●リプレイ本文
●ということで。
ガラガラガラガラ
静かに馬車は走りつづける。
ミハイル教授の依頼を受けた一行は、最後の時間まで教授と共に過ごす為、楽しい一時を過ごそうとしていた。
「そこの馬車止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
旧街道を馬車で走っていた一行の前に、数名の山賊風の漢達が立ちはだかった。
「ここから先は、我々『ノルマン自由連合』の土地だ。通りたくば、身ぐるみ置いて‥‥」
──ガチャッ
静かにフィル・フラット(ea1703)が馬車から降り、スッと抜刀。
「いや、身ぐるみではなく、そう、荷物だけを‥‥」
──ガチャッ
静かにカーツ・ザドペック(ea2597)が馬車から降りてブゥンと勢いよく抜刀。
「いやいや、荷物を半分置いて‥‥」
──ガチャッ
さらにルイス・マリスカル(ea3063)が静かに降りて、やれやれといった表情で抜刀。
「そ、そうだ、せめて何かを置いていってはくれないか?」
──チャキッ
そう弱腰に呟いた山賊の首筋に、後からナイフを突きつけるロックハート・トキワ(ea2389)。
「あ、ご‥‥ごめんなさぃぃぃい」
悲鳴をあげつつ、山賊達はそのままトンズラ。
「まったく‥‥これだから旧街道は通りたくないのよッ。本当に物騒なんだからっ‥‥」
馬車の中でそう吐き捨てるように呟いているのはオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)。
「まあ、昔から『安全な旅は表で、危険が欲しくば裏へ』というのがここの街道じゃからのう」
フォフォフォと笑いつつそう告げるのはミハイル教授である。
「初めて教授の依頼を受けたのが去年の夏か‥‥。長かったようだが、短く感じるな」
フィルは遠くを見るように、そう告げた。
「そうそう。あの時は大変だったよねー」
その時の地下迷宮に同行していたチルニー・テルフェル(ea3448)もまた、その当時を思い出している。
「まったく、あの時は‥‥いや、あれだけじゃない‥‥あの時も、あの時も‥‥」
ふと、昔からずっと同行していたロックハートが、今までの依頼の中での教授のヘマを次々と思いだす。
まるで、走馬灯の如く。
「あ‥‥なんか腹立ってきた」
眉間にしわを寄せて呟くロックハート。
「まあいいか。教授、ラシュディアが用事があってこれないって‥‥宜しく行っておいてくれと頼まれたぜ」
「そうか。残念ぢゃのう‥‥」
懐から一つの鍵を取りだし、それをじっと見つめるミハイル。
「それはなんでしょうか?」
やはり今回同行できなかったレイルの代わりに、ニミュエ・ユーノ(ea2446)がそう問い掛けた。
「パリの研究室の鍵ぢゃよ。まだ色々と使いみちがあるので、ラシュディアにでも『預けておこう』と思ったのぢゃが‥‥」
「使いみち?」
「うむ。ほれ、この前、んーと、エロいレンじゃォーの、ほら、なんといったかのう‥‥」
「ああ、ヘタレンジャーか」
「じゃったかな? 彼の恋人を助けて欲しいと‥‥色々と調べていたのぢゃよ。出発前に会いたかったのぢゃが‥‥」
そう告げると、ミハイルはロックハートに一つのスクロールを手渡す。
「これは?」
「封じられし魂の分離方法じゃよ。といっても、悪魔の持つ、『デスハートン』という魔法が必要じゃて、どこかで弱い悪魔でも探し出して、威してやればいい。分離された魂を肉体に戻すには、そうじゃな‥‥口から摂取させればよいぢゃろう」
スクロールを開いてそう説明するミハイル。
「成る程ねぇ‥‥」
「問題は悪魔ぢゃな。なんとか調べてやりたかったのぢゃが、こっちも色々と忙しくて『にっちもさっちも』いかんかったわい‥‥」
ハァ、と溜め息一つつくミハイル。
「ん?」
馬車の御者台で待機していたカーツが、前方で何か不審なものを発見する。
それは倒れた木。
「ちょっと見てくるわねー」
「では私も」
そう告げると、黄牙虎(ea4658)とアミ・バ(ea5765)が偵察に。
(木の切り口からいって、作為的に街道に向かって倒されたものね‥‥木に仕掛けられているロープと‥‥)
トラップが仕掛けられているのを、牙虎が発見。
その先にはどうやら数名のオーガが隠れているようである。
(ふぅん‥‥罠を使うなんて、オーガのくせに生意気ね)
そう考えるアミ。そして一通りの状況確認をすると、二人は馬車に戻る。
そして馬車で待機していた仲間たちに説明をすると、今度はルイスとカーツ、フィル、ロックハートといった屈強な漢達を引き連れて木を排除しにやってきた。
──ガザザッ
「ウガグガァァァ」
と、4匹のオーガが草陰から飛び出し、一斉にルイス達に向かって襲いかかる。
──ビシィィィッ
だが、そのうちの一人は氷の棺によって突然閉じ込められる。
「本当に、単純ですわ‥‥」
シルヴァリア・シュトラウス(ea5512)のアイスコフィンが発動した模様。
「ウゴガガ‥‥が?」
一体がロックハートに切りかかる。
が、その脚は途中で草むらから伸びた蔦に絡められてしまう。
遠くでは、やれやれといった表情で精神を集中しているオイフェミアの姿が。
(まったく面倒くさい‥‥とっとと始末してよ)
──ガキィィィン
その通りとでもいわんばかりに、カーツとフィルが一気に襲ってきた敵オーガを瞬殺。
「昔は、オーガなんてまともに相手できなかったよな‥‥」
「ああ。グレイファントム領で仕事をしていた時代なんて、かなり辛かった‥‥」
フィルとカーツがそう呟く。
そして再び馬車は走り出した。
●月夜谷の遺跡群
──儀式の祭壇前
明日の夜。
この地に月道が開く。
残った僅かの時間を、一行たちは楽しんでいた。
持ってきた酒をミハイル教授に差し出す。
それを全員で飲みまくる。
まさに呑め呑めイェーイ♪〜というかんじである。
「さて‥‥もうすぐだな」
ロックハートが突然そう呟く。
と、ミハイルは何かを感じたらしく、咄嗟に身構える。
そして、その雰囲気を一行は楽しそうに見守っていた。
「これが、最後になるかもしれないのか」
「おう、掛かってこい!!」
そういうやり取りを始めた二人の、御存知掛け合い漫才型質問モード。
「精霊武具に何か変化はあったか?」
「精霊色に染まっただけぢゃな‥‥」
「ムーンロードは必要なのか、使い手がいないのに如何するのか」
「知識の額冠が告げている。アルテイラがやってきて開くとな‥‥」
「一人だけしかいけないのか」
「精霊の加護を受けし者のみじゃて‥‥この全ての精霊武具を身につけた者のみぢゃな‥‥」
「戻ってくるあてはあるのか」
「いってみないと判らんわい!!」
実に楽しそうである。
「まあまあ、とんち問答はそのへんにして‥‥酒の肴も出来ましたよ!!」
ひよこの模様の入ったエプロンを付けたルイスが、両手に出来たてのつまみをもってやってくる。
「ほう‥‥これをルイスが?」
「ええ。簡単なものですが‥‥よろしければ」
それを全員が口の中に放り込む。
「ふーん。なかなか美味いじゃないか」
とは男性陣の弁である。
だが、問題は女性陣。
「うーん。もう少し塩加減をね‥‥でもおいしいわよっ」
料理はプロ級の牙虎の合格点であるが。
(な、なによ‥‥なんでこんなに美味しいのよっ)
(ルイスさんにこんな隠された力があったなんて‥‥)
(ま、負けたかも‥‥ガクッ)
(しふしふー。こんなに美味しいのは久しぶりなのー)
以上、シルヴァリア、アミ、ニミュエ、チルニーでした。
──そして翌日・夜
月が天空にやってくる。
「そろそろぢゃな‥‥」
ミハイル教授はすでに精霊武具を全て装備し、あとは儀式を待つばかりとなっていた。
──ボゥゥゥッ
中央の台座と、その周囲に位置する6つの水晶柱。
その柱が一つ、また一つと輝き始める。
「それでは教授。ご武運を祈っています」
ルイスがガシッと握手。
「うむ。あとの事は頼むぞ‥‥」
「帰りは任せておけよ。皆を安全に送り返してやるらな‥‥風邪ひくなよ。達者でな!」
ルイスの横で、カーツが口許に笑みを浮かべてそう告げた。
「この杖でも、通る事の出来るのは『選ばれし者』のみでしたわね‥‥」
「うむ。選ばれし者のみが使える‥‥じゃったな」
シルヴァリアがミハイルに杖を渡す。
そのことについては、ここに来るまで色々と論議していたミハイルとシルヴァリア。
その時間が、シルヴァリアにとって楽しい一時であった。
「教授。一つの夢が叶いましたわね。次の夢は?」
「次か。アトランティスの神秘を探求したいのう‥‥皆と」
そう告げて、ミハイルは瞳を細くして皆の方を向く。
♪〜
遺跡の帝王 その名はミハイル
ミハイルがその指さすところ
助手はおどろき 研究員とまどう
やがて謎をあばくまで
ミハイルは悪魔の依頼を出す
それ行け冒険者 ヒュルヒュルヒュルルル
それ行け冒険者
♪〜
素っ頓狂な歌を歌い始めるオイフェミアだが。
ミハイルはそのオイフェミアにもウンウンと肯く。
「オイフェミアも元気でな」
「じっちゃんもね。いい? 私より先に死ぬんじゃないよっ!!」
それがオイフェミアの精一杯の言葉。
すぐさま後を振り向くと、再び歌を歌いつづけた。
♪〜
考古学の‥‥教授 その名はミハイル
ミハイルがその‥‥手を‥‥出すときに
ガスがふきだし 毒針とびだす
やがて宝は‥‥わし‥‥のもの
ミハ‥‥イルはアト‥‥ランチスの道をひらく
それ行け‥‥冒険者 ヒュルヒュルヒュルルル
それ行け‥‥グスッ
♪〜
涙に震えるかすれたような声で‥‥。
「ニミュエさん。レイルに宜しく伝えておいてください。立派な冒険者になってくれと‥‥」
「判りました。何処に出ても恥ずかしくない冒険者になるように伝えて(鍛えて)おきます‥‥」
ニミュエもその瞳に、うっすらと涙が滲んでいる。
「あんた、酒は飲んだよな‥‥? ほら、俺は飲まないからこのワインを持っていけっ」
ロックハートがそう告げて、ミハイルにグイッとワインを突きつける。
「ロックハート‥‥お主」
そう告げた時、ロックハートはその瞳からボロボロと涙を流していた。
「‥‥いや、泣いてないからっ、全然悲しくないからっ、寧ろ嬉しいから、厄介な事が一つ減るから‥‥」
必死にそう告げつつ、ニィッと歯を剥き出しにして子供のような笑顔を見せるロックハート。
「‥‥あ〜‥‥うん、そう。また何時か会える時がくる。きっと、いや必ず。‥‥いいかっ、向こうに行っても馬鹿な事はするなっ、向こうの連中が友好的だとは限らないんだからなっ!」
それだけを告げると、後を振り向き、そのまま空を見上げる。
頬を伝った涙が、大地に零れ落ちていく。
「‥‥またいつか‥‥会える日まで‥‥俺たちの事を‥‥忘れるなよ‥‥‥‥?」
「大切な友の事をわしが忘れるわけはなかろう‥‥」
──ボウゥゥッ
やがて中央の台座が輝き、アルテイラが姿を表わす。
「ミハイル・ジョーンズ。こちらに‥‥」
そう告げたとき、台座からまばゆいばかりの光が溢れる。
それは天空をも貫く光の柱となった。
6大精霊により生み出された特別なムーンロード。
そこにミハイルはゆっくりと歩き始めた。
「い‥‥や‥‥いやだよぉぉぉぉぉぉぉ」
チルニーが絶叫してミハイルに飛び付く。
「チルニーも行く、お別れなんて嫌だよ‥‥アルティラさん、チルニーぐらいは大丈夫だよね? シフールだし軽いからね?」
そう告げるチルニーに、アルティラはさみしそうに頭を左右に振る。
「大丈夫ぢゃよ。また必ず会える‥‥そう信じているのぢゃ‥‥」
「‥‥無理だよ。教授は異世界にいっちゃうんだよ‥‥奇蹟でも起きない限り、無理だよ‥‥」
そう告げつつ、チルニーはミハイル教授の懐で泣きつづけた。
──ソッ
その頭を静かに撫でつつ、ミハイルがチルニーに話し掛けた。
「チルニーは冒険者ぢゃろう。なら奇蹟はおこせるぞ‥‥。ワシは、そう信ぢている。冒険者は奇蹟を起こすのが仕事ぢゃからな‥‥」
その言葉に、チルニーが頭を上げる。
「チルニー、奇蹟なんておこせないよー」
そう告げるが、ミハイルは優しい笑顔で頭を左右に振る。
「いや。チルニーは、そしてここにいる皆は、奇蹟を起こしているのぢゃ。考えてみなさい。この広い世界の、このノルマンという王国で、その中のパリという都の、そのまたさらにちいさい冒険者ギルドで、ワシはここにいる皆と出会えたのぢゃょ‥‥そして幾度も冒険を続けた。これが奇蹟でなければ、なんだというのぢゃ?」
「アトランティス‥‥チルニーもいったら会える?」
「それは判らん。会えるかもしれないし、会えないかもしれない。その代わり、チルニーには新しい出会いがあるかも知れぬ。それを大切にしなさい。ワシと皆は、『奇蹟という絆』で結ばれているからのう‥‥」
そう告げたとき、ミハイル教授の姿が輝き始める。
『教授っ!!』
全員がそう叫んだとき、ミハイルは何かを告げてスッと消えた。
最後の言葉。
それは、皆の心の中にだけ届いた。
やがて光は消え、柱も全て輝きを失う。
最後に残っていたアルテイラもまた、ミハイルがいなくなるのを確認していた。
「それでは‥‥」
そう告げてアルティラは其の場から消えようとした。
だが、チルニーの、そして其の場にいた全員の瞳に何かを見出した。
「会いたいのですか?」
「ああ。まだ教授には色々とおしえて欲しい事があるし‥‥なにより‥‥」
そう告げると、ロックハートはミハイルの消えた後に残っていたワインを手に取る。
「あのくそじじい、俺の渡した餞別を忘れていきやがった‥‥」
プッと吹き出す一行。
「最後まで、あの人らしいですね」
ルイスもまた、口許に手を当ててそう告げる。
「貴方たちは選ばれたものではない。ですが、望むならば、この地に道を開きましょう‥‥その真剣な眼差し、そしてミハイルの意志により‥‥我が力を蓄えたとき、この地より『アトランティス』へと続く道を開きましょう‥‥」
全員の顔がパッと明るくなる。
「まあ‥‥またあの人のお守りをする事になるのかしら?」
「これで、教授のあとを追いかけられるんだねっ!!」
シルヴァリアの言葉にチルニーが付け足す。
だが、アルテイラは頭を左右に振る。
「加護を得た者であるミハイルの元には道は繋がりません。そこから先は、皆さんの持つ『絆』を信じてください‥‥では」
そう告げて、スッ‥‥とアルテイラは消えた。
●そして
あたしの好きな教授が旅立ちました。
暫くは寂しい日々が続くと思います。
でも、いつかまた、教授と冒険に出る日が来るでしょう。
あたしたちと教授は『奇蹟という絆』で繋がっているんだから‥‥。
〜Fin