【新・小さくて幸せな箱庭1】死人蘇る

■シリーズシナリオ


担当:恋思川幹

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:9 G 99 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:01月18日〜01月28日

リプレイ公開日:2007年01月25日

●オープニング

 武蔵国。比企左衛門大志透宗の領地には不思議なお社がある。
 固く閉ざされた門、中を覗き見ることも出来ない高い高い塀。
 詣でる者は誰もおらず、時々に誤魔化すように祭祀が執り行われるが、比企氏の主だった者しか同席しないという。
 このお社を巡っては不穏な噂が立ったことなどもあったが、その実態は隠されたままである。
「やはり、苦しい状態になっておられるのですか?」
「うむ。長尾との長い対峙が続き、この社に兵力を割き続けることに家臣からはあまりよい顔をされておらぬ」
「さようでございますか。藤四郎様はいかがなされるおつもりでございましょう?」
 その社の一室で、相談しているのが左衛門の嫡男である藤四郎能和である。そして、社に住まう姫巫女の侍女である松風局。
「姫巫女‥‥姉上を見捨てるつもりは毛頭ない。ただ、今まで通りに」
 藤四郎は眉間に皺をよせて、そう答える。
「しかし、それでは藤四郎様のお立場が‥‥。皆様に座笆様が必要だと思わせることが出来ればよろしいのですが」
 松風局は、しかしよい思案も浮かばなかった。

 この社に住まいし姫巫女、その名を磐座比売命とされ、神の言葉を伝える姫巫女として比企氏によって崇拝されている。
 これが表向きの話である。
 姫巫女の正体はハーフエルフである。まだ、開かれた月道が京都にしかなかった頃のこと。宮中に女官として出仕していた公家の娘を、イギリスの使者の一人であったエルフが夜な夜な訪ねた。そうして生まれた子であった。
 父親の公家は混血種の厄介払いの為に、お腹の子供と一緒に娘を東国の武士の嫁に出した。その武士というのが比企左衛門なのである。
 以後、生まれた子供はこの屋敷に隠して厳重に正体を隠してきたのである。


 藤四郎と松風局が頭を悩ませていると、他の侍女が廊下の遠くのほうから呼びかけてきた。屋敷から藤四郎に使い番がやってきたというのだ。
 藤四郎は座を立つと、お社の一番外側の門へ向かった。使い番といえども、このお社には入れない。
「何事か?」
「はっ、城の周囲に突然、死人憑きの群れが出没し、騒動となっております」
「死人憑きだと? それで城は? 無事なのか?」
 藤四郎は使い番の報告に目を見開いた。
「はっ。城に大きな被害はございませんが、藤四郎様にはすぐに帰城せよとの左衛門様のご命令にございます」
「よし、しばし待っておれ。状況は見えんだけに、どこに死人憑きが出るとも限らぬ。おぬしも一人では危険だろう。ともに城に戻るぞ」
「ははっ!」
 藤四郎はお社の警備を固くするように命令し、居城へと向かった。


 比企氏の居城は松山城という山城である。
 群れといっても、出没した死人憑きは十体かそこらの数であった。城の侍達が冷静に対処したことで、城には被害は及んでいない。
 しかし、問題は死人憑きがどこから湧いて出たのかということである。
 城の者達が必死に捜索した結果、それは城の目と鼻の先で発見された。
 松山城の隣にも山がある。この山には以前から不思議な穴があるのだが、その一番下に埋もれていた穴から死人憑きが這いずり出てきた形跡が発見されたのである。
 すぐさま、この穴は封鎖されて、常に数人が見張りに立つことになった。
 
「この際、この騒ぎを利用しようと思う」
 藤四郎は松風局にそう切り出した。こと姫巫女に関して、松風局は重要な相談相手である。磐座比売命にもっとも忠誠心厚く、それ以上に親愛の情を抱いている者だからだ。
「姫巫女に死人を鎮めて頂く」
「以前行った盗賊退治のような‥‥でございますか?」
 かつて姫巫女に疑いの目が向けられた時、姫巫女の力で冒険者達に神の霊威を付与して討伐を成功させる‥‥という儀式を行ったことがある。姫巫女が実際に神聖魔法や精霊魔法のようなものを使えるわけでもなく、またそれ以外の不思議な力を持っているわけでもない。ただ言えることは、そうして姫巫女の存在価値を高めなくてならないということである。
「少し危険だが、姫巫女には直接、あの穴に潜っていただこうと思うのだ」
「座笆様を‥‥ここから外へ?」
 松風局が驚きに目を見開いた。姫巫女はその生い立ちから、今までにお社の外に出たことがないのである。
 ずっと姫巫女の側に仕えてきた松風局は、お社の外に出ることが出来ない辛さをよく知っている。それだけに、危険は承知であっても、姫巫女に外の世界を見せることが出来るという期待をせずにはいられなかった。


 死人憑きが出てきた穴。
 掘り返してみると、その入り口は天井が高く、幅も広いことがわかった。入り口付近は長い年月の間に埋もれてしまったようであったが、穴は奥に伸びて埋まっていない空間が広がっているようである。
 死人憑き達は、いつの時代かはわからないが、この中に埋葬されたか閉じ込められたかした者達の成れの果てなのだろう。
 ここに姫巫女自ら乗り込んで死人憑きを鎮めてみせる。
 姫巫女が比企家にとって必要なものであると示す為、自身の運命を自ら切り開く為。
 姫巫女はこの話を了承したのである。

●今回の参加者

 ea2011 浦部 椿(34歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヒナ・ホウ(ea2334)/ 所所楽 石榴(eb1098)/ フレア・カーマイン(eb1503)/ 南天 陣(eb2719)/ ミュウ・クィール(eb3050)/ 緋宇美 桜(eb3064

●リプレイ本文


 姫巫女の存在がそう広く知れ渡っている訳ではないが、地元の人間くらいは好奇心に誘われて集まってきていた。その視線を避ける為、姫巫女の衣装は二重三重にも分厚くなり、市女笠を目深に被り、垂れ衣は透けて見えないように厚い布地が使われている。
 遠目には白と緋の塊のようであり、動きづらいことこの上ないのは一目で知れた。
 そんな装束を着せて、駕籠に乗せた上、周囲は冒険者と兵士でしっかりと固めて、関係者以外は近寄らせない。
「富士の嶺を高み畏み天雲もい行きはばかりたなびくものを」
 お社と松山城の間にある都幾川を渡ると開けた地形が広がっている。
 飛鳥祐之心(ea4492)は姫巫女の駕籠の側によって、万葉集の歌を口ずさんだ。
 駕籠の小さな窓が開いて、姫巫女の座笆が顔をのぞかせた。
「あれが富士の山か?」
 この日、天気はよく晴れた小春日和で、遠くに雪化粧をした富士山を見ることができた。それを座笆は目を細めてそれを眺めた。お社は山の東側の斜面にあり、そこから出ることの適わなかった座笆は、この時初めて富士山を見たのである。
「は、はい。そうです。‥‥前は力及ばずにこんな事になってしまいましたが‥‥今度こそは必ず座笆さんの力になります、以前の誓いの通りに」
 あの頃と変らず女性が苦手な祐之心は、少し言葉につまらせながらも、再び座笆に誓いを立てた。
「また、そう言ってもらえるのは嬉しいぞ」
 座笆は嬉しそうに答えた。それは単に誓いが嬉しいという以上に、一年半ぶりの再会を喜ぶ気持ちであった。



「‥‥入り口近くに動くものはないようです」
 ステラ・シアフィールド(ea9191)は魔法を使って、入り口周辺に動く物の振動がないかと探査する。そうして、安全を確認したところで姫巫女と冒険者の一行は比企氏の重鎮達に見送られて地下への冒険に旅立った。
 掘り返された入り口は狭かったが、内部に入ってみると想像以上に広く整えられた“通路”がまっすぐに伸びていた。
「‥‥詳しくはわかりませんが、この岩は掘りやすく崩れにくい性質だと思われます」
 所所楽林檎(eb1555)は岩がむき出しになっている壁を見て言う。わずかながら鉱物の知識があるからこその指摘である。掘りやすく崩れにくい性質ならば、この穴が誰かが作ったものであっても不思議ではない、という指摘でもある。
 一行の先導は祐之心、殿はカイ・ローン(ea3054)が務め、互いを援護しやすい陣形を組む。提灯をかざして先へと進む。
 幸いであったのは、足元がほぼ平坦であったことだ。冒険になれていない姫巫女でも歩きやすく、戦闘に支障もない。
 進んでいくと、すぐに十字路に差し掛かった。どちらへ続く通路も同じ大きさに統一されている。
「けひゃひゃひゃ、これはもう間違いなく『だれか』が作ったものだね〜」
 トマス・ウェスト(ea8714)が十字路を見て言う。そのことが死人憑きの出没と関係があるかもしれない。

「ちょうどいい、この十字路の物陰で姫巫女殿の着替えを済ませてしまおう」
 浦部椿(ea2011)が言った。
 椿は座笆のゴテゴテとした装束が、探索する上で支障があると考えた。
「うむ、わらわもこの格好で歩くのは難儀じゃと思っておった」
 座笆自身も椿の言葉に同意する。重く動きづらい装束は座笆の意思で着ているものではないから拘りもない。
「よし、じゃあ雪嶺が右へ曲がって奥の見張り。姫巫女様はその後ろで着替え。右へ曲がってすぐのところで左方向への警戒をステラ。俺達、男性陣は入り口側と正面奥に分けれて見張りだ。万一左方向から襲撃があれば、男性陣で挟み撃ちに出来る」
 カイがてきぱきと指示を出す。
「わかった、正面奥の見張りは任せろ」
「俺もいこう。入り口側は危険は少ないだろうから、カイとドクターとで平気そうだな」 レイナス・フォルスティン(ea9885)と祐之心が正面方向へ向かう。
「僕は右手に曲がって奥だね」
 羽雪嶺(ea2478)も割り振られた奥へと向かう。
「ああ、念の為言っておくが、覗き見などした場合は‥‥いわずともわかるな?」
 椿は音を立てて九字兼定の鯉口を切る。
「最低限のマナーはあるつもりだ。そんなことをするくらいなら、きちんと口説く!」
(「それに彼女に嫌われたくもないしな」)
「姫巫女の為だ。全力で手伝うつもりだ。その為にいるのに姫巫女を困らせることはしない」
 レイナスはそう言って正面奥の通路へ向かっていった。

「では、姫巫女様、このようなところではありますが、お召し替えを‥‥」
 林檎が充分に丁重な物腰で座笆を促し、着替えを始める。
「‥‥おぬし‥‥わらわの友人に似ておる。名は‥‥」
「えっ?」
 林檎は驚いたが、ゴテゴテした姫巫女の装束を脱がせていく手は休めない。変則的な状況は早く終わらせてしまうに越したことはない。
 だが、林檎に座笆への想いを託した姉の話をしない内に、林檎を見た座笆の口から姉の名が飛び出すとは思わなかった。
「わらわは友人が少ない。会える機会も限られておる。それで無理に面影を見てしまったようじゃ」
 少しばつの悪そうな顔になった座笆、薄着になった懐から布の包んだ螺鈿の櫛を取り出した。
「見るのじゃ、これはその友人から貰った櫛じゃ」
 座笆は嬉しそうに布を広げてみせる。椿もそれを見て美しい細工を褒める。
 そこで少しだけ手が止まったので、林檎も自分の荷物の中から櫛を取り出し、座笆に見せた。
「他人の空似ではありません。それはあたしの姉です」
 座笆に対する姉の想いは出発の直前に姉から懇々と聞かされた。そして、姉に対する座笆の想いは今の会話で知ることができた。
「所所楽林檎です。でも、姉とは関係なく私とも友達になってもらえると嬉しいです」
 だから、自分は自分で座笆との縁を作ろうと考えた。
「わらわは座笆じゃ。堅苦しい席では磐座比売命とも呼ばれておる。わらわも友になってほしいと思っておる」
 お社の堅苦しい席での形式ばった挨拶は既にしたが、これは新しい友達としての挨拶であった。
「浦部椿、諏訪の勧請を受けた社にて社務と舞手をしております。私のような者でよろしければ、友と思っていただく存じます」
 椿がその会話に続いた。
「は、はじめまして。僕は魔物ハンターの羽雪嶺だよ。僕もお友達になって欲しいな」
 少し離れたところにいる雪嶺が言った。
「わらわは‥‥嬉しく思うぞ」
 座笆は新たな友人ができたことを喜んだ。

「ところで、おぬし‥‥」
 今度はステラに声をかける座笆。
「はっ、フードを被り、顔を隠すご無礼お許しくださいますよう」
「いや、そうではのうてな、その声、聞き覚えがあるのじゃ」
 ステラはその言葉に驚いた。ステラは過去に何度となく座笆の為に依頼をこなしてきたが、直接の面識はあまりなかった。それは姫巫女とハーフエルフを同時に連想させるような状況を出来る回避したかったからである。
「そう、歌を聞かせてくれたのはおぬしではないのか? 初めて冒険者達が訪れた日、儀式を手伝ってもらった日、あれを最後に会えなくなった日‥‥」
「ご明察でございます。声だけでお分かりいただけたこと、光栄に思います」
「また、聞かせてくれよ」
「‥‥はい、喜んで」
 ステラは喜びを噛み締めるように一拍おいてから返事をした。



 姫巫女の着替えも無事に終り、一行は再び列を組んで、いよいよ本格的な探索に乗り出した。
「さて、この十字路をどっちに進むかが最初の問題だね」
 十字路の真ん中に立って三方を見回す雪嶺。
「けひゃひゃ、では、これを使ってみようか〜。幸運を招くというサイコロだからね〜」 姫巫女が着替えている間に、自分も着替えていたトマス。まるごと猫かぶりで扮装している。こんな人物であるから、取り出したサイコロも実はイカサマ賽だったりする。
 その賽の目にそって十字路を右へ曲がると、しばらくしてまた十字路に出る。これも賽の目によって右へと曲がり、
「どうやら、お客さんがいるようだぜ」
 提灯の明りが微かに届く辺りに、いくつもの骸が転がっているのを祐之心の鋭い視線が見つけた。距離をおいて発見できたことは奇襲を防いだという点で祐之心の功績である。
 祐之心の視線に気付いたかのように骸達はゆらりと立ち上がった。
「いい修行になる。姫巫女を頼んだ」
 褐色に輝く剣を抜き放つレイナス。隣で祐之心もジャパンの古い形式の直刀を抜く。
「神よ、その奇跡を顕したまえ」
 カイが姫巫女を守る為に、結界を張る。そのまま後方を警戒する。万一の挟み撃ちという事態に備える。
「おぬし達、皆、怪我のなきようにな」
 座笆の激励に背を押されるように前衛の二人が吶喊する。
 レイナスは剣を振り下ろし、祐之心は直刀を突き刺す。
 より大きな手応えを得たのはレイナスである。彼の一撃は死人憑きに痛手を負わせる。肩口から切り裂かれた死人憑きはバランスを失う。
「‥‥これが‥‥戦いというものか‥‥」
 椿と林檎の陰からレイナスの活躍を見ている座笆はその迫力に息を呑む。
「しっかり見ていて下さい。貴女が貴女自身の道を切り開く、そのための試練です。そして、あたし達が戦うのはその手伝いをしようというあたしへの試練です」
 林檎の言葉は黒の僧侶らしい言葉であろう。
 動く骸である死人憑きへの攻撃は、点の攻撃である刺突よりも、線の攻撃である斬撃が有効である。その点で祐之心の使う突きに適した古い日本の直刀は死人憑きには有効性が薄い。
 ミカヅチは魔力を持ち、霊剣と呼ばれるに相応しい格を持つ逸品である。しかし、武具の有効性という物は目的や状況によって常に変化するものである。優れた武器が常に有効な武器とは限らない。
「闘気を使ったから、代わって!」
 雪嶺がアンデットに高い効果を持つ闘気を武器に纏わせて前衛に立とうとした時、祐之心はまよわず場を譲ることが出来たのは手応えが薄いことを察知しえたからである。
「てやああっ!」
 雪嶺の龍叱爪が派手に死人憑きの体を引き裂いた。
「奥にもう二、三体いるぞ」
 レイナスが一体目を切り崩す。胴体を真っ二つにしても這いずりまわる死人憑きは徹底的に破壊する必要がある。
「あっ! しまった」
 雪嶺が声を発した時、動きの鈍い死人憑きの合間から飛び出した骸骨の死人が、レイナスと雪嶺の合間をすり抜けたのである。骸骨は死人憑きに比べれば知恵が働くという。
 咄嗟に骸骨の向かう先に視線を走らせる雪嶺。その隙を狙うという知能がないはずだが、タイミングよく死人憑きが雪嶺に腕を振り下ろす。
「くっ‥‥!」
 辛うじて、それをすり抜けた雪嶺は、交差を利用して反撃の一撃を見舞った。
 骸骨は手にした古いジャパンの直刀で、刺突の構えを見せて駆け込んでくる。
 祐之心は今度は斬撃で迎え撃つ。斬撃に向かないとは言われても、使えない訳ではない。
 が、それより先に林檎とトマスの奇跡が生ける骸骨に鉄槌を下す。
「死人は浄化されるがいいさ〜」
「死を拒むモノよ、御仏の元に試練を入れなさい」
 ボロボロになった骸骨に祐之心の一撃が止めをさす。
「危ないっ!」
 砕け散った骨の欠片が座笆に向かって飛んでくる。椿がとっさに座笆を庇い、額に骨が当たった。
「大丈夫でございますか?」
 椿はまず座笆に問う。
「わらわは平気じゃ。それより‥‥」
「一応聞くが、奇跡と薬、どっちがいいかね〜?」
「‥‥怪我の治療なら奇跡で頼む」
 心配する座笆を遮ったのはトマスである。癒せる傷であることがわかれば、庇われた座笆の負うところも減るというものである。



「奥は行き止まりだね」
「と言うより‥‥扉のようだな」
 奥にいた死人達をすべて葬った雪嶺とレイナスが、ようやく動かなくなった骸の背後の様子を伝える。
「入り口は一つじゃなかったということだね〜。多分、外側を掘れば、ここからも入れそうだね〜」
 トマスはメモ代わりに使っている白紙の巻物に地図を描き始める。
「‥‥皆さん、少々お待ちを」
 その時、ステラが緊張した声をあげた。
「今の戦闘が呼び水になったのかもしれません。この洞窟の中を動きまわるモノが増えました」
 ステラの振動を感知する魔法が洞窟内の様子の変化を捉えた。
「初夢にアンデッドが魚河岸の魚のように大量に出てきたが、まさか正夢になろうとは」
 カイは初夢の内容を思い出しながら、槍を素振りする。やはり槍は手になじむ。これがあるだけで、初夢の中に比べて状況はずっとよい。
「死者は死者らしく大人しく眠っていれば、この虎の牙の犠牲にならずに済んだのにね。さ、行こうか」
 雪嶺が一行を促した。



 探索の結果。
 洞窟は格子状に通路が掘られており、たくさんの十字路がある構造であった。
 ステラの振動感知とこの構造を利用して、時に挟み撃ちや待ち伏せを行って着実に内部にいた死人達を殲滅していった。
 埋もれた入り口がもう三箇所あることが発見されたのと同時に、洞窟の奥に厳重に閉ざされた扉があることも発見している。
「姫巫女は歩きなれていません。もちろん、冒険にも。この扉の向こうにまで探索を伸ばすのは、少し辛いかと思います」
 林檎が指摘したように、扉のこちら側の死人を殲滅するのにかなりの時間をかけている。座笆にとって肉体的にも、精神的にも披露が大きいのは、言われてみれば誰の目にも明らかであった。

「姫巫女様の負担を鑑みて、洞窟内の探索を一時中断いたしました。閉ざされた扉の此方側は、姫巫女様の神威にてすべての死人を滅することが出来ました」
 椿が比企藤四郎に報告を行う。
「そうか、ご苦労であった。その扉と奥は日を改め、万全の準備の下に再度の探索を行うこととする」
「姫巫女様には充分な休養をお取りいただくよう、お願い申し上げます」
 林檎が口を添える。

 かくして、第一次探索はそれなりの結果を残して終了することとなる。