●リプレイ本文
●そして最終戦
──シャルトル地方、競馬村
ポツリ‥‥
ポツリ‥‥
静かに雨が振り始める。
「やばいな‥‥急いで馬達を厩舎にもどしてくれ!!」
厩務員が一斉に走る。
そして全ての馬を厩舎に連れていったとき、突然雷が発生した。
「このレース‥‥荒れるな‥‥」
その厩務員の言葉通り、カイゼルカップは大荒れに荒れまくった。
ノルマン南方シャルトル地方・プロスト領特設コース。
久しぶりの競馬再開とあって、この『競馬村』には大勢の人たちが集っていた。
さて、いよいよ最終戦・カイゼルカップ。
マーシーズカップが始まる。
コースは楕円形コース、距離2000mという中距離レース。
そして走るのは、選ばれし7頭。
いよいよ、今年度最強の馬が決定する。
選ばれるのは誰か!!
そしてカイ・ミストのダブルワン(2連続最優秀騎手)は!!
──アロマ厩舎
「‥‥脚ですか?」
「ええ。放牧で調子を見ていたのですが、時折足を引きずるように‥‥」
『怒りのトップロード』の様子を厩務員に問い掛けていたカルナック・イクス(ea0144)は、その厩務員の言葉に愕然となった。
「走れるのですよね? 大丈夫なんですよね?」
「まあ、筋肉疲労のようですし、当分は併せ馬で様子を見ていきましょう。もし最悪の場合は出走取り消しということもありますが」
「それでも構わないですよ。『怒りのトップロード』が生きているのならばね」
そう告げると、カルナックは厩舎に向かう。
──トコトコトコトコ
と、カルナックの気配に気が付いたのか、『怒りのトップロード』が柵のところまで歩いてくる。
「久しぶりだね。あまり無茶をしないでくださいよ‥‥」
そう告げながら、首をそっと撫で上げるカルナック。
そして二人の特訓が始まった。
厩務員の忠告通り、カルナックは極力脚に負担をかけすぎないようにと併せ馬での調整のみを続けていた。
それがレースにどう結果を残すのか‥‥。
──カイゼル厩舎
静かにコースを駆抜ける『絹のジャスティス』。
それをじっと見つめているのはカイゼル卿と厩務員達。
「‥‥ウリエル殿は‥‥今回はダメでしたか‥‥」
そう呟くカイゼル卿。
「彼も冒険者です。このノルマンで彼の力を必要としているものが大勢いるのですよ‥‥」
そう告げる厩務員だが、カイゼル卿は落ち込んだままである。
この最終戦は『カイゼルカップ』。
いわば彼の冠レースである。
それに出られないのが、実に惜しかったようである。
「別の騎手を探しましょう、そうすればレースに出られます」
そう告げる厩務員だが、カイゼル卿は静かに口を開く。
「ウリエル殿以外は‥‥『絹のジャスティス』の騎手として認めぬ‥‥」
そう告げると、カイゼル卿は空を見上げる。
「ぎりぎりまで待つ。もしダメならば、『絹のジャスティス』の体調不良として出走取り消しを申請する‥‥それが、私に出来る事であろう‥‥」
そうつげると、 カイゼル卿は静かに其の場を離れた。
そして出走当日。
『絹のジャスティス』は体調不良により出走取り消しとなった。
──オロッパス厩舎
「待っていましたよっ!!」
パンパンと手を叩きつつ、カイ・ミスト(ea1911)を迎え入れるのはオロッパス卿。
「お待たせしました。それではこれで‥‥」
あっさりと挨拶を終えると、カイはそのままフライングブルームにまたがりコースとその周辺の見回りを開始。
そしてそれが終ると、厩舎に戻り『風のグルーヴ』の毛繕い。
「これが最後です。全力でいきますよ‥‥」
そう語りかけるカイ。
そして翌日から、最後の調整が始まった。
スタミナ向上のため、脚に負担の掛からない砂地を走らせる。
決して無理はせず、とにかく『風のグルーヴ』に併せるように。
コースではカイは目を瞑ったまま『風のグルーヴ』に乗る。
そして『風のグルーヴ』に全てを任せて、ただひたすら走る。
落馬することなく、風をうけて、カイは『風のグルーヴ』と一つとなり、コースを疾走した。
──ディービー厩舎
『ドコマデモ‥‥ツイテイクカラ』
それが『旋風のクリスエス』の言葉。
ミルク・カルーア(ea2128)はいつものようにディービー厩舎を訪れると、一通りの挨拶を終えて厩舎にやってきていた。
そしていつものようにテレパシーを使って『旋風のクリスエス』とのコミュニケーション。
「これで最後とは寂しいですわね」
『オワリジャナイカラ』
前向きにそう告げる『旋風のクリスエス』。
そしてミルクはふと、ある事を語りかける。
「考えてみれば今までのレースは限界に近い力を出した事はあっても、限界にそしてその先に挑戦した事はありませんでしたわね‥‥今こそ挑戦するべきなのかしら?」
それは限界への挑戦。
その為の問い掛けであった。
それに対して、『旋風のクリスエス』が出した答えが先程のあれである。
「そう。なら、手加減はないわよ‥‥」
そして二人は特訓を開始。
無理をしすぎないいつもの調整。
それが吉と出るかは果たして‥‥。
──マイリー厩舎
「楽しんでください。そして兎に角今シーズン最終戦、恥ずかしくない勝負をしてくださいね」
マイリー厩舎を訪れたクレア・エルスハイマー(ea2884)に、マイリー卿がそう話し掛けた。
「最終戦、私が乗って良かったのでしょうか?」
クレアはそうマイリー卿に問い掛けている。
だが、マイリー卿は頭を左右にふると、ニコリと微笑みつつこう告げた。
「貴方は最後まで乗る責任があります。勝敗ではなく、最後まで楽しむということですよ。本来なら、馬の扱いに長けた冒険者に来てほしかったというのが本音でした」
そのマイリー卿の言葉に、クレアはやや意気消沈。
「ですが、貴方の頑張りを見ていたら、そんな事はどうでもよくなったのですよ‥‥。見ていきたかったのです。貴女と『全能なるブロイ』の成長をね。さ、最後のレース。その成果を見せてください」
そう励まされて、クレアは特訓を開始した。
「恥ずかしくない勝負‥‥頑張りますわ」
──オークサー厩舎
「最終戦、宜しくお願いします」
オークサー厩舎の厩務員室にて、アルアルア・マイセン(ea3073)は厩務員達に頭を下げていた。
「おいおい、そんなにかしこまらなくても‥‥」
そう告げる厩務員たちだが、真剣に頭を下げるアルアルアになにも言えなくなっていた。
彼女の思い。
ここまで無事に、走り続けてこれたのは、偏に皆のおかげであるという事。
騎手という貴重な体験をさせてくれるきっかけを作ってくれた、オークサー卿とその他の貴族の方々。
そして調教から何から素人同然の自分をサポートしてくれた、スタッフの皆様方。
全てに対して感謝しつつ、アルアルアは最後の調整を行った。
その結果がどうでるか。
全ては最後のレースにて‥‥。
──プロスト厩舎
『漆黒のシップ』復活。
怪我を克服したその姿を見て、カタリナ・ブルームハルト(ea5817)は絶句した。
あの艶やかな毛色はそこになく、腹部にはあばらも浮き出ている。
筋肉は極限まで削ぎ落ち、そこにはやせ衰えた『漆黒のシップ』の姿があった。
「辛かったんだねっ。厩務員さん、『漆黒のシップ』は走れるの?」
そう問い掛けるカタリナに、厩務員は一言『目を見てください』とだけ告げた。
その『漆黒のシップ』は、闘争心にみちあふれていた。
そして実際に乗って判った事実。
以前よりも軽い。
そして粘り強い走りを見せる『漆黒のシップ』。
痩せたのではない。余計な肉が限界まで落ちただけ。
実際、体重は以前となんら代わりはなく、落ちた肉の代わりに付いた筋肉が、その力をさらに強くしていた。
「よっし、これが最後のレース、全力でいくからよろしくねっ!!」
そう告げると、カタリナは早速調教を開始した。
●レース当日〜エモン・クジョーの『俺に乗れ!!』〜
──スタート地点
レース当日。
今回はいつになく大盛況。
スタート地点には大勢の人が集っていた。
「お待たせしました。今の所一番人気は前予想通りっ。いよいよ最終戦、その雄姿を栄光のロードに見せるのか『風のグルーヴ』っ。そして二番手は帰ってきたぜ『漆黒のシップ』。賭けの受付はそちらの帽子の男性の所へ。オッズは右の掲示板をご覧くださいだっ!! それではっ」
気合の入ったエモン・クジョーの熱い語り。
そして大勢の観客が、一枚の木の札に祈りを込めて、最後のレースをジッと見守っていた。
空からは雨。
コースは雨に濡れ、あちこちがぬかるんでいる。
そんな中でも、レースは中止にはならない‥‥。
各馬一斉にスタートラインに到着。
そして今回のレースの主催者である7貴族から、レースタイトルである『カイゼルカップ』主催のカイゼル卿が代表として前に出て挨拶。
そしてそれが終ると、各馬一斉にスタートラインにつく。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」
各馬一斉にスタートしました。
トップを走るのは『帝王・トゥーカイ』そして『旋風のクリスエス』。いきなり逃げきりの体勢を取った2頭が並んで全力で駆けていったァァァァ。
続く三番手は『怒りのトップロード』。その後方、『風のグルーヴ』『全能なるブロイ』『漆黒のシップ』と続きます。
トップと最後尾との差はいきなり3馬身。
最終戦ということもあり、各馬ともに気合が入っています。
「‥‥ずっと考えていた‥‥」
アルアルアは『帝王・トゥーカイ』の背中で静かに呟く。
「私は、君に勝利の美酒を味わってほしかった。でも、今は違う!!」
──ビシィッ
手綱をゆるめ『帝王・トゥーカイ』を枷から解放するアルアルア。
その瞬間、『帝王・トゥーカイ』がさらに前に出る!!
「私は貴方、帝王と共に、勝利の感動を味わいたいっ!!」
いきなりトップを奪い取る『帝王・トゥーカイ』。
その後方でも、さらに熱いデットヒートが繰り広げられていた。
残り1800m
順位に変動あり
『全能なるブロイ』が前に出始めたっ。
『怒りのトップロード』と並び、ぴったりと3番手をキープ。
そこで動きは硬直したぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。
「ここが貴方の場所なの‥‥いいわ」
すでに走法は『馬なり』となっているクレア。
彼女自身、この最終戦まで走れるとは思っていなかった。
まったく馬に乗った事の無いクレアを、厩舎の人たちは暖かく迎え入れてくれた。
そして『全能なるブロイ』もまた、クレアを騎手として認めているようである。
──ギュッ
手綱を手首に絡め、体勢を低く取るクレア。
万が一のとき、クレアの手首は抜ける。
それも覚悟の上で、クレアは全てを『全能なるブロイ』に託した。
残り1500m
順位に変動なし
「くっ‥‥やはり視界が悪いか‥‥」
カイは前方を走る馬達をにらみつけつつ、 じっと今の位置をキープする。
『怒りのトップロード』や『全能なるブロイ』の後ろ足が泥を跳ね上げるが、それがカイや『風のグルーヴ』に当たらないようにポジション取りを大外に傾けていく。
「‥‥あとはこのまま。最後に微笑むのは‥‥」
そのままの位置で、他の馬とのバランスを取りつづけるカイ。
残り1000m
順位に変動あり
「限界か‥‥」
目の前にはなにも走っていない。
ミルクはただひたすら『旋風のクリスエス』を疾走させている。
後方から追ってくる馬達の追従を恐れることなく、ただひたすら先頭を駆抜ける。
──ガクッ
と、『旋風のクリスエス』が速度を落とす。
「ここまでが第一段階。そしてここからが」
静かに『旋風のクリスエス』の様子を見ているミルク。
「今だっ!!」
その『旋風のクリスエス』の失速を見極め、カルナックは『怒りのトップロード』に鞭を入れる。
その刹那、『怒りのトップロード』は『旋風のクリスエス』に追い付きかかったが‥‥。
──グン!!
素早く『旋風のクリスエス』も加速、さらに速力を上げていった。
「ど、どういう脚だぁ!! あそこで加速するなんて尋常じゃないぜっ!!」
絶叫を上げるカルナックの横を、さらに一陣の風が駆抜ける。
──ドドドドドドドドドドッ
それはただひたすら加速を開始した『全能なるブロイ』である。
背中ではクレアが必死に掴まっている。
(絶対に離さない‥‥)
ギュッと掴んだ手綱は信頼の絆。
そしてついに『全能なるブロイ』が『旋風のクリスエス』をターゲット!!
残り600m
順位に変動あり
「もう少し‥‥あと少しの辛抱だよっ!!」
最後方大外では、カタリナが『漆黒のシップ』にそう語りかけている。
最終コーナーを越えたところが勝負所、その為の力を、『漆黒のシップ』はじっくりと蓄積していた。
最終コーナー突入
順位に変動あり
運命の第4コーナー。
ここに突入した瞬間、全ての馬が勝負に出る。
「『漆黒のシップ』っ。行くよッ!!」
「いくよ『怒りのトップロード』。ここが仕掛所っ!!」
「さて‥‥そろそろだな。『風のグルーヴ』、全力で行くぞ」
「このままいくわよ『旋風のクリスエス』。誰も追い付かせはしないわっ!!」
「お願い‥‥もう少しなのっ。頑張って『全能なるブロイ』‥‥」
「遠慮はいらないわ。『帝王・トゥーカイ』。貴方の全てを今こそっ!!」
最終コーナーを越えた時点でトップに踊り出たのは『全能なるブロイ』。さらに加速を開始すると、そのまま『旋風のクリスエス』を引き離し始めた
「そんな馬鹿な‥‥」
素早く鞭を入れるミルクだが、さらに後方から『怒りのトップロード』と『漆黒のシップ』が駆けあがってくる。
そして『旋風のクリスエス』は一気に抜き去られ失速。
「まだ‥‥まだなのよっ‥‥」
──シュンッ
必死に鞭を入れるミルクだが、その横を疾風が駆抜ける。
『風のグルーヴ』、最後の加速開始。
そしていよいよゴール直前。
大外からは『風のグルーヴ』と『漆黒のシップ』、内には『怒りのトップロード』と『全能なるブロイ』。
少し離れたところで『旋風のクリスエス』と『帝王・トゥーカイ』が最後の詰め。
そして頭一つ抜き出た『全能なるブロイ』に、その時異変が発生した‥‥。
──ブチッ
手綱が千切れ、クレアが落馬‥‥。
──ドガッ
全身を強く打ち、クレアはそのまま気絶。『全能なるブロイ』は素早く向きをかえ、他の馬がいなくなってからクレアの元に駆けていった。
そしてトップは『漆黒のシップ』と『怒りのトップロード』、そして『風のグルーヴ』の勝負となった。
最後のゴールライン。
一気に駆抜けた3頭。
勝敗は判定にもつれ込んだ‥‥。
──そして
「ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉるっ。トップは予測通りの『風のグルーヴ』カイ・ミスト執念で勝利をもぎ取ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。そして二着は『怒りのトップロード』。『怒りのブライアン』の屈辱をここでも返せずっ!!」
1着:『風のグルーヴ』
2着:『怒りのトップロード』
3着:『漆黒のシップ』
4着:『旋風のクリスエス』
5着:『帝王・トゥーカイ』
6着:『全能なるブロイ』(落馬により失格)
出走取り消し:『絹のジャスティス』
圧倒的な強さを誇る『風のグルーヴ』。
颯爽とウィニングランを決めるカイと、その背後で静かに走るカルナック。
「来季‥‥こんどこそはっ!!」
去年もこのポジションのカルナック、来季こそはと新たに誓いを立てていた。
──そして
遠くを見つめている。
何かが、自分を呼んでいる。
『絹のジャスティス』は、厩舎を飛び出して、その声の方向へ向かって走り出した。
きっと、自分を待っている。
まだ走れる自分を、必要としてくれている人がいる。
その思いが、『絹のジャスティス』を走らせた。
そしてその日から、『絹のジャスティス』の姿を見たものはいない。
●そして日常へ‥‥
──アロマ厩舎
パリに戻る為、カルナックは荷物を纏めていた。
「‥‥また、レースの日時が決定しましたら、来てくれますか‥‥」
アロマ卿がそうカルナックに問い掛ける。
その言葉に、カルナックは満面の笑みを浮かべつつ、ゆっくりと口を開いた。
「『怒りのブライアン』『怒りのトップロード』という強い馬に乗ることができて俺は幸せでした。惜しむらくは『怒りのブライアン』に1勝させてやる事ができなかったことですね。また機会が有りましたらいつでも声をかけてください‥‥」
そしてカルナックはパリに戻っていった。
──オロッパス厩舎
そこは祝賀会会場。
最終レースでのカイの勝利、それを祝う為に大勢の人々が集っていた。
「まあまあ、飲みなさい飲みなさい。今回も勝利をモノにする事が出来ましたよ‥‥これもカイ卿のおかげです‥‥」
楽しそうに来客にそう告げているオロッパス卿。
と、其の場にカイの姿が見えないのに、ふと気が付いた。
「オロッパス卿!! カイ殿はどちらに? 是非お話を聞かせていただきたいのですが‥‥」
そう話し掛けてくる来客に、オロッパス卿は静かにこう告げた。
「カイ卿は静かに相棒と飲んでいますよ。もう少しそっとしておきましょう」
──その頃のカイ
そこは馬房。
柵の中で眠っている『風のグルーヴ』の側に座り、窓の外に浮かんでいる月を眺めつつ、階は勝利の美酒に酔いしれていた。
「ダブルワンなんていらないさ‥‥俺は、お前と一緒に走れればそれでいい‥‥」
グイッとカツプを飲み干すと、そのままカイは静かに眠りに付いた。
──ディービー厩舎
ダッダッダッダッダッダッダッダッ
コースを颯爽と走っているのはミルク。
間もなくここを離れなくてはならない。
そのため、ミルクは『旋風のクリスエス』達と最後の時間を楽しんでいた。
「ミルク殿〜っ。次はドレスタットの春G1です。また来てくれますかぁぁぁぁっ?」
そう叫んでいるディービーにたいして、ミルクは静かに肯く。
(次のレースこそ、タイトルを取ってみせます‥‥)
そう心に誓うと、ミルクは一気にラストスパートっ!!
──マイリー厩舎
天井。
そこにぶら下がっているランタンの灯を、クレアはじっと見つめていた。
意識が戻ってから、クレアはずっと天井を見つめていた。
「私‥‥最後に失敗しちゃった‥‥」
ツツーと頬を涙が伝う。
──ガチャッ
静かに扉が開く。
そこには、マイリー卿とプロスト卿、そしてカタリナの姿が合った。
「おっす。元気になったかな?」
ドン、と横のテーブルに大量の料理を並べていくカタリナ。
「これは?」
「プロスト卿とマイリー卿がね、僕達を労ってパーティーをやりましょうって。クレアはまだ動けないようだったから、ここでやる事にしたんだ‥‥」
そうニィッと笑いつつ告げるカタリナ。
「マイリー卿、最後に申し訳有りません」
申し訳なさそうに告げるクレアに、マイリー卿はワインを差し出す。
「努力賞ですよ。次はもっと頑張ってくださいね」
そのワインを受け取ると、横で肯いているプロスト卿もワインを手に持つ。
そして誰ともなくワインの入ったカップを手に取る。
「おっし、おつかれさーーーーんっ!!」
──そして‥‥オークサー厩舎
カツーーン
足音が響く。
最終戦翌日。
無人の厩舎をアルアルアは歩いていた。
様々な思い出。
大切な仲間。
全てがあったからこそ、ここまでこれた。
静かに厩舎の中で頭を下げると、そのままアルアルアは其の場を立ち去った。
「楽しい思い出を‥‥ありがとう‥‥」
●神聖歴1000年春G1・全成績(1着−2着−3着)
『風のグルーヴ』 2−3−1
『草原のワンダー』 2−0−0
『怒りのトップロード』 1−3−2
『漆黒のシップ』 1−0−3
『帝王・トゥーカイ』 1−0−0
『旋風のクリスエス』 0−1−1
『全能なるプロイ』 0−0−0
『絹のジャスティス』 0−0−0
・神聖歴1000年G1最優秀馬
『風のグルーヴ』
・神聖歴1000年G1最優秀騎手
カタリナ・ブルームハルト
・神聖歴1000年優駿特別賞
なし
・アットホーム賞
『全能なるブロイ』
・アットホーム騎手
クレア・エルスハイマー
そして
力一杯駆抜けた馬達を愛する大勢の皆さんに感謝の気持ちを込めて。
彼等は、いつまでも駆抜ける。
レースは、まだ終らない。