南方戦線以上アリ〜村落開放〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:11〜17lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 36 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月06日〜10月16日

リプレイ公開日:2006年10月16日

●オープニング

──事件の冒頭
 ノルマン・シャルトル南方。
 すでにオーガ達に攻め滅ぼされた村。
 そんな村が点在するエリア・コード12。
 その中には、いまもなおオーガに占拠され、虐げられている村が存在するという。

「報告します、ヘルメス様」
 一人の少女が、村の真ん中に作られた魔法陣の中で儀式を執り行っているヘルメスにそう告げる。
「どうぞ‥‥」
 静かに儀式を止め、少女にそう促すヘルメス。
「ベルゼルク騎士団の動向ですが、現在この村の北方5kmの丘陵地帯まで侵攻。このままですと、この村までたどり着くのは時間の問題かと‥‥」
 無機質な表情でそう告げる少女に、ヘルメスはクスッと笑みを浮かべる。
「魔法陣の完成までは、まだ時間がかかるから‥‥みんなでそれ、止めてくれるかしら?」
 そう告げると、少女は静かにうなずく。

──場所は変わって、とある家
 ヘルメスに報告が終った少女は、仲間たちの待つ家へと戻っていった。
「あ、リトム。報告は終ったの?」
 楽しそうにそう告げるラプソティが、戻ってきたリトムに問い掛けた。
「ええ。作戦開始よ。敵はベルゼルク騎士団とその子飼いの冒険者だって」
 そう告げつつ、リトムはテーブルの上に地図を広げる。
「ふぅん。今の敵の場所は?」
「ここと‥‥ここ、冒険者達が突出してこの辺りかな‥‥」
 アルモニーの問い掛けに、メロディが捕捉する。
「私大丈夫かな‥‥ちゃんと殺せるかな‥‥」
 初めての出陣にドキドキするセレナード。
「大丈夫よ。私達は冒険者相手に戦ったことはないけれど、ドールは何度も戦ったことがあるんだから‥‥ね、ドール」
 そう壁際の椅子にちょこんと座った、人形みたいな表情のドールと呼ばれた少女に問い掛ける。
「冒険者‥‥戦う‥‥敵‥‥」
 中空を見つめつつ、そう呟くドール。
「ねぇ、ドール。私達は最初からエンジェルモードでいけるけれど、あなたは見せてくれるんでしょう? エンジェルモードを越えたあの力。全てを失って、ヘルメスさんから頂いたあの力」
 そのメロディの問い掛けに、ドールは静かに肯く。
「倒す‥‥敵‥‥冒険者‥‥私‥‥帰る‥‥あの人の元へ‥‥ほー‥‥」
 そう、瞳から涙を浮かべつつ、呟くドール。
「あ、リトム、まだ始まったよ。ドールの『ほーちゃん』が」
 そのアルモニーの言葉に、リトムはやれやれといった表情でドールの近くに歩いていく。
「ほら、ドール。口を開けて‥‥これを飲むの、そう、いい子‥‥」
 小さな壷に入った薬をドールに手渡すと、それをドールは静かに飲み干した。
「ふぅ‥‥これで大丈夫と。さて、そろそろ『愉しいパーティー』の準備をしましょうね」
 そう告げると、全員が装備を確認しはじめた。

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1924 ウィル・ウィム(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4167 リュリュ・アルビレオ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

シェリル・オレアリス(eb4803

●リプレイ本文

●はてしなき戦いの中で
──パリ〜シャルトル南方
 ガラガラガラガラガラガラ
 馬車が街道をひた走る。
 南方の『ベルゼルク騎士団』と合流するため、冒険者居一行は迎えの馬車にのり、まずは一息。
「今回は皆さん御揃いのようですね」
 そう告げる副騎士団長の『フィーン』。
「ええ、前回は色々とご迷惑を御掛けしまして真に申し訳なかったわ‥‥」
 ヘルヴォール・ルディア(ea0828)が丁寧にそう告げると、フィーンは表情を崩さずさらりと一言。
「今回も敵はかなりの手練れと思われますので」
 そう告げると、全員に数枚の地図を見せる。
 それにはシャルトル南方の簡単な地形が記されている。
「ギルドに来ていた依頼は、南方の閉ざされた村の開放‥‥ですね?」
 テッド・クラウス(ea8988)がそう問い掛けると、フィーンは静かに肯いた。
「あの辺り、特に丘陵を越えた森の向こうには、大小様々な村落が点在しています。それらの開放と生き残っている村人の救出が目的です。村は全部で18、全てを冒険者だけでというのは不可能でしょうから、私達騎士団も幾つか回り、分散して行動しようと思います」
 そのフィーンの言葉に、アルバート・オズボーン(eb2284)が問い掛けた。
「騎士団との分散か‥‥お互いの連携が組めるようになると、かなり動きやすいな。アサシンガールも居る事だし‥‥」
──ピクッ
 アルバートの口から出た『アサシンガール』の言葉に、フィーンはわずかに反応を示す。
「アサシンガールについては、私達の方にも情報はある。だが、それも口伝によるもののみで、詳しい情報は判らない。もし宜しければ、どのような少女達か教えて欲しいのだが」
 そう告げるフィーンに、リュリュ・アルビレオ(ea4167)がにこやかに説明を開始する。
「あのねー。アサシンガールっていうのはね、元秘密結社シルバーホークにいた暗殺能力を持つ少女達でね‥‥」
 そのまましばし、アサシンガールについての説明を続けるリュリュ。
 そして一通りの説明が終り、馬車は本道からシャルトル南方への最短ルートである『旧街道』に突入した。


──1日後
 シャルトルに入り、天候が崩れはじめる。
「このままだと荒れるか‥‥」
 アンリ・フィルス(eb4667)が空を眺めつつそう告げる。
「そのようですわね。雲行きもかなり怪しくなってきましたし、湿った感じがしていますわ」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)も静かにそうつぶやいた時。

──ガタガタガタッ

 突然馬車が急停車する。
「何何々っ。アサシンガールの襲撃? 皆で撤収ぅぅぅぅぅっ!!」
 オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)は外を見ながらそう叫ぶ。
 だが、彼女の視界には、アサシンガールの気配は感じ取れない。
「‥‥襲撃じゃないわ。襲撃じゃないわね‥‥と、これまた失礼しましたっ!!」
「そうでもなさそうだな‥‥」
 オイフェミアに突っ込みを入れつつ、ジョセフ・ギールケ(ea2165)が前方を指差す。
 馬車の前方に、大木がいくつも横倒しになっており、道を塞いでいたのである。
「‥‥どんな感じだ?」
 アルバートが馬車から降りて周囲を伺っている御者に問い掛けた。
「先日の強風で倒れたにしてはおかしいですね‥‥どれ‥‥」
 そう告げつつ大木に近づいた時!!

──バジィィィィィッ
 
 御者の全身が一瞬輝き、そして其の場に崩れ落ちた。
「敵の攻撃っ!! ライトニングサンダーボルトかっ!!」
 ジョセフが叫んで周囲に警戒を促す。
「‥‥違うわね。ライトニングトラップよ‥‥」
 リュリュがそう告げつつ、馬車の外を見渡しつつ慎重に調べる。
「御者さんが倒れているけれど死んでいないし。気絶しているだけで‥‥かなり強力な魔法を使える人みたいねっ!!」
 その言葉の前に、ヘルヴォールは御者に駆け寄り安否を確認。
 その横をアンリが付添い、周囲の警戒を行なっていた。
「どうだ? 息はあるか?」
「大丈夫。ショックで気絶しているだけね。ウィルさん、リカバーを御願いしますっ」
 そのヘルヴォールの言葉に、ウィル・ウィム(ea1924)は急いで御者の元に駆け寄る。
「大丈夫。全てはセーラのお力です‥‥セーラよ、彼の者の傷を癒し賜え‥‥」
──ヴゥゥゥゥゥン
 ウィルの全身が輝く、そして御者の怪我が癒えていく。
「後方には敵の気配はないですね‥‥横はどうですか?」
 テッドが側面警戒をしているアルバートに声をかける。
「こっちも大丈夫だな、フィーンさん、あんたの方は?」
 さらに反対側で周辺を警戒しているフィーンに問い掛けるアルバート。
「同じだな。人、魔族、魔物、それらの気配は感じ取れない‥‥」
 その言葉の直後、ジークリンデが魔法を詠唱、そして二つのスクロールを見渡した後、ゆっくりと上空に飛び上がっていった。
「‥‥前方から熱源が‥‥子供?」
 先の街道から二人の人物の熱源を確認するジークリンデ。
「下がってっ!! それがアサシンガールよっ」
 ヘルヴォールの叫びと同時に、ジークリンデが下降。
 同時に前方にアンリとテッド、アルバート、そしてフィーンが集って陣形を取る。
 後方ではクレア・エルスハイマー(ea2884)、リュリュ、ジョセフ、後方に下がったジークリンデ、そしてオイフェミア、ウィルが待機、詠唱のタイミングを計っている。

「‥‥ごめんなさい‥‥ごめんなさい‥‥」
 前方からやってきた少女は、泣きながらそう呟いている。
 全身をレザーアーマーで包み、腰からはショートソードを下げている少女。
 その横では、無表情に遠くを見つめている『ブランシュ』が立っていた。
「ブランシュ!! 全員構えっ!!」
 リュリュの叫びに、全員が戦闘態勢に入る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
「いあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 アンリとアルバートが叫びつつ間合を詰め、その横にテッドとヘルヴォールが回りこんだ。
「アルモニー、実践パターンA・C・B・Dっ」
 そうブランシュが叫ぶと、アルモニーと呼ばれた少女はショートソードを抜刀し、アンリに向かって斬りかかった!!。
「来るか‥‥」
 太刀『鬼切り丸・オーがスレイヤー』を引抜き、アンリが構える。
──ガギィィィィィッ
 その刹那、激しいうちこみがアンリを襲った!!
「成る程。あのオーガ共とは一味も二味も違うか‥‥」
 そのままサラッと受け流すと、カウンターの一撃を叩き込む!!

──ガギィッ!!

 その一手をアルモニーは手に填めてあったガントレットで弾き流す!!
「‥‥パターンA・C完了‥‥」
 そのまま弾き流した反動で身体を捻り、蹴りをアンリに叩き込むアルモニーだが。

──ブゥゥンッ

 その一撃はアンリに躱わされる。
「B完了‥‥グスッ‥‥Dに繋げない‥‥」
 涙ぐみつつそう呟くアルモニー。
 そしてその反対では、ブランシュとテッドが一騎打ちモードに突入!!
「あはぁっ。イイ感じになってきたぁぁ」
 手にしたナイフをブンブンと振回し、ブランシュがそう叫ぶ。
「そ‥‥そんな攻撃は当たりませんっ!!」
 そう叫びつつそれらの攻撃を躱わすテッド。
 確かにあまりにも拙い攻撃を仕掛けているブランシュだが、いつのまにか手にしていた筈のナイフが無くなっていた!!

──ヒュゥン‥‥ガキィィィィッ
 
 空振りに見せかけて、実はナイフをアルバートに向かって投げ付けていたブランシュ。
 だが、飛んできたナイフをアルバートは手にした十手で大地に向かって叩き落としていた。
「そんな技が効くかっ‥‥この前のアサシンガールとは大違いだな‥‥」
 そう呟きつつ間合を詰めにはいるアルバート。
 そしてブランシュの左右からアルバートとテッドが挟み撃ちの上体を作り、素早く二人がかりで怒涛のラッシュ攻撃を開始!!

──シュシュシュシュッ
 アルバートの連続攻撃を躱わしつつ、テッドのスマッシュに合わせてカウンターを仕掛けてくるブランシュ。
 だが、お互いの攻撃はヒットしないまま、ただひたすらに時間のみが進む感じに思えてくる。

──シュンッ!!
 突然ブランシュの頬がざっくりとえぐれる。
「もしまた操られているのなら‥‥これで目覚めろっ!!」
 ジョセフがそう叫ぶ。
 彼の放ったウィンドスラッシュは、ただブランシュを傷つけるだけで終っていた。
「あはは‥‥あはーーーん。来る‥‥もう少しでイク‥‥」
 その表情に、クレアは二つの嫌な予感を感じた。
(あの表情‥‥恐らくエンジェルモードですね‥‥でも‥‥)
 そして素早く『ヘキサグラム・タリスマン』を取り出すと、クレアは意識を集中しはじめた。
「二人とも離れてっ!! 風の精霊さんっ、かの地に吹きすさべ、吹けよ風、呼べよ嵐‥‥嵐‥‥」
 リュリュのその叫びと同時に、テッドとアルバートの二人はバックステップ。
 その直後
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 ブランシュを中心に、竜巻が発生した。
「ふは‥‥飛ぶ‥‥飛んでいる?」
 空中に巻き上げられつつも笑っているブランシュ。
 そして大地に叩きつけられると、ブランシュは空を見上げるような形に大の字に転がった。


──その頃のアルモニー
「これなーんだ?」
 ヘルヴォールとアンリ、二人からの間合を開けて、アルモニーが懐からスクロールを引き抜く!!
「スクロール? 貴方、レンジャーなのっ!!」
 ヘルヴォールのその叫びにアルモニーはニィッと笑いつつスクロールを開く。

──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォッ
 と、その刹那、アルモニーに火の玉が直撃、大爆発を引き起こした!!
「こんな戦場で、しかも敵の目の前でスクロールを開くなんて御馬鹿さん‥‥」
 ジークリンデの高速詠唱ファィアーボムがアルモニーを直撃した。
「やれやれ。まったく面倒ね‥‥とっとと逃げたほうが良いんじゃないかなぁ‥‥」
 オイフェミアはそう面倒くさそうに呟きつつも、静かに印を組み韻を紡ぐ。
 組み込む韻はグラビティキャノン。
 ターゲットは上空を飛来しつつある人影!!

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
──ドッゴォォォォォォン
 天空を貫くようなグラビティキャノンの一撃。 その直撃を受けて、上空から『グレムリン』が落下してくる。
「ア、アルモニー、ドール‥‥あの方より伝達だ‥‥『哀しむ岩』に戻れと‥‥」
 そう告げてグレムリンは体勢を整え、一目散に飛んで逃げていく。
「嫌だっ。私はこの人たちにふくしゅうするんだっ。わたしの愉しみを奪ったんだッ!!」
 駄々をこねてそう告げると、アルモニーは素早くショートソードを引き抜くとヘルヴォールに向かって走りこむ!!
──シュタタタ‥‥フッ
 と、突然ヘルヴォールとアンリの視界からアルモニーの姿が消える。
「なっ? 一体どこに?」
 その戸惑いのさ中、ヘルヴォールはアルモニーを見失う。
「ブラインド? いや、高速でのハイステップか‥‥オフシフトの戦闘使用というところだろうが‥‥」
──ガキィィィィン
 そう告げつつ、アンリは背面からの攻撃を難無く受止める。
「んー、ちょっと違うんだなっ。でも良い線いってるよ、おぢちゃん!!」
 再びアルモニーが視界から消える。
 そしてアンリの言葉を聞き、ヘルヴォールも意識を『気配』のみに集中。
(目で捉えるには私は未熟‥‥なら)
 殺気を辿る作戦にでる。
「魔法を発動するにも、こう敵が目まぐるしく動くと捕捉できません‥‥」
 必死にアルモニーを追いかけ、魔法を唱えようとするジークリンデだが、発動直前に視界から来えるアルモニーにやきもきしていた。


──その頃のブランシュ
「あは‥‥あ‥‥ン‥‥」
 何か恍惚とした表情で空を見上げていたブランシュが、突然飛び上がるとゆっくりと構えをとらずにテッドに向かって歩きはじめた。

 その表情はまさに天使の微笑み。

「エ‥‥エンジェルモード‥‥」
 その笑みを見た瞬間、テッドの動きが鈍くなっていく感覚。
「あは。あははっ‥‥うふふふっ‥‥」
 そう笑いつつ、ブランシュはテッドに向かって間合を詰めた!!
 そして素早くその腹部に向かって拳を叩き込む。
──ドゴッ‥‥
 まるでハンマーに殴られたかのような一撃。
 しかもそれをよける事が出来なかった。
「そ‥‥そん‥‥な‥‥見えない‥‥」
 素早く間合を話そうとするが、それにぴったりと合わせて間合を詰めてくるブランシュ。
「だーめ。逃がさないんだからっ!!」
 さらに左手に握られていたナイフを逆手に持ち、下段からテッドに向かって切り上げた!!
──ズシャッ
 テッドの頬が裂け、鮮血が吹き出す。
「テッド、下がれっ!!」
 意を決してアルバートが間合を詰めてきた。
 さっきの状況では、万が一の場合テッドに攻撃が命中する。
 だが、そんな躊躇もしていられない状況になったのである。
──ヒュゥッ
 シールドソードで切りかかると、そのままブランシュをテッドから引き離す事に成功!!
「テッド、ウィルの元で手当を‥‥」
 そう叫ぶと、アルバートは素早く『守りの体勢』に切替える。
 その後方では、リュリュとジョセフが魔法の詠唱を開始、いつでも攻撃可能状態に持ち込んでいたのだが‥‥

──ドクン
 テッドの体内で何かが切れる。
 それは理性という名の束縛。
 全身を走る破壊の衝動が、テッドに『あるもの』を探させている。
「ど‥‥どけ‥‥どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
 そう叫ぶや否や、テッドは『何も考えず』にブランシュに向かって走り出す!!
「ああ、その間合だとトルネードが使えないっ!!」
 リュリュは素早く魔法のチェンジ、その間にもジョセフはウィンドスラッシュで次々とブランシュの肉体を傷つけていく。
──ザシュュュュュッ
 さらに間合を詰めたテッドの攻撃が、ブランシュの腹部を貫いた!!
「グフッ‥‥へへ‥‥血だらけだ‥‥血だらけ‥‥へへ‥‥」
 それでも笑みを浮かべているブランシュ。
「何処だ‥‥僕の死に場所は‥‥ここなのか‥‥」
 ただそう呟きつつ『狂化』したテッドは剣を引抜き、さらにブランシュに向かって叩きつける!!
──ザシュッ‥‥ドシュッ‥‥
 それらの攻撃を『躱わせない』ブランシュの全身は、既に血まみれの状態になっていた。

「血‥‥ド、ドールが血だらけだぁぁぁぁ」
 その姿を見たのか、アルモニーが突然脅えはじめる。
「鈍った?」
「気配が強くなった?」
──ガキィィィィィン
 突然のアルモニーの能力低下。
 そしてヘルヴォールとアンリは攻勢に切替えた。
 次々と繰り出す二人の攻撃を、アルモニーは脅えつつ必死に受止めることしかできていない‥‥。

 そして悲劇は起こった。
──ドシャャャャッッッッッ
 たった一撃。
 テッドは其の場で絶命していた。
 その頭部はなく、鮮血を浴びて深紅に染まったブランシュが立っていた。
「貴方の御友達☆」
 そう呟きつつ、アルバートに『テッドの首』を放り投げるブランシュ。
「‥‥し‥‥深紅の天使‥‥」
 ただそう告げると、アルバートもまた構えなおして体勢を整える。

 ただの一撃。
 手にしたナイフで、テッドの首が切断されていた。
 ただ、そのナイフからいきなり『オーラの刀身』が生み出されたのを、アルバートは見逃していなかった。
「‥‥まさか!!」
 そしてヘルヴォールは見た。
 ブランシュの手に握られているナイフの柄が『ワルプルギスの紋章剣』そのものであることに。


──その頃の後方では
「サードターゲットっ!! これでもかぁぁぁっ!!」
──ドッゴォォォォォォン
 またしても上空に向かってグラビティキャノンを発動するオイフェミア。
「空からの敵はこっちで引き受けたから『早く逃げる準備』を‥‥をををををををををっ!!」
 その上空から飛来してきた『グラビティキャノンを叩き込んだ人影』が、ゆっくりとオイフェミアの眼の前に下りてくる。
 
 それは一人の天使。
 但し、その背中からは蝙蝠の様な羽が生えている。
「随分と愉しいことをしているようね‥‥」
 ニィッと笑いつつ、そう呟くのは『ヘルメス』。
「て、撤収!! 全員撤収〜!!」
 オイフェミア、そう叫びつつも全力で其の場から逃走、後方で『ホーリーフィールド』を形成しているウィルたちの中に飛込んでいく。
 ウィルはさらに後方で、別のチャイルドと多々勝ちテイルフィーンとベルゼルク騎士団の護衛達のバックアップもそこで担当していた。
「やっぱり黒幕は貴方でしたか、ヘルメス‥‥」
 そう呟くウィル。
「あら、でも私は『あの方』の指示で動いているだけよ‥‥クスクスッ」
 そう笑いつつ、ふとヘルメスは後方に向かって腕を伸ばす。

──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォッ
 突然激しい爆音と熱波が周囲を包む。
 その向こうで、印を組んでいたジークリンデの姿があった。
「そ、相殺?」
 ジークリンデのファイアーボムが、ヘルメスによって相殺されていたのである。
「相殺ではないわよ‥‥」
 爆風が収まった其の場には、確かに『その身を焼かれた』ヘルメスが立っている。
「いい腕よ。私のブラックホーリーで相殺できないなんて‥‥それだけに、厄介よね‥‥」
 その言葉の刹那、ジークリンデはその身が締め付けられる感覚に陥った。
(あ‥‥ああ‥‥そん‥‥な‥‥)
 視界がどんどん小さくなっていく。
 そしてジークリンデは、其の場でなにも出来ない『にわとり』に姿を変えられてしまった。
「さて、アルモニー、ドール。もういいわ。騎士団長との話は終ったから、戻るわよ‥‥」
 そう告げると、ヘルメスは静かに上空へと舞い上がる。
「み、みなさんこちらにっ!!」
 クレアがようやく発動した『ヘキサグラム・タリスマン』の中で叫ぶ!!
 そして皆が其の場に飛込んだとき、ヘルメスは其の手に小さな黒い球を生み出していた‥‥。
「あら、ヘキサグラム。随分と準備がいいわね‥‥」
 口惜しそうにそう告げると、ヘルメスは其の手の弾をスッと消した。
 そしてアルモニーとブランシュの二人は、其の場から飛び出して森の中に消えていった。

「‥‥ブラックホーリーでしょうか‥‥い、いや‥‥あれはそんな生易しいものではない‥‥なにかこう‥‥」
 冷静にヘルメスの持つ『黒い球』を分析するウィル。
「でも‥‥撃てなかった‥‥どうして?」
 そう呟きつつ、手元のヘキサグラム・タリスマンをじっと見つめるクレア。
「まさか‥‥これ‥‥これにはヘルメスも手が出せないのかしら?」
「それどころじゃないでしょうっ!!」
 クレアはそうオイフェミアに突っ込まれる。
 さらに其の手を捕まれて、ウィルは死んだテッドの元に駆け込む。
「ほら、あんた神様の地上代行人なんでしょう? とっとと彼を甦生しなさいよっ!!」
 そんな無茶な。
 それでもウィルはテッドの首を繋げるように置いて、静かに印を組み韻を紡ぐ。
「慈悲深きセーラよ。彼の者の魂を、今一度この地に呼び戻したまえ‥‥」
 だが、セーラからの力はウィルに届いていない。
「ふぅ‥‥と、フィーンさん、この先に確かプロスト領があったよね?」
 後方で別の軍勢とやり合っていいたフィーンにそう問い掛けるオイフェミア。
「ハァハァハァハァ‥‥あれがアサシンガールなのか‥‥ハァハァ‥‥」
 どっかりと其の場に腰を落とし、そう呟くフィーン。
「こっちは二人、死んだ。この先のノートルダム大聖堂で大司教様に甦生を頼むしかないだろう‥‥」
 そう告げると、とりあえずオイフェミアは死んだ者たちを次々と石化し、死体がそれ以上損傷しないように処置を行った。
 そして静かに馬車に乗せると、一行は急いでプロスト領へと向かっていった。


●神よ‥‥なんてこった
──シャルトル南方・ノートルダム大聖堂
「残念ですが、この者たちの魂は、既にこの地には存在しません‥‥恐らくは破滅の魔法陣に‥‥」
 亡くなった二人の騎士団員の前で、聖ヨハン大司教がそう告げる。
 そして首を接合され、意識を取り戻したテッドはゆっくりと周囲を見渡している。
「まさか‥‥また、またですか‥‥」
 また。
 テッドの狂化。
 それに伴う暴走と、そしてブランシュとの戦いによる死亡。
 それらの記憶が頭の中をぐるぐると駆け回っている。
「生きているだけいいんじゃない。セーラの加護は届いたんだしね?」
 ヘルヴォールはそういいつつ、ポンとテッドの肩を叩く。
「それに、まだ任務は始まったばかり‥‥といいたいが、テッド、お前はここで休んでいろ」
 アルバートがそうテッドに告げる。
「いえ、大丈夫です。皆さんが頑張っているのに、一人休んでいる訳には‥‥」
 そう告げて立上がろうとするが、全身が自由に動かない。
「まだ無理です。甦生により魂は戻ってきましたが、貴方の肉体は完全には癒えていないのです。今は身体を休めてください」
 そう聖ヨハン大司教に告げられ、テッドは静かに肯いた。

 テッド、今回はここでリタイヤ‥‥。


●そして南方〜エリア12〜
──ベースキャンプ
「ご苦労様です‥‥」
 丁寧に冒険者一行を迎え入れたのは騎士団長であるシャード。
「残念ですが、レオンとハーディの二人はここに来る前にアサシンガール‥‥チャイルドの襲撃によって命を落としました。また、冒険者の方にも一人、ここに来る前に死亡、甦生はしましたが今回の任務には参加できないということです」
 そう報告するフィーン。
「判りました。それでは明日からさっそく任務を御願いします。今までの状況にたいしての資料はこちらに、それと一人、担当補佐官をつけます。何か判らない事がありましたらそのものに告げてください。それでは」
 それだけを告げると、シャードは其の場を離れる。
「騎士団長殿、一つ訪ねたい。『哀しむ岩』というのは御存知か?」
 アンリがそう問い掛けるが、シャードはしばし考えた後、頭を左右に振った。
「残念ですが。それが何か?」
「悪魔達の集合地点らしいのです」
 ジークリンデがそう告げると、シャードは今一度頭を捻る。
「哀しむ岩‥‥哀しむ‥‥ああ、あれかな?」
「何か心当りがあるの? もし宜しければ教えて、っていうか教えてっ!!」
 リュリュがそう呟くと、シャードが静かに口を開く。
「まだ確定ではないのですが‥‥この森のずっと奥に小さな古い神殿があります。そこの古い壁画に、悲しみ慈悲を乞う罪人の壁画があります。ひょっとしたらあれのことかも‥‥」
「それは何処ですか?」
 シャードりの言葉にクレアが問い掛ける。
「地図を書いてあげますよ。でも、エリア12からは外れますから、行くのであれば依頼が終ってからにしてくださいね」
 そう告げて、シャードは其の場を離れた。

 そして翌日から一行は、次々と森の奥に隠された村を探しだし、開放作戦を開始した。

 運が良かったことに、閉ざされた村18のうち14までは無事に開放、残りの4のうち3つはすでに燃え落ち、焼き捨てられていた。

 そして最後の一つ‥‥。
 そこはオーガと人間が共存している村であった。
「ウァ‥‥タビノヒト」
 村にはいっていきなり冒険者達を迎え入れたのは、一匹のオーガであった。
──ガチャッ
 素早く武器を構える冒険者たちに、村の奥から走ってきた一人の青年が、冒険者一行に向かって叫んでいた。
「待ってくれ、そいつはいいオーガなんだ!!」
 その言葉に、冒険者一行はいぶかしそうな表情を見せる。
 確かにいいオーガというのは実に希な存在であり、シャルトルの南方、それもプロスト領内にある『オーガキャンプ』以外には殆ど知られていない。
「いいオーガって、人を襲ったり食べたりしないの?」
 リュリュがそう問い掛けたとき、目の前のオーガはニィッと笑う。
(あ、なんかギュンター君みたいだ‥‥)
 リュリュが少し安心し、そしてどうやら隠れていた村人達も一人、また一人と姿を表わしてくる。
「すいません。私達は騎士団の依頼でこの森の中の村を助ける為にやってきました。もし宜しければ話を聞いてほしいのですが」
 ウィルがそう告げたとき、奥から一人の長老がやってくる。
「ふむ、外から人が来るのはじつに久しぶりぢゃな。いいでしょう、話をしましょう。但し、ここの村で見聞きした事については他言無用で御願いできますか?」
 そう告げる村長に、ヘルヴォールが静かに肯いた。
「私達は冒険者です。人の信用を大切にし、約束は決して破ったりしません」
 そう告げるヘルヴォールと、その言葉に肯く冒険者達を見て、村長は静かにウンウンと納得し、一行を家へと招きいれた。
 
 そして一行はき、その村が他のオーガ達に襲われない理由を理解した。

 村の中のオーガ達は、村人と協力して自分達のコロニー(集落)を形成していた。
 他のエリアからやってくるオーガ達も、ここのオーガ達との話し合いにより、ここには手を出さないようになっているらしい。
 それは彼等のテリトリーにも関係しているらしいが、言葉がうまく理解できない為、村ではオーガ達によってこの村が守られているという形で説明されていたようである。

「一つ尋ねて宜しいでしょうか?」
 ウィルがそう長老に問い掛ける。
「構いませんよ」
「後ろに奉ってあるのはセーラ、タロンの神像ではありませんね?」
 ウィルの問い。
 確かに村長の後ろに置かれているちいさな祭壇には、一種異質な彫像が奉られている。
「ええ。私達は竜を奉っているのですじゃ‥‥」
 その言葉に、一行はなにかピンとくるものを感じる。
「そうでしたか。それは不粋な事をお尋ねして申し訳ありません」
「いえいえ、ジーザス教の方、丁寧にありがとうございますぢゃ」
 そうウィルに告げる長老。
 そして其の日は、一行は静かに村の散策等を行なって英気を養った。
 翌日、ベースキャンプへと向かうと、全てのエリアの調査と報告を終え、一行は無事にパリへと戻っていく事になった‥‥。


〜To be continue......