優駿〜神聖歴999年大迷走〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月10日〜12月17日

リプレイ公開日:2004年12月15日

●オープニング

──事件の冒頭
 さて。
 巷ではドラゴンやらドラゴンやらドラゴンやら色々と騒がしい状況が続いていましたが。
 そんな忙しい日々がちょっと落ち着いたある日の事。

「そろそろ、いい時期ではないでしょうか?」
 とある貴族の屋敷での御茶会の席。
 顔馴染みの5人の貴族達に向かって、御茶会の主催者であるアロマ卿がそう呟いた。
「ええ。例の『グレード1』の開催ですね。ここ暫くはドラゴン騒動で忙しかったですけれど、そろそろ落ち着いてくる頃でしょうから」
 サツキ卿がそう問い掛けた。
「そうですね。私の愛馬たちも放牧して体調を整えています。英気もしっかりと養われていますので、いつでも準備はOKですよ」
 オロッパス卿もにこやかにそう告げた。
 その会話に、他の貴族達も興味深そうな顔をしてみせた。
「中々面白そうですね。この前のレースの話もありましたし。どうですか? ここは一つ、グレード1開催の際には、この前のレースで育てた馬をそのまま出場させてみては。私も一口のりましょう」
「そうですね。どうせでしたら、毎回コースを変えてみるとか。草原とか旧街道とか。様々な障害があるというのも、楽しそうですね。そして全てのレースを通して最強の馬と騎手を決定するというのはどうでしょうか?」
「それは素晴らしい。で、馬に乗るのは私達ですか?」
「まさか!! この前のように冒険者のみなさんにお願いしましょう。今回は長期契約可能な方たちを募って‥‥」

 ──ということで冒険者ギルド
「また馬に乗れる冒険者を6名か? ああ、この前のレースを定期的にやるのね。はいはい‥‥」
 新米受付の兄さんが、あっけらかーんとした表情でそう問い掛けた。
「その通りだよ。まあ、ドラゴン騒ぎで忙しくなっているこのドレスタットを盛り上げる為に色々とがんばって貰うのですから。兎に角馬に乗れる奴を6名で御願いします」
 そして依頼書を作りあげると、アロマ卿は受付にサッと手渡して其の場を後にした。
「さてと‥‥と? あれ? 随分とベテラン冒険者ばかりを募集したなぁ‥‥まあいいけれどねぇ」
 そのままギルドマスターの了承印を受けると、受付の兄さんは依頼を掲示板に張付けた。

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 ea1911 カイ・ミスト(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3266 氷室 明(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5894 マピロマハ・マディロマト(26歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea7179 鑪 純直(25歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8106 龍宮殿 真那(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●挨拶から始めよう〜馬も色々〜
──ドレスタット郊外
 今回のレースは長期戦。
 最初に選んだ馬と共に戦う全6戦。
 それぞれの厩舎での戦い方を聞いてみると、馬での競走、つまり競馬では『馬7:騎手3』と呼ばれているらしく、馬がどれ程の能力を秘めているか、そしてその馬の能力をどこまで引出すかが鍵となっているらしい。
 それでは、各厩舎の様子を見てみよう。

──アロマ厩舎
「初めまして・今回の依頼を受けて、『怒りのブライアン』の騎手を務めさせていただきますカルナック・イクスと申します」
 アロマ厩舎の手前では、丁寧にアロマ卿に挨拶をしているカルナック・イクス(ea0144)の姿があった。
「これは御丁寧に。どうぞ宜しくお願いします。この子がうちの大切な馬、『怒りのブライアン』です」
 アロマ卿は、静かにそう告げると厩舎の中から『怒りのブライアン』を連れてくる。
 澄んだ瞳で、じっとカルナックを見る『怒りのブライアン』。
 そして其の日から、カルナックと『怒りのブライアン』の激しいまでの調教の日々が始まった。


──オロッパス厩舎
「おひさしぶりです。今回もグルーヴに騎乗することとなりました。よろしくおねがいします」
 厩舎員とオロッパス卿の正面で、カイ・ミスト(ea1911)は丁寧な挨拶を返す。
『ブルルルルルッ』
 と、奥からテコテコと『風のグルーヴ』がいななきながら歩いてくる。
 そしてカイの姿を見ると、そのままゆっくりと近づいていく。
「おや。どうやら『風のグルーヴ』も貴方の事は覚えているようですね‥‥」
「そう言えば、いつのまにゲルマン語を?」
 オロッパス卿の言葉に、厩舎員が続いた。
「やっぱり、言葉が通じないと不便ですので‥‥汚点は早々に拭う。冒険者としての心得です」
 そう告げると、カイは『風のグルーヴ』にそっと触れ、静かに撫でる。
「体調も万全ですね‥‥荷物を置いてきたら早速始めましょう」
 そう厩舎員に告げると、カイは荷物を手に其の場を離れた。
 そして、『風のグルーヴ』の特性を知る為と、さらなるスタミナ強化の為の訓練が始まった。


──オークサー厩舎
「いい馬ですね。毛なみもしっかりとしていますし」
 氷室明(ea3266)はオークサー卿に挨拶を終えると、そのまま厩舎員の元へと向かった。
 そしてまずは自分と『レディエルシエーロ』との相性を知る為に、軽く流す感じで走り始める。
 そして少しずつ、自分の持てる力、そして『レディエルシエーロ』の潜在能力の二つを引出すよう、さらなる持久力の強化の為、調教を開始した。
「私の腕では、あまり大した事は出来ませんしね‥‥。レディエルシエーロの好きなように走らせて、後は私が何処まで合わせられるか‥‥」
 そんな呟きが『レディエルシエーロ』に届いたのか、『レディエルシエーロ』は軽くいなないてから徐々に加速を始めた。


──マイリー厩舎
「ま‥‥ま‥‥曲がれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
 ポーーーーン
 直線を超高速で駆け抜ける『最強のキングズ』。
 そしてその加速に耐えきれず、手綱を放して後方に飛ばされたマピロマハ・マディロマト(ea5894)。
「はっはっはっ。『最強のキングズ』は曲がりませんよ。曲がったことが嫌いな馬ですから」
 パンパンと手を叩きながら、マイリー卿が静かにそう告げる。
「今度のレースは楕円形コースでしょう? キングズが曲がらないというのは問題が無いですか?」
 ようやく戻ってきた『最強のキングズ』の鞍に飛んでいくマピロマハが、横で笑っているマイリー卿にそう告げる。
「普通の場所で、普通に走っている分には『最強のキングズ』は曲がるでしょう。ですが、いざ戦いとなると、われを忘れて走る傾向が有りますから‥‥まあ、頑張ってください」
 最強の馬。
 最強の脚。
 そして最悪な走法。
 マピロマハは、高速で駆け抜ける『最強のキングズ』の制御が当面の課題となってしまったようである。


──ディービー厩舎
「では、今回限りと言うことなのですね?」
 鑪純直(ea7179)は、オーナーであるディービー卿に、自分が騎乗するのは今回のみであることを告げると、そのまま『旋風のクリスエス』の元に歩き始めた。
「ええ。やはりこの子には、彼女しか合わないと思うのです。それはそうと、この『旋風のクリスエス』の血筋は、どんな馬だったのですか?」
 そう問い掛ける純直に、ディービー卿は腕を組んで考える。
「それがですねぇ‥‥とくに変わった血筋でもありません。ただ、『旋風のクリスエス』の母親『神速のティーキィ』は優秀なライディングホースだったそうです。シフール便が普及する前には、彼女の手によって運ばれた手紙がかなりあったという話は聞いています。その血筋が生きているのでしたら、きっと『旋風のクリスエス』も化けるとは思いますが」
 その言葉に、純直は一安心。
「万能型で瞬発力のある馬と聞いています。今のところ、前のレースの疲労が残ってガレている(奇妙に痩せている)様子もないですし、瞳に力がありますから大丈夫でしょう」
 そのまま純直は、『旋風のクリスエス』との特訓に入った。


──カイゼル厩舎
「真那殿、この勝負服は如何かな?」
 カイゼル厩舎では、『静かなるスズカ』が兄弟馬である『沈黙のクリスティーヌ』と併せ(2頭での軽い走りこみ)から戻ってきたところであった。
 そこにカイゼル卿が龍宮殿真那(ea8106)と話し合って作ったという『レース衣裳』を手にやってきたのである。
「ふむ。なかなか意匠の凝った作りをしておるな。無駄な部分は一切無く、胸許にカイゼル卿の紋章まで‥‥私はそれで構わぬと思うぞ」
 ニコリと笑みを浮かべ、真那はそのまま手綱を引く。
「『静かなるスズカ』の調子はどうです? なかなか良い資質を見せていますか?」
 その言葉には、真那は困った表情を見せている。
「やはり体力が問題ぢゃのう。厩務員(厩舎員)の話を聞かせて貰ったが、父である『沈黙のサンデー』という馬は、かなりの強者じゃったそうだから‥‥」
 この鈴鹿御前も強いのである。
 そう言い切りたかった真那であるが、それを言い出す自信が無かった。
 なにより、今回のレースの距離は4000m。
 前回のレースでさえあのような結果となってしまったのである、体力がゴールまで続くかどうか甚だ疑問であった。
「逆に、『沈黙』の良き所は『クリスティーヌ』が引いているのかもしれません。が、どっちの子もまだ未知数。ゆっくりとで構いませんので、良い結果を残せるよう頑張ってください」
 そう告げると、カイゼル卿は其の場を後にした。
「体力‥‥スタミナが足りないのぢゃ。この子の脚は見切った。あの走りが見えれば、この子は必ず化ける!!」
 兎に角も今回は長距離レース。
 無駄な体力消費は押さえて、走ることに慣れるように調整をする真那であった。


●レース当日〜エモン・クジョーの『俺に乗れ!!』〜
──スタート地点
 レース当日。
 前回と変わらぬ盛況ぶり。
 スタート地点には大勢の人が集っていた。
 ドラゴンの騒動で、街の人々は娯楽に飢えていたのかもしれない。
「さあ、ここからが俺の本命予想!! 今の所一番人気は『最強のキングズ』だぁ!! 前回のレースでのあの走りを覚えているものは幸せである! この私の予想屋魂がそう叫んでいます!!」
 旅の吟遊詩人エモン・クジョー。
 今回も予想屋兼レース実況をやるらしい‥‥暇なんですねぇ。


 各馬一斉にスタートラインに到着。
 そして今回のレースの主催者である6貴族から、レースタイトルである『アロマ記念』主催のアロマ卿が代表として前に出て挨拶。
 そしてそれが終ると、各馬一斉にスタートラインにつく。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」

 各馬一斉にスタートしました。
 まずトップで先頭を走るのは『静かなるスズカ』。長い手綱を巧みに操り、いきなり最後まで『逃げ』の戦法の模様。
 その後方からはぴったりと『最強のキングズ』がマーク、その差1馬身。
 そしてさらに後方に『風のグルーヴ』『怒りのブライアン』『レディエルシエーロ』、そして最後尾に『旋風のクリスエス』が付きます。
 実にいいペースです。
 速すぎず遅すぎず、全ての馬が勝負所を考えている模様です。

「自分の好きなように‥‥思うままにです‥‥」
 強く鞭を入れることなく、氷室はただ、『レディエルシエーロ』を馬なりに走らせる。
 それに呼応するように、『レディエルシエーロ』もまた快適な走りを見せていた。
 
 以前順位は変わらず。
 残り3000mポイントを通過。
 間もなく第一コーナーに差し掛かります。
「‥‥前方の馬は化け物ぞろいだな。だが大丈夫。お前の末脚の力を使えば‥‥」
 特訓の成果を披露する。
 だが、今はその時ではない。
 前方を走る馬との間合を放されないよう、カルナックはじっと耐えている。

 残り2000m。
 順位に変動はないまま第二コーナーへ突入。
「‥‥大丈夫、このまま行きましょう」
 調教での実力を信じ、カイは静かに時を待つ。
 スタミナの付き始めた馬体が、静かに草原を駆け抜ける。

 残り1000m、第三コーナーに差し掛かったとき、レースに動きが見え始めた。
「いけるのか‥‥」
 『旋風のクリスエス』が前に出ようと頭を振る。
 それに併せるように純直も手綱をゆるめ、少しずつ身体を沈めていく。
 と、それに合わせて『旋風のクリスエス』が加速開始!!
「何っ!! 純直がもう勝負?」
 いきなり横に並ばれて、氷室も焦りを感じる。
 だが、『レディエルシエーロ』は様子を見ている感じがする。
「‥‥判っています、まだ勝負所ではないのですね」
 抜かれてもなおペースを維持する氷室。

 その遥か前方では、激しいデットヒートが繰り広げられていた。
「流石は『『最強のキングズ』というところかのう。じゃが、この鈴鹿御前、1度前に出た以上、貴様如きに抜かれはせぬぞ」
 逃げの戦法。
 『静かなるスズカ』はここまで神懸かりの加速を見せていた。
 だが、すぐ後方には『最強のキングズ』が待機。
──キィィィィン
 突然マピロマハの視界が揺らぐ。
(は? 何?)
 目の前の『静かなるスズカ』の動きがスローに見える。
 そして次に『静かなるスズカ』がどう動くのか、その一挙一足等の全てが『予測』できたのである。
(次に馬体が下がる? 右に‥‥今だ!!)
 それは一瞬。
 逃げきれると思っていた『静かなるスズカ』の速度がいきなり落ちる。
「ど、どうしたのじゃ鈴鹿御前!!」
 スタミナ不足。
 長距離には向いていない馬体。
 実際はオーバーペースではない。
 最初に加速し逃げをうったのも、そのように錯覚させただけであり、『静かなるスズカ』自体のペースはそれほど高くなかった筈。
 ならば何故?
 その疑問を他所に、真横を『最強のキングズ』が駆け抜けた!!

 残り500m通過、最終コーナーを曲がり最後の直線に入ります!!
「ううううううわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 『最強のキングズ』、曲がりきれずにコースアウト!!
 そのままコースを明後日の方向に走り始めた。
「たーーーすーーーーけーーーーてーーーーー」
 絶叫を上げるマピロマハ、そして鈴鹿御前が再びトップへ。
「今だっ!!」
 『怒りのブライアン』起動!!
 鬼神の如き加速を始める『怒りのブライアン』と、疾風の如く走り出す『風のグルーヴ』。
「‥‥いきますよ、グルーヴ!! 今が駆け抜ける時です」
 だが、その横をさらなる加速で駆け抜ける馬が一頭。

 『旋風のクリスエス』

 いきなりの加速、コーナーからの間合の取り方、全てが純直にとっては予測外。
 最後の直線では、殆どの馬が横一線に並び始める。
 残り200m。
 そしてわずかに鈴鹿御前が後方へと下がり始める。
「あと少し‥‥もう少しなのじゃ‥‥残してきた力、全て使うのじゃ!!」
 真那の言葉に、『静かなるスズカ』も応えようと馬体を前に引っ張る。
 だが、既に遅かった‥‥。
 一着争いは『旋風のクリスエス』、『怒りのブライアン』、『風のグルーヴ』の三頭に絞られ始めた。
 『レディエルシエーロ』は『静かなるスズカ』と競い、最後尾にだけは付かないと意地を見せる。

「ゴォォォォォォォォォォォォルッ」
 一着は奇跡の加速でトップに食いついた『旋風のクリスエス』。
 二着は僅か鼻差で『怒りのブライアン』、続いて『風のグルーヴ』が三着。
 少し遅れて四着に『レディエルシエーロ』、頭差で『静かなるスズカ』が五着でゴール。
 遅れること10分でコースに戻った『最強のキングズ』がゴール。

1着:『旋風のクリスエス』
2着:『怒りのブライアン』
3着:『風のグルーヴ』
4着:『レディエルシエーロ』
5着:『静かなるスズカ』
6着:『最強のキングズ』

 第一戦は無事に終了した。
 一着を取った『旋風のクリスエス』は、次のレースでは最もスタート時に尤もよいポジションである第1枠からのスタートが決定した。
「それでは表彰式を始めます!!」
 トップの純直、そして二着のカルナックが表彰台に昇る。
 大勢の拍手の中、二人は賞金を手し、応援してくれていた観客達に手を上げて答える。
「よく頑張りましたね。まだレースは始まったばかりですから‥‥」
 カイは『風のグルーヴ』と共に会場を後にする。
「全ての条件で良い結果をもとめません。『レディエルシエーロ』には、自分にあった勝負所で全力を出してもらいますから‥‥」
 氷室もまた、ゆっくりと会場を後にする。
「今は休むのじゃ‥‥まだ、勝負は始まったばかりじゃからのう‥‥」
 鈴鹿御前を引き、真那はそう呟いた。
 そしてレース会場の外では、マピロマハが静かに『最強のキングズ』を見つめている。
「どうなったんでしょう‥‥私の目に、何か起ったのでしょうか‥‥」
 じっと両手を見つめるマピロマハ。
 確かに、あの一瞬『静かなるスズカ』はスローモーションになった。
 いや、正確にはそんな感覚が、マピロマハの脳裏を駆け抜けたのである。
「不思議な‥‥入り込んではいけない領域が見えた‥‥」
 そんなマピロマハを気遣うように、『最強のキングズ』はじっと其の場で立ち止まっていた。
 間もなくウイニングラン。
 今回のレースから、一着と二着、二頭によりウィニングランが行われることになった。
 『旋風のクリスエス』、そして『怒りのブライアン』が勝利の美酒を味わうことが出来た‥‥。


〜To be continue