ミハイル・リポート〜焔の迷宮〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 89 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月25日〜09月06日

リプレイ公開日:2004年08月28日

●オープニング

──事件の冒頭
「‥‥あの。教授、教授〜。この石版の写本ができました」
 それは考古学者ミハイル・ジョーンズ教授の元で仕事を貰っている若き考古学者。
 毎回様々な遺跡に出かけては、不思議なアーティファクトや石版を持ってくるミハイルの身の回りの世話もしている、可哀想な少女である。
「ふむ、これでよい。いよいよ儂の研究の成果の一つを、探求していた伝承の解析を開始するとしよう」
 どうやらミハイル教授は旅にでるらしい。
 その教授の言葉を聞いて、少女はすぐ教授つでも冒険に出れるように準備を開始した。

──冒険者ギルド
「‥‥もう、何を聞かされても驚きませんからね」
 受付嬢は、ギルドの扉からミハイル教授の姿を見たとき、思わずそう口走った。
「うむ。それがよいじゃろう」
 そう呟くと、ミハイル教授はカツカツとカウンターに進んでいくと、そのまま依頼の内容を説明した。
「今回の依頼じゃが。今までに調べていた様々な遺跡などから、一つの伝説にぶつかったのじゃよ。それを証明するために、その伝説のものと思われる遺跡を調査しようと思ったのじゃ‥‥」
 そう呟くと、地図を広げて一つの山をトントンと叩く。
「そこになにか?」
 キョトンとした表情でそう呟く受付嬢。
「ここの地下。実は洞窟があってな、その奥には、古代の遺跡が眠っているのじゃよ。今までのような竜信仰のものではない‥‥精霊信仰のものじゃ。そしてそれは竜信仰にも繋がっている‥‥」
 その言葉を聞いたとき、受付嬢の脳裏に一つの単語が走る。
「ま、まさか、古代の魔法王‥‥ングング」
 慌てて受付嬢の口に手を当てるミハイル教授。
「うむ、その通りじゃ。この写本によると、そこには焔の迷宮があると伝えられておる。そこの調査じゃよ」
 そう声を潜めて告げるミハイル教授。
「それと、今回もちょっと長期間になりそうなのじゃよ。そこの所をうまく言い含めて頼むぞ」
 そう告げると、考古学者は依頼金の詰まった袋をカウンターに預けていった。
「あ、あはは‥‥ついに、手掛りを見つけたのてすか‥‥」
 ギルド員はそのまま放心状態から脱すると 、掲示板に依頼書を張付けた。

●今回の参加者

 ea1703 フィル・フラット(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1861 フォルテシモ・テスタロッサ(33歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea2705 パロム・ペン(45歳・♂・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea3448 チルニー・テルフェル(29歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea4799 永倉 平十郎(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●まずは下準備から〜情報は大切です〜
──馬車にて
 静かな街道を馬車隊が走りぬける。
 ミハイル教授とその助手、そして今回雇われた人足と冒険者一同を乗せた馬車が、静かに街道を駆け抜ける。
 ノルマンを出発して、まもなく2日。
 一行は、過ぎ行く景色に思いを馳せつつ、現地までの愉しい一時を過ごしていた。
「トラップとは気合いにゅ」
 すでに教授と共に様々な遺跡の調査をしてきたパロム・ペン(ea2705)が、新しく遺跡調査隊に参加したティルコット・ジーベンランセ(ea3173)にそう説明する。
「今までの遺跡では、どんなトラップがあったか教えてほしいじゃん!! 今までのトラップを勉強しておけば、これから行く迷宮のトラップに対してもある程度対応が効くかもしれないじゃん」
 ティルコットがパロムにそう問い掛けていた。
 その前では、ロックハート・トキワ(ea2389)が、いつものようにミハイル・ジョーンズ教授に色々と質問をしている所である。
「教授、今回の迷宮だが、内部の入り口までいったのか?」
「いや、今回も地図の解読を終えただけじゃよ。ご覧のとおり、ベースキャンプを作る研究員達も同行しておる。流石にシャーリィは付いてこないからのう」
「そうか‥‥」
 次の質問を行なおうとしたとき、パロムが間に割って入る。
「シャーリィっていうんだ、あの子。中々可愛いにゅ」
 ちなみにシャーリィ、金髪碧眼ショートカットと、パロムのツボをしっかりと押さえた外見である。そして、ミハイル教授付きの専属助手だ。
「パロム、すまないがシャーリィ嬢の事はあとに‥‥で、迷宮だが、何か詳しい事は判らないのか?」
 神妙な表情でそう問い掛けるロックハート。
「ふむ。詳しい事といっても」 
 そう呟きながら写本をペラペラと開く。
「教授、その写本、この前の写本とは、少し違うね」
 それはチルニー・テルフェル(ea3448)。
「ん、これは写しでな。原書からの完全な写本は、シャーリィが解析途中じゃ。今回向かっている炎の迷宮は、魔法王国への道標の一つなのじゃよ。『精霊の理を知りなさい。強きものは弱きものを救い、等しき力をもつ者はお互いを牽制しあうでしょう』と、書いてある。そこから先は‥‥と、守りの楯の話じゃ」
 ミハイル教授がそう告げたとき、フィル・フラット(ea1703)も会話に乱入。
「そうそう、楯で思い出したが、前回の探索で見つけたあの剣、あれって武器として使える物なのか?」
 そのフィルの乱入には、ロックハートも既に諦め顔。
「この剣か? 武器としては駄目じゃな」
 そう言いながら、ミハイル教授が箱から『道標の剣』を取り出した。
「教授、ちょっと見せて戴いて宜しいかしら?」
 それはオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)。
 教授から剣を受け取ると、それに刻まれている文字をじっくりと観察。
「これは古代魔法語? 教授、精霊信仰とは一体どのようなものなのですか?」
 その問い掛けに、ミハイルは一呼吸。
「まあまあ、先にロックハートの方が終っておらぬ。そちらが終ってからじゃ」
 その言葉に、ロックハートも安堵の表情。
「いや、俺の方も、あとは剣の話だったから‥‥何か特殊な魔法でも掛かっていないかと思ってな」
 その問いにチルニーが反応。
 素早く印を組み韻を紡ぐチルニー。
「この剣には、魔法が掛かっていないよ?」
「だそうじゃ‥‥」
 そう告げると、教授は満足そうに肯く。
「で、教授、私の質問は?」
 オイフェミアがそう問い掛ける。
「ああ、そうじゃったな。この世界には様々な宗教が存在しておる。ジーザス教しかり、阿修羅しかり‥‥精霊信仰、竜信仰もそういったものの一つじゃよ。確か‥‥」
 そう言いながら、別の写本を取り出してはパラパラとめくり始める。
 その光景を見て、フォルテシモ・テスタロッサ(ea1861)が横に座っている永倉平十郎(ea4799)に静かに質問。
「教授は、いつもこんな感じなのか? 学者というのは、もっとこう、威厳があっても良いと思うのじゃが」
 フォルテシモの意見もごもっとも。
「うーん。僕も教授とは付き合いが長くないしなぁ。今回の依頼で、教授とあったのは2度目だし。パロムはずっと一緒に遺跡を回っていたらしいから、彼に聞いたほうがいいんじゃないかな?」
 平十郎が腕を組んだまま、静かにそう告げる。
「そうか。すまなかったのう」
 取り合えずは、今は色々と忙しそうなので後で質問することにしたフォルテシモ。
 そんなこんなで、道中は何事もなく進んでいったのである。


●現地にて〜今回は入り待ちちゃうで〜
──洞窟前
 迷宮の入り口である洞窟には、一行のいる崖っぷちから下に降りなくてはならない。
 崖の中腹にポッカリと口を上げている自然洞。
 そこから迷宮へと向かうらしい。
 現在の崖っぷちから後方、少し開けた丘陵地帯にベースキャンプを設置。
 一行は荷物をまとめて、最後の打ち合わせを行う。
 そして段取りが全て終った後、一行はいよいよ洞窟へと降りる準備を開始。
 崖の上にある木々にロープを張り、そこからさらに洞窟までロープを垂らす。
 下では、チルニーが借りてきたハンマーとアイアンスパイクで、ロープをがっちりと固定。
 あとは命綱を付けて一人ずつ降りることになった。
 多少危険ではあるものの、荷物は先に降ろすなどして軽装になり、一行は無事に洞窟へ到着。

──洞窟入り口
 静かな洞窟。
 チルニーがランタンを借りて灯を灯す。
 ボウッと浮かび上がる空間は、まさしく人の手の付けられていない自然であった。
「奥にあるのが、迷宮への扉じゃな?」
 ミハイルがそう告げながら、奥にある扉を指差す。
「了解した。とりあえずここからは隊列を組んでおいたほうがいいだろう?」
 フィルのその言葉に、一行は隊列を組みはじめる。
 で、お約束の隊列タイム。

〜〜〜図解〜〜〜
・上が先頭になります
・遺跡内部での灯はチルニーとオイフェミアが担当
・二人はメンバーからランタンを借用
・マッパーはロックハートが担当
 トラップ関係はティルコット、そのサポートにパロムが付く
・戦闘時はミハイル教授が荷物の護衛
・また、必要に応じて各員が松明の準備
・戦闘時は永倉は前衛へ、ティルコットは後方へ

        ティルコット
    パロム フォルテシモ 永倉
     チルニー 教授 オイフェミア
         フィル 
        ロックハート 

〜〜〜ここまで〜〜〜

 取り敢えず隊列を組むと、一行はそのまま奥にある扉の手前まで移動。
 高さはゆうに3m。
 石で作られた頑丈な扉。
 表面には古代魔法語が刻まれており、その外にも様々な紋様が記されている。
──ガシッ
 早速フィルと平十郎がミハイル教授を押さえこむ。
「ど、どうしたんじゃ? 何が起こったのじゃ?」
 その光景に、フォルテシモが狼狽。
「あ、じっちゃん、いつも勝手に調べはじめるから。ちゃんとオイラ達がトラップとか調べてからでないと、罠が作動するにゅ」
 いや、確率はパロムも五分五分。
 今回はトラップはティルコットの出番。
 静かに扉を調べ始める。
 上空ではチルニーが魔法詠唱開始。
 じーーっと扉を見つめる。
「教授〜。また神殿だよ〜」
 エックスレイビジョンで扉を透視するチルニー。
 どうやら、扉の向うは神殿のようである。
 天井から数条の光が差し込めており、それで神殿内部は照らされ、見えるらしい。
「ガーディアンはいるのですか?」
 平十郎が問い掛ける。
「今回はいないねー」
 実に手慣れたチームワーク。
 それを見てオイフェミアは感心している。
「ふぅん。遺跡の調査はお手の物ですね。これなら多少は安心してよいかしら?」
──カチッ
 そのオイフェミアの言葉の後、扉から何かの音が聞こえてくる。
 丁度ティルコットが扉を調べていたらしいが、誤って何かのギミックを作動してしまった模様。
「い、今のは何ぢゃ? 何か嫌な予感がするのぢゃが?」
 フォルテシモが慌てて周囲を見渡す。
「なななな‥‥何か起動した‥‥」
 初めてのトラップ調査、初めての確認。
 そして初めての失敗‥‥。
 ティルコットはすでに一杯一杯の様子。
 だが‥‥。
「じっちゃん。このパターンはどう思うにゅ? おいらは魔法のトラップ発動にゅ」
「うむ。ガーディアンが動きだす方じゃな」
 なんで二人は冷静なのという突っ込みは敢えてナシ。
 しかも、二人とも外れ。
──ガラガラガラガラ‥‥
 突然、後方の天井部分が崩れだす。
 一行の入ってきた洞窟入り口が、崩れた岩盤で完全に埋まってしまった。
「ち、ちょっと‥‥何で落ち着いていられるのよ?」
 オイフェミアは、遺跡の調査は始めてである。
 当然、ある程度のハプニングは予測範囲であるが、ここまで落ち着き払っている二人を見ていると、さらに不安が増してくる。
「んー。慣れじゃな」
「慣れにゅ」
 キッパリと言い切るミハイル教授とパロム。
 いつも二人が罠を作動させているからという突っ込みは敢えてなし。
「パ、パロム‥‥どうすればいいのか教えて欲しいじゃん」
 流石にティルコットは不安になっていた。
「この手の罠は、帰り道を崩して動揺させるだけにゅ。気にしないにゅ」
 そのままパロムは扉に手を掛ける。
「中にはなにもいないにゅ?」
「大丈夫。ガーディアンも動いていないよ」
 チルニーに内部の安全を確認すると、パロムは扉を一気に開いた。

──ギィィィィィッ
 重々しい音が寝殿内部に響き渡る。
 そして一行は、内部にゆっくりと足を踏みいれた。
 巨大な神殿。
 壁には様々なレリーフが施され、いつもなら正面奥にあった『竜のレリーフ』がここにはない。
 その変わり、燃え盛る炎をイメージしたレリーフが正面中央の壁に記されていた。
「これが精霊信仰‥‥」
 オイフェミアは、初めて見る神殿に心を奪われそうになる。
「うむ。では調査を開始するか‥‥頼むぞ」
 ミハイル教授はその場に座り込むと、ティルコットにそう伝える。
「了解じゃん」
 そしてティルコットは壁や床、レリーフ等を念入りに調査。
 チルニーはリヴィールマジックを発動させると、神殿内部に魔法の掛かっている場所がないか調査。
 ロックハート、フォルテシモ、フィル、平十郎の戦闘系4名は、いつでも敵の襲撃に対処できるようにスタンバイ。
 オイフェミアは教授の元で、精霊信仰についての簡単なレクチャーを受けていた。
 そしてパロムは‥‥神殿内部に漂っている異常に、真っ先に気付いている模様。
「これは参ったにゅ」
 ティルコットの調査では、神殿内部にはトラップの類は確認されない。
「大丈夫じゃん。取り敢えずは、問題ないぜ」
 自信満々にそう告げるティルコット。
「ふむ。ではオイフェミアは向うの壁の文字を羊皮紙に書き記して欲しい。ワシはこっちの調査を。で、パロム、何かあったのか?」
 ミハイルがそう話し掛ける。
「ここ、炎の迷宮にゅ」
 そう言いながら、帽子を脱いで扇ぐパロム。
「うむ」
「段々熱くなって来ているにゅ」
 そう言えば、確かに入ってきたときよりも体感温度が上がっている。
「教授、1度戻ってみたほうが?」
 平十郎がそう問い掛ける。
「まあ、帰るとしても、何処か出口を捜す必要があるが‥‥ティルコット、隠し扉とかは無かったのか?」
 ロックハートが、一休みしているティルコットにそう話す。
「あ、ああ。俺の見立てでは、それらしいものは無かったぜ」
 手をパタパタと振りつつ、ティルコットがそう告げる。
「そうなると、出口は今岩盤で埋まっている場所のみ‥‥」
 顎に手を当てて、斜め下を見るように考え込むロックハート。
(過去の遺跡‥‥竜の神殿では、それを残さないように崩れていった‥‥唯一、『死者の眠る神殿』のみ、形として残っているが‥‥今回は俺達を出さないように? 違いはなんだ?)
 しばし考え込むロックハート。
「まあ、今は調査を続けよう。この神殿内部の調査が終ってからでも、脱出するのは遅くないだろ?」
 フィルの提案。
 確かに、現在問題となっているのは体感温度のみ。
 急いで調査を終えてしまえば、脱出はそれからでも大丈夫。
「チルニー、あそことあそこの壁、何かないか見て欲しいにゅ」
 パロムが壁を指差しながらそう告げる。
 そこは、先日の『魔の地下迷宮』で見つけた隠し扉の位置。
 パロムは、今回も同じ造りならばという可能性に賭けた!!
「‥‥厚い岩盤‥‥向うが見えない‥‥」
 そして賭けに負けた!!
──ヒュルルル〜
 パロム、久しぶりの敗北感。
「そ‥‥そんな‥‥」
 そんなパロムを横目に、じっちゃんミハイル只今調査続行中。

──そして
 一通りの写し作業を終えたミハイルとオイフェミア。
 流石に二人とも汗が吹き出し、全身がべとつきはじめた。
「オイフェミア、氷がほしいのじゃが」
「私は地属性のウィザードです。水属性は使えません!!」
 キッパリと言い切るオイフェミア。
 暑さのせいで、彼女も多少苛立ちはじめている模様。
「で、出口は?」
 ミハイルがそう問い掛ける。
「教授、後ろは完全に埋まっているので、出口はないみたいです」
 教授が調査を行なっているさ中、平十郎はフォルテシモと二人で後ろの岩盤の除去に向かっていたのだが。
「あれだけの岩盤、砕くというわけにもいかないからのう。かなりの範囲で崩れたようぢゃから‥‥」
 フォルテシモがそう告げる。
「さて、それは困ったのう」
 そのままミハイル教授は思考開始。
──zzzzzz
 あ、寝はじめた。
 そんな教授を横目に、一行は集まって再度打ち合わせ開始。
「まず、ベースキャンプに帰還して灯の補充などは不可能。ここから先は、今持っている荷物のみで切り抜ける必要がある‥‥」
 ロックハート、こういう時には仕切担当。
「当面の問題は食糧と灯の確保かしら‥‥」
 幸いなことに、それらについては皆、そこそこには持ってきている模様。
 オイフェミアのみが、食糧について若干少ないかもしれないが、それは持ち回りでカバー。
「となると、あとは出口の確保にゅ‥‥ティルコット兄ちゃん、もう一度調べるにゅ」
 そう告げるパロム。
「何だか‥‥そんなに俺の調査が信用できないのかよ‥‥」
 やれやれといった表情で立上がるティルコット。
 そしてあちこちを調べはじめたとき、ティルコットは発見した。
(や、やっべー。こんなところにスイッチあるじゃん‥‥)
 はい、最初の調査では完璧に見落としていました。
「まあ‥‥いっか。おい、此処にスイッチあるぜ‥‥」
 開き直ってそう告げるティルコット。
 そのままティルコットの教えてくれたスイッチを見るパロム。
「兄ちゃん押したにゅ?」
「いや、まだだぜ」
 そのままパロムが再調査。
「神殿の真ん中から離れるにゅ。そこに階段できるにゅ」
 そんな馬鹿なという表情の一行。
 そしてスイッチを押した時、中央の床板が次々と沈み、綺麗な階段が出きあがった。
「教授、そろそろ出発の時間だ‥‥起きてくれ」
 フィルに揺り起こされ、ミハイル教授はゆっくりと立上がる。
 そして再び隊列を組むと、そのまま階段を調査し、内部へと突入した。


●罠まみれ〜ここは一体何〜
──地下迷宮5F
 さて、一体何日経過したであろう。
 迷宮はそれほど広くはない。
 だが、階段を降りたり昇ったり、彼方此方に繋がっている回廊を走りぬけたりと、兎に角複雑な迷宮となっていた。
 まるで内部に侵入した者が、奥に有る『何か』にたどり着くことを拒むかのように‥‥

──プスッ
「痛っ‥‥またやった‥‥」
 毒針トラップに引っ掛かり、そう叫ぶティルコット。
 慌てて毒を吸い出すが、罠として仕掛けられていた毒の効果は既に消えている。
「わしの魔法の加護を受けても、こんなに引っ掛かるとは‥‥」
 ティルコットが罠を解除するとき、必ずフォルテシモがグッドラックの魔法を掛けていた。
 それでもなお、幾つかの罠は誤作動を起こしたり、トラップの起動装置を入れてしまったりしているティルコット。
 パロムのフォローが無ければ、ティルコット自身が死んでいたかもしれない。
「‥‥ロックハート。今はどの辺りなのかしら?」
 オイフェミアがマッパー担当のロックハートに問い掛ける。
 と、ロックハートは大量の羊皮紙から、幾つか取り出してオイフェミアにみせる。
「ルートはここ。現時点はこの場所。で、先日通過したのがここ‥‥」
 次々と指を差しながら説明するロックハート。
 かなり複雑な上、ティルコットとパロムのトラップ情報も記されているのだから、纏めるのが大変だったようで。
「それにしても、今までモンスターが一匹も出ないというのはどういう事だ?」
 そのフィルの言葉に、フォルテシモも肯く。
 今までに調査してきた遺跡などでは、犠牲者や信者たちがアンデット化して徘徊していたケースが多かった。
 が、今回は今までのケースを覆している。
 発見されたのはミイラ化した死体や白骨死体。
 全てがかなり古く、最近になって侵入したケースは確認できない。
「この暑さで、生き物は死んでしまうじゃろう? モンスターは生きてはいまいて‥‥」
 フォルテシモの言葉に納得するフィル。
「昨日よりも、さらに気温が高くなっていますね。それに蒸してきてます。これは、かなり地下に潜ったみたいですね」
 平十郎がそう呟く。
「神殿の場所を1階として考えると、今の場所が地下5階。予測では、さらに下があるだろう?」
 その問いに、チルニーが魔法詠唱開始。
 ターゲットは床。
「‥‥暗い空間‥‥まだ下は有るみたい」
 そのチルニーの言葉に、一行はガックリと力を失う。
「参りましたわ。流石にこれだけ暑いと、冷たい水が欲しくなってきますわ」
 オイフェミアがワイン袋を逆さまにしてそう呟く。
 既に持ってきていたワインまで飲み干し、まもなく一行は脱水症状に到達予定。
「‥‥まさかとは思うけれど‥‥途中の死体って、すべて干からびていたじゃん。あれって‥‥」
 ティルコットがそう告げる。
「ああ。確実に、迷宮で迷った挙げ句に餓死。今の俺達の行く末も近いな‥‥」
 そのロックハートの言葉を否定するように、パロムが行き止まりに扉を一枚発見。
「と、扉にゅ〜。初めての扉にゅ」
 迷宮で始めてみた扉。
 一行は急ぎ足でそこに向かうと、扉を注意深く調べた。
「‥‥鍵か。それに扉に古代文字。さてと‥‥」
 ティルコットが鍵を開けるために盗賊道具を捜す。
 が、肝心の道具は無い。
「あ、そうか。今回は持ってきていないじゃん」
 持ってきていないのか、持っていないのかはさておき。
「兄ちゃん、おいらの純正盗賊道具をつかうにゅ」
 その言葉に甘え、ティルコットはパロムから道具を借りる。
「さて、それでは、神の祝福を‥‥ぢゃ」
 フォルテシモがティルコットにホーリィシンボルをかざし、グッドラックを唱える。
 一通りの儀式を終えた後、ティルコットは開鍵を試みた。
──カチャッ
 鍵が開く。
 そしてトラップの有無を確認すると、ミハイル教授が文字の解析を開始。
「うむむむ‥‥うーーーむ。成る程」
 どうやら解読完了。
 そしてオイフェミアの肩をポン、と叩く。
「はい? あたしに何か?」
「この先、我々が生きて帰れるかどうかは、恐らく君の双肩に掛かっておる。頼むぞ」
 そして扉に記された古代文字について説明をするミハイル教授。

『精霊の理を知りなさい。強きものは弱きものを救い、等しき力をもつ者はお互いを牽制しあうでしょう』

 それは、先日教授から聞いた写本の一部。
 まさかこの様な場所で、それに遭遇するとは思っていなかったのであろう。
──ゴクッ
 オイフェミアの咽が鳴る。
 そしてゆっくりと扉は開かれていった。


●精霊の理とは〜まさに命懸け〜
──広い空間
 そこは広い空間。
 果ても無く、ランタンの灯すら届かない。
 そこに、一辺が50cmの六角形のタイルが縦横無尽に敷き詰められている。
 タイルには様々な絵柄が刻みこまれており、それが何かを意味しているらしいことは、一行にもおよそ理解できた。
 が、『何か』が『何を』意味しているかは、誰も知らない。
「‥‥大量のタイル。刻みこまれているのは‥‥」
 オイフェミアが視界の範囲でタイルを観察する。
「飛んでいけないの?」
 チルニーがそう問い掛けるが、それはロックハートが制した。
「この手のトラップは危険だ。迂闊なことはしないほうがいい」
 その言葉に、チルニーも床に着地。
「見えて来るのは‥‥精霊を記すルーン‥‥」
 オイフェミアが呼吸を整えて入り口直のタイルに飛び乗る。
 そして安全を確認すると、そこからさらに周囲のタイルを確認。
「落ち着けあたし‥‥」
 オイフェミアの心臓音が高まる。
 そしてゆっくりともう一歩を踏み出す。
「間違えていなければ‥‥精霊の理は支配力、強きものが弱きものを救う‥‥支配する側からされる側のルーンへ‥‥」
──コトッ
 オイフェミアの靴音が響く。
「等しい力は陽と月。共に踏み入れると駄目‥‥牽制しあうものは、やがて滅びる‥‥」
──コトッ
 さらに一歩。
 精霊の力の理を理解し、オイフェミアがゆっくりと進む。
 そして、一行も彼女の後に続くと、1時間後には出口の回廊へとたどり着いた。

──ドサッ
 その直後、オイフェミアは回廊の壁に背中を付け、そしてゆっくりと崩れ落ちる。
「す、少し休ませて‥‥」
 タイルには地水火風陽月6つのルーンが記されていたようだ。
 それらを精霊の支配力の法則に基づき、一歩一歩踏込んでいったらしい。
 チルニーにはまだ理解しきれていない部分があったので、ここはオイフェミアに分があった模様。
 そして一休みした後、一行はさらに回廊を押し進んでいった。


●最後の試練〜炎の精霊〜
──小さい神殿
 そこは小さな神殿。
 大量の財宝が彼方此方に無造作に積まれている。
 それはまるで、何かに対しての『供物』の用にも感じ取れる。
 そこに『何か』が居るかのように‥‥。
「ここで行き止まりにゅ」
「そうだな。ティルコット、何処か不審な所がないか調べて‥‥」
 パロムに続きフィルがそう告げる。
 が、ティルコットの注意は『財宝』に向けられていた。
「綺麗な酒杯、装飾の施された剣‥‥生きててよかったじゃん‥‥」
 そんな事を呟きながら、ティルコットはそれらを注意深く観察。
「ミハイル教授、あれが『守りの楯』だな」
 ロックハートが、正面の壁に掲げられている楯を静かに指差す。
「あれが? なんだか粗末な楯にしか見えないけれど?」
 平十郎もじっくりと観察するが、どう見ても『訳判らない文字の掘りこまれた汚い楯』にしか見えない。
「おお、これが‥‥」
 フラフラと駆け寄っていくミハイルを、フォルテシモがガシッと止める。
「‥‥何となく、この爺さんの対処方法が判ってきたのう」
 そのままパロムが楯に向かってダッシュ。
 周囲の壁から順番に調査開始。
──トラップ確認成功・罠ナシ
「何もないにゅ」
 そう告げると、パロムは楯を手に取り、急いでミハイルの元に走る。
 と、その光景を見ていたフィルとフォルテシモが抜刀。
 平十郎もその光景に一瞬躊躇したが、すぐに抜刀。
 オイフェミアは印を組み、詠唱準備に入る。
「ちょ、ちょっとまったにゅ。オイラは敵じゃないにゅ」 
 慌てて叫ぶパロム。
「後ろだ!!」
 ロックハートが素早くダガーを引き抜くと、それをパロムの後方に向けて投げ付ける。
──シュン
 風を斬る音が響く。
 そしてパロムも慌てて皆の元に駆け戻ると、後方を確認。

 そこには炎が揺らめいていた。
 
「ガーディアンにしては‥‥」
 それはフィル。
 確かに、今までに見たガーディアンはレイスやゴーレムといった『一筋縄ではいかない』タイプ。
 にも関らず、今、眼の前にいるのは只の炎。
「気を付けるにゅ。それは火の精霊にゅ」
 おっと、パロム何となく理解。
「俺も聞いたことがある。火の精霊の‥‥なんだったか忘れたじゃん」
 ティルコット、惜しい。
「‥‥火の精霊エシュロン‥‥精霊が守護する楯? それって何‥‥」
 あ、流石は精霊に強いオイフェミア。
 でも、ギリギリです。
 そしてエシュロンは、ユラユラと一定のリズムを取って揺らぎはじめる。
「いずれにしても、相手に取って不足はない!! 剣に力を!!」
 平十郎がそう叫ぶと、刀にオーラパワーを附与。
 そしてフィルとフォルテシモがエシュロンに向かって斬りかかった。
──ブゥンブゥン
 フィルの2連撃が宙を斬る。
 フィルの思ったよりも、エシュロンは素早い。
──ブゥゥン
 フォルテシモの一撃も虚しく宙を斬る。
「思ったよりも早い」
「これは、手間取るのう‥‥」
 その二人の呟きとほぼ同時に、ロックハートがナイフを投げる。
──シュッ
 だが、それも壁に突き刺さったのみ。
「駄目か‥‥」
 その直後、オイフェミアの術が完成!!
──ブゥゥゥゥン
 彼女の姿がプラウンに輝く。
 その直後、オイフェミアの手からグラビティキャノンが打ち出される!!
──ドッゴォォォォォン
 それを真面に受け、エシュロンは壁に叩きつけられる。
「次行きますわ!!」
 さらにオイフェミアが印を組み韻を紡ぐ。
 その彼女を守るように、ティルコットがガードに入る。
 だが、エシュロンの炎の揺らめきは止まらなかった。
 そして炎の形が大きくなり、羽ばたく鳥の姿に変化する‥‥。
「気を付けろ!!」
 『炎の鳥』は翼をはためかせてフィルに飛び掛かる。
「させるかっ」
 素早く再度ステップを踏みギリギリでその体当たりを躱わすと、カウンターアタックをぶちかますフィル。
──ゴゥゥッ
 その一撃は直撃したが、フィルは体勢を崩してしまう。
 さらに『炎の鳥』は怒り狂うように飛び回る。
 壁や天井を焦がし、次はフォルテシモに襲いかかった。
 フォルテシモは、その一撃を除けきれないと判断、自らの肉体で受け止めた!!
 それは、デッドorアライブと呼ばれる技である。
「ぐっ、流石に熱いのう‥‥」
 チリチリと皮膚が焼き付く。
 さらに炎の鳥は、フォルテシモに次々と襲いかかる。
 焼け付く痛みが、フォルテシモの全身を襲う。
「動きが止まった‥‥今じゃ!!」
 そのフォルテシモの声に、平十郎が全身の筋肉を膨張させる。
「これ以上、好き勝手はさせません!!」
 スマッシュEXが炎の鳥を直撃!!
 炎の鳥は真っ二つに分かれた。
 そこに、とどめのグラビティキャノン‥‥。
 炎の精霊エシュロンは、静かに散っていった。
「‥‥急いで治療しないと‥‥にいちゃん大丈夫かにゅ?」
 慌ててパロムがフォルテシモに駆け寄る。
「ああ、大丈夫ぢゃ。直に良くなるわい」
 フォルテシモとフィルは懐からリカバーポーションを取り出すと、それを一気に飲み干した。
「さて、一休みしたら調査続行だぜ。前衛さんはそこで休んで、あとは俺達にまかせるじゃん」
 そのティルコットの言葉に、前衛達は甘えることにした。
 そしてティルコットは、まだ無事そうな財宝をバックに詰め込む。
 ミハイル教授は室内を調査、彼方此方に記されている古代文字を写し取っていた。
 チルニーはエックスレイビジョンを次々と発動させると、かくし扉を発見。
 そこから風を感じ取ると、一行はそのまま神殿を後にした。


●そしてパリ〜大成功、そして次の道標〜
──冒険者酒場
「かんぱーーい!!」
 無事に調査を終えた一行は、後の処理を研究員達に託して一旦パリへと戻ってきた。
 財宝は、ミハイル教授が商人のもとで換金し一行に分配、この追加報酬に、皆懐が少しだけホクホク。
 その報酬の一部で、今回の依頼の成功パーティーを行なっているようだが‥‥。
「‥‥」
 なにやらティルコットは元気が無い
「兄ちゃん、そんなに落ち込まないにゅ。誰しも、失敗はあるにゅ」
 最初の扉での失敗を、今でも気にしているティルコット。
「判ってはいるけれど、まだ納得行かないじゃん」
 そのままエールを飲み干す。
 と、オイフェミアが、教授から何かを受け取ると、それでティルコットを叩く。
──スパァァァァァァン 
 ちなみに得物はハリセンチョップ。
 教授が報酬で、とある商人の元から買って来たらしい。
「おまえの目は何処に付いているのよ‥‥ヒツク。いい、此処に目が有るのはねえ、前を向いて生きる為なんだからね‥‥後ろをいつまでも見ているんじゃないの‥‥ヒック」
 あ、オイフェミアさん酔っている模様。
「例えば‥‥もし怪我をした、次はその怪我をしないように注意深くなるでしょ? それと同じなのよ‥‥判る?」
 そのオイフェミアの言葉は、ティルコットの胸に届いたようである。
「という事で、ここの呑み代はティルコットの奢りに決定!! じゃんじゃん持ってきて〜」
「そ、それは無いじゃん‥‥とほほ‥‥」
 ティルコット、合掌

〜To be continue