●リプレイ本文
●1月17日〜記録者・クリシュナ・パラハ
パリを出てからの道中は、特になにも変わったことのない静かな時間が過ぎていました。
パリを出発して3日。
途中で依頼人であるグレイファントム卿の領地へと向かうと、私達は自警団の子供達と合流。
私は、前回の依頼で片足を失った少女の元へ手製の杖をプレゼントにいったのですが。
──小さな墓
「皆さんと帰ってから数日後、事故に遭いまして・・・・」
静かにすすり泣く母親。
そして彼女達の前には、『あの少女』の眠る小さな墓があった。
「そんな・・・・」
クリシュナ・パラハ(ea1850)が口許を押さえつつ、其の場にしゃがみこむ。
「その、なんと申してよいか・・・・」
リーダーであるカーツ・ザドペック(ea2597)が、母親に静かに頭を下げてそう告げた。
「あの時の怪我が原因ではないのですから、貴方が気に病むことはありません。頭を上げてください」
母親のその言葉に、カーツは再度申し訳ないと告げる。
杖を付いて歩く為の練習をしていた少女の元に、暴れ馬が走りこんでいったというのである。
クレリックの治療の甲斐も無く、少女は死亡。
馬の持主は罪に問われることを恐れてそのまま何処かに逃げてしまった為、この事件はそのまま事故として処理されてしまったのである。
●1月20日〜記録者・ゼルス・ウィンディ
砦に到着した私達を待っていたのは、砦構築の為の大勢の作業員と『グレイファントム卿』でした。
既に土台の構築は終了し、モンスターの襲撃に備える為の正面の石壁部分の構築が始まったようです。
私達も自分達で買いこんできた補給物資を提供し、それらを簡易倉庫に納めると、早速仕事を開始しました。
「皆さんにお聞きします。今から皆さんに待っているのは、ただただ辛いだけの戦いの日々です。それでもなお、皆さんは生きたいですか?」
砦に到着したゼルス・ウィンディ(ea1661)は、まず最初に自警団の子供達に対してそう問い掛けた。
生きるという大切な事を改めて再認識し、それを活力として訓練期間を無事に終了して欲しいと思ったからであろう。
そして子供達からは、はっきりと『生き延びたい』という言葉が返って来た。
「なら、今から私が言う言葉をけっして忘れないで下さい。‥‥生きるという事は、戦うという事です。どんなに痛くて、恐くて、悲しくても、目の現実から逃げてはいけません。‥‥たとえ辛い現実でも、目を開いていれば、いつかは光も見えます。けれど、目を閉じれば、そこには闇しかないのですから‥‥」
その言葉の一つ一つが、子供達の心に深く染み込んでいったらしい。
グレイファントム領での生活が、子供達に『ただ生きているだけ』という感覚を知らず知らずのうちに染み込ませてしまったのであろう。
今、子供達は『生きる為に戦う』という事を、改めて自覚したようである。
「・・・・石壁の部分の耐久度を上げるのに、もう少し厚みを持った方がいいですわね。待機小屋の方は問題は無いですけれど・・・・」
現場監督と図面を突き合わせて打ち合わせをしているのはクリシュナ。
持てる知識をフル動員しての作業となった。
基本となる砦構築は現場の地図とそう差のなかったものの、左右の守りについてはまだまだであった為、急遽クリシュナの指示で木の柵を重ねた防御壁を作ることが決定。
物見やぐらの構築も進み、以前よりも敵の襲撃にいち早く気付けるような体勢も整えることとなった。
「では、急ぎ足りない材料を領地から送ってもらうこととしましょう。シフール郵便の準備をしておきます」
「お願いします。私のほうでも、随時細かい部分のチェックをしてみますので」
そんな打ち合わせのさ中、後方のベースキャンプでは領地へと戻る準備をしていたグレイファントム卿とイルダーナフ・ビューコック(ea3579)がこっそりと何やら話し合いをしている。
「特に問題ないが、そうだな葬式代はサービスとはいかないな、別途支給で頼む」
お互い腹を割って話をしようと画策しているイルダーナフが、そうグレイファントム卿に話し掛けている。
「万が一、自警団の団員に死者が出た場合はお願いします。ですが、そうならないように訓練して頂くのが今回の依頼の目的の一つですので・・・・一つよろしくお願いします」
口許に笑みを浮かべつつ、グレイファントム卿がそう呟く。
(なかなか喰えねえ親父だな・・・・)
イルダーナフはそう思いつつも、領主との話し合いを終え、皆のもとへと戻っていく。
そしてグレイファントム卿もまた、自分の領地へと戻っていった。
●1月21日〜記録者・氷雨絃也
取り合えずは自警団員達と作業員との顔合わせも無事に終了。訓練は午前と午後のチーム単位で行うことになった。
俺の提案した、味方の班別用のマーキングも配りおえ、それぞれが訓練を開始した。
しかし・・・・自警団のメンバーは今回も子供達ばかりで構成されている。
この件については、砦構築を行なっている大人達はなにも言わない。
それが、あの領地でのやり方なのだろうが、何処と無く嫌な空気を感じるな・・・・。
「大切なのは基礎です。まずはそれを覚えてもらわなくてはなりません」
アマツ・オオトリ(ea1842)が自警団員全員に基礎訓練を行う。
自警団員は全部で10名。
アマツと氷雨絃也(ea4481)の持ってきたライトシールドとカーツの持ってきたミドルシールドが配布される。
あまった楯はそのまま砦の倉庫に収納、万が一の時にはいつでも使えるようにした。
それでまず、楯を基本とした身の守り方、そしてそれを駆使した戦い方をじっくりと叩き込むようである。
「まずは楯の構え方から始めましょう!!」
瞳を輝かせつつ、戦いの基本を身につけていこうと必死な子供達。
戦闘のエキスパートであるアマツに出来ることは、まだまだあるようである・・・・。
午後からはチーム編成。
2人〜3名のチーム編成が行われ、それぞれが担当冒険者によって細かい訓練を行なっている。
──ブゥン!!
カーツの振ったクレイモアの切っ先が目前を通りすぎる。
「うわ!!」
子供達に胆力を付ける為、カーツは子供達の目前でクレイモアを振っただけである。
だが、それだけで子供達は及び腰になり、其の場にへたりこむ。
「なんだなんだぁ? そんなことでは実戦では腰が引けて戦えなくなるぞ!!」
「大丈夫です!! もう一度お願いします!!」
子供達のやる気が伝わってくる。
だが、それだけでカーツは満足しない。
全てをものにするまでは、カーツは脚を止めることは無かった。
それが、子供達に生きる力を付けさせる為だから。
──周辺警戒
「これが魔物の足跡だ。人間のものとは少し違うのが判るか?」
氷雨は自分の担当する子供達と共に、周辺の調査を行なっている。
まず氷雨が単独で森のぎりぎりまで近づき、安全を確認したら子供達を呼ぶ。
そして周辺に残っている魔物たちの痕跡を一つ一つ説明し、それぞれの対処方法を説明している。
「これは何ですか?」
「大きさから察するに、コボルトかゴブリンだな。後者の場合、武器に毒が塗られている場合がある。以前、ここを襲撃してきたコボルトを覚えているだろう?」
その氷雨の言葉に静かに肯く子供達。
「大抵のコボルトは、自分達が毒によって侵されないように解毒剤を持っている。が、それが当然という訳ではない。この前の戦いで、それは判って居る筈だ」
過去に自分の体験した事も交え、一つ一つ丁寧に教えこむ氷雨。
そして翌日からは、さらに実戦さながらでの稽古も始まった模様。
全ては、生きる力を身につけさせる為・・・・。
●1月22日〜記録者・グラン・バク
戦闘訓練も無事に順調だ。
砦のほうもクリシュナと現場監督の指示により、思ったよりも完成は早いらしい。
すでに正面の石垣部分、左右と後方の防護柵は完成までこぎつけた。
あとは内部の細かな部分の調整というところだろう。
やぐらからは魔物の徘徊する森が良く見える。
今のところ、特に魔物が姿を見せるといったことはないよだが、いずれにしてももっと注意が必要だな・・・・。
「リカバー!!」
グラン・バク(ea5229)の担当したのは救護班と伝令係の子供達。
簡単な応急手当の方法や、伝令の手段、遠くを見渡して逸早く敵を察知する為の方法などを伝授していた。
そのさ中、一人の自警団員が見せた技。
敬謙なるセーラの御子。
傷を癒す技、リカバーを完成させていた。
「ほう。たいしたものだな・・・・」
満足そうな表情のグラン。
「これで、怪我をした友達を助けられますよね?」
そう問い掛ける子供に対して、グランは頭を左右にふる。
「まだまだだな。お前の使えるリカバーは、まだほんの触り程度だ。どれ・・・・」
ナイフを引き抜くと、グランは痛みを堪えて自分の腕を切り付ける。
鮮血が吹き出し、大量の血が大地に注がれる。
「塞いでみろ!!」
まさか、いきなり目の前でそんなことが起こるとは思っていなかったのであろう。
印を組む指が震え、詠唱もたどたどしい。
「じっと傷を見ろ。血に脅えるな。魔法を詠唱するのなら、どんなことにも動じない心が必要になる。技に溺れるな・・・・いいな」
そのグランの言葉に、なんとか落ち着きを取り戻すと、再び詠唱開始。
「リカバー!!」
やがて傷がゆっくりと・・・・閉じない?
「ふぅん。また随分とスパルタやってるなぁ・・・・リカバー!!」
イルダーナフがやってきてそう告げると、瞬時にグランの傷を塞ぐ。
「凄い・・・・」
自分よりも高位のクレリック。
その奇跡の技を目の当たりにして、キラキラと瞳を輝かせる子供。
「あー、なんだ? お前もリカバー使うなら、これぐらいになるまで頑張れや」
「どうしたら、使えますか?」
その問いに、イルダーナフはキッパリと一言。
「セーラ神の加護のもと、もっと精進することだ」
ごもっとも。
●1月23日〜記録者・ララ・ガルボ
ここ数日、魔物の動きが見られないと思ったら、今日は一転して大軍勢による襲撃。
幸いなことに、自警団員達は楯で身を守りつつ後方にて防御姿勢、前衛は私達冒険者が切り込み事なきを得た。
だが、砦があるとないとでは、これほどまでに戦いが違うものだと、改めて痛感する。
「敵襲!! 前方ゴブリン87、コボルト8、オーク12・・・・それと」
砦上空で見張りを行なっていたララ・ガルボ(ea3770)が叫んだのは正午の事である。
次々と敵タイプを看破し、的確な数を上げてくララだが、その背後から現われた巨人に絶句する。
「オーグラが1!! 自警団は後方へ!!」
その名前を聞いた瞬間、全員に緊張が走る。
この砦の冒険者の中でも、トップクラスの技術を持っているのはグランである。
オーグラは、そのグランと全くといってよいほど互角に戦う。
下手をすると、グランですら打ち負かされてしまうのである。
「後方援護行きます!!」
ゼルスが高速詠唱開始。
敵前衛のど真ん中にトルネードを発生させ、進行を阻害する。
それを逃れてもなお、丘を昇ってくるオークの一団があったが。
──ゴゥゥゥゥゥッ
灼熱に燃え盛る炎の鳥が、オークの一団を蹴散らしていく。
次々と燃え上がるオーク。
そしてゆっくりと砦前方に舞い降りると、その中からクリシュナの姿が現われる。
「迂闊に近寄らないほうがいいわよ。雑魚は引き受けます、あのオーグラをお願いします!!」
クリシュナの言葉の直後、冒険者一行は真っ直ぐにオーグラへと走り出す。
ゼルスとクリシュナの二人が魔法を使っているさ中、ララは仲間たちに次々とオーラエリベイションを発動。それを受けて冒険者達は走り出した!!
●1月24日〜記録者・イルダーナフ・ビューコック
死人が出なかったのがなによりだな。
今回、自警団員達に行った訓練は全く無駄ではない。
魔法攻撃を掻い潜って砦側面にたどり着くゴブリンはいたものの、自警団員達によって無事に撃破。これで奴等も多少は自信がついたというところであろう。
それにしても。
統率の取れた魔物の軍勢というのが、あれほどまでに脅威とは思わなかったな。
ああ、今日は特になにもなし。
皆訓練と砦の仕上げに頑張っているようだからな。
●1月25日〜記録者・アマツ・オオトリ
この地に残る最後の日。
無事に砦も完成の目処がつき、あとは内部の仕上げを残すのみとなりました。
昼にはグレイファントム卿がやって来て、領地の自警団(大人達)が交代要因としてここに留まることになります。
子供達は、私達と1度パリに戻ってから、ノルマン江戸村の冒険者訓練所で一週間の間、専門知識を身につけることとなったようです。
砦が出来て、ある程度の安全が保障されたので大人達の出番となった感じが否めません。
それでも、子供達にはまだまだ訓練期間が必要です。
今回はたった1度ではあったものの、大規模襲撃を目の当たりにして、子供達はどう思ったのでしょうか・・・・。
「おお、今回は皆さんご無事のようで何よりです。これは特別報酬です」
グレイファントム卿が大袈裟な手振りをシつつ、一行にそう告げる。
そして金貨の詰まった袋をリーダーであるカーツに手渡す。
(今回は誰も死んでいないのに、随分と景気がいいなぁ・・・・なにを 企んでいる?)
イルダーナフがいぶかしげな表情で領主をジッと見る。
と、領主もその視線に気が付いたのか、イルダーナフに向かって静かに口を開く。
「流石は高名なクレリックですな。セーラの御子としての実力というところでしょうか? 次回もよろしくお願いします!!」
その言葉に、一行は静かに肯くだけであった。
こうも簡単に、しかも『裏』もなく依頼を終えたのが妙な気分だったのであろう。
そして一行は静かに砦を離れ、子供達とともにパリへと向かっていった。
〜To be continue