【ジョーンズリポート】謎を越えて

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月07日〜11月14日

リプレイ公開日:2005年11月16日

●オープニング

──事件の冒頭
「ふんふんふーん♪〜」
 鼻歌混じりに冒険者ギルドの受付カウンターで依頼書を作成しているのはミハイル・ジョーンズ教授。
「教授、随分とご機嫌ですねぇ!!」
「うむ。いよいよあと二つ。古代魔法王国アトランティスへの道がいよいよ見え始めてきたのぢゃ‥‥と、今回の依頼金はこれで」
 ドサッと金貨の入った袋をカウンターに置くと、ミハイルはそのままパリの研究所へと向かっていった。

──そして
「ふむ‥‥必要なものは全てシャルトルに運んだとはいえ、実に大胆よのう‥‥」
 ガラーーーンとしたそうこを じっと見つつ、そう呟くミハイル。
 まだそこには、様々な石碑や資料があった筈。
 にもかかわらず、今はただの空の倉庫となっていた。
「?」
 と、倉庫の外れに落ちている何かに、ミハイルは気が付いた。
「‥‥銀の鷹のペンダント‥‥シルバーホークか。やりおったな‥‥」
 そう吐き捨てるように呟くと、そのままミハイルは倉庫の鍵を閉じ、其の場を立ち去ろうとした。
「あのー、こちら、ミハイル研究室ですよね? 私は『アレクサンドラ・ローラン』と申します。冒険者街で『トレトゥール亭 』という御店を構えています。じつは、 むこちらに料理のレシピを記した石碑が保管されているという話を聞きまして‥‥」
「おお、アレクの娘さんか。スマヌ、石碑はない」
「はぁ? という事はあったのですか」
「うむ、盗まれた‥‥」
 そんなこんなで、いよいよ佳境へと。

●今回の参加者

 ea1703 フィル・フラット(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea2597 カーツ・ザドペック(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2843 ルフィスリーザ・カティア(20歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3448 チルニー・テルフェル(29歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4919 アリアン・アセト(64歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea5512 シルヴァリア・シュトラウス(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●さて‥‥
──シャルトル・ミハイル研究室
「はっはっはっ。‥‥盗まれたのはいらない石版ばかりじゃて‥‥何が盗まれていたのか見当もつかんわい!!」
 あっけらからーんと笑い飛ばすのは御存知ミハイル・ジョーンズ教授。
 今回も地下迷宮突破の為に、大勢の冒険者が集っていたのであるが‥‥。
 先日、教授のパリの自宅に泥棒が侵入、倉庫に保管してあった石碑がごっそりと盗みだされるという事態が発生したらしい。
 それを案じて、フィル・フラット(ea1703)が万が一の為に盗まれたものについて問い掛けていたのだが、結果は御覧のとおり。
「はぁ‥‥つまり、古代魔法王国関連ではなかったという事か?」
「うむ。それらは全てここに。じゃから心配は無用じゃよ」
 そう告げる教授に、フィルはとりあえず一安心。
 その横では、今回の加護を得る為の試練である謎解きについて、一行が頭を悩ませていた。

 オイフェミア一人を除いて。

「さー、そろそろご飯の時間ですね♪〜」
 そう告げつつ、愛猫に餌をあげるオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)。
「あー、あのなあ‥‥オイフェミア、謎解きのことなんだが‥‥」
 そう問い掛けるロックハート・トキワ(ea2389)の方を向くと、オイフェミアは一言。
「ダメ、判んないからパス。別の問題が来た時に活躍するから‥‥」
 と、愛猫とじゃれていた。
「ふぅ‥‥まったく使い物にならないか‥‥」
 そう呟きつつ、ロックハートは打ち合わせをしている仲間たちの方を見る。
 どうやら謎解きにはいくつもの答えが考えられ、且つ、それを答えられるのが一人なのかどうかで議論は分かれていた。
「ちょっと教授、いいか?」
 そう問い掛けているのはラシュディア・バルトン(ea4107)。
 その古代魔法語解析能力は、すでにシャーリィにも匹敵する。
 あとは経験をつむだけというところか?
「うむ、なんじゃい?」
「石碑の事なんだが? ここまでは謎解き、そしてこの続きの部分‥‥『正しき道を指し示せ』でいいのか? それとも『ただ一つの答えを示せ』か?」
 どっちにも取れる言葉に、ラシュディアも頭を捻る。
「うーむ。本来ならばただ一つといいたいところじゃが‥‥あの地下構造から考えるに?」
「前者か‥‥となるとやっかいだな‥‥」
 頭を捻りつつそう呟くラシュディア。
 さて、この問題、一筋縄ではいかないようでして‥‥。


●試練の入り口〜第一の試練
 なんとか一昼夜かけてたどり着きました第8階層。
 そして件の入り口にたどり着くと、一行は四方に伸びる回廊をじっと見つめていた。
「うーむ。やはりここは識者に任せる事にしよう」
 そう呟くと、カーツ・ザドペック(ea2597)は武器をいつでも引き抜く事の出来る体勢を取る。
──スッ
 やがて一匹のエレメンタラーフェアリーが姿を表わす。
 そしてその背後から、何かの声が響き渡ってきた。
「加護を求めるものよ‥‥我が問いに答えよ‥‥」
 そう告げる声に対して、アリアン・アセト(ea4919)が問い掛けた。
「問いの答えは個人でしょうか? それとも全員で一つでしょうか?」
「一つに‥‥」
 その言葉の瞬間、さらに全員で作戦タイム。
「では問う!! 『朝は4本脚、昼は2本脚、夜は3本脚の動物がいる。次の朝は何本脚?』」
 そして答えたのはアリアン。
「2本ですわ。その問いは人の一生を表わしています。翌朝は、亡くなった後のこと、霊や天国でのことなのでしょうか? 霊となられた方には2本の足がありますよね」
 陽精霊がもしも一行の予測するものならば。
 彼の精霊の住まう土地には、死後はあの世では生前の姿を、現世では人の顔を持つ鳥に化身すると聞く。
 ならばという所であろう。

──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
 やがて4つの回廊のうち3つが塞がると、残った一本の回廊の形が変化していく。
 あちこちの壁の石が飛び出し、ちょうど手摺のような形を形成した。
 そして床が抜け落ち、漆黒の闇が広がる。
「第一の問いを声しものよ。次の試練をくぐりぬけるがよい‥‥回廊の先に進みたくば、誰かが向うの先に掲げられている石碑に祈りを捧げよ。なれば道はあらわれるであろう‥‥」
 その言葉と同時に、まずは一番身軽なロックハートが前に出る。
「しつもーん。あたしがとんでいったらダメなのー?」
 そのチルニー・テルフェル(ea3448)の問い掛けに、陽精霊の答えは一つ。
「それもあり。但し、一人につき受けられる試練は一つ」
 うーむ。
「じゃあ、ここはあたしがーー」
 ぴゅーんと飛んでいくと、そのまま先にある石碑に祈りを捧げるチルニー。
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴツ
 やがて床が元の形に戻ると、さらに置く、祈りを捧げた石碑の掲げられていた壁が崩れ落ちた。
「うーん。思ったよりも簡単でしたか‥‥」
 ルイス・マリスカル(ea3063)が前方の安全を確認し、一行はさらに前へと進む。
 曲がりくねった回廊を通り抜け、次の部屋へたどり着く。
 そこもまた、4つの回廊の連なる空間であった。


●試練の入り口〜第二の試練
「次の問いに答えよ‥‥『朝から夜まで人を付け回す奴は?』」
 今度の解答はシルヴァリア・シュトラウス(ea5512)。
「それは影ですわ‥‥ほら、ご覧なさい」
 そう告げると、シルヴァリアは自分の足元に広がる影を指差す。
 そして手にしていたランタンをふっとかき消すと、影が消えるのを確認。
「夜になれば影は消えます。けれど、また朝が来たら影は生まれますわ。リドルでこの私に挑戦とは。いいですわね」
 実に楽しそうにそう告げるシルヴァリア。
 と、再び3つの回廊が崩れ、残った一つの回廊も床が次々と崩れていく。
 と幅約1フィート程の細い道のみが残る。
 それもあっちへこっちへと複雑に曲りつつ、さらに緩急様々な傾斜が生まれた。
 当然ながら、下は奈落の底。
「道は繋げられた。第ニの問いを答えしものよ。次の試練をくぐりぬけるがよい‥‥回廊の先に進みたくば、誰かが向うの先に掲げられている石碑に祈りを捧げよ。なれば道はあらわれるであろう‥‥」
 そしてその道を通る試練は‥‥ロックハート。
「この程度の道‥‥ツルッ!!」
 数歩歩いた瞬間、ロックハートは手が滑って闇に落ち‥‥ない。
──ガシッ!!
 素早くカーツが手を延ばし、ロックハートを掴む。
「ふぅ‥‥レンジャーだと聞いて安心していていきなりか‥‥まったく」
 力任せに引き上げるカーツ。
 そしていよいよ他のメンバーでのチャレンジとなるが‥‥。
 該当者0。
 というよりも、体力自慢男性チームは全滅。
 その都度カーツに掴み上げられるという始末である。
「あのねぇ‥‥」
 そう呟きつつ、オイフェミアが詠唱開始。
 レビテーションの効果で、天井まで身体が上昇すると、シルバーナイフを引き抜いて天井に突きたてる。
──ザクッ
 そのまま力任せに身体を前に進めるオイフェミア。
「成る程‥‥そういう手があるか」
「しかし‥‥参ったな」
 カーツとフィルが腕を組んでそう肯く。
 やがて向う端にたどり着いたオイフェミアが石碑に祈りを捧げる。
 先程のように道が元に戻り、さらなる回廊が姿を表わしたのであった。


●試練の入り口〜第3の試練
「さて‥‥次はどういう試練でしょうかねぇ‥‥」
 ルイスが頭に手を当てつつそう呟く。
「次の問いに答えよ‥‥『夜、何処までも人のあとを追いかけてくる嫌な奴は何者? 』」
 ちなみにこの解答、一行の中でも様々な議論が持ち上がっていたのだが、多数決で答えは導かれた。
「それは『老い』ですわ。月という答えも考えましたけれど、先程の問題と摺りあわせて考えますと夜=晩年。では、人の晩年に着いてまわるもっとも嫌なものは老いですわ」
 ルフィスリーザがそう答えると、やはり3つの回廊が潰れていく。
 そして 一つの回廊が残り、そこは前後様々な場所に様々な高さの壁が作られていった。
 そしてその手前に置いてある巨大な水の入った甕。
「そこのシフールよ、甕の上へ」
 その言葉に、チルニーは頭を捻りつつ甕の上へとパタパタと飛んでいく。
──ザバァァァァァァァァァァァッ
 と、いきなりチルニーが何者かによって甕の中に引きずり込まれた。
「命果てる前に、壁を越えて道を示せ‥‥」
 その言葉と同時に、ロックハートが走り出す!!
 手にした忍者刀を壁に立てかけると、その唾の部分を踏み台にしてジャンプ!!
──シュッタッ
「きたきたきたぁぁぁぁぁぁぁっ。これだよこれ‥‥」
 嬉々としてそう叫びつつ走っているのも束の間。
「汝、道具を使う事なかれ‥‥」
 そのままロックハートの意識がくらくらとして、其の場に崩れ堕ちる。
「なんだ‥‥と‥‥だったら魔法は‥‥ガクッ」
 体力試練での道具使用は‥‥反則だろうなぁ。
 魔法は本人の力の一つだしねぇ。
 そんなことより、一刻も早くチルニーを助けなくては!!
 そしてフィルが走った!!
 壁を越えて通路を駆抜け。ついでにロックハートを踏み台にして!!
(お‥‥俺を踏み台に‥‥)
 そんな魂の慟哭など知ったものか!!
──ゴゴゴゴゴゴゴゴコゴ
 石碑に祈りを捧げると、壁と甕が全て崩壊。
 チルニーは無事に開放された。
「おお‥‥チルニー。大丈夫か!!」
 弱っているチルニーを抱き上げるミハイル。
 アリアンがリカバーを唱えると、意識を取り戻した。
「あのね‥‥ちっちゃな妖精さんが、お花畑でおいでおいでって‥‥」
 危ないから、それ!!


●試練の入り口〜第4の試練
「さて、いよいよ最後の試練か」
 ゴキゴキッと拳を鳴らすカーツ。
「次の問いに答えよ‥‥『ここであってここでなく、そこであってそこでない。それは何処?』」
 これまた難題。
 そして纏められた答えは一つ。
「それは未来だな‥‥えーっと、常に目の前にあるのに見え辛く、不確定なものなのに必ず我が身に訪れるもの‥‥だっか?」
 ラシュディアが答えるが、最後の方はルフィスリーザ・カティア(ea2843)に問い掛けていた。
「ええ」
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
 やがて回廊はまたしても一つになる。
 床が崩れ落ち、天井から様々な長さの取っ手が生み出されていった。
「つまり、これを掴んで向うまで?」
 返答はない。
「ちっ‥‥こんなものがあったのなら‥‥」
 オイフェミアが舌打ちするが、時既に遅し。
 残った試練の挑戦者から、体力に自信があるカーツが挑戦。
 そしてひょいひょいと『力任せ』に突破すると、そのまま向うまでたどり着く。
「ふん。体力勝負というわりには、たいした事はないな‥‥」
 流石は『鋼鉄の冒険者』。
 やがてゴゴゴゴゴという地響きと同時に、壁が崩れ床が生み出されていった。


●そして加護へ
 そこは巨大な石室。
 その中央に台座があり、一行はそこに向かうように指示された。
「加護を求めるものよ‥‥台座にそれを安置せよ‥‥」
 その言葉にミハイルはバックから『陽炎の衣』を置く。
「それでは‥‥頼むぞ」
 そのミハイルの言葉と同時に、陽炎の衣は明るく輝く。
 そして輝きがスッと消えると、その表面には様々な精霊碑が浮かび上がった。
 そして台座の横に現われた一つの階段。
「最後の道を潜るがよい‥‥」
 その言葉に、一行はゆっくりと階段を降りていく。
 そしてだた一人、チルニーが闇の向うに向かって静かに呟く。
「甕の中にはなにも無かったね〜。あれは仲間たちを試す試練だったの?」
 そう。
 チルニーが引き込まれた甕にはなにも無かった。
 底のほうに少しだけの水。
 チルニーは瞬時にそれを悟り、溺れたフリをしていたのである。
「小さき友よ。彼の加護を受けし者を護るがよい‥‥」
 そのスフィンクスの言葉は、やさしかった。


●そして第9階層
──階段の向うは
 神殿。
 地下に広がる空間に作られた、小さな神殿。
 その前に、一人の女性の姿があった。
「そなたが最後の月精霊か。さて、どのような試練が待っているのぢゃ」
 そう問い掛けるミハイルに、その女性は静かに口を開いた。
「私はアルテイラ。加護を絵師ミハイルよ。よくぞここまでたどり着く事が出来ました。最後の加護を与えましょう‥‥ここにたどり着く事が試練でした‥‥」
 その言葉と同時に、ミハイルはバックより一つの鎧を取りだす。
 アルテイラが何かを口ずさんだとき、鎧は静かに輝く。
 そしてその後、アルテイラは一振りの杖をミハイルに託す。
「これは?」
「ただ一つの杖。失われし師月道を通る事の許された証。全ての加護を受けしミハイル。私アルテイラの名において、そなたを遥かなる精霊の住まう大地『アトランティス』へと導きましょう。今より私達は彼の地へと連なる遺跡へと向かいます。来月、総ての力満つるとき、かの地において『失われし月道』を開きましょう‥‥」
 そう告げると、アルテイラの姿がスッと消える。
「待ってくれ!! アルテイラ!! 聞きたい事がある‥‥」
 そう叫ぶラシュディア。
 だが、その言葉は届いていない。
「道を通る事の出来るのは、選ばれし者のみ‥‥それを忘れないで‥‥」
──スッ
 一行は、しばし沈黙。
 全ての加護は得た。
 全てが揃った。
 そして来月、力の満ちるとき‥‥天空に月が現われたとき、アトランティスへの月道が開かれる。
「そして問題は‥‥これですか?」
 更なる地下へと向かう階段。
 その手前の扉は厳重に封印されている。
「これ以上は危険じゃて‥‥プロストも待っておる、地上へ戻ろう‥‥」
 そのまま一行は帰路に着く。
 全ての精霊が消えた階層。
 おそらくは開放されたのであろう。
 トラップも発動せず、帰路は至って安全であった。


●そして〜じじいもパリへ引越しかい〜
──ブロスト城
「成る程。で、来月か?」
 一通りの報告を受けたプロスト卿が、椅子に座っているミハイルにそう問い掛ける。
「うむ。シルバーホークの呪縛を解放するためには、いかねばならぬからのう‥‥」
 そう告げると、プロストはミハイルにこう呟く。
「ならミハイル。早く荷物を纏めてこの地を離れたほうがいい。判って居るとは思うが、間もなくここも戦場になる。荷物はあとから安全になってからでも構わないだろう? すまないがミハイルの引越しを手伝ってやってくれないか?」
 冒険者一行にもそう告げるプロスト。
 そして一行は、簡単な荷物を纏めると、後日ミハイルと共にパリへと帰還した。


●そしてプロローグ
──プロスト城内
 ここから先は、とある少女の見た真実。
 そして語られなかった現実。
 
 其の日。
 プロスト城応接間には二人の人物が訪れていた。
 少女は、大司教の使いでプロスト卿の元にお使いにやってきていた。
「プロスト卿。大司教様よりお預かりしてきた剣をお届けに参りました‥‥」
「ああ、助かります」
 そう告げつつ、プロスト卿は少女より一振りの剣を受け取った。
「一つお尋ねして宜しいですか?」
「ええ、構いませんよ」
「その剣は一体なんでしょうか?」
 そう問い掛けている少女‥‥エムロードに、プロスト卿はスッと布で覆われている剣を取り出し、鞘から抜いた。
「対シルバーホーク戦でもっとも強大な武具の一つです。マイスター・トールギス作のデビルスレイヤー。もっとも、魔法の加護があるかどうかは判りませんがね‥‥」
 それは一振りの剣。
 今回の件で、大司教が特別に聖別した『ノートルダム大聖堂の銀の十字架』を溶かし、それを剣として鍛えなおしたのである。
「ヘルメスが相手ですよね?」
 そのエムロードの言葉に、コクリと肯くプロスト卿。
──ギィィィィィィッ
 と、突然扉が開かれる。
 そして室内には、二人の人物が入ってきた。
 一人はウィザードローブを身に纏い、仮面を付けた青年。
 そしてもう一人は、プロスト卿の良く知る人物である。
「久しいな‥‥プロスト」
「シルバーホーク。それれにジェラール。何故ここにやってきた。よくも私の前に姿を表わせたな」
 素早く印を組み韻を紡ぐプロストだが、シルバーホークは手を出してそれを制した。
「まあ死に急ぐな。それよりも、今日は貴公に頼みがあってやってきた」
 そう告げると、シルバーホークは静かに口許に笑みを浮かべる。
「この城の地下封印が総て解けたことは判っている。地下祭壇『破滅の魔法陣』、このシルバーホークが貰いうける‥‥」
 スラッと剣を引き抜くシルバーホーク。
 だが、プロストは素早く魔法を発動、一進一退の攻防が始まった。
「エムロード!! 剣を持って急いでこの地を離れて!!あの魔法陣が発動したら、このパリは‥‥ノルマンは崩壊する!!」
 少女はプロストの言葉を聞き、走り出した。
 大司教の元に向かおうとするが、すでにそこはシルバーホークの手の者たち、アサシンガール達によって制圧されていた。

──そしてプロスト卿
「ハァハァハァハァ‥‥」
 すでに満身創痍のプロスト卿。
「一つ聞きたい。何故今頃になってここを襲撃した?」
 そう問い掛けるプロスト卿に、シルバーホークはゆっくりと口を開いた。
「ミハイルの力が必要だったからなぁ。ここの地下封印、力ずくでの解除は不可能。最終階層の封印は、全ての階層の精霊達が解放されなくてはならない。しかし、ただ普通に殺した程度では解除されない‥‥」
 そう告げたとき、プロスト卿は悟った。
「ミハイルに全ての階層を解除させたのか‥‥」
「ああ‥‥奴は優秀だ。精霊の加護を得る事ぐらいは難無くやってとげるだろうさ。それにここの遺跡についても、以前私の手の者を送り込んで調べさせてもらったしな‥‥」
 そう告げられたとき、ふとプロスト卿は自分に起こった異変に気が付いた。
 下半身から徐々に石化が始まったのである。
「ジェラール‥‥貴様!!」
 素早くジェラールに向かって魔法を発動させるが、すでにジェラールの頭上には漆黒の球体が生み出されていた。
「先制で魔法を成功させればいいだけです。あとは、この球体が私を守ってくれますから‥‥」
 そう告げたとき、入り口から一人の少女を連れたヘルメスが姿を現わした。
「シルバーホーク。贄のシスター・アイを連れて参りました」
「よろしい。では、そろそろ楽しいパーティーを始めようじゃないか‥‥」
「かしこまりました。それと‥‥アンダーソン神父が謀反を‥‥勝手に封印されし魔法陣の解放を‥‥」
「放っておけ。奴程度の技量でどうこうできるものではない。贄共々、魂を喰われてしまうのがおちだ‥‥」
 そう告げると、シルバーホークは後を振り向く。
「ああ、君との友情、私は決して忘れないよ‥‥」
 そう告げると、シルバーホークは其の場を静かに歩き始めた。
 もう、プロスト卿には言葉は届いていない‥‥。


──翌日・プロスト城最下層
 キィィィィィィィィィィィィィン
 巨大な魔法陣。
 その中央に置かれているオーブに、ヘルメスは魔力を注ぎこんでいた。
「あとは、もう止められないわ‥‥オーブが贄の命を吸つくしたとき、破滅の魔法陣は発動するわ‥‥」
 そう告げるヘルメスに、一体のインプが何かを告げる。
「そう‥‥アンダーソン神父はヴォルフ領の朽ちた魔法陣にねぇ‥‥」
──ゴニョゴニョ
 何かを耳打ちすると、インプは其の場を離れていった。
「勝手にすればいいわ、シルバーホークの命に背くような奴は‥‥」
 そして側で待機していたアサシンガール達総勢8名は、ゆっくりと階層を昇り始めた。


──同日・旧シルバーホーク邱地下最下層
 キィィィィィィィィィィィィィン
 巨大な魔法陣。
 中央に置かれているオーブの輝きを見て、シルバーホークは静かに肯く。
「ヘルメスが発動させたか‥‥」
 傍らに倒れている贄を見つめつつ、シルバーホークはゆっくりと瞳を閉じる。
「永かった‥‥私はこの時を、ずっと待っていた‥‥」
 その言葉にじっと耳を傾けているジェラールとその配下達。
「それでは、私達は来るであろう冒険者の迎撃準備に‥‥」


──同日・マクシミリアン自治区、地下闘技場最下層
 キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
 巨大な魔法陣が発動。
 その中央に横たえられしシスター・オニワバンを、悪鬼は静かに眺めている。
「始まったか‥‥」
 天井を見上げつつ、悪鬼はバシーーーーーンと拳を鳴らす。
「冒険者よ‥‥止めに来るならいつでもこい。全力で叩き潰す」
 そう叫んだとき、悪鬼の近くに潜んでいた屈強な戦士達は、一人、また一人と立ち上がり地上に向かって歩きだした。


──同日・アビス最下層
 キィィィィィィィィィィィィィィィィン
 巨大な魔法陣が発動する。
 中央に置かれている贄の代わりのニ振りの剣。
 そのオーラの輝きを、男はじっと見つめていた。
「命の剣、紋章剣よ‥‥今こそ、魔法陣に力を‥‥」
 漆黒の鎧を身に纏った男は、静かにそう呟いていた。


──同日・ヴォルフ領・旧ヴォルフ自治区地下魔法陣
 キィィィィィィィィィィィン
 巨大な魔法陣が輝き始めた。
(こんなに早くとは‥‥こちらの準備は出来ていないのですよ‥‥)
 アンダーソン神父は、静かに目の前で眠っているオーガ達を見る。
「贄としては十分でしょう‥‥が、ここまで早いとは‥‥」
 やがてオーガ達の身体から、オーラのほとばしりが中央のオーブに注がれ始めた。

 
 破滅の魔法陣‥‥起動開始!!
 魔法陣連動まで、のこり僅か‥‥。


●そしてエムロード
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥


 一体どれぐらいの時間が経過したであろう。
 大司教は?
 プロスト卿は?
 大聖堂のシスター達は大丈夫だろうか?

 自分を追ってきた少女達との戦い。
 傷つき。
 そして少女は悟った。
 自身の命ももう長くはない。
 せめて、真実を。
 血で綴られたマントに祈りを、手にした銀の剣に希望を願い、少女はそれを手に走り続けた。


──パリ
「‥‥ザワザワザワザワ」
 パリ。
 とある街道で、剣を抱いたまま少女は死んでいた。
 大切に握られていたマントの切れ端。
 それには、こう記されていた。


 プロスト領地下にある破滅の魔法陣が起動します。それが動いたら、このノルマンは滅亡するでしょう。
 誰か、止めてください。
 私、なにもできなかったから‥‥


「‥‥」
 発見したのはミハイル研究室での引越しを終えた冒険者達。
「確か‥‥ノートルダム大聖堂のエムロード!!」
 ルイスが急いでアリアンを呼ぶ。
「セーラよ。かの少女の命を助けたまえ‥‥リカバー!!」
 だが、必死の魔法にも、エムロードの命は答えなかった。

──夕方・ロイ考古学研究室
 エムロードをサン・ドニ修道院に預けてから、一行はロイ教授の元を訪れていた。
「ロイ教授!! 破滅の魔法陣を止める方法を教えて欲しいのです!!」
 ルイスが真剣な眼差しでそう叫ぶ。
 そしてロイ教授も、手にした写本を開きつつ、ゆっくりと説明を始める。
「破滅の魔法陣といっても、幾つかの種類があるらしいのぢゃよ。それでだ‥‥」
 そう告げると、ロイはあるページを開き、一行に見せる。
 そこには、一つのオーブが記されていた。
「これはなんでしょうか?」
 シルヴァリアが問い掛ける。
「おそらくは、破滅の魔法陣の起動を司るものじゃろう。えーっと」
 そう告げると、ロイはさらに別のページを開く。
「贄の魂を吸い取り、それによって力が満ちたとき、破滅の魔法陣はその力を発動させると‥‥」
「それじゃあ、そのオーブを破壊すると、破滅の魔法陣は停止するのか?」
 ロックハートの問いに、ロイ教授は複雑な顔をしてみせる。
「う、うむ‥‥じゃが‥‥」
「吸い取られた魂は戻らず、贄はそのまま命を落とす‥‥というところか?」
 ラシュディアが腕を組んでそう告げる。
「なんだって? んなことがあってたまるか‥‥」
 オイフェミアがそう叫ぶ。
「つまり、もし魔法陣が起動開始していたとすると、俺達は最悪の選択を強いられる事になるのか?」
 カーツの言葉に、ルフィスリーザが顔を青くしながらこう繋げた。
「世界を救うためには‥‥犠牲を伴うのですね‥‥」
「うむ。贄一人の命で、世界は救われるのぢゃ‥‥今のところは、それ以外に方法が見つからないのぢゃ」
「今のところは‥‥ということは、ひょっとしたら他の方法がある可能性も考えられるのですか?」
 アリアンのその問い掛けに、ロイ教授は頭を捻る。
「ここにはないのう‥‥何処か、知識人ならそれを知っているものが存在するかもしれぬのう‥‥ワシやミハイルのような考古学者ではなく、もっと様々な知識を蓄えていそうな人物なら‥‥」
 そう告げたとき、一行はミハイル教授の事を思いだす。
 まだ、プロスト卿を襲った悲劇をミハイル教授は知らない。
 知ったとしたら、ミハイル教授教授は必ず動くだろう。
 だが、ミハイル教授は来月には古代魔法王国アトランテイスへと向かう‥‥。
 真実を告げるべきカ、そこが悩みの種であった。

──ポツッ‥‥ポツッ‥‥
 窓の外を雨が降る。
 ノルマンに、また哀しい雨が振った。
 
 お願い、届いて、私の命のバトン‥‥。

〜To be continue Final Stage