【霧の濃い街で】3匹のデビル

■シリーズシナリオ


担当:言霊ワープロ

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:14人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月02日〜06月07日

リプレイ公開日:2005年06月08日

●オープニング

 キャメロットから1日ほど離れた街だ。
 知る者は、ペガサスに関連して少女アリサが冒険者ギルドに依頼を出した街ということで覚えがあるかもしれない。
 最近、この街の夜が時折、濃霧で煙るようになっっている。
 そしてその霧の中を出歩く者達は何者かに襲われ、もう何人もの死傷者が出ているという状況だ。
 謎の通り魔に対して街の者はすっかり怯え、すっかり夜歩きを控えるようになった。しかしそれでも用事のある者は夜に歩き、そしてやはり襲撃の被害者になるのだ。
 襲撃を受けながらも逃げ帰ることに成功した1人の剣士は目撃をこう証言する。
 あれは3人の奇妙なものだったと。
 それまで霧がなかった町の大通りに突然、霧がたちこめた。濃霧なのでよく解らないが、子供のような背丈の3体の姿が通りを急ぐ自分に突然襲いかかり、その鞭のような尾を振るって斬りつけるように肉迫してきたと。その奇妙に歪んだシルエットの中で耳まで裂けたような口が笑っていたと。
 襲われた剣士は剣を抜き、振るったが、確かに傷つけたと思った攻撃に手応えはなかった。
 そして彼は鋭い鞭の威力の前から命からがら逃げ出してきたのだ。
 謎の通り魔から逃げ出しおおせたのは彼1人ではなかったが、護身用の武器が役に立たなかったということは共通している。その事実が1つの確信を街の者達に抱かせることになり、それは噂として街を疾った。
 通り魔は『デビル』なのだと。
 噂に街が浸りきる頃、キャメロットの冒険者ギルドに依頼が出た。
 依頼者は街の有志達。内容は街に出る3体のデビルを退治すること。
 この依頼を見た冒険者達の中で幾人かがこれは『あのペガサス』と共に戦うのがふさわしい事件なのではないかと思った。今こそ彼の力を借りる時ではないかと。
 霧の街の夜に踊るデビル。
 果たして冒険者達の破邪顕正の剣は振り下ろされるのか?

●今回の参加者

 ea0453 シーヴァス・ラーン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0945 神城 降魔(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5456 フィル・クラウゼン(30歳・♂・侍・人間・ビザンチン帝国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5981 アルラウネ・ハルバード(34歳・♀・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea5998 エルミーシャ・メリル(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea6879 レゥフォーシア・ロシュヴァイセ(20歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea6880 フェルシーニア・ロシュヴァイセ(18歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea6954 翼 天翔(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7623 ジャッド・カルスト(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea9420 ユウン・ワルプルギス(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb2237 リチャード・ジョナサン(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●1
 陽光。高地にある花園で冒険者達は天馬を待つ。
 やがて羽ばたきの音がし、天空から1頭のペガサスが舞い降りてきた。
「アークトゥルス」
 神城降魔(ea0945)は着地したペガサスの名を呼ぶ。そして地面に片膝をついて刀を前に置き、頭を垂れた。
「お初にお眼にかかる。天よりの御使いの眷属、アークトゥルス。俺は姓を神城、名を降魔という。東国より来た、炎術使いの志士だ。貴公に出会えたこと、大変嬉しく思う」
 そんな神城と並んでフィル・クラウゼン(ea5456)は、
「俺はフィル・クラウゼン。街に現れた3人のデビルのことで会いに来た」
 簡潔に名と用件を伝える。
「こんにちは。アークトゥルス様。チョコ・フォンスと申します。街の人達の証言でデビルが悪事をしているという確信が出来ましたので、お会いしにまいりました」
 チョコ・フォンス(ea5866)も一礼と共に名を告げる。
「今夜デビル退治を決行したいと思います」
 チョコが言い、長寿院文淳(eb0711)は目撃者から集めてきたそのデビルの目撃談をアークトゥルスに伝えた。
 鞭のような尾。耳まで裂けた口。大きな鼠に似たモンスター。
『クルードだな』
 アークトゥルスの声なき声が冒険者達に伝わる。その名前は冒険者にも見当がついていた。セレナ・ザーン(ea9951)の父が以前それと戦ったことがあり、恐らく正体はこれと推測があったのだ。
 長寿院はそのクルードが起こしている街の事件を出来る限り詳しくアークトゥルスに伝えた。
「‥‥これに‥‥力を‥‥貸してもらえる‥‥だろうか?」
「勿論私達が受けた依頼だし私達自身頑張るわ。それでも厳しい状況の場合、貴方の聖なる力を貸してほしいの。お願い出来るかしら?」
 アルラウネ・ハルバード(ea5981)が情熱を隠さない態度でペガサスに訊く。
 アークトゥルスは白い首を反らして一鳴きした。
『よかろう。もし我が力を必要と思う時があれば口笛を高く吹け。その時、我は駆けつけよう』
 アークトゥルスはその言葉と共に羽ばたいた。
 白い天馬は舞いあがり、太陽に溶けるように天空へ飛び去った。

●2
 午後。山でアークトゥルスと会ってきた者達は、今日も情報収集をしていた組と街で合流した。
 翼天翔(ea6954)とシーヴァス・ラーン(ea0453)は集めてきた霧の発生状況と襲撃の情報を彼らに教えた。
 レゥフォーシア・ロシュヴァイセ(ea6879)は被害者達の治療をすることを目的についてきた妹フェルシーニア・ロシュヴァイセ(ea6880)と一緒に目撃証言や街並を調べてきていた。その情報を話す。
「霧や襲撃は何処に集中するということもなく、街のあちこちで起きてるよ」
 深くかぶった帽子で特徴ある耳を隠すユウン・ワルプルギス(ea9420)が言う。
 冒険者達は囮作戦を今夜実行することにした。
 ジャッド・カルスト(ea7623)は囮を戦いやすそうな大通りに出すことを提案した。
「大通りなら戦うのに支障ない広さだわ」
 レゥフォーシアは賛同し、通りについて詳しく調べていたリチャード・ジョナサン(eb2237)もそれにうなずく。
 街の人達には夜出歩かないように通達してあるのでデビルは囮に誘き出されるだろう。
「そうと決まったら暗くなるまで、少し休んでおきませんか?」
 チョコが提案し、仲間達はそれを受け入れた。

●3
 白霧が街並を薄く覆う夜が来た。
 明るい月光の下、男女4人が大通りを歩く。
「今回も美人に巡りあえたことを神に感謝しなければな。依頼が終わったら一杯どうだい?」
 ジャッドは腕を組んでいる翼を飄々とした調子で口説く。フィルとアルラウネは自分達が囮であることを忘れているかのような、そんなジャッドの態度に少々呆れ顔をしながらもすぐ後をついていく。
 そんな彼らが大通りの端から端までを歩き、デビルをおびき寄せるためにもう一度、歩き直そうとした時に、ふと霧が濃くなった。十字路でミルク色の霧が吹き溜まるように濃度を増し、視界を埋める。月光も霞む。
「来たみたいね」
 翼が呟く。
 アルラウネは『エックスレイビジョン』を使ってみたが見通せない。
 濃霧の中に小柄な影が3つ、囲み踊るように浮かび、風切り音が鳴った。
 鞭のような一撃がアルラウネの背をかばったフィルの腕を叩いた。骨まで響く痛打に顔をしかめる。
 仲間が鞭のような尾の攻撃をかわしつづける間、翼はフィルのロングソードに『オーラパワー』を呪付した。
 フィルはカウンターを狙いつつ、口笛を高く鳴らした。
 離れて隠れていた仲間の冒険者達が駆けつけてくる。
 そして夜空から羽ばたきの音。
 自らが白光を発するような馬体が大翼をはためかせて街に舞い降りてきた。アークトゥルスだ。

●4
 ペガサスの羽ばたきが路上の霧を掃き飛ばすが、3体のクルードは口から霧を吹き出し、元に戻す。
 しかし、その隙にシーヴァスがシルバーダガーによる一撃で1体に斬りつけた。彼は『ホーリーライト』の光で霧中を照らす。その照明で少しは戦いやすくなる。
 アークトゥルスは大通りに降り、白く淡い光に包まれたと思うや、その口先でアルラウネに触れた。彼は駆けつけてきた冒険者達の前衛で戦う者に次々に口先を触れさせ、その魔法の加護を与えた。フェルシーニアは、アークトゥルスが『レジストデビル』を使っているのだと見当をつけた。
「汝ら悪しき者、光射す世界に住まう場所なし‥‥無に還るがいい」
 フィルは言いながら敵の攻撃に返し撃ちを与え、1体に傷を負わせる。
「霧をなんとかしないといけませんねぇ〜」
 エルミーシャ・メリル(ea5998)は『ニュートラルマジック』で霧を晴らそうとしたが、それは効き目がなかった。繰り返してみたがやはり同じだ。
 アークトゥルスは羽ばたきで街の霧を吹き飛ばそうとしている。
 3mもあろうかという長い尾の一撃がジャッドの背を打った。レザーアーマーに傷がはしる。
 セレナは手製の鈴付きボーラを霧中に投じた。3つを投げたがクルードに絡まったのは1つきりで、神城はその鈴の音を頼りにして翼から『オーラパワー』を与えられた居合の刃を放ち、デビル1体を袈裟がけにした。弱ったその敵にアークトゥルスが『ホーリー』を発動してとどめとする。
「悪い子にはお仕置きだよ!」
 チョコの『ライトニングサンダーボルト』が霧中の影1体のみぞおちを撃つ。
 レゥフォーシアとフェルシーニアの姉妹が聖書を地に置いた。
「再現神様の力の一部を借り、邪悪な者を貫く漆黒の闇の矢となれ! ブラックホーリー!」
「慈愛神様の加護の力のもと、邪なる魂魄を退かせる純白の光の矢となれ! ホーリー!」
 彼女達の魔法連撃は傷ついた敵を追い撃ちする。
 更に長寿院の『ブラックホーリー』がその相手を撃ち、デビルの1体は霧に溶けるように霧散した。
 濃霧が薄くなる。
 残るクルードが逃走に転ずる態度を見せた。
「逃さないよ!」
 ユウンが投網を投じて、その腕と長い尾を絡め取った。
「友から譲り受けたこの槍の威力、その身体で味わうがいい!!」
 ジャッドが両手で支えた『聖者の槍』を大きく振りかぶり、クルードの肩から腹までを斬り下げる。
 リチャードの『オーラソード』はデビルの胸を貫いた。
 最後の敵はおぞましい悲鳴を挙げながら霧に溶けていった。
 そして夜の街の霧は晴れていった。

●5
「お疲れ様」
 翼は戦闘後の皆にねぎらいの言葉をかけた。勿論アークトゥルスにもだ。
 エルミーシャは『リカバー』でジャッドの背の傷を治した。アークトゥルスの魔法のせいか傷は浅い。
 フィルの腕の傷を治したのはフェルシーニアだ。
「ありがとうございましたぁ〜」
 エルミーシャはおっとりとした声でアークトゥルスに礼を言う。
『なんの。デビルを倒す助けをしてくれて、我こそ礼を言うぞ』
 夜の閑散とした街に白馬のいななきが響き渡る。
 そんなアークトゥルスを食い入るように見ているのはチョコだった。
(「ふふっ、ペガサスもデビルも、帰ったら絵を描くぞぉ〜!」)
 そんなことを内心思っている彼女は眼に焼き付けるようにアークトゥルスを熱心に観察している。
 だが、そんな思いも知らず、アークトゥルスは羽ばたき、身体を宙に浮かせた。
『デビルを倒すためのヒト達との共闘、永く我の脳裏に留めておくとするぞ。さらばだ』
 天馬は宙空を駆けるように飛び去っていった。最後に月光が反射する。
 冒険者達は彼を見送って、その姿が消えるまで立ち尽くす。
 やがて彼らは宿に帰るために歩き出した。
 歩きながら翼がジャッドに囁く。
「後で一緒にお酒でもどう? 朝が明けるまでベッドでつきあってあげるわよ」
「いいのかい、俺なんかで?」
 軽く言い返すジャッドだが、その艶っぽい誘いを断るつもりはなかった。
 かくして霧の街の不穏は晴れ、次の日、冒険者達はキャメロットへの旅路につくのだった。