●リプレイ本文
●5月20日 記録者:クリシュナ・パラハ
皆には悪いけれど、私はこの依頼を降ろさせて貰うわ。
迷惑がかかっているのは判っているわ。
でも、今は誰かが動かなきゃ駄目なの‥‥。
──商人ギルド
ヤレヤレという表情をしているのはカーツ・ザドペック(ea2597)。
いざグレイファントム領へと出発しようとしたのだが、一部のメンバーが保存食を買い忘れていた為、ついでに食品街で調達していた模様。
この間に、ゼルス・ウィンディ(ea1661)はチームメンバーではない協力者達から報告書を預かり、それに一通り目を通している。
残念だが、真新しい情報はない。
「手間取らせて済まない」
「ちょっと油断した‥‥」
「さて、待たせたな皆。これで準備はOKだ」
以上、お弁当を忘れた氷雨絃也(ea4481)、グラン・バク(ea5229)、そしてイルダーナフ・ビューコック(ea3579)の3名でした。
何はともあれ一行は、そのまま近くで待機している送迎馬車に乗り込んでいざ出発‥‥。
──同時刻、ニライ査察官宅にて
「貴方が今回の依頼を降ろさせて貰うという点については‥‥まあいいでしょう。ですが、私の持っている資料を見せることについてはお断りします」
「どうしてですか? 今、ノルマンはシルバーホークという悪の組織によって蝕まれようとしています。今こそ、資料の公開を行ない、全ての冒険者が戦う準備をする時なのではないでしょうか?」
そう力説するクリシュナ・パラハ(ea1850)。
だが、ニライ査察官の言葉は冷たい。
クリシュナは依頼主であるニライ・カナイ査察官の元を訪れて、丁寧に依頼辞退の報告を行なっていた。
そして改めて、ニライ査察官の元に保管されているであろう資料を受け取り、これから起こるであろう結社との戦いの為の資料として纏めようというのである。
「私が頼んだ依頼を断わって、さらに資料を見せろですか。貴女という人は、本当におめでたい‥‥資料の提示、本当に信頼をおける方でしたら、それは私も一向に構いません。せめて依頼達成後の申し出なら。ですが、受けた依頼を遂行せずに見返りを求める今の貴女を、誰が信じるというのですか? いいですか、貴女は私の信用を失っただけではなく、チーム・ワイルドギースに泥を塗ったということを覚えておいてください。今回の件、冒険者ギルドとチーム・ワイルドギースにはしっかりと責任を取って頂きます‥‥それではお引取りください」
そう告げて、ニライ査察官はクリシュナを家の外に放り出すように指示。
そしてその後で、執事を呼んでこう指示を飛ばしていた。
「クリシュナ・パラハについての資料を集めなさい。それと『秘密結社グランドクロス』についても。シルバーホークとの関連があるやもしれませんし、必要ならば、そちらにも動かねばなりません。騎士団にも、この件は通達してください」
そう告げて執事が部屋を出るとき、さらにニライ査察官はこう付け足した。
「ああ、例のギュンターとかいう輩の署名、あの中からも『危険人物』は全て割り出すように‥‥事によっては、このノルマンから叩き出しても構わないでしょうから‥‥やはり、冒険者はその程度の集まりでしか無かったのでしょうかねぇ‥‥」
最後のほうは寂しそうに呟くニライ。
心の何処かでは、冒険者を信頼していただけに、今回の裏切りとも言える行為に傷心気味の模様。
なお、この後クリシュナは冒険者ギルドにも向かい、封印書庫の資料を纏めさせてもらうよう頼み込んだが、『冒険者の僭越行為、及び依頼人との契約という大前提を覆すことは出来ない』という理由であっけなく却下された模様。
●5月22日 記録者:ララ・ガルボ
まもなく現地に到着。
私達は数名のチームに分かれて情報を集める事になりました。
チームは全部で三つ。
私はリーダーとイルダーナフ、そして私の3名でペアを組み、情報収集を開始しました。
──ミハイル研究室
「一発‥‥ですか?」
ベットから身体を起こしてそう告げているのは、御存知シャーリィ・テンプル。
ララ・ガルボ(ea3770)とイルダーナフ、そしてカーツの3名は、まず最初にプロスト領に流れた。
そしてシャーリィの元を訪ねると、静かに話をしていたのである。
「ああ。グレイファントムが一発逆転狙いをしそうな、大きな力を入手出来そうな遺跡は無いか? 奴が余計なことをする前に待伏せして阻止し出来るなら捕えたいのだけど。ついでに教授がらみ情報も調べておくけど‥‥」
しばし頭を傾けるシャーリィ。
そして何かを思い出したかのように、こう呟いた。
「『終末の魔法陣・デス‥‥なんとか』ですか。まさか、伝説でしかない代物ですよ‥‥」
そう呟くシャーリィに、ララがさらに問い掛ける。
「それは一体どんなものですか?」
「悪魔の使う魔法陣をさらに強化したような代物です‥‥起動したら、魔法陣を中心に、かなり広範囲の『魂』を肉体より強制的に引き離し、吸収するっていう‥‥」
それ以上の話は出てこない。
シャーリィでも噂程度の代物、ミハイル教授やロイ教授なら詳しい話を知っているかもということで話は終ってしまった。
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
「ほっほっほっ。ご無沙汰していますね。まあ入りなさい」
笑いながらイルダーナフと中又を迎え入れてくれたのは大司教『聖ヨハン』。
「じいさん、ちょっと書庫を見せて貰って構わないか? できれば仲間たちも一緒の報が都合がいいんだが‥‥」
美中年イルダーナフがそう問い掛ける。
「貴方の同伴なら構わないでしょう」
そのまま一行は、大聖堂奥にある『封印書庫』へと入室し、手分けして資料を探しまくった。
目的は『悪魔絡み』『遺跡の伝承』そして『終末の魔法陣』。
だが、それらしい記述があまりにも多すぎて纏めるのに一苦労したことと、それに反比例して魔法陣についての記述が全くないというこの矛盾に頭を捻りながらも、一行はそれらの中でも重要なものを脳裏に叩き込み、グレイファントム領へと向かった。
なお、帰り際にイルダーナフはノリアに渡す為の『紹介状』を書き、そして『聖ヨハン』に彼女との謁見許可を頼み込んだ模様。
「こころよく同意してくれた大司教に感謝だな」
──グレイファントム領
領地では、かなりの混乱が発生していた。
というのも、領主であるグレイファントム卿が行方不明であるという事が発覚していた。
だが、自警団や領内を警備している私設騎士団は、そのことについて特に何かするということでもなく、皆、生き生きとした表情をしているのに気が付いた。
「このまま帰ってこなかったら‥‥次の領主様はきっと、この領地を良くしてくれるだろうなぁ‥‥」
そんな話が街のあちこちの酒場で聞こえてくる。
そんな中。
カーツが自警団で聞いてきたこの話は、かなりのインパクトがあった。
「領主? ああ、なんでも舘の地下で行なってきた『悪魔崇拝』がばれて、逃亡したっていう話らしいよ」
「悪魔崇拝? なんでまた‥‥」
「さぁ。でも、常日頃からこんな事いっていたからねぇ‥‥『俺はこんな辺境で一生を終る器じゃない』って。富と権力、二つが手に入れられるならって所だろう? あちこちの村から子供を攫ってきては、悪魔に捧げるいかがわしい儀式をしていたらしいよ。この領地では暗黙となっているし。迂闊なことをしゃべったら、自分の子供が生贄にされたなんて話もでているからねぇ‥‥」
そこから始まったグレイファントムの悪行。
全てを知った今、行方不明のグレイファントムに鉄槌を下すことはできるのだろうか‥‥。
●5月24日 記録者:ゼルス・ウィンディ
吐き気がします‥‥。
あのような光景、人としてあってはいけない‥‥。
もし許されるなら、この手で奴等に一撃を叩き込みたいところです‥‥。
──ヴォルフ自治区
以前見た『子供達らしき陰』を乗せた馬車。
それを発見したゼルスとトール・ウッド(ea1919)、アリス・コルレオーネ(ea4792)の3名は、そのまま送迎として借りていた馬車を追跡、まんまとヴォルフ自治区へとたどり着くことが出来た。
馬車はそのまま自治区内の奥にある、堅牢な城壁に囲まれたヴォルフ卿の舘へと入っていく。
「潜入‥‥するには厳しいか‥‥」
そう呟くトール。
「でも、中で何かが起こっていることに間違いはない筈‥‥」
「なら、行くしかない」
意を決してアリスが走り出す。
一行も途中の街道から少し外れた場所に馬車を隠して、そのままアリスの後を追う。
──城壁外周
ぐるりと城壁の回りを回ってたところ、その一角に、奇妙な祠があるのを発見する。
祠といっても、その大きさは対したものではない。
恐る恐る近づいていくと、そこから人の声が聞こえてくるのに気が付いた。
──ボリッボリッ‥‥
『うわぁぁぁん‥‥』
子供の悲鳴。
そして何かを咀嚼する音。
一行は祠に入り込み、内部を確認する。
ちょうと中央床に折りのようなものがはめ込まれ、そこから内部が伺えた。
そこは、魔物達の住処。
ミノタウロスやオーグラといった悪しき魔物たちが『統制を取って』住まう場所。
そしてその中を叫びつつ逃げ惑う子供達。
あるものは捕まり喰われ、またある少女はその悪しくも雄々しいい一物に姦貫かれ‥‥。
(チャイルドファームから来た子供達の末路‥‥ていの良い『失敗作廃棄場』‥‥か)
そう感情なく呟くトール。
──ガシッ
いきなり柵に手を掛けるアリスだが、それをゼルスが制した。
「放せゼルスっ!!」
「今からでは間に合いません‥‥それに、落ち着きなさい。今飛び出していくことが、どれほど危険なことか‥‥」
そう告げているゼルスも、全身をワナワナと震わせている。
その瞳は怒気を孕み、今にも爆発しそうであった。
「‥‥すまない‥‥」
そう告げると、トールは急いで二人を其の場から引き離した。
そして馬車に戻ると、今度は来た時に見た馬車を確認して、そのまま足取りを追いかけた。
セーヌダンファン。
又の名を『ハウス』。
その場所を突き止めた一行は、そのまま仲間のもとへと戻っていった。
●5月25日 記録者:氷雨絃也
悪魔崇拝、生贄にされた子供達、そしてシルバーホーク。
何処まで腐っているんだ、あいつの臓腑は。
──グレイファントム領中央、シーフギルド
とある酒場。
そこであるメニューを頼むと案内される地下の施設。
「まあ、あんたが姐さんの事を知っていて、呼び出し方を知っている時点であんたは敵じゃない。我々も姐さんは恩義もある。協力するぜ」
酒場で情報を求めていた氷雨は、巧くシーフギルドのメンバーと接触に成功。
情報屋のミストルディンの名前を出したとき、彼等の冷たい態度は豹変し、心よく氷雨を迎えてくれた。
そこで氷雨はグレイファントム卿とその背後についての情報を得る。
・己の欲の為、罪なき子供を『悪魔召喚の生贄』としている
・子供だけの自警団は、実力を付けて『チャイルドファーム』に売り飛ばす為。使えなくなった子供達は魔獣兵団に食糧として送られている
・現在、グレイファントムはマクシミリアン自治区に隠れている
・シルバーホークとの確執もあり、もうすぐ処刑されるらしい
・起死回生の一手を企んでおり、それがシルバーホークの『破滅の魔法陣』の奪回である
・そのシルバーホークも最近は表に出ず、四天王と呼ばれる側近が暗躍している
・彼にとって冒険者とは、自分の裏での行動をカモフラージュする為の手段でしかない事
「もういい‥‥」
目眩がしてきた氷雨。
まさか自分達まで利用されているとは。
そして氷雨は走った。
この情報を仲間に伝える為に。
──一方、グラン。
同じく城下街似て調査を行なっていたグラン。
やはり様々な情報が飛び交っているが、その中から特にグランが欲していた情報を幾つか入手する事が出来た。
・私設騎士団は全て領内に健在。
自警団も普通に行動している事から、グレイファントムは単独で行方を隠した模様
・現在、グレイファントムが戻ってきても、彼に賛同する者がいないという事。むしろ民衆は新たなる領主を求めている事を確認
・また、騎士団等にも『待機命令』が出ている訳でなく、もし領主から動きがあったとしても、それらを断わるという方向で話は進んでいる事
・今、領民はグレイファントムという悪夢から解放されて、やすらかな時間を求めている事
・グレイファントム卿についていた執事も暇を取っていた。その執事の話によると、地下にある隠し部屋に、『悪魔崇拝の祭壇』があり、時折罪無き子供を連れてきては、惨劇を行なっていたという事
・噂では現在、グレイファントムはマクシミリアン自治区に隠れているらしい
「‥‥追撃は無理。だが、情報は十分だな‥‥」
そう告げると、グランは一旦仲間の元に戻り、情報を整理しようとした。
●6月1日 記録者:カーツ・ザドペック
まったく‥‥。
これから先、どうしたらいいんだ。
このもやもやとしたわだかまりをどうしたらいいんだろう‥‥。
──パリ・ニライ宅
「依頼終了?」
驚いた表情でそう告げるのはカーツ。
「ええ、折角、これからの調査をお願いしようとしていましたが。今回をもってチーム・ワイルドギースに対しての、グレイファントム領での調査は終了します。お疲れ様でした」
淡々と告げるニライ査察官。
「ニライ殿。何か理由はあるのですか?」
そう問い掛けるイルダーナフに、ニライは静かに話を始めた。
それはクリシュナが最初にニライ宅を訪れた時の話。
冒険者ギルドに苦情を告げに向かったとき、偶然そこから出てくるクリシュナを見掛けた。
そしてギルドでのクリシュナの行動。
「私は、チーム・ワイルドギースのチームワークを買って、あのように指名を行なったのです。にも関らず、依頼は放棄する、こちらの資料を出せ、ギルドにまで騒動を広げるような輩のいたチームを、どうして信用できると?」
「それは彼女が勝手に‥‥」
そう力説するアリス。
「個人プレーを認めたのは、どういう理由なのでしょうか? 依頼内容を皆さんは御存知ですよね? 打ち合わせ無しに勝手なことをする。その結果、もしターゲットであるグレイファントムを逃したということなら、誰が責任を取るというのですか? 彼女が勝手に‥‥子供のいいわけにもなりませんね。それではお引取りください‥‥」
そう告げられると、一行は静かに其の場を立ち去った。
その後、シャンゼリゼに向かった一行は、今回得た情報を全て纏め上げる。
グレイファントムの悪行が全て暴露され、そして卿はマクシミリアン自治区に隠れている。
今こそ追撃し、鉄槌を叩き込むチャンスであったのに‥‥。
暗い。
目の前の道が、途切れてしまった。
泣き叫ぶ子供の悲鳴。
それがアリスの耳からはなれない‥‥。
〜Fin