【港街の味】海〜新たな美味を求めて
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■シリーズシナリオ
担当:呼夢
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月05日〜06月10日
リプレイ公開日:2005年06月10日
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●オープニング
昼夜を問わずドレスタットの冒険者達が集う酒場『メルキュール』の店内では、今日もシャルロッテが忙しく動き回りながら常連新顔取り混ぜてにぎやかに盛り上がるテーブルに料理の皿を並べている。
「はい魚の蒸し物にフィッシュフライ、こっちは干魚ね」
一通り注文の品を配り終えたのか、テーブルの一つに近付くと無造作に干魚を引きちぎって口に放り込んでいる常連の一人に声をかけた。
「海が近いって割にうちの魚メニューって今ひとつパッとしないのかしらねえ?」
「そいつぁ確かだ。蒸す、揚げる、こいつなんぞ漁師が干したのを仕入れてそのまんまだろうしな」
噛んでいた干魚をワインで飲み下しながらにやりと笑う。
「それならさ、キミ達でちょっと新しいメニューでも考えてみない? もちろんあたしがけしかけたって事は内緒よ」
いたずらっぽく片目を閉じてみせる。確かにシャルロッテがけしかけたなどということがシェフの耳に入れば皿の一つや二つは飛んできかねない。
「一応魚には限らないけど海の物ってことで、近場で手に入る材料を使ってなんか目新しいメニューを提案してみてくれないかしら。マスターやシェフにはお客さんからの『強い』要望ってことにしとくからね。
料理の得意な人は作って見せてくれてもいいし、苦手な人はアイデアだけでもいいわよ。手の空いてるときにうちのシェフに作らせるからね。調理場の方も食事時や夜の混んでる時を避けて使えるように掛け合っとくから。
まあうちの酒場で出すんだから値段のことも少しは考えてくれるとうれしいんだけどね。酒場で10Gもする料理を頼むお客さんはそうそういないだろうし。月道輸入なんぞ使った日には値段が跳ね上がって誰も手を出せなくなっちゃうからねえ。
あとは調理場を大改造とか言うのもよしてよ。それといくら海の物だからってモンスターの肉なんてのもお断りだからね」
何人かの客が参戦の意向を表すと、満足そうに頷きながらマスターに交渉すべくカウンターの方へと歩み去っていった。
●リプレイ本文
どうやらシャルロッテはマスターやシェフにうまく話をつけることに成功したらしい。『メルキュール』の比較的客の少なくなる時間を利用して調理場を借りることと、調理の技術を持たないものの為にシェフが手を貸すことが決まった。
開始当日、メニューの提案に名乗りを上げた面々が朝早くから酒場のテーブルを囲んだ。さすがにこの時間では仕込やら何やらでまだ店は開けていない。
「酒場の新メニューらか〜〜。やっぱり美味しいメニューを作りたいらよね〜〜。試食が楽しみらし〜♪」
仲間達の周りを飛び回りながら、ミーファ・リリム(ea1860)が無邪気にはしゃいでいる。メニューを考える前から既に頭の中は試食の方に飛んでいるらしい。
「あ、私も美味しいお料理を頂くのは大好きよ」
どんな料理を作ろうかと悩んでいたらしい神楽薫流(eb2631)も試食の話には相槌を打つ。
「とりあえず、ま、あたしも料理にそんなに詳しいわけじゃないが、人生だけは長く生きてるから年の甲でいい案を出したい所だねえ」
一同の中では外見的に最も年長に見えるナタリー・パリッシュ(eb1779)も穏やかに応じた。尤も実際のところ、少女のように見えるエリア・スチール(ea5779)でさえも生きてきた年月はさほど変らなかったし、ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)に至っては40年近くも長く生きているのだが。
「私のお料理は家庭料理寄りですので少々不安ですが、まあなんとかなるでしょう」
テーブルの一角に場所を占めたマグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)は謙遜しているが、家事にかけては達人の域に達しており調理に関してもそれなりの腕である。とはいえ体格的に人間サイズの料理を作るためにはそれなりに人手を借りねばならない。既に何やら算段を立ててきたらしく、一日だけの手伝いを頼んだ友人の柳と連れ立って酒場を後にした。
「新メニューですか‥‥酒場に出すような代物ですから、やはり安くて、美味しくて、ボリュームがあるのが一番でしょうねえ」
自らも料理人のはしくれであるアイヒヘルヒェン・ヤーデ(eb2644)がそう漏らすと、ナタリーも我が意を得たりとばかりに応じる。
「まず何が重要かというと間違いなく『安い』なんだよねえ。でなければみんな水をあんなに頼むわけがない。『安い』それでいて『うまい』を満たすもの‥‥。材料探しながら考えるかねえ」
ナタリーが腰を上げると、帽子と髪で耳を隠して仲間達のやり取りを聞いていたカグラ・シンヨウ(eb0744)もなにか思いついたらしく、席を立って出口へと向う。三々五々店を出た冒険者達のうちナタリーとカグラは港の方向に、アイヒヘルヒェンは市場へ、エリアはなぜか森のほうへと散っていった。
後に残った神楽とワルキュリアが思案を続けている一方で、ミーファは自分で材料を集めて来たり調理をするつもりはないらしく、シェフを相手に思いついたアイディアを披露していた。鮭の一匹も持てば飛べなくなってしまうことを考えれば材料の調達など端から無理な相談ではある。
「う〜ん、私それ程お料理が得意っているわけじゃないのよねぇ‥‥でも、何かを作らないといけないしぃ〜」
「料理の心得はあいにく私もないのですが‥‥さて、どうしましょうか」
「美味しくて、見栄えがして、何より作るのが簡単なのが必須事項だと思うの。となると‥‥」
「確かに作る方のことを考えると、手間暇かかるのも避けた方がよいでしょうし、お店のことを考えるとあまり材料費がかかるのも‥‥思ったより難しいものですねえ‥‥」
やがてが何か思いついたらしくジャパン生まれにしては珍しいオレンジ色の瞳を輝かす。
「『おなべ』なんかいかがかしら? 水から煮たお野菜や魚、たまにお肉なんかも入れるんだけど‥‥一つのお鍋で作ったものを各自がお醤油ベースのたれで頂くの♪
あ、でもこちらだとお醤油は手に入らないのよね‥‥まあ代用品でなんとかなるでしょ」
神楽が材料調達の為に市場へ去った後も、しばし思案にふけっていたワルキュリアがふと立ち上る。
「‥‥そういえば、海草も海産物になるのでしたっけ?
では、海草のサラダなどいいかもしれませんね。ただそれだけですと歯ごたえに難がありそうですから、アクセントとして黒パンを揚げて細かくした物を少し振って、ビネガーとお塩で味付け。ああ‥‥何だかよさそうです。味付けに関しては、まだ考える余地があるとしましても‥‥基本はこんな感じでいいかもしれませんね」
なにやら独り言を呟きながらいそいそと酒場を後にするのだった。
ただ一人酒場に残ったミーファはシェフを相手にアイディアをぶつけている。
「魚を使う料理なんらよね〜。ジャパンじゃ『サシミ』って言って生の魚食べるみたいらね〜。手間がかからなくって、いいんじゃないらか〜? ミーちゃんは気にしないけろ普通の人には、やっぱり抵抗あるらかね〜。
ジャパンでも『ショーユ』ってソース使うらしいけろ、濃い目の味のソースで味を誤魔化し‥‥あ、いや〜、『調整』した方が良いと思うのら〜〜。題名は『ドレス風サシーミ』らかな〜〜」
実のところ魚を火を通さずに食べる習慣はジャパンに限ったものではなく、海が近いこの地方でも漁師達を中心に広く行われているとの噂だ。
「あとは、今まれの蒸し物でも、ワイン蒸しにしたり、キノコあえにしたりしてみたら良いんじゃないらかね〜〜。両方やると、すごい事になりそうらけろ〜」
とりあえず提案だけして自分は試食専門というつもりらしく、シェフの反応などはお構いなしに楽しそうである。
一方最初に出掛けていったマグダレン達は海岸の岩場にいた。タガネと金槌を持ち海岸の岩場についたフジツボの一種通称『亀の手』を採取している。尤も実際の作業は力のないマグダレンには無理なので専ら柳が担当していたのだが。
漁師達の大勢集まる港に最初に姿を現したのはナタリーだった。あちこちとうろつきながらに沢山採れる魚介類を尋ねて回る。材料を安く上げるため水揚げされるものの内普段はあまり食用として喜ばれないようなものも聞き出す。
この辺で揚る魚といえば鰊や鰈、鯖、鱈、鮭などが一般的で思ったよりも種類は少ないらしい。
やがてカグラやワルキュリアも少し遅れて港に姿を見せると、夫々にタコや貝類、海草などを譲ってもらうように交渉していた。作法教師でもあるワルキュリアは、もとより誰に対しても礼儀正しく穏やかに問いかけていたし、カグラのほうも素性を隠しながらできるだけ丁寧に接してはなんとか目的のものを手に入れていた。
市場に着いたはアイヒヘルヒェンはとりあえずどういう魚や野菜があるかを見て歩いていた。
「確か‥‥うなぎがこの時期美味しいはずですから‥‥うなぎを使った料理というのもいいかもしれないですねえ。‥‥んっ、でもちょっと海というテーマと離れてしまうかしら‥‥でしたら他の白身魚の擂身と今の時季のお野菜とかも細かく刻んだり、擂ったりして入れて‥‥野菜とうなぎのテリーヌって言うのはいかがでしょうか?
白身魚も安い魚でいいでしょうし‥‥できれば、擂ると粘りけの強い魚がいいでしょうね。そう言った魚を沢山使って数を作れば、結構値段も抑えられると思いますし」
なにやら独り言を口にしながら材料を見繕っていく。
続いて市場を訪れたのは神楽だ。その日取れたもの魚貝の中から適当なものを見繕うと、野菜を物色し始めた。できるだけジャパンの鍋物に近い雰囲気にしたいのだが、やはり並んでいる野菜の種類が違うようである。似たようなものだろうということで、カブ、たまねぎ、キャベツ、チコリなどを代用品として仕入れた。
そこへ森にローズマリーなどの香草を摘みに行っていたエリアも顔を出す。香草焼に使うために鱸でもないかと探しているが見つからないらしい。
「鱸ねえ、ジャパンにいるころはよく食べたけど、こっちに来てからはお目にかからないわよ」
神楽はそう答えたが、名前にjaponicus と付いているくらいだからジャパン独特の魚なのかもしれない。とりあえず鱈あたりで間に合わせることにした。
袋いっぱいの亀の手をぶら下げた友人と共にマグダレンも姿を現す。連れの持っているものを訊ねられて自慢げに説明する。
「フジツボの一種で通称『亀の手』と言いますの。普通に塩茹でして、長い胴の皮を剥いて中の肉を食べますが、スープにしても絶品。潮の香りと食感は蟹や海老以上ですわ」
市場の中で残りの材料を物色する。
「鯵はありませんのね‥‥それじゃ鱈と鯖でもいただこうかしら。それから貝とエビ。玉葱、セロリ、大蒜なんかも必要ですわね」
連れの荷物が次々に増えていく。なかなか本格的な料理ができそうである。
酒場に戻ると各々料理を作り始める。
エリアは魚の腹を割いて内臓をきれいに取り出すと、森でとってきた香草をを入れて香草焼きを作り始めた。
マグダレンも火を通して小骨を除いた魚肉を擂鉢で擂り、バター、刻んだ香草、火を通した微塵切りの玉葱、大蒜、セロリを加えてペースト状にしていく。塩茹でしたそら豆や海老のすり身なども同じようにペーストにして大皿に彩りよく盛り付ける。『鱈と鯖のリエット』の完成だ。これをカリッと焼いたパンに塗って食べるらしい。
続けて玉葱と亀の手や各種貝類と白身魚、香草を亀の手のだし汁を張った大鍋で煮込んで『亀の手のブーリッド』を作り始める。煮ている間に擂鉢に大蒜と一つまみの塩を入れ擦こ木で潰す。これに卵黄を加えてよく混ぜ、オリーブ油を少しずつ加えながら粘りが出るまで混ぜ続け最後にレモン汁を加えてアイオリソースの完成だ。
ワルキュリアの作る『海草サラダ』はいたってシンプルでたちまち完成した。自分の料理を作り終えると、他の面々のメニューも気にかかるらしく、一人だけでも、無事にメニューに加えられるとよいのだがと祈りを捧げるのであった。
カグラは、『コリプニ唐揚げ』と名付けたタコの唐揚げと『貝のバター炒め』『海草のスープ』をとりあえず自分の手で作っていみていた。から揚げには衣の味付けに工夫を加えていくつかのバリエーションを与えてみる。
ナタリーも魚の擂身で揚げ物を作っていたが、中に入れるもので食感の違いを演出しようとしていた。いわゆるさつま揚げのようなものであろうか。
神楽は仕入れてきた魚貝と野菜を食べやすい大きさに切ると、そのまま鍋に張った水に豪快にぶち込んで火をつける。煮えている間にビネガーや塩などを調合して、ポン酢の代わりの何やら怪しげなつけだれを作ってご満悦の様子である。回りの仲間にもいいから食べてみてなどと盛んに勧めていた。
唯一料理人であるアイヒヘルヒェンは目などに入ると毒だといううなぎの血液に細心の注意を払ってを捌き、他の白身魚や野菜を擂り潰したものと合わせて『うなぎのテリーヌ』を作っていた。途中取り分けた骨を利用して『骨せんべい』なるものを作ったのはご愛嬌である。
もちろんずっと酒場に残っていたミーファが、店内を忙しく飛び回りながら次々と完成する新メニューを片端からつまみ食いしていったことは言うまでもない。
こうして試作された十種類以上にも及ぶ料理は、冒険者たちにより数日間に渡ってシェフ一人で作れるように猛特訓を施され、日を改めて試食会が催されることになったのである。