【仇討ち指南】剣も握った事のない少年
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■シリーズシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月11日〜09月18日
リプレイ公開日:2004年09月17日
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●オープニング
『ゴブリンが襲ってきたらしい。お前はここに隠れているんだ、いいな!』
それが父親から聞いた最後の台詞だった。
それが母親の姿を見た最後の瞬間だった。
彼が父親に言われて納屋に隠れ、どれ程の時が経っただろうか‥‥。
少年が何度から外へ出ると。
炎――。
焔――。
煙――。
村中が炎と煙に包まれていた。
彼以外動く者は、無い。
火――。
緋――。
非――。
火をかいくぐり、緋色に染まった我が家の中に入った少年が見たものは‥‥。
変わり果てた2人の姿。
「親父‥‥お袋‥‥」
同じ年代の友達は未だに「パパ」「ママ」と呼んでいるが、彼は何故か照れ臭くなり、今年から急にそう呼ぶようになっていた。
焼けただれ、外見からはどちらが父でどちらが母か分からない。
辛うじて背格好で分かる程度だ。
涙は出ない。
悲しいのに涙が出ない――。
20戸程の小さな村だった。
農業を営む小さな村だった。
他の家を回ったが、皆、同じだった。
さっきまで話をしていた隣のおばさん。
いつも怒られていた向こうのおじさん。
あんなに親しくしていたのに、焼け焦げたその姿から誰が誰なのか分からなかった。
涙は出ない。
悲しいのに涙は出ない――。
彼はふと思い出した。
姉の事を。
確か外に出ているので、母が呼びに行ったはずだ。
「リア姉! リア姉ー!!」
彼の呼ぶ声に、しかし、応える者はいなかった。
まだ火の手が上がる家を一軒一軒入り、姉の姿を確かめる。
しかし、分からなかった。
姉なのか、誰なのか。
涙は出ない。
悲しいのに涙は出ない――認めたくないのかもしれない。
ゴブリンの襲撃によって、彼――ゲイル――の住んでいた村が全焼し、全滅した事を。
「あの村の近くに棲んでいるゴブリンの情報が欲しいんだけど」
その日、あなたが冒険者ギルドで壁に貼られた依頼書を見ていると、一人の少年が入ってくるなり、受付係にそう告げた。
歳は10歳前後、12歳くらいだろうか? 短い髪を立たせ(寝癖?)、袖のない服にスボンという姿の、まだわんぱくさが抜け切っていない少年だった。
背には真新しいショートソードを背負っているが、彼の身長からするとノーマルソードのように大きく見える。
「その村って、一週間くらい前に全滅した村だろ?」
「おれがその生き残りだよ。ゴブリンに全滅させられたんだ‥‥だからゴブリンの情報を聞いてるんだ。お金ならあるよ!」
その村が全滅した情報は、隣村の者が見に行って分かり、ギルドにも届いていた。
建物は全焼し、村人は全滅。農作物などは根こそぎ奪われていたという有様だった。
受付係も生き残りがいるという情報は得ておらず、ひどく驚いた。
少年は親の仕事などを手伝って、こつこつと貯めたお金をカウンターの上に置いて見せた。
しかし、受付係は首を横に振った。
「確かにあの村の近くにゴブリンは棲んでいるが‥‥そのゴブリンが村を襲ったとは限らないだろう? 手口から見るとゴブリンとは‥‥それとも、近くにいるゴブリンを粗方全滅させるつもりか?」
「そうだ! 倒していけばいつかはおれの村を襲ったヤツらを倒せるはずだろ!」
「残念だが、教えられん。ギルドでは情報や仕事を斡旋しているが、それは冒険者の安全を確保する為や、成功する見込みがある者に対してだ。未来のある奴に死期を近付けさせるような斡旋はしていない」
受付係はわめく少年を一喝するように告げた。
少年の身なりを見れば分かる。ショートソードもまともに扱った事のない少年に、ゴブリンが倒せるはずがない。全滅した村人の後を追わせるだけだと分かり切っていた。
「近くに棲んでいるのなら、後は自分で探すよ!」
しかし、少年の仇討ちの気持ちを変えさせる事はできなかった。
受付係はばつが悪そうに頭を掻いた後、あなたの方を向いた。
「誰か、このボウズの仇討ちに付き合ってやってくれないか?」
「ボウズじゃない、ゲイルっていう親父に付けてもらった名前があるんだ!」
●リプレイ本文
●技量の差以前の問題
「故郷に居られなくなった者、か‥‥それにしても酷いものだ」
「ああ‥‥だが、よくないでござるな‥‥仇は見誤らないようにしなくてはな‥‥」
ギルドの受付係の呼び掛けに、丁度、冒険者ギルドに居たツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)や天城月夜(ea0321)達が名乗りを上げた。
ツウィクセルはゲイルと受付係のやり取りの一部始終を聞いていたから、彼を放っておいたらゴブリンの巣穴に1人でも突っ込むだろうと容易に想像できた。
一方、ゲイルと向き合った月夜は、かつての自分を見ているかのようだった。ゲイルの瞳は黒い憎悪の炎に濁り、仇討ちだけの為に突き動かされている――荒れているというか、焦れてるというか、周りばかりでなく自分すら見えていない、そんな感じだ。
「その程度の腕前じゃ、仇討ちどころかゴブリン1匹倒せないね。という訳で、今日からほ〜ちゃん事俺が師匠だよ〜。あ、これ強制ね」
「な、何で戦いもしないで分かるんだよ! やってみなけりゃ分からないだろう!? それに、おれはおまえ達を頼んだ覚えは‥‥は、放せよ!!」
ほ〜ちゃんと名乗る無天焔威(ea0073)の自分の実力を見透かした言い種に、ゲイルは納得がいかない様子だったが、彼は首根っこを掴むとギルドの外へ連れ出した。
「俺から1本でも取れたら、一切干渉しないよ」
焔威が日本刀と小太刀を抜くと、ゲイルもショートソードを持って走り込んできた。
ゲイルは剣をただ力に任せて振り回すだけの素人の剣で、間合いも刃の位置も踏み込みも無茶苦茶だったが、アーサー王ごっこや狩りの真似事で鍛えたのだろう。焔威から10回に1回は1本を取れるかもしれない実力は秘めていた。
だが、彼がこれから立ち向かうのは、容赦なく命を奪うモンスターだ。10回に1回起こるかどうかのまぐれで倒せる程、甘い相手ではない。
焔威は上半身の動きだけで全てかわすと、峰打ちでショートソードを叩き落とし、同時に小太刀をゲイルの首に突き付けた。
「少々、やり過ぎではないか?」
「あの位の歳の男の子はどんなに筋を通したところで、理屈は利かないのですよ。納得がいかない事には反抗したがるものですからね」
口出しをするつもりのないゼファー・ハノーヴァー(ea0664)も、峰打ちの激痛に呻くゲイルの姿を見ると流石に気になったが、イレイズ・アーレイノース(ea5934)が人生の先輩として彼女を微笑みながら制した。
「押さえ付けてばかりでは、却って反発するか。かといって今のように感情に任せて突っ込んでいくのを見過ごす訳にもいかんしな‥‥多感な年頃の男の子は難儀なものだな」
「そういうものです。あなたも母親になれば分かりますよ」
そうごちるゼファーに、イレイズは微笑みを絶やさず答えた。
「今の君の身体は1撃当たっただけでも重傷、相手が人外なら尚更‥‥分かるね。嫌ならこのまま四肢を叩き折ってでも、仇討ちはさせないからそのつもりで」
「ゲイル君、もし毎日、ほ〜ちゃんの訓練に付いていけないようなら、自分で仇を討つのは諦めなさい。その程度の覚悟なら、今のようなにあんたは確実に返り討ちよ」
「まぁ、復讐などというのは、例えそれが死者が望んでいたものであったとしても、死者の為のものではなく、残された生者の為のものだからな」
「‥‥分かったよ‥‥ほ〜ちゃん‥‥師匠‥‥」
焔威が刀を鞘に収めると、ゲイルは激痛の走る右腕を押さえながら頷いた。青龍華(ea3665)は右腕を手当てしながら覚悟を促し、ゼファーがあくまで手助けするだけという、自分達の立ち位置を改めて示した。
決定的な実力差と実力不足を思い知らされたゲイルは、焔威との約束通り、彼に弟子入りした。突っ張ってはいるが、元々は素直な子のようだ。
●ゴブリンの仕業なのか?
焔威とツウィクセルにゲイルを任せると、ロット・グレナム(ea0923)達はギルドに戻った。
「今回の相手が、ゲイルの村を襲った奴とはあまり思えないけど‥‥どの道、ゴブリンやオークの巣穴を放置する訳にはいかないか」
「ゲイル君の父親は『ゴブリンが村を襲った』と言ったそうですが、手口からしてゴブリン達が仇という可能性は低いと思います」
ロットは仇討ちにはあまり賛成していないが、生き残ったゲイルを死に急がせたくないのと、村を壊滅させたものを放置できないという理由から依頼を受けた。
クリフ・バーンスレイ(ea0418)もロットと同様に、ゴブリンといったモンスターの仕業とは考えにくいと踏んでいた。
「小鬼にしては些か‥‥焼き打ちなど、どちらかというと‥‥野盗のやり方に近い‥‥憎い野盗の‥‥」
「野盗‥‥言われてみれば確かにそうね。ゴブリンが火を使うなんてあまり聞かないし」
「襲撃されて火事になったのと、最初から火を放たれたのでは、全く違いますからね」
月夜は忌まわしき記憶――野盗に襲われて親と妹の1人を目の前で失い、もう1人の妹と離れ離れになった――を思い出し、声を絞り出した。野盗の仕業と考えれば龍華も納得がいったし、クリフもゴブリン達が火を意識的に使う事に首を傾げていた。
「ただ、ゲイルの父親や村人が嘘を付いていたとも思えないのです」
「ゴブリンとホブゴブリンを見間違える事はあっても、ゴブリン自体を見間違える事はないよな」
イレイズは実際に村が襲われ、ゲイルもそれを目の当たりにしている以上、父親が隠すとは考えにくかった。それにロットも情報が錯綜するとはいえ、ゴブリンの目撃談が間違っているとは思えなかった。
ゴブリンはゲイル位の歳の子供達でも知っているメジャーなモンスターだからだ。
「ゲイル君の村と同じように、壊滅した村の情報ってあるのかしら?」
龍華が一度話を区切って受付係に聞くと、空かさずイレイズがゴールドを握らせた。
受付係の話では、ゲイルの村の近辺でゴブリンやコボルドの群れが幾つか確認されていたが、モンスターが村を襲撃し、全滅させる事は珍しくないので、依頼がなければ調査しない。
だが、ゲイルの村のように徹底的に壊滅させるケースも多くはなく、しかも数カ月に1回の割合で起こっているという情報が入っていた。
「今回は時間的に無理かもしれないが、足跡等の痕跡が残っている早い内に、ゲイル殿の村の調査を行うべきだな。襲撃者の正確な規模や種族が少しは分かるかもしれない」
ゼファーの意見にクリフも頷きながら、帰ってきたら酒場で聞き込んでみようと思った。
「後、ゴブリン退治の噂を聞いて、妙な反応や、依頼に興味を持って詳細を聞きに来た者をできるだけチェックして、後で教えてもらえませんか?」
イレイズが先程渡したゴールドには、この情報料も含まれていた。
●少年がなりたかったもの
ツウィクセル達はその日の内に出発した。
初めての冒険となるゲイルが何の準備もしていないのは仕方ないが、クリフも保存食を忘れていた。
自分や月夜、ゼファーとイレイズが狩りをして賄うが、せいぜい2日分で、結局、分けてもらう事となった。
ゲイルも焔威に言われて文句を言わずに、狩りや焚き火用の薪拾い、龍華の食事の用意を手伝った。
夜は遅くまでその焔威に訓練を付けてもらい、基本をみっちり叩き込まれた。ゲイルは何度叩きのめされても愚痴一つこぼさず、果敢に師匠と手合わせをした。
「‥‥美味しいよ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。やっとイギリス風の味付けと、ある程度の料理のレパートリーを覚えたの」
その甲斐あってか、龍華の料理を讃めるなど、少しずつではあったが口数も増えた。もっとも、龍華の料理の腕前は店を開ける程素晴らしいのだが。
イレイズが道中のゲイルの目付け役を自ら買って出たが、彼は龍華や月夜、ゼファーの近くにいる事が多かった。突っ張っていてもまだ12歳の少年だ。本能的に母性を求めているのかもしれない、と慮ると、彼は少年が暴走しないよう後ろから見守る、父親役に徹する事にした。
「ゲイルはどこに住んでいるんだ?」
「‥‥その気になればどこでも住めるよ」
「それでは冬は越せないだろう。よければ俺が泊まっている宿屋の部屋に泊まるか?」
夕食後、焚き火を囲みながら、ツウィクセルはゲイルに気になっていた事を聞いた。彼は悪戯をして家から締め出される事が多く、野宿には慣れているという。ツウィクセルはゲイルが目的を果たすまで、自分の所に来ないかと誘った。
「お主は何かなりたいものはござらんのか?」
「‥‥笑われるかもしれないけど、親父のように農業をやりたいんだ」
「立派に父上の後を継げるよう、1人で生きていける力を付けぬとな」
ゲイルは父に憧れて後を継ぎたいと、月夜にの質問に答えた。アーサー王に憧れて冒険者になる少年が多いから、よく笑われたのだろう。しかし、彼女は笑いはせず、その思いを真剣に受け止めた。
「重要なのは事実です。遺体が判別できないという事は、あなたのお姉さんは生きているかも知れません。真実を見極める事は重要なのです」
ゲイルは1人で村人全員を弔ったという。その話を聞いたイレイズは、彼の姉リアが生きている可能性を示唆したのだった。
「俺は死んだ家族が復讐を望まないなんていわない。でも親はゲイルに生きる事を望んだ‥‥分かるね?」
「‥‥ロットにも龍華にもゼファーにも、同じ事をいわれたよ」
『お前がどうしてもやりたいっていうんなら、仇討ちは止めない。でも、生き残ったお前が一番にすべきなのは仇討ちじゃない、生きる事だ。それだけは忘れるなよ』
訓練の後、まだ息が上がっているゲイルに焔威がそう告げた。ロット達も同じ事を心配していた。
「だからやる事は1つ、復讐と生きる事〜」
焔威は愉快に笑った後、訓練をやり遂げたご褒美にゲイルに鉢金をプレゼントしたのだった。
「訓練なら仕事が終わってからも付き合うし、ゲイルは飲み込みも早いから、何なら二天一流でも覚える? だから‥‥明日は生き残るよ?」
焔威のいう通り、ゲイルは飲み込みが早かった。だから流派の型を教えようという気になったのだ。ゲイルは頷いたが、それは二天一流を覚えるのか、それとも生き残る方に頷いたのかは分からなかった。もしかしたら両方かもしれなかった。
●初陣
ツウィクセルがゴブリンの巣穴の場所を偵察してくると、ゼファーの指示の下、その途中の草原にイレイズとクリフ、ゲイルがスコップを片手に膝上までの深さの落とし穴を何個も掘り、月夜は草を輪状に結んだスネアを作った。またゼファーはそれらのカムフラージュも担当した。
ロット達が罠を設置した場所の近くの草むらに身を潜めると、ツウィクセルと龍華がゴブリンの巣穴へ行き、射程ギリギリからショートボウとオーラショットを見張りに立っていたゴブリンの側に放った。
ゴブリン達はツウィクセル達の姿を認めると、巣穴の中に声を掛けた。するとホブゴブリンやオークが現れ、彼らを指差すと手に持った得物を振りかざして追い掛けてきた。
「‥‥あっさり出てきたわね」
「俺達、ゴブリン達を怒らせるような事をしたのか?」
万一の接近戦に備えて月夜も囮に同行していたが、彼女の出番がない程に上手くおびき寄せが、上手く行き過ぎている感が否めない2人だった。
月夜達3人は罠をかわして走り去ると、その後に続いたゴブリン達は面白いように次々と罠に掛かった。
イレイズがデスを唱えて先制攻撃を仕掛けるが、先頭のゴブリンの精神力を削ぐに留まった。意外と精神力はあるようだ。
「雷鳴を聞いた時は既に手遅れ‥‥雷の恐ろしさ、その身で味わえ!」
ロットはライトニングサンダーボルトを、クリフはウインドスラッシュをそれぞれ放ち、草むらから出た焔威と、方向転換をした月夜と龍華の援護をした。
「ここまででござる」
ツウィクセルが浮き足立つゴブリン達に矢を射り、月夜が日本刀からポイントアタックをホブゴブリンに繰り出し、焔威がダブルアタックで斬り伏せてゆく。
「奥義を受けなさい! 龍飛翔ーーーーー!!」
龍華がリーダー格のオークに龍飛翔を放って止めを刺すと、着地と同時に突き出した腕を引き戻し、
「‥‥成敗!」
翻る華国服をバックに締めの一言を決めた。
気が付けばゴブリンは1匹になっていた。逃げ出す途中で視界にゲイルの姿を捉えた。子供なら倒せると思ったのだろう。
ゴブリンはゲイルに向かってきた。
「うわああああ!」
ゲイルは悲鳴にも似た声を上げながら、ショートソードを抜き放ち、ゴブリンに向かっていった。イレイズがブラックホーリーを放ち、ゼファーがダガーを投げ付けてゴブリンの勢いを削ぐと、少年は師匠に習った通りの体運びで斬り付けた。無我夢中で斬り付けた。
――気が付けばゴブリンは倒れていた。
「頑張ったな」
肩で息をしながら呆然と立ち尽くす少年の震える手に、ゼファーは自分の手を重ね、一言と告げた。
●戦利品
ゴブリンやホブゴブリン、オークが持っていたハンドアックスやハンマー、ソフトレザーアーマーは人を襲って手に入れたものだろう。焔威やツウィクセル、ロットとゼファーが手分けして回収した。
その間にクリフとイレイズ、月夜と龍華はゲイルを伴って巣穴へ向かった。クリフは念の為、ブレスセンサーを使うが息遣いは感じられなかった。
巣穴の中にはナックルなど、やはり人から奪った物はあったが、ゲイルの村から奪ったような物品は見当たらず、せいぜい牛等の食べかすくらいだった。
「ここの豚鬼達も何かしら関係していたようでござるが‥‥」
「ちょっと来て下さい」
だが、ゴブリン達が家畜を奪う為だけに全滅させたとは思えず、月夜が首を傾げていると、外にいたイレイズが呼んだ。
イレイズがいる場所には、腐乱したホブゴブリンの死体が2体程転がっていた。もちろん、イレイズ達が倒したものではない。彼が見た限り、死後数週間は経っていた。
「ゴブリンは割と同胞意識が強いそうです。月夜さん達に向かってきたのは、意外と仇討ちだったのかも知れませんね」
クリフが意外な事を告げた。
戦利品は出費が多かったツウィクセルと焔威、イレイズに多く割り当てられた。
武器は保存食を建て替えてもらったクリフと、ナックルを所望した龍華以外で分け、防具全員で分けた。
だが、肝腎のゲイルの村から奪われた物品は見つからなかった。
そしてホブゴブリンの遺体の意味するものは――。
ゲイルの仇討ちはまだ始まったばかりである。