鋼鉄の冒険者たち〜フロンティアライン〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:6 G 60 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月02日〜12月17日

リプレイ公開日:2004年12月08日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の朝。
 冒険者ギルド二階にあるギルドマスターの部屋で、一人の男が話をしていた。
「つまり、冒険者達を大量に雇いたいというのでしょうか?」
 ギルドマスターの声が室内に響く。
「ああ。我が領地の南西で、モンスターが大規模発生している。あいつらはやがて軍隊規模で襲ってきかねない。あの様な輩が集って、まるで軍隊の如き動きを見せているという事自体、自然ではないのだ。私は領地を守る義務がある。その為にも、奴等を全て排除しなくてはならない‥‥」
 冷静に、だが熱く語る依頼人。
「その‥‥規模も、敵の正体も全く不明の魔物の軍勢を相手に、冒険者を使うというのですか? 国を守る騎士団に、その事を進言すればよいのではないでしょうか?」
 ギルドマスターの言葉に、怒りが籠っている。
 話だけ聞くと、まるで冒険者達を捨て駒のように使いかねないという感覚が、ギルドマスターの心の中で渦巻いていた。
「正体不明の魔物、それも規模すらはっきりしないものに騎士団は動かんよ。それに、これは私の個人的な情報網が得た事だが‥‥」
 そう告げると、依頼人はギルドマスターの耳元に何かを告げた。
 と、その言葉に驚きの色を隠せないギルドマスター。
「た、確かに、それが事実でしたら、騎士団への依頼は出来ません‥‥ですが、それは事実なのでしょうか?」
 その言葉に依頼人はゆっくりと頭を楯に振る。
「一つ言っておきたい。私は冒険者を捨て駒として扱うつもりは無い。むしろ、その戦闘技術は騎士団のそれよりも遥かに凌駕している部分があると考えている‥‥どうかな? 今の2倍、今まで通りに補助金は出そう。当然冒険者達には今回の依頼に付いての詳細は説明する。しばらくは私の元で、軍隊規模の活動を・・・・つまり傭兵ということになるがな‥‥」
 その言葉に、しばし頭を抱えたギルドマスター。
「その戦い‥‥生還率はどれぐらいでしょうか?」
「ベテラン冒険者で20%。駆け出しのひよっこは生きて帰れないだろう‥‥今回の依頼では、冒険者の元に私の領地の自警団団員から10名を部下として付けさせていただく。実戦で経験をつけさせるのも必要だからな」
 そして依頼人は静かに席を立つ。

 翌日、掲示板に魔物討伐についての依頼が張付けられた。

●今回の参加者

 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2597 カーツ・ザドペック(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3770 ララ・ガルボ(31歳・♀・ナイト・シフール・ノルマン王国)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4739 レティシア・ヴェリルレット(29歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●12月4日〜記録者・ゼルス・ウィンディ
 パリを出てからの道中は、特に何も変わったことのない静かな時間が過ぎていました。
 移動中、私達はこれからの作戦について念入りに打ちあわせを行ない、依頼を無事に完遂し生還する事を誓いあったのです。
 そして無事に依頼主の待つ領地に到着し、そこで自警団の皆さんと合流することになったのですが‥‥。

──自警団前
「えーーーーっ。同行する自警団ってこの子たちディスか?」
 自警団前に集っていた子供達を見て、クリシュナ・パラハ(ea1850)がそう叫ぶ。
 まだ年端もいかない子供達。
 最年長でも、おそらくは16歳ぐらいの子供が、レザーアーマーやショートソードを身につけて其の場にいた。
 皆、生気の無い暗い表情をしているのは、気のせいではないだろう‥‥。
「ええ。子供といっても自警団のメンバー。戦闘訓練などは既に終り、あとは実戦を積むだけですから」
 依頼人である『グレイファントム卿』が口許に笑みを浮かべつつそう告げる。
「今回の依頼、詳細については触れられていなかったが、少なくとも手練れの冒険者でなくては努まらないように書かれていたはずだ。にも関らず、こんな子供達を同行させるとは‥‥いくら実戦経験が必要だからとはいえ、これでは子供達を殺すようなものではないか!!」
 今回の依頼の為に編成された部隊『ワイルドギース』の隊長であるカーツ・ザドペック(ea2597)がグレイファントム卿にそう食って掛かる。
「その子供達に実戦経験を積ませ、無事に生還させる事も今回の依頼の内容の一つ。君がリーダーというのであれば、それを成し遂げて見たまえ」
 その言葉に、カーツはグッと拳を握る。
 こんなに鼻持ちならない奴の依頼など受けるべきではなかった‥‥。
 それも、危険『しか』存在しない『生還する為』の依頼など。
 その気持ちを察してか、後ろから氷雨絃也(ea4481)がカーツの肩をトンと叩く。
 振り向いたカーツは、氷雨の目もまた穏やかではないことに気が付いた。
「判っている‥‥ちょっと血が昇っただけだ。依頼を受けた以上は、依頼は完遂させて貰う‥‥」
 カーツはそう自分に言い聞かせるように告げると、そのまま自警団の連中を連れて現地へと向かう準備を開始した。
「私達はあくまでも一介の冒険者に過ぎませんし、話せない事情があるなら詳しくは聞きません。ですが、あなたが知っている事があるなら、どうか教えてはいただけないでしょうか」
 領地を離れる前に、ゼルス・ウィンディ(ea1661)がそうグレイファントム卿に問い掛けた。
「話せない事情は特にない。私が知っている情報など、微々たるものに過ぎず。君達が必要としている情報とは方向性も違う。それだけだ」
 そう軽くあしらわれ、ゼルスもまた領地をとっとと離れる事にした。


●12月7日〜記録者・アマツ・オオトリ
 依頼人の指定した場所に到着したのは正午すぎ。
 なだらかな丘陵が周囲に広がる場所。
 そして丘陵の奥地、距離にして直線で2km程先には、深い森が広がっている。
 その位置、森と丘陵の境目が、私達と魔物との境界線となる。
 依頼内容は、その境界線を越えてきた魔物の駆逐。人の住まう地へと進軍してくる敵勢力の解明と、やらなくてはならない事が山のようにある。
 そんな中、まずは自分達の拠点となるベースキャンプを設置する事となったのだが‥‥。

──ベースキャンプ
「とりあえず身を守る為と、自分達の身体を休める場所としてのベースは必要だな」
 グラン・バク(ea5229)が自警団の少年少女に指示を飛ばしつつ、ベースキャンプを作成中。
 と、先日領地から出るときは暗い表情をしていた子供達も、この場所に到着してからは明るい表情でてきぱきと行動しているのに気がつく。
「この前は死にそうな表情だったのに、今日はずいぶんと元気そうじゃん。何あったのか?」
そう問いかけるのはレティシア・ヴェリルレット(ea4739)。
 と、少年達の中でも最年長の子が、周囲を気にしながら静かに口を開いた。
「ここは親の目を気にする必要がないので‥‥肩身が狭い思いはしたくないですから‥‥」
 その言葉の意味が判ったのは其の日の夜。
 ここに派遣されてきた子供達は、皆領民の家の『次男次女』達。
 家を継ぐ必要もなく、このような辺境の地ではよい仕事に就けることもない。
 家の手伝い程度しか出来ない子供達は、常に冷遇され、自然と戦ったり身体を使うことの多い自警団に配属されてしまうらしい。
 それでも、領地では年上の自警団達が幅を聞かせている為、子供達は雑用程度しか仕事を貰えず、やはり冷遇される毎日であったらしい。
 今回の依頼に同行することで、子供達は別途賃金が支払われる。
 だが子供達は気付いてはいないであろう。
 その賃金すら、子供達の両親が搾取し、自分達の手元には届かないことを。
「そうなんだ‥‥じゃあ、頑張らないといけませんね!!」
 クリシュナはその事に直ぐ気が付いたが、それを告げることが出来ず励ますことしか出来なかった。

●12月8日〜記録者・ララ・ガルボ
 午前中は偵察任務により森の手前まで接近しました。
 森の奥は思ったよりも深く、さらに木陰などから逆にこちらの様子を伺っているオーガらしき影を数体確認。ですが、それ以上は彼等のテリトリー。
 初日偵察任務としてはそれ以上の事はせず、ベースキャンプに1度戻って、確認できた敵のタイプや数の報告、それらに対処する為の作戦を考えることにしたのですが‥‥。

──ベースキャンプ
「昼間の偵察により確認できたのはゴブリン、コボルト、オーク、オーガ‥‥思ったよりも雑魚程度かと思ったのですけれど‥‥」
 ララ・ガルボ(ea3770)が上空偵察により得られた情報を一つ一つ丁寧に報告する。
 簡易テーブルには羊皮紙を広げ、それに方角や地形、その場所で確認できたモンスターの数などを正確に書込んでいく。 
 他に同行した仲間たちも、その羊皮紙に捕捉を加え、敵の配置見取り図を作り上げたのだが。
「敵襲!!」 
 テントの外でアマツ・オオトリ(ea1842)が叫ぶ。
 その声で外に飛び出す一行。
 と、丘陵下の森から、コボルトが大勢姿を見せる。
 その数、実に30以上。
「自警団は後ろに!!」
「魔法援護はいります!! 楯よろ〜」
 グランがそう叫びつつ前方に飛び出す、そして背後ではクリシュナが叫びながら魔法詠唱開始。
──ドッゴォォォォォン
 グランの先制攻撃が大地を吹き飛ばす。
 振りおろした剣戟は衝撃波となり、前方から突進してくるコボルト達を一気に薙ぎ飛ばす!!
 ロングソードボンバーと呼ばれる大技である。
 それと同時に、アマツ、カーツ、氷雨も武器を手に飛び出した。
「森林奥から更に敵勢確認!!」
 クリシュナのインフラビジョンが、森林奥から接近する敵を捉える。
──ゴゥゥゥゥッ
 ゼルスが必殺のトルネードを完成させる。
 突撃してきたコボルトの一部を空中に巻き上げる。
 そしてそれが落下してたくると、再び次の詠唱に入る。
──シュシュシユシュシュッ!!
 と、森の奥からいきなり矢が雨の如く飛来する!!
「危ないっ!!」
 自警団はそれぞれが身を躱わすための物に隠れたり、詠唱中のゼルスの前に出て楯を構えるなど、自分で身を守る術を持っていた。
 当然ながら、カーツ達はそんな矢など掻い潜り、一気に森の境界線まで走りこむと、さらに奥からやってきた『矢を番えたコボルト』を一気に叩く。
「ショートボウ装備だと?」
 すかさず近接に飛込むと、そのままコボルトを一発で両断するカーツ。
「只のコボルトではない。こいつら、かなり訓練されている!!」
 アマツもすばやく手にした日本刀でコボルト達を薙ぎ払う。
 やがてコボルト達も森の奥へと撤収し、一行もまたベースへと戻っていく。
「自警団の状況は?」
 カーツが残っている自警団にそう声を掛ける。
「3人が矢を受けましたが、かすり傷程度です。すぐに傷の手当をしたので大丈夫です」
 自警団のリーダーがそう報告する。
 どうやら傷の応急処置は出来るらしく、カーツもその状態確認してから、見張りを立てて休息を取ることにした。


●12月9日〜記録者・氷雨絃也
 早朝から今度はオークの襲撃だ。
 まったく、身体を休める暇もないというのは、まさにこの事だな。
 まあ、今回の襲撃はたいした規模では無かったものの、こちらが行動するより早く敵の方が動く。
 斥候を送るにせよ、敵の規模を調査するにせよ、境界線奥から湧いてでる魔物たちをどうにかしなくては問題があると言うことか。
 そして一つ、まったく予想外の事件が起こった。

──ベースキャンプ
 テントの中で、二人の少女が横になっている。
 唸り声を上げ、必死に激痛に耐えているようだ。
「‥‥コボルトの毒ですね。まさか矢にまで塗ってあったとは計算外です‥‥」
 クリシュナが傷口を見ながらそう呟く。
「幸い、解毒剤が一本だけある。クリシュナ、傷の酷い子に飲ませて上げてくれ‥‥」
 カーツがそう告げながら解毒剤を手渡す。
 それをクリシュナは腕の怪我の酷い子に飲ませる。
 が、問題はもう一人の子である。
「駄目だ!! 昨日潰したコボルトを調べてみたけれど、誰も解毒剤なんて持っちゃいない!!」
「毒の種類は鉱物毒のようですから、簡単に解毒剤を調合ということもできませんし‥‥」
 レティシアとゼルスが外から戻って来ると、クリシュナ達にそう告げる。
「動かせるのなら、1度領地まで送り届けた方がいいのだが‥‥」
 当初の予定通り、負傷者は後方へと送ろうとするカーツであるが。
「今動かすのは危険です。それこそ毒が全身に回ってしまいます!! 熱をとり、栄養を付けて‥‥傷口を消毒するしか、今は方法が‥‥」
 そのクリシュナの言葉を、今は信じるしかなかった‥‥。

●12月10日〜記録者・グラン・バク
 静かな一日だった。
 敵襲などなく、只、我々は周囲の警戒に時間を取られてしまった。
 斥候と偵察は常時境界線を越え、周囲の地形や魔物の痕跡を調べている。
 それでも、其の日は『魔物による襲撃』は無かった。
 只、ベースキャンプは最悪な事態になっていた‥‥。

──テントの中
「舌を噛む危険があります。何か口に!!」
 少女の右足の傷が悪化した。
 毒素がかなり回り、この短時間で少女の脚はもう使い物にならなくなっている。
 予想外にきついコボルトの毒。
 このままでは、命の危険すらあると判断したカーツが選んだ苦汁の選択、それは‥‥。
──ドシュッ!!
 ビクッとその衝撃に身を反らす少女。
「ヴーーーーッヴヴヴヴヴーーーッ」
 テント内部には鮮血が飛び散り、少女の身体を押さえているグランと氷雨の顔にまで血飛沫が飛び散る。
「死にたくなければ、今はこれしかない‥‥済まない‥‥」
 傷口より上部を切断。
 傷は焼いた剣により消毒と止血。痛みに気絶した少女には、クリシュナが口移しでポーションを飲ませる。
 少女の右足は使い物にならなくなり、冒険者達の手によって切断された‥‥。
 その光景は、自警団の子供達には見せられない。
 皆、テントから離れた場所で周辺の警護を担当していた‥‥。
 

●12月11日〜記録者・レティシア・ヴェリルレット
 この地での待機は今日まで。
 明日にはこの地を離れ、途中までこちらに向かっていると思われる『戦える領民』達が、このベースキャンプへとやって来る手筈になっている。
 右足を切断した少女『マリス』は、足を失ったショックにより、じっとテントの奥で眠っている。
 他の自警団員達も、いつ自分達が同じ様な状態になるかという不安で一杯のようだ。
 さらに最悪な事に、夕方の襲撃では‥‥

──森林境界線
「自警団はベースキャンプへ下がれ!!」
 叫びながら前方の巨大な魔物に剣を振るうのはカーツ。
 突然の敵襲は、オークやコボルトといった生易しいものではなかった。
 身長約3m。
 褐色の皮膚に凶悪な二本角の魔物。
 それが何者なのかは判らない。
 だが、グランの剣戟すらいとも簡単に止める程の実力を持つそれは、誰が見ても『危険な存在』でしかない。
 それに追従するように、オーガの軍勢も加わったから、状況は最悪の一言でしかない。
 雑魚はゼルスのウィンドスラッシュとクリシュナのファイアーバードによりどうにか数を減すことが出来たが、それでも数が多すぎる。
 一体どれほどの魔物が、あの森の奥に潜んでいるのであろうか‥‥。
 戦場には、大量の空ポーション壷や折れた矢、冒険者達の血や壊れかかった鎧などが散乱している。
 手持ちのポーションの殆どを、この戦いで消費してしまったようである‥‥。
「前衛突破!! 後方支援を、自警団は兎に角逃げろ!!」
 アマツのその悲鳴にも取れる叫びが戦場にこだまするが‥‥。
 聞こえてくるのは子供達の悲鳴‥‥。


●12月14日〜記録者・氷雨絃也
 駄目だ。
 戦力が圧倒的に足りない。
 それに加え、こちらの戦力は俺達冒険者と戦闘訓練を『受けたことのある』子供達だけ。
 最終日のあの戦い、犠牲者が3名ですんだのが幸いという所なのか?

──領主の舘
「報告ご苦労さまです。それでは一旦パリに戻り、補給を受けてください。次の依頼については冒険者ギルドに掲示しておきますので」
 事務的にそう告げるグレイファントム卿。
「それだけか? あの戦い、この依頼、あまりにも多くの血が流れた。まだ年端もいかない子供達がその命を散らしていったのに、ただそれだけの事なのか」
 カーツが拳を振るわせつつそう呟く。
「ええ。貴方たちにとっては依頼の最中に、そして子供達は自ら望んで戦地に趣き、事故で死亡した‥‥遺族の方には私から報告しておきましょう。今回の依頼、ご苦労様でした。これは私からの特別報酬です‥‥」
 そう告げて、領主は執事に小さな小袋を持ってこさせると、それを冒険者達に手渡した。
 追加報酬は4G。
 今回の戦いで『戦えなくなった子供一人につき1G』というところか?

 そのまま冒険者達は、パリへと帰還する。
 嫌な空気だ。
 こんな嫌な依頼は久しぶりだ‥‥。

〜To be continue