【看板息子】其々の見据えるものとその先に

■シリーズシナリオ


担当:言の羽

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:9人

サポート参加人数:10人

冒険期間:04月02日〜04月07日

リプレイ公開日:2006年04月10日

●オープニング

 以前ところてんの製作を依頼してきた少女。彼女を訪ね、栄一郎と勇二郎は彼女の父親が経営する店にやってきていた。
 座敷に通され、栄一郎は正座し両目を閉じながら、勇二郎は正座しつつもきょろきょろと調度品や庭の風景に目を奪われながら、少女の到着を待った。
 そして、すぅっ、と襖が開く。
「お待たせいたしました」
 色鮮やかな着物姿で現れた少女は、上座に面するように座していた兄弟の隣に、綺麗な所作で座った。横を向いて話をするほうが失礼なので、瞼を開いた勇二郎は少女と真向かいになる形に座りなおした。
「お久しぶりですね。お元気でしたか?」
「ああ、おかげさまでな。店も何とかやっている」
「それはようございました。‥‥では、此度のご用件をお伺いするといたしましょう」
 笑みを浮かべる少女の冷えた瞳をまっすぐに覗きこんでいると、生気を吸い取られるような気がしてくる。こちらも気を引き締めて挑まねば、ぬるま湯に浸かる感覚を味わいながら、我に返った時には奈落に突き落とされているかもしれない。
 ‥‥大店の看板を背負うのも厳しいものなのだろうな。そんな風に考えながらも、栄一郎はその考えをおくびにも出さない。
「買い取ってほしい物がある」
「あら、何でしょう。新作のお菓子ですか?」
「新作か‥‥新作と言えば新作だな。勇二郎、あれを」
 兄に言われ、勇二郎が携えていた桶を少女の前に押し出す。少女が蓋を取ると、入っていたのは乾燥している半透明の何かだった。一見すると葛のようでもあるが、新作と言うからには別の物なのだろう。そして菓子職人である兄弟が持ってきたのだから菓子の部類に属する物であるはずだ。
 少女の知識にない物。
「寒天、と俺は名づけた」
「『かんてん』?」
 少女の瞳がかすかに見開かれる。
「材料はところてんだ。ところてんをいったん凍らせて水分を抜いた。だから寒天だ」
「‥‥なるほど。確かに新作と呼べますね。そのような製法は聞いた事がありません」
「お父上はところてんに目がないと言っていたな」
「ええ、言いました。それが売り込みにいらした理由ですか?」
「大量に作ってある。よくて数日しかもたないところてんに比べ、この状態でならば保存がきく。という事は遠隔地にも難なく運べるという事だ。おまけに食べてみればわかるが、ところてんよりも美味いぞ」
 保存のきく食べ物はそれだけで価値がある。美味いのならば尚の事。
 少女は今一度、桶の中身を直視した。そして笑みで武装する。
「ならば試食をさせてくださいな。この目でたった今確かめさせていただきました。次はこの舌で確かめさせてくださいませ」
 自分を納得させる事ができたならば高値で買い取ろう。
 これが彼女の出したたったひとつの条件だった。

 店の傾いた財政を立て直すためには、四の五の言ってはいられない。そして確実にしておきたい。どんな試食品を作ればいいのか、兄弟は冒険者の意見を聞いてみる事にした。多くの視点でもって見たなら、きっと広く見渡せるであろうからだ。
「なあ、兄貴‥‥俺、兄貴とは別に一皿、作ってもいいかな」
 帰り道、冒険者ギルドに寄る道すがら、桶を提げながら勇二郎は小声で、しかしはっきりと呟いた。

●今回の参加者

 ea1022 ラン・ウノハナ(15歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 ea4111 ミルフィーナ・ショコラータ(20歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea5171 桐沢 相馬(41歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0862 リノルディア・カインハーツ(20歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 eb0943 ミリフィヲ・ヰリァーヱス(28歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb3467 紗夢 紅蘭(34歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294)/ ミケイト・ニシーネ(ea0508)/ フェネック・ローキドール(ea1605)/ レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)/ ミカエル・クライム(ea4675)/ 駒沢 兵馬(ea5148)/ 逢莉笛 舞(ea6780)/ シモーヌ・ペドロ(ea9617)/ ウェンディ・ナイツ(eb1133)/ アルフレッド・ラグナーソン(eb3526

●リプレイ本文

●財政難はまだ終わらない
 兄弟の店に一同が集まり、さほど広くない店内でいつものように卓を囲めばシフール三人娘が宙に浮く。事情説明の後に行われたのは各自が考えてきた、寒天の調理法の説明だった。兄弟とは初見になるマグナ・アドミラル(ea4868)が挨拶がてらに一番手となる。
「料理には心得が無いので、今まで食して来た品からの経験からしか手伝えぬが、寒天には、非常に心惹かれる気がする」
 気がする、というくだりが微妙だ。そこは言い切ってほしかった。
 ともかく彼は、特に何も手を加えずに作成した寒天と既存の材料を合わせるという路線で自らの案を提示した。買出しに行ってくるというその材料とは、黒蜜と、林檎、蜜柑、餡子‥‥
「待ってくれ。今、黒蜜と言ったか」
「うむ、確かに言ったぞ。それがどうかしたか」
「お前なぁっ! 黒蜜の材料が何だか知ってて言ってんのか!?」
 言葉を遮られた理由を察せないマグナは、顎鬚を撫でつけながら栄一郎に先を促した。しかし栄一郎は卓を見つめたまま黙ってしまい、代わりに震える勇二郎がマグナにくってかかる。
「黒砂糖だよ、黒い砂糖! ただでさえ高価な砂糖の中でも更に高価な黒砂糖が材料なんだよ! 幾らすんのかわかってんのか!?」
 無謀にもそのまま胸倉を掴もうとする勇二郎だったが、ラン・ウノハナ(ea1022)にその拳を抱きとめられ、止まらざるを得なかった。まさかランごと殴りかかるわけにもいかないからだ。
「‥‥なんだ、多少は変わったのかと思えば、まだまだ子供か」
「何ぃっ!」
「いけません、勇二郎様ぁ!!」
 横からため息混じりに桐沢相馬(ea5171)が揶揄すれば、過剰反応する勇二郎をランが制止しようとする。
「弟が無作法ですまない。だが、黒砂糖が庶民にとって高嶺の花なのは事実だ」
 先日からよく見る風景は放っておいても大丈夫そうなので、気を取り直して、栄一郎が話を再開した。
「恥ずかしい話だが、この店にはさほどの余裕がなくてな。売り込みのためとはいえ、あまりにも高価な材料を使う事はできない」
「ふむ、成る程な」
「あのー‥‥私も黒蜜を使う案を考えてきたんだよね‥‥」
 申し訳なさそうに手を挙げたシスティーナ・ヴィント(ea7435)。どうやらマグナ共々、美味い糖蜜があるという事は知っていても、その価格までは知らなかったようだ。しばらくこの店や兄弟に付き合ってきて店の財政状況を多少なりとも察しているシスティーナは、自分も一皿作るつもりだから材料費は自己負担すると進言した。
 これを聞きマグナも、作成はしないものの黒蜜代だけは負担する事となり、システィーナ以外に自分で自分の寒天案を披露しようとする者も財布を紐解いた。
「ねえ、ミルクってどこに行けば手に入るかな」
 次に挙手したユリア・ミフィーラル(ea6337)は、至極あっけらかんとその名を口にした。欧州、特にイギリスから来た者は酒場のメニューにその名がないと知るや落胆するという、曰くつきのミルクである。あえてジャパン語で表記するならば牛乳となるのだが、ジャパンには今のところ牛の乳を日頃から飲用するという習慣がない。
 異国の者が好んで飲むという話は聞いているが――と栄一郎が困ったような顔をする。江戸中を探せばない事もないかもしれないが、いかんせん相手はナマモノである。流通量自体が少ない以上、新鮮なものを探すのは難しそうだ。
 そっかぁ‥‥とユリアは残念がった。彼女は兄弟に提案したものの他に、自分でも別の案を実行に移そうとしていたのだ。しかし実行のためにはミルクが不可欠。ミルクが手に入らないのであれば諦めなくてはならない。 
「‥‥絞ってくるか?」
「え?」
「知り合いの農家の所でちょうど子牛が生まれたらしくてな。ほら桶だ」
「ええっ!?」
「俺が案内しよう。しばらく頼むぞ、勇二郎」
 驚きのあまり思考が半分ほど停止しているユリアに桶を無理やり持たせた後、栄一郎は手首を掴むと颯爽と店の外へ歩き去る。長男がいない間の留守を任された勇二郎はいまだランを挟んで相馬と口喧嘩をしていたが、一時中断して承諾の意を伝えた。そしてそんな兄弟の様子を見て――特に問答無用で人を連れて行く兄を見て、「似てない似てないと思ってたけど、似てるところもあるんだねー」と、あくまで勇二郎に聞こえないように独り呟くミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)だった。

●其々の情勢
 調理場の机の上、無造作に置かれた寒天。半透明でやや白っぽいその乾物を眺め、ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)は興味深げに目を丸くした。
「ところてんを冷やした物から、新しく寒天という物が出来たんですねぇ〜」
 未知の物が出来上がった事と自身がそれに携わった事とに感心と喜びを抱きながら、とりあえず小さな手の細い指先でつついてみる。乾物の状態ではところてんのようにぷるぷるしておらず、少々残念そうだ。
「今度はこれでお菓子を作るんですね? お菓子って食べてるとホントに幸せな気持ちになれると思いますけど、作る事も大好きですし、ジャパンでのお菓子作り、張り切っていきたいです〜」
「はい、私も頑張ります。でも、全く新しい素材でお菓子を作り出すというのは難しいですね‥‥」
 未知という事は、何をどうすればいいのか、事例がないという事でもある。首を傾げながらうーんと唸るリノルディア・カインハーツ(eb0862)、宙を旋回しながら寒天の四方八方を観察する。
「寒天はところてんを固めて冷やしたものなんですよね?」
 ランは言う。前回誰だったかが思いついたように、一旦寒天を戻した際に違う物を混ぜれば、再び冷やして固めた時に、混ぜた物に因る味に変わるのではないかと。
「寒天を手で千切るのです。ただしこれは試してみない事には‥‥。ランの案が採用されるかはわかりませんが、とりあえず作ってみますねっ」
「では私は、栄一郎さん達のサポートに回ります。それから、寒天自体どのような性質を持つか、私達はまだ知りません。お水を加えてお鍋で暖めたり、自然に冷ましたり、クーリングで冷やすなどして、温度が変わるとどうなるかを試してみたいと思います。ミルさんはどうされますか?」
「そうですねえ〜、ミケさんが私達サイズの調理器具を木工工作してくださるようなので、それを使って私なりの寒天を作ってみます〜」
 手伝いに来てくれた友人の名前を出すミルを、他のふたりが羨ましそうに注目する。体の小さいシフールにとって、自分に合う道具を探すだけでも一苦労なのだ。
 だがミルはいつもの笑顔を口調さながらのんびりと振りまいて、みんなで仲良く使いましょうね〜と、ランとリノルディアの手を握った。

 自称旅する料理人の紗夢紅蘭(eb3467)は、栄一郎の手伝いをしていた。寒天のみでの試食をしてみて、淡白な味ながら弾力がある事を確認し、ひょっとして餅の代わりに使えないかと考えた。片言ながら賢明に意思疎通を図り、栄一郎の指示に従う。
「ぜひとも食通少女に寒天の素晴らしさを伝えるネ!」
「ああ、気に入ってもらえれば、また来年の寒天作りにも出資してくれるかもしれない。ここが正念場だな。――リノルディア、冷やしてほしいのだが頼めるか」
「はい、今行きます!」
 寒天を溶かした液が三分の一程度しか入っていない容器を持って、リノルディアは裏庭に飛んでいく。魔法を使うのに狭い調理場では危険だからだ。彼女を見送り、梅酒を温めているランの様子を確認した後、栄一郎が隣に立ったのはユリアだった。
 少量の蜜や牛乳を混ぜた寒天を作成、試食、意にそぐわなければ再度溶かし、蜜なり牛乳なりを更に少量加える。気の遠くなるような味の調整を行うその姿には、食を究めようとする彼女の生き様がはっきりと示されている。やたらと明るく些事を気にしない性格の彼女だが、こと料理となれば全力を尽くすのが彼女だ。
「どうだ」
「うーん‥‥欧州で飲んでたミルクと絞ってきたミルクとでは、微妙に味が違うかも」
「そうなのか?」
「多分ミルクをとるための牛かそうでないかの違いなんだと思う。餌も違うだろうし」
 小皿に乗せた試食品を口に含んでみて、生臭さを感じたユリアは眉をしかめる。量が多すぎたのかもしれない。
 栄一郎といえば、搾りたての牛乳を飲んでみて想像していたほどには受け入れがたくない物だったため、そのきっかけをくれたユリアには感謝している。
 そして牛乳と似たような味だという豆乳を使って寒天菓子作成に挑戦しているシスティーナにも。
「材料が似たような味なら、出来上がった物もユリアさんが作ってるのと同じような味になるのかな?」
 ジャパンではよく知られた豆腐、その作成過程で生まれる豆乳はとても滋養があるという。美味しい菓子で滋養たっぷりとなれば、大人にも子供にも良い品となるだろう。

「‥‥なんで俺のほうにはこんな奴らばっか‥‥」
 肩を落としつつ鍋の中身をかき混ぜる勇二郎は、その肩越しに自分の手伝いをする者達を見て、更に落胆した。誰かというとマグナ、相馬、ミリフィヲである。むさくるしく体の大きな中年男に、いけ好かない野郎、手間がかかって世話の焼ける女の子。元気で可愛らしい子が好きな勇二郎としては、この状況には不満なのだ。
「頑張ってください、勇二郎様! ランがついています!」
「ありがとうランちゃん‥‥うぅ」
 実のところ、システィーナも最初は勇二郎のほうに来ていたのだが‥‥「私には私の料理を食べて欲しい友人がいるから」と彼女が頬を赤らめたので、勇二郎のほうから丁重にお断りした。何が友人だ、嘘つくな、と心中で喚いて。
 思い出したらまた嫌な気分に落ちた勇二郎に気づき、ミリフィヲが手を休めて近寄っていく。
「ねえねえ、今回お兄さんとは別の物を作りたいって思ったのって、お兄さんに嫉妬したから?」
「んなっ!? ば、馬鹿言うなっ」
「ふふっ、だったらボクとおんなじだ。ボクより巧い人沢山居るから嫉妬しちゃってさ、いいところ見せようと思って無理したのが、前回のアレ」
 ほんとに馬鹿みたいだったよねえ――苦笑するミリフィヲにいつもの人をくったような雰囲気はない。
「あの時自分で言った事は勿論覚えてるよね? ボクみたいになっちゃ駄目だよ、じゃね♪」
 自分の伝えたい事だけ伝えて、するりと離れていく。料理の邪魔にならないようにまとめられた銀の髪が揺れている。
「どうしたのだ少年。顔が赤いぞ」
「なんでもないっ!!」
 事実を指摘したマグナを勇二郎は邪険に振り払った。

●その先に
 最終的に食通の少女の前へ出された皿は6皿である。
 ミルフィーナ作、適度な甘さの餡がたっぷりと詰まった『小豆寒天』。
 ユリア作、失敗を恐れず試作を繰り返し、最適の割合を導き出した『牛乳寒天抹茶風味』。
 システィーナ作、彼のために作りました、滋養豊富な『豆乳寒天』。
 ミリフィヲ作、ただ戻しただけではない、『ワインと果汁の二種類の寒天』。
 栄一郎作、折角だからと黒蜜を使用した、『ゴマときな粉の黒蜜添え寒天』。
 勇二郎作、梅酒・果汁・甘草の煮汁で其々戻した、『三種三色三層の寒天木の実乗せ』。
 これらすべてを食すと、少女は笑った。今までの冷ややかな眼差しを伴う笑みではない。見る者の心をあたたかくさせる笑みだった。
「いかほどの額をお望みですか」
「‥‥何?」
「この寒天とやらの良さは存分に味わわせていただきました。そちらの希望する金額で引き取りましょう。これほどの物ならきっと父も喜びます」
 少女は優雅に手を叩いて使用人を呼ぶ。早速金を用意させるのだろう。
「どれも素晴らしい味でしたが、私個人の好みで言うならば小豆寒天と黒蜜添え寒天が一番でした。ふふ‥‥私、餡ときな粉が大好物なのです」
 照れくさそうに告白する少女は年齢相応の可愛らしさをしていた。

 依頼は成功し、兄弟の店はまとまった金を得た。喜ばしい事のはずなのに、皆の表情はなぜか優れない。
「勇二郎さまや栄一郎さまとお菓子作りが出来なくなるのは寂しいですわ‥‥」
 ランの言葉がすべてを物語っている。店はもはや冒険者の助けを必要としていない。という事はつまり、彼らは兄弟と別れなくてはならないのだ。
「何を言う。今生の別れでもあるまい」
「そうそう、店に来てくれれば会えるって。ランちゃんならいつでも大歓迎だからさっ」
 胸元で十字を切るランの頭を撫でる勇二郎は、最後に「あの野郎はともかくな」と嫌味を付け加える事を忘れなかった。
「今まで色々とすまなかったな」
 が、その嫌味が聞こえていたにもかかわらず、相馬がわざわざ勇二郎に向けたのは謝罪の念だった。自分の耳がおかしくなったのかと勇二郎が思ったのも無理はない。
「らしくないか? ‥‥だがな、言葉は暴力だ。必要だから、当たっているからといって謝らないのは人としてどうかと思うのでな」
 掲げられる酒壷。
 ぐっと息を飲んだ後、諦めた勇二郎の口からも謝罪の言葉が発せられる。ただしとても微かな、耳をすませなければ聞こえないものだったが。
「ふん。精進を続けろ、兄を超える時を楽しみにしているぞ」
「‥‥てめぇに言われなくてもやってやるよ」
 こちらも一件落着したところで、誰かが遠慮なしに手を叩いた。何か重大な事でも忘れていたかと思いきやそうではなかった。手を叩いた者ユリアは、皆の努力を労う会を開こうと提案した。
「もう一度同じ物作って、今度はみんなで食べてみるのってどうかな」
「それならアタシは華国料理を振舞うヨ!」
 店に戻れば女主人が気をもんで待っているに違いない。まずは彼女を安心させてあげる事、そしてそれから楽しくわいわいと、広くない調理場に全員で乗り込むのだ。