【仇討ち指南】暗躍する火事場泥棒団
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■シリーズシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月09日〜10月14日
リプレイ公開日:2004年10月19日
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●オープニング
ゲイルにとって、自分の住んでいた村と隣村、そしてキャメロットだけが、彼の世界の全てだった。ノルマンやジャパンは、一年に一度村を訪れるかどうか分からない、旅の吟遊詩人が、一食一晩の宿のお礼に聞かせてくれる御伽話のようなものだった。
そんなまだ12歳の彼にとって、隣村の更に隣村へ行く事は、イギリス生まれの冒険者が月道を通って初めてジャパンへ行くような大仕事に匹敵した。
師匠の愛馬に乗りながら、ゲイルは自分がそんな事を考えているのに気付いた。
村がゴブリンに滅ぼされた当初は、自分の両親や村人の仇を取る事しか頭になく、師匠や仲間によく突っ掛かっていた‥‥と思う。
だが今は、少しだけだけど、仇討ち以外の事を考える余裕が出来ていた。
全身、擦り傷と切り傷だらけなのは、ここ数日間、師匠の特訓に音を上げずに最後まで付き合い、まだ紛い物だが二刀流を修得した勲章だし。
青い華服に身を包んだ女武道家には、毎日のように料理の作り方を教わっているし。
いつもニコニコしているウィザードから学び始めたモンスターの知識も面白いし。
最初にギルドを訪れた時、受付係が自分に冒険者を付けたのはこういう事じゃないかと、朧気ながら思い始めていた。
女レンジャーが村の周りに罠を仕掛け、これから見回り――という時、仕掛けた鳴子が鳴った。
この間戦ったゴブリン達と同様に、ゴブリンが、ホブゴブリンが、ハンドアックスを振りかざして村へと駆けてきた。
やはり何かを怒っているようにも見える。
「おれも戦うぜ!」
村人を避難させるんだ――師匠の思い掛けない言葉に反論した。既に右手にはダガーを、左手には冷静沈着なウィザードからもらったナイフを構えていた。
前の時とは違い、ゴブリンに遅れを取らない自信があった。
その自信を付けてくれたのは、何より師匠のはずだ。
ゲイルなら村人全員に声を掛けて、避難させる事が出来るだろう――師匠は一言も『足手まとい』とは言わなかった。
既に女レンジャーが囮となり、ゴブリン達を罠へ誘導していた。
しかし、いつ、突破されるか分からない。
だから避難が必要だとゲイルにも分かった。
彼は大きく頷くと、得物を鞘に収めて村中を走り回り、村長の家へ避難するよう呼び掛けた。
騒ぎを聞き付けた村人は、既に避難していたし、逃げ遅れていた村人もゲイルが手助けして避難させた。
彼が村長に聞いて確認した限り、全ての村人が避難していたが――。
遅れて駆け付けたレンジャーと女浪人は仲間の援護へ向かい、神聖騎士は逃げ遅れた村人が居ないか確認した。
すると、こんな時に家へ駆け込む人影を見付けた。
しかも、1人や2人ではない。少なくとも数名は居た。
逃げ遅れたのだろうか?
彼は愛馬を走らせて家の前に来ると、鞍から降りて家の中の人影に声を掛けた。
‥‥
気が付くと神聖騎士は女浪人に介抱されていた。
聞けば毒きのこを盛られ、危篤状態だったというのだ。
だが彼にその辺りの記憶はほとんど無い。この村に来た事すら、辛うじて覚えているだけだった。
「‥‥あの毒きのこは食べられる茸に似ているから、毒きのこだと知らない旅人が食べて、よくこういう症状を起こすんだぜ」
ゲイルの父親の畑の近くの林に生えているという、それ程珍しくない毒きのこだった。
だが、少なくとも神聖騎士が毒きのこを食べるはずはない。
何らかの方法で茸から生成された毒を飲まされたのだ。
「神聖騎士様には悪いが、毒を使ったのは拙かったかもしれないな」
ゴブリン退治の報告を済ませたゲイル達に、冒険者ギルドの受付係はそう切り出した。
今まではゴブリンの仕業に見せる事が出来たが、毒は明らかに人為的なものだ。
コボルドも毒を使うが、ゲイルが毒の症状を知っていた以上、それとは違う種類のものだと明白だからだ。
怪我の巧妙、と言うべきか。ある程度情報は絞られたのではないかと思われた。
受付係が聞いた情報は、ある程度まとまった一団が火事場泥棒を働いているというものだ。
しかも、キャメロット市街地のどこかに潜んでいるという。
残念だが、まだアジトの場所までは特定できていないが、まとまった人数が揃うとなると、それなりの広さを有する場所に限られるだろう。
そして毒を使うなら、毒の仕入先があるかもしれないし、盗品を金に変えるには商人の力が必要だ。
場末の酒場か、テムズ川沿いの倉庫か、盗品を売り捌く商人の屋敷か‥‥意外と市民街の一角にあるかも知れない。
いずれにせよ、少なくとも危険な橋を渡る事には変わりなかった。
ゲイルは仇がゴブリンではなく、人間と分かっても尚、諦めるつもりはなかった。
人殺しは覚悟の上だし、何より、姉が生きている可能性があるなら、取り戻したいと思っていた。
【ゲイル少年成長記録】
基本格闘術:専門1↑※
基本回避術:専門1↑※
CO:ダブルアタック
優良視力:初級6↑
イギリス語:初級6→
モンスター知識万能:初級6↑
調理:初級7↑
狩師:初級7→
農業:初級6→
装備:ダガー、ナイフ、メタルバンド、ソフトレザーアーマー
バックパック:ショートソード
※専門1Lvは本来はありませんが、便宜上の表記です。
●リプレイ本文
●掴んだ尻尾を引き抜こう
「じゃぁ、依頼書頂戴〜」
「‥‥ほ〜ちゃん師匠、ゴブリンを退治しに行くのか?」
「いや〜、今度は俺達が依頼をする番なんだよ〜」
ほ〜ちゃんこと無天焔威(ea0073)は冒険者ギルドの受付係に手を差し出した。ゲイルは仇を討つ手掛かりを得る為にゴブリン関連の依頼を受けると思ったようだが、ほ〜ちゃんが受け取ったのは白紙の依頼書だった。
「遂にあなたの本当の仇の尻尾を掴んだのですよ。あなたのお陰でね」
イレイズ・アーレイノース(ea5934)が、子供に語り掛けるようにゲイルに告げた。
「‥‥本当の仇? おれの村を襲ったのはゴブリン達だろう?」
「ゲイルの村を襲ったのはゴブリンに間違いない。だが、そのゴブリンに村を襲わせた奴がいるとしたら?」
「確かにゴブリンを退治していけば、その内、仇が討てるかも知れません。しかし、それでは時間が掛かるのです」
「今までは相手が仕掛けるのを待っていたが、今度は俺達からお前の仇を見付け出すのさ」
12歳の子供には、まだ事情が飲み込めていないようだ。ゲイルの村を調べたツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)が村を襲ったのはゴブリンの仕業と前置きをした上で、クリフ・バーンスレイ(ea0418)とロット・グレナム(ea0923)がゴブリンに村を襲わせるよう仕向けた黒幕が居り、今までは足取りを追うだけの受け身だったが、今度はこちらから仕掛けようとしていると話した。
「ゲイル君。言っておくけど、人殺しちゃったら、もう元の生活に戻れないわよ‥‥」
「‥‥仇を討つって決めた時から、人を殺すのも覚悟の上だぜ。それにリア姉が生きてんなら、少しでも早く取り戻したいんだ!」
青龍華(ea3665)が自分の拳を刹那見た後、ゲイルの黒い瞳を見据えた。その瞳には一片の後悔の色もなかった。
ゲイルは仇がゴブリンではなく人間だとしても、諦めるつもりはない。ならば、龍華達も腹を括るしかない。
「リア殿が生きて見付かるとよいが‥‥焦りは禁物でござるよ(‥‥女の身で捕まるのは危ないのだよ‥‥)」
「人身売買が目的なら五体満足でなれば値打ちは下がるから、生きているだろうが‥‥ゲイルには話せんが、リア殿は慰み者になっている可能性は高いだろう」
天城月夜(ea0321)の呟きに、傍らにいたゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が囁き返した。月夜もゼファーも盗賊団に捕らえられた女性達の末路を知っていた。生きて再会できるだけマシかもしれない‥‥。
「先ずは情報集め‥‥情報はギルドと酒場だな。それと、情報収集力なら騎士団が一番か」
ロットがこれからの行動を指折り数えてゆくと、イレイズが酒場を当たると申し出た。ただ、イレイズは黒幕に顔を見られている可能性があるのでクリフとゼファーが同行し、簡単な変装をする事になった。また、ロットには月夜が付いていく事になった。
商人関連を調べる龍華にはツウィクセルが一緒に行くと告げた。
「情報を集めるにせよ、手掛かりは多い方がいいですからね。私が覚えていればよかったのですが」
イレイズは受付係に硬貨を少し握らせると、ゴブリンの巣穴の情報を聞きに来た、自称『ゲイルの村の隣村の村人』の似顔絵を描いてもらった。既に数週間が経っているので受付係も朧気にしか覚えていなかったが、それでも似顔絵は完成した。
イレイズはゲイルの村の近くの林に生えているという毒きのこの症状に似た毒を盛られ、依頼に行った村の事をほとんど覚えていなかった。
「しかし、イレイズ殿に毒を盛った連中は、どのような手を用いたのだろう‥‥粉末にした物を吸引させるというのは有り得るだろうか?」
「あるいは、リカバーポーションのような物かも知れないです」
ゼファーの疑問に答えたのはクリフだった。クリフは毒草を見極める事はできる。しかし、毒薬を生成し、扱うとなるとかなりの危険を伴う。毒物は知識だけで容易に扱える代物ではない。
それはリカバーやアンチトードといった回復魔法も同じだ。修得していなければ使えないが、リカバーポーションや解毒剤のように、毒物を誰にでも扱えるよう加工してあればどうだろうか?
クリフはツウィクセルがゲイルに咄嗟の回復手段としてリカバーポーションを渡している光景を見て、閃いたのだ。
「待てよ。毒を盛られたイレイズさんは、身体が麻痺して動けなかったよな? 例えば、ゲイルの村の村人に同じようにその毒を持ったら‥‥」
「まず逃げ遅れるでござるな。運良く助かっても、襲われた事は覚えていないでござろう」
ツウィクセルの推測に月夜が頷いた。
「まぁ、問題は毒物のコストだろうね〜。高ければそうそう使えないから、いざという時の口封じにしか使わないと思うけど〜」
「できた〜」という声と共にほ〜ちゃんが顔を上げた。依頼書には火事場泥棒や人身売買の調査が書かれ、隠密技能が高い冒険者を望み、基本報酬は2G。更にゲイルの姉リアらしき少女の情報が得られれば、1Gの追加報酬が出るという内容だった。
リアは顎のラインで髪を切り揃えた、ちょっと気弱そうな美少女だという。ゲイルの主観が多分に入っている気がするが、村一番、いや、近隣の村一番の美少女だそうだ。
尚、この依頼の報酬はほ〜ちゃんとイレイズ、クリフとロット、龍華とゼファーが共同で出していた。
「‥‥おれも留守番ってどういう事だよ!?」
「俺の故郷に“家宝は寝て待て”って諺があってね〜。それに依頼を受ける冒険者は俺が選定するから〜」
ゲイルはほ〜ちゃんとギルドで留守番になっていた。ゲイルが闇雲に突っ走らないようにする為でもあった。
●難航する調査
龍華から華国の服を借り、髪をポニーテールに結って変装した月夜が、最近、焼かれた村の噂はないか受付係に聞いた。
ゲイルの村の一件以降、そういう噂は入ってきていないという。
「‥‥先日の依頼は拙者達が未遂で終わらせたでござるから、火事場泥棒団は動いていないようでござるな‥‥ただ、村を襲うならそれなりにまとまった組織でござろう?」
火事場泥棒団の正確な人数は分からないが、その背後には人攫いや人身売買等を行うアンダーグランドな闇の組織が付いている事は考えられるらしい。
らしいと、いうのは冒険者ギルドも、この組織の実体を掴んでいないからだ。風聞の域を出ず、噂が飛び交っている程度だった。
ロットと月夜はその足でキャメロット城のお膝元にある騎士団の詰め所へ行ったが、残念ながら悪の組織に関する情報はギルドの内容と大差はなった。
ロットは自分の考えが甘い事を痛感した。騎士団が闇の組織の情報を持っていたとしても、そう簡単に一介の冒険者に話すだろうか? また、騎士団はキャメロットの治安維持に務めているがキャメロット外となると、学園都市ケンブリッジの襲撃の時もそうだが、おいそれと動かせないのだ。だからこそ冒険者に依頼が回ってくるのだ。
月夜から麻の上着と袴を借りた龍華は、髪も普段より高い位置で結い、ジャパン人に変装した。
ツウィクセルは彼女を伴って商人ギルドへ行った。
「表ルートからでも盗品を中心に調べれば、ある程度相手は探せると思うんだ。不正な物品を売り捌いているんだから、商人達も協力してくれるだろう」
エチゴヤといったまっとうな冒険者相手に商売をしている商人達は、できるだけ盗品の買取を避けるが、それが盗品かどうかの確証はなかなか得られないのが実情だ。
依頼の戦利品はモンスター達が前に誰かから略奪した物であり、盗品には違いない。
「なら最近、羽振りがよくなった商人の話とか、まっとうでない冒険者の戦利品を売買している所とかは知らないかしら?」
ただ、商人ギルドはギルドメンバーの商売を保護する組織である為、龍華が質問の切り口を変えると、荒稼ぎしているらしい商人の名前と取引場所を教えてくれた。
「盗品である確証を得られれば騎士団に突き出せるが‥‥ゲイルの村の物だったかは、本人に見てもらうのが一番なんだけどな」
ほ〜ちゃんもそうだが、ツウィクセルも仇や取り戻したい物が目の前にあればゲイルは勝手に動くだろうと危惧していた。
イレイズとクリフはマントやローブのフードを深く被り、ゼファーは髪を下ろし、服装もレンジャーのそれからフード付きローブを纏ってウィザード姿に変装すると、冒険者の酒場へ向かった。
イレイズは同じ依頼人から依頼を頻繁に受けている冒険者や羽振りがよくなった冒険者、クリフは柄の悪い商人と付き合いのある冒険者の情報を、ゼファーは毒物が入手できる場所について手分けして聞き込んだ。
羽振りのいい冒険者等は意外と多く特定できなかったが、柄の悪い商人と付き合いのある冒険者は数人確認できた。
また、毒物に関しては、少し前に冒険者街に敏腕薬師が住み始めたという話が聞けた。その薬師は薬草・毒草問わず、依頼があれば精製するというのだ。ただ、漂泊者で闇の組織との関わりはないらしい。
ゼファーは一緒に『ゲイルの村の隣村の村人』の似顔絵を見せると、柄の悪い商人と付き合っている冒険者の一人に似ているという情報があった。
ほ〜ちゃんは依頼人を待つ傍ら、ギルドにいたウィザードに、蒸留酒を報酬に月夜達が取ってきたゲイルの村の灰をアッシュワードで調査してもらっていた。
大半は『火事で焼けた』だったが、1つだけ『火矢で放火された』という答えが返ってきたのだ。
ゲイルの仇はゴブリンではなく、火事場泥棒団である事が確定した瞬間だった。
●最後の団欒
ほ〜ちゃんの棲家はシムル通りにあった。
火事場泥棒団に尾行されている可能性を考えて遠回りをしたイレイズとクリフがほ〜ちゃんの棲家に着くと、先に帰ってきていた龍華がゲイルと夕食を作っていた。
「じゃぁ、今日は華国の料理を作りましょうか。特別な材料は使わないから簡単よ」
「‥‥龍華の作る料理は何でも美味いからな」
龍華はキャメロットにいる事もあり、いつも以上に料理の腕を振るっていた。一緒に料理を作っている後ろ姿は、ロット達には姉弟のように見えた。
今日の夕食の餃子のスープと肉饅頭に舌鼓を打ちながら、それぞれが今日の情報を報告し合った。
ほ〜ちゃんの方は、友達のシフールの少女を攫われたという女冒険者が協力していた。
「人目に付かぬように荷を運搬する事を考えると、郊外か川の近くか? あるいは船自体とか‥‥毒物を扱う薬師は白だとしても、人身売買に絡む貴族の屋敷‥‥一介の泥棒団にそこまで便宜を図るとは考えにくいな」
アンダーグランドな闇の組織や柄の悪い商人、取引している冒険者と取引場所、薬師の情報等を聞きながら、ゼファーは自分の考えをまとめていた。
翌日、ほ〜ちゃんと龍華、月夜とクリフは棲家に残った。
「これが“刀狩り”たる所以‥‥基礎中の基礎部分だけど」
ほ〜ちゃんは庭に出ると、いつものようにゲイルと対峙し、一度だけディザームの型を見せると、模擬戦方式で教えるのではなく叩き込んだ。
幾度となく日本刀と小太刀の峰でゲイルの両腕を打ち据えて、ナイフとダガーを叩き落とす事でディザームを伝授した。
(「ちょっとどころの手合わせじゃないわね。ほ〜ちゃんは何て鍛え方をしたのかしら」)
その後、傷の手当てをした龍華とゲイルは拳と刃を交えた。
龍華のパンチやキックはゲイルに命中するが、ゲイルのナイフとダガーの二刀流の斬撃を龍華はかわしきれず、見切って拳で受け流すのが精一杯だった。龍飛翔を封印しているのが惜しい程だ。
その急成長振りは、ゲイルの仇討ちへの執念の顕れといっても過言ではないだろう。
「少しは休んで気力と体力を回復させていった方がいいでござるよ」
月夜はほ〜ちゃんと龍華、ゲイルが稽古をしている側で、その光景を見ながら身体を休めていた。
「ゲイル君、君が仇打ちをしてどうしようと思っているかは分かりません。このまま仇打ちをするのもよし、止めて農民に戻るもよしです」
稽古が終わった後、龍華に手当てをしてもらっているゲイルに、クリフがしゃがんで視線を合わせながら言った。口調こそ優しかったが、表情は真剣だった。
「‥‥こんな表情は初めてかも知れませんね。ボクがいつも笑っているのは、心配させたくないからなんですよ、双子の妹を。ボク達の親も冒険者でしたが、14歳の頃に二度と帰ってきませんでした。あの時の妹の顔、もう見たくないんですよ。だからいつも笑っています」
ゲイルは無言のまま聞いていた。するとクリフはいつものように破顔した。
「君は、ボク達にそんな顔だけはさせないで下さいね。君はもう、沢山の人から大切に思われていますから、死なないで下さい。それを守ってくれるなら、何も言いません」
「‥‥死ねないよ、仇を取るまでは。仇を取った後も死ねないと思う。親父やお袋、村の人達の分まで生きたいから‥‥それに死んだらリア姉とも生活できないしな」
「ゲイル、焦ってはいけません。必ず試練の時は来ます。主よ、少年が試練を越えた際には、姉上との再会をお願いいたします。2人の苦難の先に輝かしき未来をお与え下さい」
ゲイルの答えにクリフが満足すると、丁度帰ってきたイレイズがゲイルに祝福を与えたのだった。
●明暗を分ける展望
その後もロット達は冒険者ギルドや酒場で情報屋から情報を仕入れたが、有益な情報は得られなかった。情報収集をしていれば向こうから襲撃してくるとも思っていたが、それもない。
月夜と龍華が先陣を切り、ツウィクセルが矢で、イレイズがブラックホーリーで、ロットがライトニングサンダーボルトで援護し、スラム街にある柄の悪い商人と冒険者との取引場所を強襲した。
取引場所には冒険者がいたが、流石に多勢に無勢では勝てなかった。
その冒険者は盗まれたイレイズのクルスソードを持っていた。問い詰めると、何でも商人から買ったという。
この冒険者は盗品と知りつつ安く買っている無関係の者に過ぎなかったが、火事場泥棒団のアジトを絞り込む有力な手掛かりを得る事ができた。
火事場泥棒団は主に荷車を使っているというのだ。ゼファーの予想と合わせて、荷車が入っても怪しまれないのは商人の倉庫や船着き場だろう。
商人の倉庫はほ〜ちゃんの依頼を受けた冒険者達が調べる事になり、ツウィクセル達は船へ向かう事になった。
アジトのある程度の予想を打ち立てたのはゼファーだけで、完全に受け身になっていた――。
彼女や月夜が危惧したように、火事場泥棒団の元にはゲイルの姉リアが囚われているらしい。
この結果が悲劇を生まなければよいのだが‥‥。