【歌姫とナイフ】自由の歌 間章

■シリーズシナリオ


担当:香月ショウコ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月10日〜03月15日

リプレイ公開日:2008年03月17日

●オープニング

●自由の歌 第2楽章
 冒険者の人達が来た次の日の昼下がり。エドワルドは、皆のいる部屋に姿を現さないソフィアを探していて、普段はあまり使われない小さな部屋に行き着いた。ソフィは、その部屋の隅に立って、ぼんやり外を眺めていた。
「どうしたの、ソフィ」
「エド‥‥あの、あのね‥‥」
 振り返って、一言二言。ソフィは突然泣き出した。その姿にエドは困惑して、しかし何があったのか、理由を尋ねる。
「院長先生が‥‥私に新しいお父さんとお母さんが出来るかもって‥‥」
 ソフィの言葉にエドは驚いたが、そういったこともいつかあるだろうとは思っていた。何せここは孤児院だ。孤児を引き取りたいとやって来る者達もいるだろう。
「マルカ姉さんが紹介してくれた、すごく優しい人達なのよって‥‥でも、私、私皆と離れ離れになりたくないよ‥‥っ!」
 涙の止まらないソフィを抱きしめながら、エドはふと、数日前のことを思い出していた。アリッサの公演の時に気付いた2つのこと。歌うアリッサの目が死んでいたこと。そして。
 観客の大人達の嫌な目線が、何度も、何度も、自分達に向けられていたこと。


 泣き止んだソフィに、目が赤くなっているのが収まるのを待ってから戻るように言って、皆が集まる広間に戻ってきた。そこでは警備の冒険者とミレーナ達が話をしていて。一度、他の冒険者の人も来て、少し会話をして、去って行って。
「君達が将来外に出ようと思うなら、まず外を知ろうとするのが大事‥‥だと思う」
 外を知るのが大事。将来やりたいと思うことが、どうすれば手の届く所まで近付くのか、考えて、知らなきゃいけない。
 そう、だから。
 まずは、全てを知らなきゃ。


 広間を出た。ちょうど出くわしたニールを、他の部屋に引っ張り込む。何だよとか言いながらも、しかし自分の気持ちを今まで包み隠さずニールに伝えてきたエドの考えは、どうやら伝わっているようだった。特に抵抗もせず、静かに部屋の中、物陰へ。
「ニール」
 ニールの口元が、任せろとばかりに笑った。
「行こう。俺達で答えを出そう」

●自由の歌 間章
 数日後の深夜。エドとニールはダニールの住む屋敷の前にいた。共に、昔愛用したナイフを懐に隠し、放つ気配を最小限に薄めている。孤児院に引き取られるまでは街中を転々とし、自分達よりも幼く弱い子供達のため盗みを繰り返す生活を送ってきたエドは、逃げ、逃がし、隠れ、隠し、惑わすことにおいてはベテラン冒険者に引けを取らない。
 2人は足音を完全に消し、見張りが幾人も存在する邸内へと潜入する。エドが向かうはアリッサの部屋。彼女に普通の自由と幸せを。ニールが向かうはダニールの部屋。彼の所業について探り、正体を暴くため。
 しかし、エドはより早く‥‥最初の潜入時に気付いているべきだった。邸内が普通でないことに。
 その辺の弱小貴族に雇われるような安物警備なら間違い無く見つからず、万一見つかっても逃げ切る自信のあったエドは、ニールと別れて間も無く発見された。撒くにも逃げるにも見張りの追跡能力が高過ぎてうまくいかない。
 彼らは、侵入者処分のプロだ。


「君の目的を聞こうか」
「アリッサを、あんたの都合から自由にしろ」
 程なくして捕まったエドは、連れて行かれた先の部屋でダニールとの面会を果たした。エドの言葉を聞いたダニールは、アリッサへの接触を許したことについて、エドを連れてきた見張りを目で咎めた。
「君はいけないことをする子供のようだ。そんな子には、貰い手はつかないぞ?」
「そんなのは要らない。俺は俺のものだ」
「‥‥連れて行け。しばらくは外に出してやるな」
 言ってダニールは背を向け、見張りがエドを無理やり立たせ部屋の外へ連れて行く。その背中に、ダニールの声が投げられた。
「君のお友達も捕まえさせてもらったよ。生憎同じ部屋にはしてあげられないがね。寂しくても我慢してくれ」
 閉まる扉。そして、ダニールだけが残った部屋で。
「これでよろしいですか?」
「ご苦労。殺したほうが楽だったろう? わざわざ手間をかけさせてすまんね、ダニール」
「いえ、この程度のこと何でもありませんよ」

 ・ ・ ・

 翌日に冒険者ギルドへ出された依頼は、商人ダニール・センニコフ主催によるリトル・マリアの第2回公演補助であった。補助の内容は第1回とほとんど変わらない。前回と同じ会場を公演用の舞台に作り変え、会場内外の警備をし、当日に招待する孤児達14人を院の引率1人と共に管理すること。
 なお、要望が1つだけ出ている。客席の一般客と孤児達のテーブルを、ごちゃ混ぜにしない程度に近付けること。
 当日の観客数は、孤児達を含め50人ほどになるだろうということだ。

●今回の参加者

 ea9096 スィニエーク・ラウニアー(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0744 カグラ・シンヨウ(23歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec2843 ゼロス・フェンウィック(33歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec4124 オデット・コルヌアイユ(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●疑惑の初日
 前回と同じように待ち合わせの場所に着いたスィニエーク・ラウニアー(ea9096)達は、やはり前回と同じように公演を主催するダニールと、歌姫リトル・マリアの出迎えを受けた。ほとんど内容の変わらないその打ち合わせの、数少ない相違点といえば。
「今日は、お三方だけですか?」
「他の皆は、孤児院の子供達の把握に行ったよ。前は出し抜かれてちょっと騒ぎにしてしまったから」
 ダニールの疑問にカグラ・シンヨウ(eb0744)が答え、フィニィ・フォルテン(ea9114)が頷く。
「準備に何か特筆すべき点があったら、私達が後で皆にしっかり伝えます」
 確かにギルドへの依頼には、前回の公演準備と作業内容はほぼ変わらないと表記してあった。ダニール側としてはキエフで初使用の会場をどうセッティング出来るか確認出来ていたし、依頼を請けた冒険者達が前回と同一ということもあって、スィニエークの伝言の件、そして孤児院への人数振りについて問題は感じなかった。歌と曲の合わせについても、フィニィがこちらに来ているので文句無し。そのまま、打ち合わせへ突入。
 実際は、孤児達の掌握のため孤児院へ向かったのはオデット・コルヌアイユ(ec4124)だけで、ゼロス・フェンウィック(ec2843)は院は院でも院長に用があってそちらへ行っている。この用件については、色々疑惑のかかっているダニールの前では話せない。
 孤児院の警備依頼の際に発覚した、極秘裏の養子縁組(人身売買?)について、知り得た情報を冒険者達と院長は共有している。あれから院内の人物を調べただろう院長と、新たな情報の交換や今後の相談を、ゼロスは行ってくる。


 打ち合わせが中盤を過ぎる頃、フィニィはリトル・マリアを別室に誘い、本番用の歌の選曲をしていた。こちらはリトル・マリアの得意分野や力量を前回で見て取ったフィニィが提案したものが1つを除いてすぐ通り、最後の1つは音域の広さや曲調の変化の幅の大きさで難易度の高めの挑戦曲が、リトル・マリアの希望で加えられた。そうして曲が即決定すると、余る時間。
「リトル・マリアさん。以前、お客さんは商売のついでに来ている人だから嫌、と仰っていましたよね。ダニールさんの『商売』の意味は他の方々との情報交換でほぼ掴めましたし、リトル・マリアさんのお気持ちも分からなくもありません。ですが、お客さんの中にはリトル・マリアさんの歌を楽しみに来ている方もいるのですから、その方達のために歌うことは出来ないでしょうか?」
 ふと、フィニィが話しかける。隣の部屋で、普通の声量で話される声が遠く、小さく聞こえる。向こう側には聞こえない程度に、フィニィは声を抑えていた。
「楽しみにしてるお客さんって、子供達のこと?」
 リトル・マリアは嫌そうな顔をして言う。しかしその表情の原因は、子供云々の所ではなく、別の所に向けられているようだった。
「ダニールさんの『商売』に関しては調査を進めている方もいますし、近いうちに何らかの対処をすることになると思います。そちらのことは考えずに公演に集中してみませんか?」
「それは、捕まえるってこと?」
「私たちは、ちゃんとした手続きでそう依頼されれば、そうします。そうでなければ、私達がどう行動するのかとかそういったことは、真相が分かるまでははっきりとは言えませんね」
「そう‥‥」
 話は途切れた。そのまま隣室の話が終わるまで待って、この日は解散となった。翌日からは会場の準備のために忙しくなる。
 冒険者達が帰りダニールの屋敷の自室に戻ったリトル・マリアが、1人小さく「また私から家族を奪うの?」などと呟いたことを、誰も知らない。

●確信の数日
 会場設営の始まる少し前、まだ人の集まっていない時間に、冒険者達は一度集合した。そして、互いの情報を交換。
「院長のほうでは、ある程度の目星をつけるところまではいったようです。ダニール氏と通じている孤児院側の人物というのは、マルカ氏だろうと」
 ゼロスの報告に名前が挙がったのは、院の警備に行った時案内をしてくれた若い女性だ。孤児達からも姉のように慕われている。
「何故、というところまでは分かりませんが、これに関してはほぼ確実なようです。そして、ダニール氏が仲介として関わったと思われるこれまでの養子縁組の詳細ですが、はっきりしません。マルカ氏が窓口になっている件は幾つかありますが、ダニール氏がキエフに来る前のものもありますし、後のものでも明確にダニール氏と関わりの無い件もあります。まだ、提示される条件や寄付金の有無などで、ダニールが関わっているかどうか見分けることは難しそうです」
「あーはいはい、オデットからも1つ面倒くせえ話があるです。今回見事に公演の招待客リストから外されたエド君が行方不明になってたです。あとプラス1人」
 なにぃ!? とゼロス以外からオデットに集まる視線。それを彼女はまあまあと。
「居場所は突き止めてあるです。ダニールさんのお屋敷ですよ。公演で愛しの歌姫様に会えないもんだから突撃かまして、とっ捕まって怒られてるんだと思うです。だから仕方ない、謝って回収してくるです」
 ということで、オデットはリトル・マリアに会いに行きたいフィニィと共にダニールの屋敷へ。カグラも心配だったが、会場の準備を疎かにしないため、現時点では居残る。2人の結果待ちだ。


 さて、オデットがバーニングマップで突き止めたダニール邸前にて、フィニィがエドに呼びかけのテレパシーを送ってみる。
 が、しかし。
「返事がありませんね‥‥」
「ただのしかばねになってるですかね?」
 と空振り。マップは間違い無くここを指したのだが。仕方がないので、直接聞いてみた。
「いえ、うちには誰も来ていませんが‥‥忍び込んでいるのでしょうかね? 探させます」
 というのが返答。そして少し後、やっぱりいないと。ダニールは、オデットが始めに使った地図と同じ物を取り出し再び試してみるように言う。果たして、エドの反応は屋敷の外へズレていて。
「どうやら、タイミングよく逃げられてしまったようですね。その子供の目的は分かりませんが、少し警備の方に気を付けるよう言っておきます」
 言って奥へ戻っていくダニール。しかし、オデットとしては何か釈然としない。釈然としないが、自分の魔法で不在を証明してしまったのだから、納得せざるを得ない。
 結局リトル・マリアには会えないっぽいフィニィのアドバイスで、行方不明になっているもう1人の子供、ニールについても後で調べてみたが、こちらは一度も反応が無かった。


 収穫の無かった2人の報告を受けて、ここでメンバーの交代。スィニエークとカグラが、孤児院へと向かう。
 スィニエークは院長の元へ向かい孤児達の状況、そして養子縁組の話をよく持ちかけてくる人物について話をする。院長によれば、現在寄せられている誘いの話は数件で、うちほとんどは院長の友人や、以前孤児を引き取った人の直接の友人だという。そもそも人となりの知れない人物とは徹底的に対話を重ねる主義の院長だから、スィニエークが思う『子供の意思が尊重される縁組』は、余程の何かが無ければ叶えられるだろう。
 心配されるのは、余程の何かが起こる場合。子供がいなくなる、とか。
 カグラの見た孤児たちの様子は、以前と大きく違っていなかった。エドとニール、2人の子供はいなくなっているが、彼ら2人は普段からふらりと逃げ出すこともあったようで、不在になっても取り立てて騒がれない。
 エド達がいなくなったのは、不審者達の仕業ではなく彼ら自身の行動ゆえだろうとカグラは考えていた。それは不審者達は今行動を起こしてもメリットがないこと、そしてオデットからの情報によれば、エドがリトル・マリアに何らかの感情を持っているらしいことから。
 しかし、孤児院ではこれといった情報を得ることは出来ず、そのまま会場の準備へと戻ることになる。もう、出る情報は出尽くしたのだろうか。

●混沌の最終日
 その後、会場の準備は特に滞りなく進められた。冒険者達の意図による一般客テーブルを前、招待孤児のテーブルを後ろにする座席配置は、準備を全て冒険者に一任していたダニールには何かを指摘されることも無く、無事に設置された。
 そして、本番当日。孤児達からは幾つか「見えなーい」と不満が出たものの、スィニエークが説明してその場を収めた。一般客からは、特に文句など出ようはずもなく‥‥逆に言えばこれといって馬脚も現さず、公演は始まった。会場内にはゼロス、額や付近には彼のゴーレム、出入り口にスィニエーク、楽団の中にはテレパシー準備済みのフィニィ、子供の傍にはオデットと、とりあえずひと通りをカバーし、カグラはエドの捜索も兼ねて会場の周辺を歩き回る。
 公演は、子供の中に問題児が含まれていないこともあってか問題なく終了した。


(「すいません、お尋ねしたいことが」)
「うえっ!?」
 公演が終わり帰っていく客の中に、1人変な声を出した奴がいた。以前の孤児院警備の際、スィニエークがヴェントリラキュイで声をかけた相手。彼もこの公演に来ていた。そしてスィニエークにテレパシーで話しかけられ、びびった。
(「‥‥声を出さなくても通じるのか?」)
(「はい、大丈夫です。‥‥実は、前回孤児院の近くでお話しした件なのですが、その話を上にしたら、そのようなことは伝わっておりませんでした。このままでは違法な取引として話が大事になるかもしれませんので、誰とどのようなお取引をしたのか、詳しく教えてもらえませんか?」)
 スィニエークの質問に男は驚くと、一つずつ事情について話し出した。若い息子のために婚約者が欲しいこと(ちなみに9歳。孤児から選ぶ理由とか、何で今かとか、事情は色々あるらしい)、ダニールと話し見合いの場を提供してもらう感じでここに来ていること、この後しばらくしてから、気に入った子と話をするため院長と会う約束を、それから取り付けること。
(「つまり、ダニールさんからは子供を直接見る機会の提供しか受けていないのですね?」)
(「他の奴は分からないけどね。あと、院長に会いに行くタイミングも指示されてる。言われたタイミングで行けば、話がスムーズに進むだろうって」)
 男の言うことがどういうことなのかは分からなかった。だが、今回得られた情報の中ではおそらく最も有用なものだろう。


「何だか、今回は何をしに来たのかよく分からんのです」
 オデットが呟く。確かに、なにかこれといって大きな進展はなかった。外堀を埋めるばかりでなく、もっと内側、奥へ奥へ突っ込んでの情報が必要なのかもしれない。