風に乗って冒険にいこう

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月16日

リプレイ公開日:2005年03月07日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の朝。
 いつものような静かな光景。
 通りを過ぎ行く人たちの声。
 店先で威勢のいい声を上げる商人達。
 いつもの日常。
 いつもの平和な時間。

 冒険から戻った冒険者にとっては、こんな当たり前の光景がむしろ懐かしいこともある。
 つい先日、冒険から戻ってきた貴方も、この光景を目にしているのであろう。
 だが、貴方の心は、このような光景よりも、もっと心躍る冒険を求めている・・・・。

 遥か遠く、古の遺跡。
 すぐ近く、村人達の些細な争い。
 幼くして死んでしまった少女。
 遠く離れてしまった、冒険者を目指す一人の少年。
 人形のように扱われている女の子。

 貴方の心には、まだまだ引っ掛かっているものが多くあった。
 そしてふと、側に置かれている冒険者道具に視線を送ると、貴方は窓の外をじっと見つめた。
 自由に飛んでいく一羽のツバメ。
「・・・・いってみようか・・・・」
 ギルドからの依頼ではない。
 貴方自身の為の冒険へ・・・・。

●今回の参加者

 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea5415 アルビカンス・アーエール(35歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●旅立ちは今日なのに〜一人こない〜
──パリ・3月1日
「ふぅ・・・・ふぅ・・・・」
 大量の食糧を抱えて、待ち合わせの場所に向かっているのはティルコット・ジーベンランセ(ea3173)。
 これから長期の旅にでる筈なのに、うっかり食糧の調達を忘れてしまったらしい。
「お、重いぃぃぃぃぃぃ」
 まあ、それも仕方ないということで。
「おっそいなぁ〜」
 額に手を当てて遠くを眺めているのはとれすいくす虎真(ea1322)。
 フラリと冒険にいこうと思い酒場から出てきたとき、偶然居合わせた他の仲間たちと意気投合、そのまま皆で目的を見付けて出かけることになったのであるが、肝心の出発の日、仲間が一人待ち合わせの場所にやってこない。
「まあ、何か用事でも出来たんじゃないか?」
 そう呟く風烈(ea1587)の言葉に、一行は取り敢えず納得して各自目的の場所へと向かっていった。
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・
「見つけたわ・・・・」
 そして、一行の後ろからこそこそと後を付けていく一人の女性。
 この旅も、どうやら一筋縄では行かないようで・・・・。


●ザ・マスカレード〜宿り木のハーブティー〜
──3月1日
「・・・・随分と物騒だなぁ・・・・」
 店内の装飾もほぼ終った『冒険者酒場マスカレード』。
 その一角には、全長3m近くある巨大な鎧が建てられている。
 2階席までぶち抜きの店内。
 その壁際に立っているこの鎧の前では、同じく不格好な全身鎧の男? が、何やら鎧を弄りまわしている。
「ああ・・・・エドの事でしたら放っておいてください」
 そう呟きながら、ヴィグ・カノス(ea0294)の前に『宿り木のハーブティー』を差し出すマスター。
「エド? 知合いか?」
 烈もそう呟いてから、マスターの差し出したハーブティーを一口。
「ええ。彼の名前は『エドワード・プロスト』。あのプロスト卿の息子さんですよ。確か『銀(しろがね)の錬金術師』の異名を持つ錬金術師で・・・・」
 呆れたような口調でそう呟くマスター。
「で、その錬金術師様がこんな所で何をしているんですか?」
「さぁ・・・・詳しくは知りません。あの鎧でゴーレムを作るとかで・・・・場所を貸して欲しいというから貸しているだけですから・・・・」
 そのままエドの方をじっと見ているアル・・・・いや、マスター。
「でも、あんな巨大な鎧、誰が着るのですか?」
「着るんじゃないよ、乗るんだよ!! 騎士や戦士は馬にのって戦うでしょう? これは乗って戦うゴーレムなんですよ」
 むきになってそう叫ぶエド。
「乗って戦う? 背中に? 馬のようにか?」
 呆れた口調のヴィグが、そうエドに問い掛ける。
「どうせなら、馬の形で作ればよかったのに・・・・って、もうそれは完成しているのか?」
 烈も呆れた声でそう話し掛ける。
「まだ、秘術の解析段階。これは解析が終った後で使う奴、そして、馬のように乗るんじゃなくて、この中に入って命令をするのですっ!!」
 むきになってそう告げるエド。
 だが、そのあまりにも訳の判らない発想に、一行は呆れ顔である。

──ガチャッ
「お待たせしました。宿り木のハーブティーでございます・・・・」
 そう呟きながら、情報屋のミストルディンが静かにカウンターに姿を現わした。
「待っていた。で、情報が欲しい・・・・」
 まず切りだしたのはヴィグ。
「シルバーホークのパリ周辺やプロスト領周辺の小拠点が何処にどの程度の規模の物があるか・・・・それを教えて欲しい」
 その言葉に、ミストルディンもしばし頭を捻る。
「判って居るのは、プロスト領とグレイファントム領の中間にある別荘だけ。元々のシルバーホークの屋敷は既に処分されてしまっているし、お笑い結社のアジトも今はなにも無いわ・・・・全くといってよいほどね・・・・」
 その言葉に、ヴィグも流石に諦め顔。
「なら、俺から調査を依頼したい。シルバーホークの各地の拠点の位置や規模に関してだ。これに関しては一応以前に自分で目星を付けていて、その情報はそちらに渡すつもりでいるので、正確には位置に関しては裏付けを頼むと言う事になりそうだが・・・・頼めるか?」
 そう言われて引き下がるほど、ミストルディンも弱気ではない。
 むしろ強気な態度にでる。
「了解。報告はまた此処でね・・・・」
「シャーリィ達の情報は何処から流れた?」
 今度は烈。
 以前、シルバーホークがミハイル教授の遺跡関係の依頼で横槍をいれてきたことを思い出し、何処から彼女達の情報が流れたのかを確認したかったらしい。
「多分、教授の研究室に出入りしている若手考古学者の誰かでしょうね・・・・確信は持てないけれど、可能性としては十分に考えられるわ」
「だが、研究室の中から外部に情報を持っていくことなどできるのか?  あの研究室は、解析作業が始まると誰も外にでないだろう?」
 その疑問もミストルディンの一言で方が付く。
「窓の外を見て、テレパス系の魔法で一発。詠唱がばれたくなかったら高速詠唱でOKでしょう?」
 過去にも魔法のバックアップを受けたことのある烈にとっては、今この瞬間ほど魔法を恨めしく思ったときは無いであろう。
「グレイフェントムについてはどんな情報がある? 有益な情報ならば買い取るが」
 そう問い掛けたのは、最初からエドの行動を全て無視しつづけていたアルビカンス・アーエール(ea5415)。
「ああ、グレイファントム卿ね。昔からあの地域で領地の監督を任されている人ね。先代からそのまま受け継いだ人物で、ちょっと癖のある人よ」 
 苦虫を潰したような表情でそう告げるミストルディン。
「他には?」
「あの領地が未探検地域と隣接している部分があってねぇ・・・・そこから魔物が出没するから、結構困っているらしいっていうのはあるみたいね。あと、子供嫌いは昔からのようですし・・・・」
「シルバーホークやアサシンガールとの接点は?」
 アルビカンスの最も聞きたいこと。
 それはアサシンガール、シルバホークとの関連である。
「不明ね・・・・私の知合いの情報屋もそれについて調べていたらしいんだけれど・・・・この前から姿が見えなくなっていて。つい昨日、死体で発見されたから、その二つについては気を付けないと不味いみたい・・・・。あ、そいつがもっていた情報が一つ、『アンリエット』っていう女の子の再調整が終ったとか・・・・」
 そのミストルディンの言葉には、3人が同時に反応!!
「それだ!! アンリエットの居所は判るか?」
「無理よぉ・・・・知っているらしい奴が死んじゃったし。でも、『ブランシュ』はマクシミリアン卿の地下闘技場に招待参加しているっていうし・・・・マクシミリアン卿とシルバーホークは繋がっていると思って間違いはないわね・・・・」
 マクシミリアン卿という人物が何者であるかは、3人は良く判らない。
「そのマクシミリアン卿とは誰だ?」
「元々は先代グレイファントム卿の側近で、今でもグレイファントム領の外れに一つ、小さいけれど街を統治するようまかされているらしいわ・・・・最悪、その町全体がシルバーホークの隠れ蓑という可能性も否定できないわねぇ・・・・」
 そこでハーブティーのおかわりを取りに行くミストルディン。
 少なくとも、有益となるであろう情報の幾つかは入手することが出来たようである・・・・。


●ノルマン江戸村〜修行だぁぁ〜
──南部酒造・3月4日
「・・・・旨いっ!!」 
 グビッと一口、また一口。
 眼の前に置いてある樽には『無法の星(あうとろおすたぁ)』の酒名が達筆で記されている。
 ティルコット・ジーベンランセ(ea3173)ととれすいくす虎真(ea1322)の二人は、より高みを目指す為にこの江戸村にやってきていた。
 まずは昔お世話になったということで、ティルコットはまず南部酒造を訪れていた。
 以前の依頼で自分が仕込んだお酒『あうとろおすたぁ』の味を見て、感極まった声を上げるティルコット。
「では俺も・・・・」
「おお、飲みなさい飲みなさい」
 そう告げながら、虎真に升を手渡す南部老人
 角に盛られている塩をぺろりと舐めてから、そのまま升の中身を一気に咽に流し込む。
──プハーーーーーーーッ
「旨し!!」
 一気に飲み干した酒が体内を駆け巡る。
「旨し!!」
 もう一杯。
 さらにもう一杯と酒は進む。

 そして夕方。
 ようやく我に戻った二人は、軽い千鳥足で宮村剣術道場へと向かって行ったとさ。
 
──宮村剣術道場
「修行の続きねぇ・・・・」
 南部老人の元より譲り受けてきた土産の酒を酌み交わしつつ、ティルコットと虎真、そして宮村武蔵(ミヤムゥ)の三人は、のんびりと猪鍋をつついている。
「そうなんです。この私とれすいくす虎真、宮村先生を師範と扇ぎ、お願いに参ったしだいであります!!」
 そう告げながら、ミヤムゥの空杯に素焼きの徳利から酒を告いでいく。
「小千葉の先生に怒られるわよ、まったく」
 そう呟きつつも、ミヤムゥもまんざらではないらしい。
 其の日は久しぶりの再会と、虎真の客分としての弟子入りの宴で盛り上がっていったとさ。

──そして翌日・3月5日
「ハイッ!!」
──バシィィィン
 激しく肩口を叩きぬかれる虎真。
 基礎は前回の修行でほぼ学んだ為、午前中はティルコットも『強引に連れ出し』て、基礎体力特訓。
 午後からは組み打ちと抜刀術、その複合とミヤムゥ直伝の扱きが始まった模様。
「もっと相手の剣先を見る!! 北辰の基本は『正しい型』っ。『脚捌き』っ。この二つをしっかりとマスターすること!!」
「判りました、師匠っ!!」
 再び木刀を静かに構える虎真。
 そこから五行の構えを一つ一つつなぎ、ゆっくりと深呼吸。
「五行の構えこそ基本っ。五行の一っ!!」
 素早くミヤムゥは左上段に構える。
 それに反応するように、虎真は星眼に構え、組み打ちを待つ。
──ゴクリ・・・・
(すげぇ・・・・虎真がこんなに真面目にやっているなんて・・・・)
 その一つ一つの動きに乱れがないのを、ティルコットは息を飲みつつ見守っていた・・・・。
 あのパリの冒険者酒場での見事なまでの『ひょっとこ仮面』っぷりと、今の『剣士』としての虎真のギャップが、ティルコットに驚きを与えていたようである。


●もいちどパリ〜アサシンガールに〜
──サン・ドニ修道院・3月2日
「面白いなぁ・・・・」
 サン・ドニ修道院に向かっている烈とヴィグ、そしてアルビカンスの3名は、周囲の物陰から自分達を『監視』している視線に気が付いた。
 以前の彼等なら気付かなかった視線。
 それが今は手に取るようにはっきりと判る。
「ああ。エクスキュージョナーズか?」
「ギルドの報告にあった奴だな・・・・俺達を狙っているのか、修道院を監視しているのか・・・・」
 烈のその言葉に、アルビカンスがそう返答。
「数は・・・・ざっと数えて10。何もしてこないようだがどうする?」
 ヴィグが持ち前の隠密行動技術から相手を確認、その数を正確に割り出していた。
「無視だ!! その数を聞いた以上、なにもしない方が正しい」
 アルビカンスのその言葉に烈は反発したい。
 手掛りが10人もやってきているのである。
 最悪でも一人ぐらいは縛り上げる事もできると思い、一歩踏み出す・・・・。
──ガシッ
 だが、その歩みはヴィグによって止められる。
「ここで騒ぎを起こして、もし修道院からあの子が姿を出してみろ!! それぐらいは判るだろう? 頭を冷やせ・・・・」
 常に感情がストレートな烈。
 それと対極にいる、常に冷静なヴィグ。
 そしてその中間にいる、お気楽極楽アルビカンス。
「ああ・・・・済まない」
 そう告げると、3人はそのまま修道院正門に向かい、そこでシスターと話をする。
 運がよかった事に、修道院長が中に入ることを許可してくれた為、一行は院長室へと向かうことになった。

──院長室
「今はまだ落ち着いていませんので、お会いさせることは出来ないのです・・・・」
 新しく保護されたアサシンガール『エムロード』。
 彼女は今、別のシスターがついていてくれているらしい。
「そうですか。ちょっと聞かせて欲しいのですが、今回の少女、今までの少女とは何か違うこととかはないのですか?」
 アルビカンスがそう問い掛ける。
「今になって思えば・・・・アンリやアンジェ、フロレンスはおとなしすぎるタイプでした。ですがエムロードを見ていると、これが普通の反応なのですね・・・・3人は訓練によって『心を開いているように見せかけていた』のかも知れないと思うと・・・・」
 そう告げて、胸の前で十字を切るシスター。
「3人も普通なのですよ、シスター。現に、ここにやってきた冒険者によって、笑顔を取り戻していたじゃないですか。人と接して開かれた心、決して偽りではなかったと思いますよ」
 丁寧な口調でそう告げるアルビカンス。
「ええ。それでは、もし何かありましたら、冒険者の皆さんにご協力をお願いします・・・・」
 そう頭を下げるシスターに、アルビカンスは真面目な顔でこう告げた。
「シスター伝えておいてくれ、絶対にお前は光射す世界に戻すってな」
 そして一行は教会の外にでる。

「・・・・」
 暫く歩いていたとき、一人の女性が3人の前に姿を現わした。
「これは忠告です・・・・シルバーホークから手を引くのです。命が惜しかったら・・・・」
 最後の言葉は告げられない。
 いきなり烈がその女性に向かって殴りかかったのである。
──バシィッ
 だが、その拳はいとも簡単に素手で受止められた。
「あんた、何者だ・・・・」
「私ですか? 私の名前は『ヘルメス』と申します。あの御方の側近にしてパートナー・・・・」
 烈の問いに笑みを浮かべてそう告げるヘルメス。
──バッ
 素早く拳を引き、烈がバックステップ!!
 そして入れ代わりにヴィグが手にしていた槍でヘルメスを突き刺す!!
──ドシッ
 だが、それは胸部に命中したものの、突き刺さることはなかった。
「馬鹿な!!」
 そのまま槍をスライド、切り付ける形で流してみるが、切り裂かれたのは衣服のみ。
 純白の肌には、傷一つ付いていない。
「困ります。この服はお気に入りだったのですよ・・・・」
 やれやれという表情で呟くヘルメス。
「自警団救出に向かった奴等の報告書を読んだが・・・・お前、やっぱり人間じゃないな・・・・悪魔かっ!!」
 すかさず印を組むアルビカンスだが・・・・
──ドシュドシッュドシュッ!!
 四方八方から飛んでくるムーンアロー。
 それがアルビカンスの全身に突き刺さっていく。
 そしてスッとヘルメスが手を開けだとき、ムーンアローの斉射は止まった。
「アルビカンス!! 貴様よくもっ!!」
 烈が叫びながら走り出そうとするが、ヴィグは冷静に其の手を取って動きを制する。
「烈・・・・相手が悪魔なら、俺達に勝ち目はない・・・・魔法の武器がなにもないんだ・・・・」
 切り札となったかもしれない魔法の武器。
 ヴィグとアルビカンスはペットの荷袋に括ってある。
 それを取りに戻るまで、烈が持つとも思えない。
 周囲にはエクスキュージョナーズも控えているようである。
 列のオーラパワーも、発動までに若干のタイムラグが発生する。
 その最中に高速詠唱を唱えられたらそれまでである。
「・・・・忠告はしました。でも生かしてあげます。その方が、恐怖を伝えることは出来るでしょうから・・・・」
 そう告げると、ヘルメスは其の場から静かに。立ちさって行った。
「取り敢えず手当だ!! シスターーっ」
 2人はアルビカンスの傷の治療のため、今一度修道院に駆け込んでいった。

──そして
「・・・・助かったぜ。礼を言う・・・・」
 シスター・アンジェラスのリカバーでなんとか死の淵から帰ってきたアルビカンス。
「しかし、相手が悪過ぎだ。アルビカンスを狙ってくるとはな・・・・」
 そう呟くヴィグ。
「ああ。真っ先に俺を封じようとしてくるところは流石だな。俺達冒険者の面は結構割れてしまっている。かなりの冒険者の情報が、シルバーホークに流れていると言っても過言じゃないだろう」
 その二人の会話の最中、烈はじっと拳を握り締めていた。
(俺には決定打がない・・・・高速詠唱に勝てる方法が見つからない・・・・)
 打撃に関してはオーラパワーでどうとでもなる。
 が、それも相手の体術のレベルによっては、躱わされてお終いである。
 精霊魔法やオーラショットのように、絶対叩き込める魔法というものが無かったのである。
「とりあえず感謝します、ありがとうございました」
 そうアルビカンスは礼を告げると、一行はそのまま修道院を後にした。


●プロスト領〜競馬ができなくて荒れていますか?〜
──プロスト家・3月8日
 修道院から戻った3人は、とりあえずアルビカンスの体力が回復するのを待った。
 そして、プロスト領までやってくると、そのままプロスト卿の元に挨拶と頼み事を行ないにやってきていたのである。
 執務室に通された3名は、とりあえず挨拶を行うと、烈が話を切り出した。
 シルバーホークによって破壊された『嘆きの塔』の結界。
 そして内部に封じられていた何かを奪い取り、シルバーホークは其の場から立ち去ってしまった。
 改めてその調査を行ないたいと頼み込んだ一行であったが、それもプロスト卿は許可しない。
「どういうことですか?」
「あの塔を始め、この地に立っている6本の塔は、ここの地下迷宮の封印をさらに固定する為の物です。ミハイルとシャーリィによって封印は再起動し、6本の塔のパワーバランスは安定しています。
 今、あの塔の扉を開く、つまり結界を開けることは、塔のパワーバランスを崩すどころか、この城の地下封印さえ破壊してしまいます。そうなったら、地下に眠っている魔人が地上に現われてしまうのですよ? 領主としては、『専門知識を持たないもの』にそのような危険な事を許可することはできません・・・・」
 プロスト卿の話はごもっともである。
 いくらシルバーホークに関する手掛りがあるとしても、領地と民を守る為には、プロスト卿は許可を出さないであろう。
「なら、専門家、つまりミハイル教授と一緒なら許可は頂けるのですか?」
 アルビカンスがそう問い掛ける。
「ええ、ミハイルが一緒ならば構いませんよ。もっとも、あいつは今頃、古代魔法王国関連の調査で忙しいでしょうから・・・・」
 
 案の定、ミハイル卿は留守であった・・・・。


●さらに江戸村〜虎真、貴様を殺して私も死ぬっ!!〜
──3月10日
 修行もいよいよ大詰め。
 毎日鍛練を続けている虎真と、毎日江戸村観光に余念のないティルコット。
 ちなみに中一日、ティルコットはシャーリィに会いにこっそりとプロスト領中央に向かったらしいが、遺跡の調査に出かけていた為会えなかった模様。
 そのまま江戸村に戻ってきては、のるまん神社の徳河葵嬢やのるまん亭の女将と親しい間柄になっている模様。
 
 其の日は、朝から嫌な空気が流れていた。
 ティルコットも最終日ということで修行の見学、虎真はただひたすら基本の型である『五行』をマスターすべく、基礎修練を行なっていた。
──ガラッ
「宮村殿、お邪魔させて頂きます。先日の件、お考え頂けたでしょうか?」
 そう告げながら道場に入ってきたのは、ちょっとインテリ優エルフ。
「あら、マクシミリアン卿の腰巾着さん。わざわざ手ぶらでお疲れ様です」
 力一杯嫌みタラタラでそう告げるミヤムゥ。
「いえ、本日は手ぶらではありません。ちょっといいワインが手に入りまして・・・・」
 そう告げると、腰巾着『クリストフ』は手にしたワインをトン、と床に置いて其の場に座った。
「今月の月末、そこからでも構わないので参加をお願いします。宮村殿の腕ならば、上位にも食い込むことは可能なのです・・・・」
「そして、私に賭けた貴族の懐が潤うということでしょ? 賭け試合なんてまっぴら御免だわ」
 そんな会話の中、ティルコットはミヤムゥの後ろに近づいて、そっと耳打ち。
「一体何がどうなっているんですか?」
「グレイファントム卿の所のスカウトよ。地下闘技場で戦って欲しいって・・・・」
 さらに横で耳を傾けていた虎真がスッと立上がる。
「師匠はそんな下らない試合には参加しない。とっとと帰って頂こう!!」
 いきなり啖呵を切る虎真。
 こういった揉め事にはつい首を突っ込んでしまう『つっこみ体質』なのだろうか?
「貴方は黙って頂きませんか? 私は師範と話をしているのです。貴方のような下の者は黙っててください」
──プッツーーン
 あ、虎真が切れた。
「下の者だとぉぉぉ? 上等だ。下かどうかかかってこいやぁ!!」
 いきなりそう叫ぶと、虎真はすっと立上がる。
「ではこうしましょう。宮村殿、私の連れてきたものと貴方の弟子と勝負して頂きます。もし貴方の弟子が勝ったならば、今後この話は無かったことにします。ですが、私の連れてきた者が勝った場合、トーナメントに出場して頂きます・・・・いかがですか?」
 ニコリと笑いながらそう告げるクリストフ。
「折角ですが、その勝負お受けする訳にはいき・・・・」
「上等だ!! その相手とやらを出してこい。一発で勝負をつけてやるっっっ!!」
 丁寧にそう告げる宮村と、もう止められない止まらない虎真。
(あっちゃあ・・・・言い切ったよ、虎真・・・・)
 顔面に手を当ててそう呟くティルコット。
 という事で、勝負となってしまったようで。
 一人ボケ突っ込みする余裕もなく試合開始。

──ドーン
 太鼓の音が静かに響く。
「宮村剣術道場剣客、とれすいくす虎真と、地下闘技場ランキング16位、疾風のアンリとの勝負を行ないます!!」
 虎真の目の前には、胸にあひるのぬいぐるみを抱きしめた女の子が立っている。
 其の手には、小さな木刀一本。
「今日は、おっきいおにいちゃんと戦うの。アンリはおにいちゃんとがぁがぁがぁ♪〜」
 などと訳の判らない歌を歌っているアンリ。
「・・・・がぁがぁがぁ・・・・」
 って、虎真、アンタも吊られてどうする!!
「それでは始めッ!!」
──スッ
 素早く腰を下げて足を半歩後ろに引く虎真。
 右手に構えた木刀は弓を引くように後ろに引き、左手はその先に添える。
 そのまま左手と視線を前方のアンリに傾けると、素早く踏込み、腰を回転させて一気に右手の木刀を突き出す。
「虎真式一刀流・餓狼牙っ!!」
 その一撃は真っ直ぐにアンリの胸許に向かって伸びていく。
「がぁがぁ〜が・・・・」
──バシッ!!
 左手で抱いていたあひるのぬいぐるみに虎真の餓狼牙が炸裂。
 同体は千切れ、首はもげ、腹の中の詰め物が宙を舞う。
「・・・・おとなげなーいっ!!」
 ティルコットの突っ込み。
「これで勝負はあっ・・・・あ?」
 と、正面に居たはずのアンリの姿がない。
──バシッバシッバシッ!!!
「おねえちゃんから貰ったガァくん・・・・ガァくん・・・・がぁくん・・・・がぁがぁ・・・・」
 ひたすら叩きつづけるアンリ。
「うわった・・・・って・・・・っうっうあぉいっ・・・・うあぇあ!!」
 あ、虎真その場で失神。
 なおも叩きつ告げるアンリを、クリストフは止めに入る。
「またおねえちゃんに作ってもらうから止めなさい!!」
──ピタッ
 と、突然止まったアンリ。
 床に落ちているガァくんのぬいぐるみを一つ一つ拾いはじめる。
「ふぅ。では、勝負ありということで。後日、迎えを寄越しますので・・・・」
 そう告げてクリストフは道場を後にした。

──そして一刻後
「・・・・虎真。どうしようかねぇ・・・・」
「え? ? いや・・・・ハッハッハッ」
 そう笑いつつ、農家で貰ってきた『ひょっとこの仮面』を顔に被り、虎真は其の場からダッシュ!!
──ガキィッ
 そして失敗。
「ウガガガッ・・・・師匠、ギブ・・・・」
「こうなったら一蓮托生。あんたもでるのよ、次の地下闘技場トーナメント・・・・」
 その光景を目の当たりにして、ティルコットは手を合わせた。
 ああ、合掌。
「ティルコットも同罪っ!! 仲間だったらなんとか止めなさいよっ !! 三人一組で出るのよっ!!」
 ああ、もう一度合掌。


●そしてパリ〜情報交換〜
──3月15日
 無事にバリに戻ってきた一行は、それぞれの得た情報を交換した。
 シルバホークのエクスキュージョナーに襲われた3人の話と、地下闘技場に出るはめになった虎真とティルコット。
「少なくなくとも、俺達は顔も覚えられてしまった。いつ殺されてもおかしくなくなってしまったという所だな」
 そう呟く烈。
「プロスト卿の嘆きの塔は、ミハイル教授の協力が必要だし・・・・」
 アルビカンスが烈に続いた。
「あの少女の事も気掛かりだ・・・・が」
『それよりもお前が一番気掛かりだっ!!』
 ヴィグの言葉のあとで、虎真を除く全員がハモった。
 が、とうの本人自覚なし。
「と言うことで、俺はマスカレードに情報を貰いに行ってくるでやんす」
 そう告げつつ立上がる虎真。
「何の情報だ?」
「ほら、確かアサシンガールの一人の子が、大切にしていたぬいぐるみ。あれが何処にあるのか調べないと・・・・」
 そう呟く虎真と『一通りの情報』を聞いて、頭を抱えている一行。
「あー。江戸村でお前の戦っていた相手の持っていたものはなんだ?」
「ああ、あのアンリとかいう子の持っていたぬいぐるみって・・・・ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ?」
 はい。
 君が破壊したあれ。
 という事で、合掌。

〜To be continue