【仇討ち指南】再会‥‥そして

■シリーズシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月26日〜10月31日

リプレイ公開日:2004年11月05日

●オープニング

「あぐ!?」
 右腕に激痛が走り、ゲイルは思わずナイフを取り落としてしまう。
 ナイフが地に落ちる、乾いた音が響く。
 無理もない。鉄の塊――峰とはいえ、日本刀――で思いっきり叩かれたのだから。
「ゲイル、今日だけで四度、命を落としているよ〜」
 ナイフを拾おうとする少年の首筋に、小太刀が突き付けられた。
 実戦なら背中から切り殺されていた、と浪人はあっけらかんと言う。
「‥‥だけど、得物を落としたら拾うしかないじゃねぇか」
「確かにその通りでござるが、拾うのを待ってくれるお人好しの敵はいないでござるよ?」
 ゲイルと浪人の特訓を見ながら、木陰で休んでいる女浪人が優しく告げる。
 彼女は少年とそれ程歳が離れている訳ではないが、母親のような存在だった。
 母性本能が豊かなのかも知れない。つい、甘えてしまう。
 もっとも彼女も、少年と似たような境遇だからかもしれないが‥‥。
「まずはディザームを受けない事〜。相手が狙っているのは、攻撃の軌道を見切れば分かるからね〜。次にもし武器を取り落としてもすぐに拾おうとは思わない事〜。だって、左手にもう一つ武器を持っているんだからね〜」
 ゲイルはナイフとダガーを、浪人は日本刀と小太刀を構え、仕切り直しながら浪人が助言する。
 それが二刀流の利点だとゲイルは改めて気付いた。
 今度、ディザームを喰らったらショートソードに持ち替えようと思っていた。しかし、少年の力では、ソフトレザーアーマーを着ていてショートソードを背負うと、動きがかなり束縛される。
 再び、懲りずに無防備に斬り掛かってくる弟子の右腕に、浪人は再びは鉄の塊を討ち据えるのだった。
「素材がいいと、料理人は腕を振るいたくなるものよね」
 華国の服に身を包んだ女武道家が、女浪人にお茶を差し出した。
 ゲイルの成長振りには目を見張るものがある。彼女も手合わせしたいと思っていた。
 同時に、少年が仇を取った後、この力をどうするのかと疑問に思う。
 少年は亡き父の後を継いで農業を営みたいと言っていた。彼女が料理を教えると、作る楽しさも知った。
 ならば、キャメロットの郊外に店を構え、自給自足の料理人も悪くはない。
 しかし、少年は冒険者としてもやっていけるだけの実力も身に付けていた。

 “仇討ち”という目的だけの為に――。

 火事場泥棒団のアジトの情報収集は、思っていたより捗らなかった。
 集めた情報を交換するものの、決め手に欠けていた。
「‥‥金を払えば情報って何でももらえるものなのか?」
 冒険者として素人のゲイルが、素人なりの疑問を述べる。
 話を聞いていると冒険者ギルドや酒場、騎士団や商人など、情報収集の要点は押さえてある。
 しかし、金を握らせて情報を集めているだけで、後は敵の出方を伺っているだけのようにも思えたのだ。
 少年は足で情報を稼ぎ、外れてもいいからアジトの場所の予想を立てれば、何とかなると思っていたようだ。
 女レンジャーが火事場泥棒団のアジトを予想し、収集した情報から割り出した関わっているであろう商人と取引をしていた冒険者を捕まえて、アジトの場所を裏付けた。

「船着き場と言っても、商人の船は多いからな。突き止めるのは意外と時間が掛かるかもしれないぞ」
 情報収集の報告を済ませたゲイル達に、冒険者ギルドの受付係はそう切り出した。
 もっとも、家財道具を運んでいたり、頻繁に荷車が出入りする船に白羽の矢を立てれば、火事場泥棒団がアジトにしているであろう船は特定できるかもしれないが。
「今のところ、ゲイルの村以来、火事等で全滅した村の報告は受けていないから、奴ら、そろそろ動き出すんじゃないか?」
 それも危惧の一つだ。アジトを抑えるだけでは、ゲイルの仇討ちは成就されない。
 しかも、火事場泥棒団の元にはゲイルの姉リアが囚われているらしい。
 果たして彼女は無事なのか‥‥。

「修行は今日で終わり。後は自分で決めなさい。その為の力はもうここにある」
「‥‥今までありがとうございました! ‥‥今は、仇を討つ、それだけだぜ」
 浪人は弟子の手を取った。ゲイルは依頼をして初めてみんなに頭を下げ、仇討ちの決意を新たにしたのだった。

【ゲイル少年成長記録】
 基本格闘術:専門2↑
 基本回避術:専門2↑
 CO(我流):ダブルアタック、ディザーム
 優良視力:初級7↑
 イギリス語:初級6→
 モンスター知識万能:初級6→
 調理:初級9↑
 狩師:初級7→
 農業:初級6→

 装備:ダガー、ナイフ、メタルバンド、ソフトレザーアーマー、リカバーポーション
 バックパック:ショートソード

●今回の参加者

 ea0073 無天 焔威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0412 ツウィクセル・ランドクリフ(25歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea0418 クリフ・バーンスレイ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0923 ロット・グレナム(30歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3665 青 龍華(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文


●短い時間の中で
 ほ〜ちゃんこと無天焔威(ea0073)の棲家に一同が集まり、青龍華(ea3665)の淹れたお茶を飲みながら、火事場泥棒団がアジトにしているという、パトロンの悪徳商人の船を突き止める相談をしていた。
「商人の名前は分かっているから、船着き場に泊まっている船は多いけど、一つ一つ聞いて回るしかないよね〜」
「村1つ分の家財道具を運ぶとなると、詰め込んだとしてもある程度の大きさは必要だ。まず、それだけの大きさのない船は除外できるな」
「ただ、私は彼らに顔を見られていますからね。私に気付いたらもしかしたら出航してしまうかも知れません」
 足で稼ぐほ〜ちゃんの意見を、ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が絞り込みに掛かった。しかし、イレイズ・アーレイノース(ea5934)はゼファー達が船を調査している間、火事場泥棒団に毒薬を販売したという薬師の所へ行くつもりだと告げた。ツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)は彼と同じ考えで、同行を申し出た。
「ゲイル君の村を襲って以降、日照りが続いていますからね。冒険者や空の荷車が頻繁に出入りする船も絞り込む対象になると思います」
「どこかの村を襲おうとしているのなら、出航準備をしている可能性はないか」
「いや、その逆だろう。最近出航した話を聞かない船の方が可能性は高いと思うぞ。家財道具や日用品は、まとめて売らないと金にならないからな」
「ゲイルの村を含め、奴等が襲った村の近くに船を利用できる程の河はなかったでござる。ゴブリン達に襲撃させ、それに便乗する為にも陸路を選んでいるのでござろう。故に出航間近の船は対象から外してもよいと思うでござる」
 イレイズの言葉から、クリフ・バーンスレイ(ea0418)とゼファーが更に絞り込みを進めるが、ツウィクセルと天城月夜(ea0321)が運び込まれている荷物の中身と荷車を使っている理由を推測し、反論した。
「冒険者が頻繁に出入りしていて、荷物の運搬に荷車を使い、家財道具が詰めそうな大きい船を探して、その船の持ち主が商人かどうか聞けばいいのよね?」
「下手に商人の名前を聞きまくると、商人の耳に入って、却って怪しまれるかもしれないしね〜」
 聞き手に回っていた龍華が出尽くした意見をまとめると、ほ〜ちゃんが頷いた。
「ゲイル、リアの体格を教えてくれないか? ブレスセンサーでリアと同じ体格の人が見付けられれば、より絞り込めるだろう」
 ロット・グレナム(ea0923)がブレスセンサーを有効に使う為にゲイルに姉のリアの体格を聞いた。
 ゲイルの姉リアは彼より4つ年上の16歳。歳の割りに小柄で、身長はゲイルより少し大きいくらい、145cm前後だろう。それからゲイルは遠慮がちに龍華とゼファー、月夜を見回し、彼の基準で龍華より胸やお尻が小さい事を俯きながら呟いた。
 顔については夕食の時等、事あるたびに自慢されたので、本人を見れば分かるだろう。
 それは最初は無口だったゲイルが、それだけ龍華達を信用し、信頼し、心を開いたという証だった。

 午後からほ〜ちゃんとクリフ、龍華とロット、ゼファーと月夜とゲイルが組んで、港に繰り出した。また、イレイズとツウィクセルは冒険者街に残り、薬師の棲家へ向かった。
 月夜はゲイルに偽名を名乗らせると、駆け出しの冒険者としてキャメロットの地理を押さえる為に港を見学している事にした。
 何度か衛兵や船員に呼び止められたが、ゼファーが上手く言い繕って切り抜けた。
「せっかく美人と一緒なんだし、依頼の事を忘れたいとこだけど‥‥流石に今回はそうもいかないな」
「ロット、ありがとう。その代わり休憩の時にお弁当を食べましょうよ」
 ロットと龍華はカップルを装っていた。
 龍華は何故か乗り気で、完璧なカップルを装う為にロットの事を呼び捨てにしたり、腕を組んで歩いたり、お弁当を作ってきていた。
 ロットは役得だったが、ブレスセンサーはなかなか使わせてもらえなかった。
 魔法を使うと術者の身体が光に包まれる為、使っている事が分かるからだ。
 クリフも物陰に隠れてブレスセンサーを使おうとするが、人目が途切れる事はなく、ほ〜ちゃんはその都度、「逃げた泥棒を捜している」と誤魔化した。

 一方、ツウィクセルとイレイズの調査も難航していた。肝腎の薬師が薬草を採りに行っていて不在なのだ。
「例の毒きのこをどのように加工したのか聞ければ、毒薬の攻撃方法が分かるんだけどな」
「薬師が火事場泥棒団の仲間という可能性もあります。締め上げて役人に突き出した方がいいでしょう」
 薬師の棲家の近くに住む冒険者の話では、薬師は誰にでも分け隔てなく、街娘でも貴族でも冒険者でも盗賊でも関係なく、薬が必要な人に薬草やハーブ、毒薬を問わず売るという。その薬をどう使うかは買った者が決める事であり、薬師の責任ではない、というのだ。
 イレイズは思い違いをしていたようだ。

 アジトらしいガレー船を見付けられたのは、探し始めて4日後の午後の事だった。
 火事場泥棒団は10人おり、更にリアが囚われている事を考えたツウィクセルと月夜の提案で、夜明け前に奇襲を掛ける事になった。

●最悪の再会、最高の別れ
 ゲイルは前日、ぐっすりと寝られたようで、起きてから愛用の3本の武器の手入れをしていた。
「ゲイル君、最後に言わせて頂戴。まず絶対に生き残って、何があっても!」
 龍華がお茶を差し入れると、そう切り出した。
「後もう一つ。あなたが人を殺めたって事を知ったら、リアちゃんが哀しむだけよ‥‥憎しみを捨てろって言ってる訳じゃないの。ただ、抑え込むだけでいいの‥‥分かって」
「龍華殿が言っている事は、リア殿を無事に助ける為にも必要だ。ゲイルとリア殿の関係を奴等に気取られると、人質に取られる可能性がある」
 初めて見せる龍華の涙目にゲイルは驚きつつ、同じく心配になってやってきたゼファーの言葉に頷いた。
「ゲイルが仇を討つ為に殺したい気持ちは分かるでござる。が、お主は殺るな。リア殿や死んだお主の父上殿達は、その手が他の者の血に染まる事を望んでいないでござろう」
 月夜も現れると、母のように厳しく告げた。
「姉を助ける勇気はあるでござるか? 賊の手から身を助け出すだけでなく、心も‥‥姉を想うなら、お主が最初に会うのは避けた方がよい‥‥何も言わずに側に居てやる事も必要でござる」
「‥‥ここまで来たんだから後戻りはできないし、リア姉の無事な姿を見るまで死ぬ気もないぜ‥‥でも、龍華やゼファー、月夜がそう言うならそうしてみるぜ」
 ゲイルに月夜達の言いたい事は、何となくだが伝わったようだ。
「ゲイル‥‥仇討ちと姉の命を選べと言われたらどうする? 世界は人にいつでも残酷だ、見誤るなよ」
 棲家を出る際、ほ〜ちゃんがいつになく頭を撫でながら優しく言った。
「例えお前が絶望の淵に落とされようとも、意地でも何でもいい‥‥姉を取り戻すという意志だけは捨てるな。なに、1人で無理なら頼ればいい。お前の近くには8人の仲間と言う名の家族が居るからな」
 ほ〜ちゃんの言葉の意味を聞こうとするゲイルに、ツウィクセルが説明していった。
 皆、姉が慰みものにされていてもゲイルがショックを受けないように気遣うと同時に、心身共にリアを立ち直らせる事ができるのもゲイルだけだと思っていた。

 夜明け前の港に来たイレイズ達は夜陰に紛れてガレー船に近付くと、クリフがブレスセンサーで見張りの位置や起きている人数を特定した。
(「ボクはあなた達を許しません‥‥」)
 船室辺りから聞こえてくる息遣いに、クリフは怒りを露にするかのようにナイフの柄を握り締めた。
「これはお前等の悪事への裁きの雷とでも思っておけ!」
 リトルフライでガレー船の側面に移動したロットが、ライトニングサンダーボルトを見張りのレンジャーに放った。それを奇襲の口火に、ツウィクセルが矢を射り、クリフがウインドスラッシュを唱え、龍華がオーラショットを撃った。
 見張りのレンジャー2人は反撃する暇もなく倒された。
 ほ〜ちゃんを先頭に、イレイズと月夜、ゼファーとゲイルが甲板へ乗り込むと、物音を聞き付けたのか、船長室からファイターとレンジャーが現れた。
 ゼファーが投げ付けたナイフはかわされるが、その隙を突いてほ〜ちゃんが日本刀と小太刀のダブルアタックを、イレイズがクルスロングソードでスマッシュを繰り出した。ファイターは日本刀は受け流したものの、小太刀とスマッシュを喰らい、よろけた。そこへレンジャーがナイフを2本投げ、2人に間合いを取らせた。だが、投げ終わった瞬間を見逃さず、月夜はレンジャーにブラインドアタックを決め、立て続けにゲイルがナイフとダガーのダブルアタックを放った。
 クリフとツウィクセル、龍華が甲板へ上がったのを見て、月夜はイレイズに目配せをした。
 ロットが再びライトニングサンダーボルトを使ってファイターを足止めすると、ほ〜ちゃんと月夜が残り、ツウィクセル達は船内へ走り込んだ。
「まずは言っておこうか。俺はお前達の内、一人か二人しか必要ない。よって他の奴は今日死ぬ‥‥まぁ、納得してくれ」
「ゲイルの手前、命までは取らずとも、完膚無きまでに叩きのめせばよいでござろうに」
 追おうとするファイター達の行く手をほ〜ちゃんと月夜が塞いだ。本気の彼に何を言っても聞かない事は知りつつも、月夜も許す気はなかった。

 奇襲は成功したようで船内は静かだった。ブレスセンサーを使うクリフの案内で、リアがいるとおぼしき船室へやってきた。
『んぐ!? んん‥‥くぅん‥‥あぁんぅ‥‥』
(「‥‥とてもゲイルには聞かせられないな‥‥」)
 扉越しに聞き耳を立てたゼファーは、中から聞こえてくる少女のか細く疲れ果てたような嬌声に唇を噛んだ。
 船室には鍵が掛かっており、できるだけ音を立てずに開けるにはツウィクセルの方が適任だった。
 クリフとゲイルが入口に残り、ツウィクセルがミドルボウに矢を番えると、龍華は扉を開け破った。
 中では四つん這いになり、前後から男に凌辱されている少女と、その姿を薄ら笑いを浮かべて見ている男達がいた。
 少女は一目でリアだと分かった。近隣の村一番という美貌はしかし、男達の欲望の飛沫に薄汚れ、瞳に焦点は無く呆然と見開かれていた。
「殺しはしないわ‥‥ただ、一生私達に脅えて暮らすような恐怖を叩き込んでやるだけだから‥‥」
 龍華は一目散にリアへ近付くと、金属拳で男を殴り付けた。合わせてツウィクセルが矢を放ち、もう1人の男を射抜いた。
 ゼファーがナイフを投げて援護をし、イレイズが斬り込んでリアから男達を引き離した。そこへクリフとゲイルが室内に入った。
(「ずっと慰みものにされていたのだな‥‥最早、脅える精神すら無くしてしまったのか‥‥」)
 目の前で戦いが始まったというのに、リアはほとんど反応はなかった。ゼファーは言葉ではなく抱き締める事で、リアを慰め、励ました。
 ゲイルが子供だったのが幸いして、姉が受けていた凌辱についてはよく分からないようで、ゼファーに抱かれたリアが生きている事に安心しつつ、ゲイルは彼女に言われた事を守り、声を掛けなかった。
 不意を突いたとはいえ、相手はバクベアと渡り合い、おびき寄せられるだけの実力の持ち主達だ。すぐに反撃の体勢を整え、クリフ達も無傷という訳にはいかなかった。
 ツウィクセルとゼファーは毒薬を粉末状のものと予想したが、実は液体状で、ファイター達は毒きのこの毒を武器に塗っていた。ほ〜ちゃん直伝の回避力を身に付けたゲイルはかわしたが、龍華とイレイズは掠り傷を負い、毒に犯されてしまった。
「はぁぁぁぁぁぁぁっっ! 龍飛翔っ!! ‥‥これぞ全てを砕く一撃なり‥‥成敗!!」
 それでもイレイズは毒が回り切る前にファイターを、龍華は目の前のレンジャーに龍飛翔を繰り出して倒し、背を向けて一言言い放った。

「ボクはこのナイフであなた達の目を奪いたいですよ‥‥あれだけ酷い事を平気でしてきたのですから、命があるだけマシだと思うんですけどね」
 イレイズと龍華が解毒剤を飲み、ゼファー達がリカバーポーションで傷を治している間に、クリフはファイター達を捕縛していった。ゲイルが不殺を貫いた手前、彼は犯人達の目を潰す事はできなかった。
 しかし、甲板の方は酷いもので、月夜は極力捕縛したが、ほ〜ちゃんは相手を血祭りに上げ、その身体は返り血を纏っていた。

 生き残った火事場泥棒団が証言し、また、ほ〜ちゃんの依頼によってパトロンの悪徳商人宅から人身売買に関する証書が出てきた。
 これにより、ゴブリン達モンスターをけしかけて村を襲わせ、その隙に放火して家財道具を奪う火事場泥棒団と、彼らを支援していた悪徳商人は騎士団に捕らえられた。
 ロット達には特別報酬として、彼らから押収した防具が渡された。
 2カ月に渡るゲイルの敵討ちも終わったのだった。

 問題はリアだった。彼女は火事場泥棒団に捕まると、売り物として悪徳商人に引き渡されず、彼らの慰みものにされ続け、心が壊れてしまっていた。
「天よ、リア殿に加護を、生きる力を与え給え」
 リアはイレイズによって教会に運ばれ、身を清められた。
「‥‥ゲイル? 生きていたの‥‥?」
「リア姉‥‥うん、おれ、生きてたんだぜ‥‥」
「ゲイル‥‥」
「リア姉!!」
 そこで初めてリアはゲイルの存在に気付き、姉弟は抱き合い、お互いの生存を肌で感じた。
 しかし、リアの心が完全に回復するには、まだまだ時間は掛かるだろう。
「ゲイル、リア、あなた達の道の先に光あれ」
 イレイズは敵討ちの間に手に入れた力でリアを護り、農業をするというゲイルに祝福を与えた。
「ロット、ツウィクセル、ゼファー、今までありがとう」
 教会から出てきたゲイルとリアは別れの言葉を告げた。
「いろいろあったけど、この2カ月、弟ができたみたいで楽しかったわ。また会いましょう、今度は楽しくお茶を飲んだりしながらね」
「その時は是非、フロストウルフ通りの『海の桜』亭へどうぞ。美味しいご飯をおごりますよ」
 ゲイルの頭を撫でる龍華に、クリフが合わせて言った。
「ほ〜ちゃん師匠らしいぜ‥‥お別れぐらい言わせてくれればいいのに」
「ああ見えてほ〜ちゃん殿も別れが辛いのでござろう。これからはゲイルとリア殿が力を合わせて先に進むのでござるよ」
 人知れず去ってしまったほ〜ちゃんをフォローする月夜の言葉に力強く頷き、ゲイルはリアの手を引いてキャメロットを後にしたのだった。

「‥‥ハッピーエンドに殺人鬼はいらない」
 ほ〜ちゃんは愛馬に跨り、ゲイルとリアの仲睦まじい後ろ姿を眩しそうに見つめていた。