●リプレイ本文
●と言うことで〜運命の日〜
──まずは冒険者酒場マスカレード
「今回も仕事関係?」
どんよりとした表情で静かに呟いているのは情報屋のミストルディン。
「この前依頼した情報がどれだけ集ったかなと思って」
ヴィグ・カノス(ea0294)は前回頼んだ情報がどれだけ集っているか問い掛けていた。
「シルバーホークの小拠点ね。実はシルバーホークが拠点として使っているアジトについてはある程度の情報は得られたのですけれど。その殆どが、私が探りをいれてすぐに引き払われたりしているの。情報屋の中でも、奴等と繋がっている者がいるということね。それで、今の所の情報では、南方にシルバーホークが暗躍しているという事、おそらくアジトもその辺り・・・・プロスト領かグレイファントム領ね。アサシンガールの施設については、彼方此方に点在しているという事以外はまだなにも・・・・一つは調査が終っているけれど、そっちは『光組』が動くらしいから・・・・」
光組?
「その『光組』っていうのは何者なんだ?」
ランディ・マクファーレン(ea1702)が静かに問い掛ける。
「このパリで最近発生したって言う対シルバーホーク実戦部隊『王国歌劇団・光組』。『王国歌劇団諜報部隊・闇組』と双璧を成して暗躍しているっていう噂よ」
そんな組織まで居るのかと、ランディは呆れ顔。
「それでヴィグ。これが今のところ『手の入っていない』拠点。小さいけれど、幹部クラスの建物が2つ。それぞれに『ガード』が付いているらしいわ・・・・」
「アサシンガールか?」
その問い掛けに頭を振るミストルディン。
「本物のガードよ。暗殺部隊では無く警備。攻めではなく守りに徹する専門部隊ね」
そんな者までいるのかと、ヴィグは更に呆れる。
「・・・・『ワルプルギスの剣士』について知りたい。どんな連中なのか、現存するのか、現存するなら何処に居るのか・・・・情報の質は問わない。考古学の方から出て来た話らしいから、少々御門違いかも知れないが・・・・頼めるか?」
ランディはミストルディンにそう問い掛ける。
「お金さえ貰えれば、情報は仕入れてこれるとは思うけれど・・・・ちょっと考古学者の分野は専門ではないし・・・・料金は成功報酬ということで引き受けてみるね・・・・まあ、あまり期待しないでね。ジャパンのことわざに『餅は餅屋』っていうのがあるから・・・・」
そのミストルディンの言葉に、ランディは取り敢えず了解。
「弓の名手と精霊碑文学に造詣の深い方を探しているんですが・・・・」
シルバー・ストーム(ea3651)はミストルディンに対してそう問い掛けている。
「人探しは専門外なのよねぇ・・・・私は情報を売っているので・・・・まあ、それでも初めての方なら、答えるのが私の理念。ちょっとまっててね・・・・」
そのまま席を外すミストルディン。
そして直に戻ってくると、ゆっくりと口を開く。
「冒険者酒場『シャンゼリゼ』には、その道の専門家ともいえる冒険者が一杯いるわねぇ。そういった人に、冒険を通じて師事するのが一番の近道ねぇ・・・・」
その言葉に、シルバーは少し落胆。
同じ冒険者に師事するとなると、相手の依頼等の条件も必要となる。
ギルドから依頼を受けて旅に出かけていくタイプの冒険者では、自分と一緒に何処かでみっちりとという訳にはいかないだろう。
「ずっと独学でやってきましたが、教えを請う事で新たな道筋が見えるかもしれませんと思いまして・・・・」
「精霊碑文学なら、ミハイル教授の所に行くと良いと思うけれど。あの先生は専門中の専門でしょ?」
その言葉に、シルバー少しは望みが見えた。
「ミハイル・ジョーンズ先生ですね。ありがとうございました」
丁寧にお礼を返すシルバー。
「すいません、ギュンター君は元気なのでしょうか? ギュンター君について色々と知りたいのですが・・・・」
一気にそう質問を投げかける薊鬼十郎(ea4004)。
「あーーはいはい。ちょっとまっててね。そのギュンターとか云うチビオーガの事は私の耳にも届いているわよ。まあ、そんなオーガの子供なんてたいした情報でも無いし、私にとっては価値どころか無駄な労力ですか・・・・」
──チャキーーーーン
素早く日本刀を引き抜くと、そのまま一気にミストルディンの首筋に当てる鬼十郎。
「そ・ん・なですって? 私のギュンター君に。無駄な労力ですって?」
あ、マジ目が座っている。
「やばい!!」
「押さえろっ」
「鬼十郎が『狂化』したぁっ!!」
ヴィグ、ランディ、シルバーの3人が鬼十郎を押さえこむ。
狂化しないしない。只のバーサークです(どう違う?)。
「放してっ。放してよぉっ。私のギュンター君をバカにしたんだから、その命を持って償って貰うしかぁ!! 手足ちょんぎってだるまにするぅぅぅぅ」
──ジタバタジタバタ
叫びつつ暴れる鬼十郎。
(だめ。きじゅろ、たたかうだめ。おなじひと、たたかうだめ。ぎゅんただいじょぶ・・・・)
脳裏に浮ぶ優しい声。
そして鬼十郎は日本刀を離した。
──カラン・・・・。
「ハッ!! ごめんなさい・・・・私・・・・私・・・・」
我に戻った鬼十郎がミストルディンにそう頭を下げる。
「い、いいわよ。私も悪かったんですから・・・・」
そういいつつ、流れる汗を拭うミストルディン。
そして一息いれてから、もう一度鬼十郎に話を始める。
「ギュンター君に関しての情報は本当にないのよ。一見したら目立つ存在かもしれないけれど、あの子はオーガなの。人のテリトリー以外の場所で活動されている以上、私達の知らない所でなにかをしているなんて調べようがないのよ」
その言葉に鬼十郎は肩を落とす。
「私からも依頼をお願いします。件のマクシミリアン卿は、どのような武器をどれくらい発注されているか、それを調べて頂きたいのです」
九紋竜桃化(ea8553)が丁寧に頭を下げた後、そうミストルディンに問い掛けた。
「マクシミリアン卿ねぇ・・・・あそこはシルバーホークの巣窟の一つだからねぇ・・・・あ、アジトっていう訳じゃないのよ、シルバーホークを調べていたら、何故かあそこにぶつかることが多いっていうだけ。武器の流れと言うことは、地下闘技場?」
その問い掛けに、桃化は静かに肯く。
「ああ、それならね・・・・」
と呟きつつ、席を外すミストルディン。
そしてゆっくりと戻ってくると、一つのペンダントを見せる。
「銀鷹のレリーフの入ったペンダント・・・・これは?」
そう問い掛ける桃化に対して、ミストルディンはゆっくりと口を開いた。
「とあるルートから回収した『シルバーホークの紋章』ね。ちなみに地下闘技場では『VIP待遇』として扱われる逸品。場所が場所だけに、どのようなルートで入手したかうまく口を併せる必要もあるかもね・・・・ないかもね・・・・」
ちなみにこの紋章入りペンダント、実は冒険者の知りえる範囲では、あと二つ、市場に出まわっている。
一つは、とある教授の弟子の女性が所持しており今でもそれを持っていると思われる。
そしてもう一つは『聖遺物の調査』をしていたときに発見され、なにか判らないうちに『ブルーオイスター寺院』に保管されているらしい。
「もし、それを貸して欲しいと言ったらどうする?」
ランディがそう問い掛ける。
「ものがものだから・・・・1日1Gで貸してあげるわ。但し、出所を聞かれてもうまく護魔化してね」
そして話が終ると、桃化は急いでマスカレードのマスターに、翌日一番の馬車に乗せて貰うように頼み込んでいた。
●取り付かれていたっっっつ〜その悪魔・狂暴につき〜
──江戸村へ移動中♪〜
からっと晴れた〜、昼下がり〜
江戸村に、続く道〜
大型馬車に、ガタガタ、揺られて行くよ〜
哀しい虎真〜戦いに行くよ〜
哀しい顔して旅立つよ〜
コマ、コマ、コマ、コマ・・・・ひょっとこ乗せて〜
コマ、コマ、コマ、コマ・・・・裏
──スパァァァァァン
「人事みたいに言わんとやぁ。うっうっぅっぅっ」
ティルコット・ジーベンランセ(ea3173)の歌にすっかり落ちこんだとれすいくす虎真(ea1322)。
それでもしっかりと『馬車常駐の突っ込みハリセン』で思い切りティルコットの頭をしばいているのはまだ余裕の証し。
でも、マジ泣き。
「まあまあ、まだ死ぬと決まった訳ではないし、大丈夫じゃん・・・・」
そう励ますティルコット。
だが・・・・。
(良かった。まだいつもの虎真じゃん・・・・またこの前みたいにおかしくなったら大変じゃん・・・・)
この前。
これから向かう江戸村で起こった『悲劇』。
村に入ってから、虎真は何処か人が変わったように見えた。
いや、明らかに人が変わっていた。
普段は使わないような口調。
攻撃的な性格。
なにかが虎真の中で起こっているような、悪い胸騒ぎがしていた。
だが、ティルコットのそれは、パリに戻ってからは杞憂に終っていた。
戻った当初は少し様子がおかしかったものの、酒場では直に『普通の虎真』に戻っていたから。
無事に江戸村に到着した二人は、後発でやってくる桃化が合流する明日の夕方までは、この江戸村に滞在することになった。
──その夜・宮村道場
夢を見ていた。
自分の中になにかがいる夢。
最初に見たのは、先月。
ここ、『のるまん江戸村』にやってきた初日。
その時は気付かなかった『悪魔の囁き』。
悪しき心に支配される。
でも、それも自分であると『受け入れてしまった』・・・・それが悪魔の諸業。
だが、自分以外の皆が『違う』と言ってくれたから・・・・。
自分は、自分を取り戻せていた。
魂すらもうち騙す声。
その状態を気付かせてくれたのは、最愛のオカマ・・・・ちがう、大切な仲間であるティルコットだった。
──ガバッ!!
汗がじっとりと滲んでいる。
ふと両手を見る。
なにかを握っている。
それが何か、自分には理解できない。
「・・・・私の中に・・・・なにかがいるっす・・・・」
そんな自分を助けてくれた声。
ふと、横に眠っているティルコットを向く。
──ポロッ
あ、見なくてもいいもの見えた・・・・。
「うっ・・・・悪いものを見たっす・・・・」
そのまま虎真は眠りについた。
──朝
朝一番に江戸村に到着した桃化。
そのまま目的である宮村道場に向かうと、丁寧に挨拶を行った。
──ドン!!
地酒の入った酒を12本、ミヤムゥ達の前に置く桃化。
そして静かに頭を下げると、ゆっくりと口を開く。
「頼みます。私を弟子にして下さい!!」
平に頼み込む桃化。
「うーーん。今も二人、弟子はいるしねぇ・・・・」
ちなみにその弟子二人、ここに来ると日課として早朝トレーニングを行なっている。
「おやおや、ようやく合流っすね?」
「思ったよりも早かったじゃん!!」
上半身裸で、汗を拭いつつ道場に入ってくる虎真とティルコット。
その二人の視界には、大量の酒を抱えて困っているミヤムゥの姿があった。
「・・・・ああ、二人とも、新しい弟子さんよ。挨拶しておいてね・・・・」
随分と変わり身の早い事で。
ということで無事に弟子の弟子入りした桃化。
その桃化をティルコットは呼ぶと、さらにミヤムゥも呼ぶ。
(実は・・・・ごにょごにょ)
(ふんふん。憑り付いてねぇ・・・・)
何やら怪しいことを話している一行。
そして。
「では、勝利を願って参拝にいきましょう?」
ミヤムゥのその言葉に、一行はそのままのるまん神社へ。
──のるまん神社
シャラッ!!
祓串で一行の頭上を振る神主。
その後ろでは、二人の巫女がじっと成り行きを見守っている。
だが、その最中、虎真はずっと脂汗タラタラ。
「ふむ。そなた、なにかが憑いているようじゃな」
「憑依されている?」
ムッとした表情でそう問い掛ける虎真。
「ははは。なにか、悪いものにでも取り付かれているかんじだねぇ・・・・」
ティルコットも渇いた笑い。
「悪いものって、俺に何が憑り付いているっていうんだ?」
そう言い返す虎真。
「ほら、いつもの虎真なら『俺』っていわないじゃん・・・・」
──あら・・・・それは失敗だわ
その指摘の瞬間、虎真の脳裏になにかが聞こえた。
ハッとして右耳を両手で押さえる虎真。
「わ、私の中になにかいるっす!!」
おっと、暗示が全て解除された模様。
──フフフフフッ。私はヘルメス。もう少し遊びたかったのですけれどねぇ・・・・
「わーわーーわーーーわーーーなにも聞こえないィィィィィィィて助けてぇぇぇぇぇぇ」
最後の方は涙声の虎真。
──もういいわ。私は宮村を闘技場に引出すこと。そのために貴方を利用させてもらっただけですからね・・・・。居心地がよかったので、また憑り付いてみたのですけれど。もうあなたにはつかないから安心して・・・・。
なにかが消えていく感覚。
そして虎真は悟った。
ここ暫くの間の自分。
自分では気付いていなかったが、回りの皆は『ちょっと違う』と言っていた事。
「まあ、デビルにでも憑依されていたんなら、仕方ないわよねぇ・・・・あれって、本人の自覚のないままに人格まで操るらしいからねぇ。それも、さもそれが当然のように・・・・」
やれやれという感じでそう告げるミヤムゥ。
──ぷっちーん
「どういう事情かはしらないけれど、この私を誑かすとは、悪魔みたいな嫌な輩っす」
いや、事情は話していたから。
悪魔みたいじゃなくて悪魔ですから。
「おーい、虎真・・・・相手は悪魔じゃん・・・・」
ティルコットの激しい突っ込みに、とりあえずひょっとこ面を被って立ち尽くしたまま護魔化す虎真であった。
●ワルプルギスの剣士〜オーラの剣士?〜
──数日後・ミハイル研究室
パリでミストルディンとの交渉を終えた一行は、その翌日、桃化ともに馬車にて移動。桃化はノルマン江戸村で降り、ランディやヴィグ、鬼十郎、シルバーはそのままミハイル研究室へと向かったのである。
「悪魔すら倒す力を持つ者・・・・ワルプルギスの剣士について教えて欲しい」
「えーっと、教えるのは構いませんけれど、どこでワルプルギスの伝承を聞いたのですか?」
そう話を切り出しているのはヴィグ。
そして頭を捻っているのはシャーリィ。
まだギルドに依頼も出していない『ワルプルギスの剣士』。その名前を何故冒険者が知っているのか、シャーリィの方が興味深々であるようだ。
「いや、酒場でそんな噂を聞いて・・・・ちょっと気になったもので」
そう告げるランディ。
「・・・・教授、この文字が示すのは?」
「おお、それはここに繋がる。一つ一つの単語として捉える事も必要じゃが、それらが幾つか重なることで別の単語に繋がる事もある。精霊碑というのは、複雑なものじゃよ・・・・」
ちょっと離れた机では、シルバーがミハイル教授に精霊碑のレクチャーを受けている。
「つまり、ここと此処が繋がって・・・・あれ?」
「ふぉふぉふぉ。精霊と心通わす文字系じゃて、完全に理解しないとスクロールは扱えないのじゃよ・・・・これは課題じゃ、ここで勉強するなら、これを完全に理解するよう頑張るのじゃよ」
コトッと一本のスクロールをテーブルに置くミハイル。
それを広げて軽く眺めてみる。
シルバーはそれだけで頭が痛くなって来る。
「普通のスクロールの半分の大きさの文字で、びっちりと限界まで・・・・これを読めるように?」
まだまだ先は長い。
頑張れシルバー。
そしてその横に戻ると、シャーリィが今までに調査を終えた『剣士』の部分について簡単にレクチャーしている。
「まず、ワルプルギスの剣士がどんな存在であったかは不明。類希なるオーラの使い手で、その力を増幅するなにかを持っていたらしいわね」
コトッとテーブルの上に置かれている『紋章剣』を持つ。
「これはその剣士が持っていたと伝えられている紋章剣ね。でも、この剣自体には、魔法の力もなにも掛かっていない訳。そんな武器では、悪魔を切るなんて無理。おそらく、これが『なにかを増幅する媒体』と思っていいわね」
そう説明するシャーリィ。
「ちょっと貸して欲しい」
ヴィグがそう頼み込むと、シャーリィは剣をヴィグに手渡した。
それをじっと眺めてみるが、なにも変わったことはない。
「オーラの使い手か。ちょっと俺も」
そう告げながらランディは剣を手にする。
『・・・・・・・・』
剣を手にしたランディ。
と、一瞬だが、剣がなにかに呼応した感じがする。
なにかがランディに語りかけているような・・・・そんな感覚である。
「剣が・・・・俺に?」
じっと心を研ぎ澄ます。
だが、それ以上はなにも反応しない。
「一瞬だが・・・・反応はした・・・・」
何故か? それはランディにも判らない。
「シャーリィ、この剣について教えてくれ、ワルプルギスの剣士について、今の調査が終っている限りで構わないから!!」
そう頼み込むランディ。
そしてシャーリィは、ゆっくりと今までの調査結果について説明する。
・彼等はオーラを使い、『魔』なる存在と戦っていた。
・彼等の持つ武具の中には『紋章剣』なるものが存在している。
・紋章剣は全部で13本。そのうちの一振り『龍の紋章剣』はシャーリィが確保。
・『アレックス・ケノーヴィ』という老人が、鍵を握っているらしい。
・老人はプロスト領外れの旧遺跡群近くにて隠遁生活
・旧遺跡群までの道程は険しく、魔物が徘徊しているらしい
「と、ここまでね。今は残りの石版の解析作業があるから、それが終らないと依頼も出せないのよ・・・・」
そう告げたとき、ランディとヴィグがシャーリィに頼み込む。
「その旧遺跡群の場所を教えてくれ!!」
「駄目よぉ。私の愉しみが無くなるじゃない。もう少ししたら冒険者ギルドを通じて依頼を正式にだしますので。愉しみは取っておいてくださいねっ!!」
まあ、考古学者ですからねぇ。
「シャーリィさん。以前ギュンター君を見掛けたってお聞きしましたけれど、それは何処でですか?」
それは鬼十郎。
「ああ、ギュン君ですね。パリ郊外のちっちゃな村でですよ。私はワルプルギスの剣士について、そこの長老に聞き取り調査にいったのですよ。その時に見掛けたのが結構前でしたし。さらにその前には、この家の前の街道からずっと先、今は使われていない廃村で見掛けましたね。でも、あの村は閉鎖されていて、誰も入ることができないそうですよ。私は学術調査で入れましたけれど・・・・」
そう返事を返すシャーリィ。
「その村にはギュンター君がいるんですか? それは何処なんですか!!」
ようやく見つけたギュンター君の手掛り。
鬼十郎必死です。
「ほら、噂だけどその村って以前アンデットに襲われて全滅したって。そこの教会に住んでいるらしいわよ・・・・」
その言葉に鬼十郎はガタッと立上がるが、直に椅子に座る。
「いかないのか?」
「うん・・・・。ギュンター君、いま頃まだ冒険中でしょ? 私は見送ってきたし・・・・でも、家があって帰ってくるところがあるんだから、また会えるよね・・・・」
今向かっても会えない。
それどころか切なさだけが込み上げてくるのが判るから、今はいかない。
「さて、シャーリィ。取り敢えずワルプルギスの剣士について手伝わせて貰う。俺達になにか出来ることはあるか?」
ヴィグがそうシャーリィに話し掛ける。
「そうですねぇ。取り敢えず石版、木版の解析を続けないと。お願いできますか?」
うっ。
「力仕事でしたら・・・・」
「ああ。そうだな」
「俺は少しだが伝承については詳しいからな・・・・」
ランディひとり勝ち。
ということで、膨大な資料の整理を頼まれる一行。
それが一通り終ると、一行はとりあえず他の仲間と合流する為に江戸村へと向かったのである。
●地下闘技場〜試合ではなく『死合い』と書く〜
──町の中
エレアノール・プランタジネット(ea2361)は困っていた。
有り金を全て勝負にぶちこむ予定のエレアノール。いざ地下闘技場に参戦すべくやってきたのは良かったものの、その場所が全く判らない。
「困ったわ・・・・どこにいけばいいのかしら?」
止むを得ず近くの酒場に飛込むと、なんとか頼み込んで場所を聞き出すエレアノール。
そして郊外の丘に立っている屋敷に向かったものの・・・・。
「招待状? そんなもの持っていないわ!! お金はあるのです。客としてやってきたのですからいれてくださいっ!!」
必死に入り口のガードマンに頼み込むエレアノールだが。
「規則は規則。申し訳有りませんが」
そのままエレアノールの首筋をヒョイと掴むと、外に向かって思いっきり放り出す。
──ズテーーーーン
「ちょっと待ってください。この闘技場には私の知合いが参加しているのです。『とれすいくす虎真』と『ティルコット・ジーベンランセ』。、それにノルマン江戸村の『宮村武蔵殿』も。私は付き人としていれてください!!」
その言葉に、ガードマンはホッホッホッと笑う。
「先日はアサシンガールの付き人と言って無理矢理入ろうとした方がいらっしゃいまして・・・・ならば、どうしてご一緒に来なかったのですか?」
そのガードマンの言葉に、エレアノールは言葉を詰まらせる。
ここに来る所までは話していたらしいが、何時、どのタイミングでという事までは話をしてこなかった。
来たら会えるだろう、入れるだろうとたかをくぐっていたのだが、それが裏目に出た。
「ちょっとした行き違いです。でも、ここに居ることは事実。いれてください!!」
そのまま粘りつづけたものの、とうとうエレアノールは闘技場に足を踏みいれることは出来なかった。
──地下闘技場
そんなこんなで試合。
街の酒場で『腰巾着クリストフ』と合流した一行、そのまま桃化は闘技場にフリーで参加したいことを頼み込む。
運がいいことに前座試合が一つ残っていた為、桃化はそれに参加することを許されたのであるが。
──という事で
「いよいよ前座もこれで最後っ。選手の紹介ですっっっっっっ」
素早く闘技場に入っていく桃化。
その目の前には、筋骨隆々のミノタウロスが鎖で繋がれている。
「ルールはグラディエート。使用武器はイベリアングラディウス。防具はラウンドシールドのみ。決着方法はデスマッチとなっていますっ!!」
司会が大声でそう叫ぶ。
(こんな武器、見た事も触ったこともないですね・・・・)
そのままブゥンとグラディウスを振ると、桃化は目の前のミノタウロスに向かって腰を落として構えを取る。
──ガシャャャャャン
ミノタウロススの鎖が外される。
それと同時に、ミノタウロスは一気に桃化に向かって走り出す。
「それではっ、戦闘開始っ!!」
──ガギィィィィン
激しく切り付けてくるミノタウロスの攻撃を軽くシールドでいなすと、カウンターでグラティウスを叩き込む桃化。
「必殺、昇竜っ!!」
──ドシュュュッッッ
血飛沫を上げて叫ぶミノタウロス。
その一撃でミノタウロスは既に戦闘士気が低下しているかのように思える。
「ミノタウロスといってもこの程度ですか・・・・」
ブゥンと剣を振りおろし、刃に付いている血を振り払う。
屈強なるミノタウロスすら一撃で。
しかもそれを行なったのは妖艶なる美女ときたら、会場は盛り上がること請け合いである。
そのまま桃化はスタスタと控え室へと向かわず、柵をヒョイと越えて虎真達の元に合流した。
「・・・・やっぱり理解できへん・・・・」
ちなみに、この前の試合が『首狩りデスマッチ』。一行はそれを見て、殺戮ゲームを楽しむ貴族や大勢の人間がいまいち判らなかった。
「さて、いよいよ私達の出番ね」
パーーンと拳を鳴らすミヤムゥ。
「虎真っ。これ使いなさい!!」
ポン、と虎真に投げたのは一振りの刀。
「相手を余計に傷つける必要はないのでしょう? その刀なら傷つかないから」
スラッと虎真が鞘から刀身を引き抜く。
「師匠・・・・これ、刃が逆についていますが?」
「『逆刃刀・一文字月山』よっ。滅多に手に入らない代物なんだからねっ!!」
それは虎真を評価しての貸与であろう。
スラリと伸びたるは二尺四寸三分の刀身。
腰反りが高く、刀身には『一文字丁子』と呼ばれる焼幅が付いている。
乱れは八重桜、まさに芸術とでも言われそうな逸品。
「師匠・・・・こんなに凄い刀を私の為に・・・・」
「トールギスさんに頼んで作って貰ったのよっ。大切にねっ」
それ、パチ物じゃん。
しかも玉鋼じゃないし。
そして、闘技場の両側に十字架が設置される。
「ここで、師弟の連携ってのを見せてくれよ!」
ドキドキしつつも、ティルコットがその十字架に設置される。
そして側には大会のアシスタントが待機し、特製ダガーの準備をする。
「ティルコット・・・・」
「ティルコットさん・・・・」
虎真とミヤムゥ。
二人が真剣な表情でティルコットを呼ぶ。
「二人とも・・・・」
感動のあまり涙が溢れるティルコットだが。
『南無っ!!』
二人同時に手を合わせてティルコットを拝む。
ああ、なんて息の合ったタイミング。
「洒落にならないじゃん。真面目にやってくれっ!!」
あ、まじ泣きで叫ぶティルコット。
「まあ、これは冗談ですが師匠、あの子達の装備をどう思うっすか?」
虎真が目の前の少女達を見て静かに呟く。
「武器なし、服はヒラヒラ普段着。どう見ても普通の女の子。よほど自信があるんでしょうねぇ・・・・でも、手加減はなしよ」
虎真にとっても本意ではない。
だが、戦わなければ、ティルコットは死ぬであろう。
アサシンガールの方も準備完了。
アンリエットが十字架に固定されると、その手前でフロレンスとオーブ・ソワールが拳をゴキゴキと鳴らしていた。
「それでは、始めッ!!」
司会の叫ぶ声と同時に、フロレンスが遠距離で拳を振るう。
──ゴゥゥゥッ
拳から生み出されたソニックブーム。
それが虎真の方に向かって真っ直ぐ飛ぶ。
「堅実に堅実に・・・・」
その衝撃波を無駄な動きなく躱わそうとする虎真。
──ドッゴォォォォン
と、突然虎真の前方で衝撃波が扇状に炸裂した!!
「ソニックからのソードボンバー?」
「そんな荒業デッッッッ痛いた痛いい痛いっす」
動揺するわ痛いわで、もう大変。
しかも扇状の衝撃波はミヤムゥにも襲いかかっているし、
「全く。随分と面白いことするわよねぇ・・・・」
そんな事を言っている場合ではない。
──ザクッザクッ
まずはティルコトッの左右の肘の内側にざっくりとダガーが刺される。
「ぐっ・・・・ああ、もうくらくらしてきたじゃん・・・・」
血がダラダラとタレ始め、頭がくらくらするティルコット。
「よっくも、大切な仲間になんてことするっすかっ!!」
緊張感ないようだが、それでも珍しく怒っている虎真。
──チャキッ
素早く『虎真式一刀流・餓狼牙 』の構えを取ると、そのまま射出せずに一気に間合を詰めていく。
「カウンターアタックに気を付けてっ!!」
ミヤムゥの言葉は耳に届いている。
アサシンガールについても調べてある。
そのまま右手の刀を前方に素早く叩き込む。
だが、その剣先は一つではない。
無数の乱撃が瞬時に生み出される。
「ど、どれが本物の・・・・」
──ドゴッ
動揺するフロレンスに向かって、本当の一撃が素早く叩き込まれた!!
「えーっと、命名は師匠、『虎真式一刀流・鳳仙花』っす。本物が判らないとカウンターも打ち出せないでしょ?
トントンと刀の背で自分の肩を叩きつつそう呟く虎真。
──ピューーーー
おいおい、それ逆刃刀だって。
「痛い痛いっっっっっ」
叫びつつ後方に下がる虎真と、そのタイミングで一気に間合を詰めるミヤムゥ。
──閃・・・・爆裂
瞬時に二人に向かって『衝撃波の塊』を叩き込むミヤムゥ。
同じソードボンバーでも格が違う!!
その衝撃波に、後方に吹っ飛ぶお子様達。
合わせて3撃、これで1本先取。
ここで休憩に入る事も無く素早く2本目に突入。
──そして
「・・・・あのなぁ、川が流れてて。その向うで、爺さんが孫を抱えて微笑っていたんだ。なんか、初めて見た孫ってかんじで、兎に角ジャパン伝来の干し柿のような甘々な雰囲気で・・・・死ぬかと思ったじゃん!!」
ちなみに2本目は3−2でアサシンガールに軍配があがった。
そして3本目は3−0のストレートで勝利をもぎ取った一行。
ティルコットの身体には、合計で4本のダガーが突き刺さっただけ。
だが、アンリエットには9本。瀕死の彼女とティルコットには、直にクレリックが治療を行ない命は取り留めた。
「これで約束は果たしたわね。とっとと帰りましょう?」
「そうっすね。この賞金で酒かって、宴会といきましょう!!」
「呑む。俺は兎に角呑むじゃん!! 飲んであの恐怖を忘れるじゃん!!」
「修行は明日からですか? それでしたら私も少しだけお付き合いしますね」
とまあ、クリストフにはキッパリと別れを告げて、一行は江戸村に凱旋帰国・・・・って国じゃない。
そして翌日には、プロスト領に向かっていたランディや単独でマクシミリアン自治区に向かっていた一行も江戸村に合流。
さらに宴会に花が咲いたのは言うまでもない。
〜To be continue