【霧の濃い街で】白馬の王子様
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■シリーズシナリオ
担当:言霊ワープロ
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月24日〜05月29日
リプレイ公開日:2005年05月28日
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●オープニング
時折、夜の街が霧でけぶる。
その霧中にて不吉な死傷者が出るのが続く、とてもではないが明るい話題不足のこの街で、街の者達が下世話なゴシップを集めて心を楽しませようとしていることを一体誰が責められようか。
聞くところによれば、それまでは恋らしい恋をしたことがない少女だという。
キャメロットから1日ほど離れた街に、ブロンドの髪の年頃の娘。
名はアリサ。
ある日、近くの山の野草摘みから帰ってきてから、彼女に変調の兆しが見えた。
彼女は眼に見えて食が細り、家族友人の前でも溜め息をつくことが多くなった。
眼ざとい親友が彼女は恋をしているのではないかと思いつき、そうアリサに問いただすと、
「‥‥実はそうなの‥‥ああ、私の白馬の王子様‥‥」
素直に彼女は告白し、木々茂る山を見上げて、また溜め息を一つつく。
「ああ、鼻筋が通った美麗な顔。つぶらな黒い瞳。すらりと伸びた力強くも細い脚‥‥」
熱病に浮かされたように彼女は呟く。その様子は村の何処でも見られるようになった。
果たして、これは街で噂となり、少女の恋の相手は誰だろうと詮索も始まった。
しかし、件の山に人が住むとは誰も知らず、はて一体、恋の相手は何人なのだろうと街の住人達の疑問が最高潮になった時‥‥、
「‥‥ああ、白く美しい2枚の翼。長い首を下ろして草を食む動作も素敵‥‥」
少女の新たな呟きは傍らで聞くにも奇妙なもの。
これでどうやら人外が絡んでいると皆は察しをつけた。
そうこうしている内にアリサは村から出かけ、キャメロットの冒険者ギルドに依頼を発した。
依頼内容は、少女の住む街の近くに山に出る『白馬の王子様』と彼女を出合わせ、少女とのお付き合いを前提にした会話を成功させること。成功する見込みがあるのなら多少強引でも構わない。恋は盲目とはよくいったものだが、彼女は自分の恋をかなえるのに手段を選ばないつもりらしい。
果たして少女の恋はかなえるのに値すべきことだろうか。それは誰にもまだ解らないことである。
ミルク色の霧が濃くなる街に少女の溜め息がまた1つ。
●リプレイ本文
●1
「初めての出会いは山に薬草摘みに行った時の、春の花咲き乱れる高原だったわ‥‥」
遠目から静かに草を食む姿を見、一目でその美しさの虜になったと彼女は言う。
冒険者達、特に椎名十太郎(eb0759)はそんな恋する少女アリサから色々と情報を訊きこみ、また彼女の証言に従ってチョコ・フォンス(ea5866)が似顔絵を木板に描いてみた。
するとそこに描かれたのは翼を生やした1頭の白馬だった。
「やはり『ペガサス』に間違いないわね」
エルドリエル・エヴァンス(ea5892)も絵を見て、うなづく。
「あ〜あ‥‥よりにもよって人ならざるモノとの恋に眼覚めたか。エルフやパラとかだったらともかく、こんな恋の仕方は珍しいわね‥‥」
イクス・ヴィエッタ(ea4583)は依頼人に聞こえないよう、部屋の隅でひとりごちる。
少女が恋する相手を人外と見当づけていた冒険者達も、予想がやはりとなって胸中で溜め息をつく。
街には普通に恋愛対象となる男もいるだろうに何故よりによってと、フィル・クラウゼン(ea5456)は遠い眼をする。
「と、とにかくさ、相手の気持ちとかも考えないと、うっとうしがられると思うのよ。だから、まずはお友達という形から進めない? 第一印象は大事だし、誠実な心を持っていないと会話してもらえないかもしれないし」
と、チョコは場の空気を前向きにしようと提案する。
「多少強引でもいいというアリサの態度では嫌われるぞ」
と、フィルも釘を刺す。
「そう、アリサちゃん、恋を成就したかったら第一印象が肝心なのよ。だから礼儀正しい淑女としての振舞いが肝心よ」
「そうよ。恋は一方通行じゃ駄目なのよ。それに相手の気持ちもちゃんと理解してあげないとね」
アルラウネ・ハルバード(ea5981)が言い、エルドリエルも説得する。
「ペガサスに恋する気持ちは解らなくもないけど、まずは相手の心を知らないと話も出来ないわよ? 世の中の男性とだって同じはずでしょ☆」
エルドリエルは先走りがちに思えるアリサの心を制しようとする。
「いきなり会いに行くのは向こうも面食らうと思うよ」
ユウン・ワルプルギス(ea9420)はアリサを気遣う気持ちを隠さずに言う。彼女は依頼人とペガサスをいきなり会わせることに危険を感じていた。ちょっとした胸騒ぎという奴だ。
「ペガサスは礼節を重んじる生き物だって聞いたわ。本気でお付き合いしたいのならそれなりの作法を学んでおく必要があると思うわ。手段を選ばないのなら、しばらく我慢して最低限礼儀を身につける努力をするのも構わないわよね?」
ステラ・デュナミス(eb2099)は言いながら、ミラ・ダイモス(eb2064)に眼配せする。
ミラは言う。
「私でよければ貴族風の挨拶などそれなりの簡単な礼法を教えて差し上げられますが」
「解ったわ。礼儀作法を教えてください」
アリサはペガサスに会いに行く前に冒険者達に同意した。それは彼女がペガサスに対し、お付き合いしたいという気持ちが真剣であることで顕れであると思えた。
アリサは今日明日を丁寧な挨拶など簡単な礼儀をミラに教えてもらうことになった。
「明後日はあたし達がペガサスを探してとりあえずのお話つけてくるから、街で待っててね」
チョコがアリサにお願いする。
アリサより先にまず冒険者がペガサスに会いに行き、話をつけてくることになった。
「会いに行くなら手土産が必要かもね。高価な物じゃなくていいけどさ」
ユウンが言うと、アリサはならケーキを焼きますと言った。
ユウンは恋のために食が細くなっている依頼人の健康状態を心配もしていた。
夜、冒険者達は一晩の歓待をアリサの家で受け、そこで彼女が食事を歓談の内にたいらげるのを見て、ひとまず安心するのだった。
●2
2日後、イクスとフィルは最近、街が不穏であることも鑑み、アリサの護衛に彼女の家に残った。
残りの冒険者達は山に登り、アリサに教えられた高原を目指す。
椎名は念の為に武装を外していったが愛用の農具だけは持っていった。
高原に着き、最初にチョコが『ブレスセンサー』で探知を試みたが該当する物がなく、彼女らは1時間ほどそこで待った。
するとやがて太陽眩しき天空より降りてくる、勇壮な影がある。
ペガサスだ。
花園に翼を休め、長い首を下ろして草を食み始めた白馬に、冒険者達は相手を驚かさないよう、慎重に近づいていった。
黒い眼と冒険者達の視線が合う。
「こ、こんにちは」
チョコは緊張の様子を隠さず、腰低く丁寧に会釈した。
「あなたに危害を加えるつもりはありません。私達のお話を聞いていただけませんか? ある少女に呼ばれ、あなたに会うためにここへ参りました。その少女とお会いしていただけませんか? それだけが望みです」
『少女と会う?』
白馬から力強く潔い声が脳裏に聞こえた。イギリス語だ。
長寿院文淳(eb0711)は仲間の言葉を引き継いだ。
「突然の非礼は‥‥詫びる。そうだ‥‥アリサという少女に‥‥会って‥‥ほしいのだ‥‥」
長寿院は少女の恋の話の全てをペガサスに話して聞かせた。
「どうだ‥‥一度アリサと会ってやって‥‥くれないか‥‥?」
『我を白きエンジェルの眷属と知っての望みか? 卑俗なるヒト達よ』
ペガサスはいなないた。そのいななきは拒否の印だと冒険者達は直観的に理解した。
「この周辺に住んでるのは貴方1人? 他に仲間はいないの?」
『ここまで戯れにやってくるのは我1人だ。ここの景色と緑草を気に入ってな』
エルドリエルが訊くと、ペガサスは笑うように鼻を鳴らした。どうやらこのペガサスがアリサの恋した相手に間違いはなさそうだ。
「白馬の君よ。私はミラ・ダイモスと申します。よければ貴方のお名前をお聞かせ下さい」
貴族風の慇懃な礼を尽くした態度でミラは挨拶し、天馬の名を尋ねた。
『ほお、名を尋ねるか。我が名は『アークトゥルス』。よかろう。お前らの名も尊重しよう』
感心した風な態度でペガサスは言った。白い尾を優雅に振る。
「アークトゥルスよ、私はアルラウネ」
アルラウネも名乗り、一礼して話す。
「あなたは最近街で起こっている霧の夜の事件に何か関係しているのではないの? それがあなたのここにやってくる理由の1つではなくって?」
「私の考えとしてはデビルの仕業よ、きっと」
「あなたが現われたのが、デビルが関係しているからであれば、ご協力させていただきたいと思いますが、深読みしすぎでしょうか?」
エルドリエルとチョコも、アルラウネに賛同するかのように言う。
『霧の事件? デビル?』
アークトゥルスは興味の光を瞳に輝かせた。
『ふむ、最近、妙な胸騒ぎにかられることがあったが、街にデビルの仕業らしきものがあるか。それは興味深い。我は霧を生じさせ、中に潜むデビルを知っている』
「協力、してもらえるかしら?」
アルラウネが言うと、アークトゥルスは声高くいなないた。
『デビル退治にか? まだだ。まだ不確かだ。我がいきなり街に現れるわけにもいかん。これでも慎重なのだ、我は。デビルが悪事をしているという確信が出来たなら、また会いに来い。これも何かの縁だ。その時は力を貸してやらんこともない』
白い翼が音と共に広がった。1回の羽ばたきでアークトゥルスの蹄は地を離れる。
「あ、ちょっと待ってくれ!」
椎名は言いながら、口を開いた布袋を天馬へと差し出した。
「アリサ手製のケーキだ。持っていってくれ」
すると彼は宙に浮いたまま首を巡らせ、器用に布袋の中味を口につまんだ。咀嚼の形に口先が動く。
『‥‥美味だな。アリサという少女に伝えてくれ。この美味なる食べ物のお返しが出来なくてすまぬと』
有翼の白馬は大空へと飛び去っていった。
冒険者はしばらくそこで待ち続けたが、ペガサスは帰ってこなかった。
●3
「‥‥そうですか。私とは会ってくれませんか‥‥」
帰り、冒険者達が事の顛末を伝えるとアリサは意気消沈の態度を顕わにした。
しかし、それも一時のこと。彼女は冒険者達に礼を言う。
「私のためにありがとうございました。一応、気持ちが落ち着いたわ。これもいい経験だと思って、これから新しい恋を探すことにするわ」
意外に前向きな娘だ。
帰ろうと冒険者達が家の戸を開けると薄い霧が風景にたちこめていた。
事件が起きている時のような深夜の濃い霧ではない。しかし薄ら寒かった。
「あ、そうそう」
イクスが思い出したかのように霧の中で振り向く。
「何故、あなたはペガサスに恋をしたのから」
「え。だって美しいものを嫌いな人がいて?」
戸口のアリサは簡潔にそう答えた。
よく解らない、まさに恋をした当人にしか通用しない理屈ならぬ理屈だった。