【新型ゴーレム製造】第四回

■シリーズシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月01日〜05月06日

リプレイ公開日:2009年05月10日

●オープニング

「‥‥‥‥やっと半分、といったところか」
 ただでさえ小さかった独り言は厚い壁を飛び越えて市街地にまで届いてしまっている喧騒にすっかり飲み込まれてしまう。整備庫の真ん中で棒になった足にようやくの休息を取らせてやりつつも、口から指示という名の怒声を吐き出すのも忘れない。
「ご苦労じゃった。それで、外の様子は?」
「南と東の城壁が半壊、竜のブレスを受けた西側は木っ端微塵になっております。市街地は瓦礫にまみれており、あれでは雨風をしのぐことすらままならないでしょう」
 鎧を纏った騎士はロニア・ナザック。応えたのは工房長ギル・バッカート。年齢も育ちもまったく異なる二人だが、顔に浮かぶ苦渋の色は互いに同じ。
「レディンより救援物資が送られてきておりますが、圧倒的に数が不足しております。それに人員も‥‥」
「あのバカが居れば、もう少し違ったんじゃろうが」
 一年に一回見られるかわからない、ギルの大仰なため息を見てロニアも自然と目を伏せた。バカとは評されるが、それも優秀であることの裏返し。こんな大惨事の中でも軽口を忘れないだろうワーズ・ワンドラスも現在は瀕死の傷に入院を余儀なくされていた。
 半月は前になるだろうか。スコット領南部、西方地域に襲来した竜神『ガリュナ』。それが齎した被害はすさまじかった。大地は崩壊し、山脈から溢れ出した魔物たちが集落を蹂躙、西方の主要都市メラートも地震と竜のブレスによってほとんどの建物が倒壊。全てを元通りにするには十数年の年月が必要になると予想されている。住民の避難場所でもあったメラート工房だけが何とか原型を留めているのが救いといったところだ。現在も復興作業は続けられているが、目途はまったくついていない。
 モナルコスに引きずられた荷台が慎重に工房の奥へと運ばれていく。大きな布が剥ぎ取られれば、そこにあったのは未完であることが一目でわかるシルバーゴーレムの素体があった。
「何もこのような状況で開発計画を進めずともよいのではありませんか‥‥?」
「お前の気持ちは分かる、だが」
「何を甘ったれたことを言っている」
 言葉に割り込んでやってきたリンドの到来に、ロニアが恭しく礼を取った。女性に対する苦手意識もあるだろうが、ここの工房員たちが等しく抱く感情も大きい。
「災難は続けてやってくるもの。カオスの地を横断している瘴気が隔ての門に到達するまでもう一ヶ月しかないんだ。一刻も早くこいつを完成させないと、西方地域どころかスコット領の人間全員が死んでしまうことになるぞ。騎士ならば、もう少し先を見通す視野を持つことだ」
「‥‥はっ」
「中央議会のジジィどもはどうでもいいとして、都市の連中も開発計画には一通りの理解を示してくれている。ならば期待に全力で応えるのが私たちの務めってもんだろう」
 素体自体は竜神襲来の前に完成していた。幸い工房の被害が軽微だったから助かったものの、もし竜神の攻撃が工房にまで及んでいたならば、素体ごと計画の全てが塵となっていただろう。
「一ヶ月か‥‥。竜のせいで進行が大幅に遅れしまったからのぅ。どうしたものやら」
「予定通り行うか引き伸ばすか、どちらかしかないだろう」
 従来の予定では新型ゴーレムの完成は五月中旬だったが、竜神襲来のせいで一ヶ月近い後れを取ってしまった。もし全てを万全の状態で終えたいならば、自然と完成時期を一ヶ月引き延ばす、つまりは六月中旬まで開発計画を行うということになるが、それでは瘴気の襲来にとてもではないが、間に合わない。
「瘴気の襲来に間に合わせようとするなら、冒険者たちとの作業は後二回が限度だろう」
「二回‥‥ですか?」
「しかも既に挙がっている設計案に従って進めるしかない。今回の依頼で武装の装着と試運転を行い、最後となる次回で武装と素体間に生じる誤差を調整。あとはぶっつけ本番だ。当然ランドセルの改良をする余裕もない」
「引き伸ばした場合はどうなります?」
「後3,4回は依頼を出せるじゃろうて。今回で素体の試運転と武装の装着、その後に調整と不具合の改良を行い、最後に武器との相性を模擬戦の中で確認。提案のあった装甲や武装に関する工夫が騎体にどれくらいの影響を与えるかデータを取る余裕もあるじゃろう。ゴーレムニストたちが集まれば、ランドセルを改良してもかまわん」
「二つに一つ‥‥ですか」
 竜神の一件により、スコット領の戦力は著しく低下した。対瘴気戦に参戦予定だったゴーレム二小隊はほぼ半壊、一線で活躍していた熟練のゴーレム乗りたちのほとんどがワーズ同様病院で療養中。主戦力になるとは思えないものの、瘴気とは別に現れるであろうカオスの魔物たちに当たる予定だった西方騎馬隊も大きく力を削がれてしまっている。作戦時、ゴーレム隊を率いることになるだろうロニアとしては一騎でも戦力はほしいところだが‥‥。
「ランドセルの訓練もある。最終的に決定するのは冒険者たちに任せるとしよう」

●今回の参加者

 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4532 フラガ・ラック(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4590 アトラス・サンセット(34歳・♂・鎧騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec3467 ガルム・ダイモス(28歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ビザンチン帝国)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)

●リプレイ本文

●短期決戦
 メラートの工房に集結した冒険者たちを出迎えたのはバッカート夫妻だった。
 被災した人々への支援物資をそれぞれが渡せば、急かされるように彼らは工房の一室に通され、早速会議が開始された。それほどに時間が惜しいということだろう。
 最大の議題であった計画の期日に関しては、五月下旬の完成を目指すということで一致する。理由は幾つかあったが、カオスの地を横断してきている瘴気との戦いに向けて、少しでも戦力が欲しいというのが大きな理由だった。アスタリア山脈から襲来した竜神『シャーリア』との戦闘でメラートに配備されていた多くの鎧騎士たちが騎体と共に戦線から離脱している現状では、無難な選択だったといえる。




●製造班
「鎧みたいな大層なやつである必要はねぇんだ。レミエラで強化したマントさえあれば、十分な防具になるだろ。短時間で低コスト、数も確保し易い」
 伊藤登志樹(eb4077)が言い出したのはこの計画の終了期日に関する会議が終わった直後のことだった。
 訓練生たちがギルに連れられてぞろぞろと部屋を後にしていく中、残ったリンド、布津香哉(eb8378)、ガルム・ダイモス(ec3467)の製造班の面々は会議を続行していく。
「良案ではあるな」
「なんか引っかかる言い方だなおい」
「生身の戦闘ならば十分な防具ともなるだろうが、ゴーレム戦ともなれば攻撃力の桁が違う。私も一時考えたことがあったが、マント自体の防御力が低すぎるためにどれだけ強化しようと、ゴーレムの巨大な武器を受け止めることはできん。魔法に対する抵抗力を高めるという意味ではある程度期待できるかもしれんから、もう一度一考してみてくれ」
 伊藤のもう一つの案はカオスの魔物、もしくはデビルの行動を阻害する能力を持つレミエラをゴーレムの盾に装着するという内容だ。ソニックブームが発動可能だったことから判るように、能力の発動自体は容易いが、問題はその種のレミエラを用意する段階にある。レミエラは易々と手に入る代物ではない。それが上記の物であれば尚更だ。
「理由はそれだけじゃない。お前から頂いたレミエラは参考にさせてもらうつもりだが、この前の竜のせいでここの財政は非常に切迫している。都市の住民たちも理解こそ示してくれているが、いつそれが裏返るかもわからない。人間とはそういうものだ。これまで中央のマリク様から一部援助してもらっていたが、それもほとんどカットされた。竜との戦闘時にフロートシップが何隻も墜落しただろう? その分を本国から補充するので余裕がないとのことだ。瘴気戦で戦艦は必要不可欠だからな」
「じゃ、じゃあ、せめてランドセルの出力は多少落とすべきじゃないのか? あれだとチャージングの反動に騎体が耐えられないぜ」
「無理だな」
「即答かよ」
「当たり前だ。ランドセルの大まかな構造はわかっているが、出力の調整はゴーレムニストたちの分野だ。腕利きのゴーレムニストでもいない限り、どうにもならんさ。騎体がオルトロスだろうとモナルコスだろうと結果は同じだ。ドラグーンでさえあの出力に耐えることは不可能。だからこそこうして何度もランドセルの訓練を行っているんだ」
 話はゴーレム製造の主任ともいうべきガルムに移る。
 新型の武装は大きく三種類。ブラン合金の剣、デスサイズ、ガンレット。ブランを素材とする剣はカオスの魔物などの武器耐性を持つ敵に大きな効果が期待でき、銀製のガンレットはくせこそあるが、十分な技量を持つ者が操縦であれば攻と防の両方に役立ってくれるだろう。布津からは武装を一つに絞ったらどうかという意見もあったから、次回までに意見を纏めてくれることを期待する。
「鎌の長さはどれくらいになりますか?」
「こちらでも再び色々と実験してみたのだが、あの騎体には4m弱の長さが無難だと判断した。バーストアタックが使える者ならば風車のように遠心力を利用して盾ごと敵騎の胴体を両断することも可能だ。‥‥それまで敵が待ってくれればの話だが」
 防御力向上のレミエラの装着には難色を示している。理由は伊藤に述べたものと同様でやはりレミエラの価値が大きな障害になっているとのことだ
「武装以外で考えていた案として制御胞の操縦席に四点式のベルトとか体を固定する装置を取り付けたい。シートも操縦者の体にフィットするように調整が効く様にできるとか考えてみたんだが」
「べると?」
「‥‥ああ、この世界にはないんだったか」
 提案者である布津が今更ながらに自分が天界人ということを再認識した。概要の説明を終えれば、リンドが感心したように何度も頷いた。
「‥‥そういう発想があったのか。お前の言うような伸縮性の素材がないので効果は低いかもしれんが、試してみる価値はありそうだな」
「加減には気をつけてくれよ。あまり素材が悪いとランドセルの出力で固定用の布が身体を引きちぎりかねないからな」
「? ‥‥どういうことだ?」
 簡単に理解してくれると思っていただけに、布津が再び苦笑いを漏らした。地球では当たり前のことがこの世界の常識ではないことも無数にある。天界の知識が豊富な布津が再び説明を終えてようやく話は元に戻った。
「‥‥そういうわけだ。出力が強すぎるとその反作用、‥‥要するに反動で身体にベルトが食い込んでくるんだ。当然出力が強ければ強いほどそれは増していく。身体を固定するはずのベルトで死亡なんてオチも有り得るから、素材には十分気をつけてくれ。‥‥そういや、ランドセルってストーン級にしか付けて実験してないんだっけ? アイアンやカッパーだと、重量が違ってくるから出力や反応に差が出たりするのか?」
「出る‥‥だろうな」
 リンドの発言はあくまで推測に過ぎなかった。騎体の希少性と装置の危険性を考えれば上位の騎体で実験することは容易ではなく、ランドセルを試したのはストーン級、つまりモナルコスしかない。
「カッパーやシルバーだと制御胞内に発生するランドセルの反動を弱められるとか、そういうがあれば嬉しいだが」
「こればかりはな‥‥。新型に試してもらうにはリスクがでか過ぎる」



●訓練班
 一方、フロートシップ内部のブリーフィングルームでもランドセル訓練生たちがギルと共に会議、という名の談笑に近いものを親しんでいた。
「私自身は通常のカリキュラム『装置発動→落下点への着地→飛翔後の落下攻撃→地上との水平加速→模擬戦→模擬戦』を希望します。理由は私自身がソニックブームを使えない事もありますが、アトラスさんのカリキュラムとは別種の訓練形式を行う場合のデータの収集も必要と思われるからです」
「私も当然同じです。今回で水平加速をマスターしたいですからね」
「私は勿論自分の考案したカリキュラムで」
 すっかりお馴染みになったシファ・ジェンマ(ec4322)の栄養ドリンクを手にしながら、頭を下げてくるシファに対してギルが鷹揚に頷いている。何でもドリンクに使われている岩塩の代金を工房が出してくれたらしい。竜神シャーリアとの戦闘で活躍してくれた彼女に対するせめてもの礼とのことだ。
「その節は大切な騎体を壊してしまい申し訳ありませんでした」
「仕方なかろう。まぁ伊藤の無謀な行動に比べればお主の行動など可愛いものじゃわい」
 否定も肯定も出来ず、苦笑してしまうシファ。先の竜神戦の際、何の訓練も受けていない伊藤はランドセル搭載騎に乗り戦に臨んだ。当然十分な操作も出来ず騎体を壊してしまったわけだが、天界人の特有の知識を活用することで奇跡的な活躍を見せたのである。何の訓練もなしに装置を使った無謀さには脱帽だが、メラートを救ったあの活躍ぶりがある以上否定もできないというのが本音だ。
「あんな奇跡は二度と起きんじゃろう。今度出撃すれば何も出来ずに死ぬのがオチじゃろうて」
 随分と楽しそうな笑い声を上げてから、アトラス・サンセット(eb4590)。
「そういえばランドセル搭載騎を使った移動が出来る鎧騎士は、スコット領に何人もいるという話でしたよねー」
「ん、まぁ‥‥な」
 現在半分以上が病院で療養中だが、とギルがしかめ面を一層歪めた。
「今は治療に専念しているかもしれませんけど、復帰したときにすぐ役立てる技術を文章にまとめておくつもりです。ソニックブームレミエラの数が揃わない場合でも、投擲用短剣や短槍を使えば同じような運用ができるんじゃないかなー、と」
「ソニックブームの代わりに投擲するというわけか」
 それならば確かに大幅な訓練時間を取る必要はなくなる。
「時間があれば、フロートシップからランドセルを使って降下する訓練もしたかったですね。これが出来れば、高速のフロートシップで敵拠点に突っ込んで敵の迎撃態勢が整う前に制圧、なんて無茶な作戦が成立するかもしれませんから。実際スコット領に何人かいるはずの『空中移動はできるが空中移動しながらの攻撃が出来ない鎧騎士』でも、作戦次第でランドセル騎を有効に扱えると思います。高速で移動できるということは有利な地形を確保し易いという事ですから」
「お主の言うようにこの装置は元々強襲作戦を前提に作られた。戦艦で敵の上空に接近し、ランドセルで一気に敵施設内部に侵攻して制圧。それが出来れば戦の犠牲を減らすことができるからのぅ」
 だが、現実とは思い通りにはいかないのが常だ。装置の操作難易度、それに希少性もあったのかもしれない。ランドセルの操作に長けた特殊部隊を創設することも当初の計画に含まれていた。計画がもっと早く軌道に乗っていたなら、スコット領南部での実現も夢ではなかっただろう。惜しむべきは、計画が頓挫した状態で長く放置されていた点だ。
「空中移動で接近、ソニックブームで攻撃、空中移動で退避。空中でのソニックブームは万一の保険‥‥としたいですね」
「投擲だとどうしても威力が落ちるからな」
「モナルコスだと手先が器用に動かないという欠点もあります。弓矢や投擲にあまり向きませんから、相当の技量を持つ方でないと出来ないかもしれません」
「それだと、どうしても一定の訓練期間が必要になりますねぇ」
「冒険者ギルドの仕組み上、ここで訓練を受けた者と、実戦でランドセルを使う者は別です。長期間の専門的訓練に意味はないでしょう。それよりも、間口を広くして実戦投入後も訓練を受ける機会を設けるべきです」
 フラガ・ラック(eb4532)の指摘はもっともだった。実戦投入により一定の成果を挙げることが出来れば、訓練生の枠を広げることも十分可能である。今後スコット領の戦がどのように展開していくかにもよるが、時間さえ確保できれば、訓練のみを続行していくことはギルも考えていたことであった。


●新型起動
 白銀の騎体が兵舎の広場でくるくると演舞を繰り広げる度、工房員たちから歓声があがった。
 鎌を振るわれれば、不気味な風音が鳴り響く。搭乗者であるフラガの操作はあくまで試運転に過ぎないが、それでもシルバー特有の秀麗された動きは試運転というよりも演舞に近い。
「設計に問題はないようだな。背中の鞘とのバランスも上手く言っているように思う」
 広場の端からそう述べたのは布津。隣でぐったりとしているのはガルムで先ほどフラガと交代したばかりだ。新型の設計に加えて操縦までと疲労困憊し、外であることにもぐったりと地面に伏していた。
「‥‥それにしてもみんな元気だな」
 祭りの如く歓声(怒声)をあげる工房員たち。リンドの話ではここ数日連続で徹夜続きだったと聞いたが、違うのだろうか。
「ここの連中をなめるなよ。地方の工房なれどこの私たちに日々鍛えられた猛者どもだ。二日や三日、一週間程度の徹夜など物の数に入らん」
(‥‥そういえば、この前ドラゴンが攻めて来た時も逃げなかったらしいな)
 竜にも臆さない度胸の持ち主たちなのか、故郷を守ろうという義の心からか、はたまたこの夫婦が怖かったから逃げるに逃げられなかったのか。
「少しくらい加減してやったらどうかと思うんだが」
「愚問だな。加減という言葉は私たちの辞書にない」
 どうやら正解は全て、といったところか。
「騎体の名前はもう決まってあるのか?」
「ガルムからは『ハルペー』と『ブリュンヒルテ』の二つが提示されている。正直な話、名前などどうでもいいんだがな」
 ‥‥まぁあんたはそうだろうなと、口にはしない。




●最後の敵?
 依頼は終了し、冒険者たちはメラートの工房に再度集結して結果を報告しあった。
 訓練生たちもそれぞれに一定の成果を上げることが出来た。
 実戦に勝る訓練はないというが、シファはまさにそれを体現していた。グラビティードラゴン『シャーリア』との一戦で一度命を落とした彼女だが、あの竜との戦いが彼女の操縦技術を飛躍的に進歩させていたのは紛れもない事実であり、それが今回の訓練に如実に現れていた。落下攻撃を完全に習得し、次の段階に進んだシファが挑んだのはフラガと同じ地上での水平加速。二人とも水平加速についてはほとんどマスターしたといえる。
 アトラスも空中からのソニックブーム発動に慣れ、その回数を高めることに成功した。前回では3、4回が限度だったが、今では連続7回の攻撃が可能になっている。ギル曰く、最終目標は『20回』とのことだ(それを聞いたアトラスが絶句したのは言うまでも無い)。
 肝心の新型の試運転は上手くいった。武装と素体間で微細な誤差があり、武器を持った腕の反応がやや遅れるという問題点があったが、それ以外はほぼ上手くいっている。
 そしてもう一つの問題点は新型の性能の測定だった。フラガの感想ではヴァルキュリアと同等か、それ以上の性能はあるとのことだが、どれもはっきりとしたデータは得られなかった。具体的な数値の測定は一日で出来るものではない。ましては新型という未知の騎体だ。
「やはりあれしかないか」
「あれとは?」
 おもむろにニヒルな笑みを浮かべたリンドに、期待と不安が入り混じる一同。
「モデルであるヴァルキュリアと模擬戦を行わせ、大まかなデータを割り出す」
「‥‥正気か?」
「当たり前だ」
 目を丸くする夫に、リンドはさも当然とばかりに断言する。
 最後の製造計画は新型とヴァルキュリアの対決。これで決まりとなった。