にずっと笑って過ごせるように‥‥って決意したのに‥‥あたしを騙していたの!?」
「儂を誰だと思うておる? イギリスでは失敗したが、ジャパンでは濃姫というカモを得たからの。奴(きゃつ)め、虎長が本当に蘇ると信じおったからな。篠島で滝夜叉姫を見つけたはまことに僥倖であった。あそこまで体を破壊された人間は蘇らぬわ。いや姿形は元より、虎長の記憶も有しておるのだから、奴もさぞ満足じゃろうて」
「(嗚呼、違うよ。この人はあたしに第六天魔王の復活を止めてもらいたかったんだ。でもあたしは肝心な時に側にいなかったから‥‥)でもあたしは、今でもル・フェイさんの事を親友だと思ってる。だから、倒す!!」
ミカエルは騙された悔しさより、止められなかった悲しさがこみ上げてきた。また、この人を倒さなければならないからだ。
それでもマグナブローを唱える。対する宣教師ソフィア・クライムはブラックフレイムを放った。
夢魔三姉妹を倒したヘルヴォール達も駆け付け、全てが終わった時、立っていたのは‥‥傷だらけのミカエルだった。
宣教師ソフィア・クライムの身体は崩れ、霧散していった。
マロースが再度デティクトアンデットを唱えたが、デビルを感知する事はなかった。
「は‥‥ここは? そうですわ、わたくし‥‥」
「お姉ちゃん!! いいのよ、もう全て終わったから」
悠姫が、ヘルヴォールが、シーンが、北斗が、槙原が、雅が、マロースが見守る中、妹の膝枕で安らかな寝息を立てていた眠り姫が目覚めた。エレナは一年ぶりにイングリッドを抱き締めた。
「一緒に暮らしたいのですよ、エレ姉やグッド姉と一緒に‥‥」
「三人で暮らしましょう」
梅林寺の言葉にエレナとイングリッドは満面の笑みで応える。彼女は万感の想いと共に幼き頃より夢見た日々を遂に得たのだ。
●カテドラル
祭壇の下に地下室へ通じる隠し階段があり、そこには魔王復活の生贄にされたであろう数百名の少女が眠っていた。いずれも尾張各地で行方不明になっていた少女達は、不死の眠りについている。
悠姫達は急ぎ那古野城へ向かうと事の真相を告げ、大聖堂を封鎖してもらう。同時に雅がフライングブルームで平織市(ez0210)の元へ飛んだ。お市の方も篠島から生還していた。
「お市はん、どう動く? この事を公にするんは尾張にとってええ事ちゃうけど?」
「虎長に化け、天下布武を影で操っていた第六天魔王は、私も許す事は出来ません」
即断だった。平織市は冒険者を信じた。
「ではうちは物の流れを司る商人として、その情報を流れるように動くわ。将門は将軍と同じ将の字があるんやし味方やで」
彼女の応えは、雅の期待通りだった。笑顔で協力を約束した。
平織市は前当主虎長が悪魔であると告発し、尾張は事実上の分裂。
尾張平織家は岐阜城を拠点とする第六天魔王虎長との戦いへと突入していくのだった。