ミハイルリポート〜奪われた写本〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月04日〜09月09日

リプレイ公開日:2004年09月06日

●オープニング

──事件の冒頭
 ミハイル教授の研究室は、いつも数名の研究員達で賑わっている。
 ミハイル教授は、新たなる遺跡発掘に出かけていたため留守であったが、資料の山、発掘してきたアーティファクトやガラクタの整理と、研究員達は色々と忙しい生活を送っていた。
 最近は新しい考古学者達もやってきて、ミハイル教授に師事し、様々な事を学んでいるようである。

 そんな中、ミハイル教授の第一アシスタントであるシャーリィ嬢(多分18歳)は、途方に暮れていた。
「‥‥足りない‥‥」
 写本を整理していた部屋に泥棒が入ったのである。
 大切な『魔法王国に関する写本』が、何者かによって盗まれてしまったようである。
「確かに鍵は掛けてあった筈ですのに‥‥あら、鍵壊されていますわ‥‥」
 そのまま何が盗まれたのか、一人で調べはじめるシャーリィ。 
 他の研究員が来ないうちに、他に何か盗まれていないか調べてみた。
 万が一ということも考え、現場はそのままで保存。
 細心の注意を払って調べてみる。
 が、魔法王国についての写本以外は盗まれてはいなかった。
「‥‥また石版から写し出し? いえいえ、それよりも写本が悪用されたら大変な事になりますわ‥‥」
 そしてシャーリィは困り果てた為、最後の手段を取ったのである。

──冒険者ギルド
「あら、シャーリィさん。今回は一緒について行ったのではないのですね?」
 受付嬢が静かにそう告げる。
「ええ。今回は危険なので同行しませんでした。それよりも、依頼御願いします」
 そしてシャーリィは、受付嬢に事情を説明した。
「ふぅん。判りました。正式な依頼として受付けさせていただきます」
 そう告げると、受付嬢は依頼書を作成して掲示板に張付けた。
「盗まれた写本を取り返してください‥‥これって、名探偵登場かしら?」

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea4290 マナ・クレメンテ(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4757 レイル・ステディア(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea5512 シルヴァリア・シュトラウス(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●まずはご挨拶〜しかし、凄い研究室です〜
──ミハイル研究室
 そこは小さな建物。
 一階には、雑多な資料とミハイル教授の書斎、アシスタントであるシャーリィ・テンプルの仕事場、そしてここにやってくる考古学者の卵達の作業室がある。
 其の日は、午後から研究員達が作業にやってくるので、それよりも早い時間に冒険者達は集まってきた。
「どうかよろしく御願いします。教授が戻ってくる前に無事に取り戻さないと、大変なことになってしまいますので」
 そう言いながら深々と頭を下げるシャーリィ。
「判りました。まずは細かい情報を調べさせていただきます。それと、資料の元になった石碑ですが、念のために、どこか他人の目に触れず、盗まれにくい場所に移してもらえますか? ただし、場所に関しては皆さんに教えておいて構いませんので」
「はい。石碑関係は作業場と教授の書斎に置いてありますので、1度別館の倉庫へ写しておきます」
 ゼルス・ウィンディ(ea1661)はそう告げると、まずは盗まれたという書斎へと移動。

──2階書庫・現場検証
 そこには風烈(ea1587)とゼルス、そしてシャーリィ女史の3名が立っていた。
 目の前には開かれた窓と壊された鍵。
 そして荒らされたままの本棚がある。
「ここが荒らされていたのは? 荒らされたと思われる時間に、不審な者がうろついていなかったか?」
 烈が、シャーリィに問い掛ける。
「冒険者ギルドに依頼に行った其の日ですね。不審者といっても、ここの研究室は、午後には通ってくる研究員達で溢れかえりますし、この書庫もその時間には開放されていますから‥‥」
 つまり、誰でもはいれると。
「さて、問題はこの鍵ですね」
 ゼルスがそう話しながら、窓の鍵をじっと見る。
「ああ。うまくカモフラージュして、外部から泥棒が忍び込んだように見せようとしたのだろうが、かなり慌ててていいたようだな」
 ゼルスの言葉に、烈も捕捉。
「どういう事ですか?」
 シャーリィが二人に問い掛ける。
「簡単な理由ですよ。この窓の鍵、外から壊すには、窓を破壊しなくてはなりません。このタイプの鍵はね」
 コンコンと鍵の部分を叩くゼルス。
「つまり、鍵は後から破壊。そして窓を開いて外部犯による反抗に見せかけようとした‥‥」
「だが、その犯人は、一つ致命的なミスを侵しています‥‥この本の荒れ方、泥棒が荒したにしては半端なのです。こう、必死に写本を捜して、ようやく見つかったからあとはカモフラージュ。そんな感じですね?」
 ゼルス、烈、君達冒険者引退して探偵になれば?
「ということは、ここに出入りしている研究員?」
 シャーリィの言葉に、ゼルスが鍵の近くに落ちている血の跡をなぞって静かに懐く。
「まあ、証拠も残っていますから、あとは誰かということを割り出すだけですね‥‥午後からは潜入調査と行きましょう」
「俺は冒険者として『泥棒捜し』にやってきたということで堂々とやらせてもらうか」

──一方、お外の聞き込み部隊
「ええ、この先に考古学者のロイ・バルディッシュさんの研究室は有りますよ。でも、ここ数日はずっと研究室から出てこないですわね」
「あら、昨日の夕方に、助手の子が買い物に出かけていましたわよ、奥様。私、偶然会いましたので」
「あっらぁ。噂をすれば、ほら、あの子が助手の子ですよ。でも可哀想にねぇ。ロイ先生じゃなくてミハイル教授の所で働いていれば、もっといい暮しができるのにねぇ‥‥」
 いやいや、奥様達の井戸端会議はものすごい。
 側で聞いているマナ・クレメンテ(ea4290)とシン・ウィンドフェザー(ea1819)の二人は、ミハイル教授のライバルであるらしい考古学者の研究室の近くにやってくると、そこで井戸端会議をしている奥様達の輪に潜入。
 色々と聞き込み調査をしていたのである。
「そういえば、そのミハイル教授の研究室に泥棒が入ったらしいですね。こちらのロイ先生の所は大丈夫でしょうか?」
 そのシンの言葉に、またしても奥様達の口が全開。
「あっらー。教授の所に泥棒ですかぁ。まあ、あの教授の所でしたら、色々な物が有りそうですからねぇ」
「ロイ先生なんて、あちこちの遺跡を巡っているらしいですけれど、どうも成果は今一つのようですからねぇ」
「そうそう。この間も、魔法王国がどうとか呟いていましたわよねぇ」
「あの先生は、なんか今ひとつなのよねぇ‥‥」
 一つの言葉から、次々と溢れる情報の山。
「そうそう、最近、この辺りでこんな人を見掛けませんでしたか?」
 マナはそう言いながら、一枚の羊皮紙を取り出した。
 それには、ミハイル研究室に出入りしている研究員達の似顔絵が書込まれている。
 シャーリィの元に挨拶にいったその日に、レイルに頼んで似顔絵を書いてもらっていたらしい。
 流石はレイル。簡単なスケッチなら任せておけといった感じて、サラサラと書き上げてくれた。
「そうねぇ‥‥あら、この方、この前この当たりで見掛けましたわね」
「そうそう。何か大切なものでも持っていたみたいですわ。こう、小脇に袋を抱えるようにして、回りをきょろきょろと見まわしながら、ロイ先生の研究室に向かっていきましたわ」
「あの方、以前はロイ先生のアシスタントでしょう? でも、貧乏が嫌でミハイル先生の元に行ったっていう噂を聞きましたわよ」
 いや、おばはん達、それ以上確信に触れんといて。頼むから。
 とまあ、二人がかりの情報収集、意外と効果はあった模様。

──一方、ロイ研究室では
(‥‥写本か。以前みせてもらった奴なら、この目で見たら直に判るな‥‥)
 レイル・ステディア(ea4757)は、途中まではマナとシンの二人と行動を共にしていた。
 ロイ研究室の近くでレイルは二人と別れ、件のロイ研究室に潜入捜査を開始していた。
「イギリスで、ここノルマンの古代遺産について纏めた本を出版するという話があがっていまして。このノルマンでは、ロイ教授がそちらについての専門家であるという御噂を聞き、訪ねてきた次第です」
 普段は使わない丁寧な口調で、レイルがそう話しはじめる。
「おお、それはそれはご苦労様ですじゃ。ささ、ハーブティーは熱いうちに呑むとよいじゃろうて」
 ロイ・バルディッシュ。
 初老の考古学者らしく、落ちついた口調でそうレイルにハーブティーを進める。
「それでは‥‥」
 そのままハーブティーに口を付けるレイル。
 そして一口呑んでから、またロイ先生に話を振ってみようとした。
「ちょっと待っていなさい。まだ研究が終っていないが、簡単に説明する事は出来るからのう」
 そう言いながら、ロイ先生は近くのテーブルに置かれている一冊の本を手に取ると、それをパラパラとめくりはじめた。
(参った‥‥教授の写本だ‥‥)
 はい、レイルいきなりビンゴです。
 以前、冒険の依頼のときに馬車で見せてもらったミハイル教授の写本。
 文字とかは殆どシャーリィ女史のものであるが、今眼の前にあったそれはまさしくそのものである。
「そういえば、ミハイル教授の所から何か盗まれたみたいですが、教授が学生の実習用に用意した教材を盗んでいったと笑っていらっしゃいましたね‥‥」
 あえてそう話を振ってみるレイル。
 と、ロイはその写本をテーブルの上に戻すと、カツカツとレイルの元にもどって来た。
「ううーん。ちょっと大切な本が見当たらないようでのう。また後日、改めて来ていただけないか? その時には少しでも詳しい御話が出来るとは思うのでな」
 そう告げると、ロイ先生はレイルを研究室から締め出した。
「さて、証拠は確認したと。あとはそこまでの道筋だな」
 その通り。
 

●翌日〜取り立てて平穏な事件解決〜
──ミハイル研究室
「‥‥」
 新たに荒らされた書庫。
 その本棚をじっと見ながら、シルヴァリア・シュトラウス(ea5512)はメモと情況を照らし合わせる。
 先日の午後から、彼女とゼルスの二人は『新しい研究員』として潜入。
 あらかじめシルヴァリアが用意してきた『偽の写本』を本棚に隠しておくと、『魔法王国に関する新たな石版が見つかり、その写本が昨日ミハイル教授から届けられて書庫に収められたらしい』という噂をボソリと流していた。
 さらに、ゼルスに言われてシャーリィが石版を全て別館に移送したという事実が、その噂に拍車を掛けていたようである。
「昨日の調査で、私の話に反応していたのは2名。どちらも事件当日はここの研究室で石版の解析作業を行なっていた事から、いつでもここに入って写本を盗みだすことは出来たと‥‥」
 さて、シルヴァリアが頭脳フル回転モード。
「そして二人のうち一人は、右手に小さい傷。その大きさと形は、ここの鍵の金具に一致‥‥」
 ゼルスがさらに捕捉。
「そして今日、ここの写本が無くなっているという事実。二人のうち一人は本日は休みで朝から居ない。私が朝確認したときは『偽の写本』は存在していた‥‥」
「つまり、犯人は『彼』ですか」
 ゼルス&シルヴァリア、二人の意見がピタッと一致。
「あとは、レイルさん達から裏を聞いてみるだけですね」
 ゼルスがそう告げると、踵を返して書庫から外に出た。
 その後に続くように、シルヴァリアもまた外に出ると、あらかじめ打ち合わせてあった場所に移動。
 そしてそこでレイル達と合流すると、最後の打ち合わせを始めた‥‥。

──そして夜
 ゼルスが最後の罠を研究室で張ってみた。
「冒険者さん達によると、盗まれた例の資料、盗まれる丁度前日に、よくできた偽物とすり替えられていた可能性があるそうですよ」
 その話を『彼』の近くで別の研究員と話している。ちなみにこの別の研究員はシルヴァリア。
 既に話をあわせるように打ち合わせをしていたらしく、シルヴァリアもさらに会話を続けていた。
「ということは、もう一度石碑の写しを作りなおしておかないと。明日には、あの石碑は別の場所に持ち出すのですよね?」
「ええ。シャーリィさんがそう話していましたから。後でその作業を手伝ってください」
 そうして罠を仕掛ける二人。
 一行は最後の罠に『彼』が引っ掛かるよう、石版の隠してある別館倉庫に隠れる。
 そして夜が来るのをじっと待っていた。

──コツコツコツコツ
 深夜、何者かが歩く音が聞こえる。
 別館倉庫の中には二つの足音。
(二人? 別の協力者ですか)
 ゼルスが心の中でそう呟く。
 そして足音が止まると同時に、隠してあったランタンのシャッターを全開にする。
──パッ!!
「な、なんだ?」
「誰じゃ!! 誰かおるのか!!」
 声は『彼』とロイ先生の二つ。
「何だ? 誰だだと? ミハイル教授専属冒険家だが‥‥」
 スラリと件を引き抜くと、レイルが二人に向かって剣を構えた。
「来ると思いましたよ。あの噂を聞いた犯人がする事、それは盗んだ資料を本物と比べる事です。あなたがこの事件の犯人ですね。その手の資料が何よりの証拠です」
 ゼルスもそう叫ぶと、そのまま魔法の詠唱準備。当然脅しとしてであろう。
「素直に勘弁したらどうですか? 今なら罪は軽いですから」
 窓を開き、シルヴァリアが腕を組んだポーズでそう呟く。
 窓から差し込める月光が、彼女をより神秘に照らしだす。
 その窓の向うの屋根では、マナが弓に矢を番えてギリリと引いている。
 鏃には布を巻いてあるものの、当たると相当痛い。
 ロイ先生はその場に座り込み降参した模様。
 だが、もう一人の研究員は踵を返すと、そのまま入り口に駆け出した。
──バン!!
 扉を開いて外に飛び出す研究員。
 だが、そこには烈が待機していた。
──ゴキゴギゴキッ
 指を鳴らしながら、ニィッと笑いながら研究員に近寄る烈。
「どこに逃げようとしているんだぁ?」
 烈、今の君は悪役に見えるが気のせいか?
 まあ、研究室で仕事をしている研究員如きでは、常に危険と隣り合わせの生活をしている冒険者にかなうはずも無い。
 研究員もやむなく降参。


●そして〜後日談ではないけれど〜
──ミハイル研究室
 捕らえた研究員とロイ先生はそのまま騎士団に引き渡された。
 後日、ロイ先生の研究室も調査が行われることになった。
 一行は残った依頼期間、ミハイル研究室で石版の写しや解析などの作業を手伝っている。
「‥‥しかし、今回の件と云い、噂に聞いたロンギヌスの槍の件と云い…もしかしたら別の『何か』が動き出してでもいるのか? 杞憂だといいんだがね」 
 それはシン。
「ここの所、このような事件が発生しています。何か裏で動いているのかも知れません」
 ゼルスもそう呟きながら、石版の書写作業を続ける。
 ちなみにレイルと烈は倉庫の整理を担当、今頃は額に汗を書きながら大量の石版を並べ代えているのであろう。
「でも、盗んでまでこの写本を欲しているというのが、良くわかりませんわね」
 シルヴァリアは写本の解析手伝い。
「研究者なら、価値のある物は、自力で見つけなきゃ。横取りは本物じゃないのにねぇ?」
 マナは全員のアシスタントを担当。
 と、何かを思い出したかのようにマナがポケットから一つのペンダントを取り出した。
 それをシャーリィに手渡すと、マナはシャーリィに問い掛けた。
「そういえば、このペンダント。何か判りますか?」
 それは大捕り物があった其の日、研究室の近くに落ちていたものらしい。
 綺麗な装飾と、中央に『銀色の鷹』のレリーフ。
「取り敢えず預かっておきますね。何か判りましたら報告しますので」
 そのままマナはペンダントをシャーリィに手渡す。
 そして一行は、残りの期間を有意義に過ごしていったそうな。


〜Fin〜