●リプレイ本文
●竜の住まう地〜反乱〜
──冒険者の酒場『マスカレード』
そこは静かな空間。
これからシャルトル地方に向かうにあたって、細かい打ち合わせが行なわれていた。
というのも、今回は、ちょっとしたミスで全てが終ってしまう可能性がある。
そうなると、自分達だけでは無く、人質となってとらわれているであろう『竜の巫女シィ』、そしてこのノルマンが危険にさらされることとなる。
「‥‥つまり、貴方の言い分ですと、盗賊はその魔法で殲滅できるというのね?」
ガブリエル・プリメーラ(ea1671)が目の前のウィザード・ジークリンデ・ケリン(eb3225)にそう告げる。
「ええ。幸いな事に、私は魔法、特に火についてはかなりの知識を持っています。様々な状況に応じて、対処するぐらいは可能ですわ」
そう告げるジークリンデに、ガブリエルも取り敢えず納得。
「では、そのように。移動その他については‥‥」
「湖に向かうのなら、拙者の空とぶ絨毯もあるでござる。それで向かえばなんとかいけるでござるな!!」
ということで、色々と試行錯誤の上。とりあえずは出発ということになったのだが‥‥。
●頭脳戦と物量作戦
──シャルトル・旧街道
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
爆音が広がり、数名の盗賊がそのばに倒れる。
「これで全滅‥‥かしら?」
後方では、ファイヤーボムを発動させて満足そうなジークリンデが立っている。
旧街道に突入した一行、万が一の盗賊団の襲撃を警戒して、ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)が周囲を調査、その結果冒険者達を取り囲むように移動している盗賊団を確認。
前方にいるらしい敵に対して、ジークリンデが魔法を発動した。
──ガササササッ!!
その瞬間、周囲から一斉に飛び出してくる盗賊団の群れ。
──ガギィィィィン!!
恐らくは手練れの剣士であろう、その男の振るう一撃を霞刀で受け流す薊鬼十郎(ea4004)。
「魔法使いさんのガード御願いします!!」
そう叫びつつ、力で押し返そうとするが一進一退。
「ウィザードはこっちにくるでござる!!」
石の王を構えたアンリ・フィルス(eb4667)の後方に、ジークリンデとヴァンアーブル、ガブリエルが回りこむ。
──ガギ‥‥ズバァァァァッ
敵剣士の攻撃を軽く受け流し、デュランダル・アウローラ(ea8820)が返す刀で敵を切り捨てる!!
「その程度で冒険者を襲うとは‥‥笑止っ!!」
素早く次の敵に身構えるデュランダル。
「‥‥まだまだだ‥‥」
一瞬の隙に、対峙した敵の右手を貫き、その手の武器を弾き落としているのはウリエル・セグンド(ea1662)。
通常の剣の軌跡を信じて躱わそうとしていた相手にとって、変幻無人の攻撃を仕掛けてくるウリエルは実に厄介なのであろう。
素早く後方に下がり、敵は撤退、入れ違いに突入してくる敵に対して、再び踏込んでいく!!
──ガギガキン
その後で、必死に敵の攻撃を受け飛ばしているのは水無月冷華(ea8284)。
「ケッケッケッ。女がてらにこんな所にやってくるなんて無謀なんだよっ!!}
盗賊はそう叫びつつ、さらに連撃の速度を早めていく。
だが、一旦後方に引いた後、水無月はゆっくりと剣を正眼に構える。
「‥‥ふう。女がてらですか‥‥その言葉はもう、聞き飽きました‥‥」
そう呟いた瞬間、飛込んできた男の足元が凍り付きはじめる。
「こ‥‥う‥‥こお‥‥り‥‥」
──ピキーーーーン
水無月のアイスコフィン。
それによって、男はその場で凍結した。
「余計な事さえ言わなければ、もっと楽に‥‥」
そう呟くと、再び水無月も構えなおし、別の敵に飛込んでいく。
「月よ、その優しき腕(かいな)に、彼の者たちを包みたまえ‥‥」
「突きよ、彼の者たちの影を破壊し、その魂を冥府へと誘え!!」
後方でスリープを唱えているのはヴァンアーブル、そしてシャドウボムを唱えているのはガブリエル。
──バタバタバタッ
スリープのターゲットは5名。うち2名はレジストしたらしく何も怒らず、その後方の3名がパタパタと倒れていった。
そしてガブリエルのシャドゥボムは‥‥。
──トヂッゴォォォォォォッ
鬼十郎の手前の剣士の影を吹き飛ばす!!
「今っ!!」
──シュンッ
敵がバランスを崩したその瞬間、鬼十郎が敵の胴部を横一閃!!
それが致命傷となってその場に敵が崩れていった。
「危ないわっ!!」
まさに混戦状態というその瞬間、ジークリンデが後方からやって来る増援部隊を確認、そこに目掛けてファイアーボムを発動させる。
──キィィィィィィィィィィン‥‥ゴウッ‥‥
激しく逆巻く炎の球体。
それが高速で飛んでいくが、それは途中で爆発し、水蒸気を上げて消えていった。
「そん‥‥な‥‥」
ジークリンデの脳裏を駆け抜ける嫌な記憶。
この感覚は、まさしく『魔法の対消滅』。
水蒸気の向うに、ローブに身を包んだウィザードが立っている。
「火の魔法使いですか‥‥これはおもしろい」
フードの中に、仮面を付けた男の顔。
「ふっ‥‥」
──キィィィィィィィィィィィィィィィィン‥‥ゴウッ
その仮面の魔導師の放ったウォーターボムに対して、ジークリンデが高速詠唱でファイアーボムを発動させるが‥‥
──シュンッ!!
相殺できず、ジークリンデに直撃!!
「そ‥‥そんな‥‥」
胸部に直撃したウォーターボムのおかげで、今ひとつ言葉が詰まるジークリンデ。
「貴方の魔法は火、私は水。つまり‥‥」
そう告げる魔導師の言葉に、ジークリンデがハッと思い出す。
水が上位に位置‥‥
──ヒュンッ!!
素早く石の王を構え、ジークリンデの前方に回るアンリ。
「下がるならよし、さも無ければ‥‥」
そう凄むアンリ。
と、突然高い笛の音が鳴り響いたと同時に、一斉に盗賊団は撤収した。
「‥‥怪我人の治療を頼むっ」
誰かが発した言葉に、全員が周囲を警戒しつつも怪我を手当していった。
それぞれが持っていたポーションを使い、怪我を治療する。
今回の任務、まだまだ波乱が起こりそうな予感が。
●竜の住まう村
──湖畔
盗賊の襲撃から1日。
とりあえず一行は、竜の民の村まで到着。
この前とは違い、今日はまだ昼。
そのため、一行は空飛ぶ絨毯やフライングブルーム等を準備。
あらかじめジークリンデがスクロールと魔法を駆使して湖畔から島を調査、人のいた形跡は残っているものの、今現在、その姿は見えない。
「残っているテントの中には‥‥人影は存在しないですね。残っている荷物は生活道具程度と思われますわ、何かの証拠になるものはみあたりませんわね」
エックスレイビジョンとテレスコープのスクロール。
確かに、これを使う事でテントの中を覗く事は出来るが、そこからさらに奥、例えばテントの中に置いてあるバックバックの中を覗くとなると、それはできない。
エックスレイビジョンの効果は、相乗できないからである。
それでも、敵対している者たちがいない事、別のテントでは子供サイズの女性の衣服が置いてあった事から、恐らくはシィがいたことは予測できた。
そのため、一行は先に進むべく作業を開始する。
そしてジークリンデはヴァンアーブルにフレイムエリベイションを発動した。
──そして島
ジークリンデの先行調査どおり、人が住んでいたらしい形跡、テントなどの跡や食事を行なっていたらしい形跡が残っている。
だが、人影はやはり存在しない。
「どうだ?」
入り口付近を調べているデュランダルや鬼十郎にそう問い掛けるウリエル。
「足跡の数は10人。一つは女性だな」
「そうみたい。年の頃は解らないけれど、女性特有の、そして冒険に慣れていない人の足跡ね」
鬼十郎がデュランダルの言葉に補足。
「そうなると、この奥が怪しい‥‥」
ウリエルがそう告げつつ入り口にやってくる。
そして奥を調べようとするが、何か見えない壁のようなものに阻まれてしまう。
入り口から大体10m程度の距離。
そしてその壁際に、『竜の祭壇』がある。
そこには、何かの象が安置できそうな穴が三つあいており、今はそこにはなにもおいていない。
「竜の彫像‥‥これでござるな」
──ゴトッ
台座に安置された竜の彫像。
だが、なにも反応がない。
「これは、全部集めないといけないのではないですか?」
鬼十郎がそうアンリに告げる。
「残る二つか‥‥ううむ。どこにあるのやら‥‥それはそうと、そっちはどうでござるか?」
アンリが他の仲間たちにそう問い掛ける。
ここが竜の洞窟で、ここに竜が住まう以上、何等かの痕跡があると考えたらしい。
「いた形跡はあるが‥‥今はどうでしょう? 足跡や洞窟の中の雰囲気から察するに、今は狩りか何かで、外に出ていると考えられます」
水無月がそう判断。
それには、ジークリンデも肯いている。
「付け加えると、ここの洞窟の大きさ、そして見えない結界。ドラゴンがその奥に入る事は出来るのか疑問ですね」
「アンリ、ということは、この奥に敵が、シィを連れて進んでいるという可能性があると?」
デュランダルがそう問い掛ける。
と、突然上空に影か゛二つ。
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥツ
ゆっくりと飛来している巨大な竜。
しかも二頭。
「‥‥巨大な赤い竜‥‥急いで逃げてくださいっ」
水無月がそう呟いた瞬間、上空から炎のブレスが吐き出され、一行を襲う!!
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
全身を灼熱の炎で焼かれる一行。
すでに洞窟の奥、逃げ道はどこにもない。
見えない壁が逃げるべく道を阻んでいるからであろう。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そのブレスの熱で、ガブリエルが虫の息。
その場に倒れて動けない。
それ以外の者も殆ど重傷を負い、辛うじて戦闘できる状態なのはデュランダルとアンリのみである!!
「偉大なる竜よ、聞いてください。この地に満ちていた命がいま蝕まれています。人間だけじゃない、この地に住まう者全てが、貴方の助けを必要としているんです!!」
そう叫ぶ鬼十郎。
だが、その刻すでにもう一頭の顎が大きく開かれていた。
「その通りッ。竜よ!! 我々の話を聞いて欲しい。この地で何が起こっているのか、貴方なら判って居る筈だっ!!」
デュランダルもまた、会話でその場を納めようとしていた。
その刹那、ブレスを放出するべく引かれた口が停止したかのように見えた。
だが。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
大爆音と同時に、ブレスを吐きかけていた竜が炎に包まれる。
ジークリンデがブレスを相殺させる為に発動したファイヤーボム。
その爆音と熱量は、その場の全員にも降り注ぐ。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
ジークリンデをブレスから護ろうと前に出たアンリだが、ファイアーボムの範囲に巻き込まれてしまった為、それもかなわず。
「そ‥‥そん‥‥な‥‥」
倒れているガブリエルの死体を抱き上げ、叫ぶウリエル。
「あ‥‥あ‥‥生きて‥‥いる‥‥」
ガブリエルの胸許から、崩れた『身代わり人形』が落ちてくる。
辛うじて呼吸しているガブリエル。
次の一撃が来る前に。
慌ててポーションを取り出し、それを口にする一行。
だが、
身につけていたものが次々と崩れ、指輪も魔力を失っている。
そしてその現象は、他の仲間たちにも影響が出ている。
鞄の中のポーションも、殆どがその一撃で破壊されていた。
「い、急いで洞窟‥‥から‥‥」
逃げようと必死に動く水無月だが。
ファイアーボムの爆炎の範囲だったのか、洞窟が崩れ始め、一行は『外』に向かって逃げるしかなかった。
もう逃げ道は存在しない。
そして上空で、怒りに我を忘れたもう一頭の竜が、口を大きく開いて‥‥。
●最悪の事態
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
どこをどう逃げてきたのだろう。
生き残っていた皆のペット達に死体を乗せて、なんとかポーションを駆使して生き残ったアンリ、ウリエル、デュランダル、鬼十郎と水無月は急いでシャルトルに戻ってきた。
殆どの装備は破壊され、それでもどうにか『生き延びる為』に戦い、一頭の竜は撃破、そしてそのあとどう逃げてきたのか、誰もまったく覚えていない。
ノートルダム大聖堂で聖ヨハン大司教に甦生処置を取ってもらい、辛うじて命を取り戻す事が出来た。
だが、合計2発のドラゴンブレス、そして極限まで威力の高まったファイアーボムの火力に、殆どの装備は破壊され、魔法武具ですら、力の弱い物は崩れ朽ちていった。
今、大聖堂では、ガブリエルとジークリンデ、ヴァンアーブルの甦生処置が続けられている。
「‥‥アンリ、どうする?」
そう問い掛けるデュランダル。
その指に輝いていたオーガパワーリングも、あの熱量で全て破壊されてしまっている。
「またやり直す。このままでは、なにも解決していない。なにより、シィ殿の救出どころか‥‥」
そこで言葉が詰まる。
「話が伝わったと思ったのですけど‥‥」
鬼十郎がそう告げると、水無月が鬼十郎の肩をトンと叩く。
「こうして生きているだけでも感謝しないと‥‥それにしても、あの方の魔法の威力は‥‥」
そう告げて、大聖堂を見る水無月。
「どうして‥‥あそこで魔法を使わなければ‥‥」
ファイアーボムの破壊力が、ドラゴンブレスを上回っていたのなら、相殺できた可能性はある。
が、それも結果論、成功するかなんて、ウリエルにも判らない。
「‥‥ごめんなさい‥‥」
大聖堂から出てくるジークリンデが、その場の皆にそう呟く。
──バシィィィィン
だが、そこにアンリの平手が入る。
「迂闊でござる。高位の魔法使いにとって必要な事は絶対的な破壊力だけではござらん。もっと大きな局面を見る力も必要でござる‥‥」
そう告げると、アンリはジークリンデに頭を下げる。
「女性に手を上げた事に対しては謝る。じゃが、拙者は、もっとジークリンデに成長して欲しいと思っているでござるから」
そう告げると、アンリはなかに入っていく。
「あの状態は‥‥仕方がない‥‥けど‥‥」
ウリエルもまた、そう告げて中へ。
「魔法使いにとって必要な事、それは私にもわからない‥‥けれど、今回のできごと、ちょっとしたミスで、ここまで事態が大きくなるの。この仕事は、そういうものだから‥‥」
鬼十郎がそう告げて入り、その後ろを水無月がついて行く。
「より精進して欲しいのよね‥‥」
そして皆が戻っていってから、ジーク飲んでも後ろをついて行った。
後日、件の小島の落盤調査の依頼を受けた『ミハイル教授研究所』の報告では、どうやら洞窟は完全に封鎖されてしまっているらしく、内部に入るには、最低でも5日程度の土木作業が必要である事が関係者に報告された‥‥。
──Fin