【仇討ち指南】ゴブリンの威を借る‥‥
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■シリーズシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月22日〜10月02日
リプレイ公開日:2004年09月30日
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●オープニング
冒険者達が駆けてきた。
その後にゴブリンが、ホブゴブリンが、オークが駆けてきた。
ハンドアックスを振りかざし、ハンマーを振り回し、駆けてきた。
分からない言葉で奇声をあげながら駆けてきた。
少年は草むらからその様子を伺っているだけだった。
手にはショートソードを持ち、額には師匠からもらったメタルバンドを付けていた。
「‥‥大丈夫だ。おれは師匠に訓練してもらったんだから」
少年は自分に言い聞かせるように言う。
毎日痛い思いをしたが、師匠は『飲み込みが早い』と誉めてくれた。
「‥‥大丈夫だ。親父の、お袋の、そして村の皆の仇を討つ為にも」
もう一度、自分に言い聞かせる。
ゴブリン達を倒したら、流派の型を教わろうと思っていた。
「‥‥大丈夫だ。ヤツらを倒して、リア姉の行方を探すんだ」
もう一度、自分に言い聞かせる。
神聖騎士様は、姉が生きているかもしれないと言ってくれた。
――しかし、手の震えは収まらない。
――呼吸は荒くなるばかり。
ゴブリン達が冒険者の仕掛けた落とし穴に落ち、スネアに足を取られる。
途端に飛び交う矢。雷撃。鎌鼬。
振るわれる日本刀、日本刀、拳。
聞こえてくる怒声、悲鳴、雄叫び、断末魔。
これが戦い――。
これが闘い――。
これがたたかい――。
コレガタタカイ――。
少年は肩で息をするほど、息が上がっていた。
構えていたはずのショートソードは地面に刺さっていた。
やけに重く感じる。
これが戦い――。
これが闘い――。
これがたたかい――。
コレガタタカイ――。
不意に、生き残ったゴブリンと目が合った。
途端に、ゴブリンは少年目掛けて駆けてきた。
身体が重い。
自分のものでないくらい重い。
手は動くのか? 足は動くのか?
分からない――。
判らない――。
解らない――。
わからない――。
ワカラナイ――。
「うわああああ!!」
頭の中が真っ白になった少年もまた、言葉にならない言葉を発していた。
ショートソードを振るう、振るう、振るう。斬る、斬る、斬る。
「はぁはぁはぁはぁ」
気が付けば、ゴブリンは自分の眼下に倒れていた。
手にはべっとり返り血が付いていた。
どうやって倒したのか、全く覚えていない。
実感はない。
実感はないが、ゴブリンを倒した事は間違いなかった。
これが少年――ゲイル――の初陣にして初勝利だった。
ゴブリンの巣穴には、ゲイルの村を襲った事を裏付ける有力な証拠はなかった。
代わりに奇妙なものを見付けた。死後数週間経っている、ホブゴブリンの死体だった。
それは自然死ではなく、明らかに殺されたものだった。
割と同胞意識が強く、同族に親切なゴブリン達は、戦いで不利になると仲間を見捨てる事はあっても、殺める事はあまりない。
これが何を意味するのかは分からないが‥‥。
ゴブリン退治を終えたゲイル達は冒険者ギルドへ戻り、顛末を報告した。
ゲイルはその直後、全滅した自分の村の近くのゴブリンの巣穴の場所を聞いていた。『倒していけば、いつかは自分の村を襲ったゴブリンを倒せるはず』というのか、彼の考えだった。
ギルドの受付係は苦笑しながら、ゲイルの村の隣村の更に隣の農村で警備の依頼があった事を告げた。
その農村はゲイルの村同様、柵すらほとんど無い10戸〜ほどの小さな村で、先日、ゴブリンの襲撃があったのだという。
併せてゲイルの村の隣村の村人が、ゲイルと同じようにゴブリンの巣穴の場所の情報を聞いていった事を教えた。これは前に、冒険者が頼んでおいたものだった。
ゲイルの村が全滅したのだから聞きに来る事自体はおかしくないが、村人という点が引っ掛かっていると受付係は付け加えた。
また、冒険者の酒場では奇妙な情報を得た。
ゲイルの村以外でもゴブリン達の襲撃を受けて壊滅した村があるのだが、家財道具がなくなっているというのだ。
火事場泥棒はどこにでも居るし、もちろん、ゴブリン達が盗んでいった可能性もあるのだが‥‥。
●リプレイ本文
●調べられる事と調べられない事
ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)は腕を組み、冒険者ギルドの受付カウンター近くの壁にもたれ掛かった。
「火事場泥棒か‥‥キャメロットといった大きな街なら大抵はいるが、ゲイルの村のような小さな農村に、そうタイミングよく現れるとは考えづらいな」
「しかも鎮火する前に家財道具を運ぶとなると、それなりの人手が必要ですよね。いよいよきな臭くなってきましたね」
ゼファーは隠密行動の観点から、不可解な点を挙げた。クリフ・バーンスレイ(ea0418)がそれにゴブリン達の習性を付け加えた。ゴブリンが盗んでいった可能性もあるが、食い意地の張っている彼らが盗むのは先ず食料、次いで武器や防具といった自分達の身を守る物、その後に宝石類だろう。
「軽い引っ掛かりと可能性、か‥‥(ゲイルは強い子だ。一連の犯人が分かった方がいいだろうが‥‥こういう時って悪い予感の方が当たるんだろうな)」
「‥‥本当にギルドにやってきたのは隣村の村人か?」
ツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)はギルドの扉へ――正確には外でほ〜ちゃんこと無天焔威(ea0073)と出発の準備をしているであろうゲイルへ――目を向けた。未だにゴブリンの仕業だと思っているのはゲイルだけだった。
天城月夜(ea0321)が彼の言葉を受けて、軽い引っ掛かりを感じた当人であるギルドの受付係に問いただすと、すかさず横からイレイズ・アーレイノース(ea5934)が金貨を握らせた。情報もギルドにとっては立派な商談であり、依頼に関する情報もただで教えてもらえるとは限らない。普通は依頼主が斡旋料としてその分の金額をギルドに収めるのだが、今回の依頼主はそういう事を知らないゲイルだ。だからイレイズが代わりに情報を買っているのである。
引っ掛かりを感じたというのは受付係の主観だ。ただ、受付係は多くの人を見てきているので人を見る目は肥えており、確かに身なりは農民風で、「隣村の村人だ」と名乗っても、雰囲気的ににわかには信じられなかったという。
「私達騎士と違い、庶民には身分を保証するものがありませんからね」
加えてイレイズが言うように、騎士には貴族としての家紋などがあるが、庶民にはそれがないので、ギルドに被害が及ばなければ、(余程怪しくない限り)正体を調べたりはしない。
「では、景気がよくなった村はありますか?」
イレイズのこの質問の答えは、「この近辺の村ではそういう事はない」だった。少なくとも村が絡んでいるような事はないようだ。
「最後に、人身売買の噂のある店を調査して欲しいのですが‥‥」
この依頼については、噂は教えられるが、調べるのはギルドの仕事ではなく、イレイズ達本人だと告げられた。
人身売買はアンダーグランドな闇の組織が関わっている場合が多く、最近では貴族が絡んでいるという噂もあった。
●剣を握る意味を知る時
ギルドで情報を仕入れた後、依頼を受けた村に行く途中でゲイルの村に寄るツウィクセルと月夜とイレイズ、そのまま村へ向かうロット・グレナム(ea0923)と青龍華(ea3665)達の二手に分かれた。
「ほ〜ちゃんの二天一流を修得するんだろ? だったらこいつを使ってやってくれ。冒険者になってすぐの頃に買ったんだけど、俺が持っていても使う機会がなくてな」
「‥‥そんな大切な物を、もらっていいのか?」
途中、ロットがゲイルにダガーを渡した。ゲイルも最初会った頃に比べれば、だいぶ口数も増えてきていた。とはいえ、彼から話し掛けてくる事はあまりないのだが。
「そんな大層なものじゃないし、そいつもどうせならちゃんと使える奴に使って欲しいだろうしな」
「この先、自分の身は自分で守らないといけない時もあるでしょう‥‥死んだら全て終わりですから。死なないように、これだけは絶対に忘れないで下さい」
「わ〜、馬子にも衣装だよね〜」
ロットからもらったダガーと、クリフからもらったソフトレザーアーマーを早速装備したゲイルを冷やかしながら、焔威はナイフを渡していた。ゲイルの体力だとこの装備でショートソードを振るうのはきついからだ。
道中の料理は専ら龍華の仕事だ。冒険中、ずっと食べるものだから飽きの来ない味――悪く言えば素朴な味――の保存食が、彼女の手に掛かれば貴族の晩餐会の料理に匹敵する美味に変わるのだ。
「味付けも大事だけど、火力も大切よ。調理によって弱い火、強い火と使いこなすの。後は根気。手抜きしちゃったら、それが味にも影響しちゃうからね」
ゲイルは引き続き、龍華の調理を手伝っていた。彼は一度教えた事は忘れず、次の手伝いの時に活かすので、龍華も教え甲斐があった。
「ゲイル君にこの先、ちゃんとやりたい事があって安心したわ。復讐だけしか考えてなかったら、終わった時に虚しくなるだけだからね」
「‥‥今は親父やお袋、村のみんなの仇を取る事で頭が一杯だから分からないけど‥‥親父の畑で農業をやりたい気持ちは変わらないけど、料理もいいなって思ってきてる」
「分からなくていいんだ。まだ、12歳のお前が今から先の事、決めてどうするんだ?」
龍華の質問にゲイルがまとまりのない答えを告げると、ロットが「ゆっくり考えていけばいい」と助言した。
「あなたがこの先、どういう道を選ぶかは自由ですが、せめて最低限の事は学んでおくべきですよ」
夕食が終わると、クリフがゲイルにモンスターの基礎知識を教えた。クリフ本人はイギリス語が不自由なく読み書きできるよう教えたかったが、農村で読み書きができるのは長老くらいというのが当たり前で、ゲイルもイギリス語にはあまり興味を示さなかった。
「じゃあ、今から命の奪い方を教える。仇の相手如何では、ゲイルは人殺しになるかも知れないからね」
「‥‥構わないよ。仇が取れれば」
「その覚悟は本気だね‥‥徹底的にやる」
ゲイルの腹積もりを聞いてから、焔威は左目を覆っている眼帯を取った。すると不気味に輝く赤い瞳が現れた。両親や友人、親しかった人達の命を奪った紅蓮の炎にも似たそれに、ゲイルの全身の身の毛がよだった。
焔威はその様子を気にも留めず日本刀と小太刀を構えると、ゲイルも倣ってダガーとナイフを構えた。
「死合いの最中に余所に気を飛ばすな! 目の前の敵に集中しろ!!」
二天一流の基本であるダブルアタックを、実践形式でゲイルの身体に叩き込む。ゲイルのダガーを日本刀で弾き、がら空きの脇腹に小太刀を峰で打ち据えた。
「ぐは!?」
「躊躇うな! 刺したら捻って空気を入れろ!!」
先日のゴブリンとの戦いの問題点を指摘し、精神的にも徹底的に訓練を施した。
ゲイルは弱音も文句も一つも吐かず、気絶するまで焔威の訓練をこなした。
「私も教えてもらって技覚えられればいいんだけど‥‥」
近くで修練していた龍華は、止め以外出だしにくい龍飛翔以外の技を覚えたいと思っていたが、太刀と拳ではそもそも型が違い過ぎた。
ゲイルが気絶するとその日の訓練は終わり、龍華が手当てをするという日が村に着くまで続いた。
●焼け野原
「‥‥酷い有様でござるな‥‥」
それがゲイルの村を見た月夜の第一印象だった。家という家は焼け落ち、木や草もその炎に巻かれ、消し炭となっていた。焼け野原、という言葉が当てはまる光景だった。
遠くを見据える月夜の黒い瞳は、自分の家が焼ける時の光景と今の村のそれを重ね合わせていた。
動くものは月夜とツウィクセル、イレイズの3人と、愛馬のみだ。
周囲を確認した限り、普通の農村で、丘陵地に畑が広がっているだけだった。
「各家から何かを引き摺った後があるな‥‥これはゲイルの仕業だろう」
ツウィクセルはそれぞれの家から村の奥へと延びる引き摺ったような跡を見付けた。その跡を辿ると、村の奥に数十個の簡単な墓が建てられているのが分かった。
「‥‥ゲイルが全員をここまで運んで埋葬したのですね‥‥天に住まいし大いなる父よ、少年の試練の先に、唯一の肉親との再会の奇跡をお授け下さい」
イレイズが大いなる父に印を切ると、ツウィクセルと月夜は黙祷を捧げた。
ゲイルの村からキャメロットまで歩いて3日程だ。子供の足でも4、5日で着くだろう。村が全滅してからゲイルがギルドを訪れたのに一週間以上開きがあったのには、こういう理由があったからだった。
「ここまで焼けてしまうと、火事によるものか放火かは区別は付かないな」
「少なくとも、火を消そうとはしていないが」と、ツウィクセルは現場を見てそう判断した。燃えるに任せた感じだったからだ。
「これは小鬼の足跡。とすると、こちらが村人達の足跡でござるな。確かに争った形跡はあるでござるが‥‥ん? にしては逃げた形跡が多すぎるでござる」
「多分、それは逃げたのではなく、人間同士の戦いの跡かも知れませんね。モンスターと戦っている時に背後を突かれれば、かわすのは難しいでしょう」
月夜が見付けた足跡は、村人以外の人間が関与している証拠だと、イレイズは確信していた。その手には焔威から頼まれた、焼けた家の灰を持っていた。
イレイズ達はその足でゲイルの村の隣村に向かうと、ツウィクセルが人を捜している事を近くにいた村人に話した。聞き返されると「月道を通ってきているはずの者を探している」と答えるが、村人は何の事を聞いているのか、本当にさっぱり分からないという様子だった。
イレイズが騎士という立場を利用して村長に面会を求め、同じ事を聞いたが、村長も反応は同じだった。
本当に知らないのかもしれないし、聞き方字体が悪いのかもしれないが、それを判断するのは月夜達だろう。
イレイズ達はゲイルの村の調査と、隣村への立ち寄りをそれぞれ1日と考えていたが、実際にはもう少し掛かってしまい、それが思わぬタイムロスを招く事となった。
●バグベアの襲撃の影で
予定通り、村に着いたゼファー達は先ず村長に挨拶をし、罠を仕掛ける旨を伝えて許可をもらった。合わせて焔威が、ゴブリン達の襲撃があった時に避難できる丈夫な建物を聞くと、広さ的にも強度的にも村長の家という答えが返ってきた。
ロット達は村にある家一軒一軒を回って鳴子の材料の提供を呼び掛けると同時に、村長の家への避難と、火の元の厳禁、火事に備えた水桶の用意などをお願いした。
「‥‥攻め易く、守り難い地形だな‥‥私ならこの辺りから攻めるだろう」
村の内外の地理を把握したゼファーは、地面に棒切れで村の略図を描き、数カ所に丸を付けた。この辺りは丘陵地という事もあって、坂の途中途中に家が建っているような感じだった。
ゴブリンが棲んでいるという洞窟は村の上にあり、攻め手には有利。
一方、村には野犬避けの柵が各家に気持ち程度にあるだけで、村の境界線としての防護柵はなかった。
そこでゼファーは特に攻め易いと感じた数カ所に鳴子を仕掛け、更に龍華達が持っているだけのロープを使って、ワイヤートラップを仕掛けまくった。落とし穴は掘るのに時間が掛かるし、使っても使わなくてもまた埋め戻さなければならないからだ。
下準備を整え、ゼファーとロット、龍華とクリス、焔威とゲイルのペアに分かれて村を見回ろうとしたその時――鳴子が鳴った。
「戦いが始まっていたか!? 家の屋根に登っている時間はないな」
「今、ほ〜ちゃん殿とゲイル殿の姿を捉えたでござる。拙者は二人の援護に向かうでござるよ」
「では、私は避難誘導をします」
ツウィクセル達が村に着いた時には、既に防衛戦が始まっていた。
ツウィクセルと月夜は前線へ向かい、イレイズは避難している人の誘導にあたった。
ゴブリンやホブゴブリンは数は多いが、クリフ達の敵ではなかった。
「大いなる風よ、汝の怒りを以て我が敵を討ち滅ぼせ!」
ゼファーが囮となり、ワイヤートラップに引っ掛かって転けたり、木に宙づりになったところへ、ロットのライトニングサンダーボルトとクリフのウインドスラッシュ、龍華のオーラショットが放たれて数を減らし、焔威とゲイルが斬り込んでいった。
そこへ月夜達が現れると、クリフが事情をかいつまんで話し、2人ともそのまま戦線に加わった。
だが、バグベアには意外な苦戦を強いられた。ゼファーの攻撃は空を斬り、焔威や龍華、月夜やゲイルの攻撃は当たるのだが、確実にバクベアも攻撃を当ててくるのだ。
「天駆ける龍顎の拳もあんたも受けなさい!」
お互いが負傷を重ねる中、ツウィクセルが矢で牽制して気を逸らせ、龍華の龍飛翔を筆頭に、ダブルアタック等を叩き込み、やっとの事で倒したのだった。
「戦う事がまだ怖いか?」
「‥‥怖いよ‥‥怖いけど、戦って戦って戦い抜いて、リア姉を探さなきゃ」
戦いが終わり、へたれ込んでいるゲイルを月夜が軽く抱き締め、ぼさぼさの頭を撫でていた。
「腕が上がればできる事も増える。ただ、戦いで生き残る為には迷うな‥‥それに拙者も妹を探しているでござるよ」
今、ゲイルを抱いている腕の中で、その妹の双子の片割れは息を引き取ったのだが‥‥。
「皆さん、来て下さい!」
その時、クリフの呼ぶ声が聞こえた。
そこは村の入口で、イレイズが倒れていたのだ。しかし、呼吸は小刻みで、目は半開きで白目が覗き、全身を激しく痙攣させていた。
「外傷はないみたいなんだけど‥‥」
「‥‥これは毒きのこだ! 毒きのこを食べた時の末期症状だぜ!!」
「何!? 毒でござるか!?」
龍華の応急処置では分からなかったが、ゲイルはこの症状を知っていた。月夜が慌ててもっていた解毒剤をイレイズに飲ませると、身体の痙攣が収まった。
「しかし、よく毒きのこだって分かったな」
「‥‥毒きのこだと知らない旅人が食べて、よくこういう症状を起こすんだぜ。助かって目が覚めても、食べた前後の記憶を失ってるし」
ロットが聞くと、ゲイルは父親の畑の近くの林に生えていたと話した。
その話し通り、イレイズは程なく目を覚ましたが、彼は村に来た時からの記憶を失っていた。それだけではない。彼は装備品も幾つか無くしていたのだ。
焔威が確認した限り、村人は全員、村長の家に避難しており、イレイズの元へ行った者はいないはずだ。
しかも、イレイズが戦いの最中に毒きのこを食べるとは、まず考えられない。
「どうも人為的な部分があるような気がしてならないとは思っていたけど‥‥イレイズさんは怪しい人を見付けたのよ。それで口封じの為に毒を盛られたんじゃないかと思う」
龍華の予想にゼファー達は頷いた。
“刀狩り”の二の名を持つ焔威は悲しんだが、月夜の意向でバグベア達からの戦利品は村の損害補填に充て、武器に関しては失ったイレイズに予備として渡したのだった。