●リプレイ本文
●ああっ、セーラ様っ!!
──パリ・各地での行動
さて。
依頼を受けた冒険者達は、今後の方針を決めるべくギルドの別室で綿密な打ち合わせを行ったのち、さっそく行動を開始していた。
兎に角、今回の依頼はかなり難しい。
それゆえ、一行は事前調査をしっかりとやっていくことにしたのであるが。
──オイフェミア
さて。
いざ出発となったものの、他のメンバーの姿はどこにも見当たらない。
「ふぅ。全く皆、冒険者としての自覚があるのかしら? 同じ依頼を受けたメンバーに、待ち合わせの場所を教えないって一体どういうことなのよっ!!」
そう呟きつつ、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)は町の中を仲間を探して回ってみた。
が、どこにも仲間たちの姿は見当たらなかった。
「‥‥これって、ある意味いじめよね。折角信頼のおける仲間だと思ったのに‥‥」
そう呟くと、取り敢えず目的地は解って居るオイフェミアは、先日訪れた『竜の民』の住まう村へと向かって移動開始。
──吟遊詩人ギルド
「こ‥‥これが竜にまつわる伝承ですかっ!!」
ババーーーンと大量に積み上げられたスクロール。
その手前で、ガブリエル・プリメーラ(ea1671)とウリエル・セグンドの二人は意識が遠くなりはじめていた。
「ええ。でも、これが全てではありませんよ。伝承や物語の中でも、保存する為にここに記していった吟遊詩人さんのものですから、同じものがあるかもしれませんし、まったく違うものになっているかもしれませんよ」
そう告げると、吟遊詩人ギルドの人が、2枚のスクロールを取り出して広げる。
「ほら、これとこれ、同じタイトルの物語ですけれど、こっちはドラゴンスレイヤーとしての英雄譚、こっちは竜を倒した英雄と村の巫女のロマンスに仕上がっているでしょう?」
そう言われて、ガブリエルはスクロールを手にとってざっと眺める。
確かに同じ物語ではあるが、どこを中心に物語を構成しているかで、まったく違う物語に仕上げられている。
「ふぅん。まあ、これをまとめて処理するのは大変そうね‥‥」
そう告げると、ガブリエルは大量のスクロールをウリエルの前に積み上げる。
「これを‥‥俺が?」
「ええ。この手の情報処理はお手の物でしょう? 宜しくねー」
そのまま別室にてギルドに出入りしている町付き吟遊詩人に話を伺うガブリエルであったとさ。
──シャルトル・ミハイル研究所
「はぁ‥‥うちの所っ長さん、いつになったら戻ってくるか判らないアルヨ」
そう告げているのは、新しくこのミハイル研究室にやってきた助手の一人、紅飛鴻(フォン・ウェイフォン)。
「そうなのですか。どちらの遺跡に向かったのか御存知ありませんか?」
そう問い掛けているのは、シャーリィのもとを訪れて色々と話を聞きたいと思っていたシャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)である。
もっとも今はシャーリィ不在の為、どちらに向かったのか教えて欲しかったというのが本音でしょう。
「さぁ‥‥よく判らないけど、大きな商船でノルマン沖に出かけたという事アルヨ」
「シャーリィさんでしたら、『竜の背骨』の向う、旧シルバーホークのアジトの方角に向かったということは聞いていますけれど」
飛鴻の言葉に、第一助手がそう告げる。
「旧シルバーホークですか。一体どうしてそこに?」
「さぁ? なんでも、奪われている筈の『剣聖の籠手』を探しているとか?」
「『剣聖の籠手』? それはなんですか?」
「えーっと、ノルマン南方の伝承の一つですよ。といっても、この地、その古い民の中の剣聖伝承ですから、知っている人は殆どいないでしょうけどね。この地には、古くから『剣聖カリバーン』という方が住んでいて、竜の民を率いていたと伝えられているのですよ。その彼の持つ聖剣カリバーンについての伝承を調べていて、確か‥‥マイスター・トールギスが剣聖の武具を作る秘術を伝えられているとかで。でもその技術は今は誰も引き継がれていなくて、唯一トールギスの弟子であった『ゼロ』という名前の鍛冶師を探しているそうです」
それを聞いて、シャルロッテは頭の中を整理する。
「では、シャーリィさんは、その『ゼロ』という方を捜しに? でもどうして‥‥」
「ゼロは、シルバーホーク付きの鍛冶師ですから‥‥」
その言葉で、シャルロッテはシャーリィの身に何か嫌な空気が流れはじめているのを感じ取った。
──シャルトル・プロスト領
「おやおや、これは珍しい‥‥」
楽しそうにそう告げつつ、レナード・プロスト卿は目の前の椅子に座っている冒険者達にハーブティーを差し出す。
「かなりご無沙汰しています」
「すいません」
丁寧に頭を下げつつそう告げるラシュディア・バルトン(ea4107)と薊鬼十郎(ea4004)の二人。
「いえいえ。私の方は別に構いませんよ。あのくそじじいの相手をして頂いたというのもありますしね‥‥今頃何をしている事やら‥‥」
楽しそうにそうラシュディアに告げると、プロスト卿は椅子に座り、まずはハーブティーを一口。
そしてゆっくりと息をすると、そのまま二人の方をじっと見る。
二人がどんな用件でやってきたのか、静かに話を聞くらしい。
「単刀直入に聞かせてもらいます。竜の民に受け入れて貰うにはどうすれば良いのですか?」
そう問い掛ける鬼十郎に、プロスト卿はしばし思考。
「えーっと、古き竜の民ですね。彼等は村の人たちと同じ古き民以外には心を開きませんよ‥‥」
そう告げるプロスト卿に、ラシュディアがさらに問い掛ける。
「どうしてですか? 何かあったのですか?」
「あったといえばありましたか‥‥彼等の信仰するものは竜、セーラを信ずる今のノルマンの民とは信じるものが違うのですから、それは当然でしょう。それにあの地の民は、他所から来たものを排斥する傾向にありますから‥‥」
そう告げると、静かにハーブティーを咽に流し込むプロスト卿。
「では、赤竜の生態については? 活動時間や弱点、それに人語を解するかどうかなのですが?」
その鬼十郎の問いには、プロスト卿は静かに説明を開始する。
「赤竜とはまた。恐らくは火の属性に位置する竜でしょう。それらドラゴンの活動時間や生態は謎に包まれているものが多いのです。もし赤竜が火の属性でしたら、それは恐らくは狂暴で残虐、生きているものはすべて餌と見なしているタイプでしょう。活動時間などは私も研究していないので判りませんし、弱点というのも今ひとつ‥‥ただ、それらドラゴンに立ち向かい退治する為に、先人達は『ドラゴンスレイヤー』なる武具を生み出したとも伝えられています」
その言葉に、ラシュディアが問い。
「ドラゴンスレイヤー? それはどんな武器なんだ?」
「まあ、その名前の通りですね‥‥今でも裏オークションなどでたまに見ますが、全て劣化品や廉価版のようですから‥‥。オリジナルのドラゴンスレイヤーは何処にあることやら‥‥」
「では、最後に一つだけ」
そう告げると、鬼十郎がゆっくりと話を続ける。
「宝玉はどのような姿形なのですか?」
「さぁ? そもそもその宝玉というものが実在しているものなのか怪しいですから‥‥」
そう告げると、プロスト卿はズズズとハーブティーを口の中に流し込む。
「だが、その竜の民の逸話や実際に鬼十郎が見たドラゴン、そして伝承に出る宝玉、軌跡の宝玉と呼ばれているものならば、プロスト卿にも心あたりはあるだろう?」
そのラシュディアの言葉に、プロスト卿は静かに話を始める。
「竜の宝玉や、古き迷宮の神球(しんきゅう)、もっとも深き回廊のオーブなど、様々な伝承はあります。ですが、そのどれもが同じ力を持っていると伝えられています‥‥それは『願いを叶える』という力です。そうですねぇ‥‥例えば、大切な友が死したとき、それから幾星霜時間が経とうとも、宝玉は願いを受けてれ、その者を再び蘇らせることができるとか‥‥」
その言葉に、ラシュディアと鬼十郎の二人は息を飲む。
「今の魔法では、それほど時をすぎたものの肉体を再生し、さらにセーラやタロンの力を借りて魂を呼び戻す事などほぼ不可能。それを可能にするからこその『奇跡の力』であり、『願いを叶える力』なのでしょう‥‥」
そう告げて、プロスト卿はゆっくりと遠くを見つめる。
「プロスト卿は、そのようなものに心当りが?」
「ええ。一振りの剣がありました。大いなる回廊、ゴーレムの守る迷宮の奥に、その剣は安置されていました‥‥以前、ミハイルの研究員達がそこを調査したのですが、どうやら最後の扉だけは開くこと叶わずという感じだそうで‥‥まあ、そんな話はどうでもよいとして。このノルマンにも、幾つかそのような奇跡を生み出すものがあるというのは事実。その竜の宝玉もまた、そのようなものということで間違いはないでしょう‥‥形は様々、本当に只のタマだったり、剣であったり指輪であったりと、伝承によって様々です‥‥」
それだけを聞くと、二人は納得。
かくしてラシュディアと鬼十郎は、待ち合わせの場所へと向かっていった。
──剣士の居留地
「ふぅむ。そのような事が起こっておったのか‥‥」
静かに焚火の前でそう呟いているのはワルプルギスの剣士、マスター・オズ。
「ええ。今、ニライ査察官は奇跡の宝玉を求めている。それで、マスターが何かを知っているのなら、それを教えて欲しい。南方地方、竜の民、そして竜の宝玉、どんな些細な事でもかまわない‥‥」
デュランダル・アウローラ(ea8820)はそう告げると、マスター・オズが口を開くのをじっと待っていた。
「南方、竜の民は哀しき民。隣国からの魔物の群れと戦い、この地を 訪れた者たちと戦い、そして常に竜を見守りつづけている。彼等にとって竜は守り神そのもの。その竜の持つ宝玉を手に入れるということは、即ち竜の民を敵に回すと同意。そなたたち、まさか竜の民を殺してまで宝玉を奪うのか?」
マスター・オズの瞳が冷たくなる。
だが、その言葉にデュランダルは頭を左右に振ると、ゆっくりと口を開いた。
「全てを告げて、力を貸してもらう。ただそれだけだ‥‥」
そう告げると、デュランダルは、マスター・オズに静かに問い掛けた。
「一つ教えて欲しい、己の心の闇に打ち勝つ方法はあるのか?」
ハーフエルフとして生まれた己の中に眠る狂化という悪夢。
それに打ち勝つ方法はあるのか、デュランダルはマスター・オズに問い掛けていた。
「常に研ぎ澄まされた心を持つこと。じゃが、‥‥そなたの戦うものは己の中に眠る血ではなく、そなた達のように生まれたものの持つ『宿命』とも言えよう。それに打ち勝つことができるかどうかは、ワシにはわからぬ‥‥もし心が揺れるならば、己の中にあるオーラに耳を傾けよ‥‥」
The Aura Will be with you・・・・Always
それがマスター・オズの教えであった。
「そなたの中にも、二つのオーラを感じる。正しき竜のオーラと、悪しき闇のオーラ‥‥二つのオーラを一つに統べて、己のオーラを磨くがよい」
そう告げると、マスター・オズはそのまま其の場をたちさろうとする。
「マスター・オズ。この地には、剣士としての修行に来たものはいるのか?」
「うむ。今はこの地を離れているが、数多くの者がこの地で剣士としての修練を行った‥‥」
そう告げると、マスター・オズは何かを考え、そしてこう告げた。
「先日、ここで紋章剣を受け取った青年。彼は『竜の民』ぢゃよ‥‥もしそなた達が人としての道を誤ったとき、その時は、我等ワルプルギスの剣士がそなたたちを止める事になる。それだけは心に止めておくのぢゃ」
その言葉を心に刻みこみ、デュランダルは其の場を後にした。
●そして〜すれ違い行き違い〜
──シャルトル南方・ベルゼルク騎士団居留地
「‥‥うーん。ここにはいないかぁ‥‥」
腕を組んで何かを考えているオイフェミア。
他の仲間たちが恐らくはここを訪れるであろうと考えたのであるが、どうやらここには来ていない模様である。
現在のベルゼルク騎士団の動きは『停滞』。
南方のエリア解放後、各エリアと騎士団居留地の間ではコミュニケーションが取れるようになっていた。
唯一、『竜の民』の住まう村に対しては今だ封鎖されている状態であるが、あの地はオーガによって守られている為、それ程危険性はないとオイフェミアは感じ取っていた。
──ザワザワザワザワ
ふと、居留地が騒がしくなっていた。
「なっにっかあったのかなぁ?」
そう呟きつつ、ヒョイと遠くから騒ぎの方角を見つめるオイフェミア。
ちょうど居留地の出口の所で、オーガと少年が騎士団と何か言い争いをしていたようである。
「この先、もんたの村あるっ。ギュンターたち、そっちに行くからとおしてほしいっ!!」
どうやらギュンター君と剣士もんたが通りかかった模様であるが、どうやら一筋縄ではないようである。
「もんた? この先の村? エリア12に向かうというのか?」
そう問い掛けるフィーンに、もんたは静かに肯く。
「急いで戻らないといけないんだ‥‥友達が、俺の帰りを待っている!!」
そう告げると、ギュンター君ともんたは騎士達を無視して歩き出した。
「ちょっと待て!! この先の村に向かうには、ここで許可を得ないと通す事は出来ないっ。せめて身分を明かすものを提示してもらわないと!!」
ひとりの騎士がそう叫ぶ。
と、もんたは懐からペンダントを取り出し、それを騎士に見せる。
──ザワッ
途端、騎士たちの動きが止まった。
「それは‥‥竜の紋章‥‥お前、『竜の民』の末裔かっ!!」
その途端、全ての騎士たちが剣を引き抜く!!
(あ、あれはやばいよねぇ‥‥さて、どう出るのかな? オーガのちびっことちっちゃい剣士さん)
こっそりと物陰で二人の動きを観察しているオイフェミア。
と、突然騎士団長が一言声を掛ける。
「殺せ‥‥竜の民とそのオーガを殺すんだ!!」
そして、フィーンを除く全ての騎士が、二人に向かって襲いかかった。
「ちょっと待ってください騎士団長!! なにも殺す必要なんて‥‥」
──ガギィィィィィン
激しく打ち込まれる剣戟を、ギュンター君は愛用のモルゲンステルンで必死にガード!!
そしてもんたもオーラを全身に流し込むと、そのまま騎士の攻撃を掻い潜っていった。
(何々っ? ちっちゃいの二人、騎士と同レベルの戦闘力なの‥‥)
──ピキーーーン
と、突然何かを思い付いたオイフェミア、急いで丸ごとオーガを着用すると、遠くから二人をそっと手招きする。
「うぁ、もんた、アッチに!!」
それに気が付いたギュンター君がもんたを呼び止めると、そのまま二人はまるごとオーガの跡を追って、森の奥へと走っていった。
●懐かしき砦〜ここからが本番〜
──南方・最前線の小さな砦
そこには様々な思い出があった。
「懐かしい場所が合流地点になったものだ」
氷雨絃也(ea4481)はそうつぶやくと、 久しぶりに訪れた砦をゆっくりと見回った。
今は防衛としては使われていない砦。
だが、冒険者達が身体を休める場所として、砦は今でも存在していた。
氷雨が到着した今、二人の冒険者がそこでゆっくりと身体を休めていたのである。
──ビクッ
と、氷雨の姿を見て驚く冒険者。
「これは失礼。私もここで仲間と待ち合わせをしていてな。それよりも大丈夫か? 酷い傷だな‥‥」
二人の冒険者はかなり深い傷を追っていた。
一人は今にも死にそうな状態で、ここから動かすと危険であることは氷雨の目にもはっきりと判る。
「お、御願いです‥‥彼を‥‥彼を助けてください‥‥」
ウィザードらしき女性が、そう氷雨に哀願する。
「これを飲ませれば‥‥あるいは‥‥」
そう告げつつ、氷雨はヒーリングポーションを差し出す。
だが、傷ついた男性はそれを受け取らない。
「‥‥私も神聖騎士、神に使える身‥‥もう私は無理です‥‥」
途切れ途切れに告げる男に、氷雨は無理矢理ヒーリングポーションを飲ませる。
だが、傷が回復していかない。
生者ならば、その傷は言える魔法の薬。
だが、今、目の前の男性には、まったく効果を表わさない。
(命の灯火は消えている‥‥ただ、何かを伝える為に、この場に魂が留まっているだけか‥‥)
氷雨はそう感じ、静かに周囲を見渡す。
(‥‥もし、この場にあいつがいたら‥‥)
かつて、共に戦った男。
鋼鉄の冒険者の称号を与えられし、セーラの教えを伝えるおっさん。
彼の持つ癒しの力は、死者すら蘇らせれるのかもしれないのに‥‥。
そう思ったとき、遠くからシャルロッテ達が情報を得てここにやってくるのが見えた!!
「シャルロッテ!! 大至急癒しを頼む!!」
その声が届いたのか、シャルロッテが砦に向かって走ってきた。
そして
「‥‥もう、いいのです‥‥私は‥‥もう‥‥」
そう告げると、神聖騎士のロバートは静かに瞳を閉じる。
「諦めないでください!! セーラ様は必ず救いの手を差し伸べてくれます!!」
シャルロッテの手当も虚しく、ロバートは静かに瞳を閉じる。
「カトリーヌ‥‥御免ね‥‥」
そう告げて、ロバートは静かに息絶えた。
やがて、ロバートを近くの丘陵に埋葬すると、合流したメンバーは其の場に残った女性ウィザードに話を聞いた。
「一体なにがあったのですか?」
エルリック・キスリング(ea2037)がそう問い掛ける。
「私達は、竜の宝玉を求めてこの地にやってきました‥‥私と戦士のカトリーヌ、神聖騎士のロバート、タロンのクレリックのミカエル、騎士のハインツマンはとある人からの依頼でそれを求めてやってきたのです。どうにかその場所を確認した私達は、竜の宝玉を奉る村を訪れ‥‥どうにか洞窟に入る事を許されました‥‥けれど‥‥」
そう告げた時、突然その女性が喉元を押さえ、苦しみ出す。
「うっ‥‥ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァ‥‥」
「何かを口に詰めろ!! 舌を噛み切る」
デュランダルの言葉に鬼十郎が着物の袖を千切って口に詰める。
そしてガブリエルとラシュディアが周囲を見渡したとき、二人は上空を飛んでいる一人の女性を確認する。
「それ以上は語ることを禁止するわ‥‥愚かなウィザードのアリスティアさん‥‥」
それは一行が最も会いたくない存在。
「悪魔‥‥か‥‥」
ラシュディアがそう呟いた時、上空を飛んでいたヘルメスが眼下を見下ろしていた。
「‥‥それにしても、随分と用意のいいことで‥‥」
そう告げたヘルメスの視線の先では、エルリックとラシュディアの二人が既に『ヘキサグラム・タリスマン』を発動させていた。
「とりあえず、ここでアンタには死んでもらうとしよう」
「運が悪かったと思ってくれ‥‥ミストラルっ!!」
氷雨とデュランダルの二人が武器を構える。
そしてデュランダルの愛馬であるヒポグリフのミストラルが勢いよく羽ばたくと、そのままヘルメスに向かって飛んでいった!!
「‥‥グリフォン使い‥‥いや、ヒポグリフですか」
そう呟くヘルメスに、ミストラルの一撃が叩き込まれる。
──ザシュッッッッッ
だが、それは衣服を引き裂いただけで、全くヘルメスには傷を負わせていない。
「魔力の籠っていない武器でなくては、私の身体を傷つけることはできませんわよ‥‥では‥‥これをお返ししますわ」
そう呟いて、ヘルメスは手にしていた何かを放り投げる。
それはガブリエルの足元に転がった。
瀕死のネズミが、ガブリエルに弱々しく歩いていった。
「何故こんなものが‥‥」
と、ふとガブリエルは空を見上げた。
いない。
大切な友のラファガが飛んでいない!!
「まさかラファガっ?!」
「クスクスッ。大空を羽ばたく鳥でも、今はただの邪魔臭いネズミ‥‥クスクス‥‥」
そのヘルメスの言葉と同時に、ガブリエルの怒りは頂点に達した!!
「大切なラファガを‥‥貴方は許さないっ!!」
刹那、上空を飛んでいたヘルメスの影を、ガブリエルが捉える!!
「‥‥シャドウバインティングとは考えたわねぇ‥‥」
そうヘルメスが呟いた途端、彼女の全身が漆黒に輝く。
「でも‥‥ほら?」
軽く手を前に挿すと、既に呪縛から解かれている事を見せるヘルメス。
「ならばっ!!」
すかさずラシュディアがトルネードを発動。
そのまま竜巻に呑み込まれてさらに上空に舞上げられるヘルメスだが、すぐさま上空で姿勢制御を行うと、ゆっくりと眼下のラシュディアを捉える。
「飛んでいる私にはトルネードは駄目よ。落下しないから‥‥」
──キィィィィン
その間、シャルロッテは静かに魔法を詠唱していた。
そして発動!!
「セーラよ。目の前の悪しき存在を倒してくださいっ!!」
純白の輝きが球となり、ヘルメスに向かって叩き込まれる。
だが。
「タロンよ、かの白き力を破壊せよ‥‥」
カウンターでホーリーにブラックホーリーを叩き込むヘルメス。
そして対消滅。
「あら、剣士の皆さんはここまで届かないようね。では、私は仕事も終ったので、これで失礼しますので‥‥」
いつのまにか手の中に白く輝く球を持っているヘルメス。
そして地上では、アリスティアが意識を失っていた。
「いけないっ。魂が‥‥」
シャルロッテがアリスティアを抱き上げるが、既に意識は戻らない。
生きてはいるのだが、魂の殆どが失われ、もはや瞳を開く事もできないアリスティァ。
「そしてガブリエルの手の中で、ネズミとなったラファガが元の姿を取り戻した。
「ラファガっ‥‥もう大丈夫よ‥‥」
「セーラよ、かの者の傷を癒したまえ‥‥」
エルリックのリカバーで傷を癒すラファガ。
そして一行は、しばしの休息の後、ヘルメスに対する警戒も加えたうえで行動続行となった。
なお、アリスティアは近くの街道を通った隊商に頼み込み、ノートルダム大聖堂へと送り届けられた。
●もう一つの悲劇〜失われた道〜
──竜の民の村
どれぐらい走っただろう。
オイフェミアともんた、そしてギュンター君の3人は、ベルゼルク騎士団の追撃を躱わしつつ、もんたの故郷である『竜の民の村』を訪れた。
そしてそこに到着したが、其の場は見るも無残な光景であった。
「‥‥う、うそだ‥‥うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
村は焼き払われ、大量のオーガと村人の死体が転がっていた。
その中に、オイフェミアも知っている『ベルゼルク騎士団員』の死体も転がっている。
「あらぁ。一体誰がこんなことを‥‥」
そう呟きつつ、オイフェミアは村の中を歩き回る。
そして村人達の殺された原因が全て『剣による攻撃』であった事と、それを隠すように村が焼き払われた事を確認した。
「‥‥ない‥‥村の守り神が‥‥大切な竜の像が‥‥」
焼き払われた村長の家で、もんたは叫ぶ。
「うぁ、もんた、生きているひといた!!」
ギュンター君の言葉に、もんたとオイフェミアは生き残っている青年に近付く。
「大丈夫かクックール!!」
そうかつての友の名を叫ぶと、もんたは懐から薬を取り出した。
「一体誰がこんなことをっ!! モラー長老は? それにシィちゃんはっ!!」
そう叫ぶもんたに、クックールは最後の力を振り絞ってもんたにこう告げた。
「森の奥の民と‥‥騎士たちが手を組んでいる‥‥奴等はシィちゃんをさらって‥‥洞窟の‥‥宝珠を‥‥」
──ガクッ
そのままクックールは何も告げなくなった。
「ク‥‥クックール!!」
もんたの絶叫は、森の中に響き渡った。
──そして数刻後
「ギュンター君。そしてオイフェミアさん、僕に力を貸してほしい」
そう告げるもんたにオイフェミアは静かに話を聞く体勢を取る。
「力を貸してほしい? なにをどうする?」
そう告げるギュンター君に、もんたはゆっくりと話を始める。
「村の大切なものが悪い奴等に取られた。だから取り返す!!」
「大切なものとられた‥‥悪い奴‥‥と、とりかえす‥‥」
そう呟くギュンター君の脳裏に、以前の記憶が蘇る。
トールが殺されたときの、自分の取った行動。
大切なものを取り返すために、ギュンター君は奴等を追い詰め、戦ったこと。
その時の気持ちがあるから、もんたの気持ちがギュンター君には良く判った。
「わかった、もんた。ギュンターとりかえすのテツダウ」
そう告げるギュンター君に、オイフェミアは一言。
「まあ、頑張ってね。それじゃああたしはパリに戻るからね」
と告げてパリへと戻っていった。
(ベルゼルク騎士団、色々と裏があるみたいだからねぇ‥‥)
●森の奥の民たち〜もう一つの竜の民〜
──南方未探検地域の奥の奥の奥のさらに奥
小さな砦を出発して、どれぐらい時間が経過したであろう。
氷雨の用意した古い地図とガブリエルの得た吟遊詩人のサーガ、そして以前使った地図を頼りに、一行は慎重に森を突き進んだ。
そして運が良いことに、竜との遭遇もないままに、一行はついに湖の畔にある『古き竜の民』の村落を発見する事が出来た。
「初めまして。私達はパリからやってきました」
鬼十郎が村の手前にいた青年にそう話し掛けると、青年は怪訝そうな表情で家へと戻っていく。
「話を聞いてください。このノルマンが危険なのですっ」
そう力説している鬼十郎だが、村人は全て家の中に閉じこもってしまった。
その後で、奥から屈強そうな戦士が出てきて、冒険者 一行と話を始めた。
「ノルマンの危機だと?」
そう告げる戦士に、鬼十郎が頭を縦に振る。
「ええ。今、このノルマンは悪魔やシルバーホークと呼ばれる悪の秘密結社によって脅威に晒されています。その状態を打破するためにも、竜の宝玉が必要なのです。力を貸してくださいッ」
「そして我々は、この地に宝玉が存在するか確認の為にやってきた。それを狙うシルバーホークと、其の影にヘルメスというデビルが有るという事も合わせて付け加えさせて頂く」
そう力説する鬼十郎と氷雨。
「帰って頂きたい。我々は俗世と関る気はない」
そう告げてくるりと後ろを向く戦士。
「待ってくれ、貴方たちにとって、竜の宝玉とはどれぐらいの価値があるんだっ!!」
ラシュディアがそう問い掛けたとき、戦士はくるりと回って一言。
「竜の宝玉には先祖達の英霊が眠っている‥‥」
そう告げて再び奥へと向かう。
「待ってくれ、どうしても俺達の話を真面目に聞いてくれないのかっ?」
デュランダルがそう叫んだとき、村の奥から入れ違いに長老らしき人がやってくる。
「お主たちがパリからやってきた冒険者で、この村の宝珠を狩りたいということは判った。だが、今、それを手にすることは出来ぬ‥‥諦めて御帰りください」
と、長老はそう告げた。
「どうしてですか? 何か事情があるのですか?」
鬼十郎がそう告げたとき、村の奥から大勢の青年達が姿を表わす。
皆、其の手に武器を持っている。
「止む無し‥‥か」
カチャッと刀を引き抜くと、氷雨が静かに構える。
その横で、鬼十郎とデュランダルも刀をかまえ、エルリックが後方で術師たちの護衛に入る。
「待ってください。まだ話し合えば判ってくれます」
「力でなにも解決しなくても‥‥」
シャルロッテとガブリエルの言葉に、さらにラシュディアも付け足す。
「体勢を整えて作戦をねるべき‥‥」
そう呟いたが既に遅し。
一斉に襲いかかってきた青年達を相手に、鬼十郎と氷雨、そしてデュランダルが攻撃を開始する。
その3人の鬼人の如き戦いに、村の青年達は次々とその命を散らしていった。
実際、相手は手加減できる相手ではない。
そのため、3人も本気で戦わなくてはならなかった。
──ガササッ
と、鬼十郎の後方で茂みが揺れる。
「まだそこにいたのっ!!」
そのまま一気に間合を詰めると、鬼十郎は茂みに向かって刀を振るう。
──ガギィィィィン
激しい一撃を、茂みから飛び出したギュンター君が受止めた!!
「き‥‥きじゅろ‥‥どうして‥‥」
そう告げたとき、後ろから姿を現わしたもんたとギュンターは、村の中で死んでいる多くの『竜の民』の姿を見た。
そして血塗られた刀を手にしている鬼十郎‥‥。
もんたは手にした紋章剣を振るう。
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
「う‥‥うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
そこからは、暗黒に染まった漆黒のオーラの刀身が姿を現わした。
そしてギュンター君も、その瞳から涙を浮かべる。
「どうして‥‥きじゅろ、このひとたちわるくないのに、どうして‥‥」
涙を流しつつ、モルゲンステルンを振るうギュンター君。
「ま、待ってギュンター君っ。話を聞いてっ!!」
必死にそう叫ぶ鬼十郎だが、その背後からデュランダルが駆け寄ると、一撃でギュンター君を切り捨てた!!
──ザシュッッッッッッ
それは致命的な一撃。
だが、その一撃を受け、ギュンターは後ろに下がる。
「うそだ‥‥きじゅろが、みんなが‥‥うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
叫びつつ森の中に走っていくギュンター君。
そしてもんたはそのギュンター君の後を追いかけて、森に駆けていく!!
「待ってギュンター君っ‥‥冒険者‥‥お前たちは、絶対に‥‥許さないっ!!」
もんたはそう吐き捨てると、其の場から姿を消した。
そして村の長老が姿を表わすと、一行の目の前に座る。
「これ以上、村の民を傷つけないで欲しい‥‥宝珠は今は取り出す事が出来ない。巫女が不在の為、竜が怒り暴れている‥‥となり村の巫女『しぃ』の力を借りる事が出来るなら、その時は宝珠を渡しましょう‥‥だから、どうかこの場はお納めください‥‥」
そう長老が告げたとき、冒険者一行は我に返った。
自分達の手によって、罪なき村人が死んでいること。
そして今、自分達が行なっているのはあきらかに『野盗』のものと替わらないこと。
シャルロッテやガブリエル、そしてラシュディア、エルリックは謝罪し、怪我人の手当を行った。
氷雨とデュランダルは自身が殺した者たちへの謝罪を行なっていたが、鬼十郎だけが茫然と森を見つめていた。
「どうしよう‥‥私‥‥私‥‥ギュンター君を‥‥」
ポツリ‥‥ポツリ‥‥
空から雨が降ってくる。
それは冒険者達の流した涙なのであろうか。
──To be continue