風にのって〜そろそろ戻ろう〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:16人

冒険期間:05月26日〜06月10日

リプレイ公開日:2005年06月02日

●オープニング

──事件の冒頭
 春疾風は、暖かな空気と共に不穏な空気をもこのノルマンに運んできたらしい。

 風にのって流れてくる噂。
 シルバーホークの下部組織が次々と暴かれ、一部ではその幹部クラスの者が騎士団に囚われているという。
 エムロードと呼ばれている少女について、酒場でも様々な論議が始まっている。
 そして地下闘技場。
 噂ではかなりの猛者が勝ち残り、間もなく準決勝が始まるという事も囁かれている。

──そして冒険者ギルド
 冒険者ギルドの掲示板にも、様々な依頼が増えつつある。
「あ、またご無沙汰していますねぇ。最近は貴方向けの依頼も多くなっているのですから、そろそろ仕事をしてくださいよっ!!」
 もうそろそろ新人の衣を脱ぎ捨てた受付嬢エムイ・ウィンズがそう呟く。
 ちらっと依頼を見てみると、それ程多くは感じない。
 それとも、まだ張付けられていない依頼があるということなのだろうか。
「まあ、そろそろ仕事に戻るか‥‥」
 いつまでもフラフラとしているだけでは、良い仕事にはありつけない。
 ギルドに顔をだし、色々と仕事をしていくと、たまには美味しい思いをさせてくれる。
 そんな淡い期待を胸に、君は、また『風にのってフラリと』歩き始めた‥‥。

●今回の参加者

 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2361 エレアノール・プランタジネット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4004 薊 鬼十郎(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5415 アルビカンス・アーエール(35歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

パトリアンナ・ケイジ(ea0353)/ エルリック・キスリング(ea2037)/ フェイテル・ファウスト(ea2730)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ 鉄 劉生(ea3993)/ フレイハルト・ウィンダム(ea4668)/ アリアン・アセト(ea4919)/ ジョージ・グレン(ea5212)/ バルディッシュ・ドゴール(ea5243)/ ジノーヴィー・ブラックハート(ea5719)/ リスター・ストーム(ea6536)/ 聯 柳雅(ea6707)/ ノーランド・ノース(ea8756)/ 水鳥 八雲(ea8794)/ 神剣 咲舞(eb1566)/ クラウス・クラバート(eb2179

●リプレイ本文

●情報戦〜伝説のハンター〜
──冒険者酒場・マスカレード
「‥‥色々と助かった‥‥」
 そう目の前の協力者達に告げているのはヴィグ・カノス(ea0294)。
 フェイテル・ファウストとバルディッシュ・ドゴールの二人は、ヴィグの為に宮廷図書館などで『ヘルシング卿』についての情報を捜していた。
 だが、それらしい記述は、図書館に納められている写本にも見当たらない。
 セーヌ川の畔にあった、悪魔に滅ぼされた村というのは確かに存在する。が、それもまた口伝を書き記した感じであり、出所は不明である。
「待たせたな‥‥これが住所らしい」
 そう告げつつヴィグの元にやってきたのはアルビカンス・アーエール(ea5415)。
 ロイ教授の住所をミストルディンに訪ねてきた所であるらしい。
 しかし。
 『情報屋』がいつのまにか『地域の案内所』になってしまっているような。
「さて、それじゃあ行くとするか‥‥皆、協力してくれて助かった」
 そう挨拶をすると、二人はそのままロイ教授の家へと向かった。

──場所は変わってカウンター。
「さて、今度は俺からの依頼だな。『名剣らっしぃ』の在処を教えて欲しい」
 そうミストルディンに問い掛けているのは風烈(ea1587)。
「め、名剣らっしぃですって?」
 慌ててそう叫ぶのはミストルディン。
「何だ、知っているのか?」
「知っているもなにも、私達冒険者相手の情報屋で、その名前はけっこう有名よ。『幸運剣らっしぃ』。ディンセルフの魔剣の一振りにして、『願いを叶える剣』でしょう? 持主に幸せを与え、そしてスッと所有者を変えるっていう‥‥」
 そんな噂があるのかと、烈は感心している。
「で、どこにあるんだ?」
「それが判ったら苦労しないわよ。一見したら普通のディンセルフの剣だし‥‥ただ、柄の部分に、『汝に幸運を』とだけ記されているのよ。偽者まで裏オークションに出まわっているから、よけいにややこしいったらありゃしないんだから」
 そうか。
「ただ、持っていたという人の場所なら判るわよ。色々と話を聞くことはできると思うから。ちょっとまっていてね」
 そう告げると、ミストルディンはサラサラッとその人たちの名前と住まいを書き記して烈に渡す。
「すまない」
 そのまま烈はテーブルを後にした。
「さてと‥‥鬼十郎、先にいっておきますけれど、ギュンター君関連の情報は今のところあたらしいものはないわよ」
 そう目の前の薊鬼十郎(ea4004)に告げているミストルディン。
「無いのですか‥‥はぁ‥‥」
 溜め息を付く鬼十郎。
「オーガキャンプまで私達は監視をしている訳ではないのよ。それに、地方で何かあったとしても、それが私達情報屋のネットワークまで到達するには時間が掛かるわ。まあ、何か判ったらシフール便で送ってあげるから‥‥」
 そう告げると、鬼十郎は別の方角から色々とアプローチ。
「ふぅん。そうねぇ‥‥トール氏殺害事件については、もう調べている人はいないからねぇ。犯人は殺され、渦中の女性も行方知れず。秘密は全て闇の中‥‥なのよねぇ。『宿り木の剣』については知っているわよ。場所だけは。でも、彼の剣は神々を滅ぼす剣でしょう? そのまま封印されていて然り、誰も手を出すわけはないし‥‥ヴォルフ卿の魔獣兵団については‥‥まあ、手を出さないほうが得策というところね」
 一つ一つ、鬼十郎の質問に答えていくミストルディン。
 だが、残念なことに、鬼十郎にとって必要な情報は出てこなかった。

──マスカレード一階・角の『巨大鎧置き場』
 烈は、巨大鎧の置かれている所にやってくると、その前でコツコツと作業している『銀の錬金術師、エドワード』の元にやってきた。
「エド、ちょっと時間あるか?」
「うーん。まあ少し位なら」
 そう告げる全身鎧のエド。
「有名な錬金術師のヘルメス・トリス・メギストスについて教えて欲しいんだ」
「ヘルメス? 僕達錬金術師の開祖にして『三重にして偉大なる存在』だよ。森羅万象を記した『エメラルド・タブレット』にその秘法は全て記されているっていう‥‥僕達錬金術師にとって目的とする人物の一人だけど? あ。ピエールさん、ちょっと腕を動かしてください」
──ゴゴゴゴゴゴッ
 と、突然巨大鎧の腕が持ち上がる。
「ゴーレムか‥‥よく作ったものだな‥‥」
「まだゴーレムではないよ。これを組み込む為の準備もしていないし」
 そう告げつつ、エドは小さく黒光している宝石のような石を見せた。
「それは?」
「僕が錬金術によって生み出した『第五元素』の一つ。名前は『ノルマニウム』。このノルマンの叡智を集めて僕が精製したんだよ」
 そう告げると、エドはそれを袋に入れてしまい込んだ。
「本当は『生きている銀』を精製しようとしていたら、その途中で発見されたんだよ。命の水、金属にして液体。『生命の水・アクアヴィタエ』を作りたかったんだけれどね‥‥」
 なにを言っているのか、烈にはちんぷんかんぷん。
 それでもヘルメスについては少しだが情報を得ることができたので満足である。
 そのままピエールに『あるもの』を手渡したかったのだが、額に汗を流して頑張っているであろうピエールの邪魔をしないよう、烈はそれを後日手渡すことにした。


●実戦こそ最大の修練〜投げレンジャーvs虎真一刀流〜
──郊外にて
「ザ・パトリアンナレボリューション!! 皇竜っ!!」
 瞬時にとれすいくす虎真(ea1322)の背後に回り、ガシッと腰を抱きしめる。
 そのまま『大木を引き抜く』ような感覚で、一気に虎真を背後に投げる。
 天より竜が駆けおりてくるかのような一撃。
 それを真面に受けて、虎真はフラフラ。
「あ、あいたたた‥‥」
 ちなみに何が起こっているのか説明しよう。
 いざ冒険と張り切って出かけた虎真と情報得てそこそこに満足の鬼十郎。
 途中までパトリアンナ・ケイジが見送りに来てくれて、道中一行は盛り上がっていた。
 そして郊外の草原にやって来た時、パティは虎真に今までの自分の覚えていた技を全て叩き込んでいたのである。
 江戸村のミヤムゥに師事していた二人。
 今まさに弟子同士の対決が‥‥あれ?
「皇竜は基礎の4っつの技の複合から生まれる技。全ては基礎から‥‥」
 そう告げつつ拳をベキボキと鳴らすパティ。
 そのままこまは後ろ向きのままパティから間合を取る。
「退散退散‥‥と」
 そう呟きつつ、パティとの間合を掴むと、そのまま背後のパティに向かってバックナックル!!
──ブゥーーン
「そんな距離からバックナックルなんて‥‥ッテッ!!」
 パティの横っ面を衝撃波が走る。
 ソニックブームで拳の威力を飛ばしたのである。
 そして素早く拳をグット後に引くと、虎真は静かに腰を落とす。
「虎真式一刀流・無手の1‥‥縦縞猛虎拳」
 ダッと間合を一気に詰めると、そのまま後に引いた拳をパティに向かって叩き込む虎真!!
──ガシッ
 パティの胸部に直撃。
 そのまま後に下がるパティ。
「いいお天気‥‥ギュンター君、今頃何処かなぁ‥‥」
 二人のやり取りを傍で見つつ、鬼十郎は空を見上げてそう呟いていた。


●伝説の男〜女だったら洒落にならんぞヘルシング卿〜
──ロイ考古学研究室
「実は、悪魔関連の事件に巻き込まれたんだ。それで、悪魔と対峙する方法を、ヘルシング卿は伝え知っていると聞いてな。もし良かったら、そのヘルシングという人物について教えて欲しいのだが」
 それはアルビカンス。
 ロイ教授の元を訪れた二人は、まずは丁寧に挨拶。そして用件を告げると、教授は快く二人を室内に招いて行くれた。
 様々な石碑や写本が雑多に散らばっている研究室。
 その一角の荷物を片付けて、ロイ教授はふたりの座れる場所を確保。
 心地好い香りのするハーブティーを入れると、ふたりに差し出した。
 それを一口飲んだのを確認してから、ロイ教授は静かに本題に入った。
「‥‥ヘルシング卿とは、ずいぷんとマニアックな名前を出してきたのう‥‥」
 そう話を切り出すと、ロイ教授はこめかみに手を当てて何かを思案。
 いきなり立ち上がると、あちこちの雑多な場所から一冊の写本と一振りの剣を取り出した。
「えーっと‥‥これが当時のヘルシング卿が使っていたという剣か‥‥」
 何の変哲もない剣。
 その刀身には、見事なまでの装飾が施されている。
 そして剣に刻まれたルーン。
「ルーンソードのようだが?」
「もう、文字の判別も出来ないほどに錆びているか‥‥柄にも刻まれているな‥‥」
 ヴィグに続いてアルビカンスがそう告げる。
「それは『ワルプルギスの剣』の一つでな。柄に刻まれていた紋章は『翼』を意味するものじゃ。ワルプルギスの剣士とは、とある地方に棲む『卓越したオーラを扱う剣士たち』でな。確か、悪魔と戦っていたという記述も残されておる。じゃが、ヘルシング卿の最も凄いところは‥‥剣ではない」
 そう告げるロイ。
「ヘルシング卿は、自らの召喚した悪魔を従わせ、その悪魔と剣の力で悪魔を退治していたという噂じゃよ」
「つまり、悪魔に魂を売り、契約を行なったということか?」
「いや、そうではない」
 そのまま一息着く為に、ロイ教授は静かにハーブティーを一呑み。
「悪魔の世界も複雑じゃて、上位の悪魔と『魂を売る事無く』盟約のみで従わせたということじゃが。利害関係の一致か、はたまた‥‥そこらへんはまだ調査しないとのう‥‥」
 そう告げると、ロイ教授は静かに立上がる。
「話はここまでぢゃよ。わしは倉庫の整理をしないと為らんからのう‥‥」
「手伝わせてくれ。ここまで色々と話を聞かせてもらって、はいさようならという訳にはいかないんでな‥‥」
 ヴィグがそう提案する。
「ふむ。昨今の冒険者は、本当に物好きじゃのう。依頼でしか仕事をしない『便利屋』程度にしか考えていなかったのじゃが。いい心掛けじゃよ」
 にこにことしながらロイ教授は二人を倉庫まで連れていった。
 そしてヴィグとアルビカンスは、山のように置かれている様々な資料を整理することとなったのだが。


●魔法使いの弟子達〜さあ、勉強です〜
──プロスト領
 さて、いつものように応接間に通された一行。
 これまたいつものように、にこにこと笑顔で冒険者を迎え入れているのは領主であるプロスト卿。
「今回もお世話になります」
「おりよく、魔法について教えて頂けるのでしたらと言うことで、お邪魔させて頂きました」
「スクロールの使い方について教えてほしいんだ!!」
 シルバー・ストーム(ea3651)とエレアノール・プランタジネット(ea2361)、そしてティルコット・ジーベンランセ(ea3173)の3名が静かに挨拶を行う。
 そしてシルバーは、懐から一枚の肖像画を取り出すと、それをスッと差し出した。
「‥‥シスター・グロリア‥‥いや、少し違いますか。どうして貴方たちが、シスターの肖像画を?」
 そう問い掛けるプロスト卿。
「いえ、ちょっと知人に頼まれただけでして‥‥なつかしい御方ですか?」
 そう告げると、それを静かにしまい込むシルバー。
「ええ。昔、私がミハイル達と共に冒険者をしていた時代の仲間でした‥‥まあ、昔話は置いておきましょう。早速ですが、勉強会を始めますか」
 そう告げると、一行は場所を城内の中庭へと移した。

──まずはレンジャーズ
「最近使いだしてるんだけど、使い方のコツとかない? あと、スクロールで神聖魔法は無理なんだよな?」
 そう告げつつ、自前で持ってきたスクロールを広げているティルコット。
「ははは。スクロールは精霊との交渉の為のものでもあるのですよ。これに記されている精霊碑は、彼等にお伺いを立ててその力を借りるためのものですから」
 そう告げると、プロスト卿は自分もまた大量のスクロールを持ってくると、それを『腰に下げた特製ホルスター』に納める。
「レンジャーでスクロール使いならば、探知系のスクロールを瞬時に使いこなすことが必要でしょうねぇ。大量のスクロール、それをいつでも引出し、的確に使えるようにする。実際は、訓練で身につけるのと実戦で鍛えるのと二つの方法が必要になりますから‥‥」
 と、シルバーが静かに挙手。
「スクロールは詠唱や印を描く必要がないですが、熟練すれば一瞬で発動出来る様になるのでしょうか?」
 そう問い掛けるシルバーにたいして、プロストはきっぱりと言い切る。
「魔法とは違いますからねぇ‥‥もしそれが可能であるとするならば、魔法使いは必要ありませんよ。視界の中の精霊碑を瞬時に発動させるのと、自分が理解している魔術を高速詠唱で発動させる魔法使い‥‥どっちが手軽でしょうかねぇ‥‥」
 確かに。
 そして、プロスト卿はティルコットにとあるアイテムを手渡す。
「これは?」
 手渡されたのは小さな木彫りのマリア像。
「この城内には、それが6つ隠されています。スクロールを駆使して探してきてください」
 そう告げると、プロスト卿はティルコットの前に大量のスクロールを置く。
「どれでも好きなものをお貸ししますよ。とにかく難易度は高いですので‥‥ああ、一つはガーディアンが持っていますから、まあ頑張って下さい‥‥」
 そのままホルスターを借りて、適当に選択したスクロールを手に取ると、ティルコットは城内探索開始。

──エレアノールー
「元々私のコンセプトは中遠距離での敵の一掃。つまり近接対応は考慮していない人間ですの」
 そう告げつつ、エレアノールは自分の持っているスクロールをこっそりとプロスト卿に告げる。
 この後で始まるであろうシルバーとの模擬戦。
 相手に自分の手の内を知られてしまうのは不味いからであろう。
「ふむ‥‥練りこんでいますね。おおよそ良いところまで踏込んでいるといえましょう。実戦で何処まで有効に使えるかは『貴方の判断力』次第です」
 そう告げると、プロスト卿は静かに其の場を離れる。
 そしてシルバーの準備が出来たのを確認すると、そのまま二人に対して模擬戦を始めるよう告げた。
「それでは、デュエル、スターートッ!!」

──ズラララッ
 二人同時にスクロールを広げる。
「やはりスクロールできましたか‥‥」
「お互い考える事は同じようね‥‥」
 先に発動したのはシルバー。
 全身が深紅に輝くと、その輝きは静かに消えていった。
(シルバーは魔法戦で来ると読んでいるから‥‥) 
 エレアノールの魔法も完成。
 そのまま静かに上空へと飛んでいくと、素早く詠唱開始。
 さらにシルバーはスクロールを広げると、其の頭上に漆黒の球体を生み出した!!
「ブラックボールですか‥‥」
 エレアノールの魔法が完成。
 アイスコフィンが発動したが、その効果はプラックボールによって吸収されてしまう。
 さらにエレアノールは詠唱を開始。
(先程と旋律が違いますか‥‥次はアイスブリザードですか)
 すかさずシルバーはトルネードのスクロールを引き抜くと、それに目を通す。
 一手早くトルネードが発動し、エレアノールを竜巻が巻き上げた。
「きゃああああああああああっ」
 印が解け、そのま上空に巻き上げられるエレアノール。
 そして自然落下。
 本来ならば大地に叩きつけられるところだが、精神集中し、レビテーションをコントロールすることで、落下速度を軽減。そのままゆっくりと降下していった。
「そこまでです!!」
 そこでプロスト卿が静止。
「魔法とスクロールの差がはっきりと出ましたね‥‥シルバーさんの洞察力と使用したスクロールの判断。実にいい感じです。実戦向きとしてはまだまだタイミングの問題もありますが。エレアノールさんの方も、魔法の選択は問題なし。ただ、『スクロール使い』を相手にした場合の対処としては、もう一つ決め手に欠けますか」
 そのままさらにレクチャーを受けて特訓を続ける二人。
 
──一方、ティルコットはというと
 とりあえず城内見取り図を作るティルコット。
 そしてその地図を床に置くと、パッとスクロールを取り出して発動。
 見る見るうちに地図は燃え上がり、そして床に6本の灰の道筋が姿を現わした。
「バーニングマップか‥‥こういう調査の時は意外と便利じゃん」
 そしてその道筋を頭の中に叩き込むと、一気にマリア像ゲット作戦開始。

「この隙間の‥‥あ、あっああった」
 クレバスセンサーで隙間を探知しては、マリア像を引っ張りだしているティルコット。
 どういう造りか判らないが、マリア像の中に『温められた液体』が入れられている為、インフラヴィジョンも併用して調査を行なっていた。
 そして最後の一つ。
 それを探しに地下迷宮まで突入したティルコット。
 やがてインフラヴィジョンが巨大な人影を確認。
「ガーディアンの熱源か‥‥果たしてどんなガーディアンが‥‥」
 そう告げつつ曲がり角を曲った時、ティルコットは硬直した。
(ウェルカーーーム)
 そんな感じの言葉を発しつつ、全身でポージングしているイフリート達が待っていた。
 その中の一人が、手の中にマリア像を握り締めている。
「か、か、勝てる筈ないじゃん!!」
 素早くスクロールを引き抜くと、そのまま『レジストファイアー』を発動。
 兎に角熱源であるイフリートの炎から身を護ろうということであろう。
「勝負だイフリートっ」
 素早くスクロールを広げると、アイスミラーを発動。
 その刹那、イフリートも魔法が完成、ティルコットの足元から炎が吹き上げるが‥‥。
──キィィィィン
 ティルコットの全身を包んでいるアイスミラーが、そのマグナブローを無効化した。
 そして戦いは始まる。

──結末
「制御さえ可能ならば‥‥」
 地面の上に立っているのはエレアノール。
 魔法は戦う為だけではない。
 制御さえ可能ならば、こういった使い方もできると、ブロストの教えるままに使ってみた。
 全身が炎に包まれる。
 ファイアーバードを発動して、一気に上空まで飛び上がる。
 そして城壁の上で待機すると、そのまま魔法が切れた瞬間にその上に着地。
「出来ましたわ!!」
「エクセレント。いい感じですよ。貴方は格闘戦には向いていません。ファイアーバードで体当たりなど無理。ならば、その魔法は『移動用』として使うのが当然‥‥敵の攻撃を避けるよりも、もっと別の使い方を覚えるのがいいでしょう‥‥そして」
 素早くシルバーの方を向いて印を組み韻を紡ぐプロスト。
 その瞬間、シルバーはホルスターから『サイレンス』を引出し、一気に目を通す。
 高速詠唱でない対象者相手なら、これで十分。
 相手の発動までの時間に、自分のスクロールの方が早く発動する。
 そして発動に成功、プロスト卿の魔法は全て発動しなくなった。
 そのままプロスト卿は、サイレンスの効果が途切れるまで待った。
「ベリーグット。それで十分です。対魔法戦としてレンジャーがスクロールを使うのならば、相手の魔術を封じる手段から考えれば良いでしょう。相手が高速詠唱でくるのなら不味いですがね」
 そうこうしている内に、ボロボロになったテスィルコットが到着。
「ぜーはーはーぜはー。プロスト卿‥‥取ってきたぜっ」
──バタッ
 ちなみにイフリートとの激しい戦い。
 真面にやっても勝てる見込みはないが。
「良く勝てましたねぇ‥‥」
「ライトニングアーマー‥‥アイスミラー‥‥ストーンウォール‥‥ライトニングサンダーボルト‥‥止めのアイスコフィンでお終い‥‥」
 あ、スーパーコンボだ。
「こ、これで‥‥ようやく修行はお終いじゃん」
 そう告げて、ティルコットは意識を失った。
「グットです。使いこなしてこそのスクロール。属性に縛られない柔軟な発想。それでいいのですよ‥‥」
 そう告げとる、プロスト卿はメイドにティルコットを部屋まで連れていくように指示。
 そして一行は、今しばらくプロスト卿の講義に耳を傾けていた。


●もんすたー☆ぱにっく〜それは違うでしょ〜
──オーガキャンプ
「男性ですか‥‥」
 そう呟いているのは鬼十郎。
 オーガキャンプにギュンター君の足取りを追ってやってきた一行。
 鬼十は『吟遊詩人のトリス』と、『トール』の人相などを訪ねていた。
 トールについては、鬼十郎が知っている『死んでしまったトール氏』と完全に一致。
 そして吟遊詩人のトリスはというと。
「ええ。細身のエルフでしたね。ここに来る人間なんて殆どいませんから、はっきりと覚えていますよ。ここがオーガのために開放された場所だという噂を聞いてやってきたって‥‥」
 そのまま鬼十郎は途方にくれる。
 そしてもう一人、途方にくれてしまっている人が一人。
「うが?」
 しゃがんでちっちゃいオークにそう話し掛けていたのは虎真。
「ウガウゴグゥアアグゥガゴウガ」
「うう‥‥ぐぁ?」
「グゴグゥガァァ」
「ふーん。なるほど。よく判ったっすよ」
 ポンと手を叩いて立上がる虎真。
「こ、虎真さん。オーガの言葉分るのですか?」
 慌ててそう問い返す鬼十郎。
「んー。ニュアンスっす。お腹が減っているらしいから、何か作ってくるっすよ」
 てとてとと〜と走っていく虎真。
 そのまま監視の入る小屋に飛込むと、早速調理開始。
「グゥオ‥‥」
 鬼十郎の背後から、オークのディヴ君が近づいてくる。
 そしてトン、と鬼十郎の肩に手をのせる。
「ありがとうディヴ君。優しいね‥‥」
 そんなこんなで、虎真も特製お好み焼きを抱えてオーガ達の元にもどって来ると、いきなりそこでパーティーが始まった。
「明日にはティルコット達も到着するでしょうから。聞き込みはそれからで十分っすよ」
 そして静かに夜はふけていった。

──翌日
 朝一番で到着したのは、烈とティルコット、シルバーの3名。
 そのままシルバーは、テレパシーのスクロールを使ってオーガ達に聞き込みを開始。
 烈はこの村に住んで居た人たちが眠っている墓に向かうと、静かに花を添えて手を合わせていた。
「ふう。どうも駄目ですね。オーガ達の言いたいことは判りますが、今ひとつ要点が掴みにくいですね‥‥」
 そう告げつつも、シルバーはただ一つ全員から得られた情報の共通点を一行に告げた。
「オーガ達の直感だそうですが、トール氏は悪い人だという事ですよ‥‥」
 
●墓参り〜本当に死んでいる〜
──ヨグ領
 ギュンター捜索チームは、オーガキャンプを後にしたのち、このヨグ領まで足を運んでいた。
 そのまま旧トール氏宅を訪れ、近所の人たちに色々と聞き込みをしてみたが手掛りらしきものは全く入手することはできなかった。
 トール氏の埋葬されている墓の墓守に、何か怪しい事は無かったかと訪ねてみたが、それでもやはり変わったことは無かったようである。
「ギュンター君‥‥一体何処にいっちゃったの‥‥」


●そしてシルバーホーク〜あ、貴方たちはっ〜
──ノルマン江戸村
 なにはともあれ、一行は最後の目的地である江戸村に到着。
「ここにくるのも半月ぶりっすねぇ‥‥」
 うーんと伸びをする虎真。
 その横では、鬼十郎がやっぱりうわの空。
「大丈夫だって。きっとギュンター君は元気だよっ。だから元気だすじゃん!!」 
 ティルコットが必死に慰める。
「そうだ。まだギュンター君がシルバーホークに捕まったという確信もない。うまくいけば、あの女幹部『ヘルメス』を見付けだして譲歩を得ることだって‥‥」
 そう告げた後、烈は自分の目を疑った。
 ちょうど烈のまっ正面、子供達相手にリュートを奏でているのは今名前のでたヘルメスその人であった。
「あ‥‥あの女‥‥」
「ん? 烈さん誰かお知合いでもいたっすか?」
 そう告げる虎真に対して、烈はヘルメスを指差しつ、こう告げる。
「シルバーホークの四天王の一人、ヘルメスだ‥‥」
 おっと、虎真の心に火が付いた!!
 ちょうど子供達がワラワラと帰って行くのを確認すると、虎真はツカツカとヘルメスに向かって歩いていった。
「貴方がヘルメスさんですね‥‥」
「あら、虎真さん、おひさしぶりぃ!!」
 ウィンクして愛敬のある笑みを浮かべるヘルメス。
「おひさしぶりって‥‥勝手に人の身体を使って‥‥あの時の貸しはまだ返してもらっていないっすよ!! 肉体使用料払えッ!」
──ドドドドドッ
 その光景を見ていた全員がずっこける。
「あらぁん。つれないこというのねぇ‥‥判ったわよ」
 そう告げると、ヘルメスは小悪魔のような笑みを浮かべて、周囲に聞こえるようにこう告げた。
「最高だったわよ、貴方の身体‥‥また玩ばせてね‥‥」
 そして金貨の入った巾着を手渡すと、そのまま静かに立上がる。
──タタタタッ
「貴方がヘルメス、シルバーホークの幹部ねっ。私のギュンター君を返しなさいッ」
 そう叫んで抜刀する鬼十郎。
 その光景に全員が凍り付く。
「馬鹿野郎‥‥」
 悪態を付きつつも、烈はバックアップの体勢。
 ティルコットとシルバーの二人は、素早くスクロールを引き抜くと発動スタンバイにはいる。
 噂では、ヘルメスは上級悪魔。
 そんな相手に、一行が勝てる可能性は0。
 そしてヘルメスは、静かに口を開いた。
「ギュンター君って‥‥誰?」
 おや?
「ギュンター君よっ。チビおーがのギュンター君。私の大切な人なんだからっ。しらばっくれないでよっ。シルバーホークが捕まえて悪い事させようとしてているんでしょっ!!」
「えーーっと‥‥あ、なるほど」
 ポン、と手を叩きつつ、ヘルメスはようやく理解した。
「私の主の名誉と我が真なる名において。私達シルバーホークはギュンター君っていうオーガをどうこうしようとは考えていないわ‥‥」
 きっぱりというヘルメス。
「そ、そうなのですか‥‥」
 目をパチクリする鬼十郎。
「ええ。そんな面倒な事はしないわよ。でも、貴方人間でしょ? オーガなんて恋愛対象にするなんて‥‥」
「いいのよっ。例え世界が認めなくても、私はギュンター君と結婚するのよっ!!」
 あ、言った。
 と、ヘルメスはクスリと笑みをうかべると、 静かにこう告げた。
「なら、世界が認めるようにしてあげましょうか? 貴方をオーガにしてあげる。それなら、ギュンター君は貴女と一緒。いつまでもね‥‥」
 でた、ヘルメスの十八番『悪魔の囁き』。
 そのまんまやーんという虎真の突っ込みはおいといてと。
「え? そ、そんな事‥‥私は人間だけど、でも‥‥」
 動揺する鬼十郎。
「なら、そのギュンター君を人間にしましょうか? その代わり貴方の魂をちっょとだけ頂戴‥‥」
 と、ようやく我に変える鬼十郎。
「だ、駄目‥‥駄目ですっ‥‥悪魔と契約なんて‥‥そんな‥‥」
 でも、深層意識ではそれを受け入れてしまいそうな自分に自己嫌悪中。
 そんなやり取りが終ったのち、ヘルメスは一行に挨拶をすると、そのまま宿に戻っていった。


●ごめんなさい〜すまん、留守だ〜
──江戸村・鍛冶工房
 トールギスの元に武器の買い付けにやってきたヴィグとアルビカンスの二人。
 先に他の仲間たちと合流し、色々と情報交換を開始。
 そして現在、この村の宿にヘルメスが泊まっているという話を聞くと、二人も兎に角何か起きても対処できるように細心の注意を払った。
 そして目的のトールギス氏の元を訪れたのだが。
「あ、こんにちは‥‥師匠なら留守ですわ」
 弟子クリエルがそう告げていた。
「あの‥‥師匠が、俺たちに何か渡しておいてくれっていう言付けをしていったとかはないか?」
「そうそう。この武器は奴等が来たら‥‥とか」
 ヴィグとアルビカンス、必死だな。
「さぁ‥‥あ、『ライトニングスマッシャー』と『グレート縄ひょう』の事ですか?」
 あのおっさん、さらに改良したのか。
「そう‥‥預かっているか?」
「いえ。まだ暫くかかるなって言っていました。材料の鉱石を探すのに出かけまして‥‥」
 ショック。
 そのまま土間に座り込むと、手近の武器を取り上げて繁々と眺める二人。
 そしてしばらくしたら、二人はそのまま其の場を後にして仲間たちの待つ『大宴会場』へと向かっていった。

──入れ違いに烈
「名剣らっしぃの事だが‥‥」
 そうクリエムの元に報告に来た烈。
 ここにくる途中、マダム・グレイスや様々な人の元を訪れては、そう質問をしてきたのである。
 そしてこれが今までに烈の得た情報。
・おいしいお菓子が食べたいねってお願いしたら、お母さんが作ってくれたの
・最近は天気が良くなくて。果物の方に影響するから晴れて欲しいって願ったら、カラッとはれてねぇ。
・兎に角一攫千金を願ったさ。そしたら、大金の入った財布を拾っちゃって‥‥まあ、届けたけれど、そのお礼にねぇ‥‥。
・剣に祈ったら、行方不明の息子が帰ってきたんじゃよ
・口当たりもよくてさっぱりしていて、ほんとにまろやかな触感ですわ

 ‥‥最後の一つはおいといて。
 兎に角、『名剣らっしぃ』、その『願いを叶える力』というのは、本当に効果がある事を烈は改めて知ることが出来た。
 そして報告を終えた一行の待つ『宮村剣術道場』へと向かう。
 
 楽しい一時。
 出会いが会って別れがある。
 風の向くまま気の向くまま。
 そんな冒険的生活に別を告げて、一行は再び『日常』の待つパリへと向かっていった。

〜Fin