【新型ゴーレム製造】最終回
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■シリーズシナリオ
担当:紅白達磨
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月21日〜05月26日
リプレイ公開日:2009年05月30日
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●オープニング
戦い方を見れば、その人の性格が分かるらしい。特にゴーレムの動きには操縦者の性格や気質が反映されるのだとか。
「‥‥生真面目過ぎ」
慎重に慎重を重ねているといえば聞こえはいいが、決断力にやや欠ける。好機を決して見逃さないことは戦場では大切な要素だ。冷静沈着な動きが部下に安心感を与え、的確な指示は隊の損害率を大幅に減少させる。大胆さに欠ける動きもそれらが十分に補っているからこそ、こうして激戦地の隊長を務めることが出来ているのだ。
模擬戦が始まってかれこれ30分程度。白銀の戦乙女を使いこなし、背後に重ねられたのは累々の屍‥‥もとい、打ちのめされたモナルコスたち。
「伊達に色男と呼ばれてはおらんのぅ。ゴーレムとはいえあれも女。操縦者の意思を他の連中よりも反映しているように見えるわい」
「ご、ご冗談を‥‥」
謙遜や照れではなく、困惑。女性嫌いもゴーレムにまで及ぶとはある意味尊敬する。
ばつの悪い顔でそそくさと去っていくその後ろ姿を見ながら、ギルが大仰にため息を漏らした。実力は申し分ないのだが、あの女性嫌いの性格はどうにかする必要がある。‥‥同じ隊の者に女性でも来た日にはおかしくなるんじゃないだろうか。
回収されたモナルコスの数は決して少なくはない。これから始まる模擬戦のため、急遽メラート工房に送られてきたものだ。
新型ゴーレムの製造計画も今回が最後。内容は模擬戦である。
当初の予定では新型ゴーレムの性能を明確に測るために、モデルであるヴァルキュリアとの一対一を予定していたが、工房内での会議の結果、ランドセル訓練生を含む複数のゴーレムを使用した模擬戦が行われることになった。
即ち、『新型ゴーレム率いるB班VSロニア搭乗のヴァルキュリア率いるA班』。新型の搭乗者は冒険者の誰かが務めても良く、立候補がいなければ工房側から鎧騎士を出すとのこと。訓練生たちはランドセル搭載のモナルコスに乗りどちらかの班に所属することになる。数が奇数で均等ではない場合は、ランドセルの経験がある鎧騎士が一名加わることになっている。
場所は森林地帯。冒険者がメラートに到着次第、フロートシップで模擬戦の舞台となる場所に直行、一晩休息した後、すぐさま模擬戦を開始する。
瘴気との決戦を目前に控えた時期であるため、騎体の損傷はなるべく避けろとのことだが、加減が過ぎても詳細なデータが取れないので注意すべし。
●リプレイ本文
●模擬戦前に
「今回の最大の難点は『ゴーレムを壊しすぎないように、かつ、手を抜きすぎないように戦う』といったところですね」
「特に新型はわしらの血と汗と涙の結晶じゃ。万が一壊しでもしたら工房中を敵に回すと考えてもよいぞ」
「まったくだ」
冗談と笑い飛ばせないのは相手がバッカート夫妻だからに違いない。模擬戦が始まったのでもないのに背筋に汗をかいてしまったのは、今回新型騎『ブリュンヒルデ』の搭乗者フラガ・ラック(eb4532)だ。
「この演習では接敵直前の牽制くらいしか使えないでしょう。モナルコスでの単発攻撃はシルバーゴーレムに通用しないでしょうから、B班がモナルコスを先頭にして仕掛けてきた場合に限り、先頭のモナルコス狙いでソニックブームを使う、という方針でいきますか」
モナルコス同士はできれば寸止めで、と付け加えてアトラス・サンセット(eb4590)が相手チームのガルム・ダイモス(ec3467)に話しかけた。その頬には真っ赤な手形がついてある。
「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、まぁ‥‥」
シファ・ジェンマ(ec4322)におずおずと声を掛けられ、努めて明るい声を出そうとしたが頬の痛みがそれを邪魔してしまう。ランドセル搭載騎への搭乗を希望したガルムだったが、ランドセルの訓練をまったく受けていないためギルから思いっきり反対されたのだ。何とか許可を得たものの、その代わり思い切り頬に張り手を食らったというわけだ。
「まっ、気にすんなよ。あのおっさんはいつもあんな感じなんだ。それに何度も食らってればそのうちなれるって」
慣れるほど殴られるのもどうかとは思うが、伊藤登志樹(eb4077)はあくまで明るい。竜神ガリュナがメラートに襲来した際、ランドセル未経験の彼が天界人たる能力を発揮して都市防衛に一役買ったのは記憶に新しい。
「とにかくまー、死なないよう頑張れ」
ぽんっと肩に手を置いた伊藤の言葉にはえらく説得力があった。何たって伊藤は比喩ではなく、文字通り死を経験したのだから。
●模擬戦開始
模擬戦はAチームとBチームに分かれて開始された。地形は森林地帯。勾配は場所によって様々で生い茂った木々たちは搭乗者たちの視界と操作を否応なしに低下させてしまう。
戦力は以下の通り。
Aチーム‥‥ロニア(ヴァルキュリア搭乗)
アトラス(モナルコス、ランドセル搭載騎)
シファ(モナルコス、ランドセル搭載騎)
Bチーム‥‥フラガ(ブリュンヒルデ)
ガルム(モナルコス、ランドセル搭載騎)
伊藤(モナルコス)
模擬戦はあくまで『戦いを模したものである』ということが重点に置かれ、続いていた。ハルバートと盾を装備したヴァルキュリアに対し、ガンレットと鎌たるデスサイズを振り回すブリュンヒルデ。デスサイズとガンレットをブリュンヒルデ以外の騎体に装備させたいという案もあったが、時間の関係上それぞれ一つずつしか製造しておらず、またガンレットの方は新型に合うよう作ったから難しいということだ。両チームともに残りの二騎が連携を重視しながらシルバー同士の戦いを補助する形で戦闘を繰り広げていく。だが、それもやはり実戦とはほど遠い。瘴気戦を目前に控えたこの模擬戦で損傷騎を出すわけにはいかない。そんなことをすれば本末転倒だ。
シルバー同士の戦いは五分。互いにシルバーの能力を最大限に引き出しているようで、攻防は一進一退。ランドセル搭載騎が少ないBチームの方が劣勢かとも思われたが、Aチームの方もランドセルによる突進などを控えている節も見られ、装置の有無の差はそこまで感じられなかった。
●点火
時間というものは早いもので、気がつけば夕暮れが近づいていた。
模擬戦が始まったのは昼過ぎ。ゴーレムの連続稼働時間は熟練の者でも2時間から3時間だから、両チームともとっくに限界が近づいていた。
グライダーの後部座席で観察していたギルもこの現状には驚いた。ゴーレムの攻撃力は生身のそれとはかけ離れているため、ゴーレム同士の戦闘は稼働時間の関係もあって長引いても1時間程度で終了することがほとんどである。無論、本当の戦ともなれば様々な要因が絡んでくるから話は別になるが、この模擬戦がこうも数時間にわたり長引いているのはギルにとって意外も意外。互いに騎体を壊さないよう細心の注意を払っているといえば聞こえはいいが、悪くいえばそれだけ遠慮して筋が縮こまっているということだ。
「工房長、どうします?」
「ふむ、このグダグダままで終わってしまっては面白くないのぅ」
風を全身に受けながら、ギルがグライダーを操縦する工房員に声を返す。
訓練生のデータも取り終え、残るは決着のみ。だが、下の戦闘を見るからにそれも残り数分では期待できない。シルバーを操縦するロニアとフラガは共に指揮能力に優れた男であり、騎体の損傷を考えれば自然と無茶な闘い方もできなくなってしまう。戦ならばそれもいいのだろうが、今回はそれが仇となっているのだ。
手元の小型風信器から寄せられてくるのは麓に待機している工房たちの不平不満。『まだ決着を付かないのか』、『実はもう終わってるんじゃないのか』、『腹減ったから先に帰るか』、『出前取れ、取れ』、『くたばれ工房長!』等等。この世界の常識から少々ずれた言葉や私怨も見受けられるが、麓の連中が罵詈雑言を上げているのは理解できた。
「仕方ないのぅ、下の連中に繋げ。一気に終わらせるぞい」
「あいさー!!」
●模擬戦実戦半分こ
塵の如く巻き上がったのは、数百の新緑の葉たちと二本の大木。それを追い抜いて空へと舞い上がったのは石の人造兵器モナルコス。
『‥‥‥ぐっ、操作がっ』
『もらいましたぁ!!』
最初に飛び上がったアトラス騎を追って飛んだガルム騎が、装置の加減をできずに空高くに舞い上がりすぎてしまう。当然隙だらけになったところへアトラスのソニックブームが下半身を強撃、完全に制御を失ったガルム騎が地上へと落下した。
ギィンッ!!! と鬩ぎ合うのは鎌と矛。命を刈り取ろうとする鎌を穂先で受け止めた戦乙女は秀麗と表現すべき動きで半回転すると柄の先でブリュンヒルデの懐を突き飛ばした。刃ではないとはいえ、遠心力と一点に集中された攻撃はシルバーの巨躯を吹き飛ばし、後方に翻っていた大木群がへし折れていく。
『覚悟です!』
『んなもん、誰がするかっ!』
樹の幹を半ばから真っ二つにしながら水平加速したシファ騎が伊藤に突撃していくが、間一髪で回避されてしまう。抑えきれない加速力を木々に衝突させることで強引に減少させ、何とか地上に着地したシファ騎は休むことなく後方へと振り返る。そこに打ち込まれたのは伊藤騎の剣。反射ともいうべき反応により盾で防いだシファはすぐさま接近戦を開始した。
打って変わった激戦ぶりに驚いているのは模擬戦を行っている者たちだけではない。上空のギルも興奮を隠せずに歓声を上げていた。
この実戦さながらの激戦の始まりはギルの一言だった。
『負けた方はここにおいていくから。帰りは自力でよろしく』
模擬戦が繰り広げられているこの森林地帯はメラートから数十キロの地点にある。カオスの地に比較的近い場所ではあるが、人里もあることはあるし、街道も繋がっていないわけではない。要するに何とかすれば自力でメラートまで帰ってこられるわけだ。勝ったら来た時と同じくフロートシップで、負けちゃったら自力で。いつもなら笑って済ませられることも、ギルという男の性格とこの微妙な距離にある場所を考えれば、突然投げかけられた言葉が本気の可能性も否定できなかった。互いに遠慮する戦いにじれており、きっかけが欲しかったのも事実。そして数時間の模擬戦が彼らの冷静な判断力が欠け始めていたのもまた否めない。
壊れたらどうするという疑問も、ギルたちが徹夜で直すから構わんという一言で解決した今、冒険者とロニアたちは全力で戦闘を開始していた。
鎌を振るう姿とはアンバランスなスカート型の防具が腰部から一部吹き飛び、空へと上がる。素体に刻まれた傷跡に怒りを覚えながらも冷静な判断力を失わないフラガが、水平に横一線。ヴァルキュリアの細首を叩き落そうと振るわれた一撃は大木5本を丸ごと両断してしまうが、肝心の狙いは下へと逃げた後だった。
得物をはじいて勝負をつける。ロニアのハルバートが引き終わらぬデスサイズを打ち払い、空へと弾き飛ばした。
しかし勝利を確信したのも束の間。異常なまでに飛び上がった鎌はフラガがあらかじめ手放していたからに過ぎない。鎌を囮に背中のブラン製の剣を引き抜き、勝負の一撃を放つ。
『――――アノール!』
だがそれさえも、捨て身の盾によって防がれてしまう。自騎の肩口にめり込んだ刃を掴み、逃がさないとばかりに抱え込んだシファが剣を上げれば、
『―――――ふんぬっ!!!』
数瞬遅れて割って入ってきた伊藤がスマッシュの一撃を盾で防ぎ、4騎とも完全に停滞してしまう。
勝負を決めたのは‥‥
『――――――いただきです!』
シルバーでもランドセルでもなく、頭上から降り注いだ真空の刃。
アトラスの四騎の頭上から放ったソニックブームが全てを吹き飛ばし、模擬戦は終結した。
●天地人?
「えっとぉ‥‥」
「‥‥ん?」
「‥‥はい?」
「すみません!」
両手を合わせて頭を下げるのは模擬戦最大戦功を上げた(?)アトラス。その相手は同じチームだったロニアとシファである。
フロートシップと工房員たちの待機する麓に戻った冒険者たちだが、模擬戦が終わったにも関わらず何やら楽しげ‥‥もとい大変なことになっていた。
「‥‥まっ、気にすんなって」
伊藤のフォローを受けつつも土下座の勢いを見せるアトラスに、二人は優しい笑みを浮かべた。
「本当にごめんなさい!」
「気にしないで下さい」
「私も気にしてませんから、顔を上げてください」
「私もちょっと気分が上がってて、つい‥‥」
謝罪の原因は勝負を決めたソニックブームの一撃だった。普段なら決してしないのだろうが、極度の疲労とあの異常な状況が冷静な判断力を完全に奪い去っていたのだろう。これまでの訓練が具体的な形で出たのも大きい。四騎が完全に停滞し、好機とばかりに放ったソニックブーム。機会を逃さなかったといえば聞こえはいいが、味方ごと吹き飛ばし攻撃なのだから、言葉にし難い。仲間が温厚なロニアとシファだったからいいもの、人によっては大問題になっていたところだ。
「やっちまったもんはしゃーねぇって」
「何はともあれ、詳細なデータは取れたようですし良かったのでは?」
制止も聞かず、誤り続けるアトラスにため息を吐き、軽く笑いあう伊藤とガルム。
残念なことに新型の性能は詳細な数値を測るまでには至っていない。ガルムの考案した工夫により、女性をモデルにした細身による耐久力の減少は軽減できたが、やはりヴァルキュリアよりも装甲は落ちてしまった。その分、運動性能は高く、反応限界はモデルと変わらないが、デスサイズやブラン製の剣のおかげで攻撃面はヴァルキュリアを上回っている。一方でガンレットという武装は操縦者に高い技術を要求するという意味でまさに熟練者向けの騎体ということになるだろう。
一方でギルのまとめたデータによれば、今回の模擬戦に参加した者たちのゴーレム連続稼働時間とランドセル一回における消費量は以下の通りだ。
氏名/連続稼動時間/ランドセル消費量
伊藤登志樹 2,5時間 −
フラガ・ラック 3,5時間 ―(これまでの訓練から凡そ5〜8Pと予想)
アトラス・サンセット 2,5時間 10P
ガルム・ダイモス 3時間 25P
シファ・ジェンマ 3,5時間 10P
『1P=ゴーレム一分間連続稼動できる精神エネルギー』であるから、訓練を積んだ三人は20〜25P(訓練なしにランドセルを発動させる時に消費するエネルギー量)を、三分の一から五分の一にまで減少させることができたということになる。フラガとアトラス・シファの間に差があるのは訓練回数に違いからであろう。
「‥‥ん??」
「随分騒がしいですね」
模擬戦も終わり、新型開発計画も何とか終わって、すっかりお馴染みになったシファの栄養ドリンク(気に入ったからなどという理由でギルとリンドが材料費などを用意)を片手に、依頼終了の余韻に浸ろうとしていたときだ。
フロートシップのハッチが開き、その入り口付近に多くの工房員たちが集まっているのが見える。模擬戦に伴う騎体の整備やら用意やらで追従してきた者たちだろうが、様子がどこかおかしい。模擬戦も終わり、残るは後片付けを済ませてメラートに帰還するだけなのだが、異様なほどの熱気と歓声、そして悲鳴に包まれていた。
何とはなしに近づいていった二人の目に飛び込んできたのは、
――――何と配当表。
「かぁ〜、大外れじゃねーかよぉ!」
「よっしゃ〜! 大当たりぃ〜!!」
「ロニアの馬鹿がぁ〜〜!! 何であそこで当たっちゃうかなぁ!」
「‥‥‥‥おい、これって」
「‥‥‥‥‥」
要するに、模擬戦で誰が勝つか賭け事をしていた、というわけだ。ギルが模擬戦に油を注いだのも、こういう理由があったというわけで‥‥。
「おい、ジジィ」
伊藤が青筋を立てて、大当たりに飛び上がっていたギルの後ろに立っているのもまた当然。
「これはどういうことか説明してもらいましょうか」
凄まじい怒気を見せるガルムの姿に、びくりっと震える工房員一同。
そこで慌てて配当表やらを隠そうと頑張る工房員たちが時既に遅し。
騒ぎを聞きつけてきた模擬戦参戦者たちが次々とやってきて、事態はギルたちの圧倒的な不利に陥った。
「‥‥ギル工房長、これはどういうことか、しっかりと説明を頂きたい」
「いや、これはのぅ‥‥」
嘘を一切許さぬ冷徹な空気をまとうロニアと冒険者たち。
「俺たちじゃないですよ! これはギル工房長の発案でして!」
「そ、そうそう!」
「き、貴様らっ、それは内緒じゃと‥‥!」
脱兎の如く逃げていく工房員たちを追う者は一人もいない。
ぬっと背後ぎりぎりにまで迫った冒険者たちに対し、ギルは‥‥
「‥‥‥‥‥最近忙しかったじゃろ? じゃから工房の連中にもいきぬきをさせてやろうかと思ってのぅ」
てへっと無理矢理作った可愛い仕草も余計に怒りを煽るだけ。
「「「「「時と場所を考えろ、クソジジィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」」」
―――――――――こうして、新型ゴーレム製造計画は『ブリュンヒルデ』というシルバーゴーレムの製造に成功したことで無事(?)終わりを迎えたのだった。