【天使の笑顔】可愛いガーゴイル!?
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■シリーズシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:9〜15lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:7人
冒険期間:12月09日〜12月19日
リプレイ公開日:2005年12月20日
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●オープニング
●あなたを愛して‥‥
『‥‥お姉ちゃん‥‥2人でこっそり食べたリンゴ‥‥美味しかったね』
『ええ』
『‥‥サンダーバードっていうの? バチバチ光ってて、凄い鳥さんだったね‥‥』
『ええ』
『‥‥誕生祭の日に見に行ったリネア‥‥キレイだったね‥‥』
『ええ』
『‥‥冒険者さんからもらった聖夜祭のプレゼントは、今でもわたしの大切な宝物だよ‥‥』
『いつも絵を見ながら、ぬいぐるみを抱いて寝ていますし、銀のネックレスも肌身離さず着けていますしね』
『‥‥こくようのひめもはくばのおうじさまも‥‥ステキだったよね‥‥』
『ええ』
『でも、ゴーストさんもしにがみさんもかっこよかったよ‥‥』
『あら、ミュゼットはそんな事を考えていた観ていたのですか?』
『‥‥お姉ちゃん、わたし、もうすぐセーラ様のところへ逝くんだよね?』
『‥‥ええ。いい子にしていれば、セーラ様も喜んでミュゼットを歓迎して下さいますよ』
『‥‥じゃぁわたし、悪い子でいい‥‥悪い子でいいから‥‥もっとお姉ちゃんと一緒にいたい‥‥ママにも会いたいよぉ‥‥』
『‥‥このお薬を飲んでゆっくりとお休みなさい。最初は気持ち悪いかもしれませんけど、大丈夫、目覚めた時にはママにも会えますよ、きっと』
『‥‥ホント! じゃぁわたし、気持ち悪いのガマンするね‥‥』
●真実
市民街はいつもと変わらない活気の中にあった。市民街の外れに居を構えるクレリックのシエル・ウォッチャーは、その中を今日の教会での勤めを終えて帰路に就いていた。
純白の法衣にその身を包み、顎のラインで切り揃えられたプラチナブロンドが歩みに合わせて静かに揺れる。腰にはクルスソードを下げ、ショートソードを腰帯に差している。背筋をピンと伸ばして歩く姿は流麗でどこか神々しく、“聖女”を思わせた。
擦れ違う女性や子供達が挨拶をしていくと、彼女もにこやかに応えてゆく。
「お帰り。一服させてもらっているぜ」
「でしたら、家の中に入っていればよかったのに」
自宅の壁に寄り掛かってパイプを吹かしている女性の姿があった。溜息が出るくらいきらびやかなブロンドヘアを湛えた、気の強そうな顔立ちのエルフの女性だ。
彼女はパイプを軽く掲げてシエルに挨拶した。パフスリーブの上着は胸元やへそを大胆に露出し、丈の短いスカートを穿いている彼女の姿は、シエルの自宅の日当たりが良いとはいえ、この冬空の下では見ている方が寒く感じてしまう。
「大事な妹さんにタバコの臭いが付いちまうのは厭なんだろう?」
「そうですけど、それとフリーデさんが外で待っていて風邪を引く事は別です。今、温かい飲み物に淹れますから中に入って下さい」
「悪ぃな。でも、タバコは頭が冴えるんだぜ?」
「そのような異臭を放つ物で冴えるとはとても思えませんが‥‥セーラ様は喫煙は禁じてしませんから」
シエルが玄関の扉を開けると、手厳しい言葉にエルフの女性は肩を竦めてパイプの火を消し、その後に続いて中へ入った。
エルフの女性の名前はフリーデ、薬師(くすし)を生業とするウィザードだ。
フリーデがリビングの暖炉に火を着けて待っていると、シエルが湯気の立つハーブティーを持ってやってきた。
「ミュゼットの村について何か分かったのですね」
「ああ‥‥あんたの予想より、もっと厄介な事態だったがな」
ハーブティーで冷えた身体を温めると、フリーデはおもむろに切り出した。シエルは彼女にミュゼットの村について調査してもらったのだ。
「コカトリスの仕業ではない、というのですか?」
「コカトリスの石化は全身が石になるまで約1分掛かる。村の女性達の石像を詳しく調べたんだが、その間に足掻いた跡がない‥‥つまり、一瞬で石化されたという事だ」
シエルとミュゼットは本当の姉妹ではない。ミュゼットの村は数匹のコカトリスによって全滅してしまい、彼女だけが生き残ったのだ。偶然、ミュゼットの村の近くに立ち寄ったシエルが村から逃げてきたミュゼットを保護したのだが、彼女はショックのあまり心身を壊し、目覚めて初めに見たシエルを姉だと勘違いしているのだ。
石像群が立ち並ぶ村の惨状から、シエルは今までコカトリスの仕業だと考えていたが、フリーデが見た限り、大半の女性達はつい先程まで生活していた姿そのままに石化していたという。中には逃げている姿もあったが、それは石化された者を見た恐怖からだとフリーデは推測した。
「一瞬で石化させる事の出来るモンスターなどいるのでしょうか‥‥」
「それがいるんだよ。ゴーゴンって奴がね」
ゴーゴンは、上半身は女性で下半身は蛇とラーミアに似ているが、髪の毛の1本1本も蛇という姿をしているという。
「神話なんかでよく人を石化させるメドゥーサの眷属なんだけど、その割に性格は意外とおとなしくてな、人目を避けて廃墟に棲んでるんだが」
「もしかして、ゴーゴンの棲家がミュゼットの村の近くに‥‥」
フリーデの物言いでは、ゴーゴンはそうそう人を襲うようなモンスターではないように思えたが、シエルはその事よりも脳裏に厭な予感が過ぎった。
「もしかして、だぜ。村から歩いて半日くらいの所に廃墟があった。村の周辺を調べてみたが、ゴーゴンの棲家と思える場所はそこしかなかったな‥‥だが」
「何か気になる事でもあるのですか?」
「ガーゴイルがいたな。破損していなかったからまだ動くかもしれないぜ」
「先ず、そのガーゴイルを倒さなければならないのですね」
「ただな‥‥」
「?」
そこまで話すと、フリーデは言いにくそうにカップの縁を指で何度もなぞった。シエルが先を促すと、彼女はばつが悪そうに髪を手で梳いた後。
「そのガーゴイル、すっごく可愛いんだよ! 悪いけど私、あんな可愛いガーゴイル、倒せないぜ」
フリーデの続く台詞にシエルは唖然とした。
ガーゴイルは魔除けの為に凶悪な悪魔の姿をしており、大半はインプというデビルを象っているが、廃墟にあるガーゴイルはグリマルキンというコウモリの翼を持つ大きな黒豹の姿をしたデビルを象っていた珍しい物だったのだ。ただ、グリマルキンを知っているフリーデだからこそ「可愛い」という感想が持てるのであり、知らない人からすればやはり凶悪な悪魔でしかない。
「でも、ゴーゴンと会わなければ真相は分かりません。そしてガーゴイルを倒さなければゴーゴンと会う事すら出来ないのでしたら、倒すしかありません」
シエルは立ち上がると、先程ハーブティーを入れたお湯の残りを桶に入れ、リビングの隣にあるミュゼットの部屋へ向かった。
ミュゼットの横たわるベッドの真横の壁には、虹が描かれた絵が飾られている。
そしてミュゼットは、ぬいぐるみを抱き、銀のネックレスとキューピッド・タリスマンを首に掛かけて安らかな寝顔を浮かべたまま――石像と化していた。
シエルは最後の手段として、フリーデの創った石化薬を飲ませて延命を計ったのだ。
お湯に布を浸し、ミュゼットの冷たく固い石の身体を拭くシエル。これが日課になっていた。
「ミュゼットの病はこの子の心の傷がそのまま現れたものです。快復させる方法は、もはや本当の家族と会わせるしかありません。その為でしたら私はどんな事でもします。ですからフリーデさん、先ずはそのガーゴイルを退治して下さい」
翌日、シエルからガーゴイル退治の依頼が冒険者ギルドに張り出されたのだった。
●リプレイ本文
●地獄耳の2人
「シエルさん、久しぶり!! みんながコカトリスの瞳を譲ってくれたお陰で集まってきたぞ!!」
「私も大勢の方々に支援を賜りました。壊すといけないのでシエルさんにお渡ししておきます」
「こんなにたくさん‥‥ありがとうございます」
ボルジャー・タックワイズ(ea3970)と緋芽佐祐李(ea7197)から14個のコカトリスの瞳を受けとると、シエル・ウォッチャーは涙ぐんだ。
「まだ始まったばかりだから泣くのは早いわよ。これからあたし達が村を調査しに行くんだから」
「お任せ下さいよ依頼人殿ォ。ガーゴイルとは戦闘経験がありますからねェ〜」
レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)がシエルの背中をばしばし叩く。レヴィとシエルは酒飲み友達であり、彼女が飲み過ぎた時によくお世話になっていた。ちなみに、レヴィがシエルと飲むといつも酔い潰れるのはレヴィだった。シエルはざるというか、枠というか、酔ったところを見た事がなかった。
ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)がレヴィに調子を合わせる。彼はシエルが教会でも高い地位にいると聞き及んでいた。
「シエル先輩、お久しぶりです。ミュゼットさんの事を聞いて、私の代わりを連れてきました。こき使って下さい」
「ふふふ、ありがとう。でも、こき使うのは私じゃなくてフリーデだから」
「こらこら、2人して何を話しているのよ。まぁ、セリア君からお願いされたら、イヤとは言えないけどね。一肌脱ぎましょう」
後輩のセリア・アストライアがユーウィン・アグライア(ea5603)を紹介すると、やっとシエルが笑った。
「その身が石になろうともココロはそこに‥‥起こしてくれるのを待っているように眠っているみたい。あたしももう一度ミュゼットちゃんの笑顔が見たいな」
「ミュゼットはん‥‥うちも頑張るしな、待っててや?」
ティアイエル・エルトファームは安らかな寝顔を浮かべるミュゼットの石の頬を撫でながら子守歌を唄い、その横ではイフェリア・アイランズ(ea2890)がシエルのように布でミュゼットの身体を拭きながら挨拶をした。
「こんな小娘1人の為に延命処置を計るなんざ、物好きなやっちゃのォ〜」
「‥‥おまえがどんな感想を持とうと構わんが、依頼人の神経は逆撫でしない方がいいぜ。俺もシエルも無類の地獄耳だからな」
ヴァラスはシエルに聞こえないよう呟いたつもりだったが、いつの間にか後ろにいたフリーデにたしなめられ、慌てて取り繕った。
「村の人達を助けるから元気出してね!! そうすれば妹さんもきっと元気になるよ!! だから1人で悩まないでね!!」
ボルジャーがそういうと、佐祐季達を連れてシエルの家を出発した。
「でもシエル君、総てが終わればミュゼットちゃんは君の元を離れちゃうだろうけれど、それでも本当にいいの?」
「そうよ、もしミュゼットちゃんの本当の家族が戻ってきたとして、その時あなたはどうするの? ‥‥たとえ一時でも、血の繋がりがなくても、あなたは彼女にとって確かに家族だったのよ」
ユーウィンとレヴィはシエルと3人だけになると、思っていた事を告げた。それは他の人の前では話せない、シエルにとって残酷な内容だからだ。
「‥‥その時はこの地を離れて天に還ります。わたしはあの娘の為に、長い間留まりすぎましたから‥‥」
「天に還る? ああ、総本山に戻るって事ね」
「あなたはそれでもいいかも知れないけど、家族を失う哀しい思いを、もうさせないであげてね」
2人はそれだけをいうと、イフェリア達の後を追った。
「ミュゼットに会わなくていいのですか?」
「‥‥まぁ、いろいろと思うところはあるのだけれど、元気になれば何時でも会える訳だしね」
アルヴィス・スヴィバル(ea2804)はいつもと変わらない、飄々とした物言いでシエルに軽く挨拶をすると、壁に寄り掛かりパイプを吹かしているフリーデの方を向いた。
「初めまして、フリーデくん。ご高名はかねがね、といったところかな?」
「自己紹介は歩きながらでもできるでしょ、さぁ、行きましょう」
エルドリエル・エヴァンス(ea5892)に先を急かされ、挨拶もそこそこにキャメロットの入り口へと向かった。
「ミュゼット嬢と村の人が助かるといいでござるな」
「深追いは禁物と卦が出ています。調査する時はくれぐれも気を付けて下さい」
キャメロットの入り口で、佐祐季にミートパイのお弁当を渡す沖鷹又三郎と、占った探索の注意事項の結果を告げる神哭月凛。
「流石にエチゴヤにももう残っていませんでした」
「村の復活、ミュゼット様の心と体の回復‥‥そして向かわれる方々にご無事を‥‥」
フリーデがコカトリスの瞳を納品した店などが無いか訪ね歩いたクウェル・グッドウェザーが報告する傍らで、アルヴィス達の無事を祈るアデリーナ・ホワイト。
多くの仲間に見送られた、キャメロッからの出立となった。
●誰もいない村で
セブンリーグブーツを履いたボルジャーとレヴィ、韋駄天の足袋を履いた佐祐季、バルディシュを駆るユーウィンとアジババに跨るヴァラス、リベラルウィンドに掴まるイフェリアがミュゼットの村へ先行し、アルヴィスとエルドリエルはフリーデと共に後から現地で合流する事になった。
「‥‥おや? もしかして両手に花状態かな、これは」
「そうよ〜、こんなに美人のエルフのウィザード2人と旅ができるなんて、滅多にないわよ」
惚けたようにいうアルヴィスに、エルドリエルが「今更気付いたの?」とウインクをする。フリーデはただ苦笑するだけだった。
「ゴーゴンかぁ。噂には聞いた事があるけれど、どんな相手なのかしら? ジャパンの言葉に『百聞は一見にしかず』とあるけど、まさにそんな感じよね」
「一見するのはいいが、ゴーゴンと視線を合わせると即石化だから。視線を合わせないように見るのは容易じゃないぜ」
「犯人かもしれないゴーゴンに付いてだけど、会話で意思疎通出来るかな?」
早速、エルドリエルとフリーデのモンスター講座が始まると、アルヴィスは生徒宜しく手を挙げて質問した。
「性格はおとなしく、人目を避けて廃墟などに棲んでいるし、先ずは争いを避けようとするから、会話は可能だろう」
「今回の相手はグリマルキンの姿をしたガーゴイルよね。姿が可愛くても、所詮はデビル。本来の姿なんてどんな物だか分かったものじゃないわ。あんなのの何が可愛いのかしら? まぁ、もっとも、私は犬派だから気にならないんだけどね☆」
「悪かったな、俺は猫派なんでな」
グリマルキン型のゴーレムを可愛いと思うかどうかは、やはり感性によるもののようだ。
「♪治すぞ直すぞ。石の人〜。みんなで集める解除薬〜♯
♭そして倒すぞガーゴイル〜、そして待ってて妹さん〜♪」
ボルジャーには鼻歌を唄うという癖があるが、今回は呟きに近かった。ボルジャーからすればかなり本気である事が伺えた。
先日来たフリーデが踏み固めたのだろう、ボルジャーの背丈程もある雑草が延び放題の獣道を進むと、ミュゼットの村に着いた。
「これは‥‥聞きしに勝る凄惨さだね」
それがユーウィンの第一印象だった。1年以上も人の手の入っていない村は雑草で覆われ、家は傷み放題だ。
その中に女性達の石像が点在していた。雨風に晒され続けてきた石像群は苔生していた。
「ムハハハハーッ、こいつマヌケな格好で石になっとるぜー!」
静寂の中にヴァラスの笑い声が響く。彼が笑っているのは、腰を抜かして尻餅を付いた女の子の石像だ。
「やはり風雨に晒されて‥‥」
ユーウィンが手にしたのは石像の腕だった。傍らには立っていたのだろう、今では風か何かで倒れてしまい、腕の折れている女性の石像があった。生身に戻した後、クローニングの魔法を使わなければならないだろう。
その点は教会の協力は得られなかったが、シエルが協力する事をボルジャーに告げていた。
「石化されたのは人だけ?」
「そのようですね」
「家畜は無事だったって聞いたぞ!」
レヴィが辺りを見回すと、一通り確認してきた佐祐季が応え、ボルジャーが補足した。家畜は生き残った男性達が持って他の村へ移り住んだという。
「家畜が石化していなって事は、人だけ狙ったって事よね」
「この村の近くに他の村はありませんけど」
「石化した人の姿を見る限り、向こうの方から徐々に石化されていったようですね」
レヴィの推測に佐祐季が指すと、そこには先程ユーウィンが見つけた腕の折れた石像があった。しばらくは逃げまどう人々の石像が続くが、後半は気付かないままゴーゴンと視線を合わせてしまい、生活している姿のまま石化したようだ。
「わざわざ半日掛けて村まで足を運んで、何か理由があったのかしら?」
「明らかにこの村だけを、しかも男性達が出稼ぎに行っている時を狙ったようですね」
「端的に考えれば、この村だけを遅う理由があったって事よね?」
「石化される前に何か村で変わった出来事があったのでは?」
「でも、それを聞く事ができるのはゴーゴンだけだよ」
レヴィと佐祐季が意見を交わし合う。佐祐季が「ゴーゴンが何故村人を石化したか分かるまでは迂闊に元に戻さない方がいい」と提案した為、この村を襲った原因が聞けるのは、ユーウィンの指摘通りゴーゴンだけだった。
「今後の救出作戦用に、村と付近の地図を作ってきたで‥‥って、ヴァラス、何しとんのや!?」
「‥‥何見てるんですかァ〜。別にこの置物をパクろうなんて事は考えちゃあいませんよォ〜。このまま雨風に晒されるのは可哀想だと思ってェ、ちょいと木陰に動かそうとしただけですってばァ〜」
丸めた羊皮紙を持って飛んできたイフェリアは、ヴァラスが美女の石像を愛馬に積もうとしている場面にでくわし、必殺の蹴りの体勢に入った。彼は慌てて言い繕った。
●油断大敵
エルドリエル達が合流すると、そのまま廃墟へと向かった。
「エルさん、ガーゴイルを倒さない方が良い可能性はありますか?」
「これだけ腕っぷしの強い人がいるんだもの。よほどのポカをしない限り、きっと大丈夫よ」
戦いの準備を始める中、佐祐季がエルドリエルに訊ねると、レヴィが発破を掛けた。
「いえ、そうではなくて、ガーゴイルとゴーゴンが仲間である可能性を考えてみたのです」
「うーん、ガーゴイルは何かを守る為に置かれている事が多いから、あの廃墟を守っているのかも知れないし、廃墟に棲むゴーゴンを守っている可能性も否定できないわ‥‥」
「でも、ガーゴイルを倒さない限り、ゴーゴンと会話すらできないんじゃないかな?」
アルヴィスがいうように、ゴーゴンに会うにはガーゴイルを倒さなければならないのは確かだった。
「シエルはんとミュゼットはんのた〜めな〜ら、え〜んやこ〜らっと♪」
イフェリアが先行してガーゴイルに近づいた。エルドリエルの提案通り、どのくらい近づくと襲ってくるか判別する為だ。
イフェリアとガーゴイルの距離が徐々に縮まり、ガーゴイルの前足が彼女に届く距離になった瞬間、動き出した。イフェリアは一挙一足を見逃さなかったので、奇襲を難なくかわした。
彼女が逃げ出すとガーゴイルは追ってきたが、ある程度引き離すと元の場所へ戻っていった。
「動き出すポイントと帰っていくポイントが分かったところで、先ずは遠距離から攻撃を仕掛けるわよ」
「吹き荒ぶ氷片は研ぎ澄まされし刃 幾重にも重なりて我が敵を断たん」
エルドリエルとアルヴィスの手から放たれた吹雪がガーゴイルを包み込む。
「あたしが援護するから、ボルジャー君達は前線へ」
ユーウィンの矢が飛ぶ中、疾走の術を使った佐祐季が先行し、その後にボルジャーとヴァラスが続く。
レヴィがガーゴイルの動きを鈍らせ、佐祐季とイフェリアがガーゴイルを攪乱する。
「邪魔をするなガーゴイル!! 通さないならボルジャー・タックワイズが相手になるぞ!!」
「ウォオオオッ! 可愛い姿のガーゴイルだねェ〜〜ッ!! だがブッ壊すがね」
ボルジャーがハンマーを振り下ろし、ヴァラスが蹴りを入れた後、短刀で顔を斬りつける。
「壊すのが目的やし、ちゃらっとやって‥‥ま‥‥」
スクロールを取り出したイフェリアは、ガーゴイルに電撃をお見舞いしようとして廃墟を垣間見た。
アルヴィス達は中傷以上負う事なく、2匹のガーゴイルを撃退した。
フリーデがガーゴイルの破片を悲しそうに見つめていたのは、仕方ないだろう。
「師匠譲りの氷蝕の術、中々のモノだろう?」
「うん、凄かったぞ!! さて、これからが本番かな!! シエルさん、おいらがんばるぞ!! あれ、イフェリアさんとヴァラスさんは!?」
アルヴィスにボルジャーがガッツポーズを見せるが、そこで初めてイフェリアとヴァラスの姿が見えなくなっているのに気付いた。
「ガーゴイルがいるって事はよォー、金目の物もあるかもしれんなァ〜、ムヒ‥‥」
廃墟を物色していたヴァラスの笑い声は途中で途絶えた。
「奴が来る! 注意して! くれぐれも廃墟は見ちゃダメよ!」
蛇が地面を這いずる音に気付いたエルドリエルが全員に呼び掛ける。
「あなた達もこの輩の仲間?」
「イフェリアさん!? ヴァラスさん!?」
意外にも普通の女性の声が聞こえると、「ゴトッ!」と重い者を倒す音がした。ゴーゴンを見ないよう佐祐季が視線を上げると、イフェリアとヴァラスの石像が地面に倒れていた。
「人の家に勝手に入った当然の報いよ。ここには何もないからさっさと帰ってちょうだい。そして二度と来るんじゃないわよ」
ゴーゴンが後ろを向いたようなので、エルドリエルが霧を発生させ、ボルジャーとアルヴィスが2人を取り戻した。
「少なくとも戦う気はないって事よね? ‥‥もしかすると村の人に原因があるって可能性もあるもの。『討伐』じゃない解決法があるなら、それに賭けたいだけよ」
「‥‥一体何があったのか、できれば話して欲しいな」
ゴーゴンの口振りから交渉の余地があるとレヴィが告げると、ユーウィンが頷いて訊ねた。
「‥‥あの村の生き残りがまだいたのね。わたしをこんなところまで追いやって、今度はここから追い出そうとするのなら、今度は容赦はしないわ」
ゴーゴンは一旦止まると、ミュゼットの村との諍いについて話し始めた。
「さて、ハッピーエンドへまっしぐら‥‥とは、そう簡単には行かないようだね」
イフェリアとヴァラスをシエルの元まで運ぶのは困難なので、その間、アルヴィスが持っていたコカトリスの瞳で2人を元に戻したのだった。