ジョーンズ・リポート〜焔の魔人〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月27日〜03月05日

リプレイ公開日:2005年03月04日

●オープニング

──事件の冒頭
「‥‥教授、教授ぅぅぅ〜。地下神殿の構造封印の処理方法、解析成功です。これで第四階層より下の階層に突入しても、全ての結界が同時に解除される事はありません!!」
 それはミハイル・ジョーンズ教授の元で仕事を貰っている若き考古学者のシャーリィ・テンプル嬢。
 毎回様々な遺跡に出かけては、不思議なアーティファクトや石版を持ってくるミハイルの身の回りの世話もしている、可哀想な少女である。
 ここ最近は、教授より許可を得て、自分の発見した石碑についての調査を行なっているらしいが・・・・今回のような難解な解読となると、彼女の閃きが必要であるらしい。
「ふむふむ。これでよい。いよいよ『精霊武具』を生み出す為の探求開始するぞ!! シャーリィもご苦労じゃったな、。あとはワシと冒険者でなんとかするぞ。自分の研究を早速始めてくれい」
「判りました。でも、くれぐれも気を付けてくださいね・・・・」
 そのシャーリィの言葉に、ミハイルは静かに肯くと、愛用の帽子を深々と被り、外に出ていった。

──冒険者ギルド
「‥‥あら、これは教授、随分と御無沙汰していましたわ」
 薄幸の受付嬢は、ギルドの扉からミハイル教授の姿を見たとき、思わずそう口走った。
「うむ。それでは早速依頼書を作成しようかのう・・・・」
 そう呟くと、ミハイル教授はカツカツとカウンターに進んでいき、そのまま依頼の内容を説明した。
「今回の依頼じゃが。いよいよ『精霊武具』を生み出す為の調査を開始するのじゃ。今まで調べていた様々な遺跡などから回収された武具、それらに『精霊の加護』を与えて貰わなくてはならない。幸いなことに、彼の『プロスト領』には、それら古代の精霊を封じ込めた構造結界が存在する。そこに向かい、それぞれの精霊より加護をうけるのぢゃ‥‥」
 そう呟くと、教授は写本を開き、とあるページをトントンと叩く。
「ここの地下第四階層。眠りしは古の『焔の魔人』。言葉による交渉はほぼ不可能。なれば、実力のある冒険者の手によって魔人を服従させればよい!!」
「そんな簡単に・・・・って、まあ、最近はどんなことがあってもへこたれない冒険者が揃っていますから。お任せください!!」
 そのままミハイル教授を送り出すと、ギルド員は掲示板に依頼書を張付けた。

●今回の参加者

 ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea1703 フィル・フラット(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3448 チルニー・テルフェル(29歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●というわけで〜久しいなぢぢい〜
──ミハイル研究室
 依頼を受けた一行は、酒場マスカレードから非定期馬車(別名・ノーヴァンリッター号)に乗ってプロスト領まで移動。
 そこから城下街に入り大聖堂の横を通り抜け、一路ミハイル研究室へと到着したのである。
「おお!! 随分と久しぶりぢゃな!!」
 丁寧な口調でそう話し掛けるのは、御存知『ミハイル・ジョーンズ教授』である。
「ギルドから依頼を受けてやってきました。どうぞよろしくお願いします・・・・」
 丁寧な口調でそう挨拶を返すのはフランシア・ド・フルール(ea3047)。
──パタパタパタパタ
「きょうじゅー。チルニーもきたよー」
 そう叫びながら頭を下げているフランシアの横を通り過ぎていくのはチルニー・テルフェル(ea3448)。
「おお。よくきたのう。よしよし、団子食べるか?」
 あんた、最近そればっかり。
「フランシアさんと申したかな? まあそんなに固くならなくてもよいよい。どうやら今回のメンツも、ワシの知合いが多いようですし。気楽にお願いしますわい」
 そう教授に告げられて、フランシアは少々拍子抜けした模様。
「はぁ。それでは失礼します」
 そのまま奥の居間へと案内されると、一行はお久しぶりのシャーリィ・テンプル女史とも御対面である。
「今回も皆さんが教授の依頼を受けてくださったのですね・・・・あら? おじさまは今回はいらっしゃっていないのですか・・・・」
 残念そうにそう呟くシャーリィ。
「おじさまねぇ・・・・さてさて、どのおじさまですかねぇ・・・・」
 オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)が冷やかし半分でそう呟く。
「え、あ、失礼しますっ!!」
 シュタタタタとトレイ片手に走り去っていくシャーリィ。
「さて・・・・ロックハート、掛かってこい!!」
 もういつものやり取りが来るのを理解している常連メンバーは、その時点で真剣な眼差しに切り替わる。
 遺跡調査隊として初参加のフランシアとヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)そしてルイス・マリスカル(ea3063)は、何が起こるのかは理解していない。
 と、ロックハート・トキワ(ea2389)は口許にニィッと笑みを浮かべると、早速いつもの質門攻撃である。
「教授!! 『清水の靴』が眠っていた遺跡が何処にあるかわかるか?」
「ここから1日、グレイファントム領の未探索地域の小さな滝の底じゃな・・・・色々な説があるが、そこが最も有力じゃて」
 早速羊皮紙にメモを取る御一行。
「魔人を倒したら、一定の手順を踏んで加護を受けるのか?」
「知らん!! 加護を得る事のできる精霊はそれぞれ個性が強すぎて良く判らん!!」
「下まで一緒についてくるのか?」
「誰が第五階層封印の固定と解除処理をすると思っておる?」
 ふむふむ。
 こういうやり取りが普通の人たちなのですねと、ルイスは改めて関心。
「俺も教授とは初めてだな・・・・考古学者のラシュディアだ。古代魔法語は嗜み程度に学んでいる。何か役に立つかもしれないから、なんでも言ってくれ!!」
 その言葉に、ミハイルはちょっと席を立つ。
 そして一枚のスクロールをラシュディア・バルトン(ea4107)に手渡して一言。
「声にはださんで良い。何が記されているか判れば手を上げてくれ」
 早速そのスクロールを机の上に広げるラシュディア。
 そして他のメンバーも興味本意でそれを読もうとレッツチャレンジ!!
 そして全滅!!
「? 嘘だ・・・・この俺でも判らないなんて・・・・」
 ラシュディア、自信はあったものの、解析困難状態。
「どうじゃ?」
「いや、4大精霊の理がなんちゃらら〜っていうのは理解できたんだが、それに繋がる部分がいまいちピンと来ないです」
 丁寧な口調でショボーーーン。
「ほう。そこまで判れば良い。そこから繋がる部分なんて、ワシが適当な単語を並べただけじゃ。そこからの発想力がこれからは必要になる。一見何でも無い単語の配列にも、必ず意味がある。古代の人々の残した遺跡を調べるには、知識よりも経験と閃きが大切じゃて」
 おお、合格の模様。
「加護を得てから、第五階層の結界処理にはお主の力を借りるぞ。ワシは魔法を使えぬのでな」
 そのまま一行は、これからの打ち合わせを念入りに行なっていた。


●炎の魔人アタック〜第三階層までは楽勝でした〜
──第三階層最深部
 ちょいと狭いフロアには、様々な魔法文字が書き記されている。
 中央床には、さらに地下である第四階層へと続く一枚の扉。
 その周囲の床は、熱により少し溶け、彼方此方に小さな穴が開いている。
「・・・・これは参りました・・・・」
 その光景を見て、ルイスがそう呟く。
 というのも、このプロスト卿の古城、地下階層掃除の依頼をルイスは受けていたことがある。
 この第三階層で起こった出来事も含め、ルイスは有る程度の情報は持っていた。
「何がどうしたのですか?」
 丁寧に問い掛けるフランシア。
「どうやら、炎の魔人が物理的に階層を破壊しようとしている節がありますね。これも、今までに幾度となく結界を解いたりしていたからでしょうか?」
 ルイスがそうミハイルに問い掛ける。
「うーむ。可能性はあるのう。これまでに蓄積されていた魔力による結界が解除された事によって、その力の半分以上を失ってしまったとか・・・・」
 そんな呑気なことを呟きつつも、ミハイル教授はあちこちの壁を調べては、何やらブツブツと唱えている模様。
「あ、ひょっとして結界の固定と解除云々っていう奴か? 手伝うぜ教授!!」
 そういいつつラシュディアが近づいていく。
「ここじゃて。ここからここまで 詠唱を頼む」
 トントンと壁に記されている文字を叩きつつ、ミハイルがそう告げる。
「さて・・・・と・・・・と・・・・ん・・・・んん?」
 はい、解読失敗。
「教授、これは何語?」
「古代魔法語でも、かなり難易度の高い部分じゃな。読めぬのか?」
 ということで、ラシュディア、さらにチャレンジ!!
「上等。なら絶対に読んでやるぜ」
 そういきり立つラシュディアに、ミハイルは静かに肯く。
「では・・・・・・・・」
 すぐに意味不明の言葉がラシュディアの口より紡がれる。

 精霊に問い掛ける。
 神に問い掛ける。
 人に問い掛ける
 悪魔に問い掛ける。
 いくつもの言葉が紡がれていく。

 その為の言葉をゆっくりと紡いでいくラシュディア。
──ギィィィィィィィッ
 やがて壁のあちこちが静かに点滅を開始すると、中央の扉が静かに開いていった。
「さてと、では、早速準備して地下に入りましょうかぁ!!」
 オイフェミア、久しぶりの遺跡に心うきうき、身体ドキドキ模様。


●地下第四階層〜流石は精霊ですな〜
──迷宮
 地下第四階層は、自然洞をベースに作られたエリアで構成されている。
 壁の部分には一定の間隔で古代魔法語が刻みこまれており、結界の役割を行なっているようである。
 そして文字が刻まれていない部分は、壁が解けて固まったようないびつな部分が彼方此方にあった。
 高熱で溶かしきれずに殴りつけたような跡まである。

「では、隊列を整えるとしましょうか?」
 ロックハートの言葉に、一行は隊列を整え始めた。
 で、お約束の隊列タイム。

〜〜〜図解〜〜〜
・上が先頭になります
・遺跡内部での灯はチルニーとオイフェミアが担当
・二人はメンバーからランタンを借用
・マッパーはラシュディアが担当
 トラップ関係はロックハートが、そのサポートにチルニーが付く
・戦闘時はミハイル教授が荷物の護衛
・また、必要に応じて各員が松明の準備
・戦闘時はフィル・フラット(ea1703)、ルイスは前衛へ、ロックハートは後方へ

        
       ロックハート
      フィル ルイス  
   チルニー 教授 オイフェミア
    フランシア ラシュディア
        ヴァレス

〜〜〜ここまで〜〜〜

 と言うことで、第四階層の探索は始まった。
 兎に角、この階層は暑い。
 熱気吹き上げ、汗ダラダラ。
「教授〜暑いよー」
 ゼイゼイと呟くチルニー。
「うーむ。全くじゃわい。只でさえ暑いのに、さらに迷宮化とは全く持って洒落にもならんわい・・・・」
 そう呟きつつも一行は道なりに進む。そして道が前方でカクッと曲っていた為、ロックハートがまずは斥候として偵察に。
──バッタリ
 と、曲がり角から先を確認しようと頭を出したロックハート。
 その正面では、全身を炎に包まれたような炎の魔人が立っていた。
「グルルルルルルルル・・・・」
 まるで地獄の底から沸き上がるような低い唸り声を上げている炎の魔人。
「あはっ!!」
 あ、ロックハートが一瞬だけほうけた顔になるが、直にいつもの冷静さを取り戻し、ゆっくりと炎の魔人を刺激しないように曲がり角を戻っていく。
 そして一行に向かって駆け足で近づいていくと、開口一発!!
「魔人、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
──グォォォォォォォォォォッ
 激しい唸り声と同時に、炎の魔人が曲がり角より出現!!
「イフリートだぁぁぁぁ」
 チルニーは、持ち前の知識から精霊に関するものを引きずり出す。
 そして皆に聞こえるように、取り敢えず名前だけでも叫んでみた。
「あとは任せたっ!!」
 素早く借り物のダガーofリターンを引き抜くロックハート。
 それとほぼ同時に、フランシアの魔法も発動。
「タロン様・・・・私達に貴方の加護を与えたまえ・・・・」
──ブゥゥゥゥン
 隊列を組んでいるパーティーがホーリーフィールドに包まれる。
 目にこそ見えないものの、内部にいる冒険者達はフィールドアウトしないように注意しつつ、前方から走ってくるイフリートに対して攻撃体勢を整えた。
──ゴゥゥゥゥッ
 イフリートは素早く駆けて来ると、そのまま前列にいるフィルに向かって拳を叩き込んだ!!
──ギィン
 それはフィルには届かない。
 フィルの前方の空間に拳が直撃すると、命中した『空間』が虹色に輝く。
 素早くもう一撃。
 今度は直撃する瞬間に、イフリートの拳が燃え上がった!!
──ガギィィィィィン
 直撃したホーリーフィールドが吹き飛ぶ。
「そんな!! いきなり破壊されるなんて」
 初めて唱えたホーリーフィールド。
 そして完成した結界・・・・。
 自信はあった。
 タロンが加護を与えてくれたのだと信じた。
 それが、ほんの数十秒の間に破壊されてしまったのである。
 フランシアの信仰心が足りないわけではない。
 それほどまでに、イフリートという存在は脅威なのである。

「待って!! 話を聞いて!! 私達は貴方と戦いに来たのではないの。この楯に加護を与えて欲しいの」
 チルニーがミハイル教授の構えている『守りの楯』を指差してそう叫ぶ。
『ナラバ、チカラヲシメセ・・・・』
 そう言いたげに、口許に笑みを浮かべるイフリート。
 ぞろりと並んだその牙が、今にも一行に喰いかからんとしていた。

──スカッ
「ならば、力で屈伏させるまでてす!!」
 素早く前に飛び出すと、ルイスはイフリートに向かって斬りかかった。
 だが、その一撃は素早く回避されてしまう。
 嘲笑の笑みを浮かべるイフリート。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
 素早く回りこみ、フィルが渾身の一撃を叩き込もうと剣を振るうが。
──シュンシュンッ
 その二撃すら素早く躱わすイフリート。
「・・・・大地の精霊よ・・・・彼のものに怒りの鉄槌を与えたまえ!! グラビティキャノン!!」
──ゴゥゥゥゥゥゥッ
 オイフェミアの放ったグラビティキャノンが発動!!
──ゴゥッ
 突然イフリートが炎の弾を形成し、オイフェミアの放ったグラビティキャノンに向かって飛ばしていった。
「相殺ですって?」
 まさかそのような高度な技を仕掛けてくるとは、オイフェミア達は思ってもいない。
──ジュッ!!
 直線上に飛んできたグラビティキャノンはイフリートの放ったファイアーボムによって打ち消されてしまう。
 さらに!!
──ドッゴォォォォン
 相殺では無く一方的な消滅。
 ファイアーボムはグラビティキャノンを打ち消した後、オイフェミア達の元に到達、そこで爆発した!!
「うぉぉぉぉっ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
 たちまち爆炎に呑み込まれてしまう後衛達。
「貴様ぁぁぁぁっ」
 その爆炎の中でも、詠唱を止めずに続行していたラシュディア、渾身のウィンドスラッシュが炸裂する!!
──ザシュュュュッ
 それはイフリートの肉体を切り裂く。
「いけますかっ!!」
 さらにルイス、再び攻撃。
──ドシュュュュッ
 下手な小細工では明らかに躱わされてしまうと考えたルイスは、一撃を確実に当てる作戦に変更。
 イフリートの胸部に裂傷を叩き込む。
 そしてフィルはカウンター待ちの体勢に切替えつつ、後方にいる仲間たちに向かって攻撃が飛んで行かないように注意を引く作戦にでる。
──バリバリバリバリッ
「くらえっっ、ライトニングサンダーボルトっ!!」
 ヴァレスが腰からスクロールを引出すと、力一杯精霊に対して呼び掛ける。
 風の精霊はその呼び掛けに対して呼応し、ヴァレスに力を与える。
 そしてヴァレスは、イフリートに対してライトニングサンダーボルトを叩き込んだ。
 その驚きに対して、チルニーは何かを思い付いた!!
「イフリートは炎の精霊。上位である水の精霊による魔法は効果を発揮するけれど、大地は下位だから半減してしまうのっ!! 風は対極の位置だから力のバランスは同じ筈。水の魔法をお願い!!」
「チ、チルニーっ。私は大地の精霊使いなのよっ!!」
「俺は・・・・まだ水の魔法を修得していないってば!!」
「そうそう都合よく水の魔法のスクロールなんて持っていないってば!!」
 後衛のはげしいまでの総つっこみ。
「大丈夫です・・・・タロンは貴方たち勇気あるものに力を与えます・・・・」
 そう呟くと、フランシアがホーリーフィールドを発動。
 ブラックホーリーでの攻撃を考えてはいたものの、仲間たちの危機を救う為には、今は守りに徹して時間を稼ぎ、突破口を切り開く方法を考えるのが先決であると考えた模様。
「考えるのです!! この事態を収束する方法を・・・・」
 
 そんな中、前衛であるルイスとフィルも、兎に角一手を確実に叩き込むという作戦を続けている。
──ドシュッッッッ
 特にフィルは、イフリートの拳の攻撃タイミングに合わせてのカウンターアタックを炸裂させた。
「どうだっ。効いたかっ!!」
──シュゥゥゥゥゥゥ
 それは驚愕の光景。
 カウンターアタックを叩き込んだイフリートの肉体はかなりの深手を受けていた筈である。
 にも関らず、その傷は見る見るうちに『再生』していくではないか。
「グッ・・・・グォォォォォォ」
 だが、イフリートは絶叫を上げて、自分が来た方向に向かって走り出した。
「何? 一体何が起こったんだ?」
 ロックハートはその間に、ヴァレスが作り出したアイスチャクラを受け取ると、それをイフリートに向かって投げ付けている。
──ザシュッ
 その背中を深々と傷つけるアイスチャクラ。
 そしてそれはロックハートの手元にも戻ってくる。
「気を付けたほうが良い・・・・絶対に何かある!!」 
 ルイスは後方で待機している仲間たちに向かって、いつでも逃げ出せる準備をするように告げた。
──ザシュッ・・・・ザシュッ
 やがて、廊下の向うからイフリートの足音が聞こえてくると、一行は『見たくない光景』を見てしまった。
 巨大な『炎の剣』を携えたイフリートが、憤怒の表情で一行の前に現われたのである。
 イフリートは一行に向かって襲いかかる。
──ザシュッ 
 さらに後方から、もう一体のイフリートが姿を表わしたとき、一行は絶叫を上げて逃げ出していた・・・・。


●第三階層〜反則級の強さです〜
──封印処理完了
「ぢぢぢぢぢーーーーさん、あれは一体なんなんだぁ!!」
 あの直後、後方から襲いかかってくるイフリートが一行に向かって次々とマグナブローを連発。
 ともすれば魔力が切れてしまうのではないかというぐらいのすさまじい攻撃であった。
 オイフェミアもストーンを唱えてみたものの、それは完全に抵抗されてしまい、効果を発揮しない。
 取り敢えず怪我を癒す為、手持ちの薬などを使っていく一行。
 足りない薬はルイスから借り、どうにか全員が傷の手当を行った。
「・・・・これは、メンバーの強化、増援を必要とします。タロンよ、これも私達に課せた運命なのでしょうか・・・・」
 天空を扇ぐフランシア。
「・・・・役に立たなかった・・・・ちるにー、なにも出来なかったよぉぉぉぉぉ」
 隅っこでメソメソと無くチルニー。
「そんなことないわよ。チルニー、貴方の持っている精霊の知識が無かったら、私、もっとイフリートにグラビティキャノンを打っていたから。そうしたら、また相殺されていたし、皆が傷つくでしょ? イフリートの魔法カウンター攻撃をさせないように、前衛に意識を集中してもらえるようになったでしょ?」
 そうオイフェミアに告げられて、チルニーもまず一安心。
「それはそうとして・・・・教授、精霊の加護を得る条件、イフリートからでなくては駄目なのか?」
「ちょっとまっておれ・・・・」
 ロックハートの問いに、ミハイルは写本をパラパラと調べていく。
「第五階層以下の精霊との交渉・・・・うーむ。第四階層を越えねばならぬのう」
「でもまあ、地図はあらかた出来たし。あいつの出現位置がここだとして、こう回りこんで、こっちはまだ調査していないと・・・・で・・・・」
 マッパー担当のラシュディアが地図を調べていく。
 いつのまにか、他の仲間たちも集ってきては地図の解析作業を見守っている。
「と・・・・ここでおそらく・・・・よし。教授、これは賭けなんだが、多分予測では、この先とここのエリア・・・・イフリートの出現ポイントより奥は繋がっている可能性が高い」
 ふむふむと一同肯く。
「まだ調べていない場所はここだけとして、うまくいけば、イフリートと合うことなく第五階層に向かえるんじゃないか? 他の階層まで逃げてしまえば、イフリートは追いかけて来ないとかはないか?」
「各精霊は、その階層などに封印されていてのう。扉が封印の鍵でもある以上、飛込んで扉を調べて扉を閉じれば追ってはこれまいて・・・・」
 そのミハイルの言葉を信じ、一行はまず、失った魔力と体力を回復する為に研究室へと戻っていった。


●そして翌日〜再度アタック〜
──地下第三階層に戻ってまいりました
 リターンマッチとしてラシュディアの作戦を実行していた翌日。
 地図を頼りに、周囲に対して慎重に進んでいた一行は、目的地である『第五階層』へと続いている扉の有るエリアには辿りつけなかったのである。

 そこは行き止まりだったから・・・・。

「ゼイゼイゼイゼイ・・・・」
 急いで扉を締めて、再度封印を行うミハイル教授。
 怪我の手当、残り少ないポーションによる回復、重傷まで追込まれたチルニーの手当など、やらなくてはならないことは沢山あった。
 特にチルニーは、イフリートに無謀にも突っ込んでいって囮になったのだから堪らない。

 なにも出来ない自分が歯痒かったのであろう。
 少しでも、皆の為になりたかったのであろう。

「・・・・済まない・・・・」
 ラシュディアの作戦を信じて地図の先へと向かっていった一行。
 そして繋がっている筈のエリアはなんと行き止まりの袋小路。
 さらにイフリートがやってきて事態は最悪な事になってしまった。
 今回は一体だけであったが、それでも本気のイフリート。
 一筋縄では行かないのも道理。
 チルニーが果敢にも特攻して活路を開き、あとはフランシアがひたすらホーリーフィールドを形成。
 ヴァレスのスリープ、オイフェミアのストーンなど、高速詠唱の対象とならないであろう魔法の援護も効果なし。
 精霊は魔法に対して高いレジスト能力を持っているという事も、今回のチャレンジで判った模様。
「さて・・・・これからどうしますか?」
 空になった『最後のヒーリングポーション』をバックバックにしまい込むルイス。
「教授。これは提案なのだが・・・・」
 ラシュディアが静かにそう口を開く。
「ハアハアハアハア・・・・ちょっと待ってくれ、まだ苦しいわい・・・・ハアハア」
 流石に年の製であろう、ミハイルもかなり辛そうである。
「フウフウ・・・・よいぞ」
「今回の依頼、これ以上先に進むのは不可能。パリに戻って仲間を増やすことを提案する。残った時間は、とりあえず皆で教授の家の写本などを調べ、イフリートについてもっと学んだほうが良いかと・・・・」
 その提案には、一行も納得。
 薬が切れ、そして手だての見つからない状況。
 一体かと思ったイフリートがまさか二体姿を表わすとは思っていなかったのであろう。
「でも・・・・イフリート、楽しそうだったよねえ・・・・」
 二度目の突撃で、チルニーは何となくそう感じていた。
 自分が囮となった時、確かにイフリートは楽しそうな笑みを浮かべて戦っていたのである・・・・。
 そして一行は、残りの時間を研究室での調査に費やし、パリへと戻っていった。
 そしてミハイル教授は、すぐさま増援を求めるべく冒険者ギルドに向かっていった。


〜To be continue