【歌姫とナイフ】自由の歌 最終楽章

■シリーズシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月22日〜03月27日

リプレイ公開日:2008年04月12日

●オープニング

「少し予定より早いが、近いうちにキエフを発とうと思う。どうやら周りを嗅ぎまわっている奴が増えたようだからね」
 公演が終わったその日の夜遅く。ダニールがそう言ってリトル・マリアを自室へ帰すと、特に鍵などかかっていない窓からひょいと若い男が入ってきた。ダニールは2階の部屋にそうして入ってきたその男に驚くこともなく、深々と一礼。
「計画を早めます。このままでは、うまくやっても我々の仕事について、気付く奴が出るでしょう。キエフとその周辺は、ほとぼりが冷めるまでしばらくは近付かないこととします」
「そうだな。少々惜しい市場なんだが。もしも運よくここに残れそうなら、残って仕事を続けてくれ」
「は、了解致しました」
 頭を下げるダニールをよそに、男は再び窓から出て行く。四角く切り取られた狭い視界には、白い鳥の羽が1枚舞った。
 と、ダニールははたと聞き忘れていたことを思い出して、窓の向こうへ叫ぶ。
「あのニールという少年の役は、どういたしましょうか!?」
「捨てていいよ。ちょっとアレは不便だ」

 ・ ・ ・

 その翌日、孤児院から冒険者ギルドに1人の職員が飛んでやって来た。何やら、以前やったように不審者に対する警備の依頼のようなのだが。
「前に冒険者の皆さんに警備してもらっていた時に覗いていた人達とは様子が違うんです。何だか、中を覗くにしても子供達を見るんじゃなく、建物全体を、奥の方までじろじろ見てくるっていうか‥‥」
 話によれば、今回の不審者というのは複数人で固まって行動し、院の大人が意を決して声をかけようと近づくと、すぐに離れていくのだという。
「今回もやっぱりまだ事件を起こした人達ってわけじゃないので、基本的に警備だけ、でお願いしたいんですけど‥‥大丈夫ですか?」

●今回の参加者

 ea9096 スィニエーク・ラウニアー(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0744 カグラ・シンヨウ(23歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7693 フォン・イエツェラー(20歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec2843 ゼロス・フェンウィック(33歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec4124 オデット・コルヌアイユ(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

以心 伝助(ea4744)/ イワノフ・シェーホフ(eb5635

●リプレイ本文

 思っていたより、難易度は低かった。
 悪の親玉疑惑のかかっているダニールの屋敷は、単なる普通の屋敷なんじゃないかと以心 伝助に思わせるほど、簡単に接近出来、侵入出来、調査出来た。
 オデット・コルヌアイユ(ec4124)のバーニングマップの魔法によって、『エドワルド・サラエフの居場所』として導き出されたダニールの屋敷には、ダニールの姿はおろか見張りの1人もいなかった。いる者といえば使用人が何人かと、犬2頭、猫1匹。伝助は一応警戒を解かずに、エドのいるらしい部屋へ向かう。


『伝助さん、こちらは順調に用事を済ませましたが、そちらはどうですか?』
 リトル・マリアと話をするため、伝助とは別に正面から訪問したフィニィ・フォルテン(ea9114)からテレパシーで連絡が入る。伝助はそれに、自分も同時に脱出する旨を伝える。
 そして、屋敷を出てしばらく。
「伝助さん、エド君は?」
「気を失ってるだけっす。多分、表に人通りの多い昼間には騒がれないように、薬でも飲まされていたんだと思いやす」
 フィニィと、エドを担いだ伝助は合流し、孤児院へと向かう。
 バーニングマップに反応の無かったニールは、やはり屋敷にはいなかった。
 いた形跡すら、存在しなかった。

●孤児院警備
 第二次不審者騒動勃発から少しして、冒険者達は孤児院の警備に入った。ゼロス・フェンウィック(ec2843)は子供達の遊び道具と化したゴーレムと共に庭で周囲を見張り、フォン・イエツェラー(eb7693)は庭から死角になっている部分を中心に歩く。カグラ・シンヨウ(eb0744)は建物の中から外を窺い、オデットは子供達の女王様ポジションに納まりつつ面倒を見る。事前の相談にて狙われているのではないかと推測された院長には、スィニエーク・ラウニアー(ea9096)がついている。
 いつ、どこから、誰が、何人で、どのようにやって来るのか、来ないのかも分からない警備を行うには人数が不足していたが、しかし一定の効果はあった。冒険者が警備を始めたその日のうちから、不審者達が目撃される回数が大きく減少したのだ。院のスタッフ達は喜んだが、しかし何とか情報を得たいと思う冒険者達にとっては良し悪し。
 そんな状況を打開出来るかもしれない人達が、帰ってきた。


 これからかえるという伝助に一時外の見回りを頼み、冒険者達はフィニィを囲んで屋敷の内部について話を聞く。ちなみに何とか帰ってきた気を失っているエドに対しカグラが石の中の蝶を窺ってみたが、特に変化は無かった。どうやら行方不明の間にデビルと入れ替わるとか云々は無かったようだ。
「屋敷の様子はどうでしたか。何か行動を起こしそうな様子などは?」
 ゼロスの問いに、フィニィは伝助からの伝聞情報と前置いてから。
「特別何かしらの警備がされているというようなことはないそうです。ダニールさんは屋敷に不在のようですし‥‥」
「客の貴族から、私達が色々と捜査していることが伝わってしまったのでしょうか‥‥? そのために、屋敷から逃げ出し始めているとか」
 スィニエークが推論を披露する。確かに、不審者達の出現が孤児院への冒険者到着直後から激減したことを考えても、ダニールが姿を晦ますことを選択した、孤児院のことは諦めたという線は充分にあり得る。
「でもアリッサには会って来たですよね?」
 オデットに頷くフィニィ。ということは、夜逃げやその類とは違う。アリッサはダニールにとって大事な『商売』道具だ。
「そう、そのリトル・マリアさんのことなのですけど」
 オデットからの情報で皆アリッサという本名を知っている中、1人直接知らされてはいないからと芸名で彼女を呼び続けるフィニィ。それはただ彼女との信頼関係のため。
「リトル・マリアさんはエドさんのことを知っていました。今までに何度かダニールさんに秘密で会って、キエフのこととか色々を聞いていたそうです。エドさんは2回、リトル・マリアさんを連れ出そうと誘ったそうで、惹かれたそうなのですが、母親に続いて父親代わりのようなダニールさんも失うのが嫌で、断ったそうです」
「どうして、エド君は彼女を連れ出そうと思ったんだろう?」
「目を覚ましたら直接聞いてみないとね」
 カグラはフォンにそう答えながら、エドの頬を摘まんでいるオデットを止める。
「アリッサはコレが行方不明になってたこと知ってたですか?」
「知らなかったみたいで、驚いていました。もしかしたらダニールさんの『お仕事』関連かもと話したら、今まで黙っていたことだけど、と『お仕事』の内容について教えてくれました」
 リトル・マリアによれば、ダニールはやはり孤児の売買を行っていた。その手法は冒険者達の推測していたものとほぼ一致。新情報としては、最近新しい街に着いてから仕事を始めるまでの期間、街を出るまでの期間が短くなっているということ、そして孤児院などが子供の譲り渡しを渋る場合、人をけしかけて不安を煽り、子供を譲るよう誘導するのだということ。
「ということは、直接ちょっかいを出してくることはない‥‥ですか? そんな性格の曲がり方が中途半端なおっさんには見えないですけど」
「ええ。事前の相談でオデットさんの言っていたとおり、直接的な手段で最大の障害である院長を排除に来る可能性は消えませんね。内通の容疑者は私が監視しておきます」
 ゼロスの言葉をきっかけに、分担箇所と注意点を再確認して散っていく皆。担当の場所はほぼ変わらないが、唯一暗闇で狂化してしまうフォンは、夜間においては屋内で、マルカが流したかもしれない建物の脆い所チェックが業務となった。

●静かな日々
 2日間、何も起きない日が続いた。その間の気が抜けない警備の中で、行われていた会話が2つ。
「あまり考えたくはないことですが、やはり怪しいのはマルカです」
 スィニエークの尋ねに、院長は非常に心苦しそうにそう答えた。
 スィニエークが院長に尋ねたのは、院で働く人々について。院で働き始めた時期や交友関係が分かればダニールと通じている人物の特定が出来るかと思ったのだが、働き始めた時期は最も短い者で2年前からとダニールがキエフに来た時期と合わず、また交友関係はそれぞれの私生活ということで院長は完璧には把握していない。普段の行動も特に怪しい点は無く、ただここ最近院の用事に出かけるといつも少し遅く帰ってくるマルカが消去法にも近い形で絞り込まれただけなのだ。
 そんなことなので、これ以上内通者について確度を高めることは難しそうだった。


 ぺし。とカグラにチョップを見舞われながらお説教を受けるエド。
「私、無茶は駄目って言ったはず」
「無茶だとは思わなかったんだ‥‥あいつら、ただの使用人とか警備じゃなかった。その辺の貴族が使っているような奴らより、ずっと腕利きだった」
 救助された日の夜に目覚めたエドが珍しく反省した顔色で言うには、ダニール邸の警備は、追跡や暗殺などを生業とするプロではないかと。
 ところで、エドが何故リトル・マリアを連れ出そうと考えているかは、尋ねたところ何だかはっきりした回答は返ってこなかった。一応、色々と言葉を迷った後で、「不自由さに嫌気を感じてる彼女に、一度外の自由を感じてみてほしかった」というようなことをのたまった。
 そしてエド関連の会話でもう1つ。
「ニールは? あの屋敷に来たなら、見つけたんじゃないのか?」
 そんなエドの問い。それをカグラは予想していたが、しかしどう答えるべきか一瞬の戸惑いと沈黙を生じさせ。それがそのまま答えになった。
 また静かな夜がやってくる。

 ・ ・ ・

 初めに気づいたのは、魔法を施していたフィニィだった。警備のために孤児院を訪れて3度目の夜。ムーンフィールドを破って侵入してきた者が複数。建物の中からカグラが確認出来たのは2人。そのことを、彼女はひとまず手近にいたゼロスに伝えた。
 同時期、フィニィはオデットにテレパシーで連絡を飛ばしていた。子供達の一番近くにいる彼女に、可能な限りの警戒と防衛を頼むため。
 しかし。
(「さあ来るなら来いなのです‥‥燃やしてやるですよ」)
 タルンカッペをかぶり息を潜めて気配を消したオデット、その近くの廊下に殺気が近付き‥‥通り過ぎる。
(「ありゃ?」)
 通り過ぎた殺気は、廊下をさらに行き階段のある方に向かって。
「そこまでです。誰の指示で、何の用件で来たんですか?」
 フォンと、対峙する。


 もう一方の侵入者は、孤児院裏側の鍵が壊れた窓の方へとやって来た。マルカが冒険者達にも教えたその地点には、ゼロスのゴーレムが立ち塞がる。動きの鈍いゴーレムを、侵入者はやり過ごすため迂回しようとし‥‥
「この孤児院は、名前も素性も分からない人は立ち入り禁止です」
 ゼロスのウインドスラッシュと、カグラのホーリーが見舞われた。
 ダメージによって動きの多少落ちた侵入者は、しかし目の前のゴーレムとゼロス、カグラを見回し、一瞬の間をおいて、懐からダガーを抜いた。


 刃を2度交え、フォンは彼我の力量の分析を終えていた。ほぼ互角。やや自分の方が劣るか。守りに集中すれば、討たれずこのまま戦いを続けることは容易だ。だがしかし、こちらから攻めるとなると、少し安全性・確実性に不安がある。生かしたまま捕らえるならなおのこと、援護の1つも欲しい。
 と、そこに後方から薄っすらと魔法発動の光が滲む。フォンの後方から現れたフィニィがスリープの魔法を使用したのだ。しかし侵入者は眠りの誘いに抗い、同時に形勢不利と見たか逃げの姿勢に入る。1歩後退りした侵入者。その後頭部に、飛来する炎。
「折角待ってたのにスルーとは何事ですか。まあ来たら来たで面倒だから怒るですけど」
 タルンカッペをかぶったままのオデットが奇襲を加えたところに、フィニィが再びスリープ。今度は成功し、侵入者の捕縛に成功する。


 侵入者の動きは素早かった。ゼロスが高速詠唱で発動したウインドスラッシュを身に受けながらも足を止めず、肉薄してくる。カグラのホーリーによる援護は間に合わない。ゼロスを間合いに収めた侵入者は、ダガーを突き刺そうと小さく振りかぶり‥‥横に吹っ飛んだ。
「無事ですか!? ここから援護します」
 2階、院長の部屋で院長の警護をしていたスィニエークが窓から顔を出し、先ほど侵入者をぶっ飛ばしたライトニングサンダーボルトを再度準備する。
 ホーリー、ウインドスラッシュ、ライトニングサンダーボルトと立て続けに喰らいまくった侵入者は、最後には力尽きゴーレムに捕まったのだが‥‥
「誰だ!?」
 突如響く声。それがフォンのものであると気付くのと、金属音が響くのは同時だった。そして直後、木の板が破れる音。
 突然の出来事に驚くカグラたちの中心に飛び出してきた、何者か。その何者かは迷うことなくゴーレムの手の中の侵入者にナイフを投げ、夜闇へと消えていった。
 追跡は、間に合わず。

●見えぬ深奥
 翌朝になって、スタッフ達の部屋でマルカの死体が見つかった。冒険者達が戦った最初の2人はこのための陽動だったのか、それとも別の用事があったのか、定かではない。
 スィニエーク達が倒した侵入者は死んでしまったが、しかしフィニィが眠らせた方の侵入者は、新たな1人の登場に気付いたフォンが投げられたナイフを弾き返し、制止したことで助かった。その侵入者を尋問して(尋ねたら簡単に話を始めたが)分かったことは、今回の襲撃の依頼者はダニールであること。それ以外に関しては頑として話さなかった。
 これによって、ひとまずは向かうべき所が出来た。
 ダニールの屋敷を訪れた冒険者達が見たもの、それは。
 完全にもぬけの殻となった、静寂に包まれた屋敷だった。