風にのって〜まったりといこう〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月01日〜05月16日

リプレイ公開日:2005年05月06日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の昼。
 いつもの冒険者ギルドの前では、何やら楽しそうな人が・・・・。

「よってらっしゃい見てらっしゃい!! いよいよ5月1日より、『ノルマン神社奉納祭』が始まります。何を奉納するのかはさておいて、本国では毎年春に行われていた風物詩。露店も一杯出ています!! 催し物としては、江戸村名物『ミトン・オン・ファイト』も随時開催。お暇な方はどうぞいらっしゃって下さい!!」

 全く、相変わらず賑やかな村なんだなと、宣伝している人物の横を掏りぬけ、貴方は街をフラリと歩いている。
 まだ、やりたいことはあった筈。
 シルバホーク、悪魔の存在・・・・。
 処理しなくてはならない問題は一杯だ‥‥。

──冒険者ギルド
「いらっしゃいませー。あら、御無沙汰していますねー」
 久しぶりに冒険者ギルドを訪れた貴方を、受付嬢であるエムイ・ウィンズは暖かく、そして生ぬるい瞳で迎えてくれた。
「みなさんみたいに実力のある冒険者さんが来ないと、依頼は貯まっちゃうんですよー」
 そうは言っても、掲示板にはそれほど依頼は張付けられていない。

 まだ、もう少し自由に歩いていても罰は当たらないだろう‥‥。
 心の中にくすぶるなにかを探す為に、貴方は静かに走りだした。

●今回の参加者

 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea2361 エレアノール・プランタジネット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4004 薊 鬼十郎(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5415 アルビカンス・アーエール(35歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 露草 蒼水(ea4866

●リプレイ本文

●と、言うことでっ〜いっつも同じだな、この出だし〜
──ノルマン江戸村
 やっと到着ノルマン江戸村。
「良く来たワン!!」
 停車場(と呼べるほどのものでも無いが)で一行を出迎えてくれたのは、御存知江戸村マスコットの『わんドシ君』。
 いきなり一行の姿を確認してから、突然ファイティングポーズを取ると、周囲を見渡すわんドシ君。
「えーっと、まだあの子は来ていないっすよ♪〜」
 何時に無くご機嫌なのはとれすいくす虎真(ea1322)。
「あう、残念だワン‥‥」
 トボトボと帰路に付くわんドシ君。
「さて、それでは鍛冶屋まで行くとするか‥‥」
「同じく。トールギス氏には、ちょっと聞きたい話もあるからな‥‥」
 ヴィグ・カノス(ea0294)とランディ・マクファーレン(ea1702)の二人は、虎真と共に鍛冶屋へと向かうこととした。

──鍛冶屋『トールギス』
 すでに江戸村名物となっている鍛冶師トールギス。
 そこを訪れたヴィグとランディは、虎真に紹介してもらってトールギス氏にまず挨拶を行うと、そのまま弟子のさしだした茗(ちゃ)に舌鼓を打ちつつ、本題へと切り出した。
「実は、貴方を名工と見込んで、作って欲しい武器がある」
 そう切り出したのはヴィグ。
「魔法の武具はまだ打てないぞ。それで良いのなら、私の知る限りの武器ならば何でも作るが‥‥まあ、すぐには無理じゃな‥‥」
 そう告げるトールギス氏に、ヴィグは作って欲しい武器について説明した。
‥‥‥
‥‥

「縄ひょうとは、面白い武器じゃのう」
「支度金として50G用意してきました。どうか宜しく頼む」
 そう頭を下げるヴィグだが。
「うーむ。スマンが、急ぎの仕事が少し残っていてのう。それが済んで、時間が出来たらじゃな」
 腕を組んでそう告げるトールギス。
「それに、今回の依頼分で恐らくは鉄を全て遣い切ってしまいそうじゃて。新しく調達してこなくてはならんのじゃよ」
「鉄ですか?」
「うむ。ここ暫くは、色々なものや試作品などを作っていたおかげで、すっかり商売用の鉄の備蓄が少なくなってしまっていてなぁ。ほれ、ギルドにも依頼を出しておいたじゃろう? あれの分は残っているのじゃが‥‥仕入れようにも、どうにも高くてのう。自分で鉱床を探すしかないとおもってなぁ‥‥」
 ウンウンと肯きつつそう告げるトールギス。
「なら、ちょっと俺の質問もいいか?」
 そう口を開いたのはランディ。
「うむ、なにか聞きたいことがあるのじゃな?」
「ああ。巷間に名高き鍛冶師、トールギス殿に御訊ねしたい。魔剣『フォーチュンブレード』なる名に、何か聞き覚えは無いだろうか‥‥」
 ある意味危険な賭け。
 だが、それを知ることが、ランディに課せられた使命なのかも知れないが。
「‥‥知っている‥‥が、それについては答えることは出来ない‥‥」
 下を向いてそう告げると、トールギスは静かに茗を呑む。
「‥‥教えて欲しいんだ!! その剣がなんなのか? 誰が、どうして作ったのか‥‥それを教えて欲しい」
 そうランディは言葉を強めて叫ぶ。
「‥‥知ってどうする?」
 キッとランディを睨みつけてそう呟くトールギス。
「‥‥‥‥」
 答えは出せない。
 最悪、トールギス氏をも、一連の事件に巻き込んでしまう恐れがある。
 そうなれば、この村とて只では済まなくなってしまうだろう‥‥。
「俺は、俺なりに解決したい事がある‥‥その手掛りが魔剣にある‥‥ただ、それだけなんだ‥‥」
 ギリギリの意見。
「魔剣の持つ『奇跡の力』に魅了された訳ではないという事か‥‥なら、教えてやる。それは俺の昔の知人が発見し、そのまま封印しておいた剣だ‥‥奴はその剣についての伝承を知る、このノルマンでも数少ない鍛冶師。だか、そいつももういない。彼の家族も、家督をついだ息子も、そして祖父、父親の力を受け継いだ息子の鍛冶師もな。手掛りはどこにも存在していないんだ。判ったろう、帰ってくれ!!」
 そして3人はトールギス氏の家から追い出されてしまった。
「ふぅ。あの口調だと、トールギス氏も知っているな」
 そう告げるヴィグ。
「ああ。なんとか教えて欲しいところだな、少し対策を練って見るか」
 ランディも腕を組んだままそう呟く。
「さてと‥‥それじゃあ、私は師匠の元に向かうとするでやんすかねぇ‥‥」
 そう告げて、虎真は二人と分かれて村の中に歩いていった。
 天気は快晴、正にお祭り日より。
 村の中からは、祭り囃子の音が聞こえてくる。
「こうしていると、なんだか故郷が懐かしいでやんすねぇ‥‥子供達の喧騒、大人達の語らい、着物の袖が降れあうほどの距離を歩くカップル‥‥そして焦げたお好み焼き‥‥焦げた?」
──クンクン
 ああ、確かに焦げていますねぇ‥‥。
「大変だ、お好み焼きの危機でやんすよっ!!」
 という事で虎真は匂いの方へとダッシュ!!

──ランディ、ヴィグ組
 とりあえずトールギス氏の機嫌が収まるまでは祭り見物と洒落込んだ一行。
──トントン
 と、突然眼の前に丸い球が転がってくる。
「ごめんなさーい」
 一人の子供がその弾を手に取ると、仲間たちに向かって蹴り上げる。
「? ちょっと、それはなんだ?」
 そう問い掛けるヴィグに、子供はにっこりとこう告げた。
「蹴鞠(けまり)だよ。いくよー。アリヤー」
 声高らかにマリを蹴り上げる子供達。
 その不思議な遊びに、二人は暫くは見入っていた。
「面白いでしょう?」
 そう二人に声を駆けてきたのは、一人の商人。
「初めまして。私はこの村に荷物を卸している洗馬(せば)と申します。つい先日、月道貿易の折りにたまたま荷物の中に蹴鞠が混ざっていましてねぇ。ここにはそれを楽しんでくれる村があるので、持ってきたんですよ」
 ちなみにフルネームは『洗馬太久郎(せば・たくろう)』。
「誰でもできるのか?」
 そう問い掛けるランディに、洗馬は近くに置いてあった蹴鞠を一つ手渡す。
「お暇でしたら、お二人でやってみては?」
「ルールは、どうしたら勝敗が決するんだ?」
 そのヴィグの言葉に、洗馬は笑う。
「簡単に説明しましょう‥‥でも、蹴鞠には勝敗はありません。相手に巧くパスするかという所ですが‥‥勝敗を決するですか‥‥こちらの人の発想はおもしろいですねぇ‥‥」
 かくして、洗馬は蹴鞠をよりゲームとして楽しむ方法を幾つか考え出すのであるが。
 それについてはまた後日。


●宿り木のお姉さん〜5番テーブルご指名です〜
──マスカレード・5番テーブル
「‥‥まあ、別にいいんですけれどねぇ‥‥」
 そう呟いてからハーブティーを飲んでいるのは情報屋のミストルディン。
 其の場に集っている面面は、それぞれが欲しい情報を求めてこの酒場にやってきていた。
「シルバーホークの情報収集能力について、専門家としての意見を教えてほしい」
 そう話を切り出したのは、風烈(ea1587)。
「? どういうことかしら?」
「冒険者を買収し、張り出されている依頼の日程と目的、依頼の報告書の内容の情報を得る、冒険者酒場で現在ある依頼についての雑談、依頼に参加した冒険者の自慢話等を聞く事により、どこまで先回りができるか‥‥と行った所だが」
 つまり、シルバーホークの情報戦においての強さが何処までか、その推測であろう。
「そうねぇ。専門家としての意見なら、まず冒険者を雇って依頼関係の日程や目的などを調べることはないわね。リスクが大きいから、組織の子飼いの冒険者がいると思っても過言じゃないと思うわ。それに、掲示板を見るだけなら、ギルド登録していなくても見れるでしょう?」
 一つ一つの事柄について推測を述べるミストルディン。
「依頼の内容、その目的が明記されていれば、簡単なものならば推測は可能な筈よ。例えば、『ミハイル教授の古代魔法王国関連調査』ね。あの方の依頼は簡潔に何をするか記されているでしょう? 判りやすくてね。それとは逆に、ニライ査察官の奴。ギルドからの依頼ではお手伝いっていう事になっているけれど、その裏でなにかをしているんじゃないかっていう気はするのよ。これは、ニライ査察官の性格から推測できる範囲ね。裏でなにかをしているとき、ギルドとなにか繋がっているとか‥‥」
 一行はその話をじっと聞く。
「酒場での雑談からなにかをえる っていうのは、簡単そうだけれど、実は難しいのよ。いつでもその酒場に誰かがいる訳ではないし、常に監視しているわけにもいかない。誰か特定ターゲットがいて、そこに張り付いているっていうのなら別だけれど、そうでもない限りは手も出せないわよ。場所が場所、酒場なんていう所は『冒険者』のアジトみたいなもの。そんなところで手を出したり、正体がばれようものなら、袋ただきは確実ね‥‥」
 ミストルディンの言葉の真意を噛み締める烈。
「つまり、ギルドからの依頼からは物によっては推測は可能、だが酒場での情報収集は実際にはかなり難しいと言うことか?」
 その烈の言葉に、ミストルディンはコクリと肯く。
「まあ、たまに私も酒場にはいっているけれど、大抵の話って信憑性が何処まで高いか判らないでしょう? その裏を取るまでが大変だしねぇ‥‥」
 確かに。
「次は私ね。このノルマンに在住するセージについて教えて欲しいのよ。これは調べて保しいっていうよりも、貴方の知っている範疇で構わないのよ‥‥」
 それはエレアノール・プランタジネット(ea2361)。
 ウィザードならば、いずれは目指す頂点の一つ。
「セージねぇ。賢者クラスのウィザードとしては、例えばグレイファントム領にいたジェラール、プロスト領の領主、レナード卿、この二人しか思い付かないんだけれど。レナード卿は現役ウィザードで領主、昔は冒険者っという経緯まで有名ね。実際の賢者なのかどうかまでは私にも判らないけれどね」
 そう告げて、次に口を開いたときのミストルディンの表情は真剣そのもの。
「で、ジェラールについては全て謎なのよ。今何処にいるのか、その正体までね。古くは魔法研究家っていう肩書きであの土地に住んでいたらしいけれど、いつの頃からか『賢者ジェラール』ってその土地では呼ばれていたらしいから」
 そう告げてねさらに声のトーンを落とす。
「追記としては、ジェラールは現在はシルバーホークの側近として陰で暗躍しているらしいのよねぇ‥‥」
 それでもまあ、二人の名前を聞くことが出来ただけでもよしという所であろう。
「アドバイスの通り、プロスト卿の講義を受けたのですが大変ためになりました、有難う御座います」
 そう頭を下げたのはシルバー・ストーム(ea3651)。
「あら、いい所で。私もお役に立てて光栄ですわ。エレアノールさん、この方は現在、プロスト卿の元に師事している方ですから、またあの地に赴くことが会ったら紹介して頂くといいわよ」
 そう告げて、シルバーに挨拶をするミストルディン。
「オーガの生態や文化に詳しい人物を教えてくださいませんか?」
 そう話を切り出したのは薊鬼十郎(ea4004)。
 全てはギュンターくんと、人間との橋渡しの為、しいては自分の幸せの為というところでしょう。
「オーガの生態‥‥うーーーん。私なんかより、よっぽど普段から彼等に付いている人に聞いたほうが早いですわねぇ‥‥」
 そう告げるミストルディン。
「その人を教えてください!!」
 前のめりになりつつそう叫ぶ鬼十郎。
「とはいってもねぇ。その人って、貴方たち冒険者の中にいるって言うことしか知らないのよ。普段からもっともオーガと接する機会があるのが貴方たちでしょう?」
 あら、残念。
 その言葉に鬼十郎はなんとなくショボーン。
「俺が教えて欲しいことは一つ。悪魔、過去それを打ち倒した勇者と呼ばれる者たちの伝承が記述がされてる本があるところを知りたい」
 そう話し掛けるアルビカンス・アーエール(ea5415)。
「知っているわよ。写本や石碑の在処」
 あらあっさり。
「何処にあるんだ?」
「シャルトルのノートルダム大聖堂。あそこの大司教は確か『悪魔祓い』の称号を持つ敬謙なるセーラの使徒。あの人の元にあるわよ。でもねぇ‥‥」
 そう告げて、ミストルディンは溜め息一つ。
「クレリック限定でしか閲覧許可はでていないし、なにより司祭とか司教、それに近い役職、あとは大司教の知りあいのクレリックとかでないと無理なのよねぇ‥‥」
 こと、教会とは得てしてそんなもの。
「そうか‥‥済まなかった」
 それでも、そういったものが存在するという事が判っただけでも十分である。
「あ、あとは悪魔と互角に渡った人間ね。代表的な人たちは『ワルプルギスの剣士』。こみれは私もこの前頼まれてからちょっとだけ調査中。あとは『ヘルシング卿』だけね‥‥」
 その名前は初めて聞く。
「そのヘルシングっていうのは誰だ?」
 アルビカンスがそう問い掛ける。
「ヘルシング卿は、パリを南下したところに住んでいたと言われている『ハンター』ね。あ、ハンターっというのは、悪魔退治専門の冒険家らしいけれど、どうもその辺りの記述もあやふやで‥‥その人が住んでいたって言う遺跡があるんだけれど、でもそこには廃墟というよりも『痕跡』が残っているだけで、一説には、かなり上位の悪魔を裁く戦いでその命を落としたっていう話を聞いたことはあるわね‥‥」
 そう思い出し告げるミストルディン。
「その悪魔の名前は?」
「えーっと‥‥真名までは判らないわよ。偽名なら‥‥えーっと‥‥ヘルメス・トリス・メギストス‥‥ふざけた名前でしょ?」

 ザワッ。

 一瞬、空気が澱んだ。
 その名前の最初の一文『ヘルメス』には、ここ最近は冒険者達も敏感である。
 最初はシルバーホークの側近として。
 また、とある冒険者に憑りつき、その人格すらコントロールしていた悪魔。
 ここ最近では、マント領攻防のおりに冒険者に近づき、その存在を露見した上位悪魔。
 その名前が古くから使われていたということ。
 そしてそれは本名ではない。
 その事実が、そしてそれと戦っていた者が存在していたなど、彼等にとっては始めて知る真実である。
「ヘルシング卿ねぇ‥‥もう少し調べて見る価値はあるか‥‥」
 そうアルビカンスが呟く。
 そして一行は、それぞれの情報を元に活動を開始した。


●滅びし村〜二つの村〜
──オーガキャンプ
 烈と鬼十郎、そしてシルバーの三人は、パリを出発して、ますばプロスト領へと向かった。
「うふふっ‥‥ギュンター君に会うのは久しぶりね‥‥」
 楽しそうにそう呟いている鬼十郎とは裏腹に、同行している烈は少し気分が重い。
 今向かっているオーガキャンプ、烈達が受けた依頼でアンデットの巣窟となってしまった村。
 元々は『魔剣アイテムスレイヤー』によって解放されたアンデットが徘徊し、その結果烈達冒険者が依頼を受けた訳である。
 だが、今の村は、そんなそぶりを見せていない。
 流石に村の周囲には柵が作られ、人間世界との境界を示しているようである。
 村の入り口には見張り小屋まで作られ、そこでは二人の人間が常に村を見まわっているらしい。
 そこの人たちに許可を貰い、三人は村のなかに入っていく。
「ウガフガグガゴーッ!!」
 いきなり蓋の前にあらわたれのは、妙なたすきを肩から下げているオーク。
「むっ‥‥」
 咄嗟に身構えるシルバーだが、鬼十郎は特に気にしない。
「ディヴ君、久しぶりだねー」
 にこにことそう告げる鬼十郎。
「攻撃してこない?」
「知合いか?」
「ギュンター君のね。つまり私の知りあい」
 そう告げて三人はディヴと別れると、一目散に教会に向かった。
 そしてたどり着いたとき、三人の視界に入ったのは一枚の貼り紙。
 羊皮紙につたない文字を書き綴ったそれは、どうみてもギュンター君の直筆。

『とーるといっしょにおでかけする』

「ど、ど、どういう事なのっ!!」
 動揺する鬼十郎。
 とーる‥‥即ちトール氏は死んでいる。
 生きている筈がないのである。
 だが、そこには確かに書いてある。

──ガチャッ
 烈はそのまま扉を開き、まずは教会正面の十字架に祈りを捧げる。
 そしてすぐに室内を見渡す。
 鬼十郎も慌てて飛込んでみるが、どうにもこうにもギュンターらしき姿は見当たらない。
「‥‥ない、大切な冒険者道具も、バッチも、なにもない‥‥」
 オロオロする鬼十郎、いきなり教会の外に飛び出した。
「ふぅ‥‥ことギュンター君が絡むと、方向を見失うなぁ‥‥」
 そのまま烈は、静かに教会を出ると、墓へと歩いていった。
 そこはこの村の犠牲者たちの眠る墓。
 一つ一つに祈りを捧げると、烈もようやく村の中央へと向かっていった。
「‥‥ギュンターくーーーーん」
 村の真ん中で泣いている鬼十郎。
 村の人たちに話を聞いてみようとしたのだが、いかんせん『オーガ語』なので判らない。
 ギュンター君のようにゲルマン語が少しでも判るオーガがいれはよかったのだが、そんなオーガは‥‥いない。
「ああ、いました。探しましたよ」
「どうしましたか?」
 シルバーが機転を聞かせて警備の者を二人の元に呼んできた。
「ギュンター君がいなくなったのよ。トールさんと出かけるって‥‥」
「ここ数日、ギュンター君の元を訪れた人は?」
 そう問い掛ける烈。
 既に鬼十郎は思考が停止してしまっている。
「ええ、3人程。一人はプロスト卿で、もう一人は旅の吟遊詩人、名前はトリスだとか。そしてもう一人は、その‥‥トールと名乗っているパントマイマーです」
──ガバッ
 と、警備の人の胸倉を掴んで叫ぶ鬼十郎。
「何処にいったか知りませんか、私のギュンター君‥‥」
「知りませんよ。逐一出かけ先を確認している訳ではないんですから‥‥」
「鬼十郎、もういい。プロスト卿の元に向かうぞ」
 ということで、二人はプロスト卿の元へと移動。


──そしてプロスト領
「ええ、行きましたよ。オーガの生態調査と、近々行われる競馬での協力を取り付けに‥‥」
 謁見の許されたプロスト卿。
 そこで二人はギュンターへ君の元を訪れた理由を問い掛けてみたが、いとも簡単な返答が帰ってきた。
「プロスト卿は、あの村をどうするつもりですか?」
 そう問い掛ける鬼十郎だか。プロスト卿の返答は一つであった。
「なにも無ければそのままですね‥‥問題さえ起さなければ、悪い奴ではないですから。人と同じ法を守って生きていく、それだけですよ‥‥」
 少なくとも、プロスト領で、あの村に置いてだけではあるが、オーガもある程度は認められてきているのであろう。


●奉納祭〜いらっしゃーい〜
──屋台村
 色々な屋台が出来上がっている江戸村。
 ハチミツ漬けの様々な果物、子供用に作られた弓による的当て、お面等など。
 大人向けにも一杯引っ掛ける『立ち酒場』や、村の名物等など、様々な催し物がある。
 その中でも、一角では異様な雰囲気が湧き上がっていた。
「はいおまち。これが江戸村の新名物『好きやねん』や」
 いつのまにか虎真がミヤムゥに代わり、お好み焼きを焼いている。
 と、ミヤムゥは売り子に専念し、二人一組の連携プレーで次々とお好み焼きを売りさばいていた。
 ちなみに新メニューとは。
 食べ歩き用として薄く焼いたお好み焼を棒状に丸めて、布で包んだもの。
「ホクホク‥‥おいしいーー」
「ミヤムーさんの焼いたものよりもふっくらしていて、それでいてタレが絶妙」
「うーん。いいわぁ。お兄さん、あと二つ頂戴」
 とまあ、盛況な屋台。
「私の生地は特製やで‥‥そーれいっ!!」
 気のボウルの中に入っている具を素早くかき混ぜる。
 混ぜすぎず、強すぎず。
 生地の中に空気を混ぜこみ、ふっくらとした口当たりにする。
 その秘訣は、新鮮な卵。
 高価なものではあるが、この江戸村では少しだけ手に入りやすい。
 その卵を白身と黄身に分け、それぞれを泡立て練り上げるという技術は、虎真のみに許された技術。
 そして粉の分量、具材の選び方。
 全てにおいて文句なし。
 其の日のうちに材料は全て売りつくし、翌日からは閉店となってしまうとは。
「ふぅ‥‥助かったわ。これ、お礼ね」
 汗だくのミヤムゥが虎真にお金を手渡す。
「いやいや、いいっす。師匠のピンチを救うのも、弟子の役割っすから!!」
 そう告げる虎真だが、ミヤムゥは頑として譲らない。
「なら、これだけでも‥‥ね」
 少し額を減らし、虎真が受け取りやすいようにすると、今度は虎真もそれを受け取る。
「じゃあ、これで友達に土産を買って帰ります。師匠はこの後は?」
「うーん。午後からは仕事があるからねぇ‥‥」
 そう告げて、純白のミトンを手にはめるミヤムゥ。
‥‥あんたも出るのかい!!
 そして虎真は、『大切な』仲間の元にお土産を買う。
 ちなみに椿油と『蒸したてのる饅』。
 しっかし、椿油とは‥‥知合いに髪の痛みやすい女性でもいるのかい?
 ん? んん?


──午後は○○ミトンオンファイト!!
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。裏宮村・縦一文字打ちっ!!」
「なんのっ。‥‥肉を斬らせて骨を断つ‥‥その首、貰い受ける!」
 すかさずカウンターアタックを叩き込むランディ。
 だが、それすらミヤムゥは躱わす。
 正午から始まった『ミトン・オン・ファイト』。
 参加人数は実に24名。
 風の噂で集った腕利きメンバー勢揃い。
 どれぐらい凄いかというと。
 わんドシ君がのんびりと相手をしているぐらい‥‥って、それすごくない。
「ワン。手応えがないワン‥‥奴はまだかだワン!!」
 そんなのどかなエリアとは対象的に、こちらは激しいバトルエリア。
 ミヤムゥVSランディの一騎打ちであるが‥‥。
 兎に角お互い良いライン。
 ミヤムゥはハンディで過重制限+左手の封印という過酷な状況、ランディはナイトの為ハンデなし。
 それでもミヤムゥは圧倒的な強さを誇っていたのだが。
──シュタッ
 いきなりそこにわんドシ君が乱入。
「ふっふっふっ二人とも瞬殺だワン!!」
 すかさずランディの懐に飛込むと、そのまま大地すれすれから昇ってくるアッパーカットが炸裂!!
──JET!!
「ぐはぁっ‥‥」
 そのまま後方へと崩れていくランディ。
 その隙をついてミヤムゥも反撃に出るが、それにはカウンターで一撃を叩き込む。
──ドゴドゴドゴドゴドコッ
 身体の正中目掛けて縦に鉄拳を5発叩き込むその技は!!
 あ、良く見たら一発か。
「くぅっ‥‥無念!!」
 ランディとミヤムゥ、共に瞬殺。
 恐るべしわんドシ君。


●真実の境界線〜〜
──ノルマン江戸村
 プロスト領で教授宛の伝言を終え、烈と鬼十郎は江戸村に到着。
「ご無沙汰していますわ‥‥」
 クリエムはそう告げると、烈と鬼十郎に茗をいれる。
「もう身体は完全に治ったみたいだな。卿はトールギス氏に話があったんだが‥‥」
 そう告げる烈だが、クリエムは下を向いてしまう。
「お師様はご気分が優れないので、離れで休んでいますわ‥‥」
「病気か?」
「いえ‥‥ちょっと昔の事を思い出したみたいで‥‥それで少し休むからといって‥‥」
 ふぅ。と溜め息を付くクリエム。
「仕方がないか。クリエム、君で良いから少し話を聞いてほしいんだが‥‥」
 そう告げて、烈はまずお土産のローズブローチとワインを差し出す。
 そしてこれからのトールギス師の鍛冶に役立てばと、様々な華仙教大国の武具についての話をクリエムにしてみせた。
 一時ほどでその話しも終り、そろそろと烈は立上がったとき。
「烈様。実は御願いがあるのですが‥‥」
 そう真剣な表情で告げるクリエム。
「なんだ?」
「実は兄の打ちだした剣を探してほしいのです‥‥いえ、持ってきて欲しいのではなく、どこにあるかなのですが‥‥」
 そう告げるクリエム。
「難しいな、ディンセルフの銘の付けられた剣は、このノルマンでもそこそこには出まわっている。が、それを全て探すとなると‥‥」
「いえ、探してきて欲しいのはそのうちの一つ。兄の残した覚え書きに記された剣『らっしぃ』です」
 そう告げるクリエル。
「らっしぃ?」
「はい。一部では噂が流れているそうです。『名剣らっしぃ』。持主に不思議な幸せを与えると噂されているそうです。『名剣らっしぃ』は持主の元で幸せを与えると、一人で何処かに言ってしまうそうで‥‥」
 実に不可解な剣。
「そんな剣が‥‥」
「はい‥‥この『アイテムスレイヤー』と対を為す剣。お師様の話では、強い重いのこもった剣は魔剣にも名剣にもなるとか」
 その頼みを気き、烈は挨拶をするとトールギスの元を立ち去った。
「さて‥‥鬼十郎、そろそろ落ち着いたか?」
 あ、ちなみに先程から、鬼十郎はズーーーッと横に座っていましたよ。
「ええ。とりあえずは‥‥では、わたしはちょっと神社へ‥‥」
 そのままフラフラと歩いていく鬼十郎。
 そして信者で行われている奉納儀礼に参加し、自らの持つ日本刀を納めると、静かに祈祷を受ける鬼十郎。
 お百度参りをし、ギュンター君の無事を祈るその姿は、まるで恋女房のそれである。


●そして勉強会
──プロスト領・ミハイル研究室
 烈と鬼十郎、二人と別れた後、シルバーはミハイル研究室を訪れている。
 肝心の教授はいないものの、シャーリィが例の『課題』をシルバーに手渡し、シルバーは再び精霊碑の研究を開始。
 その数日後、エレアノールとアルビカンスも合流。
 エレアノールはプロスト卿の元に赴き弟子入りしようと頼み込んだが失敗。
 その代わり、魔法のレクチャーを行なってくれることを約束してくれた。
 アルビカンスはミストルディンに問い掛けた質問と同じことをシャーリィにも尋ねている。
「私の知っているのは、ワルプルギスの剣士、そしてやはりヘルシングという名のデビルハンターですね‥‥」
 どちらも伝説。
 それも表には知られていない存在。
 教授はそれらについては興味を示していなかったし、シャーリィはワルプルギスの剣士についてしか研究をしていない。
「誰か、ヘルシングについての伝承を研究している考古学者はいないのか?」
 そう問い掛けるアルビカンス。
「いますわ。パリ在住のロイ教授が‥‥あの方は『悪魔関係の遺跡』が得意分野ですから」
 道はまた一つ開けてきた。


●俺の武器〜生まれ変わったライトニングボンバー〜
──ノルマン江戸村
「‥‥両腕用か?」
 トールギス氏の元を訪れたアルビカンス。
 エレアノールは他のメンバーと合流し、のんびりと祭りを楽しんでいる。
 そしてアルビカンスはトールギス氏の元を訪れ、『ライトニングバスター』が完成したかどうか訪ねていたのだが。
「うむ。これもまだ試作。最終的には、とある鍛冶師の元、魔法武具とする予定‥‥その完成型こそ『ライトニングボンバー』」
 カッと瞳を見開きそう叫ぶトールギス。
 あんた、この前まで臥せっていなかったか?
「試してみていいか?」
「うむ」
 そのままアルビカンスは外に出ると、両腕にライトニングバスターを装備。
 そのままライトニングアーマーを発動させると、バスター自身が帯電しているか調べる。
──バジッ
「‥‥印を組むのにも邪魔にならない。これでもなお、改良の余地があるというのか?」
「材質の強度、より軽量化。この二つに加えても、魔力をさらに高める為に様々な事をする。完全を求めるのじゃよ」
 恐るべきはこだわりの鍛冶師。
 いい味していますよ。
 なにはともあれ、アルビカンスはライトニングバスターを戻すと、そのままトールギス氏に別れを告げて一行の元へと戻っていった。

 そして。
「‥‥まだまだだワン!!」
 次々と繰り出される一撃。
 それを必死に躱わしつつ、確実に相手の動きを見極める訓練をしているヴィグ。 
 ちなみに特訓モードの師匠は‥‥わんドシ君!!
 はてさて、超実践モードの特訓。
 ヴィグにとっては全身に刻みこまれた無数の傷が、その激しさを物語っているようだが。

 そんな騒ぎとは無縁の奉納祭。
 蹴鞠を始めとする様々な催し。
 カランカランと下駄の鳴り響く音。
 老若男女が楽しい時間を過ごしていく。
 僅か一週間ではあるが、それでも一行は楽しい時間を過ごすことが出来たようである。


〜To be continue