【ミルコと巨竜】翼竜の忘れ形見
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■シリーズシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 25 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月13日〜12月22日
リプレイ公開日:2005年12月23日
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●オープニング
風に乗ってそれは届いた。
――切ない咆吼。
それはまだ小さな口を精一杯開けて応える。
再び、風に乗ってそれは届いた。
――切ない切ない咆吼。
それはまた、まだ小さな口を精一杯開けて応える。
‥‥しかし、今度は風に乗って届いてこない。
それはまた、まだ小さな口を精一杯開けて応える。
‥‥やはり、風に乗って聞こえてこない。
それはまた、まだ小さな口を精一杯開けようとした時、止められた。
――もう返事は返ってこないのだ、と。
キャメロットから歩いて3日程離れた場所に、“親殺し”の異名を持つ騎士カシアスの治める領地がある。彼の治める領地は山が多く、その1つにいつの頃からかウィングドラゴンが巣を作り、麓に降りてきては領民達を喰らうようになっていた。
このジ・アースにおいてもっとも古く、そして事実上のジ・アース最強の種族『ドラゴン』。ウィングドラゴンはその中でも、両翼を広げれば6mを越える翼を持つ痩身の竜だ。
ドラゴンを倒した者を称える“竜殺し(ドラゴンバスター)”は、“勇者”と並んで冒険者が憧れる、誉れ高き称号の1つだろう。
カシアスはパーティーを組んでいるジャイアントのファイター“静かの”ミルコと、依頼に馳せ参じた冒険者達と協力して、このウィングドラゴンを見事に退治したのだった。
それはつい2週間前の事だった。
「どうでしたか?」
「やっぱりいたよ、ありゃぁ雌だろうねぇ」
「そうか‥‥やっぱりつがいだったか」
「みたいだねぇ。この間の雄みたいに聞いた事のあるウィングドラゴンより2回りも大きくはなかったけど、それでも1回りは大きかったよ」
ウィングドラゴンの巣があると思われる山の麓。
カシアスとミルコはそこでキャンプを張っていた。ウィングドラゴンの巣の調査に向かったネイルを待っていたのだ。
ネイルはカシアスの領地の隣を治める騎士の娘で、ハーフエルフ故爵位は与えられていない。しかし、親の財力を拝借して、身寄りがなかったり捨てられたハーフエルフを集めて手塩に育て、騎士団紛い(ほぼ盗賊団)を組織しており、率いて出掛けていた。
その持ち前の機動力と人数を活かしてウィングドラゴンの巣を探し当て、様子を窺ってくる事に成功したのだ。ネイル自身は『狂化』した時、全身に返り血を浴びるのを至福の喜びとしている事から、“ブラッディ”ネイルの異名を持っていた。
その彼女の報告によれば、ウィングドラゴンの巣にはまだ雌のウィングドラゴンがいる。という事は、先日倒したのは雄のウィングドラゴンという事だ。
それだけではない。巣には子供のウィングドラゴン――ドラゴンパピィ――もいたというのだ。
「山に入った狩人や復旧作業をしていた農民がドラゴンの声を聞いたと言っていましたが、調査して正解だったようですな」
「雄のウィングドラゴンは、喰い盛りの子供の為に麓まで降りてきて餌を採っていたんだろうぜ」
「雌のウィングドラゴンももう飛べるようにはなっていたみたいだね」
ウィングドラゴンの被害を受けた麓の村々では、冒険者達が退治した事を受けて復旧作業が開始されたが、その最中、何人もの領民が再びウィングドラゴンの声を聞いていた。彼らは不安がり、作業が遅々として進まないので、カシアスはネイルに調査を依頼したのだ。
冬山ではドラゴンの餌になるような大きな獲物は極端に少なくなる。ミルコの言うように、雄のウィングドラゴンは子供の為に餌を採りに来ていたのだろう。
ネイルが付け加えたが、雌のウィングドラゴンも飛べるようになれば、また麓まで降りてくる可能性は高いだろう。
「これ以上、人々を恐がらせない為にも、今度は俺達から巣まで出向き、先手を打つべきだと思うぜ」
「今度は山ですからな。ネイルのハーフエルフ部隊やカシアスと愉快な仲間達は却って目立つので連れていけないですな」
「何だい、あたしはまた留守番かよ?」
ミルコが先手を打つよう提案するとカシアスも同意した。彼の物言いにネイルは苦笑した。先のウィングドラゴンとの戦いで負った傷はすっかり癒えていたからだ。それは調査の手際の良さを見れば一目瞭然だ。
「ネイルにはすまないと思うのだよ。しかし、私が留守の間、領民と復旧作業を任せられる者はあなたしかいないのでね」
「まぁ、そういう事なら仕方ないねぇ。不良の領主の代わりにしっかり留守番するよ。ミルコじゃとてもじゃないけど回らないだろうしねぇ」
「ほっとけ! ‥‥だが、子供も殺すしかないんだよな?」
ハーフエルフとはいえ、ネイルは貴族としての教養を一通り身に着けており、安心して自分の留守を任せられるとカシアスに面と向かって言われると、彼女は満更でもないようで照れた。耳まで真っ赤で心なしか垂れている。
照れ隠しからか悪態を付くと、今度は引き合いに出されたミルコがむくれたが、それは一瞬の事で、直ぐ様真顔に戻るとカシアスに訊ねた。
「親が死ねばどちらにせよ子は育たんよ。ここには人が住んでおり、営みがある。それを如何なる方法を以てしても守るのが、領主としての私の務めなのだよ。私の領地内に巣を作ったウィングドラゴンには悪いですけどね」
ミルコの言いたい事は分かるが、ウィングドラゴンが今後も領地の、領民の脅威となるのなら元から絶つしかない、というのがカシアスの返事だった。
斯くして再度、ウィングドラゴン退治の依頼が冒険者ギルドに張り出されたのだった。
●リプレイ本文
●退治か生存か
「ミリートお姉ちゃんやっほー♪ よろしくね〜♪」
「う、うん、よろしく」
チカ・ニシムラ(ea1128)はミリート・アーティア(ea6226)の後ろから抱きついた。しかし、いつもなら頭を撫でてくれるミリートの表情は、今日はいつになく重かった。
「倒したウィングドラゴンに、つがいの妻ドラゴンと子供のドラゴンパピィが‥‥この時期に危険を冒して人里まで降りてきた理由を思い至らなかった私も、迂闊といえば迂闊、です」
「そんな事はないぜ。ウィングドラゴンを倒そうと言い出したのは俺達だからな」
「領民の事を第一に考えるカシアスは、領主としては正しい判断だ。私もカシアスと同じ立場なら、同じ依頼を出していただろう‥‥」
ホーリーシンボルを握りしめ、懺悔するセリア・アストライア(ea0364)。15歳の聖女の悲愴めいた表情は痛ましく、“静かの”ミルコは自然と励ましの言葉が出た。
テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)は同じ騎士として、“親殺し”のカシアスの姿に自分を重ねた。
「人々に再びの危害が加わる前に倒さねばなりませんが‥‥ただ、できれば母親も、仔ドラゴンも、殺したくはないのです‥‥偽善だと言われようと、どんな生き物でも命は1つですから‥‥」
「雄は家畜や人を襲ったんだから、退治するのは仕方ないと思う。でも雌はまだ何もしてないんだし、雌を倒したら今度は仔竜が復讐に来るかもしれないよ。復讐の連鎖なんてキリがないよ!」
「鈴那‥‥」
セリアの言葉に、逢莉笛鈴那(ea6065)が悲鳴にも似た声を上げる。鈴那のその姿に、ミルコは悲しそうな表情を浮かべた。
「やれやれ、皆えらく甘い事言ってるな。雄程大きくないとはいえ、翼竜は余裕を持てる程楽観的な相手じゃないってのに」
物悲しい雰囲気を払拭するように、閃我絶狼(ea3991)がざったそうに髪を掻きながらう言い放った。
「雄を殺しちゃったし、話を聞いてくれる可能性は低いけど、あたしもできればムダな戦いはしたくないよ。何もしないで諦めるなんていうのは嫌だしね♪ ダメで元々、当たって砕けろだよ♪」
「俺は当たって砕けたくないね。セリアが言っただろう、命は1つだと。竜も他のモンスターも同じだ。人に害を為す以上、こちらとしては退治する、それだけの事だろうに」
あっけらかんと言うチカに絶狼は肩を竦めた。絶狼の手は屍を築いてきたモンスター達の血で汚れていた。それは彼だけではないはずだ。
「せめて、ドラゴンパピィだけでも助けられないですか?」
「そうですね。確かに絶狼さんの仰る通り、まとめて退治してしまうのが確実ではあります‥‥ですが、安易にその選択をしてしまうのも。できる限り、足掻いてみたいのです」
コルセスカ・ジェニアスレイ(ea3264)の切望をセリアは深々と頷いた。絶狼は面白くなさそうに押し黙り、聞き手に回る。
「ウィングドラゴンとの通訳は可能だよ」
「交渉できるのであれば、私は以前、ドラゴンと会話した事があるのでな、その時の経験が活かせるとよいが‥‥」
「そうそう、それ、おたくが話したっていうドラゴンの種類はなんだい?」
ミリートがスクロールを取り出すと、テスタメントにクリオ・スパリュダース(ea5678)が訊ねた。
「ムーンドラゴンだが」
「ムーンドラゴンは凄く大人しく、知性の高いドラゴンなんだよ。それに比べてウィングドラゴンの知性は獣並だし、性格も攻撃的だからね」
ドラゴンにも話やすい相手とそうでない相手がいるとクリオは説明した。
「ドラゴンパピィを助ける方法として、ケンブリッジで買い手を探そうとシフール便を送ったんだけどね」
「もしくは、ウィングドラゴンに出ていってもらうしかないですね」
「交渉のネタとしては、この領地から移り、別の場所で生活してもらうしかないだろう」
ドラゴンは研究的な希少価値が高いと踏んだが、現時点でクリオの元に返事は来ていない。
今のところ、コルセスカの提案が確実だとテスタメントは同意した。
「鬼達が出て困ってる山とか、竜の餌が豊富で棲めそうな場所の心当りとか、ミルコさんや舞姉に探してもらったんだけど‥‥」
鈴那が言い淀むとミルコは苦笑した。カシアスの領地は、彼とその部下が力試しの為に片っ端からモンスターを討伐したので、被害を生むモンスターは生息していなかった。鈴那の義姉、逢莉笛舞が調べた場所は、山を3つ越えたところだった。
「交渉の余地がないよりはいいです」
「こちらはその手伝いを全力でさせてもらう事も含めてな」
「作戦の方は決まったであろうか?」
「きゃ!?」
それでも無いよりは言いというコルセスカに、テスタメントも気持ちは同じだった。彼女の後ろから“ブラッディ”ネイルへウィングドラゴンの被害に遭った村の復旧作業の陣頭指揮を引き継いでいたカシアスが声を掛けると、コルセスカは可愛い悲鳴を上げた。
「これは失礼、レディ」
恭しく礼を取るカシアス。
「ウィングドラゴンが領地からいなくなればいいのですから、交渉も排除も構わないですな」
「俺は翼竜との事前交渉には反対なんだけどな。代替案はあるが、それ以前にこちらは雄を殺している。それに、仔竜も殺さないと後々の災いになるだろう」
カシアスに「翼竜と交渉したい」と持ち掛けた鈴那が作戦の概要を説明した。カシアスが鈴那達の意見を承認すると、多数決に従っているものの不満気な絶狼がそう付け加えた。
「しかし、お館様ももったいない事をするよね」
「ウィングドラゴンの雄の亡骸を埋葬した事かな?」
「寒いから腐敗は遅いし、買い手が付くまで待てばよかったんだよ。領地の収入になるし、研究の役に立てば誰かの為になる。無駄にするよりはいいんじゃないかな?」
「とはいえ、神聖騎士が勧めたのだし、ずっと置いておくのは精神衛生上よくないのだよ」
クリオの商人根性に舌を巻くカシアスだった。ちなみに、埋葬を勧めたのはセリアである。
●交渉決裂‥‥か!?
鈴那は出発前にネイルからウィングドラゴンの巣の様子を聞いた。ウィングドラゴンは切り立った崖の上に巣を作っているという。
「戦闘の足場になる場所ねぇ‥‥斜面の中腹に踊り場みたいなところがあるから、そこなら10人立っていても大丈夫かな」
ネイルに礼を言うと、鈴那達は一路、ウィングドラゴンの巣目掛けて出発した。
「付け焼き刃でも意外と役に立つものだね」
テスタメント達を先導するクリオ。彼女は雪上の土地勘を学んだばかりだったが、それでもまだ積雪の少ない雪山なら十分役に立った。
鈴那がウィングドラゴンの翼の音を聞きつけた。テスタメント達が木陰に隠れるとその直後、ウィングドラゴンの雌とおぼしき陰が頭上を横切ってゆく。
「雄よりは一回り小さいようですが、それでも翼を広げた姿は7、8mはありましたね」
目のいいセリアがウィングドラゴンの姿を捉えて感想を述べた。
鈴那はウィングドラゴンの巣の場所を確認すると、勾玉を握って気配を消し、巣の周りを偵察した。
「翼竜に気付かれていないのだから‥‥こっそり近寄って奇襲を掛けるべきなんだが、交渉が優先だからな。とにかく戦闘時に不利にならない、なるべく足場が安定してる場所を探すとするか」
絶狼も彼女の後を追うように偵察に出掛ける。
ネイルの言ったように巣の近い中腹に踊り場のような場所があり、そこなら足場も安定していて交渉もやりやすそうだった。
「今回はこれくらいしかできないけど‥‥いくよ、ウィンドレス!!」
「私もです‥‥聖なる母よ、悪し者から我らを護り賜え」
チカが無風空間を踊り場に発生させ、コルセスカが奇襲に備えて不可視の結界を張る。
ウィングドラゴンはミリート達の気配に気付いたのか、ゆっくりと首を巣の下の方へ向けてくる。
『私達はあなたと話しに来たの!』
『人間ガ何用ダ?』
スクロールを広げたミリートが先ず声を掛けると、ウィングドラゴンの返事が脳裏に返ってきた。今のところ襲う気はないようだ。
『此処にいても死ぬだけだよ。だから、人の居ない他の地に行って欲しいの。それと、もう食料を求めて人の世界を侵さないで欲しいの』
『我ラニ飢エ死ネトイウノカ?』
『ううん、そんな事はないよ。餌のある場所は教えてあげるし、そこまでの食料も用意してあげる。アナタの夫の事を許せとは言わないし、言える訳がない‥‥でも、コレを拒むとアナタが死に、その結果子供も死ぬ。分かってる筈だよ? 全部、アナタの判断次第なんだって‥‥』
『夫ノ命ヲ奪ッテオイテ、ヨクモヌケヌケト!』
今度は返事の代わりに真空波のブレスが来た。コルセスカの張った結界は一撃で吹き飛んでしまう。
「交渉決裂のようだな!」
絶狼が嬉々としながら既に創り出した水晶の剣を掲げた。
「少なくとも‥‥同じ女性として、背後に子のいる母親は絶対に引かない、諦めない、命の尽きる最後の一瞬まで戦う事は理解できますから」
「そうだね‥‥出来れば殺したくはないけど、でも、必要な時は手は抜かないよ。それが、相手に対しての礼儀だから」
先のウィングドラゴンより手強いものと戦う覚悟でクレイモアを構えるセリアに、オークボウに矢を番えたミリートが愁いを帯びた表情で告げる。
「行け、裁きの雷っ!!! ‥‥って、やっぱりあんまり効いてないーーーーー!?」
チカはダメ元で電撃を放つが、やはりウィングドラゴンは抵抗してしまい、本来のダメージを与えられない。
ウィングドラゴンは急降下してくると、チカ達の頭上すれすれで滑空体勢に入った。この滑空によって生じる暴風圏は無風空間に護られているクリオ達に効かないとはいえ、ウィングドラゴンへのミリートの矢は命中が格段に下がってしまう。
それでもミリートの矢に援護された鈴那が疾走の術を使い、少ない足場を利用してウィングドラゴンを攪乱する。
「恨むなとは言わん、だがこちらにもこちらの事情がある。納得できぬなら力尽くしかあるまい‥‥お互いにな」
「でも‥‥私達にも、護らねばならない人々がいるのです」
降りてきたところへ、絶狼とセリアのスマッシュが炸裂する。合わせてミルコはクレイモアで、カシアスはシルバースピアで、それぞれウィングドラゴンの両翼に傷を負わせた。だが、ウィングドラゴンも鉤爪による洗礼をきっちり4人に負わせる。
「私が盾になる。あなたは回復に努めて欲しい」
テスタメントがコルセスカの前に立ち、ウィングドラゴンからの攻撃を一身に受けた。重傷を治せるのはコルセスカだけだ。チカも事前に仲間から集めたポーションを腕に抱えていた。
「ハッ! 楽しいな、これはッ!」
闘氣を刀と身体に纏わせたクリオは、上手く急所を外して攻撃を受け、間髪入れずカウンターを叩き込んだ。
彼女だけではなく、絶狼もセリアも小細工は一切していないので、コルセスカとチカだけでは回復が間に合わない程、手傷は見る見る増えてゆく。
だが、持久戦に持ち込まれ、単騎のウィングドラゴンの体力は尽きようしていた。
「これでサヨナラ! Bye―byeだよ!!」
ミリートが傷ついた翼を穿つべく弓を構えた次の瞬間――
『きゅー』
戦いの緊迫感を殺ぐような、何とも愛らしい爬虫類の鳴き声が聞こえてきた。
地に横たわったウィングドラゴンの前に、いつの間にか巣から這い出てきたドラゴンパピィが立ち塞がったのだ。
「‥‥そんなのズルイよ‥‥撃てないよ‥‥」
割り切って矢をウィングドラゴンへ向けるミリートだが、盛んに首を傾げるドラゴンパピィに円らな瞳に見つめられると、矢先は震え、やがて弓を下ろした。セリアもクレイモアを、クリオも刀を彼女に倣って下ろした。唯一武器を構えているのは絶狼だけだった。
「ミリート」
「うん」
テスタメントの言わんとする事を察し、ミリートは再びスクロールを繙いた。
『その仔の為にもアナタには生きていて欲しいの。餌のある場所は遠いけど、そこなら餌を狩っても誰も文句はいわないよ。少なくともここにいて、子供と餌を心配をするよりはいいんじゃないかな?』
『分カッタ‥‥コノ仔ニ救ワレタ命ダ、コノ仔ノ為二使オウ』
ウィングドラゴンの返事をミリートから伝え聞いたセリア達は思わず歓声を上げた。
「竜殺し、か‥‥この分じゃ、名乗るのはまだまだ甘いか」
「いや、一匹殺しているんだから名乗っても構わないだろう」
絶狼だけはばつが悪そうだったが、テスタメントが肩に手を置いた。
コルセスカがウィングドラゴンを治療すると、飛べるまでに回復した。
ミリートが背中に乗せてもらえないか訊ねると、短期間だけなら許しが出た。ドラゴンパピィを胸に抱いて一緒に背に乗り、新天地へ向かう母子の旅立ちに向けた明るい歌を贈ったのだった。
●それぞれの出立
麓まで戻ってくると、カシアスからアクセサリーが追加報酬として贈られた。
「あなたの気持ちを聞きたかったのですが、残念ですな」
コルセスカにはカシアスからヴェールが贈られたが、彼女からの返事はなかった。そんなカシアスを慰めるように肩に手を置くネイル。
「ミルコさん!」
「鈴那、お疲れさん。そういえば言いたい事があるって言ってたよな?」
鈴那は一人きりでいるミルコを見つけると声を掛けた。彼は労いの言葉で返事をした。
「ええ、言うから聞いて欲しいの‥‥人を思いやり、自分を変える勇気と優しさを持った貴方が‥‥好きです‥‥」
「好きって‥‥ええ!? 俺の事をか!? でも、俺、突っ走ると‥‥」
鈴那の思いがけない告白に、ミルコは驚きしどろもどろになる。彼は好きになると暴走してしまう前科があった。
しかし、鈴那は首を横に振った。
「幸せな時も辛い時も、貴方と一緒に居たいのです‥‥だから、ずっと一緒に居てくれませんか?」
「‥‥こんな俺でよければ」
「ミルコさんじゃないと嫌です」
「俺も鈴那になら安心して背中を任せられるぜ」
ミルコの返事を聞いて、感涙に瞳を潤ませる鈴那。ミルコが太い指で鈴那の涙を拭う。彼女がその手に誓いの指輪を渡すと、ミルコも慌てて懐を探り、風精の指輪を渡した。
「この飾りが鈴那に似合うと思って‥‥」
「ありがとう。指輪の交換ね」
実は鈴那は風精の指輪を持っていたが、それは気にせず、ミルコからもらった方を指に嵌め、天に翳した。
その上を背にドラゴンパピィを乗せたウィングドラゴンが旋回して飛び去っていった。
斯くしてカシアスの領地からウィングドラゴンの母子は去っていき、騒動は終わったのだった。