●リプレイ本文
●誰がために、静かに鐘は鳴り響く
──冒険者酒場マスカレード
2階の席は現在貸し切り。
そこに集っている大勢の冒険者達が、破滅の魔法陣と竜の住まう地についての最後の打ち合わせを行なっていた。
「それじゃあ、闇オークションで最後の彫像を入手すればいいのね?」
そう告げているのはガブリエル・プリメーラ(ea1671)。
「そこでですね、ミストルディンさん、私の身元を保障するというのを一筆書いて頂けませんか?」
そうミストルディンに頼み込んでいるのは薊鬼十郎(ea4004)。
今回はオークションに向かうらしい。
「ええ、別に構わないわ。あとで割り符を渡すわね」
そう返答を返すと、そのままミストルディンは皆の話し合いをじっと聞いていた。
ウリエル・セグンド(ea1662)はその会話中、ずっとどこかにズレが生じていないか耳を傾けている。
「そう言えば、今回、あの旧街道に出現する盗賊はそっちのチームで対処してくれるんだったな。助かる」
デュランダル・アウローラ(ea8820)がその場にいる破滅の魔法陣チームにそう頭を下げる。
「それは構いませんよ。お互いに出来る事をがんばって、このシャルトルを解放しましょう♪〜」
そう破滅の魔法事チームの女性が告げる。
かくして一行は、いよいよ目的地へと向かっていった。
目的は違えど、このシャルトルを解放するため。
全ては、この戦いに掛かっているのである。
──その頃のパンプキン亭
「それじゃあ、今の所、そのような時間はないのですか‥‥」
がっかりとした表情でそう告げているのはフィーネ・オレアリス(eb3529)。
「ああ。協力したいのもやまやまなんだが、この店の鍋という鍋全て、奇跡のスープを仕込んでいる所だ‥‥」
そう告げるエグゼ・クエーサーに、フィーネは肩を落としていた。
「そのスープがあれば、竜と無益な戦いになることはないのですが‥‥」
「その通りだよ。おいらも精一杯がんばって、幸せをよぶ、栄光のスープをつくるんだっ」
そう告げているのは、フィーネと共にやってきていたカルル・ゲラー。
ちなみにその料理の腕前は、中々のもの。
「成る程。なら、勝負といこう‥‥」
そう告げるグローリアスロードを解析した料理人の兄ぃ。
かくして、料理10番勝負となって、その結果はというと‥‥。
──ガクッ
両膝から、大地に崩れていくカルル。
「どうして‥‥何が、なにかがたりないんだっ。それが何か‥‥」
ワナワナと震えるカルル。
そしてそのまま、店の外に飛び出していった。
「何が足りないって‥‥それは一つだけだ」
そう告げる兄ぃに、フィーネが問い掛ける。
「何が足りないのですか?」
「誰にそのスープを提供するか。暴走したドラゴンが、人間の作ったスープなんてそうそう飲む筈がない‥‥」
その通り。
●偉大なるものに敬意を表して
──シャルトル南方・竜の民の村・湖の畔
一行はまず、竜の民の住まう村にやってきた。そこまでは竜の姿と会う事はない。
なんとか島にたどり着くと、まずは入り口を確保するために、同行したプロスト領の人たちによって崩れた入り口の修復作業にはいった。
そして半日の作業が終了すると、いよいよ入り口は本当の姿を取り戻し、結界の解除作業に入る。
「さて、ここからが正念場でござるな」
アンリ・フィルス(eb4667)が拳を鳴らしつつ、結界の横にある台座に近付く。
そして一つ、また一つと彫像を安置し、最後の3つ目が置かれた瞬間‥‥。
──ヴゥゥゥゥゥン
結界が鳴動し、消えていった。
その少し奥では、倒れているしぃと、何処かの盗賊団のような奴等が立っていた。
そのいでたちから、どうやらここが開放されるのをじっと待っていたのであろう。
倒れているしぃの全身には無残なほどの生傷が付けられ、今生きているのかどうかさえ心配な感じである。
「貴様らぁぁぁあ」
絶叫を上げて突入するアンリ。
──ドッゴォォォツ
そのままナイフを構えた盗賊に致命的な一撃を叩き込むと、次のターゲットを見定める。
「全く‥‥血の気が多い御仁だ‥‥」
そう呟きつつも、後方でガブリエルが唱えたシャドウバインディングが発動したのと同じタイミングで、不破斬(eb1568)はしぃの身柄を確保、そのまま『鉄壁の護り』を開始した。
「セフィロト騎士団では‥‥ないのかっ!!」
デュランダルも残党狩りを開始、次々と襲いかかってくる敵を薙ぎ倒していく。
そして鬼十郎とセイル・ファースト(eb8642)の二人は、奥からさらにやってきた『増援』に対して切りかかる。
「貴方たちのおかげで‥‥ギュンター君が‥‥」
──ユラリ
ふらっと歩きつつ、すれ違いに一撃を叩き込む鬼十郎。
そしてセイルは親父譲りの正統派剣術で次々と敵を撃破。
生き残った奴を捕まえると、そのまま縛り上げて話を聞こうとしていた。
「しぃさんの様子はどうですか?」
心配そうにそう問い掛けるガブリエルに、彼女の手当をしていたフィーネに問い掛ける。
「大丈夫。そんなに酷い怪我ではないわね。でも、女の子にこんなことするなんて‥‥」
怒り心頭のフィーネ。
そして縛り上げられていた盗賊から何かを問い出そうとしていた直後。
──ドッゴォォォッ
盗賊の顔面に何かが命中し、盗賊は死亡。
慌ててその何かが飛んできた方角を確認したとき、一同は言葉を詰まらせた。
──ヴゥゥゥン
輝く紋章剣、そして全身を包んだ漆黒の鎧。
『コーフーコーフー』
漆黒のフルフェイスの口許から聞こえる呼吸音。
そして、その場に居合わせた者たちは知らない、圧倒的な『悪意』。
かつて、ノルマンを恐怖に陥れたデビノマニ『シルバーホーク』四天王の一人、ダース・ブラウザーの漆黒の鎧である。
その男が、静かに胸許に手を当てて、一言呟く。
『全ては我等に、茨の竜が舞い降りる』
綺麗なイギリス語。
その瞬間、男は紋章剣を発動したまま、セイルに向かって切りかかる!!
「させるかっ!!」
その攻撃を躱わしきれないと判断したセイルは、素早く剣で受止めに入る。
──スッ‥‥ブゥゥゥゥン
だが、セイルが受止める直前に刀身は消失し、そして剣を通過した瞬間に再び刀身が生み出された!!
──ズハァァッ
その一撃を受けて、セイルはかなりの深手を受ける。
「加勢する!!」
素早く飛込んでくるデュランダルもまた、手にしたグラムにオーラパワーを注ぐ。
紋章剣士ならではの戦いを、紋章剣士訓練生であるデュランダルも知っている。
──バジッ!! バジィッ
激しく打ちなる剣とオーラ。
それが弾けあい、ぶつかり干渉する。
「その刀身の紋章は不死鳥!! 貴様ヘルメスか!!」
1度後方に下がると、デュランダルはそう叫ぶ。
「彼女は魔法陣中枢。最後の仕上げに入っている‥‥私は紋章剣を受け、セフィロトに力を貸しているに過ぎず‥‥」
「そんな事知らぬ!!」
──バギィィィッ
とっさに飛込んでいったアンリが、隙を見て漆黒の剣士に物干竿を叩き込む。
剣士の胸の鎧の一部が砕け、何かが懐から零れ落ちる。
──ハッ!!
それがなんであるか、その場の誰もが判らない。
ただ、セイルのみが、それを知っていた。
大切な妻が送り届けてくれたハンカチ。
それを持っている相手は、この世でただ一人!!
「血迷ったか‥‥何故だ親父ぃぃい!!」
激しく高まる感情は押さえられない。
この国にやってきて、ニライの跡を継いで査察官となった筈のファースト卿。
行方不明となったあとは、消息が知られていなかったのに。
今、敵としてここで対峙するとは、セイルも思っていなかった。
そしてその時点で、セイルの体が硬直した。
幼いときから叩き込まれた剣技、戦い方。
全てが、親父を越える事は出来ない。
さらに紋章剣と、ブラウザーの鎧を受けたファースト卿。
──ガクッ‥‥
「ハアハアハアハア‥‥オウッ!!」
口から嘔吐物が吹き出す。
頭の中で何かが回っている。
駄目だ。正しい判断が出来ない。
──バジッ!!
そんなさなかにも、デュランダルはファースト卿に切りかかる。
弾ける刀身、オーラの力。
それが圧倒的であることを、デュランダルも理解していた。
そして後衛に入っていた者たちも、早く先に進みたかった。
ここはまだ洞窟の入り口。
そして結界から外では、今まさに上空で飛んでいる竜が自分達を見付けようとしている。
しぃは救えたものの、このままでは私達は殺される。
「ふむ‥‥いい太刀筋だが」
──バヂッ!!
デュランダルの一撃を切替えして袈裟に切り伏せるファースト卿。
そして立ち位置を横にずらし、道を開く。
「先に進むがいい‥‥そして本当の絶望を知るがいい」
そのまま紋章剣を閉じると、ファースト卿は外に向かって歩き出した。
「待て!! アンタが誰か解らないけれど‥‥仲間をやられて黙って」
斬がそう呟いて武器を引き抜くが、その動きを鬼十郎が制する。
「道は開かれたの。戦いよりも、まずは皆が生きてかえれる事を優先しないと」
そう告げる鬼十郎だが、その手が震えている。
そしていよいよ、竜が低空に降りてくる。
──グゥォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォツ
羽ばたきから発生する突風が洞窟に飛込んできて、全員のパランスを奪う。
『御願い‥‥私達の言葉に耳を傾けて‥‥』
それはガブリエルのテレパシー。
彼女を媒介にして、皆が竜を説得、その怒りを静めようとしているのである。
だが、状況は最悪であった‥‥。
竜は彼女達の言葉に耳を傾けない。
そして助けたしぃも、まだ意識を取り戻していない。
ならば、取るべき道は一つ。
「女性達は奥にっ‥‥ここはなんとか」
斬がそう叫んで女性陣を奥に送り出すと、再び抜刀して前衛に飛び出す。
その間にも、セイルは勾玉を握り締めて、ゆっくりとドラゴンの後方に回りこんでいた。
──そして
洞窟に飛込みつつも、いきなり顎を開いてブレスを放出する竜。
だが、その一撃が吹き出した直後、フィーネが発動したホーリーフィールドによってその攻撃は一瞬遮られた。
──バッキィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
そして破壊された結界越しに、威力の弱まったブレスが内部の全員に叩き込まれた。
だが、前回とは違い、殆どのものが致命傷ほどの怪我を受けてはいない。
「あとは‥‥任せましたわっ‥‥」
フラフラと後方に下がっていくフィーネ。
そして一同は、一気に蜘蛛の子を散らすように各周囲に散っていった。
「この前の力強さはもうない‥‥大切な伴侶を失って、復讐の為にその力をだし切って‥‥今の貴方には、私達を殺すだけの力は残っていないのに‥‥」
その弱っている竜の姿を見て、鬼十郎はそう呟く。
大切な者を失った悲しみを、鬼十郎は知っているから。
──ドゴォォォォォォッ
そのまま手加減なき一撃を叩き込む鬼十郎。
「竜よ。お前に詫びねばならないことが三つある。一つは、利用される前に巫女を救い出せなかったこと。二つは、お前の伴侶を殺めたこと。そして三つ目は‥‥これからお前の命を奪うことだ」
デュランダルはそう呟くと同時に素早く抜刀。
一気に洞窟に飛込んできた竜に向かって、右側面から飛び出して渾身の一撃を叩き込む。
──ズバァッ
「‥‥相手が強大な敵なれど‥‥全方位からの一斉攻撃には、絶対対処はできぬ。それは、拙者が身をもって知っているからのう‥‥」
デュランダルの逆再度より飛び出して、攻撃タイミングの全てを合わせて渾身の一撃を叩き込んでいるアンリ。
彼の言うとおり、攻撃特化の者は、守りには弱い。
その一撃は硬い鎧のような鱗を破壊し、その肉体を切り裂いた!!
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァァッ
「悪いな。あんたにゃあ恨みはないが、ヤらないとヤられるんでね」
「その通り‥‥ここで‥‥死んでもらう‥‥」
弱っている竜の首元に向かって、『新藤五国光』を縦に叩き込む斬と、同じタイミングで別角度から横一閃の一撃を叩き込むウリエル。
──スパァァァァァン
そして止めと言わんばかりに、後方に回りこんだセイルが、手にしたドラゴンスレイヤーを大きく振りかぶり、竜に向かって渾身の一撃を叩き込む。
「これで終わりだっ!!」
──ズッバァァァぁァっ
そのまま全身から血を吹き出し、静かに崩れていく竜。
その巨大な命も、やがて静かに眠りに付いた。
「ごめんなさい‥‥本当に‥‥ごめんなさい‥‥」
意識を取り戻したしぃが、そう呟きつつ竜に近づいていく。
そしてその顔に触れつつも、そう必死に頭を下げていた。
●最後の仕上げ
──竜の民の村→ニライ自治区
全員の治療が終り、一同は洞窟を離れて村に戻ってくる。
どうやら先に突入した盗賊達が宝玉を回収していたらしい。
彼等の荷物の中から、丁寧に布に包まれていた宝玉が発見された。
「‥‥これで、あとは合流地点に向かって、届ければ依頼完了だな‥‥」
残っている時間はあと僅か。
それでも、可能性はまだ残っている。
一同は一路、合流地点であるシャルトルのニライ城に向かった。
──ダカダッダカダッダカダッダカダッ
遠く旧街道から駆けていくグリフォン。
その背中には、宝珠を手にしたデュランダルが載っていた。
「あとは任せたっ!!!!」
そう叫んで宝珠を手渡すデュランダル。
そしてそれを受け取ると、魔法陣チームはいよいよ突入開始。
「ふぅ‥‥これですべて終ったな‥‥」
グリフォンを止めてそう告げるデュランダル。
やがて後方から、アンリやウリエル、そしてしぃを含めた皆が戻ってくる。
そしてじっと、目の前の巨大な黒い球状の魔法陣を見つめていた。
──そして2刻
それは突然起こった。
破滅の魔法陣の周囲を覆っていた黒い結界が弾け、霧のような球体となる。
それはやがて収縮を始め、半径100mのドーム状の形に収まった‥‥。
「こ、これで全てが終ったの‥‥」
「どうでしょう。中の皆が戻ってくるまでは」
「ええ。セーラよ、彼の者たちに加護を‥‥」
鬼十郎の言葉にガブリエルとフィーネがそう告げる。
そして地下回廊から、一行が戻ってきた。
●そして‥‥
──破滅の魔法陣外
そこにあるのは、半径100mのドーム型の結界。
その外周は再び閉じられたが、いつでも『魔法のスープ』によって開かれる。
莫大な魔力を得て、魔法陣はその力を弱めつつあるが、この大きさで固定されてしまった。
もし、あの宝玉の魔力が底を付いたら、再び活性化するであろう。
それまでに、なんとか完全な消滅を遂行しないと‥‥。
思い足取りで、一行はパリへと戻っていった。
最後の最後、それを為しえてヘルメスを倒す為に‥‥。
──Fin