南方戦線異常アリ〜前哨戦〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:11〜17lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 36 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月05日〜09月15日

リプレイ公開日:2006年09月15日

●オープニング

──事件の冒頭
 ウガァァァァァァァァァァァァァッ
 森林をつんざく雄叫び。
──ガキィィィンガキィィィィン
 一人の少女が、剣を振るいつつオーグラと相対峙している。
「これで雑魚だというのか・・・・グッ・・・・」
 一進一退の攻防。
 やがて、オーグラの背後から死臭の様な者が流れてきたとき、少女騎士『フィーン』は後方に展開していた分隊に撤退命令を出した。

 シャルトル・破滅の魔方陣付近。
 今だ精霊力が枯渇し、その地で死んだ魂は魔方陣に吸い込まれる悪魔の地。
 稼動した魔方陣に近付く者は、瞬くあいだにその魂を吸取られてしまう。
 その魔方陣から少し離れた深き森。
 いつしか、その森には、様々な魔物たちが住み着きはじめた。

 魔は魔を呼び寄せる。

 やがて森に住み着いた魔物は、獲物をもとめて近くの村を襲いはじめた・・・・。
 そのため、ニライカナイ自治区、及びプロスト領では、定期的に討伐隊を派遣し、魔物を狩っていたのであるが。

──シャルトル・旧街道防衛ライン
「アンデットの大群。そして巨大な魔物。東部から流れてきたオーガの旅団、それを今しばらく、すべてこのシャルトル地方で押さえよというのが国からの勅命だと・・・・」
 防衛ラインを納める騎士隊長『シャード』は、其の場に居た仲間たちにそう告げる。
「今のこの戦力で、いったいどうやって戦えと? 半年前まではこのノルマンにも屈強な騎士や冒険者もいただろうと。けれど、今はどうだ? あるものは異国に、またある者は見果てぬ魔法王国に・・・・。噂では冒険者を廃業して町できままな生活を送っているものさえあるというじゃないか?」
「腕のいい冒険者か・・・・『鋼鉄の冒険者』は? それと、シルバーホークと戦った事のある冒険者。彼等なら」
「そのどちらもこのパリに殆ど残っていない。今は、いま残っている戦力で戦うしかないんだ・・・・」
 若き騎士『クレイ』が窓の外を見つめつつ、そう呟く。
「隊長、いまの戦力で、ここの防衛ラインをどれだけ維持できる?」
「総力戦になったら・・・・もって半日。奴等の後ろには、悪魔がついているから・・・・」
──ダン!!
「またヘルメスかよっ!!」
 一人の戦士がテーブルを叩きつける。
「そうだ、紋章剣・・・・ワルプルギスの剣士なら!!」
「今この地にいる剣士様はマスター・オズとマスター・メイスのみ。新たなる紋章剣の所有者もいない・・・・」
「屈強な武器は?」
「マイスター・トールギスは昨年死んだ。マイスター・マシュウは連絡が付かない。トールギスの後継者であるクリエム殿の武具では、まだまだ・・・・」
「オーガにオーガ。あの糞いまいましいギュンターとかを奴等に潜入させて」
「あほか? オーガを信じてどうする?」
「ブランシュ騎士団に援軍要請は」
「今すぐ動ける騎士団はないというお達しだ・・・・つまり、今ある力で何とかしろと」
 会議は激しさを増す。
「伝令をパリに走らせます。今ここに残っている財力から、冒険者を雇い入れましょう」
 フィーンが静かにそう呟く。
「フィーン副隊長。ですが先程の話しのとおり、いまのパリには・・・・」
「大丈夫です。彼等の故郷、このノルマンが窮地に陥るかという時です。志同じものたちは、きっと立ち上がります・・・・私は、そう信じています!!」
 ニコリと微笑みつつ、フィーンがそう告げる。
「異議はないな。伝令、直ちにパリへ。ギルドマスターに直訴しても構わぬ!! 我等に必要な者は、『志ある冒険者』だ!!」

 かくして、南方最大の戦いの火蓋が、切って落とされる。
 ただ果てしなく戦う。
 その姿から、南方防衛ラインの騎士団は、こう呼ばれていた。

 ベルゼルク(狂戦士)と・・・・

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1924 ウィル・ウィム(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4167 リュリュ・アルビレオ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

李 雷龍(ea2756)/ イフェリア・アイランズ(ea2890)/ 李 風龍(ea5808

●リプレイ本文

●さて‥‥どうつっこんでよいやら
──ノルマン・シャルトル方面待ち合わせ場所
 シャルトルに待機しているベルゼルク騎士団に合流する為、冒険者一同は迎えの馬車の出るギルド前に集っていた。
「‥‥何名かたりないようだが?」
 迎えに来ていた騎士が、その場にいたリュリュ・アルビレオ(ea4167)とウィル・ウィム(ea1924)、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)、ミィナ・コヅツミ(ea9128)にそう問い掛ける。
「うん。他のメンバーは自力で向かっているよ‥‥」
「大丈夫です。彼等は皆、信頼できる仲間ですから‥‥」
「まあ、大丈夫なんじゃない? 子供じゃないんだし」
「二人はそろそろ来るようね‥‥」
 リュリュ、ウィル、オイフェミアの言葉に、騎士は頭に手を当てて困った表情を見せたが、直にミィナのフォローを聞いて少し安心。
「おまたせしました‥‥」
「ふう、なんとかまにあったか‥‥」
 上空から颯爽と舞い降りてくるのは、愛馬ペガサスに跨ったクレア・エルスハイマー(ea2884)と、同じくグリフォンに跨ったアルバート・オズボーン(eb2284)。
「グリフォンの‥‥ゲールハルトですね。報告は受けています。あとのメンバーは?」
 そう問い掛ける騎士に対して、リュリュが一言。
「ちょっと別ルートで移動していますよ。向こうで合流するから大丈夫だと思うけれど?」
 そう告げてはみたものの、騎士は『とんでもない』と一言。
「この移動中に、現在までの地形状況や敵戦力、どのような動きであったか一通り説明する必要があったのですよ。現地では直に部隊として行動してもらうのに‥‥ああ、なんでこう、まとまりがないんですか冒険者って‥‥ニライ査察官の紹介だという話でしたから、優秀な方たちだと信じていましたのに‥‥」
 困り果てている様子の騎士。
「大丈夫です。現地での説明は私達が行ないます。とりあえず今は急いで出発しましょう‥‥」
 ウィルが必死に説得し、とりあえず馬車は移動開始。
 馬車を挟んでペガサスとグリフォンが徒歩で移動、常時中の話は聞こえるように動いていた。
 なお、ミィナはこの場にやって来る前にロイ教授の元を訪ねたのであるが、最悪な事にロイ教授は『異端者 』と見なされたらしく、『異端審問』に連れていかれたあとであった。
 助手のマグネシアは行方不明、弟子の小悪魔はすでに抹殺されていた‥‥。
 とりあえず、何かが動きはじめたという事で、合掌‥‥。


──その頃の大凧チーム
 ‥‥
 とりあえず居留地へと向かうヘルヴォール・ルディア(ea0828)とテッド・クラウス(ea8988)。
 1時間おきに着地しては再び精神集中、そして飛行という動きを繰り返し、逆風にもめげず、なんとか『剣士の居留地』にたどり着いた‥‥。
「マスター・オズ、ご無沙汰しています」
「再び修行を付けて頂きたく、この地を訪れました」
 ヘルヴォールとテッドの二人は、焚火の前に座り、弟子の『もんた』にオーラの何たるかを教えていた所であった。
「なにやら、随分とものものしいようぢゃな。それに心が疲れておる。修行の前に、少し休んだほうがよかろう」
 そう告げるマスター・オズ。
「そうしたいのはやまやまですが、私達はこれから直にまた出かけなくてはならないのです」
「ギルドからの依頼で、南方警護の援軍として向かわなくてはならないのです」
 そう告げる二人に対して、マスター・オズは静かに笑った。
「フォフォフォ。なるほどのう。では‥‥そうぢゃな‥‥」
 そう告げつつ、マスター・オズは、自分の持つ『白鳥の紋章剣』をまずヘルヴォールに手渡した。
「基礎。オーラの感覚感知から、練りこみまで。そのワルプルギスの剣を媒体とし、意識を研ぎ澄ませてみよ‥‥」
 その言葉に、ヘルヴォールは静かに瞳を閉じる。
「では‥‥いきます‥‥」
 深く深呼吸。
 そして自身の中にある根幹の力を手繰り寄せる。
(The Aura Will be with you・・・・Always)
──ヴン!!
 と、白鳥の紋章剣から一筋のレイピア状の光る刃が生み出され、そして瞬時に消え去った。
「出来‥‥た‥‥あ‥‥あら?」
──ドサッ‥‥
 そのまま意識を失うヘルヴォール。
「ふぅ。やはりか。心の中に一つ、大切なものを見付けたとき。紋章剣は主に力を示す。ただ、ヘルヴォールはそれを維持する心が削れていた‥‥テッド、試練を受けるか?」
 その言葉に、テッドは静かに頭を左右に振り、マスター・オズから紋章剣を受け取らない。
「また僕は試練を受けるだけの技量を身につけていません。今は、前線で戦う皆の為に、少しでも力を付けて合流したいのです‥‥」
 熱弁するテッド。
「ほう。それじゃあ、さっそく始めようか?」
 テッドの後ろから、マスター・メイスが歩きながら声を掛けてくれる。
「御願いします!!」
 そのまま立上がると、テッドはメイスと共に剣技の鍛練を開始。
 そして翌日の午後まで、ヘルヴォールとテッドの修行は続いた。


──話は前日に戻る
 馬車での移動中。
 メンバー達は、敵の布陣などについての報告を受けていた。
「このエリア‥‥深い森によって飛び道具は限られてしまい、こちらの弓が使えなくなっています。逆に敵オーガの軍勢は、すばしっこく動きつつ格闘戦に持ち込んできます。敵のエモノは毒の塗ってあるダガーやショートソード。そして森の向こうではオーガの弓兵と重武装のオーグラやミノタウロスなど超重オーガ達が待機しています」
 騎士が広げた地図に印を付けつつ、そう話をしていた。
「このエリアだけ前線がこちらに有利ですね。森を越えた丘陵地帯手前まで抜けていますね」
 ミィナがそう問い掛ける。
「ええ。そこは冒険者のアンリ殿のおかげで、道が開けましたから。そのポイントはこちらの前線ベースが現在構築されている所です」
 穏やかな表情でそう告げる騎士に、アルバートが静かに問い掛けた。
「で、俺達の戦闘ポイントは?」
「こちらですね。5つある、厳しいといわれているポイントの一つ、丘陵地帯から草原へと抜けるこのエリアを担当してもらいます」
 そのポイントを指差したとき、クレアが怪訝そうな表情を見せる。
「こちらの森のポイントは?」
「そちらは危険ですよ。草原エリアはオーガの軍勢のみですが、森のエリアに入るとアンデットの軍勢も加わりますから‥‥」
──パシィッ!!
 その言葉に、拳をならすアルバート。
「危険上等。俺達は安全な場所で戦いに来たんじゃない。戦力としてやってきたんだ!!」
 そのアルバートの言葉に、騎士も満足そうに肯く。
(あーあー。また面倒くさい所を‥‥でも、魔法の支援としては、まあ難しくはないか‥‥)
 オイフェミアもそのアルバートの言葉にどうにか納得。
(まあ、やばくなったら全員で後方撤退。本部隊は正統な騎士に任せたほうが無難よね‥‥)
 ああっ、いつものオイフェミアだった!!
「クレリックは部隊にいるのですか?」
 そのウィルの問いに、静かに頭を縦に振る騎士。
「それほど高位の奇跡は望めません‥‥かの地では‥‥」
 その騎士の言葉に、全員の背筋を冷たいものが流れていった。
「さて、続きといきますか。森の方に展開するのですよね‥‥それでは‥‥と」
 他の資料をさがし、一枚の羊皮紙を広げる騎士。
「アンデットとオーガはお互い戦おうとはしないのですか?」
 そのクレアの問いに、騎士は静かに肯く。
「ええ。うまく連携が取れていますよ。まるで背後で何者かが操っているようにも感じ取れますから‥‥」


●そして現地〜いきなり部隊編成ですか!!〜
──ベルゼルク騎士団・丘陵地区ベース
「これはこれは御苦労さまです。騎士団長を務めていますシャードと申します‥‥」
 丁寧な挨拶をする騎士団長。
「初めまして。ウィルと申します。まもなく残りのンバーも到着すると思いますので、動くのはそれまでお待ちください‥‥」
 丁寧にウィルが皆を代表して挨拶。
「そうですか。それではまずこちらに‥‥」
 そう告げられて一行は、とある場所に連れていかれた。
 そこは小さな小屋。
 とりあえずベースでの一行の寝泊まりの場所であるらしい。
「明日からの作戦会議はあと一刻ほどで始まります。それまでに間に合いますか?」
 そう問い掛ける騎士団長に、アルバートは静かに肯く。
「大丈夫。精鋭ぞろいの冒険者だからっ!!」
 リュリュがすかさずフォローを入れるが、オイフェミアは上の空。
「精鋭‥‥ねぇ‥‥」
「何かおっしゃいましたか?」
 クレアが素早く問い掛けるが、オイフェミアはゆっくりと皆の方を向きつつ、こう呟いた。
「馬車で皆で移動したほうが、ここまでの打ち合わせもなにもかもスムーズに‥‥って、私がどうこう言える事でもないかぁ!!」
 まあ、どっちもどっちというか。
 そんなこんなで一刻経過。

──そのころの大凧チームはというとだね諸君
「うわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「うっわぁぁぁぁぁぁぁぁ。洒落になっていないわよっ!!」
 風に乗り切れず、さらに突風にあおられ、二人はそこそこに遅れていた。
 だけならよかったのにねぇ‥‥。
──バササササササッ
 巨大な純白の鷲(ホワイトイーグル)が二人に向かって襲いかかっていたのである。
 ちなみにどれぐらいかというと。
 全長3m。
「急いで降りないとっ。ここじゃあ不味いわ」
「戦えない以上は、それしかありませんねっ!!」
 急いで大地に着地すると、二人は武器を手に戦闘態勢。
 だが、その姿を見てホワイトイーグルは上空を旋回していた。
「ここから飛ぶ事はできないのですか」
「参ったわ。とんでもないアクシデントとしか思えないわ。今の位置、判る?」
「ええ、大体は。どうするのですか?」
 そう問い掛けるテッドに、ヘルヴォールは一言。
「走るわよっ!!」
「やっぱりですかーーっ」

──そして時は戻る
「ふぅ。それでは始めましょうか」
 溜め息を付きつつ、作戦会議を始める騎士団。
 淡々と各地域の報告が行われ、騎士団長がそれぞれの部隊に対して支援を指示している。
「ということで、冒険者の皆さんはこのエリアを‥‥」
 指定されたエリアは、馬車の中で確認した森のエリア。
「了解だ‥‥しかし‥‥すまない」
 ミィナが騎士団長に頭を下げる。
「どうしたのですか?」
「本来ならば、全員で参加したかったのですが‥‥」
──ギィィィィッ
 静かに入り口の扉が閉まる。
「失礼します。冒険者の方が2名、只今到着しました‥‥」
 そう告げる騎士の背後に、満身創痍のヘルヴォールとテッドの姿があった。
「遅れて申し訳ありません」
「いいわけはしません、それ相応の処罰は受けます」
 二人のこの言葉に、団長も表情を和らげる。
「詳しい説明は仲間から受けてください。作戦開始は明朝、それまでまずは体を休めてください‥‥」
 そのまま騎士達は作戦会議室を後にし、残った冒険者達はヘルヴォール達から何故遅れたのかという理由を問いだし、さらにここまでの情報を説明したのである。


●翌日〜貴方は予想範囲外ですっ!!〜
──森エリア
「チーム名はなんと?」
 森エリアに向かう途中、同行した護衛騎士が部隊長であるヘルヴォールに問い掛けている。
「チーム名は『テュルフィング』だ」
 その言葉に、全員が静かに肯く。
「テュル‥‥と、それは?」
「‥‥所持者の狂気と死をもって、絶対の勝利をもたらす魔剣‥‥『ベルゼルク』と称される卿等にとって、これ程ふさわしい名の部隊はあるまい? ‥‥卿等が望むのであれば、魔剣は岩をも斬ろう! 敵を焼き払おう! 戦いの野に雷を轟かそう! さぁ、卿等よ。魔剣は鞘から抜かれる時を待ちかねているぞ!」
 その言葉の直後、前方から突然オーガの軍勢が挑んできた。
──フゴウガヴカウガガガガガガァ
 様々な武器を持ったオーガ達。
 だが、どうみてもそれは訓練されたオーガではない。
 まるでテリトリーに侵入した人間に対して攻撃をしかけてきたかのように。
「あーー、えーーーっとね『アタシ、ワルクナイ。オマエタチノミカタ‥‥』」
 必死にリュリュが説得に入るが、オーガ語ではないため通用しない!!
「あーーーーっ、どうしてあのバーサーク大和撫子はここにいないのよっ!!」
 さあ?
 今頃ドラゴンと一騎打ちでも?
「ふん‥‥やれ‥‥」
 横で身構えているゲールハルトに向かって、オーガを一体指差すアルバート。
 と、その刹那、ゲールハルトはオーガに向かって一直線に滑空し、そのまま目の前のオーガを 皆殺しにした‥‥。
「さて、先に進むぞ‥‥」
 そう呟くと、そのまま一行は前に出た。

──数刻のち
「後方はそのまま護衛騎士の後手っ。前列、これ以上前にだすなぁぁぁぁ」
 ヘルヴォールの絶叫が剣戟の間に響きわたる。
 それは突然の襲撃であった。
──ガッギィィィィィン
「こ‥‥この馬鹿力っ‥‥」
 アルバートが、ミノタウロスの巨大な戦斧を長巻の柄の部分で受止めた。
「フガフガーーーーーーーーーーーッ」
 さらに力一杯押してくるミノタウロスを、アルバートはさらりと流し、そのまま振り向き様にミノタウロスに向かって一撃を叩き込む!!
──ズバァァァァッ
 胴部が斜めに切り裂かれ、血と臓腑が大地にぶちまけられる。
「グガガガガアアアアアアアアアアアア!!」
 其の場に崩れ、痛みに叫ぶミノタウロス。
 だが、まだ奥からは大量のオーガが押し寄せていた。

「まだまだですっ!!」
 目の前の重装オーガ3体を相手に、テッドは必死に受止め、躱わし、攻撃を叩き込んでいた。
 それでも多勢に無勢。
 だが、テッドは持ち前のテクニックでオーガ達を眼の前に誘導した。
「ここで終りですっ!!」
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォン
 振りおろした剣から放たれた衝撃波は、3体のオーガ全てに直撃した!!
 スマッシュソードボンバーと呼ばれる技である。

「炎よ‥‥かの者に力を‥‥」
 静かに意識を集中し、目の前のヘルヴォールにフレイムエリベイションを唱えるクレア。
 その横では、リュリュがターゲットに向かって指先を差し出す。
──キィィィィィィィィィィィィィィン
「風と待機の精霊よ‥‥私に力を、もすこし胸を‥‥ライトニングっ!!」
──ピカーーーーーーーーーーーーーーーッ
 リュリュの指から放たれたライトニングは、一直線に飛んでいき前方の旧街道から現われたアンデットの軍勢に向かって突き刺さっていった!!
「アンデットねぇ‥‥とりあえずは‥‥分断っと!!」
──ゴゴゴコゴォッ
 オイフェミアの術が発動した瞬間、こっちに向かっていたグール達の足元で植物の蔦がうねり、次々とその脚に絡みつき、身動きできないようにしていく‥‥。
「まあ、こんな所か‥‥あとは前衛さんよろしくー」
 そう告げつつも周囲に警戒するオイフェミアであった。

「ガァァァァァァァァァ」
──ドゴォォォッ
 目の前のオーガが巨大な剣をヘルヴォールに振り落とす。
 だが、ヘルヴォールはそれを華麗なステップで躱わすと。そのままカウンターを叩き込んでいった!!
「残念だけど‥‥これ以上は人間のテリトリーなのよね‥‥」
 そのまま体勢を崩したオーガに次々と刃を叩き込むヘルヴォール。
 その前進は返り血を浴びて真っ赤に染まった‥‥。

「セーラよ‥‥私達をお守りください」
 ホーリーフィールドの中で祈りを捧げるミィナ。
 その横では、ウィルが傷ついた護衛騎士やペガサスにリカバーを施していた。
「ここにはアンデットは侵入できません。少し休んでくださいっ!!」
 そう告げると、ウィルは素早く印を組み韻を紡ぐ。
──ヴゥゥゥン
「魂なき魔よ‥‥意志なきものよ‥‥その足を止めるのです!!」
 言葉に力が宿り、奇跡を引出す。
 コアギュレイトにより、ウィルはオイフェミアの張った蔦から逃れたアンデット達を次々と呪縛していった‥‥。
「十分こっちの攻勢だけど‥‥ねぇ?」
 と、上空でグリフォンにまたがり偵察している騎士に問い掛けるオイフェミア。
「前方、アンデットの影から‥‥少女?」
 その言葉と同時に、全員に緊張感が生まれた。
「冗談じゃない。あたしゃとっとと逃げるよっ!!」
 それがアサシンガールと瞬時に判断したオイフェミアは撤退の準備。
「同意見です!! オーガやアンデットと違って、相手は‥‥相手は‥‥駄目です!!」
 クレアも撤退の遺志を示す。
 が、その横で、リュリュが顔を引きつらせていた。
「あはぁっ‥‥蝶も回っているっ‥‥」
 リュリュの指に填められている『石の中の蝶』。
 それが激しく反応を示していた。
「デビルまで?」
「今の戦力では危険です!!」
 クレアの叫びに、テッドも反応。
──ドシャァァァァァァァァァァァァァッ
 目の前の最後のオーグラを分断し、横で同じくミノタウロスを潰したヘルヴォールと合流するアルバート。
「そのアサシンガールって‥‥」
「まあ‥‥一人で騎士団っていう位の戦闘力よね‥‥」
 そう告げた刹那、ようやく一行の眼の前にその少女の姿が見えた。
 それは‥‥
「あ‥‥アンリエット‥‥」
 リュリュがその姿にそう呟く。
 腰から巨大な剣をぶら下げたアンリエットが、にこやかに微笑んでいた。
「駄目です!! 撤退です!! その笑顔は!!」
 そのウィルの叫びと、アルバートの左腕が肩から真っ二つにされたのはほぼ同時。
 さらにウィルが前に走り出したとき、返す刀は真横に立っていたヘルヴォールに向かって伸びていった!!
「アルバート!! こっちに来て頂戴。腕を繋げるから!!」
 ミィナの叫び。
──ドシュッ‥‥
 そしてヘルヴォールは自分の首筋にアンリエットの刃が食い込んでくるまで、何が起こっていたのか理解していなかった!!
「あ‥‥あ‥‥」
──ズバァァァァァァッ
 真っ二つに切断された右腕。
 ギリギリでヘルヴォールを横に突き飛ばしたアルバートだが、その右腕も分断されてしまった!!
「楯は俺の仕事‥‥ここは逃げろっ!!」
 そう叫ぶが、両腕を失ったアルバートは、意識が朦朧としている。
「皆さん目をっ!!」
 そのクレアの叫びと同時に、クレアの鎧が光り輝く。
 手にしたスクロールにより、ダズリングアーマーを発動させたのであった‥‥・。


●最悪のストーリー〜腕はなんとか〜
──後方・森ベース
「これでよし‥‥と。あとはしばらく動かさないでくださいね」
 アルバートの両腕を魔法によって接合し、ミィナは静かにそう告げた。
「動けなかった‥‥どうして‥‥」
 グッと拳を握り締め、ヘルヴォールがそう呟く。
「本当の恐怖っていう奴は、時として身体の動きを封じる事もある‥‥まあ、あまえが悪いんじゃないわよ‥‥」
 オイフェミアのその言葉に、ヘルヴォールが素直に肯く。
「しかし‥‥全員が生きていたというのはまた奇跡。これもセーラの思し召しでしょう‥‥」
 ウィルはまずセーラに祈った。
 あの状況で、生きてかえれたのである。
「あの子‥‥笑っていた‥‥」
 窓の外を見ながら、テッドがそう呟く。
「あれは『エンジェルモード』っていって、アサシンガール達が真の力を‥‥覚醒‥‥って‥‥」
 さそう告げた時、リュリュは前進ががくがく震えていった。
「あ、アンリエットのエンジェルモードだぁ‥‥アサシンガール最強のエンジェルモードっていう噂の‥‥よく生きて帰ってこれたぁぁぁぁぁ」
 その横で、ウィルも肯く。
「それにしても‥‥アンリエットがこの地にいるという事は、おそらくは『破滅の魔法陣』でしょうからねぇ‥‥」
「いずれにしても、このままこの地で色々とやらないといけない。依頼の期間が終わったら、また色々と対策を考えるしかないでしょうね‥‥、」
 ヘルヴォールがウィルの言葉に捕捉を入れる。

──ガチャッ
 騎士団長が静かに室内に入る。
「報告は受けたよ。まさかあのアサシンガールが出てくるとは‥‥」
「その事ですが、実は御願いが‥‥」
 クレアがそう話し掛ける。
「なんですか?」
「相手に彼女が関っている以上、増員は必要かと思われますが‥‥いかがでしょうか?」
 その言葉に、騎士団長は一言
「考慮しておこう」
 とだけ伝えた。

 そして翌日から、再びオーガ達との戦いが続いた。
 だが、あの日以来、アンリエットの姿は見えなかった‥‥。


──To be continue