【港街の味】海〜アレ・キュイジーヌ

■シリーズシナリオ


担当:呼夢

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月17日〜06月22日

リプレイ公開日:2005年06月27日

●オープニング

 ドレスタットでその名を知らぬものとて無い冒険者酒場『メルキュール』、シャルロッテのちょっとした思い付きから始った新メニュー作りは、集結した八人の冒険者達の協力により十二品もの新メニューを生み出すことになった。
 これらの料理は、数日間に渡る猛特訓の結果なんとか一通りシェフのレパートリーとして客に出せる程度には仕上がっている。
 とは言えこれだけの品目を全て酒場のメニューに加えることなどできるはずもなく、断を下しかねたマスターは、日を改めて試食会を催すことにしたのである。これにはメニューの製作者以外に第三者の審査員も若干名だが募ることになった。
 
 新メニューの内訳は以下の通りである。

■メニュー1『パリ風サシーミ』
 新鮮な魚の骨を取り除いて食べやすい大きさにカットしただけのもの。『ショーユ』の代りに塩とビネガーに微塵切りの玉葱と香草を入れたたれを付ける。塩漬けした生鰊の塩抜きをしたものに刻んだ玉葱をまぶしただけの『ハリング』もあり。
■メニュー2『魚のワイン蒸し』
 いつもの蒸し物に一工夫して、季節のキノコを散らしワインで蒸上げたもの。
■メニュー3『鱈の香草焼き』
 鱈の内臓をきれいに取り除き、その中にローズマリーなどの香草を詰めて焼いたもの。
■メニュー4『鱈と鯖のリエット』
 火を通して小骨を除いた魚肉を擂鉢で擂り、バター、刻んだ香草、火を通した微塵切りの玉葱、大蒜、セロリを加えてペースト状にしていく。塩茹でしたそら豆や海老のすり身なども同じようにペーストにして大皿に彩りよく盛り付ける。これをカリッと焼いたパンに塗って食べる。
■メニュー5『亀の手のブーリッド』
 玉葱と亀の手や各種貝類と白身魚、香草を亀の手のだし汁を張った大鍋で煮込んだ大蒜風味の白いブイヤベース。たっぷりのアイオリソース(大蒜、塩、卵黄、オリーブ油、レモン汁で作ったソース、大蒜風味のマヨネーズのようなもの)を添えて。
■メニュー6『海草サラダ』
 その日に手に入った数種の海草食べやすい大きさに刻み、アクセントとして黒パンを揚げて細かくした物を少し振って、ビネガーとお塩で味付けしたシンプルなサラダ。
■メニュー6『コリプニ唐揚げ』
 ズバリ、タコの唐揚げ。衣の味付けに工夫を加えていくつかのバリエーションがある。
■メニュー7『ムール貝バター炒め』
 これまたズバリそのままの代物。ワインに合いそうな一品。
■メニュー8『海草スープ』
 これまた‥‥以下略。コンソメ味のスープ。
■メニュー9 名前募集中
 魚肉を擂潰したものにアクセントになる具財を入れて油で揚げたもの。(さつま揚げのようなもの?)
■メニュー10『おなべ』(仮)
 またの名を『ブイヤベース・ラ・ジャポネーゼ』。水から煮た魚介類や野菜(カブ、たまねぎ、キャベツ、チコリ)、肉等をお鍋で煮て各自が取り分けてビネガーや塩などを調合た『たれ』につけて食べる。
■メニュー11『うなぎのテリーヌ』
 骨を取り除いたうなぎの身を、他の白身魚の擂身や季節の野菜を細かく刻んだり擂ったりしたものと一緒味付けし、長方形の型に入れて蒸し上げたもの。
■メニュー12『うなぎの骨煎餅』
 上で残ったうなぎの骨を、そのままカリカリになるまで焼いたもの。

 審査員達は提案者も含めて全ての料理を試食し、10点満点で評価することになる。参加者達の強い要望でマスターもしぶしぶ賞金やら賞品やらを出すことに同意した。

 こうして酒場の新メニューを巡る熾烈なバトルが開始されることになったのである。

●今回の参加者

 ea1860 ミーファ・リリム(20歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ea5803 マグダレン・ヴィルルノワ(24歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea7983 ワルキュリア・ブルークリスタル(33歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 eb0744 カグラ・シンヨウ(23歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1779 ナタリー・パリッシュ(63歳・♀・ナイト・人間・イスパニア王国)
 eb2411 楊 朱鳳(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2631 神楽 薫流(37歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2644 アイヒヘルヒェン・ヤーデ(26歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 メニューに加える新たな品を選び出そうと開店前の『メルキュール』には試食会の参加者達が集まっていた。新メニューの開発者以外で唯一参加したのは楊朱鳳(eb2411)である。
「私は料理の専門家ではないので‥‥自分の好みになってしまうと思うが」
 他のメンバーが全員開発者なのを見て恐縮している朱鳳に向ってナタリー・パリッシュ(eb1779)が笑いながら声をかける。
「そんなこと気にするこたあないよ。あたしはイスパニアの出だからね。そう言う目でノルマン料理に相応しいかってのを審査しようとは思ってはいるけど、やっぱり自分の舌に合うのが一番さ」
「パリで有名な食通にして、かの『極食会』の一員、ミーちゃんが監修に参加するのら〜〜♪ 名前に箔がつくのらね〜〜」
 威勢良く飛び上がったミーファ・リリム(ea1860)だったが、周囲の怪訝な視線に心なしかトーンが下がる。
「しっ‥‥知らないらか〜〜??」
 パリ冒険者街のイリス通りにある某小料亭の主人を中心とした団体とかで、酒場にも出張して来ているらしいのだが知名度の方にはいささか疑問の余地があるようだ。
「私は味に敏感だとかうるさいだとかそういうことはありませんが。丹念に試食して、なるべく公正公平に評価をつけてゆこうと思います」
 この中から無事にメニューに加えられる品があるとよいのだがと、ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)は心の中でセーラ神に短い祈りを捧げる。
「‥‥れも‥‥『おなべ』いがいは食いでが無いのらね〜〜〜〜★」
「あたしの分も残しておいてくれよ」
 あっと言う間に立ち直ったミーファがメニューを見ながら溜息混じりに呟くのを聞きつけたナタリーはとりあえず釘を刺しておく。
「他の方の料理はどんな物でしょうか‥‥やはり、お魚を使った料理が多いみたいですね。海がテーマですから当然ですけど‥‥ところで、皆さんは、この料理をいくらで出すか考えているのでしょうか? 」
 メニューに載る値段を心配しているのは、自らも料理人であるアイヒヘルヒェン・ヤーデ(eb2644)だ。こうしていよいよ試食会が始ることになる。

『ドレス風サシーミ』
 これはさすがにかなり好みが分かれたようである。マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)はタレにつける手間が面倒だとしたものの、家庭にはない目新しさを認めてオリブ油と香辛料が欲しいなどという程度であったが。
「まぁまぁ、お刺身? まさか、異国の土地で口に出来るとは思わなかったわ♪」
 神楽薫流(eb2631)などはいたく感激したらしく、最初に試作を見た途端自分の提案した料理をそっちのけでジャパンの味に近づけようと奔走し始めた。
「お野菜と一緒に食べるならルッコラの若い葉っぱなんかが合うわよきっと♪ 後は‥‥薬味よね‥‥確か知り合いから山葵ににたものがあるって言われてて・・・ちょっとまってね市場で探してくるわ! 」
 言うが早いか店を飛び出していく。山葵の代りにはレフォール(ホースラディッシュ)を仕入れてくる。
「やっぱりショーユ欲しかったのら〜」
 との声もあり、最初の試食の後あちこち捜し歩いては『がろむ』と称される魚醤も何処からとも無く仕入れてきていた。その上でシェフに魚の切り方なども注文をいれては。
「うふふ〜これよこれ♪ まさにお刺身だわ♪♪ 熱々のごはんがあれば完璧なのよねぇ〜」
 などと悦に入り、終いには定食にしてもよいのではなどと言い出す始末である。
 これとは逆にカグラ・シンヨウ(eb0744)やナタリーなどは、火を通していないことからあたるのではないかと心配して最初から及び腰だ。ワルキュリアも拒否反応こそ示さなかったが生の魚の味については今ひとつピンとこない様子である。
 尤も生で魚を食べる料理には、ハリングなどこの地方特有の鰊料理もあるのだが。マグダレンはこのとき使う玉葱は乾燥した鮫の皮で摩り下ろすと良いとも言い添えた。

『魚のワイン蒸し』
「ワインにあうね。古いのにあうかわからないけど」
「古ワインにならない内に再利用出来るし、いいんじゃないかな」
 ナタリーの言葉をカグラが受ける。ワルキュリアもキノコが美味しいと褒めてはいたが、マグダレンはなかなか手厳しい。
「目新しさがないですわね」
「こっちは‥‥新メニューにするほどじゃないかも〜」
 どうやら提案者本人もあまり自信はないようである。

『鱈の香草焼き』
「香草が良い香りだ‥‥」
 どうやら朱鳳はこの香りが気に入ったらしい。応える代りにカグラの腹が鳴る。マグダレンもシンプルさがよいと思ったらしく、魚と香草は限定せず日替わりにするとよいなどの助言を添える。
「香草の味のバランスは良いんらけろ‥‥普通かな〜? 」
 やや物足りなげな声に、ワルキュリアが香草は好き嫌いの幅が個人で大きいからととりなす。ナタリーは手間と値段がやや気になる様子だ。

『鱈と鯖のリエット』
「パンに塗るアイディアが良いのら〜〜」
「確かにパン付きは嬉しいかな。彩りも綺麗で味も色々あって楽しいし」
 盛付けを端からパンに塗っては口に運んでいるミーファの意見に朱鳳も同意を表す。ナタリーはふと思いついた疑問を口にした。
「なかなかおもしろいけど、これ、パンは別料金とか言わないだろうね」
「これは普段出すよりもパーティ時、例えばお誕生日などに向いている気がします」
 ワルキュリアの提案にマグダレンも頷く。
「確かに多人数パーティ向きかもしれませんわね。調理の手間が多いですけど、多少は作り置きがききますし」
 カグラも美味しそうとは思うものの、材料の多さから値段が心配そうだ。

『亀の手のブーリッド』
「ちょっと大蒜が強すぎじゃないらか〜〜? 」
「確かに後で逢瀬予定の恋人には不向きですわね。セドラ(檸檬)汁が手に入るとは思っても見ませんでしたけど、これを使うと単価が上がりますから懐が暖かいお客向きかしら」
 率直な感想にマグダレンも笑いながら応える。檸檬はジーザス紀以前から薬用などとして伝えられた果実だが、医食同源の思想とともに食用として地中海沿岸の地域で栽培されだしたのは近年のことである。月道による人的交流の活発化にも後押しされたものだろう。
 ワルキュリアも冷えた身体によさそうだと評していたし、カグラとナタリーも亀の手のだしが気に入ったようだ。尤も朱鳳は、スープはともかくアイオリが苦手なようである。

『海草サラダ』
「美味しいのらよ〜〜。付け合せに良いかも〜〜」
「これはフライなどと一緒に食べることを想定してみたのです」
 狙い通りの評価にワルキュリアも嬉しそうだ。ナタリーも自分のより手軽に作れそうだと評したし、カグラとマグダレンもシンプルさや価格の安さがいいという。
 その上でマグダレンはクルトンの他極薄スライスで水にさらした玉葱を添えることや、ドレッシングは数種用意することも勧めた。

『コリプニ唐揚げ』
「ここで蛸を食べられるとは思っていなかったな‥‥」
 故郷で蛸は食べ慣れている朱鳳は感慨深げである。逆にナタリーは多少不気味な物を見るような様子だ。
「ネーミングが良いのらね〜〜。衣の種類を増やして飽きさせないのも良いのら〜〜」
 同様ワルキュリアも衣の工夫を評価している。マグダレンもかなり個人的には気に入ったようだが、香辛料をもう少し利かせるようアドバイスを添えた。

『ムール貝バター炒め』
 提案者のカグラはこれでワインを頼む冒険者が増えるのを密かに期待している。
「こういうのあたしは好きだね」
 ナタリーが褒めるとマグダレンにもシンプルで良いと頷く。
「ここは貝類のメニューも少ないらし、いいかも〜〜」
 ミーファやワルキュリア達も気に入ったようだ。

『海草スープ』
 これも評価の分かれるところで、海草のトロミがついたシンプルなスープが冷えた体に良さそうと言うナタリーやワルキュリアが高く評価した一方で。
「ん〜〜、もう一味欲しいかな〜〜〜? 」
 と言う意見や、スープは家庭でも作れるのでというマグダレンのような評価もあった。

『やわらか揚げ』 
「何だか懐かしい味だな」
 以前に食べたことのあるような感じに朱鳳が呟く。逆にカグラは食べなれない食感を楽しんでいるようだ。
「‥‥ふにふに? もちもち? アクセントもついてて、なんだか不思議食感」
 それを受けてかマグダレンは『プラウス・ヴィッシュ(ふわふわ魚)』の名称とともに、単品よりもダイス状に切ってサラダにでも加えては、との提案をしてみる。
 ナタリー自身も、中の具材は季節の野菜を刻んだものに加えて、食感のアクセントとして刻んだキノコを入れてみたことや、元にする魚はその日安くし入れたものを使うことなどを説明した。

『おなべ』
「さっぱりした味で良いのらね〜〜‥‥けろ、これって値段が高くならないらか〜〜?? 」
「そうだねえたしかに値段張りそうだけど‥‥みんなで食べたいから特定の日に出すとかした方がいいかもね」
 唯一食いでのありそうだと言っていた料理を満喫しながらも値段の心配をするミーファにナタリーがが応える。カグラは逆に残り野菜でも出来るのではないかと思いながらも気に入った様子である。
「お鍋はほっこり出来るから、好き」
 予め調味されない料理に、ワルキュリアはたれで味が変わってくるのかと疑問を呈する。
 一方マグダレンはと言えば代用品のオンパレードにどの辺がジャパン風なのか怪訝に耐えない様子だ。
「‥‥美味しけれどこれからの季節は少し辛いかも」
 朱鳳の懸念に対して、薫流は熱いときに熱い料理を食べて汗を流すのがいいのだと多少強引に説明していた。

『うなぎのテリーヌ』
「美味しいですよ、これ」
 ワルキュリア以下、味については絶賛する者も多いのだが、値段の気にかける者も多い。カグラや朱鳳なども。
「うなぎは美味しいし力が出る感じがするけど、捕るの大変みたいだからお値段が心配‥‥」
「本気で美味しい。でも値段が高そうだ。取れる季節に限定すれば‥‥」
 と心配していたし、マグダレンに至っては。
「うなぎは淡水魚なので安定入手が難しそうですわね。手間もかかるし定番には不向きなのでは」
 とにべもない。アイヒヘルヒェンもそんな気はしていたらしくあっさりと方向転換する。
「ボクの料理‥‥うなぎって書いてはあるけど、他の魚や野菜にしてもいいわけだしね☆ その日に上った白身の魚を擂身にして使えば、コスト的には大したことないよ。少し手を入れるとして‥‥そうだ、ドレッシングか何か添えるのも良いかなぁ? 緑の野菜か何かを裏ごしして味付けして、そばに添えてみようっと☆」
 いっこうに動じる気配もなく、新たな工夫を考えている。

『うなぎの骨煎餅』
「カリカリしてて食感が良いのらね〜〜」
「この食感は私も好きだな。骨までしっかり使う所も良い」
 ミーファの声にカグラも同意する。マグダレンも気に入ってはいるようだが、やはり素材である鰻の入手性に難を示す。ワルキュリアも同じ点を心配しているようである。
「なんかおまけで出すメニューにした方が良くない? 」
「これは、箸休めというか、おやつ代わりみたいなものだし〜」
 ナタリーからも止めの一撃が入るが、提案者のアイヒヘルヒェンもどうやらそれほど強く推すつもりはないらしい。

 一通り試食と評価を終えた朱鳳だが、やはり提案者達に気を使っているらしい。
「本気で偏ってしまったが良かったのだろうか? 提案者の方が気を悪くしないと良いのだが‥‥。でも皆美味しかったし参加して良かった」
 次点にはわずか1点差でマグダレンの『鱈と鯖のリエット』と薫流の『おなべ』が並び、更に1点差で4位から7位までが続くなど大変な接戦になったが、評価が最も高かったのはカグラの提案した『コリプニ唐揚げ』であった。
「これもセーラ様のご加護かも知れません‥‥この料理がもっと皆を癒せるように」
 どうやら評価がトップらしいと知ってカグラが祈りを捧げる。参加した全員にハーブワインの樽が贈られ、更に料理の提案者達には別に心ばかりの謝礼が手渡された。
「みんなありがとね。まああとは値段なんかをうちのマスターとシェフに検討してもらうしかないみたいだしさ。どれが採用になるかはそのときのお楽しみってことで気長に待っててちょうだいね」
 事の発端を作ったシャルロッテも、満足げに一同の労をねぎらうのだった。