【鋼鉄の冒険者】 グレイファントムへ。

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 58 C

参加人数:9人

サポート参加人数:6人

冒険期間:07月20日〜07月30日

リプレイ公開日:2005年07月27日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の朝。
 いつもの冒険者ギルドでは、一人の女性が受付嬢と話をしていた。
「・・・・えーーっと、つまり、ヴォルフ領に隠れている前領主『グレイファントム卿』を探し出し、捕えるということですか?」
「ええ。こちらのデータでは、今回の元グレイファントム領で起こった出来事に対して、手を打つ必要があります。とはいえ、私どもの騎士団は他の方面にて作戦を開始、今回はグレイファントムの捕獲を冒険者に一任したいのですが‥‥」
 そう告げているのは、ノルマン王国査察官のニライ・カナイ。
「なるほどー。つまり、『いままで散々煮え湯を飲まされてきたのだから、ここらで冒険者に鬱憤をはらさせる』という事ですね‥‥」
 あっけらかーんと告げる新人受付嬢のエムイ・ウィンズ。
「ふっふっふーーーーっ」
──ギューーーーーッ
 ニコニコしながら、ニライはエムイの両頬をつねって引っ張った。
「相変わらず、貴方は私が嫌いですか? まあいいでしょう。今回の一件、元々ギルドマスターとは打ち合わせしていた事柄の一つです。ということで、宜しくお願いします‥‥と」
 頬を撫でつつ依頼書を作成しているエムイにそう告げると、バックから依頼金を出してどさりと置く。
「あ、そうそう。捕捉を付け加えてください。『食事は全て支給しますが、どうしても体力が必要となりますので、『野鴨』を捕まえてきてください』とね」
「はいはい。えーっと、チーム・ワイルドギースをご指‥‥イヒャイ」
──ギューーーーッ
「余計なことは言わないで結構。それでは‥‥」
 そう告げると、ニライ査察官はそのままギルドを後にした。


●そして
 依頼を受けた一行は、ニライ査察官の元に呼び出しを受ける。
 そこで、今回のターゲットであるグレイファントムの隠れ家周辺地図を受け取り、大まかな戦力を聞くことが出来た。
「隠れているのは小さな村。周囲は森に囲まれ、道は一本のみ。敵戦力としては、どこぞのお間抜けな『自警団長』を筆頭とした護衛が20名ほど。但し、シルバーホークの息はまったく掛かっていないし、なにより彼等は悪事を働いていたという自覚を持っていません。ですから殺さない程度に宜しくお願いします‥‥」

●今回の参加者

 ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea2597 カーツ・ザドペック(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3579 イルダーナフ・ビューコック(46歳・♂・僧侶・エルフ・イギリス王国)
 ea3770 ララ・ガルボ(31歳・♀・ナイト・シフール・ノルマン王国)
 ea4481 氷雨 絃也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4739 レティシア・ヴェリルレット(29歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea4792 アリス・コルレオーネ(34歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

レイ・コルレオーネ(ea4442)/ サフィア・ラトグリフ(ea4600)/ ユージィン・ヴァルクロイツ(ea4939)/ ルミリア・ザナックス(ea5298)/ サラ・フォーク(ea5391)/ フィーナ・ライト(ea8017

●リプレイ本文

●すべてはこの日の為に〜神に問い掛ける〜
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
「ただ今大司教さまがいらっしゃいます。それまでお待ちください」
 ペコリと頭を下げているのはシスター・エムロード。
 以前のような暗い雰囲気はない。
「元気そうでなによりですね?」
 そうニコリと笑みを浮かべつつ告げるヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)。
「はい。もしパリに戻られるのでしたら、。スターリナおねーちゃんやノリア・カサンドラ(ea1558)おねーちゃんに『エムロードは元気に頑張っています』って伝えてくれますか?」
「ああ。多分酒場にいるだろうから、伝えておくよ‥‥」
 そんな他愛のない会話をしているうちに、大司教である聖ヨハンがヴァレスの元にやってくる。
「ご無沙汰しています大司教様、エムロードの時はお世話になりました。」
「いえいえ。神は、救いを求めるものには救いの手を差し伸べます‥‥。本日はどの様なご用件でしょうか?」
「実は、旧グレイファントム領の領主であるグレイファントム卿のことで、何か知っていることがありましたら教えて頂きたいのですが‥‥」
 そう問い掛けるヴァレス。
「かの貴族は以前、悪魔崇拝を行い、かなりの罪無き子供達をその生贄にささげていたと、ここを訪れた騎士の方が教えてくれました‥‥」
 頭を振りつつ、そう告げる大司教。
「彼は、神に背いたのです。悪魔を信仰し、その力を得ようとするなど‥‥例えセーラ神が『慈悲の神』であっても、自らに背を向けたものには、其の手を差し伸べることはないでしょう‥‥」
 胸の前で十字を切ると、大司教は天をあおいでそう告げた。


●その拳は誰が為に〜作戦決行〜
──とある村
 チュンチュンチュンチュン
 早朝。
 グレイファントムの潜伏先である村に、ミィナ・コヅツミ(ea9128)とヴァレスが到着する。
 村の朝は早い。
 二人が到着したとき、すでに村人達は仕事に出かける準備をしていた。
「ほう。こんな早朝に、この村にお客さんかな?」
 そう二人に話し掛けてくる農夫が一人。
「私達は精霊碑文学を調査している考古学者です」
「この辺りには、ルーン文字や精霊文字、またはそれらに類似するものが無いでしょうか?」
 ニコリと微笑みつつ告げるミィナに続いて、ヴァレスもフォロー。
「うーん、ちょっと待ってくださいね‥‥あ、そうだそうだ‥‥」
 そう告げつつ、農夫は走りだして、近くの小屋に飛込んだ。
「なんか、やばいような‥‥」
「最悪の事態は避けられますように‥‥」
 そう神に祈る二人。
 そして、農夫は一人の自警団員を連れてきた。
「アザートゥスさん、この二人ですじゃ。あんた確か、外の国では偉い人だったんだろ? 二人に力を貸してやってくださいね。それじゃあ、私は仕事があるので失礼します」
 そう告げると、農夫は其の場から退散。
「あーあー、いっちゃったよ。まったく‥‥あ、初めまして。私はアザートゥス。この村では自警団長『のようなもの』をしています」
 丁寧にそう告げるのは、神聖ローマの神聖騎士『アザートゥス』であった。
「初めまして」
「宜しくお願いします」
 そう告げつつ握手を躱わすヴァレスとミィナ。
「早速ですが本題にはいります。この村には、貴方たちの求めているような碑文や石碑は存在しません。それに、この村の村長は他の土地からやってきたものを、あまり快く思っていません。村長は病気で、現在この村でも離れの建物で療養していますから‥‥」
 そう告げつつ、アザートゥスは離れた場所に立っている建物を指差す。
 そこには、柄の悪そうな漢が二人、帯剣して椅子に座っている。
「病気ですか? どのようなご病気なのでしょうか?」
「心の病ですよ。それで、身体もすっかり弱ってしまって‥‥」
 そう返答を受けるミィナ。
 と、ヴァレスはアザートゥスという名前に聞き覚えがあったので、一か八かカマを掛けてみる。
「アザートゥスさん。確か貴方は他の領地で自警団長をしていたという噂を聞いたことがありますが? あの『オーガ』の一件、シャンゼリゼでは吟遊詩人が語っていたこともあり、耳には入っていまして‥‥あ、別の方ならそれでいいのですよ」
 そう告げたとき、アザートゥスは視線を落とす。
「ギュンターですか。あのオーガに出会ってから、私の運命は変わりました。自警団長として頑張っていたあの日。私は酒場で不覚にも酔いつぶれてしまい‥‥あの地を離れることになってしまったのです。その後、私は非合法な戦いで命を落としかけて‥‥私はここの村長に命を救われ、恩義を返す為にこの地に留まっています」
「騎士としてですか?」
「受けた恩義は返さなくてはなりません。この地にやってきてから、領主殿にはシフール便で暇を頂けるようお願いしてありますので‥‥」
 そう告げると、アザートゥスは二人をじっと見る。
「ああ、話が横道にそれてしまいましたね。とにかく、そういう事ですのでお引き取りお願いします」
 そう告げると、アザートゥスは軽く会釈をして、離れに戻っていった。


●ということで作戦タイム〜懐柔?〜
──ベースキャンプ
「‥‥ということです」
 一通りの状況を説明したヴァレスとミィナ。
 村の配置や、グレイファントム卿が隠れていると思われる離れ、警備をしている者たちなど、手に入れられた情報は一通り説明していた。
「今回は簡単に事がすみそうじゃん‥‥」
 そう告げるのはレティシア・ヴェリルレット(ea4739)
 相変わらずの軽口。
 まあ、仲間たちもなれたもので、それにはやや苦笑。
「問題は離れの建物の中だな。外にいて確認できた戦力だけではないだろうが、建物の大きさから察すると、いたとしてもせいぜい3名程度。合計5名というところか」
 カーツ・ザドペック(ea2597)が情報を分析、おおまかな突撃ルートを考案。
 大地に描いた簡単な地図を、枝で静かになぞっていく。
「強襲部隊はここのルート。途中の敵は俺たちが押さえるとして‥‥」
「問題はアザートゥスか?」
 氷雨絃也(ea4481)がそう告げる。
「いや、ヴァレス、確かアザートゥスは神聖ローマの騎士だったな?」
 イルダーナフ・ビューコック(ea3579)がそう問い掛ける。
「ええ」
「なら大丈夫だ。奴は『俺たちの味方』になる。任せておけって!!」
 パン、と手を叩きつつそう告げるイルダーナフ。
 たのむぜ、とっつぁん。
 そして細かい部分まで打ち合わせを終えると、いよいよ作戦決行となった!!


●貴様の血の色は〜多分・赤〜
──村手前・夜
「神よ‥‥勇敢なるこいつらに、汝の加護を与えてやってくれ‥‥」
──ヴゥゥゥン 
 仲間たちにグッドラックを施しているのは漂う哀愁・イルダーナフ。
 相変わらず乱暴な詠唱だが、それでも神は全てを見通しているようである。
「それ、とっとといってこい!!」
 そう告げられて、強襲部隊は突撃開始!!

 素早く村に潜入すると、グラン・バク(ea5229)、氷雨、そしてアリス・コルレオーネ(ea4792)が静かに離れに近づいていく。
(さて‥‥それじゃあ‥‥)
 ゴソゴソとアリスは懐から一枚のスクロールを取り出すと、それを発動させた!!
──キィィィン
 アリス、テレパシー発動。
 そしてターゲットは『グレイファントム』!!

(聞こえるかグレイファントム‥‥地下闘技場で会った奴から話は聞いているな? 『国』からのお出迎えだ。死にたくなかったら、無駄な抵抗はせずに全員武装を解除して出て来い!)

 その瞬間、離れの中が慌ただしくなる。
「アリス、一体何をした?」
「宣戦布告と降伏勧告だな‥‥」
 氷雨の言葉に、アリスがそう告げる。
 ちなみにアリス、もう怒りは爆発寸前。

──ガチャッ!!
 突然離れの扉が開かれ、中から3名の男が飛び出した!!
「まったく‥‥」
「もう少し冷静にな‥‥」
 そう告げつつも、グランと氷雨は飛び出して男達と対峙、いきなりの乱戦モードに突入。
──ガギンガギン
 激しい打ち合いになるが、正直それほどの手練れということではない。
 やがて3名の男達は二人の前で意識を失う。
 そして離れの前に立つと、中で武器を構えているアザートゥスを発見。
 その後ろでは、ぼろぼろの布にくるまれて震えているグレイファントムの姿が合った。
「さて‥‥アザートゥスといったな。そこにいるグレイファントムの罪状を全て教えてやろう。貴公も神聖ローマの神聖騎士ならば、どちらに善があるはかはわかるはずだが?」
 グラン達の後から、イルダーナフがそう告げる。
 そしてイルダーナフは次々とグレイファントムの罪状を並べていく。
「‥‥そして、そいつは『悪魔崇拝者』だな。多くの子供達を、悪魔を召喚する儀式の為に殺した‥‥」
 そして最後の一つを告げたとき、アザートゥスの顔は怒りに達した!!
──ブゥン‥‥ガキィィィン
 アザートゥス、その一刀はグレイファントムに向けられたが、その一撃は裏口から飛込んだカーツの剣で受止められた!!
「怒りは皆同じ。グレイファントムは国に差し出し、公の場にて処分されることになっている!!」
 そうカーツが告げると、アザートゥスは剣を納める。
「この国に悪魔崇拝が広がっているという噂は最近耳にしていた。一旦本国にもどり、この事を報告する必要があるか‥‥」
 そう告げるアザートゥス。
「まあまあ。そこまで大事にする必要はないでしょう?」
 ミィナがそう告げているさ中、アリスはかつかつとグレイファントムの前迄歩み寄る。
「た、た、助けてくれ‥‥後生だ‥‥金ならある!! いくらほしい?」
 必死に慈悲をこうその姿は、もう一昔前のあのグレイファントムの姿ではなかった。
 そんな姿に、アリスの怒りは頂点に達した!!
──ガシッ
 グレイファントムの顔面を鷲づかみにするアリス。
──シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 突然アリスの手が冷気に包まれる。
 クーリングを発動させたのだ!!
「うっ‥‥うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「せいぜい無様に生きて、自分の犯した罪を償うがいい! 貴様の生涯一つではまるで足りないがな!!」
 パッと手を離し、そう吐き捨てるアリス。
 そして入れ違いにグランがグレイファントムの前に静かに立つ。
(こんな奴の為に、多くの命が失われていったのか‥‥)
 悲しみがグランを襲う。
 領主としての地位に甘んじ、思うままの生活を送っていたグレイファントム。
 シルバーホークというバックアップがあったからこその、あの傍若無人な振る舞い。
 それが今はどうだ?
 目の前で震えているのは、権力も何もかも失った男。
 恐怖のあまり頭髪は白くなり、今はただ生きる為に命乞いをしているではないか。
「‥‥一応敵討ちといくか」
 そう告げると、グランは日本刀を抜刀。
──ビシッ
 殺気殺さず鬼気納めず。
 魂の篭った斬撃を次々と繰り出していく!!

 右頬、左頬
 右耳、左耳
 そして額。

 きっちり薄皮一枚、計5つの傷を造り出すグラン。
「今ので卿は5回死んだな。あいつらの‥‥領民の苦しみや痛みを卿が理解できるとは思ってない。だからせめて彼らの死の恐怖、共有して慄いていてくれ」
 それで術は終った。
 あとは、このままパリへと護送するだけとなったが‥‥。


●イッツ・ショーターイム〜敵襲〜
──村入り口
 シュンシュン!!
 次々と弓を撃っているのはレティシア。
「こんなときに。口封じのつもりかよっ!!」
 街道の向うからは、盾を構えた重装騎士が一列に列を作って近づいてくる。
「シルバーホーク様の命により、グレイファントム、貴公の命を頂きに参った!! そこの護衛の者よ、それ以上歯向かうならば貴公より処分する!!」
(だから、おれは違うってーの)
 そう呟きつつ、レティシアは木の上から飛び降りると離れに向かって走り出す。

 そして丁度離れからでてきたグラン達に、今の事を報告する!!
「シルバーホークの重装騎士? そんな奴等はしらないぞ」
 そう告げるグラン。
 今までに戦ってきたシルバーホークの中には、そんな部隊がいたという事実はグランもしらない。
「それに、名乗りを上げてくるというのもな‥‥あいつらは、無口で、ただ寡黙に作戦を遂行するタイプだろ?」
 ヴァレスの言葉に、一同肯く。
「とりあえず、ここから先、まともに進むことはできないということか‥‥」
 そうカーツが告げたとき、後方から偵察のララ・ガルボ(ea3770)が帰還。
「村後方、森の方角からオーガとオーグラの混成部隊接近っ!!」
 ターゲットは絞れた。
 グレイファントム抹殺に動いたのは、『ヴォルフ卿とその配下の魔獣兵団』である。
「馬車は村の外。敵の数は未知数。まさに絶体絶命というところか‥‥」
 そう告げると、アザートゥスがイルダーナフにソルフの実を投げる。
「貴方の神にも祈りを捧げておいてください」
 そう告げると、アザートゥスは魔法詠唱開始。
「前方からは重装騎士が6。後方からはオーグラタイプが1、オーガが30っていうところですか‥‥」
 生命探知で敵の数を確認し、それを告げるアザートゥス。
「しばらくの間、これで‥‥」
 そう告げると、アリスはグレイファントムをアイスコフィンで凍らせる。
 事情を全て説明し、村の人たちには大きめの建物に隠れてもらう。
 そしてイルダーナフは、ホーリーフィールドを展開、村人はそれで護ることにした。
「さて‥‥あとは、敵を殲滅し、退路を切り開くことだな‥‥」
 バシーッと拳を打ち鳴らし、カーツがそう告げる。
 その横では、ララもその手にオーラソードとオーラシールドを展開。
「鎧なんて、私のオーラソードの前には無に等しいわ‥‥」
 そして村入り口に、敵の姿が見えたとき。
「チーム・ワイルドギース。作戦開始っ!!」
 カーツの叫びが響き渡り、一行は敵目掛けて走り出した!!

──ガギィィィィン
 激しく叩き込む剣戟。
「‥‥それが、騎士の力か‥‥」
 そのまま力任せに重装騎士の一撃を弾き飛ばすと、グランはカウンターの一撃を叩き込む。
──ガギィィィィッ
 鎧を切り裂き、そのまま中の人間まで切り伏せる。
「ダース卿に比べると、まるで稚技にも等しい‥‥」
 そして相手が体勢を整える前に、グランは次のターゲットに向かって攻撃を開始!!

──ドゴォォォォォォッ
 大地が激震し、その上を歩いてくるオーガ達の体勢が崩れる。
「まだまだぁぁっ」
 オーガ達の侵攻を少しでも押さえる為、ヴァレスはまずはクエイクのスクロールを取り出して発動。
 さらに体勢を整えている最中に、アイスフィールドのスクロールも発動させる。
──ピシィッ
 踏込んだ先が零下の世界であることに気付いたオーガ達は、回り道を余儀なくされる。
「ここからが、スクロールレンジャーの真骨頂だっ!!」
 
──ドゴォォォッ
 回りこんできたオーグラには、カーツが対峙。
 素早く振り込んでくるラージクレイモアの一撃を躱わすと、そのままカーツはモーニングスターを力一杯叩き込む!!
「グォォォォォォォォォォォォォッ」
「まあ、あんた達とは何度も戦っているからな‥‥先手がどうくるのかさえ、よく見える‥‥」
 素早く側面に回りこみ、さらに一撃を叩き込むカーツ。
 そのまま、一方的に戦っていられるわけでもなく。さらに戦いは熾烈なものになっていった

──ブゥゥゥゥゥン
 自らの周囲にホーリーフィールドを展開するのはイルダーナフ。
「さて。神の加護を受けたこの結界、そうそう破壊できるとは思うな‥‥」
 その外では、結界に向かって必死に棍棒を叩き込んでいるオーガ達の姿があった。
──ブゥン、プゥン
 結界が攻撃を受けるたびに輝く。
 だが、そんな程度で破られるほど、イルダーナフの結界はやわではない。
 そして中にララが飛込んでくる。
「イルダーナフ、リカバーを」
「ほいほい‥‥そら、神の加護だ‥‥」
──ブゥゥン
 傷ついた身体を回復されると、再びララは結界から飛び出す。
 そして目の前の重装騎士の攻撃を受止め、カウンターを叩き込む。
──スカッ
 だが、ララの攻撃は当たらない。
 そのまま間合を離し、距離を取るララ。
 重装騎士はそれを追いかけていくが、時間がかかる。
 そのさ中、ララは全身にみなぎるオーラを高めていく。
 そして
──カッ!!
 ララを中心に、オーラが爆発。
「見たか必殺、ララちゃんアルファー!!」
 爆発により周囲の砂が巻き上げられる。
 そしてそれが収まったとき、その向こうには無傷の重装騎士が立っていた。
「ひっ!!」
──ドシュュュュュッ
 激しい一撃を受けるララ。
 そして重装騎士の激しい攻撃は始まった。

──キン、ガキィン
 流れるような太刀筋。
 二人の重装騎士を相手に、一歩も怯まないのは氷雨。
「重装甲ゆえの、太刀筋。単調な攻撃パターン。相手をもう少し考えたほうがいい‥‥」
 そのまま一人を難無く大地に叩き伏せると、氷雨は次の相手と一対一。
「ぬかせぇぇぇぇぇぇぇっ」
──ガッギィィィィン
 激しい一撃は氷雨の刀によって難無く受止められる。
「頭に血が昇って、まともな思考もできぬか‥‥」
 そのまま流れるように刃先を反らし、相手のクレイモアを大地に誘導。
 そこから縁を描くように、氷雨の反撃が開始される。
──キン‥‥カキィィィン
 月の光に輝く刀。
 その輝きは、敵を死地へと誘う道標。
 やがて輝きが収まったとき、敵は血を流して其の場に崩れ落ちていた。
──チン
「さて、あとはあっちか‥‥」

──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥツ
 次々と巻きあがるアイスブリザード。
 30体もいた筈のオーガの軍勢が、今はほんの僅か。
 ヴァレスの誘導により、敵オーガを一ヶ所に集めると、アリスが渾身のアイスブリザードを発動。
「アーッハッハッハッハッハッ、皆凍ってしまえーーっ」
 高笑いしつつ魔法を発動させるアリス。
 やがて、オーガの軍勢は全て息絶えてしまった。

──ブゥゥゥゥン
 切断されたララの腕を再生しているのはミィナ。
「よし‥‥こっちはOKです。イルダーナフさん、リカバーをお願いします!!」
「ああ‥‥しかし、ララ、あんまり無茶するなよ‥‥神よっ!!」
──ブゥゥン
 見る見るうちに傷が癒えていくララ。
 だが、切断された腕の完全なる接合には時間が掛かる。
「ララちゃんアルファーも、ララちゃんソードも駄目‥‥うう、どうしたらいいのっ」
 そう告げるララ。
「まあ、あれだ、修行だな‥‥」
 そう告げるイルダーナフ。
 そして周囲の戦況が収まり始めたとき、ホーリーフィールドも静かに消滅した。


●帰路〜死地からの脱出〜
──街道
 ガラガラガラガラ
 激しく馬車が走っている。
 もうすぐプロスト領。
 そのなかには、アイスコフィンから解除されて震えているグレイファントムの姿もあった。
「さて‥‥アザートゥス殿。あなたにも証言をしてもらうがよろしいか?」
 そう問い掛けている氷雨に、アザートゥスは静かに肯く。
 その後ろでは、イルダーナフが怪我をした仲間たちの手当を行なっている最中である。
「まあ、生きているだけよしというところか‥‥隊長、とりあえず神に祈ってくれ‥‥」
 虫の息のカーツ。
 オーグラ相手に無傷とは行かなかった。
──ブゥゥゥン
 神に祈るイルダーナフ。
「セーラ様よ。ちょいと隊長に、慈悲をくれてやってくれ‥‥」
 やがて、カーツの傷は見る見るうちに消えていく。
 成功する確率はかなり低かった。
 まだ、イルダーナフは、ここまで酷い怪我をしたものを癒すだけの修行をあまり収めていない。
 それでも奇蹟は起こる。
「ふぅ‥‥ありがとよ。これからも精進するから、まあ、遠くから見ていてくれや‥‥」
 十字を切り、そう神に祈るイルダーーナフ。
 やがて、パリに到着した一行は、まず王宮騎士団の所までまでグレイファントムを護送。
 そしてその脚で、ニライ査察官の元を訪れていった。


●ご苦労様です〜名誉挽回〜
──ニライ執務室
「ご苦労様です」
 つとめて冷静に、かつ事務的にそう告げるのはニライ査察官。
「これで、信頼は回復したかな?」
 そう告げるカーツに、ニライは表情一つ変えずに一言『ええ、そうですね』とだけ告げる。
「ニライさん。私がグランドクロスのメンバーということが引っ掛かっているのですか?」
 そう告げるミィナ。
「まあ、そうですね。チーム・ワイルドギースの働き、私としても『当然』と思っています。これぐらいのことはできるとね。ただ、そこに何故、またしてもグランドクロスが関っているのかは判りませんが‥‥」
「あの後、私達としても様々な処分を見当しました‥‥それで」
 そう告げるニライに、ミィナはこれまでの経過報告を行おうとしたが、それはニライの手によって遮られる。
「口頭による報告は必要ありません。書面にして、こちらに届けて頂ければ結構です。形として残らないものを信用するほど、私はお人好しではありません‥‥まあ、貴方が今回の作戦で、十分にワイルドギースの一員として頑張って頂いたということは評価に価します。ですが、何故、あの人が直接参加し、自ら汚名をはらそうとしなかったのか‥‥まあ、それも無理なのでしょうけれど‥‥」
 そう離してから、ニライは一行に教会に向かうようにと告げた。


●そして教会〜名誉ある称号〜
──王宮内教会
 荘厳な空気の中。
 チーム・ワイルドギース初期メンバーは司教の前に立っていた。
 残念なことに、レティシアは体調を壊して辞退。レティシア、ヴァレス、ミィナを覗く初期メンバーが其の場に立っていた。
「神よ。勇猛なる冒険者にこれからも慈悲の加護を与えたまえ。偉大なるセーラの名において‥‥」
 ゴクリと息を呑む一行。
「汝ら、勇猛なる者たちに『鋼鉄の冒険者』の称号を授けよう‥‥」
 
 鋼鉄の冒険者

 鋼のごとき硬い意志を持つ、勇猛なる冒険者の称号。
 そして、教会内に賛美歌が響きわたった。
 明日からは新たなる冒険が待っている。
 シルバーホークの一件が片付いたとしても、このノルマンには、冒険者の力を必要としている人たちが大勢いるのである。

 そして、一行は町の中に消えていく。
 勇猛なるチーム・ワイルドギース。
 また、いつか集るときが来るかもしれない。
 その時まで、いまは‥‥。

〜Fin

‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥

「あ、まだまだ、あともうちょっとだけ続くのじゃ」
 突然後を振り向きそう告げるイルダーナフ。
 マジかよ、おっさん。

〜To be continue?