【新・小さくて幸せな箱庭2】迷宮

■シリーズシナリオ


担当:恋思川幹

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月08日〜03月17日

リプレイ公開日:2007年03月16日

●オープニング

 武蔵国。比企左衛門大志透宗の領地には不思議なお社がある。
 固く閉ざされた門、中を覗き見ることも出来ない高い高い塀。
 詣でる者は誰もおらず、時々に誤魔化すように祭祀が執り行われるが、比企氏の主だった者しか同席しないという。
 だが、その固く閉ざされていた門が開け放たれて、磐座比売命が初めて外界に出るという事態が生じた。
 比企氏の居城である松山城の隣に見つかった広い地下空間、そこに巣食う死人達を鎮める為の儀式であった。

 冒険者を伴ったその儀式は実質的に、地下空間の探索行であった。
 姫巫女と冒険者達は見事に役目を果たし、地下空間の第一階層と言うべき地点までの探索をくまなく終えている。
 この探索行で発見された地下空間最奥の扉。
 しばしの休息と調査期間を挟み、次はこの扉を開けて、さらなる奥への探索を開始することになる。


「座笆様、そろそろ休息といたしましょう。あそこに茶屋が見えてまいりました」
 松風局が示した先には、別の侍女が控えており、茶と菓子を用意して控えていた。
「そうか。では、そうするかの」
 座笆はそれに応じると、用意してあった敷物の上に腰を下ろし、乾いたのどをお茶で潤す。
「それにしても‥‥」
 一息ついたところで、座笆は空を見上げて小さく嘆息する。
「どうなされました? 座笆様」
「このようなことをしておって、本当に役に立つのじゃろうか?」
 ここは磐座比売命の社の内部である。
「何もしないよりはよいことでございましょう。すぐに体力をつけることは難しくとも、とにかく感覚的に慣れることが肝要でございます」
 先の地下空間探索に置いて、同伴した冒険者達がもっとも懸念したのは座笆の体力であった。社から外に出ることなく育った座笆の体力はもちろんのことだが、歩き慣れていないことから、冒険者達は座笆の身を心配したのである。
 そうした冒険者達の想いを感じとった座笆は、少しでも足手纏いにならないようにと強く感じたのである。
「さあ、座笆様、次は大津の関でございます。京の都は目前でございます」
 そこで遊びを兼ねて歩く特訓を始めた座笆と松風局は、社のあちらこちらに各地の地名を書いた札を貼り付けて、全国行脚を始めたのである。
「うむ。では、出発いたそう」
 座笆は気を取り直して立ち上がるのであった。


 そして、地下空間の第二次探索が比企氏によって決定される。
 やはり磐座比売命を中心とした一団という名目になる。
 扉の奥がどのような空間になっているのかは不明であるが、扉そのものの堅牢さを考えると何かが封印されているという考え方も出来る。
 万全を期した対応が必要であろうと考えられている。

●今回の参加者

 ea2011 浦部 椿(34歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ウィルフィン・シェルアーチェ(eb1300

●リプレイ本文


 すでに踏査された格子状に掘られた階層。一行は奥へと続くであろう扉に向けて移動している。前回と同じように姫巫女の着替えは、すでに済ませている。
「すでに退治された骸からわかったことは少ないのですね。持っていた武器が古い直刀で、それ相応の古い時代‥‥ですか」
「すまない。調査といっても、出来ることはたかが知れている‥‥というのが実情だ」
 所所楽林檎(eb1555)の言葉に、比企藤四郎能和は力なく答える。
「史料や口伝、伝承なども、駄目でしたか」
 カイ・ローン(ea3054)も言葉を継ぐ。
 藤四郎はやはり首を振る。
 そもそも、この場所に洞窟があること自体、ながらく知られていなかったのである。
「上に比較的小さな穴がたくさんあったようだが、あれは?」
 レイナス・フォルスティン(ea9885)が聞く。
 この大きな洞窟の入り口とは別に山腹にいくつもの穴が開いている。藤四郎によれば、いくつかの穴は発掘してみたが、穴の大きさ、深さともに小さなものであるという。
「次の機会には専門家‥‥と言っても冒険者になるだろうが、詳しく調べる必要がでてくるだろう」


 扉の前で見張りに立つ藤四郎とその腹心の侍を残して、冒険者一行と姫巫女は扉を開けて、洞窟の奥へと入り込んでいった。藤四郎自ら出てきたのは姫巫女の姿を出来るだけ晒さない為である。
「姫巫女をくれぐれもよろしく頼む」
「ご心配なさらないで下さい。これは彼女が道を開く試練‥‥共に歩むのは友として、そして自身へ課した試練として‥‥」
 頭を下げた藤四郎に林檎はそのように答えた。
 扉は外側から厳重に閉じられていたが、内側からは閉じられていなかった。つまり、内から外へ出られないように封印されているということである。しかし、一方で扉の内側に閂などがかけられるようになっていた。
「この扉、外から中に入られないようにすることもできるんだ」
 羽雪嶺(ea2478)が扉の内側を観察してそう言う。
「でしたら、何かを閉じ込める為に作られた洞窟ではないのでしょうね」
「‥‥別の目的で作られたモノを、化生の類を封じる為に流用されたモノか?」
 林檎と浦部椿(ea2011)がそれぞれに推測を述べる。
「皆さん、さっそく敵を感知しました。四つの振動が下から登ってきます」
 ステラ・シアフィールド(ea9191)が魔法を使い、索敵をした結果を伝える。
 扉から入った先は下へ降る坂道になっている。
「いい修行になる」
 レイナスが聖剣アルマスを鞘から抜き放つ。磨きぬかれた褐色の刀身が松明の明りを照り返す。
「後ろは任せた。先陣は任せろ」
 力たすきで、襷掛けにした飛鳥祐之心(ea4492)は刀身の美しい相州政宗を抜き放ち、前へと進む。
 まずは小手調べ。四体の死人憑きは瞬く間に撃退された。



「これは大分、複雑な構造だねぇ〜」
 繰り返し遭遇する死人を撃退しながら、冒険者達は奥へと進む。トマス・ウェスト(ea8714)が気だるげに言うように、格子状に整えられた前の階層とは一転して、複雑な構造となっていた。その複雑な様子はトマスの手元のスクロールにつぶさに書き取られていく。
「のお、ドクター。その目が光っている様子が怖いのじゃが‥‥」
 トマスが声をあげたのをきっかけにして、座笆が先程より気にかかっていたことを聞いてみた。
「けひゃひゃ、これは「まるごと白い人」といってだね〜、我輩を模して作った防寒具なのだよ〜」
「ふうむ。変らず奇怪な輩じゃな‥‥質問に答えておらぬし」
 仮にも防寒具であるので全体的にもこもこした感じのトマスを、座笆は珍奇なものを見る視線を送るのであった。その時であった。
「右だっ! ドクター!」
 カイの叫びにトマスが視線を向けた時には、横合いの小さな穴から出現した怪骨が手にした矛を大きく振りかぶっていた。
「ちぃっ!」
 まるごと白い人は防寒具であるから、その怪しい表情が変わることはないが、中の人はかなり焦っていた。それでも応戦する為に神に奇跡を祈る。
(「間にあわないか!」)
 瞬間的に神聖魔法を発動させることも出来るが、それはトマス本人の反応できる範囲内においてである。すでに攻撃態勢にあった怪骨のほうが明らかに速い。
 次の瞬間、トマスの祈りに応えた神の奇跡が怪骨を浄化していた。
 後には天井のデコボコにひっかかった矛だけが残っている。
「‥‥この厄介モノに助けられたね」
 トマスを助ける為に駆け寄ってきた雪嶺が天井を見ながら言った。
 格子状になっていた上の階層と違い、こちらは天井の高さ、通路の幅などが場所によってまちまちになっていた。
「後ろ、大丈夫か?」
 前衛を務める祐之心が前方を警戒しつつも声をかけてくる。
「少し待っててください。座笆さん、お怪我はありませんか?」
 座笆の安否を確認していた林檎がその無事を確かめて、前衛の二人に答える。
「しかし、参ったな。こうも武器の取り回しに苦労するなんて」
「そういう工夫‥‥なのか? これは」
 ぼやく祐之心にレイナスが尋ねる。
「奥に進むに難く、外へ向かうのに易し。そういう印象を受けるな。この洞窟は人口の物だから、そういった防御装置があるのも不思議ではない」
 椿がかわって答える。一行の中では椿が一番こういったことに詳しい。
「けひゃひゃ、自分で引っかかってる様じゃ世話ないね〜」
 トマスが言う。
「それだ。俺達も戦いづらいが、死人達も武器の取り回しに難があるように思える。さっきのトマスの時もそうだったろう?」
 祐之心は前衛にたって、もっとも多くの敵と対峙している。
「アンデッドの為の防衛装置ではないのかもしれんな」
「じゃあ、誰かがこの迷宮を使って死人から何かを守ってたってこと?」
 話の流れからレイナスと雪嶺が推測の最終形を組み立てていく。
「あるいは今も守り続けている‥‥かもしれませんね。ともあれ、それも含めての調査です」
 座笆の様子を見ていた林檎が言う。
「ですが、今は少し休憩しましょう。周囲の警戒をお願いします」
「わらわはまだ‥‥」
「歩き慣れていない者が突然長い距離や不整地を歩くとよく足に豆を作ります。足袋のしわとか、些細な原因でなるのが厄介なところで。旅慣れない頃には私もよく悩まされたものです」
 林檎の休憩の提案に座笆が強がろうとする。それを椿が遮って、訥々と言い聞かせる。
「‥‥つまり、どういうことじゃ?」
「大人しく進言を容れられるのがよろしいかと」
 椿はそう言うと、鬼の面頬の下から座笆に笑いかけた。
「座笆様、おみ足失礼しますね」
 林檎が座笆の足を取り、やさしくほぐし始めた。



 闇の気配が変った。先頭を進む祐之心の鋭い視線がそう感じた。
 しばしの休憩を挟み、探索を再開してしばらくしてのことである。
「‥‥そうか、光の当たり方が変ったのか。みんな、広い空間に出るぞ」
 気配の違いをそう理解した祐之心は後ろにいる仲間達にそう伝えた。同時に懐から布に包んだしゃれこうべを取り出す。生ける死人の存在を感知する魔法の品である。
 祐之心が念を込めながら頭を叩くと、布の下からくぐもった音で歯を鳴らしている。その様子はかなり激しい。
「いるか」
 それを見てレイナスは剣を軽く一振りする。
「かなり多そうだ。どうする?」
 祐之心はしゃれこうべをしまいながら、後ろの面々に尋ねる。
「こちらが動きやすく、敵が動きにくいところで迎え撃つのが最良だが‥‥」
 椿は考えるが、適当な場所が思い当たらない。
「このまま前進して、広い空間の入り口で待ち受けるのがいいだろう。武器の制限はうけないし、すぐにこちらの狭い通路に退くことも出来る」
 カイが提案する。
「けひゃひゃ。このまま狭い通路に一列に並んでても我輩の援護もしづらいだけだしね〜」
 トマスの同意もあって、一行は前進することを決断し、慎重に前進していく。
「まだ‥‥動きはありません」
 周囲の振動を魔法で探査しているステラが言う。長く閉じ込められていた為であろうか、徘徊している死人はほとんどいない。しかし、生きる者の気配を感じれば、まるで今まさに甦ってきたかのように立ち上がり、這いずって、道連れを増やそうと牙をむいてくるのである。
「思ったよりも広そうだ‥‥明りが届いていない」
 狭い通路を抜けると、闇が広がった。狭い通路であれば視界内をすべて照らせるが、光が届かない広い空間は、かえって闇を際立たせる。
「‥‥動きだしました。あたり一帯にうごいめいています‥‥」
 ステラが何かが動き出す様子を感知する。
 それを聞いて、祐之心、レイナス、雪嶺が通路出口の前に立ちはだかる。武器は十分に振るえる広さがあり、背後は壁と出てきた通路だけである。通路を城として、三人を城壁とした布陣である。その城壁の内側に林檎、トマス、ステラが援護の為に入り、本丸である座笆の直掩に椿、搦め手である通路側の防備にカイが立った。
「神よ、このいたいけな少女を守りたまえ」
 カイが姫巫女を中心に聖なる結界を張る。これで不足の事態が起きても、最低でも一撃は耐えることができる。
「どんどん増えています‥‥十‥‥二十‥‥こんなにたくさん‥‥」
「落ち着くのじゃ。おぬし達なら大丈夫じゃ。わらわはそう信じておる」
 想像以上の敵の多さを感知したステラが思わず声を上擦らせると、座笆はその肩に手をおいて激励する。ステラの肩に置かれた、小さな手も震えていた。
「‥‥お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
(「お礼をしないといけませんね。約束のこともありますし。何をお聞かせすればいいでしょうか。踊りも上達してきましたし、ご覧に入れたいものですが‥‥耳が問題ですね」)
 座笆の励ましを嬉しく思う。おかげでステラは冷静さを取り戻せている。
「っ! 雪嶺さん、足の速い敵が突出してきます!」
「任せてっ!」
 ステラが警告を発した時には、雪嶺はすでに闘気を錬って待ち構えている。
 現れたのは骨だけの死人。死人憑きと比べれば、はるかに俊敏である。
「はっ! たぁっ!」
 骸骨の朽ちかけた矛と雪嶺の龍叱爪が数合打ち交わされると、雪嶺は相手の力量を見切って、大胆な大技を仕掛ける。
「たりゃあああぁぁっ!」
 渾身の力を込めた雪嶺の正拳が骸骨の肋骨を粉砕していた。
「レイナスさん、祐之心さん、散発的に足の速い敵がきます。レイナスさんのほうに二体、祐之心さんのほうへ一体!」
 レイナスと祐之心も迎撃の態勢を整えている。一足一刀の間合いは結界の如く研ぎ澄まされ、それを乗り越えてくる敵に対して波涛の如き猛攻を加えた。
 それをトマスと林檎の魔法が援護して前衛の負担を減らす。
「次です! 雪嶺さんのほうへ‥‥」
 振動を感知する魔法の感覚を使って、冒険者一行の目となったステラ。彼女の適確な索敵によって闇の中から襲い来る死人達を適確に撃退していく。
「その後、大軍が来ます。軽く数十体‥‥お気をつけ下さい」
「ふぅ‥‥集中力を切らさないようにしないとな」
 ステラの警告にレイナスはそう呟いた。しかし、体は硬くなってはいない。アビュダの剣先は流れるナイル川の如くである。
 やがて冒険者達の明りの届く範囲に死人達がその姿を現した。
 身につけている物はすでに風化が激しかったが、
(「敗残の兵士みたいだな」)
 そんなことを感じながら、祐之心が死人達の群れの中へ身を投じた。存分に相州政宗を振るいながら、囮としての役割を意識して立ち回る。
「おおおおっ!!」
 前衛に上がった椿が蜻蛉の構えから重さを乗せて九字兼定を振り下ろす。剣先から扇状に衝撃波が生じる。
「一網打尽だ!」
 祐之心の鼻先を掠めた衝撃波は多くの死人を吹き飛ばした。

 いずれ劣らぬ冒険者達であるから、少々の死人憑き如きに遅れをとるものはいない。
 しかし、こうも数が多ければ別であろう。死人憑き達は数が多いことと、すでに死したモノ故の頑強さによってじわりとじわりと冒険者達の体力を奪い取っていく。
「いくつか結界を張る。息が切れそうな時は一度下がれ!」
 カイが前衛の戦士達の背後に結界を張る。
 カイの力では頑丈な結界を張ることはできないが、呼吸を整えることが出来る余裕ができることは体力の消耗を抑えるのに効果的であった。

 そうして、死人達の仕掛ける消耗戦を凌ぎきった時、冒険者達の疲労は大きなものであった。



 休憩を済ませると冒険者達は、大量の死人と遭遇した広い空間の探索を始めた。
 空間の奥にあったのは巨大な城門のような扉であった。
「凄い‥‥もしかしたら、あの死人達はこの城門を突破しようとし、しかし力及ばなかった者達なのかもしれない」
 カイは「城門」を見てそう考えた。
 「城門」の前には二重三重の堀や土塁が構築され、周囲の壁面には弓や投石、魔法による攻撃の為であろ狭間が設けられている。地下空間であるから、天井にもそういった工夫がされている可能性もあるだろう。
「どうやら、この地下空間は城や砦のようなものであったのは間違いないようだ」
 この堅固な城門、途中の迷宮の随所に工夫された防衛のための構造。それらを考えて椿の出した答えである。
「じゃあ、この門の中には何がいるのかね〜?」
「死人よりももっと厄介なもの‥‥か」
 トマスの答えを求めるわけでもない問いに答えたカイ。カイは警戒しながらも、大胆に「城門」に近づいていく。土塁も掘もそれ自体を乗り越えるのは手間ではあっても、難しいことではない。
 カイは「城門」に糸を括りつけた。誰かが「城門」を使っているのであれば、糸に現れた変化で把握することが出来るはずである。
「今回の探索は、ここで一区切りをつけておこう。あの大量の死人を相手にした後だ。自分達で思う以上に疲労しているはずだ」
 糸を括りつけ終わったカイは仲間達にそう提案した。

 二度目の探索において、この地下空間の使用目的が浮かんできた。
 しかし、誰が、何の為に築き上げたのかは以前不明であった。