アインツェルカンプ〜地下闘技場潜入〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月04日〜03月15日

リプレイ公開日:2005年03月09日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある日の昼下がり。
 いつもの冒険者ギルドでは、新人受付嬢がなんやらかんやら・・・・。

「えーっと、つまり貴方のお仕事の手伝いをするということですね?」
「まあ、大雑把にいってしまえばそういうことになりますか・・・・」
「ということは、今回の依頼は『ノルマン王国』からの依頼なのですね?」
「いえいえ。私の手伝いですので、国からの依頼ではありません。まあ、私は国からの命令で動いていますけれど、今回のケースでは、私や騎士団のように『表向き顔を知られている存在』というのは動きにくいのですよ・・・・」
 新人受付嬢エムイ・ウィンズが、ノルマン王国査察官『ニライ・カナイ』とそんなやりとりを行なっていた。
「では、どのような依頼なのか具体的におっしゃって下さいませんか?」
「うーーん。『査察官のお手伝いで、こっそりと調査活動』という所で許してください」
 冒険者ギルドの性質上、依頼というのはある程度はっきりとしているものでなくてはならない。
 が、査察官の持ってきた依頼というのが今ひとつピンと来ないものであるから、エムイはイライラとしていたのであろう。
「では、この依頼を受けてよいかどうかギルドマスターに伺ってきます!! でも、多分無理ですからねっ!!」
 そう告げるエムイに、ニライは後ろからこう告げる。
「場所は『グレイファントム領』ですって伝えてくださいね〜」

──そして
「うーーうーーうーーーーーー」
 唸り声を上げつつ、ニライの依頼を掲示板に張り付けるエムイ。
「依頼を受けた後、正式にどんな手伝いをするか説明しますって・・・・査察官めぇぇぇ。こんな事許されていいのかぁぁぁぁ」
 いや、ギルドマスターが承認したから。
 つまり許されたらしいですからねぇ・・・・。
 

●そして後日
 依頼を受けたあなたたちは、後日ニライ査察官の屋敷にて正式にこのような依頼を受けます。
 
 グレイファントム領のはずれにある小さな町。
 そこを治めている貴族『マクシミリアン卿』には、ここ暫くの間黒い噂が絶えないのです。
 特に、自警団を使っては近隣や未探検地域などから多くの魔物を生け捕りにし、地下闘技場なる場所にて殺戮ゲームを行なっているとか。
 それには、近隣で囚われた犯罪者や、金で雇った荒くれ者たちもいるそうです。
 そして・・・・シルバーホークの幹部らしきものも、そこで行われている賭博に参加しているらしいのです。
 皆さんはとにかく、彼と接触するかなにかで、その地下闘技場に潜入し、実際の状況を確認してきてください。
 その試合に参加するという方向での調査も構いません。

 今回は『マクシミリアン卿』の『背後関係と素行』の調査です。
 シルバホークの存在に気を取られ、深い所まで食い込まないように・・・・。

●今回の参加者

 ea0073 無天 焔威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3587 ファットマン・グレート(35歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea4442 レイ・コルレオーネ(46歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4757 レイル・ステディア(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●やってきました〜グレイファントム領マクシミリアン自治区〜
──無法と秩序の境界線
「ふぅ・・・・なんとか町には入れましたけれど、これからどうしましょうかねぇ〜」
 無天焔威(ea0073)は街の入り口近くにある安宿に荷物を置くと、そのまま街の散策に出る。
 他の仲間たちもそれぞれ別のルートから町には入っているらしいが、今回の依頼は特殊ケース。
 お互いの事に関しては干渉せず、ただ情報を集める為に行動する。
 ほーちゃんもそのために地下闘技場に潜入参加し、主催者と思われるマクシミリアン卿に近づこうと考えていたのである。
 町に出て、まず地下闘技場の情報を得る為に行動を開始するほーちゃん。
 と、街の一角、酒場の当たりがなにやら騒がしいようで・・・・。


──酒場『ワイルドヘブン』
 ちょっと前。
「あーあ。最近は実入りのいい仕事はないわねぇ〜」
 カウンターで頬杖をつきながらそう呟いているのはアハメス・パミ(ea3641)。
 ちなみにここでは『セクメト』という名前で通す予定らしい。
「あんたも旅の者か? ここにきたら良い仕事があるっていう噂だろう?」
 後ろの席から、みるからに好色そうな巨漢が二人、アハメスに声をかけた。
「なら一緒に宿屋にでもいくか? アンタの身体なら直に稼げるようになるぜっ」
──ガシャアアアアン
 一人の男の顔面に向かって、アハメスが手にした素焼きのマグを叩きつける。
「あのねぇ・・・・身体は資本だけれど、身体を売ってまで稼ぐ気はないのよっ」
──ズバァァァン
 もう一人の男がアハメスに向かって殴りかかってくるが、それを難無く躱わすと、素早く顔面に蹴りを叩き込む。
「おうおう? いい度胸じゃねえかねーちゃん」
「今度はベットの上で、あんたの黄色い悲鳴でも聞かせてもらおうか?」
 そのまま店内乱戦突入。
「ああっ。まだ予選は始まっていませんよ皆さーん!!」
 店長のそんな声など聞く耳持たず、店内の客入り交じってのバトルロイヤルスタート!!


●マクシミリアン邱〜正面から堂々とね〜
──執務室
「確かに、これはマダムの紹介状ですか。まあ、どの系統でここの地下トーナメントを知ったのかは敢えて問いません。
 ですが、紹介状を手に入れたということは、貴方は予選は無条件パスということになります。後日使いの者を送りますので、宿屋で休んでください」
 執事が眼の前に座っているレイル・ステディア(ea4757)にそう告げる。
 ちなみにレイル、パリのグレイス商会の女将に『マクシミリアン卿の元に行くので、できれば紹介状を書いて欲しい』と頼み込んだ。
 グレイス商会はマクシミリアン卿と長い間取引きをしていた為、簡単な紹介文を書いてもらうことは出来たが、マダムは地下トーナメントについては知らなかった模様。
「判りました。それで予選というのはどの様な方法で行われるのですか? 参考までに教えて頂きたいのです」
 そう問い掛けるレイルに、執事はホッホッホッと笑いつつこう呟いた。
「町の中にある6ヶ所の酒場でのバトルですよ。極普通の酒場の乱闘のようにも見えるでしょう。それも、こちらの仕掛けた事ですから・・・・」
「残るのは何名ですか?」
「各酒場に4名ずつ。合計24名+一回戦シード6名+二回戦シード2名+モンスター。変則トーナメント形式で、優勝者には栄誉ある『チャンピォンベルト』が贈呈されます。現在は第3代チャンピォンが栄誉あるベルトを巻く事を許されています。時価2000gを越える装飾や宝石、土台は100%希少金属。かつてのローマ帝国全盛期に作られた、『パンクラチオン』の勝者にのみ送られるベルトです・・・・」
 ゴクリと咽がなるレイル。
「では、私は宿で連絡を待つことにしましょう・・・・」
 そう告げると、レイルは其の場を後にした。


●酒場各地にて〜大通でも乱闘〜
──酒場『宵闇亭』
「・・・・随分と大勢の人が集っているな・・・・今日は何があるんだ?」
 酒場のカウンターで、シン・ウィンドフェザー(ea1819)がマスターにそう話し掛けている。
 店内には大勢の人間が集っており、皆同じ様に殺気立っている。
「トーナメントの予選でさぁ・・・・。地下トーナメントの出場権を得る為の予選ですよ。この酒場でのバトルロイヤルでは、最後まで立っていた4名にのみ出場権が与えられるって言う寸法でさぁ・・・・ちなみに鎧は自由、楯許可、但し武器は禁止。魔法あり無制限。つまり暗黙の了解で、相手を殺しても構わないって言う事。表立っては言わないし、まあ、そこまでやられて立っていられる奴はいないけれどねぇ・・・・」
 その言葉に再度店内を見渡すシン。
 確かに、どいつも癖のありそうな奴ばかり。
「で、開始は何時だ?」
 ガチャガチャと装備を外し、荷物に放り込むシン。
「正午の鐘が始まりの合図でさぁ・・・・」
 そして荷物をマスターに預けると、シンはさっそく相手の品定めを開始した。

──酒場『新緑の木陰亭』
「成る程ねぇ・・・・」
 酒場の奥にある席で、一人の貴族が静かにそう呟いている。
 目の前には、ごっついドワーフファイターのファットマン・グレート(ea3587)が座っていた。
 地下闘技場に潜入するにも、まずはそこに入る為の実力を示さなくてはならない。
 そのため、店内にいた貴族に話を持ち掛け、自分が地下闘技場で活躍できるということを思いっきりアピールする。
「ああ。今までの経緯は話したとおりだ。どうだ、アンタに損はさせない。俺を雇わないか?」
 グッと太い腕を見せてアピールするファットマン。
「そうですねぇ。話は聞きましたし、間もなく『予選』も始まります。ここの店のベスト4に選ばれたら、その時には考えてみましょう」
 その言葉と同時に、ファットマンも装備を外して指をゴキゴキと鳴らした。
「よしっ、かかってこい!!」

──大衆食堂『大ぐらい猪亭』
「では、地下闘技場に入る為には予選を通過しなくてはならないのですか?」
 長髪を一つに縛り、ローブにエクセレントマスカレードを付たレイ・コルレオーネ(ea4442)が、店長にそう問い掛けた。
「ええ。参加者としてはそうですね。もっとも、『招待状』さえあれば一般観客席に、『紋章入りペンダント』さえ持っていればVIP席に出入りはできますよ」
 コトッとレイの前にマグを置く。
 そしてそのマグを手に、レイはいっきに中の深紅の液体を飲み干した。
「招待状はどうやって入手するのですか?」
「さぁ? そればかりはどうするのかさっぱりですねぇ・・・・有名貴族のパトロンがいるとか、その道では有名な商人、大会協力者などなど・・・・とにかく、そんな感じでなくては無理でしょうねぇ・・・・」
 いきなりここで潜入調査の道が閉ざされてしまったレイ。
「他にはないのですか?」
「予選に参加して、各店のベスト4に残れば『参加者』としては入れますね。でも、それ以外はないでしょうねぇ・・・・」
 あらら。
 ちなみに、レイは店内をぐるりと見渡してみたが、どこをどう見ても、勝てそうな相手はいない。
 皆、腕っ節のよさそうな奴等ばかりである。
「ならば、やるしかないですか・・・・」
 そう告げると、レイは荷物をまとめて部屋に置きに行くと、そのまま酒場に戻り予選開始を待った。

──中央街道にて
「ふっふーん。あんたも参加するんだぁ?」
 情報収集しているほーちゃんにそう呟いたのは、一人の女性・・・・いや女の子である。
 金髪のロングヘアーを頭の両側でまとめている。
 俗にいう『ツインテール』にラフな服装の少女は、正面から歩いてきたほーちゃんにそう話し掛けていた。
「・・・・ブランシュか。随分と余裕だな。こんな真っ昼間から表を歩いているとは思わなかったぜ・・・・」
 戦闘態勢に入るほーちゃん。
 だが、当のブランシュは構えもしない。
 ポケットに手を突っ込んだまま、にこにこと笑っているだけ。
「私は二回戦シードだからねぇ・・・・。貴方は予選からでしょ? もうすぐ始まるわよ?」
「予選だと? そんなものがあるんだ・・・・」
「当然よ。予選をクリアしないと闘技場にさえ入れないわよ。招待状がなければ一般の観客席にも入れないしね〜!!」
 ニコニコと話しているブランシュ。
「ああ、そうなんだぁ・・・・でも、今ここで君を倒したら、ボクが代わりに二回戦シードっていう事にはならないのかなぁ?」
 ゴキッと関節を鳴らすほーちゃん。
「ああ、それもありよねぇ・・・・」
 ニィッと笑うブランシュ。
──ダッ
 と、いきなり二人が全力で間合を近づける。
 そして同じタイミングで拳を引き、同時に激しく殴り付ける。
──ドゴッ
 一歩も動かず、その拳をお互いの顔面で受止めるほーちゃんとブランシュ。
「いいね。この前よりも腕を上げたのかしら?」
「んーーー。君の拳も良い感じ・・・・」
 さらに拳を引き、ほーちゃんはそのまま上段に、ブランシュは下段を打ち込む。
──ドゴッ
 正面からほーちゃんのこぶしを 顔面で受止めるブランシュ。
「その可愛い鼻がペチャンコになるまえに、ギブアップしたら・・・・」
「潰すわよ」
 ガシッとほーちゃんの股間に手を延ばし、グイッと・・・・を鷲づかみしているブランシュ。
「フッ・・・・ここは痛み分けと洒落込むとしよう。ブランシュ、俺と当たるまでは負けることは許さないからね・・・・」
 そのまま腰を引き、ほーちゃんはそのまま近くの酒場に雪崩こんだ。
「まあまあね・・・・」
 そのブランシュの言葉に、一体どんな意味があるのか・・・・


●鐘の鳴り響くとき〜予選開始〜
──ガラーーン。ガラーーーン
 教会の鐘の音が街中に鳴り響く。
 静寂なる音はこの瞬間、熱き血潮の振り始める音となったのである。

──酒場『ワイルドヘブン』
「はぁ・・・・」
 店主は溜め息をついていた。
 目の前に広がる死屍累々の光景。
 死んではいないものの、まともに動けそうな奴はわずか4名のみ。
「今から予選なのに、なんでもう終っているのかなぁ・・・・」
 そんな呟きなどものともせず、カウンターでは予選通過者が酒を飲んでいる。
「それにしても、姐さん強いねぇ〜」
 横で飲んでいる優男が、そうアハメスに問い掛ける。
 まあ、外見だけは優男であろうが、ここに残っている以上は相当の実力の持主であることは事実。
「まあ、それなりに鍛えてはいますから・・・・それはそうと、貴方はここの土地の人ですか?」
 そう問い掛けるアハメス。
「ああ。昔っからここの住人だぜ。地下闘技場出場は6回。トーナメントは始めただけど、フリー対戦は5回。まあ敗北がほとんどだけれどな」
 ニィッと笑いつつそう呟く優男。
「なら、ちょっと教えて欲しいのだが。このような立派な施設を運営するとは、マクシミリアン卿、一地方領主のようで、実はかなりな大物なのか?」
 確信に少しでも触れようとするアハメス。
 言葉を選び、相手に悟られないように慎重に問い掛ける。
「元々はここの領主である先代グレイファントム卿の側近さ。その実力が買われて、この町を治めるように仰せ付かったらしいぜ。今でも時折、グレイファントム卿が闘技場を見にくる事もあるしね」
 只の側近でここまでの事を許される筈がない。
 まだ何か裏があるとは思うが、表向きの情報としてはこれが精一杯だなとアハメスは感じた。
「まあ、ここからが本番さ。そこのねーさんも、楽しくやろうぜ!!」
 別の予選通過者がマグを片手に横に座る。
「そうだな。一回戦、私と当たらないように祈っていてくれ!!」
 ニィッと笑い、アハメスはマグの中のエールを一気に飲み干した。 

──酒場『宵闇亭』
「ハァハァハァハァ・・・・」
 全身血まみれのシンが、肩で息をしている。
 残りの枠があと一つ・・・・なのに、こいつは一体何者なんだ?
 シンの酒場では、3人組が連携で他の参加者を次々と血祭に上げていた。
 今酒場に残っているのは5名。
 トリック3兄弟と呼ばれているらしい3名と、仮面を被った不思議な少年。そしてシン。
 トリック3兄弟はシンとその仮面の少年とのやりとりをじっと見ている。
 下手に兄弟に手を出したら、3人がかりで倒されるのは判っていた。
 事実上、仮面の少年とシンの一騎打ちである。
「銀太!! がんばれよーー」
「うぇぃ!! ぎゅんた、たたかっておかねかせぐ!!」
 ブンブンと拳を振り、シンに向かって殴りかかってくる銀太。
「銀太か・・・・何処かで聞いたことのあるような・・・・」
 殴りかかってくる拳を素早く躱わし、シンはカウンターで顔面に拳を叩き込む。
──バキッ
 仮面が真っ二つに割れ、中からはオーガの顔が姿を現わした。
「オーガ? 銀太? まさかお前がギュンターか!!」
「うぁ?」
 そう呼ばれたとき、ギュンターは拳を止めて頭を傾ける。
「おぢさんだれ?」
「おぢさんって・・・・」
 そう呟いた時、3兄弟がギュンターに向かって叫ぶ!!
「たたかえよっ。金稼ぐんだろう? 優勝したら、きっと大切な人も帰ってくるぜっ!!」
「甦生にはお金がかかるんだろう?」
「領主は優しいから、銀太が優勝したらきっと一杯お金もらえるぜっ!!」
 ニヤニヤと笑いつつそう呟くトラップ3兄弟。
「うぁ・・・・でも、おちさんぎゅんたしってる。どしてしってる?」
 シンに問い掛けるギュンター。
「パリの冒険者酒場でお前の話をしている冒険者がいたんだ。ほら、着物を着た女性、覚えているか?」
「うぁ!! きじゅろ!!」
 ギュンター、完全に戦闘モード解除。
「みんなげんき? みんながんばてる?」
「ああ。それよりギュンター、頼みがあるんだ・・・・ギュンターは人を殺せるか?」
 真剣な表情で問い掛けるシン。
「むり。ぎゅんた、ひところせない。ここでたたかう、ひところさなくていいきいた」
 そう呟くギュンターに、シンは頭を左右に振る。
「この後の戦いは『死合』・・・・殺しあいだ。負けたらギュンターも殺される。お金も入ってこない。わかるか?」
「うあ、ますたー、ぎゅんたやめる!!」
 カウンターに向かい、そう呟くギュンター。
「てめえっ。こいつが残ったら楽勝で手懐けられたのに・・・・何てことしやがるっ!!」
 そう叫ぶ兄弟に向かって、シンはグッと拳を構える。
「いたいけな子供に何吹込んだか知らねぇが・・・・お前たちは必ず潰す!!」
 そして予選終了と同時に、ギュンターはシンに挨拶をしてまた旅に出た。
「何処か行く宛はあるのか?」
「うぁい。ここのさかばでおしえてもらた。とーるいきかえらせる、こだいのひじつある。ぎゅんた、こだいまほおこくさがす・・・・」
 そのまま旅に出るギュンターを、シンは静かに見送った。

──酒場『新緑の木陰亭』
「・・・・いい戦いでしたねぇ」
 既にこちらは予選終了。
 トップで勝ち抜いたのはファットマンである。
「楽勝。この程度、食事の前の軽い食事の前の運動だ・・・・」
 あんた、どれだけ喰うんだ?
「その意気ですよ。今後は私も貴方のバックアップを行ないましょう。必要でしたら、一般観客席やVIP席への出入りも出来るようにしておきますが必要ですか?」
 そう呟く貴族『カミュオン卿』に、ファットマンは丁寧にあいさつを返すと、申し出を喜んで引き受けていた。

──大衆酒場『大ぐらい猪亭』
「イタタタタ・・・・」
 ウェイトレスに傷の手当を受けているのはレイである。
「無茶ですよ。予選はですねぇ、魔法を使うタイミングを見誤ると最悪な結果になるんですから・・・・」
 こちらも予選終了。
 フレイムエリベイションを発動させ、己の中の勇気を奮い立たせる。
 そこまではよかったのだが、その後が続かなかった。
 予選に魔法戦士? がいると判った瞬間、まずは参加者がこぞってそこを潰しに掛かったのである。
 当然レイもそのターゲットの一人として確認され、4人がかりで袋叩きにあったのである。
 高速詠唱の唱えられる者は美味く魔法を行使して勝ち抜いているようであるが、使えないものは発動のタイミングに殴られ、詠唱を止められ、そのまま店の外に放り出されている。
「イタタタタ・・・・これで予選敗退決定かぁ・・・・敗者復活戦はないのか?」
「ありませんよ。まあ、トーナメント以外の普通の戦いはやっていますけれど、そちらも闘技場に出入りしている方の推薦状がなければ入れませんしねぇ・・・・」
 ガクッ。
 レイ、ここで予選敗退となる。

──酒場権宿屋『サラマンダー』
「・・・・ったく。もっとスマートにやればよかったのに・・・・」
 酒場の壁際に立ち、予選をじと眺めているのはレイル。
 其の手には『一回戦参加資格』であるシード権が与えられたことを示す羊皮紙が握られている。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
 手近な大男を捕まえては、そのまま店の外に投げ飛ばすほーちゃん。
「あっのアマぁぁぁぁぁっ。今度あったらどうしてくれるかぁぁぁぁ」
 あ、ほーちゃんがちんぴらモードに入っているし。
「ふん。そんな事俺のしった事か・・・・と」
 勢いあまってほーちゃんの投げ付けた男がレイルの方に飛んでいく。
──ガシィッ
 足元に転がり、起き上がろうとする男の腹部に向かって、痛烈なボディブローを叩き込むレイル。
(まあ、これは自然な光景だよな・・・・貸しにシておくぞ、ほーちゃん)
 表情一つ変えずに男に留めの一撃を叩き込むと、そのまま予選が無事に終了するまで、静かに飲んでいた。


●地下闘技場〜トーナメント一回戦〜
──遺跡闘技場
 そこは、マクシミリアン自治区の奥にある。
 なだらかな丘陵地域の一角にある屋敷。
 入り口には厳重なガードマンが立っており、招待状や推薦状、もしくは紋章の入った通行許可証がなければ入ることは許されない。
 内部は3つのエリアに別れている。
 参加者の控え室と、その地下に広がる闘技場。
 一般客の控え室と、闘技場をぐるりと囲む観客席。
 そして観客席の中でも特に最上段に位置する、闘技場全体を見渡せるVIP席。
 予選を通過した一行は、全員が広い控え室に入れられた。
「ふぅん・・・・やっぱりお前でもここにいれられるのか?」
 そう目の前の椅子に座っているブランシュともう一人の少女に話し掛けるほーちゃん。
「放っておいてよっ。これも訓練の一貫なのよっ。ね、アルジャーン」
「そう・・・・これも修行だから・・・・」
 そのまま瞳を閉じて静かに呼吸を続けるアルジャーンと、周囲を注意深く観察しているブランシュ。
「まあ、俺とは当たらないようにして欲しいものだよ・・・・殺されたくないからなぁ」
 そんな会話とは別の場所では、アハメスが同じ参加者の一人に、今回のトーナメントのルールについて問い掛けていた。
「つまり、戦闘ルールは毎回違うのか」
「ああ。主催者であるマクシミリアンが槍を的に向かって投げ付ける。突き刺さった場所に、その戦いのルールが記されているって訳。ちなみに一番恐いのは『デスマッチ』。中でも『スプラッシュ』と呼ばれる奴は最悪だ。開始前に自分の手首を切り付ける。血は当然流れるが、そのまま戦いは続けられるって訳。血が抜けて死んじまうか、早く相手を殺して魔法で回復させてもらうか、二つに一つだ」
 十字を切りつつそう呟く男。
──ガチャッ
 奥の巨大な扉が静かに開く。
 そしてそこから一人の男が姿を表わすと、一人ずつ名前を呼び、奥へと進むよう伝えた。
「話には聞いている。選手入場という奴じゃな」
 パトロンである『カミュオン卿』から話を聞いていたファットマンが、近くにて待機している仲間にも聞こえるよう呟いた。
「一人ずつ入場し、観客に自分をアピールする。観客はその入場デモンストレーションを見て、どの選手に賭けるか決めるとか・・・・」
 ウンウンと肯きつつ、ファットマンが自己完結。
「それでは、順次入場を開始します!!」
 

●デモンストレーション〜ほとんどはったりらしいけれどねぇ〜
──闘技場へ向かう
 闘技場の内部は、異様な程の熱気に包まれていた。
「ふぅん。こうしてみると凄いですねぇ・・・・」
 そう呟いているのは一般席に座っているレイ。
 予選敗退後、店の隅でショボーーンとしていた所を、酒場のマスターと看板娘に誘われて無事に観客として参加したのである。
 ちなみに酒場の店主達には、会場を提供したという事で無条件にパスが与えられているらしい。
「そうだろう? これがここの醍醐味なんだよ・・・・」
 そう呟くと、マスターはレイに闘技場入り口に注目するように伝えた・・・・。
(あそこがVIP席で・・・・入る為には1度一階まで戻って、そこでVIP用入り口を通らないといけないか・・・・パトロンがいれば通行可能、だけどここでもそれなりの情報を得ることは可能だな・・・・)
 そのままレイは、周囲の観客達に意識を傾けることにした。

「それではっ。只今より選手入場です!!」
 闘技場中央では、綺麗に着飾った男性が大声でそう叫んでいる。
 場内がさらに活気付く。
「三位一体の奇襲戦士。3オン3マッチでは常勝無敗!! クライフ・トリック、クウィール・トリック、クゥエーク・トリック!!」
 その声と同時に、3人の戦士が場内に入る。
 両手を上げて喝采を浴びる花形スターであろう。

「『赤い亜麻布の女主人』降臨。其の手によって染められしエジプト。今宵はこの闘技場が深紅に染まる!! 女戦士セクメトっっっっっ!!」
 真紅の衣裳を身に纏い、アハメスが静かに闘技場に出る。

「其の手に掴むのは勝利か栄光か? 自由を求めて流離う少女・・・・ブラーーーーンシュ!!」
 やれやれという表情で、アサシンガール・ブランシュが闘技場に現われる。

「ボディガードならこの男。沈着冷静な氷の男。遺跡ハンター・レイル・ステディアっっっっ!!」
 心の中で苦笑いしつつ、片手を上げてレイル見参!!

「この男は人間じゃない。月道を越えてやってきたパワーファイター。ファットマン・グレートっっっっっっ!!」
(いや、ワシ、ノルマン出身なんだが・・・・)
 心で突っ込みつつも、とりあえず笑顔で入場するファットマン。

「『ドラゴンキラー』の称号を知るものは少なくないだろう。だが、この男の過去はそれだけでは計り知れない・・・・シン・ウィンドフェザーっっっっ!!」
(誰がドラゴンキラーだっっっっっ)
 ムスッとした表情で入場するシン。

「ついに参戦、アサシンガールのトップにして最強!! 銀の閃光アルジャーン」
 表情一つ変えずに、静かに入場するアルジャーン。
 そして暫くは、他の参加選手の入場が続いていた。
 そして一番最後についに登場。
「今一度、私達は思いかえすべきなのです。冒険者と呼ばれる存在、我々一般市民にとっては『特別な対象』。その傍若無人な生きざまと伝説、それでいて咎められることなく猛威を振るっている存在・・・・」
 場内がざわめき始める。
「奴等は勝てる戦いでしか仕事はしないッ。それは皆さんも承知の事実。私達はもうそろそろハッキリというべきなのですッッ」
 そして静かになる観客。
「私はここで、声を大にして言いたい。冒険者は保護されているっっっっっ」
──ゥォォォォォォォォォォォォォ
 場内に最高の叫びがこだまする。
「パリ冒険者ギルド代表!! 無天焔威っっっっ」
 あーー、いきなり冒険者ってばれているし。
 っていうか、一人だけ正体ばれているし。。
「最高の舞台だな・・・・」
 パシィィッと拳を打ち鳴らし、ほーちゃん入場。
 そして観客席では、入場をじっとみつつ、腹を押さえて笑っているレイの姿があった。
 そして、トーナメント主催者のマクシミリアンより宣誓が行われ、大会の開始を伝えられた。

 トーナメントスケジュールはシフール便によって各選手に伝えられる。
 一日に4試合ある事もあれば、まったくない日もあるらしい。
 取り敢えずこの日は一回戦1試合目として、『アルジャーンvsクライフ・トリック』の試合が行われた。

 人体が破壊されるのを見た事はあるか?
 デットアライブルールによる完全決着。
 相手に触れることすら敵わず、カウンターアタックですら捉えることの出来ない相手を知っているか?
 オフシフトによる回避すら不可能な相手。
 ミシミシと骨の軋む音、
 ぶちぶちと筋肉の千切れる音。

 クライフはほんの5分で、5つの『肉塊』に解体されてしまっていた・・・・。
 場内には静寂のみが残った。


●パリ〜ニライ査察官のお家〜
──居間
 今回の依頼での報告を行った一行は、静かに査察官の差し出したハーブティーを飲んでいる。
「・・・・アルジャーン。あいつは人間じゃないな・・・・」
 レイルが静かにそう呟く。
「まあ、それでも依頼ですから、戦うことになったら戦ってきてくださいね・・・・と、報告書は確認しました。では、ギルドの報告書には『無事にニライ査察官のお手伝いが出来ました』という内容の簡単な報告書だけを提出しておきます。今回の一件、くれぐれも口外無用でお願いします。何処にシルバーホークの密偵が潜んでいるか判りませんから・・・・」
 そう告げるニライ。
 そして一行は挨拶を行うと、そのまま査察官の家を後にした。

〜To be continue