●リプレイ本文
●はじまりますよっ〜セミファイナル〜
──ノルマン競馬パリ特設コース
ノルマン南方シャルトル地方・プロスト領特設コース。
ここに、とある人物が静かに脚を降ろした。
「ここが競馬村か‥‥」
一見すると、何処にでもいるような冒険者。
軽装のレザージャケットにマント、腰にはダガー、そしてスモールザック。
「さて‥‥仕事の為の下見といきますか‥‥」
そう呟くと、男は村の中の施設をあちこち見てまわった。
まあ、そんな普通の光景はおいといて。
さて、いよいよ第六戦・ノルマンオークスが始まる。
コースは楕円形コース、距離にして2400mという中距離レース。
前回の短距離から一転して距離が倍。
馬達のコンディションと調教の腕が勝利の鍵を握るのであろう。
そして走るのは、選ばれし7頭。
運命の騎手との再開を果たした『風のグルーヴ』。
その真価を発揮できるか!!
──アロマ厩舎
ドドドドドドドドドドドドドドドトッ
練習コースを他の馬と共に駆抜けているのはカルナック・イクス(ea0144)と愛馬『怒りのトップロード』。
実力派すでにトップクラス、全シーズンチャンプである『風のグルーヴ』と互角に渡り合えるという確信が、カルナックに力を与えていた。
「いい調子だ、『怒りのトップロード』。この距離はお前の独壇場。あの時の調子で走れば勝利は目の前だ!!」
初勝利を納めた第4戦。
あの時とまったく同じ距離、同じコース。
それなら『怒りのトップロード』にもかなりの勝機はある。
ただ一つの懸念事項である『草原のワンダー』。
その未知なる力に対抗する為に、カルナックはただ走りつづけた。
──カイゼル厩舎
「‥‥すまない‥‥」
静かにコースを歩きつつ、ウリエル・セグンド(ea1662)は横を歩いている『絹のジャスティス』に謝っていた。
自分のミスで、『絹のジャスティス』に怪我をさせてしまったのではないか。
そんな思いで、ウリエルは『絹のジャスティス』の元を訪れた。
厩務員の話によると、あの事故以来、『絹のジャスティス』は『走っていない』のである。
怪我をしたわけでも無い。
ただ、『絹のジャスティス』は走らなくなった。
レース馬として、それは致命傷。
闘争心がなくなったのか、それとも事故の恐怖から立ち直れないのか?
「お前は‥‥どう思ってるんだ? 不甲斐ない俺‥‥乗せたら痛い目までして‥‥無理してでも走ってしまう‥‥なら、もう‥‥俺と走らない方が‥‥」
そう呟くウリエル。
──ヒョイ
と、突然『絹のジャスティス』がウリエルの襟首を加え、ブゥンと後に振る。
──ドサッ
タイミング良く鞍にまたがると、ウリエルは瞬時に手綱を握る。
その刹那、『絹のジャスティス』は走り出した。
みるみるうちに風景が変わっていく。
それは、いままでの『絹のジャスティス』の走りではない。
コースには、馬の走り、その速度をみる為に一定の間隔で置かれている棒がある。
その暴徒棒の間を通過する速度が、いままでとは比較にならなかった。
そして一周したとき、丁度ゴールを越えたとき、『絹のジャスティス』は動かなくなった。
息が荒くなり、身体が震えている。
「もういい‥‥『絹のジャスティス』‥‥君が走れるのは判った‥‥ただ‥‥もう無理をしないで欲しい‥‥」
ウリエルと走りたい。
きみの喜ぶ顔をみたい。
それが、『絹のジャスティス』の気持ちなのだろう。
じっとウリエルの瞳を見続ける『絹のジャスティス』。
「ありがとう‥‥いつも、お前の体に問いかけるよ」
そして、最良を目指す為の特訓が始まった。
──オロッパス厩舎
「少々、間が空いてしまいましたね‥‥」
挨拶もそこそこに厩舎へと向かうのはカイ・ミスト(ea1911)。
そこで待っていた厩務員から、カイが居なかった時期になにがあったのか、『風のグルーヴ』の様子などを詳しく聞いていた。
「姉から大体は聞いてきましたが‥‥姉は脅えられたといっていましたからね」
「血の匂いだろうさ。冒険者の中には、戦いを生業としている奴もいるだろう? 動物はそんな人の匂いに敏感に反応するからなぁ‥‥」
そう呟く厩務員。
「確かに‥‥」
カイ自身も冒険者なのだが、それは馴れというものであろう。
『風のグルーヴ』の体調も万全。
特に、カイが戻ってきてから、瞳の輝きが増していった。
あとは、『風のグルーヴ』に無理をさせない程度の調教。
そして本戦に向けて‥‥。
──ディーピー厩舎
いつものような語らい。
練習を終え、厩舎で『旋風のクリスエス』の身体を拭いてやる。
そのミルク・カルーア(ea2128)の気持ちに答えるように、『旋風のクリスエス』もじっと動かない。
オーラテレパスによる意志の疎通もまだぎこちないものの、『旋風のクリスエス』は確実にミルクの言葉、語りかけに反応している。
いままで通りの基礎。
ノルマンディービーと同じ距離、同じ感覚。
そのレースなら、コツは掴んでいる。
「今回を入れて後2回。あなたとも長いようで短いつきあいでしたわね。さびしいですけれど、だからこそただ勝利を目指すのではなく思い出に残る勝利を目指しましょうね」
『旋風のクリスエス』に自分の思いと誓いを語るミルク。
『モウ、マケナイカラ‥‥』
そう、『旋風のクリスエス』が言葉を返したような感じがした。
──マイリー厩舎
「私は落ちたりしませんわよ。例え意識がなくなっても、ゴールをするまでは命に代えても手綱を放しませんわ‥‥。だから、全力で走ってくださいね」
練習コースで、クレア・エルスハイマー(ea2884)は愛馬『全能なるブロイ』にまたがりつつテレパシーでそう語りかけている。
その言葉に反応してか、プロイはいままでにない加速を見せている。
クレアは今回も、テレパシーのスクロールを常に使用し、前回と同様に調子ややる気、自分からの合図等の意志疎通を図っていた。
一つ一つ、慎重に『全能なるブロイ』の反応を見つつ。
前回のレースでのまさかの減速。
それも『全能なるブロイ』の責任では無かった。
ただ、他の馬が速力を付けていた為、自身とのペースギャップの為に減速しているように感じただけ。
それも、今回のレースで取り戻す気万々に感じるクレア。
「信頼していますわ‥‥」
そして勝負は思わぬ方向に!!
──オークサー厩舎
一つ一つの課題を越える。
無理な調教はせず、 いつものペースに『帝王・トゥーカイ』の調子を戻す。
それが、アルアルア・マイセン(ea3073)の取った調教メニュー。
能力向上よりも、調子の整えることを主に、馬体重がベストの状態を目指す。
「次は1600です。いけますか?」
そう問い掛けるアルアルアに、軽くいなないて声を返す『帝王・トゥーカイ』。
「いい子です。では参りましょう!!」
──バシッ
手綱を入れ、一気に加速。
スタートダッシュからのその驚異的な速力で、一気にコースを駆抜けるアルアルアと『帝王・トゥーカイ』。
だが、ゴールしてもまだ、体力は温存されたまま。
「ふぅ‥‥一休みして、同じコースであと2回。明日からは1800で頑張りましょう」
少しずつ、『帝王・トゥーカイ』を元の長距離へと戻していくアルアルア。
レースでの敵は他人の馬だけではない。
自身のペース配分も大切であると、『帝王・トゥーカイ』をみて思いつづけていた。
──プロスト厩舎
「プロスト卿にもお礼は言った。昨日は蛮ちゃんにもあって話をした‥‥よっし、あとはレースで頑張るだけだぁ!!」
それはいつも元気なカタリナ・ブルームハルト(ea5817)。
アサシンガールのことでプロスト卿の元を訪れ、まずはそのお礼を告げてくると、そのままかるく調教開始。夕方には調教を切り上げてその足でのるまん江戸村に向かい、蛮ちゃんにあって話を聞くという実に『無謀な』スケジュールを敢行。
まあ、結果としてプロスト卿も満足、蛮ちゃんは避難民受入れの為手が放せない状態、しばらくはパリに戻れない状況になっていた。
まあそれでも、話を聞いている限りでは落ち着いていた為、まずは一安心。
あとはゆっくりと『草原のワンダー』の調教という事になったのだが。
「ええ、先行逃げスタイル。鬼脚を生かしてスーパーダッシュ、これにつきますよ」
『草原のワンダー』の走りを訪ねたカタリナに、厩務員は迷いなくきっぱりとそう告げた。
「後方待機は大丈夫かな?」
「あー。ストレス溜まるよ、きっと。走りたいように走らせるのが一番だからねぇ‥‥」
それで方向性は決まった。
あとは調教を続けて、いざ本戦!!
●エモン・プジョーの〜俺も乗る!!〜
──スタート地点
レース当日。
「お待たせしました。パリ開催第6戦。無いても微笑ってもあと二つ。今回の一番人気は『風のグルーヴ』だぁ。伝説のチャンプが帰ってきた!! その走りに迷いはないっ。そして二番手はやはり『怒りのトップロード』。コアなファンがいまだ急増。賭けの受付はそちらの帽子の男性の所へ。オッズは右の掲示板をご覧くださいだっ!! それではっ」
おや? やはり今回も冒険者騎手が何か勝馬投票札を買っているが。
頼まれたのね?
そしてその辺りをうろうろしている謎の男。
「売り上げはこれぐらいか‥‥ふぅん‥‥」
おいおい、なにやら一波乱かよ!!
──パパラパーララーー
各馬一斉にスタートラインに到着。
そして今回のレースの主催者である7貴族から、オークサー卿が代表として前に出て挨拶。 そしてそれが終ると、各馬一斉にスタートラインにつく。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」
各馬一斉にスタートしました。
先頭を走るのはやはりこの馬『帝王・トゥーカイ』。続く二番手は『旋風のクリスエス』。その差鼻一つ、想像を絶するデットヒートです。 さらに1馬身差で『風のグルーヴ』『草原のワンダー』『怒りのトップロード』が軍勢となって追撃。
その後方1馬身、『全能なるブロイ』が沈黙を守っています。
そして最後方を‥‥、『絹のジャスティス』、故障か、走らない。ギャロップのままどんどん『全能なるブロイ』から離れていく。
「どうしたんだ‥‥まさか故障か‥‥」
そう叫ぶウリエル。
だが、『絹のジャスティス』は少しだけ加速を付けたかと思うと、そのまま『全能なるブロイ』との間合をとったたまま。
「いきなり逃げできましたか‥‥考え方はおなじですね」
真横を走る『帝王・トゥーカイ』、その騎手であるアルアルアに対して、ミルクがそう叫ぶ。
「クスッ‥‥」
カルク笑みを浮かべる余裕のアルアルア。
すでにレースは大詰めのような雰囲気を見せていた。
残り1800m
順位に変動なし
残り1600m
順位に変動なし
残り1200m
順位に変動なし
残り1000m
順位に変動あり
「‥‥落ち着いて‥‥まだですよ‥‥」
いっきに間合を詰め始める『風のグルーヴ』。
目の前を走っている『旋風のクリスエス』、そして後方を走る『草原のワンダー』の動きをじっと観察しているカイ。
いつでも仕掛けることができるよう、タイミングを見計らっていた。
「『草原のワンダー』が邪魔か‥‥大外に‥‥」
カルナックはゆっくりと大外に回ると、一気に『草原のワンダー』の真横に付ける。
「『怒りのトップロード』が横に‥‥でも、『草原のワンダー』の敵じゃ‥‥」
そう呟くカタリナだが、その真横を疾風の如く駆けあがってくる馬が2頭。
──シュタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ
それはまさに超大外。
『絹のジャスティス』と『全能なるブロイ』が一気に駆けあがってきたのである。
「このまま‥‥いきますわよっ」
必死に手綱を掴むクレア。
そして。
「駄目だ『絹のジャスティス』!! もっと速度を落として‥‥そんな走りをしたら壊れるっ」
手綱を絞るウリエル。
そして悲劇は起きた。
──ドサッ
クレア・エルスハイマー、落馬。
『全能なるブロイ』が立ち止まり、クレアの横にトコトコと歩み寄る。
だが、クレアは身動きが取れない。
慌てて厩務員達が駆け寄り、クレアを医務室へと連れていった。
『全能なるブロイ』の走りに、クレアの体力がついて行けなかったのである‥‥。
そして『絹のジャスティス』も、ウリエルの言葉に反応してペースを下げていった。
200mだけの奇蹟のトップであった‥‥。
残り800m
さらに順位に変動あり
それぞれの馬が仕掛け始める。
ゴールを目指して。
他の馬との駆け引き、騎手との駆け引き。
それが、このレースでの勝敗を大きく分けた。
──そして
「ゴォォォォォォォォォォォォォルッ。トップは『草原のワンダー』。デビューから2連勝、桁違いの力を見せてくれたっ。続いて2着は『風のグルーヴ』。惜しい、まさに惜しい‥‥」
1:プロスト卿所属 『草原のワンダー』
2:オロッパス卿所属『風のグルーヴ』
3:アロマ卿所属 『怒りのトップロード』
4:オークサー卿所属『帝王・トゥーカイ』
5:ディービー卿所属『旋風のクリスエス』
6:カイゼル卿所属 『絹のジャスティス』
7:マイリー卿所属 『全能なるブロイ』
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
グッと拳を握り締め、天高く突き上げるカタリナ。
その後ろでは、カイが静かにウィニングランを楽しんでいた。
──そして医務室
「どこにも異常はありませんねぇ‥‥」
レース途中での落馬。
「本気の『全能なるブロイ』の走り。レースでは、あそこまで荒くなるのですわ‥‥」
いまさらながら体力のなさを痛感するクレアであった。
そして表彰式で、オークサー卿から思わぬ発言が。
「今回の賞金と懸賞金は、次回の支払いとなります‥‥受付事務室に押し入り強盗が入りまして‥‥ええ、確実にお支払いたしますので、投票札はそのままお手元に‥‥」
なにやら波乱が起こりつつある。
そしていよいよ、次回は最終戦!!
●神聖歴1000年春G1・全成績(1着−2着−3着)
『草原のワンダー』 2−0−0
『風のグルーヴ』 1−3−1
『怒りのトップロード』 1−2−2
『漆黒のシップ』 1−0−2
『帝王・トゥーカイ』 1−0−0
『旋風のクリスエス』 0−1−1
『絹のジャスティス』 0−0−0
『全能なるプロイ』 0−0−0