●リプレイ本文
●と言うことで〜とりあえず潜入作戦〜
──パリ・冒険者 酒場
マクシミリアン自治区へ出発する前。
「・・・・これを完全に複製する・・・・ふっふっふっ。なにか楽しくなってきたわよっ」
そうニヤリと笑みを浮かべつつ呟いているのはオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)。
地下闘技場に潜入する為には、どうしても招待状が必要。
それを用意する為に、前回参加したらしい人を当たっては招待状やパスを見せてもらっていたのであるが。
レイル、ファットマン、ほーちゃん、シンのパスは参加選手の為の許可証。
それでも一般席にて観戦する事は可能であるらしい。
だが、それでは『オイフェミア』も参加扱いとなる。最悪、穴埋めの為に連れていかれる可能性も有り得る。
残った方法は、ファットマンがパトロンからもらった『VIP席への許可証となるペンダント』。
やるしかない。
オイフェミアは一か八か、そのペンダントを偽造する作戦に出た。
必要な材料は全て商人ギルド直轄の市場にて購入、掛かった費用はざっと10G。
出発までの1日、オイフェミアはずっと酒場の端でナイフ片手に彫刻作業となった・・・・。
●宿屋ゲットだぜ〜1泊2Gとなります〜
──豪華な部屋
「うはーーー」
ふかふかのベットに横になり、無天焔威(ea0073)は叫んでいた。
滞在期間の4日間、ここでほーちゃんは生活する。
「でも、高い部屋だよねぇ・・・・勝たなかったら・・・・赤字確定かぁ」
「っていうか、勝てなかったらアンタ死ぬわよっ!」
突然窓の外から声が聞こえてくる。
「ブランシュ・・・・随分と大胆だねぇ・・・・こんな昼間から」
ひょいと窓を越えて室内に飛込むと、そのまま近くにある椅子に座るブランシュ。
「今日は貴方にいい話を持ってきてあげたのよ。今回の大会、もし貴方がいい成績を残したら、『シルバーホーク』の方で貴方をスカウトするかもっていう話が出ているのよ・・・・」
ほぅ。
「ふぅん。面白そうな話だねぇ・・・・まあ、それは考えておくよ。それよりも、どう? 俺と賭けしない?」
「賭け?」
取り敢えずスカウトの話はサラリと流して、ほーちゃんはブランシュにそう話し掛けた。
「ああ。次のブランシュの試合だけど、勝つのは当然として。無傷なら俺はブランシュの簡単なお願いを聞く、無理なら俺の願いを聞く…どう?」
その問い掛けに、ブランシュは腕を組んで考える。
「そうねぇ。対等の賭けとしては成立するわね。いいわ、乗って上げる。但し、簡単なお願いだからねっ」
うまくのせる事に成功したほーちゃん。
そのままブランシュが窓の外に出て行くのを確認すると、あらかじめ店から貰ってきた空の小さな壷を前に、何やらガサゴソと作業開始。
●時間一杯〜いろんな事がありました〜
──移動中
ガラガラと馬車が走る。
シン・ウィンドフェザー(ea1819)はミハイル教授にシフール便であることを頼んでいた。
それはプロスト卿夫人に頼み込み、グレイファントム卿やマクシミリアン卿に取り入って貰えるよう紹介状を書いてもらえるということである。
事情の全てを話す事は出来ないものの、プロスト卿夫人は快くそれを受け、シンに一通の書面を認めた。
それを手にマクシミリアン卿の元を訪れることが出来れば、VIP席へと侵入することができる。
「巧く行くように、神に祈るしかないか・・・・」
時間は迫っている。
馬車は一路、マクシミリアン自治区へと向かっていた。
──マクシミリアン自治区・酒場『ワイルドヘブン』
目的はただ一つ、地下闘技場潜入。
そのためにはまず、闘技場へと入る為の許可証を手に入れなくてはならない。
響清十郎(ea4169)はそれを合法的に入手する為に、酒場にやってきている。
「随分と今日はお客の入りが少ないねぇ。マスター、オイラにエールを」
そうカウンターで話し掛けている清十郎に、マスターは表情一つ変えずにエールを置く。
そしてエールを一口呑むと、マスターに静かに話し掛けた。
「おいらねぇ、ジャパンに戻るお金を稼がなくちゃならないんだ。ここで大金が手に入るって聞いたんだ。おいら、それに挑戦してみようと思って、やってきたんだ」
ふぅんという感じで話を聞いているマスター。
「おい、見ろよ。チビっこがエール飲んでるぜ」
「ぼくー。酒場は大人の来るところですよ。こんな所で遊んでちゃだめでちゅよーハーッハッハッハッ」
そう冷やかしている酔っぱらい。
そのうちの一人が清十郎の元に歩いてくると、清十郎の頭上に、手にした古ワインをかけた。
「エールは男の呑む酒だ。子供は呑むんじゃねぇ・・・・」
──ガタッ
素早く立上がる清十郎だが、その一瞬のうちに足払いをされ、床に倒れる。
『はーっはっはっはっ』
一斉に高笑いする酔っ払いたちだが・・・・。
──ガチャッ
店の入り口から異国風の女性とその仲間らしい二人の男性が入ってくる。
そして酔っ払いたちの元に歩いていくと、男二人は酔っ払いたちに向かっていきなり殴りかかる。
「アンタ達、フェアじゃないねぇ・・・・」
「予選にも参加できなかったちんぴらが・・・・」
ちなみにこの二人、別の酒場では予選突破。
そして異国風の女性は清十郎に近づいていくと、ゆっくりと身体を支えてあげる。
「お怪我は有りませんか?」
そう呟きつつ、清十郎に目で合図を送るアハメス・パミ(ea3641)。
「だ、大丈夫だよ。これぐらいへっちゃらさっ!」
パンパンと服を叩いて埃を払うと、清十郎はしばし乱闘を眺めていた。
10分もしないうちに、酔っ払いたちは一目散に店から出ていった。
「さてと・・・・大丈夫だったかい?」
男の一人が清十郎に話し掛ける。
「ええ。みっともない所をお見せして・・・・」
恥ずかしそうにそう呟く清十郎だが、もう一人の男は頭を左右に振る。
「戦わない為の処世術だよね・・・・その背中に担いでいる巨大な剣ははったりではないのだろう?」
そう言われると、清十郎はなにも言えない。
「ちょうど良かった。あんた達、こいつも地下闘技場で一稼ぎしたいらしいんだけれど、誰かパトロンになってくれそうな貴族はいないかねぇ・・・・」
そう告げるマスター。
と、ちょうど店の中に一人の貴族が入って来る。
「私で良ければ、パトロンとしての役目、お受けしましょう」
そう告げるのは、このグレイファントム領で一つの自治区をまかされている『ヴォルフ卿』。
ちなみにセクメト(アハメス)のパトロンもこの人であり、一緒に入ってきた『フリーデル』と『ギルベルト』もまた、ヴォルフ卿がパトロン。
3人揃って、別の酒場で声をかけられたらしい。
「いいのですか?」
「構いませんよ。腕のたつ人間は、一人でも多く欲しいところですから・・・・今週の試合は既に組まれていますから、欠員が出たときにでも申し込んでください・・・・」
ということで、清十郎は取り敢えず一般客用の招待状をゲット!
●地下闘技場〜いろんな事がありました〜
──VIP席
「これはこれは。随分と御無沙汰していますな。今回は御自慢の選手は参加なさっていないのでは?」
VIP席にてそう一人の貴族と話しているのはファットマンのパトロンであるカミュオン卿。
今、カミュオン卿が話をしているのは、グレイファントム領に自治区をまかされている貴族『バルタザール卿』。
尤も、この領地ではその名前よりも二つ名である『ブラックローズ』の方が有名であるらしい。
「今回は体調が優れませんので。そちらは貴方の選手ですか?」
そう後ろに立っているファットマン・グレート(ea3587)の方を見てそう問い掛けるバルタザール卿。
「ファットマンと申します・・・・」
それ以上は口を閉ざすファットマン。
「バルタザール卿。それでは私達はこれで・・・・次の試合は注目の試合ですので・・・・」
そう告げると、カミュオン卿とファットマンは自分達の席へと移動する。
「あのような貴族も居る。彼の選手はこの前の試合で深手を負ったそうです。まあ、今回のトーナメントには参加できなかったので、大層悔しいのでしょう。それより、次の試合も見物ですよ・・・・」
そのままファットマンはカミュオン卿と暫く行動を共にする。
数名の貴族とも顔を合わせ、ファットマンとしては名前と顔を記憶に止めていくように頑張っている。
(情報収集もしないとな・・・・)
──地下闘技場・VIP席
ウロウロウロウロ
どの席に座ったらよいか判らない。
オイフェミアはまんまと潜入成功、そのまま案内に連れられてVIP席のある回廊へとやってきたのであるが、何処の席が自分の席なのか判らない。
「始まる。もうすぐ始まるわっ! 急いで席を探さないと」
慌てて振り向き、別の席を探しに向かおうとするオイフェミア。
──ドン
と、突然堅いなにかにぶつかり、其の場で転んでしまう。
「いたたたた・・・・何処に目を付けているのよ唐変木っ!」
お尻を摩りながら、そう怒声を浴びせるオイフェミア。
と、その彼女にそっと手をさしだすフルアーマーの男。
──シュコーッシュコーッ
漆黒の鎧、顔の見えないフルフェイスヘルム。
その異様な光景にも関らず、オイフェミアは男の腰に下げている剣に気が付いた。
(あ、シャーリィの所で見た紋章剣だ・・・・これはフェニックスかな?)
そんな事が脳裏を駆け巡る。
「大丈夫ですか? ダースが無礼を・・・・」
フルフェイスの男の後ろから、聡明そうな男性が姿を現わした。
「足を捻ったじゃないのよっ・・・・イタタタタ・・・・」
「それは失礼をお席までお送りしましょう」
「まだ席は見つかっていないわっ・・・・まったく、座れなくなったらどうしてくれるのよっ!」
さらに悪態を付くオイフェミア。
「では、私共の席の方で観戦なさいますか? まだ席の方には余裕がありますので・・・・」
そのままオイフェミアは、ダースと呼ばれた男に連れられてそのままVIP席の中でも中央にある席へと移動。
──一般席
「こ、これは趣味の世界だよねー」
エクセレントマスカレードを装備したレイ・コルレオーネ(ea4442)が、ちょうど今終った試合の余韻に浸っている。
あ、戦っていませんよ、酒場のマスターと一緒に見ていただけ。
「まあな。俺達は賭けには参加できないけれど、こういった場所で見ることができるのも役得だよな」
ちなみにかなり見晴らしはいい。
ここまで見ていた試合の中で、特に注目したのは『3オン3』と呼ばれる3人マッチ。
それに参加していたのがパリの冒険者酒場『シャンゼリゼ』でよく見かける冒険者達。
流石に普通の試合では無く、血飛沫上げる派手な試合であった。
「ねぇマスター、ちょっと聞いてもいいかな?」
そう問い掛けるレイ。
「ん、ああ、何かありましたか?」
「明日からはトーナメントですよね? シード選手も一杯いるようですけれど、残りのシード選手ってどんな人たちなのですか? それにモンスターも大量に投入されているようですけれど・・・・一体何処からどうやって連れてこられるのでしょうねぇ・・・・」
そのレイの問いに、マスターも頭を捻る。
「シード選手っていうのは、あちこちの領地で名を馳せた自警団のメンバーとか、荒くれ野郎、犯罪者など多数存在するな。有名かどうかは判らないし、過去についても知らない奴の方が多い。もっとも、ここじゃあ過去なんて飾り。必要なのは今、戦って勝つ、それだけだからなぁ・・・・マッチメーカーの胸先三寸で、シード選手が一回戦に降格なんていうのもあるんだぜ」
その話をジッと聞いて、レイは記憶能力フルパワー。
「モンスターだって、きっとどっかから捕獲してくるんだろうさ・・・・」
そんな生易しい事ではないとレイは思った。
ここまでずっと試合を見てきたが、どう見ても『野生のモンスター』ではない。
明らかに戦闘訓練を受けた『対人戦』を前提としたモンスター達であることは間違いない。
(このマスターも悪い人ではない。ただ、此処にはこういった娯楽しかないからなんだろうな・・・・)
「あのー。この地下闘技場試合って、一体誰が始めたんですか?」
レイのもっとも踏込みたいところ。
「ん? ああ、主催者であるマクシミリアン卿と、その支援貴族達で構成されているらしいね。でも、一番最初に始めたのは『シルバーホーク』っていう貴族らしいね。今でも出資者の一人らしいし、彼の元で鍛えられた選手達もかなりの数が参加しているからなぁ・・・・ほら、あそこに座っているのが『シルバーホーク卿』だよ。人前に姿を表わすこと自体珍しい人なんだ・・・・へぇ・・・・なにか、気になる選手でもいるのかねぇ・・・・」
そうマスターが指差した方には、一人の青年が、綺麗な女性を連れて座っていた。
長髪を肩口で縛り丁寧に纏め上げる。
綺麗な、それで居て装飾があまりついていない礼服に身を包み、その背後には3人の側近らしき人物が待機している。
(ちょっと待った・・・・一体何歳なんだ?)
レイの疑問は無理もない。
以前、例はノルマン江戸村でプロスト卿から直接魔法についての教えを乞う機会があった。
その時、ちょっとした雑談でプロスト卿は昔、自分達が現役の冒険者だった時代の事を話していた。
その時の仲間の一人であるシルバーホーク。
ミハイル・ジョーンズも彼の仲間の一人であることから考えると、既にシルバーホークも初老直前の筈である。
今だ20代の若々しさを保っているシルバーホーク。
「ちょっといいですか? あの後ろの側近さんはやはり強いのですか? ここの闘技場に参加した事があるとか?」
そうレイが問い掛けたとき、マスターは静かに口を開く。
「あの女性は確か『ヘルメス』とかいっていたなぁ。それとその横の、全身黒尽くめの奇妙なフルアーマーは『ダース・ブラウザー』。確か・・・・正体不明の剣士でオーラの使い手だったかな? もう一人のフードを被って『髑髏の仮面』をつけて居るのがジェラールとかいう魔法士だった筈。かなり前に入り口でバッタリと出会った事があるんだけれど、なんていうか・・・・動けなかったねぇ・・・・中でもダース・ブラウザーが一番恐かったな」
「恐い? どういうかんじでですか?」
「言葉は話していなかったけれど、フルフェイスヘルムの奥から、『シュコーッ、シュコーッ』て声だけが聞こえてきて。いや、あれは恐怖だよ・・・・」
──地下闘技場・控え室
「双子?」
キョトンとした表情でそう問い掛けているのはレイル・ステディア(ea4757)。
気張らしついでに闘技場のあちこちを散策していたレイル。
流石にVIP席まで紛れようとしたが失敗。
取り合えず情報を求めて控え室まで彷徨って見た。
運がいいことに、そこには『少女達』が集っている。と、その一角では、同じ顔が二つ並んでいることに気が付いた。
「うん。この子たちは双子さんなんだよー。こっちがお姉さんアルジャーン、こっちが妹アルジャーン」
そう告げるのは、クリクリとした瞳の少女。
「アルジャーン? アサシンガールの?」
そう呟いた瞬間、レイルは慌てて口を押さえる。
目の前には実に8名のアサシンガール。
普通に考えてみると、生きては帰れない状況である。
「その反応・・・・貴方も冒険者ね?」
濡れるような長髪の少女が、静かにそう告げる。
「ブランシュ、どうする? 冒険者よ・・・・ここで始末する?」
いきなり周囲の空気が重くなる。
「クラリス、放置と言うことでいいでしょ? 貴方達はこれから任務なんだから、余計に疲れるような事はしないほうがいいわよ・・・・」
ブランシュと呼ばれた少女がそう告げる。
「仕方無いわね。全く、貴方はいつも甘いんだから・・・・」
クラリスはヤレヤレという表情でそう呟いた。
「行きましょうエリーゼ、ゼファー、オーブ・ソワール。準備は大丈夫? 相手はエムロードなんだから、フル装備でないとね・・・・」
そう告げて4人の少女が其の場をあとにする。
「ふぅ・・・・助かったか・・・・」
ホッと一息付くレイル。
「それにしても、本物は凄いな」
「まあね」
手首に布を巻き付けて準備をしているブランシュがそう呟く。
「任務か・・・・アサシンガールが4人も動くとなると、かなり大掛かりなのか?」
それは賭け。
内心心臓が止まりそうに為りつつも、レイルはそう問い掛けた。
「んー。壊れた玩具の廃棄処分よ。只の・・・・」
壊れた玩具?
エムロード?
廃棄処分?
アサシンガールの中にも、色々とあるんだなと思いつつ、レイルは其の場を後にした。
●バトル野郎ぜ!
そして夜。
いくつもの戦いの後、メインイベントであるトーナメント一回戦が始まる。
その前に、司会の男性が闘技場中央で大きな声で叫ぶ。
「戦いは常に美しい。今宵いよいよ、第一回戦が始まります。今回のこのトーナメント開催にあたり、VIP席では多くの貴族の方たちが集っています。そして今宵、シルバーホーク卿も観戦していらっしゃる! 選手達はさらなる勇気を振り絞り、勝ち抜いてくださいっ!」
その言葉の中で、VIP席に座っていたシルバーホーク卿が立ち上がり軽く手を振る。
(なにーーーーーーーーーーーーーーーーっ! このにーちゃん、シルバーホーク卿かいっ!)
横に座って楽しそうにしていたオイフェミアは、その瞬間から硬直する。
(潜入捜査がばれたら始末される・・・・うう・・・・)
もうね、脂汗タラタラ。
●前座試合
──『赤い亜麻色の女主人』セクメトvs『狂気の戦士』コワルスキー
スプラッシュデスマッチ。
試合開始直前に自分達の手首を切る。
出血により自分が死ぬのが早いかその前に相手を殺すのが早いか。
正にデスマッチである。
「対人戦でデスマッチ・・・・嫌な試合ですね」
フェイスガードとマント、そして手には異国の武器『シャムシール』が握られている。
パトロンである貴族が入手したものであり、セクメトの雰囲気にぴったりということで大会時には貸与してくれるらしい。
──ブシューーッ
自分の手首をナイフでかき切る二人。
と、コワルスキーの表情が見る見るうちに変化していく。
「血だ・・・・俺の血だぁ・・・・へーっへっへっへっへっ」
狂化。
雰囲気の変わったコワルスキーが、いきなりロングソードを片手に飛び掛かっていく。
──ガシッ
その一撃を楯で受け流すと、カウンターでコワルスキーの身体に綺麗にシャムシールを叩き込むセクメト。
腹部がバックリと切り裂かれ、中から臓腑が零れ堕ちる。
「うへっへっへっ・・・・」
まだ戦う意志を止めないコワルスキー。
さらにもう一撃を叩き込むが、それもあっさりと回避。
(なんでしょう? この手応えのなさは・・・・)
さらに躱わしてカウンター。
それで試合は終った。
セクメトの足元には、血まみれのまま息絶えたコワルスキーの死体が転がっている。
まるで見当違いな相手。
実力差は明確なのに、このような試合をどうして組むのか・・・・。
そんなセクメトの疑問は、興奮の坩堝におちている会場の雰囲気で察した。
(この試合は、興奮材料でしかないのか・・・・その為だけに、この男は戦わされ、私は・・・・)
無念であろう。
だが、このような場所に出てきてしまった以上、情けをかけることは自分の命を捨てる事にも繋がる。
「ふぅ・・・・お約束ですからねぇ・・・・『Ba dal ha dal』っ!」
そのまま勝ちどきを上げて、セクメトは控え室へと戻って行った。
●一回戦Bブロック第一試合
──『仕掛人』クウィールvs『ドラゴンキラー』シン
トーナメントは4つのブロックに別れている。
それぞのブロックの覇者が、決勝ステージへと足を進めるのである。
シンはBプロック。
入り口から姿を表わしたのは、デスローブを身に纏って棺桶を引きずってやってきた二人の選手。
棺桶バトル。
相手を棺桶の中に叩き込んで蓋を締めれば勝利。武器の使用は禁止、素手によるパンクラチオンルール。
目を抉ることと噛みつくこと以外全てが有効。
「さて・・・・ギュンター君を苛めてくれた借りは返させて貰う」
ガタッと棺桶の蓋を開くと、そのままデスローブを脱ぎ捨てるシン。
「兄きぃ・・・・こいつも殺して兄さんの遊び相手にしてやるからなぁ・・・・」
涙に濡れつつ、クウィールがデスローブを脱ぎ捨てる。
そしてお互い拳を握り締めて、グッと身構える。
──激しい殴り合い
お互いにフットワークを効かせて殴りあう二人。
激しいまでの度付き合いに、場内はまさに大興奮。
そんな戦いも、シンの水面蹴りからの蹴りの応酬、さらにガシッと相手を抱き上げて、そのまま背中から叩き落とす止め技で、クウィールは意識を失った。
「ふぅ・・・・殴りクレリックのようにはいかないか・・・・」
いやいや、彼女のスープレックスは基本です。
そのまま気絶しているクウィールを抱きかかえると、そのまま棺桶の方に叩き込むシン。
──ガタッ
そのまま蓋を締めた時点で、勝利は確定!
●一回戦Bブロック第4試合
──『月道越えファイター』ファットマンvs『アサシンガール』ブランシュ
こちらも棺桶マッチ。
デスローブに身を包んだ二人が登場。
「ふぅ・・・・重いいぃぃぃぃぃ」
悲鳴を上げつつ棺桶をズルズルと運んでくるブランシュと、楽々運んでくるファットマン。
「たしか、お前は二回戦シードだった筈じゃが・・・・」
そう身構えつつ問い掛けるファットマン。
「知らないわよッ。急遽2回戦シード権が失効されて、私もここから試合なんだからっ。あんた、バラバラにするから覚悟しなさいよっ!」
ゴキゴキと拳を鳴らし、ゆっくりと身構えるブランシュ。
そして試合は開始された。
第一試合と同じく激しい戦い。
とにも角にも殴り合い。
骨の軋む音、肉のしなる音
口から吹き出す吐血
吐き出される折れた歯
すでにブランシユはほーちゃんとの賭けに負けている。
それほどまでに、ファットマンは強大である。
──ドゴォォォン
素早くブランシュの背後を取ると、そのまま抱き上げて地面に叩き落とすファットマン。
「何故アサシンガールがここにいる。任務ならば目的があろう・・・・それは何だ!」
そう叫ぶファットマン。
「ここに来る任務。私達の実力の向上。弱いガールズのふるい落としね。ここでメインイベントを務めるぐらいにならないと、任務には出られない訳。判る?」
──ガシッン
さらにファットマンがブランシュを引き起こす。
さらにもう一度投げ落とす。
──ドゴォッ
フラフラとした足取りでゆっくりと立上がるブランシュ。
「あははーん。いい感じに参ってきたわ・・・・」
表情がのほほんとしてきたブランシュ。
ふらふらとした足取りに、ファットマンは止めに入る。
だが。
──ブチブチブチィィィッ
素早く懐に飛込んだブランシュが、ファットマンの腕を取り、肘から逆手にへし折る。
さらに力任せに肘から腕を引きちぎると、そのまま棺桶の中に腕を放り投げた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
血飛沫を上げて絶叫するファットマン。
だが、まだ負けてはいない。
残った左腕で殴りにはいるが、さらにその腕すらへし折られ、引きちぎられた。
「あとは両脚と頭ね・・・・」
ゴキゴキッと拳を鳴らすブランシュ。
「ぐっ・・・・ま、まだ・・・・まだだ・・・・」
朦朧とする意識の中、ファットマンはさらに立上がるが・・・・その場で力尽き崩れていく。
「それではっ。いっつショーターイム!」
ブランシュが叫ぶと同時に、ファットマンの首に手をかけた。
「勝負ありだっ!」
観客席から誰かの声が聞こえる。
その言葉に我を取り戻したブランシュは、そのままファットマンにとどめを刺さずに棺桶に放り込んだ。
慌てて棺桶に駆け寄るクレリック。
「リカバーとクローニングを。移動させる時間はありません。ここで治療を行ないます」
魔法により組織の再生を行う。
失われた欠損部分出は無く、まだ残っている腕との接合。
それにより一命を取り戻したファットマンではあったが、この依頼期間中はベットでの治療に専念する事となった。
●一回戦Aブロック第三試合
──『冒険者』無天焔威vs『100人殺し』オーグラ
こちらはスーパーデスマッチ。
順当に勝ち進めば、ほーちゃんは三回戦第一試合は『アルジャーン』との対戦。
まさにデスロードとも取れるトーナメント表である。
「全く、どうして俺の相手って、こんな奴ばかりなんだろうねぇ・・・・」
そう入り口で呟きつつ、ほーちゃんは入場。
懐から小さい壷を取りだすと、それを口に含む。
その奥では、オーグラが『鎖に固定されずに』、巨大な剣を構えて待機。
「それではっ、始めッ」
司会の声がかかると同時に、ほーちゃんは素早く間合を詰める。
そしてオーグラもそれに反応するように剣を大きく構え、叩きつける準備を見せたが。
──ガシャァァァァン
途中から油を仕掛けてあったバックバックが発火し、一気に燃え上がる。
それをオーグラに叩き込むと、さらに口から血を吹き出す!
──プシュュュュュッ
オーグラの顔面目掛けての血飛沫。
それによりオーグラは視界を完全に奪われる。
「ウガァァァァァッ」
ブンブンと巨大な剣を振回すオーグラ。
だが、冷静さを欠いている時点で、ほーちゃんの勝利は確定していた。
「昔に知った。血は固まるから目に入ると取れにくい・・・・」
必死に片手で剣を振回し、もう一つの手で血をぬぐうオーグラ。
やがて目を瞬かせつつ、再び両手で剣を構える。
──ドゴォッ!
素早くオーグラのスマッシュが一閃。
だが、それを楯で難無く受止めると、ほーちゃんはカウンターで手にした忍者刀を叩き込んだ!
──ズバァァァァン
オーグラの分厚い胸板に傷が付き、血が吹き出した。
「グァァァァッ」
場内に響くような絶叫。
そして素早く剣を捨てると、オーグラは力一杯殴りつけてくる。
「無駄だねー」
素早く身体を回転させると、そのまま勢いでオーグラの背後に回りこむほーちゃん。
そして背後から膝めがけて蹴りをいれる。
──ガクッ・・・・ドシィィィィィィン
ポイントアタックとまではいかないものの、オーグラはそのままバランスを崩して転倒。
「もう少し精進したほうがよかったのにねぇ〜」
素早く頭に向かって蹴りを叩き込むほーちゃん。
それでさらにオーグラは怒り心頭。
なりふり構わずに突っ込んで来る。
それをまたしても躱わしつつカウンターアタックを叩き込む。
すでに相手の動きは見切った。
あとは、効率よく、且、見せる試合を心掛けるだけ。
そんなこんなで30分の激戦の後、オークラはついに絶命した。
「勝者、無天焔威っ」
司会の叫びが会場にこだまする。
そしてほーちゃんはカツカツと控え室へと続いている回廊に向かう。
そして、その方向にブランシュの姿を見たとき、ほーちゃんはニィッと目を見開いて笑った。
「手ぇーーーーーーーーっ」
──パシィィィィィン
ブランシュが頭上に差し出した手を叩き、カンラカンラと笑うほーちゃん。
いつしか其の手には、彼のトレードマークである眼帯が握られていた。
●全てが終って〜報告〜
──パリ・ニライ査察官宅
「身体は大丈夫なのですか?」
一行はパリに戻り、ニライ査察官の元を訪れた。
目的はクリアしたものの、満身創痍の者が彼方此方に。
「ああ。取り合えずクレリックの処置が早かったので接合は出来たようだな。それにしても、あの娘。ああも動揺することなく人間を『解体』することができるのだろうか?」
ファットマンが両肘を摩りつつそう呟く。
「これが、シルバーホークークの似顔絵ね。で、こっちが側近3名分。あとは適当に貴族をスケッチしてきたけれど、顔と名前は一致しないわよっ」
オイフェミアが依頼をおえたのち、自分がであった貴族達を次々にスケッチ。
そのスケッチに対してコメントを加えていくのはレイとファットマン。
オイフェミアとの連携で、10枚近い似顔絵と、該当しそうな人物の名前を記していった。
そのまま各自が得た様々な情報メモしていくと、ニライ査察官は静かに口を開いた。
「今回の依頼ご苦労様です。名前の上がった貴族達については、私の部下にさらなる調査を頼んでおきます。皆さんはこのまま調査を続行して下さい・・・・」
「まあ、いずれにしても、。あのような戦い、私はもうしたくないものだ・・・・」
アハメスが倒した相手。
ニライ査察官の話では、グレイファントム領で昔に起こった殺人事件の犯人らしい。
実際に処刑されたという話は聞いているものの、その処刑を見ていた者がいた訳ではない。
あくまでも、事務的に処刑が行われたと領民に公布されただけである。
「グレイファントム卿の所も調べる必要はあるか・・・・それよりも、エムロードとか言う、逃走したアサシンガールについても気になる・・・・」
そのまま更なる謎を集めつつも、一行は無事に解散となった。
そして今回の依頼も、冒険者ギルドへは全く別の任務内容とその報告が作られ、提出されたらしい。
〜To be continue