南方戦線異常アリ〜調べて見る?〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月16日〜11月26日

リプレイ公開日:2006年11月25日

●オープニング

──事件の冒頭
 ノルマン・シャルトル南方。
 さらに森の奥、エリア12。
 そこはすでに人の姿のない村。
 かつては『竜の民』の住まう小さな村落の一つであり、同じ民からはネラーの村と呼ばれていた。
 そんな中を数人の騎士が歩いている。
「‥‥どうして‥‥こんな事になったんだ?」
 横を歩いている一人の騎士に、ベルゼルク騎士団のフィーンが問い掛ける。
「この村は『竜の民』の住まう村です」
「それだけの理由か?」
「ええ。異端教徒です。うちの騎士団長が異端教徒を憎むのは御存知でしょう? ただそれだけですよ‥‥」
 そう告げながら、その騎士は側に作られている小さな墓碑の前で頭を下げている。
 誰かが立てた小さな墓碑。
 フィーンはその側に花を添えると、騎士の横で同じく頭を下げる。
「さて。それじゃあ戻りますか。エリア12の調査はこれで終了、あとはエリアコード24『破滅の魔法陣』の周囲の調査だけですから」
「あそこはまだ近寄れない筈だろう?」
「斥候が確認した所、すぐ近くの村に最近、かなりの人数の人が集められているという情報があります。噂では、ここ数カ月の間に行方不明になった人たちが集められているのではないかと‥‥」
 その騎士の言葉に、フィーンは近くで待っているウォーホースの方へと向かっていく。
「ああ、ちょっと待ってくださいよっ。フィーン副騎士団長、何処に向かうのですか?」
「先程の村の場所を教えてくれ。私はそこを調べ、可能ならば囚われた人々を助け出したい」
「単独では無茶ですよ」
「なら冒険者を雇う」
「それも無理です。もう騎士団には冒険者を雇うだけの予算がないんですよ‥‥」
「どういう事だ?」
「死んでいった騎士の家族への保障、エリア12の他の村への援助などなど、もうベルゼルク騎士団には自由に動かせる予算はないんですから」
「‥‥」
 それを告げた騎士をフィーンはじっと見つめる。
「なら、騎士団長に直接話をしてくる‥‥」
 そう告げて、フィーンは騎士団へと戻っていった。

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1924 ウィル・ウィム(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4167 リュリュ・アルビレオ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6536 リスター・ストーム(40歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

ラスティ・コンバラリア(eb2363)/ カルル・ゲラー(eb3530

●リプレイ本文

●全ては大切な人の為に!!
──パリ・冒険者酒場マスカレード・2F
「エリア24‥‥まあ、旧シルバーホーク自治区辺りには、色々と小さい村が点在していますねぇ‥‥」
 スクロールを広げて、情報屋のミストルディンが静かにそう告げる。
 今回、冒険者一行はエリア24調査の為、このマスカレードに集まり色々と打ち合わせを行なっていた。
「小さい村ですか。生存者がいそうなのはどの辺りでしょうか?」
 そう問い掛けるウィル・ウィム(ea1924)。
「こことここ。ここから先は『破滅の魔法陣領域』だから入れないわね。この手前までは多分‥‥大丈夫だと思うわよ。但し、あくまでも去年までの情報、今年に入ってからエリア24の情報は皆無ですからね」
 そう捕捉を加えるミストルディン。
「元々。エリア24の村って何があったのかな?」
 リュリュ・アルビレオ(ea4167)がそう問い掛けると、ミストルディンが頭を捻ってしばし思考タイム。
「確か‥‥葡萄畑があった筈。農耕の盛んな地域だったけれど、今はどうかしらねぇ‥‥魔法陣の影響で、あの一帯からは人が離れてしまったから‥‥」
 その言葉に、皆沈黙する。
「ロイ教授クラスの悪魔研究家はこのパリにはいないでしょうか?」
 そのウィルの問いに対して、ミストルディンはまたしても思考。
「えーっと、民間じゃああの『マグネシア』とかいうロイ教授の弟子が詳しいっていう噂だったけれどねぇ‥‥今はどこに居ることやら?」
「民間? といことは、公で詳しい期間が存在すると?」
「ええ。タロンの神官、確かセンイッチ神父がエクソシスト引退したから、もう一つの寺院に行ってみては? えーっと、ヒルマン司祭の寺院はそっち方面のブロだから、訪ねてみてはいかがですか?」
 その言葉に、ウィルは苦笑い。
「はは‥‥あの寺院ですか。そういえばタロンの中でも武闘派という話は聞いていますけれど」
「そうよ。このセーラ信仰のパリにおいて、堂々と『これからはタロンです!!』と公言したシン・ジョー神父や気合でエクソシストするガッツ神父の居る所よ。あそこはかなりエクソシストに強いらしいから、詳しく御話を伺ってみては?」
 その言葉にとりあえず納得すると、一行は取り敢えずベルゼルク騎士団の元へと急行!!


●とりあえず走れ!!
──シャルトル南方・エリア12手前ベルゼルク騎士団詰め所。
 とにもかくにも移動力の高い冒険者。
 セブンリークブーツや馬などなど、とにも角にも速度を上げて、途中で見知った冒険者(オイフェミア)を確認したものの、それもすっとばして、アンリ・フィルス(eb4667)は単独やってきましたベルゼルク騎士団詰め所。
「おやおや、どうしたのですか本日は」
 そう告げつつアンリを迎え入れたのは騎士団長であるシャード。
「フィーン殿に会いたいのだが」
 そう告げたのはアンリ。
 その言葉に、シャードはフィーンを呼び出すと、そのまま一行を別の小屋へと案内した。
「実はエリア24についての事だが‥‥」
 そう話を切り出すと、アンリはフィーンに囚われた村についての情報を問い掛けてみた。
「確かに、あの辺りには小さな村が点在している。私としても助けに行きたいのだが、現状のこのエリアでの防衛に必要な人材が少ない為、そちらに裂く事の出来る人材はないというのが現状で‥‥」
 そう告げると、フィーンは静かにアンリの方を見る。
「私は本日づけで騎士団を退団した。このエリアでの防衛任務も確かに必要でしょう。けれど、捕われている人たち見過ごすことは私には出来ない‥‥」
 その言葉に、横で話を聞いていたシャードも肯く。
「騎士団としての任務はここの防衛。それ以上の任務に付くというコトが出来ない為、一時的にフィーンを退団処理させてもらった。補充は後日別の騎士団から頼むことにしているから、すまないがフィーンを宜しく頼む」
 そう騎士団長はアンリに告げた。
「さて。もう一つ話があるのだが‥‥フィーン殿、『聖劍カリバーン』というのを御存知か?」
 そう問い掛けたとき、フィーンの表情が曇った。
「カリバーンですか。何かあったのですか?」
 そう問い掛けるフィーンに、アンリは隠し事なく口を開く。
「実は今、それを必要としている事態が起きつつある‥‥」
 その言葉に偽りなしと判断したフィーンは、腰に下げていた自身の剣をテーブルにゴトッと置いた。
「さがしものはこれだ。聖劍カリバーン。祖父であるカリバーンより受け継いだ7武具の一つだ」
 そのまま静かに剣を見るアンリだが、一つ気になる点に気が付いた。
 柄に刻まれた一つの紋章である。
(‥‥竜の刻印‥‥まさか、フィーンや先代カリバーンは『竜の民』なのか‥‥)
 そのまま何知らぬ表情で剣を見つめているが、しばらくしてフィーンはそれを腰に戻す。
「それでは向かおう。事は急を要するのだろう?」
「ああ、助かるでござるな」
 そのまま二人は合流地点へと向かう。
 その後ろ姿を騎士団長のシャードは遠くから見つめていた。
(これが、私に出来る事だ‥‥フィーン、キミだけは悪の道に染まらないでくれ‥‥私はもう、後戻りは出来ないのだから‥‥)

──場所は変わって、とある街道筋。
「復讐ねぇ‥‥」
 街道鮨の小さな村で、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)は紋章剣士のもんたと再会を果たす。
 ボロボロのローブを身に纏って彷徨っていた所を、オイフェミアが助けたのである。
「ああ。あの騎士団が俺達の村を滅ぼしたに違いない‥‥だから‥‥あいつらを皆殺しに‥‥」
 悪しきオーラを身に纏いつつ、もんたはそう呟くが。
「キミは誇り高き剣士? なら、君のすることは復讐ではなく敵討ち。皆殺しではなく剣士として騎士団長との一騎打ち、その上で彼等の罪を白日の元に晒すというのは?」
 そう告げられて、もんたもまた動揺している。
「マスター・オズならそう告げる。でも‥‥」
 自身の心が動揺している理由。
 大切な友達であるギュンター君を傷つけてしまい、そして死なせてしまったこと。
 その結果、ギュンター君の大切な人も哀しませてしまったということが、もんたのなかで引っ掛かっていた。
「でもも何もないでしょう? 貴方は男の子。立ち止まるのではなく動きなさい。私も騎士団に用事があったから、一緒に行ってあげるわ‥‥」
 その言葉に、もんたは表情を明るくした。
「なら、一緒にいく!!」
「その元気があれば十分‥‥さ、いきましょう!!」
 ということで、二人の珍道中は始まった。


●そしてエリア24
──奇跡からの脱出
 アンリと合流した冒険者一行は、まず細かい打ち合わせを開始。
 陽動としてテッドとクレア・エルスハイマー(ea2884)、アンリ、ウィル、リュリュ・アルビレオ(ea4167)が担当。
 リスター・ストーム(ea6536)とヘルヴォールの二人がそのまま内部に潜入し、調査を開始。
 外ではクレアが周辺を警戒しつつ待機、潜入班と陽動班の回収と撤退の準備を担当することになった。

 そこは静かな村。
 入り口近くには護衛がいたものの、村の中はひっそりとしていた。
「ここかエリア24か‥‥ここに蛮ちゃんたちが‥‥」
 大切な彼女であり妻である蛮ちゃんがここに囚われているというのを考えると、リスターはじっとしていられなかった。
「陽動はこっちでするから、リスターは彼女たちを探してきね‥‥」
 リュリュの言葉に静かにうなずくと、リスターは村の中の様子を伺う。
 なんの変哲もない村だが、この手の場所にはトラップが仕掛けてあったりする。
 だが、リスターの見る限りでは、トラップらしいものはあまり見かけない。
 それどころか、あちこちに警備の隙が伺える。
「あれはただ者じゃないようでござるが‥‥」
 アンリがう告げつつ指差した先には、いかにも武道家らしい女性と、その横に立っている大男がいる。
「げげげげっ!!  悪鬼だぁぁぁぁぁ」
 リュリュのその静かな叫びに、一同はゴクリと息を呑んだ。
「悪鬼が相手で陽動ねぇ‥‥まあ、生きて帰れたらなんとかなるかな。という事で、私達は進むから、宜しくね」
 ヘルヴォール・ルディア(ea0828)のその呟きに、テッド・クラウス(ea8988)も静かに頷く。
「それじゃあ作戦通りにっ!!」
 そのリュリュの言葉で、いよいよ陽動作戦は開始された。

──抜っきあっし差っしあっし忍あっし
 どう見てもバレバレになりそうな感じで潜入する一行。
 と、その様子を女武道家が気付く。
「そこのお前たち、一体何をしている?」
「やばいッ!! 逃げるぞ」
 その言葉と同時に、テッド達は走り出す。
 いよっ、名演技!!
 だが、それもかなうことなく、あっさりと身軽な武道家に回りこまれた。
──ゴキゴキツ
「さてと。どうやらリュリュちゃんまで居るということは、何か企んでいるようだな‥‥色々と教えてもらうとするか?」
 拳を鳴らしつつ、悪鬼が背後に回りこむ。
「あ、あはっ☆ 悪鬼さん、見逃してぇぇぇぇ」
 そう甘えた声で呟くリュリュだが、悪鬼はニィッと微笑って一言。
「御・仕・置・きだな」
──ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィイ
 言葉にならない絶叫を上げて、ウィルの後ろに回りこむリュリュ。
「く、悔い改めてください‥‥この先の魔法陣がこの地を不浄のものとしているのは事実。ならば我々は、正義の名の元に‥‥」
 ホーリーシンボルを掲げつつ、周囲を取り囲む自警団や悪鬼達に説教を始めるウィル。
「聖職者さん。貴方の魂は高貴なものかしら?」
 そう背後から声を駆けてきた存在。
「へ‥‥ヘルメス!!」
 リュリュ、またしても大ピンチ。
「まあ、いずれにしても、ここから先はタダじゃすまないということでOK?」
 その悪鬼の言葉に観念した一行は、素早く戦闘態勢に入る。
「ここで諦める訳にはいきません。貴方たちの企み、全て収めてみせますっ!!」
 そのテッドの叫びと同時に、敵は一斉に襲いかかってきた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
──ドゴォォォォン
 激しい悪鬼の一撃を、アンリはすんでの所でシールドで受止める。
「うーむ。実にいい腕をしている。その力、なぜ悪しきことに?」
「さあな。それよりも久しぶりに本気を出せる相手がきたというこだな」
 そう告げると、悪鬼は近くの護衛が持ってきた巨大な剣を手に取る。
 それは刃渡りが2m近くある大剣。
 クレイモアというには無骨で刃幅が広い。
 そして厚みもかなりある漆黒の剣を構えると、悪鬼はニィッと笑いつつアンリに向かってその剣を横なぎに振り回した
──ドゴォォォォォッ
 それは一撃でアンリの楯を破壊し、さらに深手を負わせた。
 だが、アンリも黙ってはいない。
「横があまいですっ!!」
 飛び込んできたテッドの一撃を、悪鬼は大剣で受け止めるが、さらにその背後、テッドが横に飛んだそこからはアンリが剣を構えて力いっぱい悪鬼を切りつけた!!
──ドシュュュッ
 その一撃は悪鬼の胸部を切り裂く。
 そこから大量の血を噴出しつつも、悪鬼は一歩もひるむことはなかった!!
 その悪鬼の表情に、さらなる笑みが浮かび上がったとき、アンリたちは逆に絶望を感じ取った。
(この男は危険すぎる‥‥・)
(これ以上の陽動は無茶です。リスターさん、早く‥‥)
 そこにすばやく悪鬼が飛び込むと、そのまま大剣を腰だめにし、力いっぱい二人に向かって叩き込んだ!!
──キインッ‥‥バギィッ
 一瞬の間に飛び込んできたフィーン。
 その手に握られていたカリバーンで悪鬼の一撃を受け止めたが、カリバーンはたった一撃で粉砕されてしまい、さらにフィーンの胸部に大剣がつき刺さった!!
「グハァッ‥‥」
 口から大量の血を噴出し、フィーンはその場に崩れる。
「テッド、フィーンをつれて後退。ウィル!! 急いでフィーンの治療を頼むっ!!」
 そう叫びつつ、アンリはぼろぼろになりつつも悪鬼に切りかかる。
「アンリさんっ。一人じゃ無理ですっ!!」
 そう叫ぶテッドだが、アンリはテッドの中の何かが目覚めつつあるのを本能で感じ取っていたらしい。
「また狂化するぞ。そうなったらもう‥‥わかってくれ、テッド」
 自身の中の呪われた血。
 それに対して、まだテッドは抗う術を持っていなかった。
「合流地点でまってます!!」
 そう告げると、テッドとウィルの二人はフィーンをつれて戦線離脱した。

 そのころ、横の広場近くでも、もうひとつの戦いがおこっていた。
「魔法と武術。どっちが有利なのかはわかっているはずなのにっ!!」
 リュリュは目の前で鉄拳を振るう武道家の女を相手に、一進一退の攻防をくりろげている。
 両者ともにあこちに切り傷が浮かび上がっているものの、致命傷はひとつもない。
「いい腕だね、魔法使いのおねえちゃん。でも、まだまだ周囲の判断確認が甘いよっ!!」
──ザシュッ
 武術家『海燕(ハイイェン)』が、リュリュの懐に飛び込んで腹部に向かってナイフを突き刺す。
「痛い‥‥っ、何を‥‥」
 そう叫びつつ海燕を突き飛ばそうとするか、その刹那、背中にももう一本のナイフがつき刺さった。
 右手のナイフは腹部、左手のナイフは背部。
 そこでじっとしてリュリュを動けなくしているように感じられた。
「そこまでね。さようなら(胸の)ちっちゃい魔法使いさん‥‥」
 そう上空でつぶやくと、ヘルメスがその手に漆黒の球体を生み出していた。
──ボウッ
「残念ですわね‥‥」
 それはクレアの一撃。
 先にヘルメスを確認したクレアは、このチャンスをじっと待っていた。
 そしてクレアの放った一撃がヘルメスのマントに引火、ヘルメスの身体を焼いた。
 その瞬間、ヘルメスの手の中の球体は消滅した。
「あら。クリエイトファイヤーで集中力を削ぐとはねぇ‥‥」
「ええ。詠唱途中では、あなたもなにもできないでしょう? それに意識が集中できないと魔法発動しない。それは私たちにとってもはや常識ですからねぇ」
 そう楽しそうに告げるクレア。
 いつもの劣勢ではなく、ヘルメスに対して優勢をとっているのでなおさらであろう。
──ゴゥゥゥゥッ
 さらに突然、リュリュと海燕が空中に舞い上がる。
 高速詠唱で自身を中心に、トルネードを発動させたのである。
「見よ!! これがレットショルダーの心意気。『リュリュ式 真空竜巻イヅナ落としっ!!」
 おお、リュリュかっこいー!!
──ドッゴォォォォッ
 そのまま二人同時に、大地に脳天から叩きつけられてダブルノックアウト。
「こ‥‥この技の弱点は‥‥痛いぃぃぃぃぃ」
 泣き叫びつつ、どさくさまぎれに逃走するリュリュ。
 その後ろからクレアも走り出すと、さらに走ってくるアンリと共に逃走モードに移行。

──そのちょっと前、村の中とある小屋
「‥‥ここか」
 鉄格子でがっちりと固定されている窓のなかに、大勢の人の姿をリスターは確認。
「あ、貴方は‥‥」
「しっ。皆は攫われてきたのか?」
 そう問い掛けるリスターに、一人の老人が静かに肯く。
「今はまだ無理だけれど、必ず助け出します。だからそれまで希望は捨てないでください」
 ヘルヴォールがそう告げると、老人や少女達は安堵の表情を見せる。
 そしてそんな中、リスターは愛しの蛮ちゃんを探すのだが。
 そこには年端もいかない少女か老人しかいなかった。
「ここに居る人で捕まっているひとは全てか?」
「いえ‥‥綺麗な女性達は‥‥慰みものにって‥‥連れられて‥‥男の人たちは真っ先に破滅の魔法陣に‥‥」
 一人の少女が涙ぐみながらそう呟いた時、リスターは其の場から飛び出す。
──ガシッ!!
 そのリスターの腕を、ヘルヴォールが捕まえる。
「どこに居くっ。今動いたら、全てが水の泡だっ!!」
「そんな事っ。俺にとって大切な女が、あいつがピンチなんだっ!! それを黙って見ていろと!!」
 そう声を荒げるリスターに、ヘルヴォールは拳で殴りつける。
──ドゴッ!!
「気持ちは判る‥‥けれど、今は絶えろ。隊長として、これは命令だっ!!!」
 そう叫びつつも、ヘルヴォールもまた全身を怒りで震えさせていた。
「あ‥‥ああ‥‥すまない‥‥悪かったよ‥‥」
 そのまま周囲がきな臭くなるまえに、二人は合流地点へと撤退していく。

──合流地点から大聖堂へ
「‥‥意識がないです。怪我は癒えていますけれど、このままでは‥‥」
 フィーンの手当をしたウィルが、静かにそう呟く。
「今は急いで戻ったほうがいいです。ノートルダム大聖堂に向かえばきっと助かります」
 テッドの言葉に肯くと、一行はフィーンをつれてプロスト領中央へと撤退。
 そして手当も早かったおかげで、フィーンの意識は回復した。


●最悪の事態
──ベルゼルク騎士団ベースキャンプ
 静かにベースキャンプを訪れたオイフェミアともんたの二人。
 その入り口に、二人の護衛が立ちはだかり、二人の行く手を塞いでいた。
「ちょっと、あんたに用事はないのよっ。騎士団長を出しなさいよっ!!」
 強気な口調でそう告げるオイフェミアをよそに、護衛の一人が奥に駆けていった。
(‥‥こいつらが‥‥村を‥‥)
 スッと腰に下げている紋章剣の柄に手を掛けるもんただが、素早くオイフェミアがそれを制した。
(駄目よっ。まだもらうものは貰っていないんだから。私は騎士団から情報とお金を、貴方はその後で剣士として一対一での決着を‥‥そういう約束でしょう?)
(あ‥‥ああ、すまない‥‥だけど‥‥)
 必死に何かを押さえているもんた。
 そして奥から戻ってきた護衛が、二人を奥の騎士団長の居る小屋へと案内するように告げた。

「さて、今回はどのような用事かな‥‥」
 オイフェミアともんたを見ながら、騎士団長のシャードがそう告げる。
「まあ、単刀直入に言わせてもらうけれど、貴方たち騎士団の裏の顔、今はまだ知られていないけれど、パリに居る連中に知られたら色々と不味くない? 善良な竜の民をを勝手に虐殺なんてねぇ‥‥」
 つとめて冷静にそう告げるオイフェミアに、騎士団長は繭一つ動かさず、じっとオイフェミアの出方を待つ。
「まあ、今その事を知っているのは私とこの子だけだし。内緒にしていても構わないわよ‥‥」
 そう告げたとき、騎士団長は顔に笑みを浮かべる。
「話が早い。いくら必要だ?」
 そう出てくると思っていたのか、オイフェミアは指を2本差し出す。
「これだけ。私とこの子の分ね。あと、この子が虐殺された竜の民の仇を取りたいって言うから、騎士らしく一騎打ちの相手をしてくれればOK。どう?」
 そう付け加えたオイフェミアに、騎士団長は静かに肯く。
「金は用意する。一騎打ちは本日夕刻より広場にて。それまでは部屋で休んでくれたまえ。部屋は騎士に案内させる‥‥」
 そう告げて、騎士団長は部屋の外に出た。
「‥‥ようやく‥‥仇を‥‥」
「みたいね。まあ、案外すんなりと話が纏まったから良かったわ。まあ、万が一の事があったとしても、私の仲間が動くのは解っているし、迂闊なことはしてこないから安心していいわよ‥‥」
 その言葉に、もんたは静かに肯く。
 そしてしばらくして、二人の騎士がオイフェミア達を迎えにきた。
「御待たせしました。使われていない小屋を掃除していたもので。とりあえずこちらへどうぞ」
 そう告げられて、騎士達に挟まれるようにオイフェミア達ははずれの小屋へと案内されていった。
 しばらくして、小屋が見えたとき、その惨事は起った。
──ドシュッッッッッ
 突然背中に激痛が走ったオイフェミア。
「何っ。何が起ったのよっ!!」
 そう叫んで振り向いたとき、オイフェミアの視界には、手にしたロングソードをオイフェミア目掛けて力一杯振りおろす騎士の姿があった。
「悪く思うなっ。生きていられると色々と面倒だからなっ!!」
──ザシュザシュッッッッッ
 その背後では、もんたと騎士の一人が剣を構えて激しい剣戟を繰り広げていた。
 もっとも、紋章剣の刃はオーラで形成されている為、騎士の持つ剣では受け取る事が出来ず、ただひたすらもんたが優勢に立っていた。
「オイフェミアさんっ!!」
──ビシィィィィッ
 そう叫んだ刹那、オイフェミアの目の前の騎士はオイフェミアの首筋を力一杯切り裂いた!!
(じょ、冗談じゃないわっ!!)
 必死に抵抗するが、印を組む時間すら与えられていないオイフェミア。しかも最初の一撃で大量の血が流れていた為、意識ももうろうとしていた。
「まあ、運が悪かったと思っていくれな‥‥」
 そうオイフェミアともんたの耳に届いたのは、騎士団長の声であった。
「約束が‥‥違うわよ‥‥」
 必死に声を振り絞るオイフェミアだが。
「まあ、ここで死んでもらったほうが都合はいい。戻らなかったとしても、一人の冒険者が勝手にどこかに行ったということで話は終らせられる。それに‥‥」
 そう呟くと同時に、後方からクロスボウを構えた弓兵が現われ、もんたに向かってクロスボウを叩き込んだ!!
──ドシュシュシュシュシュッ
 それはもんたの全身に突き刺さり、もんたの動きを封じた。
「生きていてもらうと困るんだよ、異端教徒の竜の民にはね‥‥」
 そう告げつつ、騎士団の後ろから全く別の姿の騎士たちが姿を現わした。
「な‥‥何も‥‥の‥‥なのよ‥‥」
 オイフェミアはそう呟いて意識を失う。
 そしてもんたもまた、新しく現われた騎士たちによって、無残な姿となってしまった‥‥。

──そして
「この二人の死体はどこか森の奥にでも埋めてこい。持っていた荷物は全て別々に分けて処分。紋章剣はどこか湖にでも捨ててしまえ‥‥足が付かないようにな‥‥」
「とにかく証拠は残すなよ。こいつらは我々『セフィロトの騎士』を見た。死体が残っていたら教会で甦生処置を取られる可能性がある。可能ならば、燃やして灰にした後、川にでも流してしまえ!!」
 騎士団長と、一人のセフィロト騎士の言葉に、他の騎士たちは無残な死を遂げた二人を人知れぬ森の奥へと埋めた。
「これでもう、冒険者に関ってもらうこともない。あとは今まで通り‥‥」
 シャードは静かにそう呟くと、騎士団に対して次の指示を飛ばしていた。

 グッバイ‥‥オイフェミア、そしてもんた‥‥。


●そしてパリ
──冒険者酒場・マスカレード
「砕けたカリバーンか‥‥」
 目の前の聖劍を見つめつつ、アンリがそう呟く。
「これを修復出来る人は、今、このパリに一人しかいないと聞いています。トールギスの弟子であるマイスター・ゼロ。何処にいるか御存知ですか」
 つとめて冷静にそう告げるフィーン。
 だが、誰もゼロの居場所など知らない。
(‥‥これをロックフェラーに見せれば、ひょっとしたら何か手掛りを得ることができるかもな)
 アンリはそう心のなかで呟く。
「そうね。そうかも知れないわね‥‥」
 って、ヘルヴォール、心の声に相槌いれないっ!!
「それにしても、悪鬼が武器を振り回していた所、初めてみたぁ‥‥恐っ」
 リュリュがそう告げつつ、マスカレードに事の情況を告げている。
「それに、悪鬼という人、どうやらフェイント系のこうげきに弱いのでは?」
 テッドが静かにそう告げる。
「どういうことだ?」
「僕とアンリさんの二人で攻撃ですが、突然僕の後ろから飛び出したアンリさんの攻撃がクリーンヒットしていましたから」
 その時の状況を確認するように呟くテッド。
 確かに、悪鬼はあの一撃を躱わせなかった。
「それと、ヘルメス。私の魔法で発動を阻止できましたわ。まだ何かあるようでしてけれど、追いかけてくる様子も無かったですわ」
 そのままヘルメスのことに付いても呟くクレア。
──ガァガァ‥‥
 と、ふと窓の外から何か聞きなれた声が聞こえてきた。
──ガタタタタッ
 リュリュとクレアの二人は急いで外に飛び出した。
 そこでは、懐かしい『アンリエット』の姿があった。
「アンリエット!!」
「あ、あ、アンリちゃんっ!!」
 と、見知らぬ青年に手を繋がれて、アンリエットは楽しそうに御散歩の最中であった。
「そ、そこの貴方っ!! ちょっと待ってください」
「アンリちゃんを何処に連れていくのよっ!!」
 その言葉に、男は立ち止まって振り向く。
「あ、ああ、この子を知っている人ですか。貴方たちは?」
 その青年の言葉に、リュリュはちっちゃいマイクロ‥‥いやいや、ピコ胸を張ってこう叫ぶ。
「冒険者よっ!!」
──ダッ
 その瞬間、男はアンリを抱えて走り出した。
「えーーーーーっと‥‥つまりは?」
 ポリポリと頬をかきつつ、そう呟くリュリュ。
「馬鹿っ。攫われたのよっ!!」
 そのまま走り出すクレアと、その後ろを追いかけるリュリュだが、大きな通りに出た途端、二人の行方は解らなくなった。
「‥‥無事‥‥っていうか、アンリだったよね? シルバーホークじゃなかったよね?」
 そう呟くリュリュ。
 確かに、一瞬だけ振り向いたきょとんとした笑顔は、懐かしいアンリそのものであった‥‥。

〜Fin